特許第5747035号(P5747035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ワシントン・ユニバーシティの特許一覧

特許5747035神経障害の診断における二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体
<>
  • 特許5747035-神経障害の診断における二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体 図000004
  • 特許5747035-神経障害の診断における二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747035
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】神経障害の診断における二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20150618BHJP
   G01N 33/535 20060101ALI20150618BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   G01N33/53 S
   G01N33/53 N
   G01N33/535
   G01N33/543 545A
【請求項の数】67
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-528052(P2012-528052)
(86)(22)【出願日】2010年9月2日
(65)【公表番号】特表2013-504065(P2013-504065A)
(43)【公表日】2013年2月4日
(86)【国際出願番号】US2010047706
(87)【国際公開番号】WO2011028921
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年8月7日
(31)【優先権主張番号】61/239,338
(32)【優先日】2009年9月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597025806
【氏名又は名称】ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Washington University
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ペストロンク
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−526779(JP,A)
【文献】 特表2004−501359(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0038311(US,A1)
【文献】 米国特許第06121004(US,A)
【文献】 楠 進,「自己免疫によるニューロパチー ―抗糖脂質抗体の意義―」,医学のあゆみ,医歯薬出版株式会社,2001年 8月 4日,Vol. 198, No. 5,p. 389-393
【文献】 吉田 圭一,「ヘパラン硫酸糖鎖の分子設計」,医学のあゆみ,医歯薬出版株式会社,1998年 1月24日,Vol. 184, No. 4,p. 255-259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/535
G01N 33/543
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象由来の検査試料中の二硫酸化ヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定することを含む、対象における神経障害の検出を助けるための方法であって、参照力価以上の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の力価が対象に神経障害があることを示す、該方法。
【請求項2】
神経障害が運動神経障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
運動神経障害が多巣性運動神経障害である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
対象が筋力低下を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
対象が運動伝導ブロックの電気生理学的証拠、運動軸索消失または運動伝導ブロックおよび運動軸索消失の両方の電気生理学的証拠を有する、請求項2または4に記載の方法。
【請求項6】
神経障害がギラン・バレー症候群である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
二硫酸化ヘパリン二糖がグルコサミン−ウロン酸ヘパリン二糖である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
二硫酸化ヘパリン二糖がIdoA−GlcNS−6Sである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
抗体がIgM抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
参照力価が少なくとも約7000である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
さらに、検査試料中の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の量が酵素結合免疫吸着測定法によって測定されることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
対象由来の検査試料中の二硫酸化ヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定することを含む、対象における筋力低下の原因の検出を助けるための方法であって、参照力価以上の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の力価が、神経障害が対象における筋力低下の原因であることを示す、該方法。
【請求項13】
二硫酸化ヘパリン二糖がグルコサミン−ウロン酸ヘパリン二糖である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
二硫酸化ヘパリン二糖がIdoA−GlcNS−6Sである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
抗体がIgM抗体を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
参照力価が少なくとも約7000である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
さらに、検査試料中の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の量が酵素結合免疫吸着測定法によって測定されることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
さらに、運動伝導ブロックまたは運動軸索消失について対象の電気生理学的検査を行うことを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
さらに、対象由来の検査試料において、GM1ガングリオシドに結合するIgM抗体の力価を測定することを含み、参照力価以上のGM1ガングリオシドに結合するIgM抗体の力価が、神経障害が対象における筋力低下の原因であることを示す、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
a.対象由来の検査試料において、二硫酸化ヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定することであって、参照力価以上の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の力価が、対象に神経障害があることを示すこと;およびb.運動伝導ブロックまたは運動軸索消失について対象の電気生理学的検査を行うことを含む、対象における運動神経障害の検出を助けるための方法。
【請求項21】
運動神経障害が多巣性運動神経障害である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
運動神経障害がギラン・バレー症候群である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
さらに対象が筋力低下を有することを測定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
二硫酸化ヘパリン二糖がグルコサミン−ウロン酸ヘパリン二糖である、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
二硫酸化ヘパリン二糖がIdoA−GlcNS−6Sである、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
抗体がIgM抗体を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
参照力価が少なくとも約7000である、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
さらに、検査試料中の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の量が酵素結合免疫吸着測定法によって測定されることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
対象由来の検査試料において、IdoA−GlcNS−6Sに結合するIgM抗体の力価を測定することであって、参照力価以上のIdoA−GlcNS−6Sに対するIgM抗体の力価が、対象に神経障害があることと正に相関することを含む、対象における神経障害の検出を助けるための方法。
【請求項30】
第1参照力価が少なくとも約7000である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
神経障害が運動神経障害である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
運動神経障害が多巣性運動神経障害である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
運動神経障害が免疫媒介性運動神経障害である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
対象が筋力低下を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
対象が運動伝導ブロックの電気生理学的証拠、運動軸索消失または運動伝導ブロックおよび運動軸索消失の両方の電気生理学的証拠を有する、請求項29または34に記載の方法。
【請求項36】
さらに、対象由来の検査試料中のGM1ガングリオシドに結合するIgM抗体の力価を測定することを含み、第2参照力価以上のGM1ガングリオシドに結合するIgM抗体の力価が対象における運動神経障害の存在と正に相関する、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
第2参照力価が少なくとも約2000である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
対象における神経障害の存在の検出を助けるための方法であって、a.対象由来の検査試料中に抗体が存在すれば、二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体を二硫酸化ヘパリン二糖に結合するのに十分な条件下で、該検査試料と二硫酸化ヘパリン二糖の試料とを接触させ、接触試料を作製すること、およびb.接触試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の力価と参照力価を比較することを含み、参照力価以上である接触試料における抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体の力価が、神経障害があることを示す、対象における神経障害の存在の検出を助けるための方法。
【請求項39】
抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の力価がIgM抗体を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
二硫酸化ヘパリン二糖がグルコサミン−ウロン酸ヘパリン二糖である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
二硫酸化ヘパリン二糖がIdoA−GlcNS−6Sである、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
第1参照力価が少なくとも約7000である、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
神経障害が運動神経障害である、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
運動神経障害が多巣性運動神経障害である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
運動神経障害が免疫媒介性運動神経障害である、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
運動神経障害がギラン・バレー症候群である、請求項38に記載の方法。
【請求項47】
対象が運動伝導ブロックの電気生理学的証拠、運動軸索消失または運動伝導ブロックおよび運動軸索消失の両方の電気生理学的証拠を有する、請求項38に記載の方法。
【請求項48】
a.対象由来の検査試料中に抗体が存在すれば、GM1ガングリオシドに対する抗体をGM1ガングリオシドに結合するのに十分な条件下で、検査試料とGM1ガングリオシドの試料とを接触させ、第2接触試料を作製すること、およびb.第2接触試料中の抗GM1ガングリオシド抗体の力価と第2参照力価を比較することをさらに含み、第2参照力価以上である第2接触試料における抗GM1ガングリオシド抗体の力価が、運動神経障害があることを示す、請求項38に記載の方法。
【請求項49】
第2参照力価が少なくとも約2000である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
ある量の二硫酸化ヘパリン二糖およびある量の第1検出抗体を含む、対象における神経障害の診断で使用するキット。
【請求項51】
第1検出抗体が検出可能なラベルを含み、ヒトIgM抗体に結合する、請求項50に記載のキット。
【請求項52】
二硫酸化ヘパリン二糖がグルコサミン−ウロン酸ヘパリン二糖である、請求項50に記載のキット。
【請求項53】
二硫酸化ヘパリン二糖がIdoA−GlcNS−6Sである、請求項50に記載のキット。
【請求項54】
さらに、固相を含む、請求項50に記載のキット。
【請求項55】
固相がマイクロタイタープレートである、請求項54に記載のキット。
【請求項56】
二硫酸化ヘパリン二糖がマイクロタイタープレートに共有結合する、請求項55に記載のキット。
【請求項57】
さらに、ある量のGM1ガングリオシドおよびある量の第2検出抗体を含む、請求項50に記載のキット。
【請求項58】
第2検出抗体が検出可能なラベルを含み、ヒトIgM抗体に結合する、請求項57に記載のキット。
【請求項59】
GM1ガングリオシドおよびIdoA−GlcNS−6Sが固相に結合する、請求項57に記載のキット。
【請求項60】
固相がマイクロタイタープレートである、請求項59に記載のキット。
【請求項61】
固相に結合しているある量のIdoA−GlcNS−6Sを有する当該固相を含む、神経障害を示す抗体の免疫アッセイ検知を実行するための装置。
【請求項62】
IdoA−GlcNS−6Sが固相に共有結合する、請求項61に記載の装置。
【請求項63】
固相がマイクロタイタープレートを含む、請求項61に記載の装置。
【請求項64】
マイクロタイタープレートがCostarマイクロウェルELISAプレートを含む、請求項63に記載の装置。
【請求項65】
IdoA−GlcNS−6Sがマイクロタイタープレートに共有結合する、請求項63に記載の装置。
【請求項66】
マイクロタイタープレートに結合するある量のGM1ガングリオシドを含む、請求項63に記載の装置。
【請求項67】
GM1ガングリオシドがマイクロタイタープレートに共有結合する、請求項66に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断方法に関し、特に、免疫検出を使用する神経障害の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療できる可能性がある免疫運動性神経障害と下位運動ニューロンの他の障害との区別は、電気診断評価および血清抗体検査に一部依存している。神経の長さに沿った非包括部位で、特に末端領域で、運動伝導ブロックを示す神経伝導検査は、治療可能な症候群(多病巣性運動神経障害(MMN))のマーカーとして広く認められている。さらに、GM1ガングリオシドに結合する血清IgMは、多病巣性運動神経障害および他の免疫性運動神経障害において共通して見られるが、特異性がある。脱髄の電気診断結果が曖昧である場合または陰性である場合、IgM抗GM1抗体の検査は特に有用である。
【0003】
しかし、電気生理学的検査およびIgM抗GM1抗体の検査では、所定の対象で神経障害の方向性は見られない。例えば、多くの研究において、MMNのIgM抗GM1抗体検査の感度はわずか30%から50%である。GM2およびGalNAc−GD1aガングリオシドに結合するIgMを含む、さらなる抗体の検査では、若干の感度を追加することができるが、多くの免疫性運動神経障害患者は特定の関連する血清自己抗体を持っていない。したがって、対象の臨床症状の原因である神経障害、特に運動神経障害の診断の改善方法が求められている。免疫性運動神経障害は治療できる可能性があるため、確実に治療できない代替診断に対する正しい鑑別診断は特に重要である。それゆえ、このような運動神経障害を差次的に診断する改善方法が必要であり、これにより、適宜を得た治療を促進する。
【発明の概要】
【0004】
一態様において、本開示は対象における神経障害の診断方法を提供する。該診断方法は、対象由来の検査試料中の二硫酸化ヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定することを含み、参照力価以上の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の力価は、対象に神経障害があることを示す。
【0005】
別の態様において、本開示は、対象における筋力低下の原因の診断方法を提供する。該診断方法は、対象由来の検査試料中の二硫酸化ヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定することを含み、参照力価以上の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の力価は、神経障害が対象の筋力低下の原因であることを示す。
【0006】
さらに別の態様において、本開示は、対象における運動神経障害の診断方法を提供する。該診断方法は、対象由来の検査試料中の二硫酸化ヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定することであって、ここで参照力価以上の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の力価が対象に神経障害があることを示すこと、および運動伝導ブロックまたは運動軸索消失に対して、対象の電気生理学的検査を行うことを含む。
【0007】
さらに別の態様において、本開示は、対象における神経障害の存在の診断方法を提供する。該診断方法は、a)対象由来の検査試料中に抗体が存在すれば、二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体を二硫酸化ヘパリン二糖に結合するのに十分な条件下で、該検査試料と二硫酸化ヘパリン二糖の試料とを接触させ、接触試料を作製すること、およびb)接触試料中の抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体の力価を参照力価と比較することを含み、参照力価以上である接触試料中の抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体の力価は、神経障害があることを示す。
【0008】
さらに別の態様において、本開示は、対象における神経障害の診断で使用するキットを提供し、該キットは、ある量の二硫酸化ヘパリン二糖およびある量の第1検出抗体を含む。
【0009】
さらに別の態様では、本開示は、固相に結合するある量のIdoA−GlcNS−6Sを有する該固相を含む、神経障害を示す抗体の免疫アッセイ検知を実施する装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】二硫酸化ヘパリン二糖NS6S(α−4−デオキシ−エル−トレオヘキサ−4−エノピラノシルウロン酸−[1−4]−d−グルコサミン−S−6S;「IdoA−GlcNS−6S」)の分子構造を示す図である。
図2】異なる患者群におけるNS6SおよびGM1ガングリオシドに結合するIgMの頻度を示すプロットである。NS6S(≧7000)およびGM1ガングリオシド(≧2000)に結合する高力価のIgMは、運動神経障害において対照より一般的であった。横線は、NS6Sに結合するIgMに対しては力価7000、GM1ガングリオシドに結合するIgMに対しては力価2000を表す。GM1ガングリオシドに結合するIgMに対する対照は、CIDP、ALSおよび感覚神経障害対照患者すべて134人を含む。対数プロットにおいて、ALSは筋萎縮性側索硬化症;CB+は少なくとも1つの末梢神経で運動伝導ブロックがわかっている患者;CBeは伝導ブロックがない患者;CIDPは慢性免疫脱髄性多発神経障害;対照はALS、CIDPおよび感覚多発神経障害対照すべて;運動PNは運動神経障害;感覚PNは感覚多発神経障害;#血清は各臨床部門で検査された血清の総数;#力価=0は抗原(NS6SまたはGM1ガングリオシド)に反応性のない、および対数プロットに示すデータ値がない、各臨床部門で検査された血清の数を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、対象における神経障害、特に運動神経障害の診断方法、関連する装置およびキットを提供する。本明細書で使用するとき、「対象」は神経障害に罹患しうる哺乳類を指す。代表的実施形態において、対象はヒトである。本明細書に記載しているように、本発明者らは、二硫酸化ヘパリン二糖、特にIdoA−GlcNS−6S(NS6S)などのグルコサミン−ウロン酸ヘパリン二糖に対するIgM抗体の力価の上昇と神経障害があることとが相関し、特に運動神経障害と相関するという驚くべき発見をした。より詳しくは、二硫酸化ヘパリン二糖に対するIgM抗体の高力価と、対象に神経障害があることとが相関することがわかり、運動神経障害患者よりも感覚神経障害患者のほうが高力価が多くないことがわかった。都合のよいことに、運動神経障害の既存の診断方法と本発明の方法を組み合わせると、診断感度が相当上がる。
【0012】
したがって、本開示は神経障害、特に運動神経障害の診断方法を利用可能にする。つまり、この方法では、二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の力価について対象由来の検査試料を評価することによって、対象に神経障害があるかを診断する。二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の高力価は、神経障害があることを示す。
I.神経障害の診断方法
【0013】
本発明の一態様は、対象における神経障害または筋力低下の原因の診断方法を含む。本明細書で使用するとき、「神経障害」は神経病理学に言及し、運動神経障害(運動ニューロンの病理学)、免疫性神経障害(免疫系媒介神経過敏病理学)、感覚神経障害(感覚性ニューロンの病理学)および免疫性運動神経障害(免疫系媒介運動ニューロン病理学)を含みうるが、これらに限定されない。
【0014】
一実施形態において、該方法は、対象における神経障害の診断を目的とする。好適な対象は、神経障害を有する疑いのある対象、神経障害の臨床徴候がある対象、神経障害を有する危険性がある対象および筋力低下を有する対象を含みうる。該方法は神経障害、特に多病巣性運動神経障害、ギラン・バレー症候群および他の治療可能な免疫運動神経障害を含む運動神経障害の診断に部分的に有用である。
【0015】
一般に、該方法は、対象由来の検査試料中のヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定することを記載する。
(a)ヘパリン二糖
【0016】
各種実施形態において、ヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定する。ヘパリン二糖の非限定的な例として、GlcA−GlcNAc、GlcA−GlcNS、IdoA−2S−GlcN、IdoA−GlcN、IdoA−GlcNS、IdoA(2S)−GlcNS、IdoA−GlcNS(6S)およびIdoA(2S)−GlcNS(6S)を挙げることができる。省略は、以下のとおりである。GlcAはグルクロン酸である;IdoAはイズロン酸である;IdoA(2S)は2−O−スルホ−α−L−イズロン酸である;GlcNAcは2−デオキシ−2−アセトアミド−α−D−グルコピラノシルである;GlcNSは2−デオキシ−2−スルファミド−α−D−グルコピラノシルである;GlcNS(6S)は2−デオキシ−2−スルファミド−α−D−グルコピラノシル−6−O−硫酸塩である;好ましい実施形態において、ヘパリン二糖は硫酸化ヘパリン二糖である。別の好ましい実施形態において、硫酸化ヘパリン二糖は二硫酸化ヘパリン二糖である。代表的実施形態において、二硫酸化ヘパリン二糖は、IdoA−GlcNS−6S(NS6S)などのグルコサミン−ウロン酸ヘパリン二糖である。
【0017】
二硫酸化ヘパリン二糖は、多糖(例えば、IdoA−GlcNS−6S(NS6S)から成るグルコサミン−ウロン酸ヘパリン二糖)成分、修飾タンパク質もしくはペプチド(例えば、側鎖として)成分または修飾脂質成分を含みうる。好ましい実施形態において、本発明で使用される、ある量の二硫酸化ヘパリン二糖は二硫酸化ヘパリン二糖のみを含むことができ、すなわち、他の分子の一成分として含まないことができる。
【0018】
二硫酸化ヘパリン二糖は天然の供給源から単離されてもよく、または化学的に合成されてもよく、組み換え方法によって産生されるタンパク質の成分であってもよい。各種実施形態において、二硫酸化ヘパリン二糖は、天然ヘパリンから誘導される。天然ヘパリンは、長さが変わる多糖類鎖から成る。天然ヘパリンは当該分野で周知の方法を使用して、動物組織から得ることができる。抗凝血性反応性を有する天然ヘパリン製剤は、ウシ、ブタ、ヒト、シチメンチョウ、クジラ、ヒトコブラクダ、マウス、ロブスター、淡水カラスガイ、ハマグリ、エビ・マングローブカニおよびタコノマクラ組織から調製した。
【0019】
ヘパリンから二硫酸化ヘパリン二糖を調製するため、ヘパリン製剤を分画するか、または解重合する。ヘパリンからの二硫酸化ヘパリン二糖の製造にさまざまなヘパリン解重合方法を使用することができ、これらの方法は、当該分野において周知である。例えば、Linhardt RJ,Gunay NS.(1999).「Production and Chemical Processing of Low Molecular Weight Heparins(低分子量ヘパリンの製造および化学処理)」Sem.Thromb.Hem.3:5−16.PMID10549711を参照。ヘパリン解重合の非限定的な方法には、過酸化水素を使用する酸化解重合、亜硝酸イソアミルを使用する脱アミノ化開裂、ヘパリンのベンジルエステルのアルカリ性β脱離的開裂、Cu2+および過酸化水素を使用する酸化解重合、ヘパリナーゼ酵素によるβ脱離的開裂ならびに亜硝酸を使用する脱アミノ化開裂が挙げられる。さらに、ある状況において、解重合ヘパリンは化学的に処理され、異なる二硫酸化ヘパリン二糖種を得ることができる。例えば、亜硝酸を使用する脱アミノ化開裂により、産生されるオリゴ糖の還元末端で異常なアンヒドロマンノース残基が形成される。次に、これは、好適な還元剤を使用してアンヒドロマンニトールに変換される。同様に、化学的および酵素的β‐脱離により、非還元末端で異常な不飽和ウロン酸残基(UA)が形成される。
【0020】
各種実施形態において、二硫酸化ヘパリン二糖は、合成したヘパリンから調製することができる。他の実施形態において、二硫酸化ヘパリン二糖は、合成により調製することができる。ヘパリンまたは二硫酸化ヘパリン二糖を合成により調製する非限定的な方法は、化学的もしくは酵素的プロセスまたは細胞の遺伝的工学的手法により二流酸化ヘパリン二糖を製造する方法を含みうる。
(b)抗体力価
【0021】
該方法は、二流酸化ヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定することを含む。異なる種類の抗体(すなわち、一種類より多い抗体の量を含む合計)の力価を測定することができる。あるいは、1つの特定の種類の抗体の量(例えば、IgA、IgD、IgE、IgMまたはIgG抗体の量)を測定することができる。代表的実施形態において、ヘパリン二糖に結合するIgM抗体の力価を測定する。
【0022】
該方法によると、二硫酸化ヘパリン二糖に結合する抗体の力価は、ある量の二硫酸化ヘパリン二糖と対象由来の検査試料とを接触させることにより測定される。結果物は接触試料であり、これは二硫酸化ヘパリン二糖と検査試料の混合物である。接触試料は適切な条件下に保存すると、試料中に存在しうる任意の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体と二硫酸化ヘパリン二糖との結合を可能にする。本明細書で使用するとき、用語「抗二流酸化ヘパリン二糖抗体」または「抗二流酸化ヘパリン二糖自己抗体」は、二硫酸化ヘパリン二糖に特異的に結合する抗体のことをいう。本明細書で使用するとき、二硫酸化ヘパリン二糖に「特異的に結合する」抗体は、他の類似した分子(例えば、他の二糖類、他の二硫酸化多糖類)との結合に比べて、二硫酸化ヘパリン二糖に優先的に結合する抗体である。次に、接触試料は、有無について、または特に量、すなわち、抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体の力価について評価される。
【0023】
抗体力価、すなわち抗体の有無は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)もしくは他の固相免疫アッセイ、放射免疫アッセイ、比濁分析、電気泳動、蛍光抗体法、免疫ブロットまたはその他の方法(Ausubel,F.M.ら編、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons(2001年中の補遺を含む)、特にユニット11.2(ELISA)および11.16(Determination of Specific Antibody Titer)を参照のこと)を含む、標準的技術を使用する種々の方法により測定することができる。一実施形態において、抗体の量(または有無)を免疫ブロットアッセイにより測定する。代表的実施形態において、力価はELISAで測定する。免疫アッセイのタンパク質特異抗体を使用するタンパク質の検出は、当業者に知られている。(例えば、Harlow&Lane,Antibodies(抗体):研究所マニュアル(1988)、Coligan、Current Protocols in Immunology(1991);Goding、Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(第2版、1986);ならびにKohler&Milstein(Nature256):495−497(1975)を参照のこと)。代表的実施形態において、二硫酸化ヘパリン二糖は、固相表面に化合物を共有結合させるように修飾した固相を使用するなど、エピトープに結合する抗体を最適化するように固相または支持体に結合する(例えば、Nunc CovaLink NHマイクロウェルELISAプレート)(例えば、米国特許第6077681号参照、この記載の全技術は本明細書に参考として援用される)。その他の代表的実施形態において、固体支持体はCostarマイクロウェルELISAプレート(ヌクレオポア、Fisher Scientific)である。
【0024】
通常、二硫酸化ヘパリン二糖試料に結合する抗体の量は、抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体に結合する検出用抗体を使用して、測定することができる。抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体の力価は、標準的な変換アルゴリズムを使用して、抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体に結合した検出用抗体の量から算出することができる。例えば、検出用抗体が西洋ワサビペルオキシダーゼを含有する場合、抗体の力価はA.Pestronkら、27 Ann.Neurol.316 326(1990)に記載されているように算出することができる。また、この文献の全開示は本明細書に参照により援用される。
【0025】
本発明の一実施形態において、検査試料中の抗二硫酸化ヘパリン二糖IgM抗体の力価を、少なくとも1つの比較的陰性の対照試料および/または1つの陽性の対照試料中に存在する抗二硫酸化ヘパリン二糖IgM抗体の力価と比較する。
(c)検査試料
【0026】
神経障害の診断方法は、検査試料中の抗体の力価を測定することを含む。本明細書で定義されるように、検査試料は対象から採取したある量の体液である。体液の非制限的例として、尿、血液、血漿、血清、唾液、精液、汗、涙、粘液および組織ライセートが挙げられる。代表的実施形態において、検査試料に含まれる体液は血清である。
【0027】
検査試料の体液は、任意に知られる器具または方法を使用して、対象から採取することができる。哺乳類から体液を採取するのに適した器具または方法の非限定的な例としては、採尿カップ、尿道カテーテル、綿棒、皮下注射針、細針生検、中空針生検、パンチ生検、代謝ケージおよび吸引法が挙げられる。
【0028】
検査試料中の抗体の期待される濃度をアッセイのダイナミックレンジに入るように調整するために、検査試料を薄め、分析の前に抗体の濃度を下げてもよい。希釈度は、抗体の測定に使用される分析の種類、アッセイで利用される試薬および検査試料に含まれる体液の種類が含まれるがこれに限定されない、多様な要因によって決まりうる。希釈度の測定方法は当分野で周知である。
【0029】
試料が単離された抗体を含む場合、単離された抗体は、単一種類の抗体(例えば、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM抗体)、すべての種類の抗体を含みうる。または、2種以上の抗体(例えば、IgM抗体、IgG抗体またはIgM抗体およびIgG抗体)を単離しうる。代表的実施形態において、検査試料は、対象由来のIgM抗体を含む試料である。
(d)神経障害の診断
【0030】
該方法により、二硫酸化ヘパリン二糖に結合する抗体の力価を測定し、該方法では、参照力価以上の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の力価は対象における神経障害があることを示す。あるいは、筋力低下を有する対象において、参照力価以上の二硫酸化ヘパリン二糖に対する抗体の力価は神経障害が対象において筋力低下の原因であることを示す。
【0031】
参照力価は、接触試料で評価される抗体と同じ種類の抗体の量である。例えば、接触試料について異なる種類の抗体(すなわち、1種を超える抗体が含まれる)の量の合計を参照力価と比較する場合、この種類の抗体の量の合計が参照力価でも使用される。接触試料中の特定の一種類の抗体の量(例えば、IgMまたはIgG抗体の量)を参照力価と比較する場合、その種類の抗体の量が参照力価でも使用される。
【0032】
参照力価は、神経障害の診断と相関する抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量を意味する。参照力価は、神経障害を有することがわかっている対象由来の接触試料(例えば、「陽性対照試料」)中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量を、神経障害を有しないことがわかっている対象由来の接触試料(例えば、以下に記載のような「陰性対照試料」)中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量と比較し、どれだけの力価の抗体が疾患と相関するかを決めることによって決めることができる。参照力価は、接触試料中の抗体の量を測定しながら、同時に陽性および/または陰性対照試料の量を測定することによって決めることができる。あるいは、参照力価は、過去に測定された量(すなわち、接触試料中の抗体の量を測定する前に測定された量)である場合がある。例えば、一実施形態において、参照力価は、比較対照試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の力価より統計学的に有意に多く、例えば、比較陰性対照試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量より標準偏差の少なくとも約2倍、好ましくは標準偏差の3倍以上、さらに好ましくは標準偏差の4倍以上の量である検査試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の力価であってもよい。好ましい実施形態において、検査試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量についての参照力価は、少なくとも約2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000または9000である。代表的実施形態において、検査試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量についての参照力価は、少なくとも約7000である。
【0033】
代替的な実施形態において、接触試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量を、少なくとも1種の比較陰性対照試料(すなわち、神経障害に罹患していない対象由来の試料)中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量と比較してもよい。陰性対照試料は神経障害に罹患していない任意の対象由来の試料でもよい。陰性対照試料は疾患のない対象由来の試料である必要はない。例えば、陰性対照試料は、他の神経系障害、特に多発性硬化症などの運動機能障害の臨床症状を有する障害を有する対象由来の試料であってもよい。「比較」陰性対照試料は、検査試料と同じ種類の体液または組織の試料である。あるいは、検査試料が液または組織の試料から単離された抗体を含む場合、比較陰性対照試料は、同じ種類の体液または組織から単離された抗体の試料である。1種を超える対照試料を用いることができる。陰性対照試料のアッセイは、接触試料のアッセイと同じ種類の抗体を測定する。例えば、接触試料について異なる種類の抗体(すなわち、1種を超える抗体が含まれる)の量の合計を検知する場合、この種類の抗体の量の合計も陰性対照試料について測定される。アッセイで、接触試料中の特定の1種類の抗体の量(例えば、IgMまたはIgG抗体の量)を測定する場合、その種類の抗体の量も陰性対照試料について測定する。代表的実施形態において、1種を超える対照試料を使用する。
【0034】
比較陰性対照試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量より有意に多い検査試料中のある量の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の存在は、神経障害があることと相関がある。比較陽性対照試料以上である検査試料中のある量の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の存在は、神経障害があることと相関がある。
【0035】
代表的実施形態において、「有意に多い」検査試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量は、比較対照試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の量より多く、少なくとも標準偏差の約2倍の量であり、好ましくは標準偏差の2倍以上、より好ましくは標準偏差の3倍以上、さらにより好ましくは標準偏差の4倍以上の量である。例えば、IgMおよびIgG抗体の両方の力価を測定する場合、比較対照試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖IgM抗体および抗二流酸化ヘパリン二糖IgG抗体を合わせた量より多い2標準偏差以上である抗二流酸化ヘパリン二糖IgM抗体および抗二流酸化ヘパリン二糖IgG抗体を合わせた量は「有意に多く」、したがって、神経障害と相関する。他の例として、力価を使用する場合、比較対照試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の力価より大きい3標準偏差以上である検査試料中の抗二流酸化ヘパリン二糖抗体、特に抗二流酸化ヘパリン二糖IgM抗体の力価は、神経障害の診断と相関する。
【0036】
所望される場合、かつ、当該分野で一般的に認められるように抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体の量を測定する場合、抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体の正確な量を得るために、抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体の検出量から試料中に存在する1つ以上の対照抗体の量を引いてもよい。例えば、一実施形態において、抗二流酸化ヘパリン二糖抗体の検出量から異なるウロン酸−グルコサミン二糖類などの対照二糖類に対する抗体の量を引いてもよい。
(e)追加診断
【0037】
対象に運動神経障害の指標が他にないときや、対象に運動神経障害の1つ以上の他の指標が存在するとき、本発明の方法は適用できる。他の指標は、例えば、対象における筋力低下および/または少なくとも1箇所で運動伝導ブロックまたは運動軸索消失の徴候を示す電気生理学的検査の結果を含みうる。運動神経障害のもう1つの指標は他の抗体検査に由来しうる。例えば、A.Pestronk&R.Choksi,49 Neurology 1289−92(1997)に既に記載されているとおり、運動神経障害のもう1つの指標は対象由来の検査試料から測定されるGM1ガングリオシドに結合するIgMの高力価でありうる。また、この文献の全開示は本明細書に参照により援用される。
【0038】
各種実施形態において、抗体検査の結果は、運動機能の1つ以上の臨床指標または検査の結果、例えば、個人における筋力低下の臨床的証拠、または少なくとも1箇所で運動伝導ブロックを証明する電気生理学的検査、または運動軸索消失の他の証拠と組み合わせられる。
【0039】
他の実施態様において、該方法はさらに対象由来の検査試料中のGM1ガングリオシドに結合するIgM抗体の力価を測定することを有利に含み、第2参照力価以上のGM1ガングリオシドに結合するIgM抗体の力価は、対象に運動神経障害があることと正に相関する。前述するとおり、GM1ガングリオシドに結合する血清IgMは、多病巣性運動神経障害および他の免疫性運動神経障害において共通して見られるが、特異性がある(例えば、Olneyら, 27 Muscle Nerve 117−21 (2003)参照)。GM1ガングリオシドに結合する血清IgMに好適な参照力価、すなわち、第2参照力価は、少なくとも約2000の力価である。ゆえに、第1参照力価を参考に二硫酸化ヘパリン二糖に結合し、かつ第2参照力価を参考にGM1ガングリオシドに結合する「高」抗体を測定する血清抗体検査は、対象に運動神経障害があることと正に相関する。
II.キット
【0040】
また、本開示は、本発明の方法に従い使用することができるキットおよび関連装置を含む。例えば、対象における神経障害の診断で使用するキットは、ある量の二硫酸化ヘパリン二糖、例えば、IdoA−GlcNS−6Sなどのグルコサミン−ウロン酸ヘパリン二糖、およびある量の第1検出抗体を含みうる。検出抗体は、通常、抗体、好ましくは抗二硫酸化ヘパリン二糖抗体、より好ましくは抗二硫酸化ヘパリン二糖IgM抗体に結合する標識抗体でありうる。検出用抗体は、酵素、放射活性分子または蛍光剤などの検出可能な標識に結合した抗体を含みうる。検出用抗体が、西洋ワサビペルオキシダーゼなど、添加物質と反応して着色生成物を生じる酵素に結合する場合、キットは該物質も含みうる。キット中の二硫酸化ヘパリン二糖は、固相または支持体に付着し、例えば、ELISAに通常使用されるような、キュベット、ビーズまたはプレート(例えば、マクロウェルプレートまたはマイクロタイタープレート)であってもよい。代表的実施形態において、固相はCostarマイクロウェルELISAプレートであり、二硫酸化ヘパリン二糖がプレートのマイクロウェルに共有結合する。例えば、IdoA−GlcNS−6Sは、固相、例えば、プレートのマイクロウェルに付着した好適な化学部分に共有結合しうる。これは、プレートに抗原を添加する前に、マイクロウェルに好適な化合物、例えば、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−エチル−カルボジイミドなどの2級アミノ基を有する化合物を溶液の形態で添加することによって、達成しうる。次に、抗原をマイクロウェルに添加し、二硫酸化ヘパリン二糖をプレートに付着する化学部分に共有結合するのに十分な条件かつ時間でインキュベートする。別の実施形態において、キットはある量のGM1ガングリオシドおよびある量の第2検出抗体を含みうる。第1検出抗体と同様に、第2検出抗体は通常、検出可能な標識を含み、好ましくはヒトIgM抗体に結合する。GM1ガングリオシドおよびIdoA−GlcNS−6Sは固相に結合しうる。例えば、Alan Pestronk&R.Choksi,49 Neurology 1289−1292(1997)に記載されるとおり、GM1ガングリオシドは、固相に、例えば、マイクロウェルELISAプレートに共有結合しうる。代表的実施形態において、固相はCostarマイクロウェルELISAプレートである。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は、本開示を説明する目的のために提供され、請求項の範囲を制限するためのものではない。本明細書で引用されたすべての参考文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
実施例1〜6の材料および方法
【0042】
患者および血清試料:
血清IgM結合の評価用対象は、前抗体検査の結果に認識がない患者診断の臨床データベースから遡及的に特定した。75人の患者が特定され、後天性の慢性運動神経障害を有すると医師から診断を受け、いくつかのさらなる包含および除外基準を満たした。全員が、セントルイスのワシントン大学の神経筋センターにて臨床、電気診断および実験室評価を得、かつELISA研究に利用可能な血清を有する必要があった。全患者が次の少なくとも1つの肢を有する。(1)筋力低下についての解剖学的説明がない、2つ以上の末梢神経の分布における神経障害性筋力低下;および(2)臨床および電気診断検査による正常な感覚機能。患者に類似した障害、脳神経もしくは延髄性筋力低下の家族歴、上位運動ニューロン徴候、症状発症後最初の3年間で歩行不能もしくは死亡となる急速進行性の疾患、不自由な感覚消失がある場合、その患者は除外した。除外基準により、4人の患者を削除した。MMN9においてIgM抗GM1抗体の前ELISA研究の患者で、本研究にも含まれた患者はいなかった。チャートは、抗体ステータスに関係なく、運動神経障害患者75人で評価した。伝導ブロックおよび血清Mタンパク質を含む、臨床および電気診断の特徴(免疫固定法によって検査した72人の患者)を記録した。電気診断の研究は通常、上肢の4つの運動神経を含む少なくとも6つの運動神経および3つの感覚神経の神経伝導の研究を含んだ。複数の伝導ブロックを有する患者における神経の研究はほとんどなかった。患者部分分類について、かなり近位の神経分節に沿った伝導ブロックは日常的に検査されず、考慮もされなかった。EMGの研究は患者60人に利用可能で、そのうち25人に傍脊柱の評価があった。疾患対照患者は、診断および血清利用可能性のみに基づいて過去3年の本臨床データベースから選択された。記録をよく調べ、診断を確認した。診断には、次の筋萎縮性側索硬化症(ALS、50人)、慢性免疫脱髄性多発神経障害(CIDP、28人)および感覚神経障害(56人)を含んだ。
感覚神経障害患者は遠位優位の感覚鈍麻および正常な強さを有した。2人の感覚神経障害患者は、脱髄性神経障害およびMAGに結合するIgMを有した。他6人の感覚神経障害患者は、三硫酸化ヘパリン二糖(TS−HDS)に結合する血清IgMを有する軸索感覚神経障害を有した。また、9人の感覚神経障害患者は糖尿病も有した。他39人は突発性であった。2002年から2009年に、ワシントン大学の神経筋臨床研究室に提出された血清すべてを、GM1ガングリオシドに結合するIgMについて検査した。これには神経筋センターにて臨床的に評価されたさまざまな患者2113人を含む。IgM抗GM1血清検査の特異性を調べるため、陽性の結果を有するセンターからの27人の患者の記録を再検討した。ワシントン大学倫理委員会は全手順を承認した。インフォームドコンセントは要求されなかった。
【0043】
NS6SおよびGM1ガングリオシドに結合するIgMのアッセイ:
NS6Sはα−4−デオキシ−エル−トレオヘキサ−4−エノピラノシルウロン酸−[1−4]−d−グルコサミン−S−6S(IdoA−GlcNS−6S;Sigma H1020)(図1)である。NS6Sは2個の糖部位、D−グルコサミンに結合するL−イズロン酸および2個の硫酸基を含む。硫酸基は、1個のN結合およびもう1個の6位のO結合でD−グルコサミン部位に結合する。予備ELISA評価において検査された他の抗原はスルファチド(Sigma S−1006から精製)とヘパリン二糖TS−HDS(IdoA−2S−GlcNS−6S;Sigma H9267)、10個のIdoA−2S−GlcNS(Sigma H9392)、IdoA−2S−GlcN−6S(Sigma H8892)、IdoA−2S−GlcN(Sigma H9142)、IdoA−GlcN−6S(Sigma H9017)、IdoA−GlcNS(Sigma H1145)およびIdoA−GlcN(Sigma H9276)である。抗ガングリオシド抗体について前述したとおり、プレートに共有結合する抗原を使用するELISA方法で血清を分析した。CostarマイクロウェルELISAプレート(Stripwell−Amine 2388;コーニング(米国、ニューヨーク))をNS6Sおよび他の二糖類に、CovaLink NHマイクロウェルELISAプレート(Nunc(デンマーク、ロスキレ))をGM1ガングリオシドに、ならびにImmulon 2HB(サーモサイエンティフィック(米国、マサチューセッツ州ミルフォード))をスルファチドおよび幾つかの他の抗原を使用する予備研究に使用した。NS6Sに結合する血清IgMを測定するため、1ウェルあたり0.05%N−ヒドロキシスクシンアミド50mlに溶解したNS6S1.25mgを使用した。NS6Sへの選択的結合の量は、抗原を含有する多くの炭水化物についてバックグラウンドIgM結合を計算するため研究室で使用された抗原である、GD1aガングリオシドに結合するIgMの量を引くことよって計算した。NS6S(≧7000)への選択的なIgM結合の高力価は、ALS患者10人および対照10人の血清で、別々の初期の一連のテストの平均値より高い4標準偏差(SD)を超えた。GM1ガングリオシドに結合するIgMの高力価は、本神経臨床研究所でこの抗体に使用された基準である2000以上であった。
【0044】
統計:
一般に、Xおよびt検定を使用して、診断群間の差異の有意性を計算した。フィッシャーの細密試験を使用して、運動神経障害群内の差異の有意性を計算した。データのない患者は、本分析からのみ除外した。APは統計分析を実行した。結果は平均±標準偏差として表した。
実施例1:運動神経障害患者の臨床および電気診断の特徴
【0045】
臨床データベースから確認される一連の運動神経障害患者において、非対称性遠位および上肢優位の筋力低下がほとんどであった(表1)。運動神経障害患者72人は臨床検査で正常な感覚がある2つ以上の肢に筋力低下があった。発症年齢は、23歳から76歳までの範囲に及び、平均は46±2歳であった。患者2人が、臨床感覚検査で上肢に異常があった。その2人は、筋力低下がある上肢のピン感覚に遠位優位の低下があったが、電気診断感覚検査は正常であった。患者28人の下肢におけるピンまたは振動感覚について、臨床検査で異常があった。そのうち26人は、正常な強さを有する下肢において遠位優位の両側に対称な消失を有した。下肢の臨床試験で遠位感覚消失が、若い患者(22%)よりも50歳を超える患者(68%)に多く(p=0.0003)見られた。運動神経障害患者のうち、56%(75人中42人)に運動伝導ブロックが存在し、31%(75人中23人)にMMNに完全臨床および電気診断基準が存在した。伝導ブロックを持たない患者33人のうち、3人に脱髄(それぞれ神経伝導速度が遅く、遠位潜時および時間的分散が長い患者)の他の特徴があった。一方、30人には、遠位神経の脱髄の証拠はないが、運動軸索消失があった。
患者16人において、腓腹感覚神経活動電位がない、または振幅が減少した。EMGで、弱い四肢の筋肉における急性または慢性の除神経変化が、検査を受けた患者60人中55人にあった。EMGで除神経のない患者5人はすべて、少なくとも1箇所で焦点性伝導ブロックがあった。胸部傍脊柱除神経は、検査を受けた患者25人中11人で見つかった。
【表1】
実施例2:予備ELISA検査
【0046】
二糖類に結合するIgMとスルファチドについての運動神経障害血清18例の比較から、NS6S二糖を使用して、最高力価が得られることがわかった。少なくとも2個の硫酸部位を有する2個の他の抗原、IdoA−2S−GlcNSおよびTS−HDSは、平均してNS6Sの約70%になる力価を与えた。検査した他の抗原すべては、平均してNS6Sの50%未満になる力価を与えた。対照範囲内の最低力価は、スルファチドおよび非硫酸化二糖類を使用して、見つかった。NS6Sに結合するIgMは、ImmulonまたはCovaLink ELISAプレートに加えた抗原を使用して、検査した場合、対照よりも高くはなかった。
実施例3:運動神経障害および対照におけるNS6Sに結合するIgM
【0047】
NS6Sに結合する血清IgMの高力価(≧7000)が運動神経障害患者の43%に見られ、7000から180000の範囲に及んだ(図2)。高力価のNS6Sに結合するIgMは、全疾患対照群より運動神経障害患者において一般的に生じた(p<10−6)。ALSまたはCIDPの対照群の患者は、高力価のNS6Sに結合するIgMを持たなかった。NS6Sに結合するIgMの高力価は、運動神経障害群より感覚神経障害患者において頻度が低かった(p=0.01)。NS6Sに結合するIgMの量は、感覚神経障害(平均623062393)より運動神経障害群(平均2018063854)において高かった(p=0.003)。また、NS6Sに結合するIgMの最高力価を有する感覚神経障害血清はかなり高い力価のMAGに結合するIgMを有した(90000)。
実施例4:運動神経障害および対照におけるGM1ガングリオシドまたはNS6Sに結合するIgM
【0048】
GM1に結合するIgMの高力価が運動神経障害患者の43%に見られた。ALS、CIDPまたは感覚神経障害の患者は、GM1ガングリオシドに結合する血清IgMの高力価を持たなかった。NS6SとGM1ガングリオシドの少なくとも1つに結合するIgMの高力価が運動神経障害患者の64%(75人中48人)に存在した。NS6SとGM1の両方に結合するIgMの高力価が運動神経障害患者の21%(75人中16人)に存在し、NS6SのみまたはGM1のみに結合するIgMの高力価はそれぞれ運動神経障害患者の21%(75人中16人)に存在した。NS6Sに結合するIgMの高力価はGM1に結合するIgMがない血清(36%)より存在する血清(52%)においてのほうが、あまり頻度が高くなかった(p=0.25)。
実施例5:他の運動神経障害患者の特徴に関するIgM抗体
【0049】
運動伝導ブロックまたはNS6SもしくはGM1ガングリオシドに結合するIgM抗体は、運動神経障害患者の83%(75人中62人)に見られた。NS6SおよびGM1に結合するIgMの頻度および力価は、運動伝導ブロックがある運動神経障害患者とない運動神経障害患者の部分群において似ていた(p=0.5)。NS6SおよびGM1に結合するIgMの力価は、伝導ブロックがある運動神経障害患者において、平均して19042±4945および20730±9696であり、伝導ブロックがない患者において、平均して21664±6184および32703±14036であった。
NS6SおよびGM1に結合するIgMの頻度および力価は、MMNの基準がある患者およびない患者において違わなかった。他の運動神経障害患者と比較して、MMNの全基準における高力価のGM1ガングリオシドに結合するIgMの頻度が減少する傾向(p=0.08)があった。高力価のNS6SおよびGM1ガングリオシドに結合するIgMの頻度は、傍脊柱除神経、遠位感覚消失または異常な感覚神経活動電位(SNAP)がある患者およびない患者において、似ていた。高力価のNS6SまたはGM1に結合するIgMの頻度は、血清IgMMタンパク質がない患者よりある患者においてのほうが、高かった(p=0.0001)。
【表2】
実施例6:GM1に結合するIgMについて検査する正の検査血清を有する患者における臨床的特徴
【0050】
7年間で得られた臨床患者由来の2113例の血清の検討から、GM1に結合する高力価のIgMを有する患者27人が明らかになった。正の結果のうち、24例は本件に係わる運動神経障害患者のものであった。1人目は運動軸索消失を有する緩徐進行性の片手の筋力低下があり、脱髄がなく、若年性一側上肢筋萎縮症の診断があった。2人目は、下肢優位の合併症がある軽度の特発性軸発で対称な感覚多発神経障害であった。この患者2人は、GM1正の血清27例またはスルファチドに結合するIgMの高力価を有する運動神経障害患者75人の収集物のうちの1つであった。
実施例7:ギラン・バレー症候群におけるNS6Sに結合するIgM
【0051】
ギラン・バレー症候群の患者30%からのIgM抗体は、上記実施例に記載の方法を使用して、NS6Sを結合することもわかった。
図1
図2