(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747044
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】蒸散および凝固に最適化された2つのアクティブ電極を有する電気外科用器具
(51)【国際特許分類】
A61B 18/12 20060101AFI20150618BHJP
【FI】
A61B17/39 310
A61B17/39 320
【請求項の数】20
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-550505(P2012-550505)
(86)(22)【出願日】2011年1月21日
(65)【公表番号】特表2013-517879(P2013-517879A)
(43)【公表日】2013年5月20日
(86)【国際出願番号】GB2011000070
(87)【国際公開番号】WO2011092454
(87)【国際公開日】20110804
【審査請求日】2014年1月8日
(31)【優先権主張番号】61/282,381
(32)【優先日】2010年2月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】1001644.2
(32)【優先日】2010年2月1日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】594089821
【氏名又は名称】ジャイラス メディカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー チャールズ ベン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート シー. ハンブル
(72)【発明者】
【氏名】デヴィッド ダブリュー. モリス
(72)【発明者】
【氏名】マイケル デヴィッド ニュートン
(72)【発明者】
【氏名】アンドルー ジョン フォード
【審査官】
木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0234673(US,A1)
【文献】
特開2008−295905(JP,A)
【文献】
特開2004−160083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12 ― 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向軸を有する器具シャフトと、該シャフトの一端にある電極アセンブリとを含む電気外科用器具であって、
前記電極アセンブリは、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極と、1つ以上のリターン電極とを備え、これら電極のそれぞれが、1つ以上の絶縁部材によって互いに電気的に絶縁され、前記1つ以上のリターン電極のうち少なくとも一部は、前記第1のアクティブ電極に対して軸方向に後退し、
前記第1のアクティブ電極および前記第2のアクティブ電極がそれぞれ、組織を処置するための露出した表面を有するとともに、前記第1のアクティブ電極と最も近いリターン電極との間の距離が前記第2のアクティブ電極と最も近いリターン電極との間の距離よりも小さいという相違する特性を有し、
前記第1のアクティブ電極の前記露出した表面が、前記器具シャフトに対して第1の半径方向位置において前記長手方向軸の側方に配置された組織を処置するものであり、前記第2のアクティブ電極の前記露出した表面が、前記器具シャフトに対して第2の半径方向位置において前記長手方向軸の側方に配置された組織を処置するものであり、前記第1の半径方向位置および前記第2の半径方向位置が少なくとも30°離れており、
前記器具が、使用に際して前記第1のアクティブ電極と前記少なくとも1つのリターン電極との間に電流経路が確立されるように前記1つ以上のリターン電極のうちの1つを有する回路内に前記第1のアクティブ電極を配置させる第1の組の接続部と、使用に際して前記第2のアクティブ電極と前記少なくとも1つのリターン電極との間に電流経路が確立されるように前記1つ以上のリターン電極のうちの1つを有する回路内に前記第2のアクティブ電極を配置させる第2の組の接続部とを有する電気外科用器具。
【請求項2】
前記第1の半径方向位置および前記第2の半径方向位置が、互いに少なくとも45°離れている請求項1に記載の電気外科用器具。
【請求項3】
前記第1の半径方向位置および前記第2の半径方向位置が、互いに少なくとも90°離れている請求項2に記載の電気外科用器具。
【請求項4】
前記第1の半径方向位置および前記第2の半径方向位置が、互いに略180°離れている請求項3に記載の電気外科用器具。
【請求項5】
前記1つ以上のリターン電極の少なくとも一部分が、前記第2のアクティブ電極に対して軸方向に後退する請求項1から請求項4のいずれかに記載の電気外科用器具。
【請求項6】
前記1つ以上のリターン電極のうちの少なくとも1つが、前記器具シャフトを囲む半径方向の帯状である請求項5に記載の電気外科用器具。
【請求項7】
前記第1のアクティブ電極の前記露出した組織処置表面が、ほぼ平坦である請求項1から請求項6のいずれかに記載の電気外科用器具。
【請求項8】
前記第2のアクティブ電極の前記露出した組織処置表面が、ほぼ平坦である請求項1から請求項7のいずれかに記載の電気外科用器具。
【請求項9】
前記シャフトの長さに沿って延びる吸引管腔を含む請求項1から請求項8のいずれかに記載の電気外科用器具。
【請求項10】
前記第1のアクティブ電極が、前記吸引管腔と連通する少なくとも1つの開口を備える請求項9に記載の電気外科用器具。
【請求項11】
前記第2のアクティブ電極が、前記吸引管腔と連通する少なくとも1つの開口を備える請求項9または請求項10に記載の電気外科用器具。
【請求項12】
前記1つ以上のリターン電極が、第1のリターン電極と第2のリターン電極とを含み、前記第1の組の接続部が、使用に際して前記第1のアクティブ電極と前記第1のリターン電極との間に電流経路が確立されるように前記第1のリターン電極を有する回路内に前記第1のアクティブ電極を配置させるものであり、前記第2の組の接続部が、使用に際して前記第2のアクティブ電極と前記第2のリターン電極との間に電流経路が確立されるように前記第2のリターン電極を有する回路内に前記第2のアクティブ電極を配置させるものである請求項1から請求項11のいずれかに記載の電気外科用器具。
【請求項13】
電気外科用器具と電気外科用ジェネレータとを含む電気外科用システムであって、
前記電気外科用器具が、長手方向軸を有する器具シャフトと、該シャフトの一端にある電極アセンブリとを含み、
該電極アセンブリが、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極と、1つ以上のリターン電極とを備え、これら電極のそれぞれが、1つ以上の絶縁部材によって互いに電気的に絶縁され、前記1つ以上のリターン電極のうち少なくとも一部は、前記第1のアクティブ電極に対して軸方向に後退し、
前記第1のアクティブ電極および前記第2のアクティブ電極がそれぞれ、組織を処置するための露出した表面を有し、前記第1のアクティブ電極の前記露出した表面が、前記器具シャフトに対して第1の半径方向位置において前記長手方向軸の側方に配置された組織を処置するものであり、前記第2のアクティブ電極の前記露出した表面が、前記器具シャフトに対して第2の半径方向位置において前記長手方向軸の側方に配置された組織を処置するものであり、前記第1の半径方向位置および前記第2の半径方向位置が少なくとも30°離れており、
前記器具が、使用に際して前記第1のアクティブ電極と前記少なくとも1つのリターン電極との間に電流経路が確立されるように前記1つ以上のリターン電極のうちの1つを有する回路内に前記第1のアクティブ電極を配置させる第1の組の接続部と、使用に際して前記第2のアクティブ電極と前記少なくとも1つのリターン電極との間に電流経路が確立されるように前記1つ以上のリターン電極のうちの1つを有する回路内に前記第2のアクティブ電極を配置させる第2の組の接続部とを有し、
前記電気外科用ジェネレータが、凝固高周波(RF)波形または切開RF波形のいずれかを生成可能なRFエネルギー源と、前記電気外科用器具の前記第1のアクティブ電極および前記第2のアクティブ電極にそれぞれ接続された第1の出力接続部および第2の出力接続部と、前記電気外科用器具の前記1つ以上のリターン電極に接続された第3の出力接続部とを含み、
前記ジェネレータが、スイッチ手段と、スイッチング回路とをさらに含み、
前記スイッチング回路は、切開RF波形が選択されたときに、前記スイッチング回路が前記第1の出力接続部と前記第3の出力接続部との間に、したがって前記第1のアクティブ電極と前記少なくとも1つのリターン電極との間に前記切開RF波形を送り、凝固RF波形が選択されたときに、前記スイッチング回路が前記第2の出力接続部と前記第3の出力接続部との間に、したがって前記第2のアクティブ電極と前記少なくとも1つのリターン電極との間に前記凝固RF波形を送るものである電気外科用システム。
【請求項14】
前記第1のアクティブ電極および前記第2のアクティブ電極がそれぞれ、相違する特性を有する請求項13に記載の電気外科用システム。
【請求項15】
前記スイッチ手段が、フットスイッチを備える請求項13または請求項14に記載の電気外科用システム。
【請求項16】
前記スイッチ手段が、前記電気外科用器具上に担持されたハンドスイッチを含む請求項13または請求項14に記載の電気外科用システム。
【請求項17】
前記スイッチング回路が、前記ジェネレータの一部である請求項13から請求項16のいずれかに記載の電気外科用システム。
【請求項18】
前記スイッチング回路が、前記電気外科用器具の一部である請求項13から請求項16のいずれかに記載の電気外科用システム。
【請求項19】
前記ジェネレータおよび前記電気外科用器具は、導電性流体が前記電極間の前記電流経路を完成した状態において、前記器具が前記導電性流体中で操作されるように設計される請求項13から請求項18のいずれかに記載の電気外科用システム。
【請求項20】
前記ジェネレータおよび前記電気外科用器具は、前記電極が処置すべき組織と直接接触し、前記組織がそれらの間の前記電流経路を完成した状態において、前記器具が防湿環境で操作されるように設計される請求項13から請求項18のいずれかに記載の電気外科用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織の処置のための電気外科用器具、およびかかる器具と電気外科用ジェネレータとを含む電気外科用システムに関する。かかるシステムは、一般的には外科的処置における組織の蒸散および/または凝固に使用され、最も一般的には「鍵穴」手術または低侵襲手術で使用されるが、「観血的」手術でも使用される。
【背景技術】
【0002】
外科的手技中に、組織に対する特定の効果を達成するために、外科医が第1の器具を除去して第2の器具を挿入する必要があることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6004319号明細書
【特許文献2】米国特許第6832998号明細書
【特許文献3】米国特許第6293942号明細書
【特許文献4】米国特許第6966907号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、別の器具の使用が必要となる回数を減少させるように、複数の用途で使用できる外科用器具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、組織の処置のための電気外科用器具であって、長手方向軸を有する器具シャフトと該シャフトの一端にある電極アセンブリとを含み、該電極アセンブリは、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極と、1つ以上のリターン電極とを備え、これらの電極のそれぞれは、1つ以上の絶縁部材によって互いに電気的に絶縁され、
前記1つ以上のリターン電極のうち少なくとも一部は、前記第1のアクティブ電極に対して軸方向に後退し、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極はそれぞれ、組織を処置するための露出した表面を有し、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極はそれぞれ、相違する特性を有
するとともに、前記第1のアクティブ電極と最も近いリターン電極との間の距離が前記第2のアクティブ電極と最も近いリターン電極との間の距離よりも小さいという相違する特性を有し、第1のアクティブ電極の露出した表面は、器具シャフトに対して第1の半径方向位置において長手方向軸の側方に配置された組織を処置するものであり、第2のアクティブ電極の露出した表面は、器具シャフトに対して第2の半径方向位置において長手方向軸の側方に配置された組織を処置するものであり、第1の半径方向位置および第2の半径方向位置は少なくとも30°離れており、器具は、使用に際して第1のアクティブ電極と少なくとも1つのリターン電極との間に電流経路が確立されるように1つ以上のリターン電極のうちの1つを有する回路内に第1のアクティブ電極を配置させる第1の組の接続部と、使用に際して第2のアクティブ電極と少なくとも1つのリターン電極との間に電流経路が確立されるように1つ以上のリターン電極のうちの1つを有する回路内に第2のアクティブ電極を配置させる第2の組の接続部とを有する電気外科用器具が提供される。
【0006】
異なる特性を有する第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極を備えることによって、本発明の電気外科用器具は、組織蒸散に最適化された第1のアクティブ電極および組織凝固に最適化された第2のアクティブ電極を提供する。第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極は、器具のシャフトを囲む異なる半径方向位置に位置するので、器具の使用者は、器具を回転させるだけで、使用する電極を容易に選択することができる。
【0007】
好ましい構成によれば、第1の半径方向位置および第2の半径方向位置はそれぞれ、少なくとも45°、好ましくは少なくとも90°、あるいは約180°離れている。これは、使用に適した場所に位置する第1のアクティブ電極と第2のアクティブ電極とを切り換えるために、器具の使用者が器具シャフトを既知の量だけ回転させることを意味する。
【0008】
上述のように、第1のアクティブ電極は組織蒸散に最適化され、第2のアクティブ電極は組織凝固に最適化される。これを達成できる1つの方法は、第1のアクティブ電極と最も近いリターン電極との間の距離を、第2のアクティブ電極と最も近いリターン電極との間の距離よりも小さくすることである。第1のアクティブ電極を用いるときの方がアクティブ電極とリターン電極との間の距離が短くなるので、バイポーラ電極対は組織切開モードでさらに作動しやすくなる。反対に、第2のアクティブ電極を用いるときの方がアクティブ電極とリターン電極との間の距離が長くなる、バイポーラ電極対は、さらに大きな範囲において組織の凝固物を生成するのに十分な離隔距離を有する。
【0009】
それに代えて、またはそれに加えて、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極を特定の目的に最適化する別の方法は、第1のアクティブ電極の表面積が第2のアクティブ電極の表面積よりも小さくなるようにすることである。第1のアクティブ電極などの小さい電極の方がより高い電流濃度を作り出し、したがって組織切開モードでさらに作動しやすくなる。同様に、第2のアクティブ電極などのより大きな面積の電極は、広範囲の凝固組織を生成するための表面積を有し、組織切開モードで作動し難くなる。したがって、凝固電極が意図していない組織切開行為に切り替わるリスクを伴わずに、さらに高い電圧を大きな面積の電極に印加することができる。
【0010】
それに代えて、またはそれに加えて、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極を特定の目的に最適化する別の方法は、第1のアクティブ電極の形状が第2のアクティブ電極の形状と相違するようにすることである。第1のアクティブ電極が先のよりとがったまたは不均等な構造であることによって、不均等な場所の周りの電圧濃度を高め、組織切開が促進される。反対に、滑らかなまたは平坦な第2のアクティブ電極は、組織切開で作動することを妨げ、組織の均一な凝固を促進する。どのような特性の組み合わせを用いても、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極は、単一の電極を複数の目的で機能するように設計する場合に妥協が必要となるのとは対照的に、意図された目的に十分適するように設計することができる。組織処置電極がその目的のために作製されたにもかかわらず、組織蒸散および組織凝固の両方は、器具を回転させて交互の電極を所定の位置に置くだけで、単一の器具から実行することができる。したがって、組織の切開および凝固の両方を達成するために、器具を除去して第2の器具を挿入する必要がない。
【0011】
好ましい構成によれば、1つ以上のリターン電極の少なくとも一部分は、第1のアクティブ電極に対して、好ましくは第2のアクティブ電極に対しても、軸方向に後退している。これは、好ましくは、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極を器具の最先端に面して配置することによって達成される。好ましくは、リターン電極のうちの少なくとも1つは、器具シャフトを囲む半径方向の帯、典型的には器具シャフト上に存在する金属のシースの形態とされる。
【0012】
好ましくは、第1のアクティブ電極の露出した組織処置表面はほぼ平坦であり、好ましくは、第2のアクティブ電極の露出した組織処置表面もほぼ平坦である。ほぼ平坦な電極表面を設けることによって、器具を容易に回転させて、どちらかの電極を処置すべき組織に隣接させることができる。
【0013】
器具は、好ましくは、シャフトの長さに沿って延びる吸引管腔も含む。好ましくは、第1のアクティブ電極は、この吸引管腔と連通する少なくとも1つの開口を備える。第2のアクティブ電極も、吸引管腔と連通する少なくとも1つの開口を備えてもよいが、これは、第2のアクティブ電極が組織凝固だけを実行することほど重要ではない。吸引管腔は、組織残屑および他の蒸散物を電極の付近から吸引するために使用することができる。それに加えて、またはその代えて、管腔は、器具の先端への流体の供給に使用することができる。
【0014】
好ましい構成によれば、1つ以上のリターン電極は、第1のリターン電極と第2のリターン電極とを含み、第1の組の接続部は、使用に際して第1のアクティブ電極と第1のリターン電極との間に電流経路が確立されるように第1のリターン電極を有する回路内に第1のアクティブ電極を配置させるものであり、第2の組の接続部は、使用に際して第2のアクティブ電極と第2のリターン電極との間に電流経路が確立されるように第2のリターン電極を有する回路内に第2のアクティブ電極を配置させるものである。この構造において、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極のそれぞれは、別個の特定のリターン電極を有し、これにより器具シャフト上における電極の位置決めが最適化されるようにすることができる。
【0015】
本発明のさらなる態様によれば、電気外科用器具と電気外科用ジェネレータとを含む電気外科用システムであって、電気外科用器具は、長手方向軸を有する器具シャフトと該シャフトの一端にある電極アセンブリとを含み、該電極アセンブリは、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極と、1つ以上の複数のリターン電極とを備え、これらの電極のそれぞれは、1つ以上の絶縁部材によって互いに電気的に絶縁され、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極はそれぞれ、組織を処置するための露出した表面を有し、第1のアクティブ電極の露出した表面は、器具シャフトに対して第1の半径方向位置において長手方向軸の側方に配置された組織を処置するものであり、第2のアクティブ電極の露出した表面は、器具シャフトに対して第2の半径方向位置において長手方向軸の側方に配置された組織を処置するものためであり、第1の半径方向位置および第2の半径方向位置は少なくとも30°離れており、器具は、使用に際して第1のアクティブ電極と少なくとも1つのリターン電極との間に電流経路が確立されるように1つ以上のリターン電極のうちの1つを有する回路内に第1のアクティブ電極を配置させる第1の組の接続部と、使用に際して第2のアクティブ電極と少なくとも1つのリターン電極との間に電流経路が確立されるように1つ以上のリターン電極のうちの1つを有する回路内に第2のアクティブ電極を配置させる第2の組の接続部とを有し、電気外科用ジェネレータは、凝固高周波(RF)波形または切開RF波形のどちらかを生成可能なRFエネルギー源と、電気外科用器具の第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極にそれぞれ接続された第1の出力接続部および第2の出力接続部と、電気外科用器具の1つ以上のリターン電極に接続された第3の出力接続部とを含み、ジェネレータは、スイッチ手段とスイッチング回路とをさらに含み、該スイッチング回路は、切開RF波形が選択されたときに、このスイッチング回路が第1の出力接続部と第3の出力接続部との間、したがって第1のアクティブ電極と少なくとも1つのリターン電極との間に切開RF波形を送り、凝固RF波形が選択されたときに、スイッチング回路が第2の出力接続部と第3の出力接続部との間、したがって第2のアクティブ電極と少なくとも1つのリターン電極との間に凝固RF波形を送るものである電気外科用システムが提供される。
【0016】
上記のように、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極は、組織蒸散に最適化された第1のアクティブ電極および組織凝固に最適化された第2のアクティブ電極を提供するために、異なる特性をそれぞれ有する。電気外科用システムは、外科医が切開RF波形動作モードまたは凝固RF波形動作モードのどちらかを選択できるスイッチ手段を含む。好ましくは、スイッチ手段はフットスイッチを含むが、これに代えて、スイッチ手段は電気外科用器具上に担持されたハンドスイッチを含んでもよい。あるいは、このスイッチ手段は、ジェネレータ上に位置することができる。スイッチ手段は、スイッチング回路を作動する。該スイッチング回路は好ましくはジェネレータの一部であるが、これに代えて、スイッチング回路は電気外科用器具の一部であってもよい。
【0017】
第1の構成において、ジェネレータおよび電気外科用器具は、該器具が、導電性流体が電極間の電流経路を完成した状態において、導電性流体中で操作されるように設計される。これは、システムが、導電性部位を生理食塩水などの導電性流体中に浸漬し前記導電性流体中に電極が浸漬して動作する「水中」電気外科として知られているものを実行するように動作することを意味する。このタイプの電気外科用システムの一例は、本発明者らの先の米国特許第6004319号明細書に記載されている。ジェネレータによって使用される電力および電圧は、電気外科用器具をその切開モードで操作したときに電極を取り囲む導電性流体が蒸発するように設定される。
【0018】
あるいは、このジェネレータおよび電気外科用器具は、該器具が、電極が処置すべき組織と直接接触し、組織が電極間の電流経路を完成した状態において、防湿(dry−field)環境で操作されるように設計される。このタイプの電気外科用システムの一例は、本発明者らの先の米国特許第6832998号明細書に記載されている。電極が組織と直接的に接触し、電極を取り囲む蒸散した生理食塩水のポケットを形成する必要がないので、ジェネレータによって使用される電力および電圧の設定は一般に、水中電気外科用システムにおけるそれよりも低くなる。
【0019】
本発明について、ほんの一例として添付の図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る電気外科用システムの概略図である。
【
図2】
図1のシステムで使用可能な、本発明に係る電気外科用器具の斜視図である。
【
図3】180°回転した
図2の電気外科用器具の斜視図である。
【
図5】
図3の電気外科用器具のA−A線に沿った断面図である。
【
図6A】異なる動作段階で示される、
図1の電気外科用ジェネレータの出力段の概略ブロック図である。
【
図6B】異なる動作段階で示される、
図1の電気外科用ジェネレータの出力段の概略ブロック図である。
【
図7】本発明に係る電気外科用器具のもう1つの実施形態の斜視図である。
【
図9】本発明に係る電気外科用器具のさらなる実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照すると、
図1は、ハンドピース3の形態の器具に対して接続コード4を介して高周波(RF)出力を提供する出力ソケット2を有するジェネレータ1を含む電気外科用装置を示す。ジェネレータ1の作動は、コード4の制御接続部(図示せず)を介して、またはフットスイッチ接続コード6によってジェネレータ1の後部に別途に接続されたフットスイッチ・ユニット5によって、ハンドピース3から実行される。図示の実施形態では、フットスイッチ・ユニット5は、それぞれジェネレータ1の乾燥モードおよび蒸散モードを選択するための2つのフットスイッチ5aおよび5bを有する。ジェネレータ前面パネルは、それぞれ乾燥電力レベルおよび蒸散電力レベルを設定するための押しボタン7aおよび7bを有し、これらの電力レベルはディスプレイ8に示される。押しボタン9は、後で簡単に説明するように、乾燥モードおよび蒸散モードから、または、第1のアクティブ電極および第2のアクティブ電極から選択するための別の手段として設けられる。
【0022】
以下で説明するように、ハンドピース3は、その先端に電極を有するまっすぐなシャフト10を備える。
図2から
図5は、セラミック絶縁体12に取り付けられた第1の組織処置電極11を示し、該電極11は、露出した組織処置表面19がシャフトの長手方向軸の側方に位置するように配置される。第2の組織処置電極14も絶縁体12に取り付けられ、電極14は、絶縁体12の反対側の側面に取り付けられる。電極14は、組織処置表面19に対し180°をなしてシャフトの長手方向軸の側方に位置する露出した組織処置表面15を含む。第2のアクティブ電極14の組織処置表面15の面積は、第1のアクティブ電極11の組織処置表面19と比較して若干大きい。これは、後でさらに詳細に説明するように、第1のアクティブ電極を組織蒸散電極として作用させ、第2のアクティブ電極を組織凝固電極として作用させるためである。組織処置電極11および14は両方とも、タングステンまたはタングステンとプラチナの合金から形成される。
【0023】
第1の組織処置電極11は、シャフト10に沿って延びる吸引管腔23と連通する吸引開口17を備える。蒸気泡発生の問題を低減するため、また、組織処置電極11の周辺領域からの粒状の物質(組織残屑など)の除去を補助するために、吸引管腔23は、開口17を通じて器具のシャフトを介して蒸気泡を除去できる吸引ポンプ(図示せず)に接続される。第2の組織処置電極14も、同様に吸引管腔23と連通する吸引開口18を備える。
【0024】
リターン電極25は、シャフト10の先端部分からなり、電極11および14に隣接するセラミック絶縁体12上に延びる延長部13も含む。延長部13は、第2のアクティブ電極14からの距離と比較して第1のアクティブ電極11にさらに近接するように配置されている。ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン、ポリエステル、またはエチレンテトラフルオロエチレンからなるスリーブ26は、リターン電極25に隣接するシャフト10の基端部分を取り囲む。リード線21、22および24は、
図1に示されるRFジェネレータ1に電極11、14および25を接続する。
【0025】
RFジェネレータ1は、器具3に電気外科用電流を供給する。ジェネレータ1は、蒸散または凝固などのさまざまな電気外科的要件に適合するように、供給される出力電力を変化させるための手段を含む。ジェネレータは、典型的には、本発明者らの先の米国特許第6293942号明細書に記載されているように、ジェネレータから電気外科用器具3までの複数の出力線を切り換えるためのスイッチング回路62を有する。
【0026】
スイッチング回路62は、
図6Aおよび
図6Bに示されており、ジェネレータ1からの接続部60および61と、出力接続部62A、62B、および62Cとをそれぞれ備える。出力接続部62Aは、リード線21を介して第1の組織処置電極11に接続され、出力接続部62Bは、リード線22を介して第2の組織処置電極14に接続される。同様に、出力接続部62Cは、リード線24を介して第3の電極25に接続される。次に、電気外科用システムの動作について説明する。
【0027】
システムの使用者が器具3を切開器具として使用したいとき、使用者は、スイッチング回路62を
図6Aに示される状態に設定するために、(フットスイッチ・ユニット5を用いて、またはジェネレータ上の押しボタンを用いて)信号を送信する。この状態では、ジェネレータからの接続部60および61は、出力接続部62Aおよび62Cに、したがって第1の組織処置電極11およびリターン電極25にそれぞれ接続される。ジェネレータ1からのRF切開電圧は、電極11および25に供給され、これによって電極11の組織処置表面19に隣接する組織を所望の通りに蒸散させることができる。電極11とリターン電極25の一部を形成する延長部13との間の離隔距離が比較的小さいことに加えて、組織処置表面19の表面積が比較的小さいことは、バイポーラ電極対の組織切開モードの始動が促進されることやすくなることを意味する。
【0028】
あるいは、システムの使用者が器具3を組織凝固器具として使用したいとき、使用者は、第2のアクティブ電極を処置すべき組織に隣接させるために器具を180°回転させ、スイッチング回路62を
図6Bに示される状態に設定するために信号を送信する。この状態では、ジェネレータからの接続部60および61は、出力接続部62Bおよび62Cに、したがって第2の組織処置電極14および第3の電極25にそれぞれ接続される。ジェネレータ1からのRF凝固電圧は、電極14および25に供給され、これによって第2のアクティブ電極14の組織処置表面15に隣接する組織を所望の通りに凝固することができる。電極14と延長部13との間の離隔距離が比較的大きいことに加えて組織処置表面15の表面積が比較的大きいことは、広い範囲において組織の凝固物が生成されて、バイポーラ電極対の組織切開モードの始動が妨げられることを意味する。
【0029】
このようにして、外科医は、フットスイッチを操作して器具を180°回転させるだけで、器具3を組織切開器具として使用するか組織凝固器具として使用するかを変更することができる。この構成によって実現される多機能性によって、単一の器具は、手術部位から器具を抜去することなく、それぞれ特にその目的用に設計された電極を用いて組織の切開および凝固の各機能を効果的に実行することができる。
【0030】
器具3は、生理食塩水などの導電性流体が電極間の回路を完成している状態において、導電性流体中で操作されるように設計される。一方で、器具3は、防湿器具として使用することもでき、この場合、使用者は、確実に電極が処置すべき組織と接触し配置されるようにしなければならない。
【0031】
図7および
図8は、ハンドピース3の別の実施形態を示し、この実施形態では、第1の組織処置電極11はシャフト10の先端から延びるフック30の形状に形成されている。フック30は、該フックの先端によって構成される横向きの組織処置表面19を有する。吸引開口17は、シャフトの端面上においてフック30に隣接して配置されている。第2の組織処置電極14は、シャフト10の先端の下部を取り囲むカウル(cowl)31の形態とされる。絶縁部材40は、フック30をカウル31から分離する。カウル31は、該カウルの湾曲した下部によって構成される横向きの組織処置表面15を有する。組織処置表面19および15は、互いに対して180°に位置し、その結果、シャフトの向きに応じて個別に使用することができる。
【0032】
このハンドピースは、第1のリターン電極と第2のリターン電極とを備え、第1のリターン電極は、シャフト10上においてフック30の上を向いた部分に隣接して配置されたパッド32との形態とされる。第2のリターン電極は、シャフト10によって担持された金属のシース25から構成される。シース25は、カウル31に隣接するように延びる形をした延長部33を備える。
【0033】
ハンドピースは、フック30が組織の蒸散に使用され、カウル31が組織凝固に使用されるように設計される。フック30の形状はカウル31の形状と明らかに大きく異なっており、カウルは滑らかな曲がり角のみを含むのに対し、フックは組織処置表面を構成する比較的先のとがった端部を有する。カウル31の表面積は、一般にフック30の表面積よりも大きく、カウル31と延長部33との間の距離はフック30とパッド32との間の距離よりも大きい。これらの違いはすべて、適切な電気外科用電圧がジェネレータ1から供給されるときに確実にフック30を組織蒸散表面として作用させ、カウル31を組織凝固面として作用させるのに有効である。
【0034】
電気外科用システムの動作は実に前述のとおりであり、スイッチング回路は、フック30とパッド32との間にRF蒸散波形を、またはカウル31と延長部33との間にRF凝固波形を供給する。組織の蒸散と凝固とのうちいずれを行いたいかに応じて、器具の使用者は、フック30の端部19またはカウルの下部15のどちらかが処置すべき組織に隣接するようにシャフト10の向きを定める。これらの2つの組織処置表面は互いに180°反対側に位置するので、使用者は、この違いを活用するためにシャフトを回転させなければならない。
【0035】
図7および
図8の器具では、2つの別個のリターン電極32および25を使用するが、
図2から
図5の器具では、両方のアクティブ電極11および14に対して単一のリターン電極25を使用することが理解されるであろう。したがって、追加のリターン電極を包含するために
図6Aおよび
図6Bのスイッチング回路を修正する必要になるが、これは、電気外科用ジェネレータ設計の当業者が対応できる範囲内に十分に含まれている。
【0036】
図9は、ハンドピース3のさらなる別の実施形態を示し、この実施形態において、第1の組織処置電極11は、35でシャフトの側方に延び、かつ36でシャフトの末端からも延びるブレード34の形態とされる。第2の組織処置電極14は、ブレード34に対して180°の角度をなしてシャフト10上に位置するカウル31の形態とされる。単一のリターン電極は、前述したようにシャフト10上に位置する金属のシース25によって実現されるが、シース25は、1つではなく2つの延長部33および37を有する。延長部33は、ブレード34と並んで延び、ブレードとカウル31の一方の側面との間に配置されている。延長部37は、ブレード34の反対側の側面に沿って延び、ブレードと、カウルの、延長部33の側面とは反対側の側面との間に配置されている。
【0037】
次に、
図9のハンドピースの動作について説明する。ハンドピースは、異なる動作モードで使用することができる。第1の動作モードにおいて、器具は、ブレード34を使用して組織を蒸散させるために使用される。器具は、ブレード34が処置すべき組織に隣接するように操作され、RF蒸散波形がブレード34とリターン電極25との間にジェネレータ1によって供給される。ブレード34の周辺領域内において、そして、特にブレード34とその両側の延長部33および37との間の領域内において、組織が蒸散する。
【0038】
第2の動作モードにおいて、器具は、カウル31を使用して組織を凝固させるために使用される。ハンドピース3は、カウル31が処置すべき組織に隣接するように操作され、ジェネレータ1は、カウル31とリターン電極25との間にRF凝固波形を供給する。カウル31の領域内において、そして、特にカウル31と延長部33との間の領域「a」およびカウル31と延長部37との間の領域「b」において、組織が凝固する。シャフト10は、領域「a」または領域「b」のみが処置すべき組織に隣接するような角度に向けられてもよく、大量の組織を凝固するために両方の領域が同時に用いられてもよい。領域「a」は、一方の半径方向において切開ブレード34から径方向に90°ずれており、領域「b」は、反対方向に90°ずれているので、シャフト10を回転させてどちらか一方の領域を処置すべき組織と接触させることができる。
【0039】
他の動作モードにおいて、
図6Aおよび
図6Bに示されるスイッチング回路は、
図6Aに示される状態と
図6Bに示される状態とをすばやく交互に切り替える。本発明者らの先の米国特許第6966907号明細書にさらに詳細に記載されているこの種類の構成は、RF蒸散電圧とRF凝固電圧との混合がジェネレータによって供給される混合出力を提供し、RF切開電圧は一方の電極対(電極34と25など)に供給され、RF凝固電圧は他方の電極対(電極31と25など)に供給される。このようにして、器具は、組織を同時に蒸散および凝固することができる。
図9を参照すると、混合RF出力はハンドピース3に供給され、器具は、最初に第1のブレード34が、次に領域「a」(または、器具を移動させる方向によっては領域「b」)が組織と接触して、処置すべき組織全体にわたって転写される(transcribed)ように使用者によって向きが定められる。ブレード34は、組織の上を通過するときに組織を蒸散させ、その後に迅速に領域「a」が続き、これによって残りの組織を凝固させることによって、ブレード34による組織の蒸散に起因する出血が減少する。このようにして、器具は、それぞれ必要するシャフト10の半径方向の向きが異なる、選択された組織蒸散、組織凝固または蒸散と凝固との同時併用が可能である。
【0040】
他の実施形態は、本発明の範囲から逸脱することなく、当業者には想到されよう。たとえば、電気外科用器具は、上述のさまざまな電極対以外の選択されたどの電極対に対しても混合電力出力を供給するために使用することもできる。これは、RFジェネレータ1の出力を凝固電力レベルと蒸散電力レベルとの間で自動的に交互に切り替えることによって達成され、その結果、蒸散モードで可能な止血よりも多くの止血が得られる。この結果、組織のデバルキング(debulking)の速度は低下するが、止血の増加は、血管組織構造を切開またはデバルキングするときに有益である。あるいは、RFジェネレータ1の出力は、凝固モードの動作を一旦停止させることなく、蒸散電力レベルでパルス化することができる。これによって、蒸散モードで発生する組織蒸散よりも組織蒸散が活発でなくなり、それに伴って、泡形成と組織炭化のリスクとの両方が低下する。