(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747050
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】往復ピストン式内燃機関用の燃焼方法
(51)【国際特許分類】
F02B 11/00 20060101AFI20150618BHJP
F02D 41/38 20060101ALI20150618BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20150618BHJP
F02B 1/14 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
F02B11/00 A
F02D41/38 B
F02D13/02 K
F02B11/00 B
F02B1/14
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-35641(P2013-35641)
(22)【出願日】2013年2月26日
(62)【分割の表示】特願2010-501398(P2010-501398)の分割
【原出願日】2008年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-144983(P2013-144983A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2013年2月27日
(31)【優先権主張番号】102007016278.4
(32)【優先日】2007年4月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】391009671
【氏名又は名称】バイエリッシェ モートーレン ウエルケ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】BAYERISCHE MOTOREN WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター ヒュプナー
(72)【発明者】
【氏名】アミン ヴェルイ
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ヘンゼル
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュルツ
(72)【発明者】
【氏名】ボリス コック
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト ペータース
(72)【発明者】
【氏名】オラフ レール
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンティノス ブルショー
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ シュピッヒャー
【審査官】
有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−207887(JP,A)
【文献】
特開2007−032473(JP,A)
【文献】
特開2001−280191(JP,A)
【文献】
特開2005−233107(JP,A)
【文献】
特開2005−140087(JP,A)
【文献】
特開2007−077992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00―28/00
F02D 41/00―41/40
F02D 43/00―45/00
F02B 1/00─23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復運動するピストンにより容積が可変となっている燃焼室を有する四サイクル往復ピストン式内燃機関を対象とした燃焼方法であって、燃料を燃焼室の内部に直接導入できるようになっており、ガス交換のためのガス交換吸気弁とガス交換排気弁が少なくとも一つずつ備えられており、また前記燃焼室の容積が、ガス交換時のピストン上死点(LOT)および着火時のピストン上死点(ZOT)において最小となっており、次の各ステップ:
‐吸入行程(a)にて未燃ガスである空気を前記燃焼室内に導入するステップ;
‐圧縮行程(b)の間に、燃料のメイン噴射量(x)を前記燃焼室内に導入するステップ;
‐前記圧縮行程(b)にて前記空気および前記燃料を圧縮するステップ;
‐前記燃料のメイン噴射を停止することにより、前記燃焼室内に生成された空気と燃料とから成る混合気に着火するステップ;
‐膨張行程(d)にて、燃焼により生成された排出ガスを膨張させて排出するステップ;
から成る燃焼方法において、次の各ステップ:
‐前記燃料のメイン噴射量(x)を導入するステップに先立ち、圧縮行程(b)の間に、燃料のパイロット噴射量(e)を前記燃焼室内に導入するステップ;
‐前記燃料のパイロット噴射量の中間生成物(f)を生成するステップ;
‐前記圧縮行程(b)の間に、前記空気と中間生成物とから成る混合気の完全な着火が抑止されるとともに、更なる中間生成物が生成されて、最終的には前記混合気および前記更なる中間生成物のコントロールされた着火が行われる(c)ように、前記燃料のメイン噴射量(x)を導入するステップ
から成ることを特徴とする、燃焼方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃焼方法において、
前記空気を、少なくとも部分的に排出ガスと混合することを特徴とする、燃焼方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃焼方法において、
前記燃焼室内で、少なくとも部分的に過剰酸素を有する排出ガスを生成することを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に請求項1の上位概念(所謂おいて書き部分、プリアンブル部分)に記載の各特徴を具備した4サイクル往復ピストン式内燃機関を対象とした燃焼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自己着火式の直接噴射型内燃機関においては、高い効率とあわせ排出ガスエミッションの改善を達成するために、燃料と空気との均質で希薄な混合気が自己着火のために使用されることがたびたびある。そのような、燃焼室内で予混合気の圧縮自着火が行われる圧縮着火式内燃機関としても知られる、いわゆる予混合圧縮着火式内燃機関(HCCIエンジン)または制御自動着火式内燃機関(CAIエンジン)では通例、下側の部分負荷域において、ベースとなる、空気、燃料、および残留排出ガスから成る希薄な混合気が生成されて、これが自己着火されるようになっている。負荷がそれよりも高くなると、燃焼室の内部には自己着火による急激な圧力上昇が発生するが、その結果、内燃機関の運転状態に支障を来たすことがある。
【0003】
たとえば特許文献1から、ベースとなる、空気、燃料、および残留排出ガスから成る均質で希薄な基本混合気を生成して、これを圧縮着火方式で燃焼させるステップから成る、4サイクル原理で作動する内燃機関の運転方法が知られている。そこでは、エンジンの圧縮着火方式による運転域を拡大するために、一種の活性化行程がサイクル間に挿入されるようになっている。残留排出ガスの圧縮行程の間に、一定量の活性化のための燃料が燃焼室内に噴射されて、燃焼室内に残留している混合気成分と一緒に、可能な限り均質に分散されるようにしている。それにより、混合気には圧縮による熱エネルギーが供給されることになり、その結果、ガス交換時のピストン上死点付近で、化学反応ないしは着火が開始されるようにしている。この活性化のための噴射時期および噴射量を利用して、主燃焼時の装填燃料の点火時期を制御できるようにしている。
【0004】
この種の燃焼方法を使用した場合は、内燃機関が動的運転状態にあるとき、すなわち回転数が変化するときに、点火時期を活性化のための噴射時期および噴射量を利用して正確に制御するのは極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許発明第19810935号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、着火時期の精密な制御を可能とする、特に4サイクル往復ピストン式内燃機関を対象とした燃焼方法を提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1の特徴部分に記載の各ステップから成る燃焼方法により解決される。
管理下にない無秩序な連鎖反応(燃料/空気混合気の中間生成物の自己着火)を、燃料分子を現存させることによって狙い通りに抑止することによって、燃焼を遅らせるとともに、その開始を管理し制御できることを、数値計算により証明することができた。ここで中間生成物とは、出発燃料よりも燃焼速度が上昇している燃料のことであると解釈されるものである。これはたとえば燃料、ホルムアルデヒド、および過酸化水素から成る混合気であ
る。この中間生成物を生成する可能性の一つとして、いわゆる冷炎または低温度燃焼がある。この化学プロセスは、700Kから1,000Kまでの間の温度域で発生する。さて、本発明にしたがった方法においては、所望の着火時期に達するまで、燃料を連続的に添加すること(「燃料の追加補給」)により、燃焼を遅らせるようにしている。その後には燃焼を管理下におきなが
ら自己着火により開始させることができるが、この場合は、燃焼が非常に急速に安定した状態で進行することになり、反応が非常に急速に、しかも遅れて行われるために、NOxは低水準にとどまることになる。これと平行して、混合気が着火性に優れる、および/または、火炎伝播速度が高い結果として、燃焼は極めて希薄な状態で進行するが、それにより燃焼温度は再度大幅に低下されることになる。そのような本発明にしたがった燃焼プロセスにより、非常に低いNOxエミッションがもたらされることは、水素や改質ガスなどの着火性に優れた燃料を使用した希薄燃焼運転における結果によっても裏付けられている。改質ガスを使用する場合は、たとえばH
2を濃縮したガスが、ガソリンに添加されるようになっている。もっとも本発明にしたがった燃焼方法は、基本的には、たとえばガソリンやディーゼルなど、ほぼ全ての種類の燃料を対象として、導入することができる。中間生成物を生成するためには、顕著な低温キネティックスを特徴とする燃料を使用することが不可欠となる。これに当たるのは高分子炭化水素であり、このため、たとえばエタノールや天然ガスなどの燃料は、本発明にしたがった方法にはどちらかというと不向きである。
【0009】
着火は
、燃料の
メイン噴射を停止して、引き続いて自己着火により行われるようにす
る。
【0010】
請求項2に記載されるように、空気を少なくとも部分的に排出ガスと混合することによって、エミッションをさらに低減することができる。これは、たとえば外部の排気再循環システムであるとよい。
【0011】
請求項3にしたがった方法により、内燃機関のストイキ運転(化学量論的運転)とならび、希薄燃焼運転も可能となる。そのために燃焼室の内部には、少なくとも部分的に酸素過剰率が高くなっている排出ガスが生成されるようになっている。
【0012】
以下では、三つの図を参照しながら本発明
の運転モードと本発明の範囲外の運転モードについて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明にしたがった方法により運転される内燃機関の第1の運転モードにおける筒内圧力特性を示すグラフである。
【
図2】
本発明の範囲外の方法により運転される内燃機関の第2の運転モードにおける筒内圧力特性を示すグラフである。
【
図3】
燃料の添加方式(「燃料の追加補給」)における数値計算による温度およびラムダ(空燃比)特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1には、本発明にしたがった方法により運転される4サイクル往復ピストン式内燃機関の第1の運転モードにおける筒内圧力特性が示されている。そこには筒内圧力特性1がクランク角720°にわたり概略的に示されている。Y軸には内燃機関の筒内圧力が、X軸には720°のクランク角が示されている。ガス交換弁のアンダーカット状態によりもたらされる、破線で示されている初回の圧力上昇は、ガス交換時のピストン上死点(LOT)に
該当しており、X軸方向に見て2回目の圧力上昇は、着火時のピストン上死点(ZOT)に
該当している。
【0015】
初回の圧力上昇については、内燃機関のさらにもう一つの運転モードにおいては、たとえばガス交換弁の「
オーバーラップ状態」により、省略できるようにもなっている。
ガス交換弁の「アンダーカット状態」においては、ガス交換用の吸
・排気弁が、ピストン位置がLOT付近にあるときに閉弁状態となっており、ガス交換弁の「
オーバーラップ状態」においては、ガス交換用の吸
・排気弁が、ピストン位置がLOT付近にあるときに開弁状態となっている。
【0016】
本発明にしたがった燃焼方法は、往復運動するピストンにより容積が可変となっている燃焼室を有している、たとえばガソリンやディーゼルなどの燃料を燃焼室内に直接導入(噴射または吹き込み)可能な4サイクル往復ピストン式内燃機関を対象として企図されたものである。この燃料には、好適には炭素原子ないしは炭化水素が含有されなければならない。内燃機関は、ガス交換のためにガス交換用の吸
・排気弁を少なくとも一つずつ有しており、また燃焼室の容積は、ガス交換時のピストン上死点(LOT)および着火時のピストン上死点(ZOT)において最小となっている。本燃焼方法は、
‐吸入行程(a)において、未燃ガスである空気を燃焼室内に導入するステップ;
‐
圧縮行程(b)の間に、燃料のメイン噴射量(x)を燃焼室内に導入するステップ;
‐圧縮行程(b)において、空気および燃料を圧縮するステップ;
‐前記燃料のメイン噴射を停止することにより、燃焼室内に生成された空気と燃料とから成る混合気に着火するステッ
プ;
‐膨張行程(d)において、燃焼により生成された排出ガスを膨張させて排出するステップから成る燃焼方法であって、次の各ステップ:
‐燃料のメイン噴射量(x)を燃焼室内に導入するステップの前に、
圧縮行程(b)の間に、燃料のパイロット噴射量(e)を燃焼室内に導入するステップ;
‐燃料のパイロット噴射量の中間生成物
(f)を生成する(活性化)ステップ、
‐圧縮行程(b)の間に、空気と中間生成物とから成る混合気の完全な着火が抑止されるとともに、活性化ステップにおいて生成された中間生成物とは必ずしも同一でなくてもよい更なる中間生成物が生成されて、最終的には混合気およびこの更なる中間生成物のコントロールされた着火が行われる(c)ように、燃料のメイン噴射量(x)を燃焼室内に導入するステップ、
から成っている。
【0017】
中間生成物とは、出発燃料よりも燃焼速度が上昇している燃料のことであると解釈されるものである。これはたとえば燃料、部分酸化された炭化水素、ホルムアルデヒド、および過酸化水素から成る混合気であ
る。この中間生成物を生成する可能性の一つとして、いわゆる冷炎または低温度燃焼がある。この化学プロセスは、700Kから1,000Kまでの間の温度域において発生する。
【0018】
燃焼室とは、ここでは、シリンダヘッドの内側、ピストンヘッド、ならびに気筒により形成される容積を持つ空間のことであり、ピストン排気量および圧縮容積はこれに含まれていると解釈される。
【0019】
図2には、
本発明の範囲外の方法により運転される4サイクル往復ピストン式内燃機関の第2の運転モードにおける筒内圧力特性が示されている。この往復ピストン式内燃機関の基本的な4サイクル運転方式は、
図1に示されるものと同一である。第1の運転モードとは対照的に、この第2の運転モードにおいては、すでにLOT位相(h)において最初の燃料が燃焼室内に導入されるようになっている。この第2の運転モードにおいても、LOT付近では燃焼室内の温度が700K〜1,000Kに達している。この第2の運転モードにおいては、これに続く圧縮行程(b)において、燃焼室の内部に中間生成物が非常に均質な状態で存在している。
【0020】
この第2の運転モードにおいても、圧縮行程の間に
はZOTの前に燃料がさらに燃焼室内に追加噴射される(x)ことによって、空気と、LOT位相(h)の間に生成された中間生成物(活性化)とから成る混合気の完全な着火が抑止されるとともに、燃焼室内に導入された燃料のメイン噴射量から更なる中間生成物が生成されて、最終的には混合気およびこの更なる中間生成物の管理化におかれた(自己着火による)着火が行われるようにしている。
【0021】
4サイクル往復ピストン式内燃機関のほかにも、たとえば6サイクル往復ピストン式内燃機関についても、本発明にしたがった方法により運転することができる。
図3には、燃料の連続添加が燃焼開始に与える影響について、シミュレーション結果がグラフで示されている。Y軸には、一方では温度がケルビン単位で、他方では空燃比が示されており、X軸には時間がミリ秒単位で示されている。約900Kへの初回の昇温の間には、中間生成物が生成される。この中間生成物は、急速に2度目の転換(主燃焼)を行おうとする傾向を示すが、燃料をさらに添加することにより、燃焼開始を遅らせることができる。燃料が添加される限り、主転換(2,500K以上に昇温)は抑止されるようになっている。
【0022】
この第2の燃焼方法にしたがって生成される中間生成物は、ガス交換時のLOT位相の間に、ガス交換弁のアンダーカット状態により生成されることが好ましい。ほかにも燃料のメイン噴射量は、
空気を燃焼室内に導入するステップの間に噴射さ
れ、または吹き込まれることが好ましい。燃焼室内の混合気の着火は
、燃料のメイン噴射を停止することにより実行でき
る。排出ガスエミッションをさらに低減するためには、空気を少なくとも部分的に排出ガスと混合できるようにすると有利である。ほかにも本発明にしたがった燃焼方法では、エンジンの希薄燃焼運転が許容されるようになっているが、これは、燃焼室内に少なくとも部分的に過剰酸素量を持つ排出ガスが生成されることを意味している。
【0023】
着火性を向上するために、混合気の状態を(たとえば圧力、温度、混合気の組成により)前もって調整することが知られている。それにより、自己着火傾向が所望のとおりに増大されることになるが、その結果、相応の連鎖反応を来たすことになり、それにより燃焼が開始されてしまう。しかもHCCIまたは成層燃焼方式などの公然周知の燃焼方法においては、これが管理下にない無秩序な形で行われることになるが、それにより着火性の向上に限界を生じている。これまでの間に、管理下にない無秩序な連鎖反応(自己着火)を、燃料分子を現存させることによって狙い通りに抑止することによって、燃焼を遅らせて、その開始を管理し制御できることを、数値計算により証明することができた。本発明にしたがった燃焼方法の目的は、所望の着火時期に達するまで、燃料の連続添加(燃料の「補給」)により燃焼を遅らせることにある。その後には燃焼を管理下におきながら
(自己着火により)開始することができるが、この場合は燃焼が非常に急速に進行して、NOxは、反応が非常に急速に、しかも遅れて行われるために、低水準にとどまることになる。これと平行して、混合気が着火性に優れる結果、燃焼は極めて希薄な状態で進行し、それにより燃焼温度は大幅に低下される。そのような燃焼プロセスにより、非常に低いNOxエミッションがもたらされることは、水素や改質ガスなどの着火性に優れた燃料を使用した希薄燃焼運転における結果によっても裏付けられている。本発明にしたがった燃焼方法により、希薄燃焼運転時の燃費対NOxエミッション(ガソリンおよびディーゼル)という相克する目標が解決され、将来の排出ガス規制についても、燃費を悪化させることなく充足されることになる。それ以外にも本方法は、全世界で導入することができる希薄燃焼方法である。本発明にしたがった燃焼方法により、排気後処理のための工数もコストも大幅に低減されることになる。