特許第5747122号(P5747122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747122
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】トナー用バインダー樹脂及びトナー
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/08 20060101AFI20150618BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20150618BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20150618BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20150618BHJP
   C08L 63/10 20060101ALI20150618BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   C08L101/08
   G03G9/08 325
   G03G9/08 381
   C08J3/24 ZCEY
   C08G81/00
   C08L63/10
   C08K5/098
【請求項の数】6
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-516768(P2014-516768)
(86)(22)【出願日】2013年5月15日
(86)【国際出願番号】JP2013063541
(87)【国際公開番号】WO2013176016
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2014年5月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-116628(P2012-116628)
(32)【優先日】2012年5月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】松岡 洋史
(72)【発明者】
【氏名】武井 宏之
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/028176(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/017635(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/028177(WO,A1)
【文献】 特開2007−047437(JP,A)
【文献】 特開2008−164677(JP,A)
【文献】 特開2011−150239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00−101/14
63/00−63/10
C08G 81/00−81/02
C08J 3/00−3/28
C08K 5/00−5/59
G03G 9/00−9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)、及びこれらの反応物、並びに下記一般式(1)で表される脂肪酸金属塩(M):
【化4】
〔式中、nは11〜22の整数であり、mは2であり、MはZn及びCaから選択される金属原子である。〕
を含有し、
前記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において単分散標準ポリスチレン換算の分子量2.5×10以上1.2×10以下の領域にピークを有する高分子量ビニル樹脂(H)と、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において単分散標準ポリスチレン換算の分子量2×10以上2×10以下の領域にピークを有する低分子量ビニル樹脂(L)とを含み、
前記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)と前記グリシジル基含有ビニル樹脂(E)との反応物が、前記脂肪酸金属塩(M)の存在下で形成されたものであり、
前記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)中の前記高分子量ビニル樹脂(H)と前記低分子量ビニル樹脂(L)との質量比(H/L)は、55/45〜85/15である、トナー用バインダー樹脂。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、分子量分布(Mw/Mn)が6以上15以下である、請求項1に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項3】
測定周波数6.28ラジアン/秒において、150〜200℃における貯蔵弾性率(G')の最小値が、0.2×10Pa以上2.0×10Pa以下である、請求項1または2に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項4】
テトラヒドロフラン不溶成分を樹脂全体に対して10質量%以上40質量%以下含有する、請求項1乃至いずれか一項に記載のトナー用バインダー樹脂。
【請求項5】
請求項1乃至いずれか一項に記載のトナー用バインダー樹脂と、着色剤とを含む、トナー。
【請求項6】
下記一般式(1)で表される脂肪酸金属塩(M):
【化5】
〔式中、nは11〜22の整数であり、mは2であり、MはZn及びCaから選択される金属原子である。〕
の存在下に、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において単分散標準ポリスチレン換算の分子量2.5×10以上1.2×10以下の領域にピークを有する高分子量ビニル樹脂(H)と、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において単分散標準ポリスチレン換算の分子量2×10以上2×10以下の領域にピークを有する低分子量ビニル樹脂(L)とを含むカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)と、
グリシジル基含有ビニル樹脂(E)とを溶融混練することによって架橋反応させる工程を含み、
前記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)中の前記高分子量ビニル樹脂(H)と前記低分子量ビニル樹脂(L)との質量比(H/L)は、55/45〜85/15である、トナー用バインダー樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用バインダー樹脂及びトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、感光体上に形成したトナー画像を記録紙に転写するPPC(Plain Paper Copy)複写機やプリンターにおける電子写真法は、以下のような手順で行われる。まず、光感光体上に静電気的潜像を形成する。ついで該潜像をトナーを用いて現像し、紙等の被定着シート上にトナー画像を転写した後、熱ロールやフィルムで加熱定着する。この方法は、熱ロールやフィルムと被定着シート上のトナーが直接接触した状態で加熱下にて定着が行われるので、迅速でしかも熱効率が極めて良好である。したがって、定着効率が非常に良い。
【0003】
しかしながら、この加熱定着方式においては熱効率が良い反面、熱ロールやフィルム表面とトナーが溶融状態で接触するため、この時熱ロール上に移行したトナーが次に送られてくる転写紙等を汚す、いわゆるオフセット現象という問題がある。
【0004】
また、印刷速度の高速化に伴い、トナーにかかる負荷が大きくなりつつある。この負荷によってトナーが破壊され、トナーの帯電状態が変化してしまうことにより、画像欠陥が発生しやすくなるといった問題がある。よってトナーには高度な耐久性が必要となりつつある。しかし、耐久性を改良しようとして樹脂強度を上げていくと、トナーの生産性が悪化するという問題がある。
【0005】
更に、印刷速度の高速化に伴い、定着時に与えられるトナーへの熱量が低下する為、より高度な定着性能が求められようになってきている。
【0006】
定着性、耐オフセット性、耐久性及びトナー生産性のバランスに優れたトナーを得るために、高分子量の樹脂と低分子量の樹脂とを混合使用し、かつ高分子量部分を架橋したバインダー樹脂が知られている(例えば、特許文献1〜7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/075463号
【特許文献2】国際公開第2009/028177号
【特許文献3】特開2000−235279号公報
【特許文献4】特開2005−266788号公報
【特許文献5】国際公開第2004/015498号
【特許文献6】特開2006−171364号公報
【特許文献7】国際公開第2011/061917号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜7のバインダー樹脂では十分な定着性、耐オフセット性、耐久性及びトナー生産性のバランスを得ることは出来なかった。
【0009】
本発明は、このような従来のトナーの有する問題を解決するものであり、定着性、耐オフセット性、耐久性及びトナー生産性のバランスに優れたトナー用バインダー樹脂及びトナーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1]カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)、及びこれらの反応物、並びに下記一般式(1)で表される脂肪酸金属塩(M):
【0011】
【化1】
【0012】
〔式中、nは11〜22の整数であり、mは2であり、MはZn及びCaから選択される金属原子である。〕
を含有し、
上記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において単分散標準ポリスチレン換算の分子量2.5×10以上1.2×10以下の領域にピークを有する高分子量ビニル樹脂(H)と、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において単分散標準ポリスチレン換算の分子量2×10以上2×10以下の領域にピークを有する低分子量ビニル樹脂(L)とを含み、
上記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)と上記グリシジル基含有ビニル樹脂(E)との反応物が、上記脂肪酸金属塩(M)の存在下で形成されたものであり、
上記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)中の上記高分子量ビニル樹脂(H)と上記低分子量ビニル樹脂(L)との質量比(H/L)は、55/45〜85/15である、トナー用バインダー樹脂。
【0013】
[2上記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、分子量分布(Mw/Mn)が6以上15以下である、[1]に記載のトナー用バインダー樹脂。
]測定周波数6.28ラジアン/秒において、150〜200℃における貯蔵弾性率(G')の最小値が、0.2×10Pa以上2.0×10Pa以下である、[1]または[2]に記載のトナー用バインダー樹脂。
]テトラヒドロフラン不溶成分を樹脂全体に対して10質量%以上40質量%以下含有する、[1]〜[]いずれか一に記載のトナー用バインダー樹脂。
【0014】
][1]〜[]いずれか一に記載のトナー用バインダー樹脂と、着色剤とを含む、トナー。
【0015】
]下記一般式(1)で表される脂肪酸金属塩(M):
【0016】
【化2】
【0017】
〔式中、nは11〜22の整数であり、mは2であり、MはZn及びCaから選択される金属原子である。〕
の存在下に、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において単分散標準ポリスチレン換算の分子量2.5×10以上1.2×10以下の領域にピークを有する高分子量ビニル樹脂(H)と、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において単分散標準ポリスチレン換算の分子量2×10以上2×10以下の領域にピークを有する低分子量ビニル樹脂(L)とを含むカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)と、
グリシジル基含有ビニル樹脂(E)とを溶融混練することによって架橋反応させる工程を含み、
上記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)中の上記高分子量ビニル樹脂(H)と上記低分子量ビニル樹脂(L)との質量比(H/L)は、55/45〜85/15である、トナー用バインダー樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、定着性、耐オフセット性、耐久性及びトナー生産性のバランスに優れたトナー用バインダー樹脂及びトナーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、重合という語を共重合の意味で使うことがあり、重合体という語を共重合体の意味で使うことがある。また、「〜」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0020】
本発明において、「GPC」とはゲルパーミエーションクロマトグラフィーであり、測定条件としては、下記に示すものが挙げられる。
GPC装置:SHODEX(登録商標) GPC SYSTEM−21(昭和電工株式会社製)
検出器:SHODEX(登録商標) RI SE−31 (昭和電工株式会社製)
カラム:SHODEX(登録商標) GPC KF−Gを1本、GPC KF−807Lを3本、及びGPC KF−800Dを1本(昭和電工株式会社製)、をこの順番に直列に連結して用いる。
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.2ml/分
サンプル濃度:0.002g−resin/ml−THF
注入量:100μL
【0021】
また、「ピーク」とはメインピークのことを指す。
【0022】
[トナー用バインダー樹脂]
本発明のトナー用バインダー樹脂は、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)及びこれらの反応物、並びに脂肪酸金属塩(M)を含有している。
【0023】
<脂肪酸金属塩(M)>
本発明のトナー用バインダー樹脂は、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)との反応物が、脂肪酸金属塩(M)の存在下で形成されたものであり、下記一般式(1)で表される脂肪酸金属塩(M)を含有している。本発明において脂肪酸金属塩(M)は、少なくともトナー用バインダー樹脂中に分散しており、滑り効果を目的としていないので、滑剤外添剤に含まれる脂肪酸金属塩のようにトナーの表層に偏析するのではない。
【0024】
【化3】
【0025】
〔式中nは11から22の整数であり、mは2であり、MはZn及びCaから選択される金属原子である。〕
【0026】
脂肪酸金属塩(M)が、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)との反応において触媒として機能することにより、反応物としてカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)との架橋体を得ることができる。脂肪酸金属塩(M)が触媒であることにより架橋反応で変化することなく残存するため、本発明のバインダー樹脂には、脂肪酸金属塩(M)が含まれることになる。
【0027】
本発明に係る脂肪酸金属塩(M)が、トナー用バインダー樹脂中に存在していることは次の方法で確認できる。すなわち、トナー用バインダー樹脂の場合、トリミング、面出し後、1000倍〜5000倍で走査型電子顕微鏡(SEM)/X線マイクロアナライザー(XMA)マッピング分析を行うことにより、確認できる。トナーの場合、まずトナーをエポキシ樹脂などで包埋した後、バインダー樹脂と同様の操作で確認できる。一方、外添剤に含まれる金属がトナー表層に偏析していることは、走査型電子顕微鏡(SEM)/X線マイクロアナライザー(XMA)マッピング分析を行うことにより、確認できる。
【0028】
本発明において脂肪酸金属塩(M)は、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸のZn塩、Ca塩などが挙げられ、特に好ましくはステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムである。
【0029】
本発明において脂肪酸金属塩(M)の含有量は、耐オフセット性と耐久性のバランスの観点から、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)との総量100質量部に対して、好ましくは0.001〜3質量部、より好ましくは0.05〜2質量部、更に好ましくは0.1〜1質量部である。脂肪酸金属塩(M)は、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)の反応における触媒として作用する。本発明の、高分子量ビニル樹脂(H)は分子量のピークが従来よりも低分子量側にあるため、架橋反応による架橋体の生成速度が遅く、粘度増加の速度が遅い。このため、反応触媒として作用する脂肪酸金属塩(M)の存在下でカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)とが反応することによって、トナー用バインダー樹脂を適切な粘度に調整することができる。
脂肪酸金属塩(M)の含有量が0.001質量部以上であると、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)の反応が良好となり、バインダー樹脂の粘度が高まる結果、耐オフセット性をいっそう向上させることができる。また、脂肪酸金属塩(M)の含有量が3質量部以下であると、保存性及び耐久性により優れたトナーを得ることができる。
【0030】
脂肪酸金属塩(M)の存在下でカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)とが反応できれば、トナー用バインダー樹脂製造工程のどの段階で、脂肪酸金属塩(M)を添加してもよい。脂肪酸金属塩(M)は、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)の製造時に添加したり、後述するカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)の反応時に添加したりすることが出来、更にはこれらの添加法を組み合わせることが出来る。また、バインダー樹脂製造の際に添加し、更にトナー製造の際に追加して添加することも出来る。
【0031】
<カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)>
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、GPCにより測定されるTHF可溶分の分子量分布において分子量2.5×10以上1.2×10以下の領域にピークを有する高分子量ビニル樹脂(H)と、GPCにより測定されるTHF可溶分の分子量分布において分子量2×10以上2×10以下の領域にピークを有する低分子量ビニル樹脂(L)とを含むことが好ましい。
【0032】
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)における、高分子量ビニル樹脂(H)と低分子量ビニル樹脂(L)との質量比(H/L)は、55/45〜85/15であることが好ましく、トナーの定着性、耐オフセット性、耐久性の総合バランスの観点から、より好ましくは、比率(H/L)は、60/40〜80/20、更に好ましくは60/40〜75/25である。高分子量ビニル樹脂(H)の比率を55質量%以上とすることで、耐久性や耐オフセット性により優れたトナーを得ることができ、85質量%以下にすることで、定着性や生産性により優れたトナーを得ることができる。
【0033】
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、分子量分布(Mw/Mn)が6以上15以下であることが好ましい。この範囲とすることで、定着性、耐オフセット性、及び、生産性のバランスによりいっそう優れたトナーを得ることができる。
【0034】
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)を構成する単量体としては、カルボキシル基含有単量体の他に、スチレン系単量体、アクリル系単量体(メタクリル系単量体も含む。以下同じ。)が挙げられる。
【0035】
ここで、本発明において使用されるスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等であり、特に好ましくは、スチレンである。
【0036】
本発明において使用されるアクリル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フルフリル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸ジメチルアミノメチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フルフリル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ジメチルアミノメチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N置換アクリルアミド、N置換メタクリルアミド等のアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、等が挙げられる。これらのうち、好ましくはアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルであり、より好ましくは、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ヒドロキシエチルである。
【0037】
本発明において上記単量体の他に、フマル酸ジメチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジオクチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル等の不飽和二塩基酸のジエステル類も単量体として使用することができる。
【0038】
本発明におけるカルボキシル基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、ケイヒ酸、フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸オクチル、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸ブチル、マレイン酸オクチル等の不飽和二塩基酸のモノエステル類等、が挙げられる。好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸オクチルであり、特に好ましくはアクリル酸、メタクリル酸である。
【0039】
本発明におけるカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、単量体として、必要に応じて2個以上の2重結合を有する多官能モノマーを使用してもよい。たとえば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族ジビニル化合物、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリオキシエチレン(2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジアクリレート、ポリオキシエチレン(4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジアクリレート、等のジアクリレート化合物及びそれらのメタクリレート化合物、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート等の多官能モノマー及びそれらのメタクリレート化合物等が挙げられる。
【0040】
これら多官能モノマーを使用する場合は、カルボキシル基を含有するビニル樹脂の他のモノマー100質量%に対して0.5質量%以下であることが好ましい。0.5質量%以下にすることで、後述するカルボキシル基とグリシジル基の反応により生成する架橋体が、トナー製造の際に切断されにくくなる。
【0041】
本発明において、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)の製造方法としては、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法及びそれらの組み合わせが採用できるが、分子量分布の調整や、後述する高分子量ビニル樹脂(H)と低分子量ビニル樹脂(L)の混合性、カルボキシル基やグリシジル基の分布調整の簡便さから溶液重合が好適に採用される。
【0042】
本発明のカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、高分子量ビニル樹脂(H)と低分子量ビニル樹脂(L)を、それぞれあらかじめ単独で重合し、それらを溶融状態もしくは溶液状態で混合して得ることができる。また、高分子量ビニル樹脂(H)もしくは低分子量ビニル樹脂(L)の一方を単独で重合した後、そのビニル樹脂の存在下に他方のビニル樹脂を重合して得ることもできる。
【0043】
溶液重合に用いられる溶剤としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、キュメン等の芳香族炭化水素が挙げられ、これら単独又はこれらの混合物が使用され、好ましくはキシレンが好適である。
【0044】
重合は、重合開始剤を用いて行っても良いし、重合開始剤を用いずに、いわゆる熱重合を行っても良い。重合開始剤としては通常、ラジカル重合開始剤として使用可能なものを使用することができる。例えば2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカーボニトリル)、2−(カーバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチル−プロパン)などのアゾ系開始剤、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール類、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−クミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α'−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルパーオキサイド類、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−メトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイドなどのスルホニルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト、クミルパーオキシネオデカノエイト、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエイト、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエイト、t−ブチルパーオキシイソブロピルカーボネート、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステル類等が例示できる。これらの開始剤は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0045】
重合開始剤の種類、量は反応温度、単量体濃度等により適宜選んで使用でき、通常、用いる単量体100質量部に対して0.01〜10質量部使用される。
【0046】
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、エチレン系炭化水素及び/又は共役ジエン系炭化水素由来の構成単位の連鎖からなるブロックと、スチレン由来の連鎖からなるブロックとからなるブロック共重合体、並びにこれらの水素添加物である水素添加ブロック共重合体から選択される少なくとも一種を更に含有してもよい。
【0047】
これらのブロック共重合体及び水素添加ブロック共重合体の含有量は、前記カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上1.5質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上1.0質量部以下である。上記範囲内とすることでトナー保存性や流動性などを損なうことなくバインダー樹脂内に離型剤を分散する事ができる。これにより、耐感光体汚染性の優れたトナーを得やすくなる。
【0048】
これらのブロック共重合体を得るために、一般に、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、1−ヘキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン等のエチレン系炭化水素、及びブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系炭化水素から選択される1種以上を使用してよい。これらを用いて公知のリビングアニオン重合やリビングカチオン重合により生成させたブロック共重合体の反応性基を利用し、さらにこれにスチレンをブロックさせる等の方法で製造される。しかしながら、製造方法に制限を受けるものではなく、従来公知のその他の製造方法により製造されたものを使用してもよい。さらに、上記のブロック共重合体の中には不飽和二重結合を有するものもある。これらは公知の方法により不飽和二重結合と水素とを反応させ、水素添加物として使用してもよい。
【0049】
上記ブロック共重合体としては、市販のものとして、クレイトンポリマー社のクレイトン(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン系ブロック共重合体(SEBS)、スチレン−ブタジエン−スチレン系ブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン系ブロック共重合体、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン系ブロック共重合体、スチレン−エチレン/プロピレン系ブロック共重合体)、株式会社クラレ製セプトン(スチレン−エチレン/プロピレン系ブロック共重合体、スチレン−イソプレン系ブロック共重合体の水添物)、旭化成株式会社製タフプレン(スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体)等が挙げられる。
【0050】
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、酸価が5〜30mgKOH/gである事が好ましい。より好ましくは、10〜25mgKOH/g、更に好ましくは15〜20mgKOH/gである。酸価を5mgKOH/g以上にすることで、後述するグリシジル基含有ビニル樹脂(E)との反応が良好に進行し、その結果、耐オフセット性にいっそう優れたトナーを得ることができる。一方、酸価を30mgKOH/g以下にすることで、カルボキシル基含有モノマーが樹脂内で偏在しにくくなり、樹脂内の組成が不均一になりにくい。その結果、耐久性にいっそう優れたトナーとなる。
なお、本発明において、酸価は、樹脂1gを中和するために必要な水酸化カリウムのmg数である。
【0051】
<高分子量ビニル樹脂(H)>
本発明において高分子量ビニル樹脂(H)は、THF可溶分がGPCにより測定される分子量分布において分子量2.5×10以上1.2×10以下の領域にピークを有することが好ましく、より好ましくは3×10以上1×10以下にピークを有する事が、優れた定着性、耐オフセット性、耐久性のバランスを実現する上で好ましい。ピーク分子量を2.5×10以上とすることで、樹脂の強度が向上し、耐久性により優れたトナーを得ることができる。また、後述するグリシジル基との反応による架橋体形成において、架橋形成が良好に進行するため、耐オフセット性に優れたトナーを得ることができる。また、ピーク分子量を1.2×10以下にすることで、高分子量ビニル樹脂が未反応の状態で残っても、定着時のトナーの粘度が上がりにくくなり、定着性により優れたトナーが得られる。また、樹脂の強度も適度になり、生産性にもより優れたトナーとすることができる。
【0052】
高分子量ビニル樹脂(H)は、酸価(AVH)が15〜35mgKOH/g、より好ましくは19〜27mgKOH/gであることがトナーの定着性、耐オフセット性の面で好ましい。酸価が15mgKOH/g以上であると、後述するグリシジル基含有ビニル樹脂と反応しやすく、耐オフセット性により優れたトナーとすることができる。酸価が35mgKOH/g以下であると、グリシジル基含有ビニル樹脂との過剰な架橋反応が抑制され、その結果、トナーの定着温度域での損失弾性率が適度になり、定着性により優れたトナーとすることができる。
【0053】
高分子量ビニル樹脂(H)は、必ずしも単独の重合体である必要は無く、2種以上の高分子量ビニル樹脂を使用してもよい。その場合、高分子量ビニル樹脂(H)全体として上記特性を満たしていることが好ましい。また、単独の重合体を生成する際に、カルボキシル基含有単量体を重合途中に添加、若しくは重合初期と後期に分けて添加することも可能である。
【0054】
<低分子量ビニル樹脂(L)>
本発明において低分子量ビニル樹脂(L)は、THF可溶分がGPCにより測定される分子量分布において分子量2×10以上2×10以下にピークを有することが好ましく、定着性、耐久性及びトナーの生産性の観点から、分子量4×10以上1.6×10以下にピークを有する事がより好ましい。ピーク分子量を2×10以上にすることで、耐久性により優れたトナーとすることができる。ピーク分子量が2×10以下にすることで、定着性や生産性により優れたトナーとすることができる。
【0055】
低分子量ビニル樹脂(L)は、酸価(AVL)が1〜10mgKOH/gであることが好ましく、2〜8mgKOH/gであることが優れた定着性能と耐オフセット性能を発揮する上でより好ましい。酸価(AVL)を1mgKOH/g以上にすることで、高分子量ビニル樹脂(H)との相溶性が良好になり、耐久性、及び、耐オフセット性にいっそう優れたトナーとなり、10mgKOH/g以下にすることで、低分子量ビニル樹脂(L)によるグリシジル基含有ビニル樹脂(E)と高分子量ビニル樹脂(H)との反応阻害を抑制でき、且つ、低分子量ビニル樹脂(L)自体の高分子量化を抑制できるため、耐オフセット性、及び、定着性のバランスに、より優れたトナーを得ることができる。
【0056】
低分子量ビニル樹脂(L)は、必ずしも単独の重合体である必要は無く、2種以上の低分子量ビニル樹脂を使用しても構わない。そのときには、低分子量ビニル樹脂(L)全体として、上述の特性を満たしていることが好ましい。また、単独の重合体を生成する際に、カルボキシル基含有単量体を重合途中に添加、若しくは重合初期と後期に分けて添加することも可能である。
【0057】
<グリシジル基含有ビニル樹脂(E)>
本発明におけるグリシジル基含有ビニル樹脂(E)は、スチレン系単量体、アクリル系単量体(メタクリル系単量体も含む)の少なくとも1種と、少なくとも1種のグリシジル基含有単量体とを用いて公知の重合方法を用いることによって得られる。
【0058】
本発明におけるスチレン系単量体、アクリル系単量体(メタクリル系単量体も含む)としては、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)の説明で例示した単量体が良い。
【0059】
本発明におけるグリシジル基含有単量体としては、アクリル酸グリシジル、アクリル酸βメチルグリシジル、メタアクリル酸グリシジル、メタアクリル酸βメチルグリシジルなどが良く、好ましくはメタアクリル酸グリシジル、メタアクリル酸βメチルグリシジルである。
【0060】
グリシジル基含有ビニル樹脂(E)は、THF可溶分がGPCにより測定される分子量分布において、好ましくは分子量3×10以上7×10以下、より好ましくは4×10以上6×10以下にピークを有する。また、エポキシ価は、0.003〜0.100Eq/100gが好ましく、0.005〜0.060Eq/100gとする事がより好ましい。グリシジル基含有ビニル樹脂(E)の、ピーク分子量及びエポキシ価が上記下限値以上であると、トナーにした際の耐久性が良好となり、長期連続印刷においてトナー破壊により画像の劣化が起きない、いわゆる現像維持特性が向上する。また、それと同時に、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)との反応により、高分子量成分の分子量がより増大し、バインダー樹脂に適度な弾性を付与するため、耐オフセット性能がいっそう良好となる。ピーク分子量を3×10以上としエポキシ価を0.003以上にすることで、バインダー樹脂に適度な弾性を付与し、耐オフセット性により優れたトナーを得ることができる。また、ピーク分子量を7×10以下としエポキシ価を0.100Eq/100g以下にすることで、バインダー樹脂の過剰な弾性を抑制でき、定着性により優れたトナーを得ることができる。
なお、本発明においてエポキシ価は、樹脂100g中に存在するエポキシ基のモル数であり、その測定はJIS K−7236に準じて行うことができる。
【0061】
グリシジル基含有ビニル樹脂(E)は、必ずしも単独の重合体である必要は無く、2種以上のグリシジル基含有ビニル樹脂を使用しても良い。その場合、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)全体として上記特性を満たしていることが好ましい。また、単独の重合体を生成する際に、グリシジル基含有単量体を重合途中に添加、若しくは重合初期と後期に分けて添加することも可能である。
【0062】
<バインダー樹脂>
本発明のトナー用バインダー樹脂は、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)由来のカルボキシル基と、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)由来のグリシジル基との反応により生成する架橋成分を含有しており、これに由来するTHF不溶成分を含んでいる。THF不溶成分はバインダー樹脂中、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは15〜30質量%、更に好ましくは20〜25質量%であることが良好な定着性、耐オフセット性、耐久性、トナー生産性のバランスの観点からより好ましい。THF不溶成分を10質量%以上にすることで、耐オフセット性により優れたトナーとすることができ、更には、離型剤、帯電制御剤、着色剤、磁性粉等のトナー部材と本発明のバインダー樹脂を混練・粉砕してトナーにする際に、十分な混練シェアがかかり、トナー部材の分散が良好になり、帯電が均一化し、環境安定性能の低下を抑制して、優れた現像性能を得ることができる。THF不溶成分を40質量%以下にすることで、定着性能により優れたトナーとなり、低分子成分と架橋体との過剰な分離を防ぎ、耐オフセット性がいっそう向上する。また、トナーが固くならないため、トナーの生産性も高めることができる。
【0063】
また、本発明のトナー用バインダー樹脂は、測定周波数6.28ラジアン/秒において、150℃〜200℃の温度範囲における貯蔵弾性率(G')の最小値(G'min)が0.2×10〜2.0×10Paであることが好ましく、更には0.4×10〜1.5×10Paであることが、定着性、耐オフセット性及び耐久性のバランスの観点からより好ましい。G'minを0.2×10Pa以上にすることで、耐オフセット性、及び、耐久性により優れたトナーにすることができる。G'minを2.0×10Pa以下にすることで、定着性により優れたトナーにすることができる。
【0064】
本発明のバインダー樹脂のDSCによって測定されるガラス転移温度(Tg)は、45℃以上65℃以下が好ましく、低温定着性と保存性の観点から、50℃以上60℃以下であることがより好ましい。Tgを45℃以上にすることで、保存性に優れたトナーとなり、Tgを65℃以下にすることで、低温定着性に優れたトナーとなる。
【0065】
本発明に用いる好ましいバインダー樹脂は、少なくともカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)とを含有しており、耐オフセット性の観点からカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)の比率(C/E)は質量比で87/15〜99/1、好ましくは90/10〜97/5である。グリシジル基含有ビニル樹脂(E)の比率を15質量%以下にすることで、耐オフセット性により優れたトナーにすることができる。また、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)の比率が1質量%以上にすることで、カルボキシル基含有ビニル樹脂とグリシジル基含有ビニル樹脂の反応により適量の架橋成分が生成するため、耐オフセット性により優れたトナーにすることができる。
【0066】
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)とを反応させる方法としては、少なくとも脂肪酸金属塩(M)の存在下で、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)とを溶融状態で混合し反応させる方法が耐オフセット性、耐久性の観点から好ましい。このような方法は、従来公知のいかなる方法、例えば攪拌機付きの反応容器等に両樹脂を仕込み加熱して溶融状態で反応させる方法や溶剤存在下で反応させ脱溶剤する方法も採用できるが、特に2軸混練機を用いる方法が好ましい。具体的には、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)及び脂肪酸金属塩(M)をヘンシェルミキサー等で混合後、2軸混練機を用いて溶融混練、反応させる方法、もしくは、溶融状態のカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)及び脂肪酸金属塩(M)を2軸混練機にフィードして溶融混練、反応させる方法が挙げられる。
【0067】
溶融混練、反応時の温度は、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)やグリシジル基含有ビニル樹脂(E)の官能基量や分子量によって異なるが、100℃〜220℃が好ましく、より好ましくは120℃〜200℃、更に好ましくは130℃〜200℃の範囲である。反応温度を100℃以上にすることで、架橋体形成が良好となり、かつ、混練のシェアが適度になり、形成された架橋体の切断を防いで、耐オフセット性に優れたトナーを得ることができる。反応温度を220℃以下にすることで、架橋反応が過剰に進行するのを防ぎ、架橋成分と非架橋成分との相分離を抑制して、耐オフセット性に優れたトナーを得ることができる。また、解重合を抑制し、バインダー樹脂中の残存揮発分によるトナーの現像維持特性や臭気等の問題が発生する懸念を低減することができる。
【0068】
2軸混練機を用いて溶融混練、反応させる方法においては、2軸混練機に水を注入口から注入し、注入口より出口側に設置した減圧口から減圧することで水及び揮発成分を除去する方法もある。この方法によって、十分に水が樹脂に混合され、減圧した際に樹脂中に残存していたモノマーや溶剤などの揮発成分が除去されやすくなる。
【0069】
このようにして得られた樹脂を冷却・粉砕してトナー用バインダー樹脂とすることができる。冷却・粉砕する方法は従来公知のいかなる方法も採用できる。また、冷却方法として、スチールベルトクーラー等を使用して急冷することも可能である。
【0070】
[トナー]
本発明の他の態様は、上記のトナー用バインダー樹脂と、着色剤とを含む、トナーである。
【0071】
<着色剤>
着色剤としては、従来公知の顔料及び染料を使用することができる。
【0072】
顔料としては例えば、ミネラルファストイエロー、ネーブルイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキ、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、ベンジジンオレンジG、パーマネントレッド4R、ウオッチングレッドカルシウム塩、エオシンレーキ、ブリリアントカーミン3B、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、ファーストスカイブルー、インダンスレンブルーBC、クロムグリーン、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンG等が挙げられる。マゼンタ用着色顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、41、48、49、50、51、52、53、54、55、57、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、163、202、206、207、209、238、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.バットレッド1、2、10、13、15、23、29、35等が挙げられる。シアン用着色顔料としては、C.I.ピグメントブルー2、3、15、15:1、15:2、15:3、16、17、C.I.アシッドブルー6、C.I.アシッドブルー45又はフタロシアニン骨格にフタルイミドメチル基を1〜5個置換した銅フタロシアニン顔料等が挙げられる。イエロー用着色顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、23、65、73、74、83、93、97、155、180、185、C.I.バットイエロー1、3、20等が挙げられる。黒色顔料としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどのカーボンブラック等が挙げられる。染料としては、C.I.ダイレクトレッド1、C.I.ダイレクトレッド4、C.I.アシッドレッド1、C.I.ベーシックレッド1、C.I.モーダントレッド30、C.I.ダイレクトブルー1、C.I.ダイレクトブルー2、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー15、C.I.ベーシックブルー3、C.I.ベーシックブルー5、C.I.モーダントブルー7、C.I.ダイレクトグリーン6、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックグリーン6、ソルベントイエロー162等が挙げられる。
これらの着色剤は単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0073】
着色剤のトナーへの含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.05〜20質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量部、さらに好ましくは0.2〜10質量部である。
【0074】
また、これらの着色剤の代わりとして磁性体を使用することも出来る。磁性材料としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、ケイ素などの元素を含む金属酸化物などが挙げられ、具体的には四三酸化鉄、三二酸化鉄、酸化鉄亜鉛、酸化鉄イットリウム、酸化鉄カドミウム、酸化鉄ガドリニウム、酸化鉄銅、酸化鉄鉛、酸化鉄ニッケル、酸化鉄ネオジム、酸化鉄バリウム、酸化鉄マグネシウム、酸化鉄マンガン、酸化鉄ランタン、鉄粉、コバルト粉、ニッケル粉などが挙げられる。これらの磁性材料は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用しても良い。また、その形状としては、球形、八面体、六面体のものを使用することが好ましく、更には球形のものを使用することが磁性粉をトナー中に均一に分散させる点で好ましい。
【0075】
磁性粉の窒素吸着法によるBET比表面積は、1〜30m/gのものを使用することが好ましく、2〜20m/gのものを使用することがより好ましく、更にモース硬度が4〜8の磁性粉を使用することが好ましい。磁性体の平均粒子径は0.01〜0.8μmが好ましく、0.05〜0.5μmのものを使用することがより好ましい。また、磁性材料の磁気特性は、795.8kA/m印加にて抗磁力が1〜20kA/m、飽和磁化が50〜200Am/kg、残留磁化が1〜20Am/kgのものが好ましい。
【0076】
磁性体の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して4〜200質量部が好ましく、より好ましくは10〜170質量部、更に好ましくは20〜150質量部である。
【0077】
また、本発明のトナーは、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲において、例えばポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスチレン、ロジン、重合ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、芳香族石油樹脂、塩ビ樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−(メタ)アクリル共重合体、クロマン−インデン樹脂、メラミン樹脂等を一部添加して使用してもよい。更に、50℃〜150℃に融点を有する結晶性ポリエステル等の結晶性樹脂を添加することも出来る。
【0078】
また、顔料分散の向上を目的として、着色剤をバインダー樹脂もしくはそれら原料樹脂に予め分散して、いわゆるマスターバッチを製造しておき、それをトナーに添加する方法を行っても良い。具体的には着色剤20〜60質量%、樹脂成分80〜40質量%を粉体状態で混合し、得られた混合物を二軸混練機、オープンロール混練機や、加圧ニーダーなどのバッチ式混練機などで混練し、それを粉砕したものをトナー製造時に使用してもよい。
【0079】
<離型剤>
本発明のトナーは、良好な定着性能や耐オフセット性能を発現させる為に離型剤を含有することが好ましい。
【0080】
離型剤としては従来公知のものを使用することが出来るが、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合体、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスのような脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス、ホホバろうのような植物系ワックス;蜜蝋、ラノリン、鯨ろうのような動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、ペトロラタムのような鉱物系ワックス;モンタン酸エステル、カスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス;脱酸カルナバワックスのような脂肪酸エステルの一部又は全部を脱酸化したワックス;パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、又は更に長鎖のアルキル基を有する長鎖アルキルカルボン酸類のような飽和直鎖脂肪酸;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸のような不飽和脂肪酸;ステアリルアルコール、エイコシルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、又は更に長鎖のアルキル基を有する長鎖アルキルアルコールのような飽和アルコール;ソルビトールのような多価アルコール;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドのような脂肪酸アミド;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドのような飽和脂肪酸ビスアミド;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N'−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N'−ジオレイルセバシン酸アミドのような不飽和脂肪酸アミド;m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N'−ジステアリルイソフタル酸アミドのような芳香族系ビスアミド;脂肪族炭化水素系ワックスにスチレン系単量体やアクリル系単量体、カルボキシル基含有単量体、グリシジル基含有単量体のようなビニル系単量体を用いてグラフト化させたワックス;ベヘニン酸モノグリセリドのような脂肪族と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂を水素添加することにより得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物;メタロセン触媒によって合成されたポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリヘプテン、ポリオクテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、ブテン−プロピレン共重合体や、長鎖アルキルカルボン酸と多価アルコールを縮合したり長鎖アルキルカルボン酸のハロゲン化物と多価アルコールの反応にて得られるエステル基含有ワックスなどが挙げられる。さらには、水酸基やエステル基やカルボキシル基などの官能基を有するワックスがあげられる。これらのワックスは、エチレン重合法や石油系炭化水素の熱分解によるオレフィン化法で得られる二重結合を1個以上有する高級脂肪族炭化水素や、石油留分から得られるn−パラフィン混合物や、エチレン重合法により得られるポリエチレンワックスや、フィッシャートロプシュ合成法により得られる高級脂肪族炭化水素をホウ酸及び無水ホウ酸の存在下にて分子状酸素含有ガスで液相酸化することにより得られる。
これらの離型剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0081】
これらの離型剤は、トナー中での分散状態を良化させるために、高分子量ビニル樹脂(H)、低分子量ビニル樹脂(L)、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)の製造工程、又は、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)との反応工程、若しくは各工程に分けて、添加することができる。また、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)の製造において、エチレン系炭化水素及び/又は共役ジエン系炭化水素由来の構成単位の連鎖からなるブロックとスチレン由来の連鎖からなるブロックとからなるブロック共重合体、及び/又はそれらの水素添加物である水素添加ブロック共重合体の共存下で、離型剤をカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)と溶剤の混合物に添加して混合し、その後、脱溶剤を行う方法も好適である。しかし、これらの添加方法に何ら限定されるものではなく、上述の方法もしくはそれらの組み合わせで添加し、更に必要に応じてトナー製造時に添加することもできる。
【0082】
本発明において、離型剤の含有量は、カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)及びこれらの反応物の合計100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下が好ましく、更には2質量部以上8質量部以下であることが耐オフセット性、保存性のバランスの観点からより好ましい。離型剤の含有量を1質量部以上にすることで、耐オフセット性により優れたトナーとすることができ、10質量部以下にすることで保存性の悪化や、耐感光体汚染性の悪化を抑制することができる。また、離型剤が偏在しにくくなるため、離型剤がトナーから抜け落ちるのを抑制し、耐久性により優れたトナーとすることができる。
【0083】
<荷電制御剤>
本発明のトナーは、正帯電性又は負帯電性を保持させるために荷電制御剤を含有することが好ましい。荷電制御剤としては従来公知のものを使用でき、1種を使用しても2種以上を組み合わせて使用しても良い。荷電制御剤として金属含有アゾ染料を含むと、帯電量の立ち上がりを早くさせることができるため好ましい。金属含有アゾ染料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、クロム含有モノアゾ染料、コバルト含有モノアゾ染料、鉄含有モノアゾ染料、又はこれらを組み合わせて使用することができる。
【0084】
荷電制御剤のトナーへの含有量は、帯電量とトナーの流動性のバランスから、バインダー樹脂100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部、更に好ましくは0.2〜3質量部である。また、添加方法としては、トナー内部に添加する方法と外添する方法やそれらを組み合わせたものが適用できる。
【0085】
<表面処理剤>
本発明のトナーは、トナーの表面に対して表面処理剤を添加することによって、トナーとキャリア、あるいはトナー相互の間に該表面処理剤を存在させることが好ましい。表面処理剤を添加することにより、粉体流動性、保存性、帯電安定性、及び環境安定性が向上され、かつさらに現像剤の寿命をも向上させることができる。
【0086】
表面処理剤としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、シリカ微粉体、酸化チタン微粉体、及びそれらの疎水化物などが挙げられる。シリカ微粉体は、湿式シリカ、乾式シリカ、乾式シリカと金属酸化物の複合体などが使用でき、さらに、これらを有機ケイ素化合物等で疎水化処理されたものが使用できる。疎水化処理は、例えば、ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成されたシリカ微粉体をシラン化合物で処理し、有機ケイ素化合物で処理する方法などが挙げられる。疎水化処理に用いられるシラン化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、アリルフェニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ブロムメチルジメチルクロルシラン、α―クロルエチルトリクロルシラン、β―クロルエチルトリクロルシラン、クロルメチルジメチルクロルシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1、3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1、3−ジフェニルテトラメチルジシロキサンなどが挙げられる。疎水化処理に用いられる有機ケイ素化合物としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α−メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどのシリコーンオイル類が挙げられる。また、酸化チタン微粉末にオイル処理したものや、0.03μm〜1μmのビニル樹脂の微粒子なども使用してもよい。
【0087】
これら以外の表面処理剤として、ポリフッ化エチレン、ステアリン酸亜鉛、ポリフッ化ビニリデンのような滑剤、酸化セリウム、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウム、磁性粉、アルミナ等の研磨剤、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化錫等の導電性付与剤なども使用してもよい。さらには、表面処理剤の形状として、粒径が100nm以下の小粒径の粒子、粒径が100nm以上の大粒径の粒子、八面体状、六面体状、針状、繊維状など様々な形状のものを使用してもよい。表面処理剤は単独又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0088】
該表面処理剤の含有量は、トナー全体に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0089】
<キャリア>
本発明のトナーを二成分現像剤として使用する場合、キャリアとして従来公知のものを使用できる。例えば、表面酸化又は未酸化の鉄、コバルト、マンガン、クロム、銅、亜鉛、ニッケル、マグネシウム、リチウム、希土類のような金属及びそれらの合金又は酸化物からなる個数平均粒径15〜300μmの粒子が使用できる。これらのキャリアはスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂などにより表面コートされているものを使用してもよい。さらには、樹脂に磁性微粒子が分散されてなる磁性微粒子分散型コアと該磁性微粒子分散型コアの表面を被覆する被覆樹脂を含有する被覆層を有する磁性キャリアを使用してもよい。
【0090】
本発明により得られるトナーは、公知の種々の現像プロセスに用いることができる。例えば、限定されないが、カスケード現像法、磁気ブラシ法、パウダー・クラウド法、タッチダウン現像法、キャリアとして粉砕法によって製造された磁性トナーを用いる所謂マイクロトーニング法、磁性トナー同士の摩擦帯電によって必要なトナー電荷を得る所謂バイポーラー・マグネチックトナー法等が挙げられる。また、本発明により得られるトナーは、従来公知のファーブラシ法、ブレード法等の種々のクリーニング方法にも用いることができる。また、本発明により得られるトナーは、従来公知の種々の定着方法に用いることができる。具体的には、オイルレスヒートロール法、オイル塗布ヒートロール法、熱ベルト定着法、フラッシュ法、オーブン法、圧力定着法などが例示される。また、電磁誘導加熱方式を採用した定着装置に使用してもよい。さらには中間転写工程を有する画像形成方法に用いてもよい。
【0091】
以上のように本発明により得られるトナー用バインダー樹脂、及びそれを含むトナーによれば、定着性、耐オフセット性、耐久性バランスにより優れたトナー用バインダー樹脂が提供される。
【0092】
<トナーの製造方法>
本発明のトナーは、少なくとも着色剤と本発明のトナー用バインダー樹脂を用いて、従来公知の方法によって製造される。例えば、バインダー樹脂と着色剤、必要であればその他の離型剤、帯電調整剤などの添加剤をヘンシェルミキサーなどの粉体混合機により充分に混合した後、2軸混練機、オープンロール混練機などの混練機を用いて溶融、混練して各構成成分を充分に混合する。これを冷却後、粉砕、分級を行って、通常4〜15μmの範囲の粒子を集め、粉体混合法により表面処理剤をまぶしてトナーを得る方法が挙げられる。また、必要に応じて、表面処理装置等により、トナーを球形化処理してもよい。表面処理の方法としては、例えば、高温空気噴流中に流入させトナーを球形化する方法や機械的な衝撃によりトナーの角を取る方法が挙げられ、画質の向上などを目的として、これらの表面処理を行って、フロー式粒子像測定装置(例えばシスメックス社製、FPIA−3000)によって測定される平均円形度を0.960以上に調整してもよい。
【0093】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。また、データの測定法及び判定法は次の通りである。さらに、表中、Stはスチレン、Macはメタクリル酸、BAはアクリル酸n−ブチル、GMAはメタクリル酸グリシジルを表す。
【0095】
<酸価>
本実施例における酸価(AV)は、以下の通り算出した。キシレン:n―ブタノール=1:1質量比の混合溶媒に精秤した試料を溶解した。予め標定されたN/10水酸化カリウムのアルコール(特級水酸化カリウム7gにイオン交換水5g添加し、1級エチルアルコールで1L(リットル)とし、N/10塩酸と1%フェノールフタレイン溶液にて力価=Fを標定したもの)で滴定し、その中和量から次式に従って算出した。
酸価(mgKOH/g)=(N/10 KOH滴定量(ml)×F×5.61)/(試料g×0.01)
【0096】
<分子量>
本実施例におけるピーク分子量、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び、分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により求めたものであり、単分散標準ポリスチレンで検量線を作成した換算分子量である。測定条件は下記の通りである。
GPC装置:SHODEX(登録商標) GPC SYSTEM−21(昭和電工株式会社製)
検出器:SHODEX(登録商標) RI SE−31 (昭和電工株式会社製)
カラム:SHODEX(登録商標) GPC KF−Gを1本、GPC KF−807Lを3本、及びGPC KF−800Dを1本(昭和電工株式会社製)、をこの順番に直列に連結して用いた。
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.2ml/分
サンプル濃度:0.002g−resin/ml−THF
注入量:100μL
サンプル溶液は、測定直前にフィルターを用い、THFに不溶な成分を除去した。
本実施例では分子量として、上記の方法でメインピークの分子量、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び、分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0097】
<エポキシ価>
エポキシ価は以下の手順で計算した。樹脂試料0.2〜5gを精秤し、200mlの三角フラスコに入れた。その後、ジオキサン25mlを加えて溶解させた。1/5規定の塩酸溶液(ジオキサン溶媒)25mlを加え、密栓して十分に混合した。その後、30分間静置した。次に、トルエン−エタノール混合溶液(1:1容量比)50mlを加えた後、クレゾールレッドを指示薬として1/10規定水酸化ナトリウム水溶液で滴定した。滴定結果に基づいて、下記式にしたがってエポキシ価(Eq/100g)を計算した。
エポキシ価(Eq/100g)=[(B−S)×N×F]/(10×W)
ここで、Wは試料採取量(g)、Bは空試験に要した水酸化ナトリウム水溶液の量(ml)、Sは試料の試験に要した水酸化ナトリウム水溶液の量(ml)、Nは水酸化ナトリウム水溶液の規定度、及びFは水酸化ナトリウム水溶液の力価である。
【0098】
<粘弾性測定>
本発明における粘弾性測定は以下の測定によって求めた。
粘弾性装置:STRESS TECH レオメータ (レオロジカ社製)
測定モード:Oscillation strain control
測定温度範囲:50〜200℃
昇温速度:2℃/分
周波数:1Hz(6.28ラジアン/秒)
ギャップ:1mm
プレート:パラレルプレート
応力歪み:1%
サンプル形状:厚さ1mm、直径約20mmの円柱状
【0099】
<THF不溶分>
本発明におけるバインダー樹脂のTHF不溶分は以下の通り求めた。
樹脂0.4g、THF39.5gを50ml蓋付ガラス製サンプル管に投入し、このサンプル管を回転数50rpm、22℃の条件で48時間攪拌した後、22℃で48時間静置した。その後、サンプル管の上澄み液5gを150℃で1時間乾燥させた後の重量を測定し、その重量をXgとして以下の式にてTHF不溶分率(質量%)を計算した。
【数1】
【0100】
次に、以下に本発明で行ったトナーの評価方法を記載する。
1.定着性
市販の電子写真複写機を改造した複写機にて未定着画像を作成した後、この未定着画像を市販の複写機の定着部を改造した熱ローラー定着装置を用いて、熱ローラーの定着速度を190mm/秒とし、130℃で定着させた。得られた定着画像を砂消しゴム(株式会社トンボ鉛筆製)により、1.0kgfの荷重をかけ、6回摩擦させ、この摩擦試験前後の画像濃度をマクベス式反射濃度計により測定した。摩擦後の画像濃度÷摩擦前の画像濃度×100を定着率として算出し、下記評価基準で判定した。なお、ここに用いた熱ローラー定着装置はシリコーンオイル供給機構を有しないものであった。また、環境条件は、常温常圧(温度22℃、相対湿度55%)とした。
(評価基準)
○:50%≦定着率
△:40%<定着率<50%
×:定着率≦40%
【0101】
2.耐オフセット性
上記定着評価の測定に準じて行った。すなわち、上記複写機にて未定着画像を作成した。その後、上述の熱ローラー定着装置により定着処理を行い、非画像部分にトナー汚れが生ずるか否かを観察した。前記熱ローラー定着装置の熱ローラーの設定温度を100℃から5℃ずつ順次250℃まで上昇させた状態で繰り返し、トナーによる汚れの生じない設定温度の幅をもって耐オフセット温度幅とした。また、上記複写機の雰囲気は、温度22℃、相対湿度55%とした。
(評価基準)
○:110℃≦耐オフセット温度幅
△: 90℃≦耐オフセット温度幅<110℃
×: 耐オフセット温度幅<90℃
【0102】
3.耐久性
10mlガラス製サンプル管に直径4mmのステンレス製ボール24gを入れ、この中にトナー0.05g添加した。蓋をして350rpmで25分間回転攪拌し、攪拌前後のトナーの粒度分布をコールターカウンターにて測定した。粒径変化率は下記式;
粒径変化率={(攪拌前の個数中位径D50−攪拌後の個数中位径D50)/攪拌前の個数中位径D50}×100
から算出し、下記基準で判定した。
(評価基準)
○: 粒径変化率≦21%
△:21%<粒径変化率≦23%
×:23%<粒径変化率
【0103】
4.生産性
トナー製造時、2軸混練冷却したものを採取して粉砕し、10メッシュアンダー、16メッシュオンの粒度に揃えて、150gを30分かけて、一定条件でジェットミル(ラボジェット:日本ニューマチック工業製)にて粉砕し、トナー収量を測定した。コールターカウンターにて粒度分布を測定し、生産性を下記式;
生産性={(単位時間当たりのトナー収量g)/(体積中位径D50より求めたトナー一粒の重量g)}/1010
から算出し、下記基準にて判定した。
○:100≦生産性
△: 95≦生産性<100
×: 生産性<95
【0104】
[グリシジル基含有ビニル樹脂(E)の製造例]
(製造例E−1)
キシレン50質量部を窒素置換したフラスコに仕込み昇温し、キシレン還流下において、予め表1記載の単量体100質量部にジ−t−ブチルパーオキサイド0.5質量部を混合溶解しておいた混合液を5時間かけて連続添加し、さらに1時間還流を継続する。その後内温130℃に保ち、ジ−t−ブチルパーオキサイド0.5質量部を加えて2時間反応を継続し、重合液を得た。これを160℃、1.33kPaの容器中にフラッシュして溶剤等を留去し、樹脂E−1を得た。その物性値を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
[低分子量ビニル樹脂(L)の製造例]
(製造例L−1)
キシレン100質量部を窒素置換したフラスコに仕込み昇温し、キシレン還流下において、予め表2記載の単量体100質量部にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート10質量部を混合溶解しておいた混合液を5時間かけて連続添加し、さらに1時間還流を継続する。その後内温98℃に保ち、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて1時間反応を継続し、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて2時間反応を継続し、L−1の重合液を得た。物性値を表2に示す。
【0107】
(製造例L−2)
キシレン75質量部を窒素置換したフラスコに仕込み昇温し、キシレン還流下において、予め表2記載の単量体100質量部にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート5質量部を混合溶解しておいた混合液を5時間かけて連続添加し、さらに1時間還流を継続する。その後内温98℃に保ち、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて1時間反応を継続し、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて2時間反応を継続し、L−2の重合液を得た。物性値を表2に示す。
【0108】
(製造例L−3)
キシレン75質量部を窒素置換したフラスコに仕込み昇温し、キシレン還流下において、予め表2記載の単量体100質量部にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部を混合溶解しておいた混合液を5時間かけて連続添加し、さらに1時間還流を継続する。その後内温98℃に保ち、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて1時間反応を継続し、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて2時間反応を継続し、L−3の重合液を得た。物性値を表2に示す。
【0109】
(製造例L−4)
キシレン50質量部を窒素置換したフラスコに仕込み昇温し、キシレン還流下において、予め表2記載の単量体100質量部にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1.8質量部を混合溶解しておいた混合液を5時間かけて連続添加し、さらに1時間還流を継続する。その後内温98℃に保ち、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて1時間反応を継続し、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて2時間反応を継続し、L−4の重合液を得た。物性値を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
[高分子量ビニル樹脂(H)の製造例]
(製造例H−1)
キシレン40質量部を窒素置換したフラスコに仕込み昇温し、キシレン還流下において、予め表3記載の単量体100質量部にジ−t−ブチルパーオキサイド0.5質量部を混合溶解しておいた混合液を5時間かけて連続添加し、さらに1時間還流を継続する。その後内温130℃に保ち、更にジ−t−ブチルパーオキサイド0.5質量部を加えて1時間反応を継続し、更にジ−t−ブチルパーオキサイド0.5質量部を加えて2時間反応を継続し、H−1の重合液を得た。物性値を表3に示す。
【0112】
(製造例H−2)
キシレン50質量部を窒素置換したフラスコに仕込み昇温し、キシレン還流下において、予め表3記載の単量体100質量部にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1質量部を混合溶解しておいた混合液を5時間かけて連続添加し、さらに1時間還流を継続する。その後内温98℃に保ち、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて1時間反応を継続し、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて2時間反応を継続し、H−2の重合液を得た。物性値を表3に示す。
【0113】
(製造例H−3)
キシレン20質量部を窒素置換したフラスコに仕込み昇温し、キシレン還流下において、予め表3記載の単量体100質量部にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部を混合溶解しておいた混合液を4時間かけて連続添加し、さらに1時間還流を継続する。その後内温98℃に保ち、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3質量部を加えて1時間反応を継続し、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3質量部を加えて1時間反応を継続し、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて2時間反応を継続し、H−3の重合液を得た。物性値を表3に示す。
【0114】
(製造例H−4)
キシレン50質量部を窒素置換したフラスコに仕込み昇温し、キシレン還流下において、予め表3記載の単量体100質量部にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1.8質量部を混合溶解しておいた混合液を5時間かけて連続添加し、さらに1時間還流を継続する。その後内温98℃に保ち、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて1時間反応を継続し、更にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5質量部を加えて2時間反応を継続し、H−4の重合液を得た。物性値を表3に示す。
【0115】
(製造例H−5)
スチレン68.5質量部、アクリル酸ブチル23.5質量部、キシレン15質量部を窒素置換したフラスコに仕込み、内温110℃に昇温した。そこに、スチレン5質量部、メタクリル酸3質量部、キシレン85質量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3質量部を混合溶解しておいた混合液を7時間かけて連続添加し、さらに1時間反応を継続する。その後内温130℃に保ち、更にジ−t−ブチルパーオキサイド0.1質量部を加えて2時間反応を継続し、更にジ−t−ブチルパーオキサイド0.1質量部を加えて2時間反応を継続し、H−5の重合液を得た。物性値を表3に示す。
【0116】
(製造例H−6)
表3記載の単量体100質量部を窒素置換したフラスコに仕込み、内温120℃に昇温後同温度に保ち、バルク重合を8時間行った。ついで、キシレン50部を加え、テトラエチレングリコールジアクリレート0.2質量部を加えた後、110℃に昇温した。予め混合溶解しておいた1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.35質量部、キシレン60質量部を110℃に保ちながら9時間かけて連続添加した後、1時間反応を継続し、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.21質量部を加え2時間反応を継続し、更に1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.52質量部を加え2時間反応を継続して重合を完結し、H−6の重合液を得た。物性値を表3に示す。
【0117】
【表3】
【0118】
[カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)の製造例]
(製造例C−1〜C−17)
高分子量ビニル樹脂(H)と低分子量ビニル樹脂(L)の質量比が表4記載の比率となるように各重合液を混合した後、これを190℃、1.33kPaのベッセル(容器)中にフラッシュして溶剤等を留去して樹脂C−1〜C−17を得た。物性値を表4に示す。
【0119】
【表4】
【0120】
[バインダー樹脂(R)の製造例]
(製造例R−1〜R−21)
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)、及び脂肪酸金属塩(M)を表5に記載の比率となるように混合した。脂肪酸金属塩(M)の含有量はカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)の総量100質量部に対する質量部である。その後、200℃に温度設定した2軸混練機(KEXN S−40型、栗本鐵工所社製)にて、25kg/hr、モーター回転数1400rpmで混練反応し、この混練物をスチールベルトクーラー(NR3−Hiダブルクーラ、日本ベルティング株式会社製)を使用して冷却水温10℃、冷却水量90L/分、ベルトスピード6m/分の条件で急冷した後、粉砕し、バインダー樹脂R−1〜R−21を得た。物性値を表5に示す。
【0121】
【表5】
【0122】
[電子写真トナー(T)の製造例]
(製造例T−1〜T−21)
表6に記載のバインダー樹脂(R)100質量部に対し、着色剤としてカーボンブラック(MA100;三菱化学株式会社製)6質量部、荷電調整剤(T−77;保土谷化学工業社製)0.5質量部、ポリエチレンワックス(ポリワックス725;BAKER PETROLITE製)5質量部を添加し、ヘンシェルミキサーにて混合した。その後、2軸混練機(PCM−30型、池貝機械製)にて、2軸混錬機吐出部樹脂温度120℃、滞留時間30秒で混練させた。ついで冷却・粉砕・分級後、トナー粒子100質量部に対して疎水性シリカ微粉体(R−812、日本アエロジル株式会社製)0.5質量部、疎水性酸化チタン(NKT−90、日本アエロジル株式会社製)0.2質量部添加し、コールターカウンターにて測定した体積中位径D50が約7.5μmのトナーT−1〜T−21を得た。
【0123】
(製造例T−22)
離型剤としてポリエチレンワックス(ポリワックス725;BAKER PETROLITE社製)4.5質量部、ステアリン酸亜鉛0.5質量部を添加した以外は、製造例T−18と同様にしてトナーT−22を得た。
【0124】
[実施例1〜10及び比較例1〜12]
表6に記載のトナーを3質量%に対し、キャリア(パウダーテック株式会社製、F−150)97質量%を混合して現像剤とし、各種評価を行った。結果を表6に示す。
【0125】
【表6】
【0126】
表6の結果から明らかなように、本発明により製造されたトナー用バインダー樹脂及び該樹脂を用いたトナーはいずれも、種々の特性のバランスに優れたものであった。
【0127】
この出願は、2012年5月22日に出願された日本特許出願特願2012−116628を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
以下、参考形態の例を付記する。
<付記>
(付記1)
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)、グリシジル基含有ビニル樹脂(E)、及びこれらの反応物、並びに下記一般式(1)で表される脂肪酸金属塩(M):
【化4】

〔式中、nは11〜22の整数であり、mは2であり、MはZn及びCaから選択される金属原子である。〕
を含有し、
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において分子量2.5×10以上1.2×10以下の領域にピークを有する高分子量ビニル樹脂(H)と、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において分子量2×10以上2×10以下の領域にピークを有する低分子量ビニル樹脂(L)とを含み、
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)とグリシジル基含有ビニル樹脂(E)との反応物が、脂肪酸金属塩(M)の存在下で形成されたものである、トナー用バインダー樹脂。
(付記2)
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)中の高分子量ビニル樹脂(H)と低分子量ビニル樹脂(L)との質量比(H/L)は、55/45〜85/15である、付記1に記載のトナー用バインダー樹脂。
(付記3)
カルボキシル基含有ビニル樹脂(C)は、分子量分布(Mw/Mn)が6以上15以下である、付記1又は2に記載のトナー用バインダー樹脂。
(付記4)
測定周波数6.28ラジアン/秒において、150〜200℃における貯蔵弾性率(G')の最小値が、0.2×10Pa以上2.0×10Pa以下である、付記1乃至3いずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂。
(付記5)
テトラヒドロフラン不溶成分を樹脂全体に対して10質量%以上40質量%以下含有する、付記1乃至4いずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂。
(付記6)
付記1乃至5いずれか一つに記載のトナー用バインダー樹脂と、着色剤とを含む、トナー。
(付記7)
下記一般式(1)で表される脂肪酸金属塩(M):
【化5】

〔式中、nは11〜22の整数であり、mは2であり、MはZn及びCaから選択される金属原子である。〕
の存在下に、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において分子量2.5×10以上1.2×10以下の領域にピークを有する高分子量ビニル樹脂(H)と、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるテトラヒドロフラン可溶分の分子量分布において分子量2×10以上2×10以下の領域にピークを有する低分子量ビニル樹脂(L)とを含むカルボキシル基含有ビニル樹脂(C)と、
グリシジル基含有ビニル樹脂(E)とを溶融混練することによって架橋反応させる工程を含む、トナー用バインダー樹脂の製造方法。