【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の一実施例のアルミナ多孔質体10を示す模式図である。
【0026】
アルミナ多孔質体10は、
図1に示すように、所定形状に成形された複数の細孔を有する多孔体から成っており、骨材であるアルミナ粒子16の間が、
図2に示すSi系化合物18例えばムライト(Al
6Si
2O
13)、カオリナイト(Al
2Si
2O
5(OH)
4)等と、Gd
2O
3、La
2O
3、Y
2O
3から選ばれた少なくとも1種類の
図2に示す希土類酸化物20とから合成される化合物(R
XSi
YO
Z(R=希土類元素))22によって結合されている。なお、化合物22は、Y
XSi
YO
Z(Yttrimu Silicate ケイ酸イットリウム)、Gd
XSi
YO
Z(Gadolinium Silicate ケイ酸ガドリニウム)、および/またはLa
XSi
YO
Z(Lanthanum Silicate ケイ酸ランタン)である。また、アルミナ多孔質体10は、気孔率(%)が比較的高く且つ平均細孔径(μm)が比較的大きくなるように、粒径が比較的大きな例えば15μm〜50μmの粒径(平均粒径35μm)のアルミナ粒子16を使用している。また、上記アルミナ粒子16の平均粒径(μm)は、マルバーン社のMaster Sizerを使用してレーザー回折散乱法により測定されたものである。
【0027】
また、
図1に示すように、アルミナ多孔質体10は、例えば、矢印A1方向から供給された気体或いは液体等の被処理流体をそのアルミナ多孔質体10に透過させることにより、前記被処理流体すなわち濾過流体を濾過するセラミックフィルターとして構成されている。
【0028】
アルミナ多孔質体10は、比較的低温で焼成されても、骨材であるアルミナ粒子16の間がSi系化合物18と希土類酸化物20とから合成される化合物22によって結合されることにより、比較的大きな強度を有するものである。
【0029】
以下において、アルミナ多孔質体10の製造方法を
図2を用いて説明する。そして、
図2の製造方法によりアルミナ粒子16の間をSi系化合物18と希土類酸化物20とから合成される化合物22で結合したアルミナ多孔質体10と、アルミナ粒子16の間を化合物22で結合しないアルミナ多孔質体10とをそれぞれ製造して、それらアルミナ多孔質体10の強度すなわち平均圧環強度KA(MPa)を測定して比較させることにより、アルミナ多孔質体10においてアルミナ粒子16の間を化合物22で結合させることによってアルミナ多孔質体10の平均圧環強度KA(MPa)が好適に高くなることを以下の実験Iおよび実験IIに示す。
【0030】
図2に示すように、先ず、第1混合工程P1において、粒径が15μm〜50μmの範囲である平均粒径が35μmの粗粒アルミナ(Al
2O
3)すなわちアルミナ粒子16に、焼結助剤としてSi系化合物18例えば平均粒径が1.5μmのムライト(Al
6Si
2O
13)或いは平均粒径が0.6μmのカオリナイト(Al
2Si
2O
5(OH)
4)と希土類酸化物20例えば平均粒径が0.5μmのイットリア(Y
2O
3)とが所定量添加されて混合される。なお、第1混合工程P1によって混合された混合粉末は、粗粒アルミナが100mol%、ムライトが1.42mol%〜2.39mol%或いはカオリナイトが1.32mol%〜3.70mol%、イットリアが0.45mol%〜3.08mol%となるように調合されている。また、上記粗粒アルミナ、ムライト、カオリナイト、イットリアの平均粒径(μm)は、マルバーン社のMaster Sizerを使用してレーザー回折散乱法により測定されたものである。また、アルミナ粒子16には、製造されたアルミナ多孔質体10の気孔率(%)が比較的高く且つ平均細孔径(μm)が比較的大きくなるように、上記粒径範囲に示す比較的大きな粒径のものが使用されている。
【0031】
次に、混練工程P2において、第1混合工程P1によって混合された混合粉末に成形助剤としてメチルセルロース系バインダー24および水26が加えられて混練される。
【0032】
次に、成形工程P3において、混練工程P2によって混練された坏土を用いて良く知られた押出成形機により所定形状例えばパイプ状(円筒形状)に押出成形させた。
【0033】
次に、第1乾燥工程P4において、成形工程P3によってパイプ状に成形された成形体すなわちパイプ状グリーン成形体が、所定の乾燥機内においてたとえば80℃程度の温度で乾燥され、水分が低下させられる。
【0034】
次に、焼成工程P5において、第1乾燥工程P4によって乾燥されたパイプ状グリーン成形体が焼成温度1450℃、2時間の焼成条件で所定の焼成炉内で焼成される。これによって、アルミナ多孔質体10が焼成されて製造される。
【0035】
[実験I]
ここで実験Iを説明する。
図2の製造工程P1〜P5において、
図3に示すように、第1混合工程P1における粗粒アルミナに添加されるムライトの添加量を0.00(mol%)〜2.82(mol%)の範囲内すなわち0.00(mol%)、0.28(mol%)、0.85(mol%)、1.42(mol%)、1.99(mol%)、2.39(mol%)、2.53(mol%)、2.82(mol%)に変化させ、第1混合工程P1における粗粒アルミナに添加されるイットリアの添加量を0.00(mol%)〜2.82(mol%)の範囲内すなわち0.00(mol%)、0.29(mol%)、0.45(mol%)、0.85(mol%)、1.42(mol%)、1.99(mol%)、2.56(mol%)、2.82(mol%)に変化させることによって、8種類の試料であるアルミナ多孔質体10すなわち実施例品1〜3、比較例品1〜5のアルミナ多孔質体10を製造し、それらアルミナ多孔質体10の平均圧環強度KA(MPa)、平均細孔径(μm)、気孔率(%)を測定すると共に、それらアルミナ多孔質体10内のネックの主成分を調べた。なお、前記ネックとは、アルミナ多孔質体10内において骨材であるアルミナ粒子16の間のボンドである。
【0036】
以下、
図3乃至
図7にその測定結果を示す。なお、アルミナ多孔質体10の圧環強度K(MPa)の測定は、JIS Z 2507「焼結軸受−圧環強さ試験法」に準じて、円筒形状に成形されたアルミナ多孔質体10を図示しない圧縮装置の一対のプレート間に配置させてそのプレートからアルミナ多孔質体10に荷重F(N)を加えるものであり、下記の数式(1)により算出されるものである。なお、数式(1)において、Fはアルミナ多孔質体10が破壊したときの最大荷重(N)であり、Lはアルミナ多孔質体10における中空円筒の長さ(mm)であり、Dはアルミナ多孔質体10における中空円筒の外径(mm)であり、eはアルミナ多孔質体10における中空円筒の壁厚(mm)である。また、平均圧環強度KA(MPa)は、第1混合工程P1において粗粒アルミナに添加されたムライト、イットリアの添加量が同じに製造された複数のアルミナ多孔質体10の試料における圧環強度K(MPa)の平均値である。
【0037】
[数1]
圧環強度K(MPa)=(F×(D−e))/(L×e
2)・・・(1)
【0038】
また、アルミナ多孔質体10の平均細孔径(μm)および気孔率(%)は、マイクロメリテックス社のAuto PoreIIIを使用して水銀圧入法により測定したものである。また、アルミナ多孔質体10を粉末X線回折装置を用いて粉末回折X線パターンを測定することにより、アルミナ多孔質体10の結晶構造すなわち前記ネックの主成分を判定した。
【0039】
図3、
図7の測定結果から示すように、実施例品1乃至3のアルミナ多孔質体10は、比較例品1乃至5のアルミナ多孔質体10に比較して平均圧環強度KA(MPa)が高く、実施例品1乃至3のアルミナ多孔質体10内にはアルミナ粒子16の間を結合するネックの主成分にY
2Si
2O
7(ケイ酸イットリウム)が含まれていた。また、
図4は縦軸が平均圧環強度KA(MPa)を示し横軸がムライト/Y
2O
3(イットリア)のモル比を示す図であり、その
図4には上記した実施例品1乃至3、比較例品2乃至4のアルミナ多孔質体10の平均圧環強度KA(MPa)の値を結ぶ曲線L1が示されている。その
図4の曲線L1によれば、ムライト/イットリアのモル比が0.5〜7.5のときに平均圧環強度KA(MPa)が25MPa以上となる。なお、アルミナ多孔質体10が使用される条件によって必要とされる強度が変わるが、平均圧環強度KAが25MPaであれば一般的にアルミナ多孔質体10に十分な強度があると言える。
【0040】
また、
図3、
図5の測定結果から示すように、実施例品1乃至3、比較例品2乃至4のアルミナ多孔質体10において、それらアルミナ多孔質体10の平均細孔径(μm)の大きさは、7.0μm以上と比較的大きな値であり、実施例品1乃至3のアルミナ多孔質体10の平均細孔径(μm)と比較例品2乃至4のアルミナ多孔質体10の平均細孔径(μm)とに大きな差はない。また、
図3、
図6の測定結果から示すように、実施例品1乃至3、比較例品2乃至4のアルミナ多孔質体10において、それらアルミナ多孔質体10の気孔率(%)の大きさは、30%以上と比較的高い値であり、実施例品1乃至3のアルミナ多孔質体10の気孔率(%)と比較例品2乃至4のアルミナ多孔質体10の気孔率(%)とに大きな差はない。
【0041】
また、
図8乃至
図14は、アルミナ多孔質体10の破断面の一部を走査型電子顕微鏡により撮影したSEM(Scanning Electron MicroScope)像を示す図である。なお、
図8はムライト/イットリアのモル比が5.3である実施例品1のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図9はムライト/イットリアのモル比が2.3である実施例品2のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図10はムライト/イットリアのモル比が1.0である実施例品3のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図11はムライト/イットリアのモル比が0.4である比較例品3のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図12はムライト/イットリアのモル比が0.1である比較例品4のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図13は比較例品1のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図14は比較例品5のアルミナ多孔質体10のSEM像である。これによれば、実施例品1乃至3のアルミナ多孔質体10においてアルミナ粒子16の間を結合するネックが成長している。
【0042】
以上のことから、
図3の実施例品1乃至3、比較例品1乃至5のアルミナ多孔質体10において、アルミナ粒子16に所定量添加されたムライトとイットリアとから合成される化合物22のY
2Si
2O
7がアルミナ粒子16の間を結合したことにより良好な結合強度が得られたので、実施例品1乃至3のアルミナ多孔質体10が、アルミナ多孔質体10内においてアルミナ粒子16の間をムライトとイットリアとから合成されるY
2Si
2O
7で結合されない比較例品1乃至5のアルミナ多孔質体10よりも平均圧環強度KA(MPa)が高くなったと考えられる。また、
図3の実施例品1乃至3、比較例品2乃至4のアルミナ多孔質体10において、アルミナ粒子16に添加されるムライトおよびイットリアのモル比を0.5〜7.5の範囲内にすることによって、好適にアルミナ多孔質体10の平均圧環強度KA(MPa)を比較的高い値にできると考えられる。
【0043】
[実験II]
ここで実験IIを説明する。
図2の製造工程P1〜P5において、
図15に示すように、第1混合工程P1におけるアルミナに添加されるカオリナイトの添加量を0.44(mol%)〜4.40(mol%)の範囲内すなわち0.44(mol%)、1.32(mol%)、2.20(mol%)、3.08(mol%)、3.46(mol%)、3.70(mol%)、3.83(mol%)、3.95(mol%)、4.40(mol%)に変化させ、第1混合工程P1におけるアルミナに添加されるイットリアの添加量を0.00(mol%)〜3.96(mol%)の範囲内すなわち0.00(mol%)、0.45(mol%)、0.57(mol%)、0.70(mol%)、0.95(mol%)、1.32(mol%)、2.20(mol%)、3.08(mol%)、3.96(mol%)に変化させることによって、9種類の試料であるアルミナ多孔質体10すなわち実施例品4〜8、比較例品6〜9のアルミナ多孔質体10を製造し、それらアルミナ多孔質体10の平均圧環強度KA(MPa)、平均細孔径(μm)、気孔率(%)を測定すると共に、それらアルミナ多孔質体10内のネックの主成分を調べた。
【0044】
以下、
図15乃至
図19にその測定結果を示す。なお、アルミナ多孔質体10の圧環強度K(MPa)は、上述したように、JIS Z 2507「焼結軸受−圧環強さ試験法」に準じて測定した。また、アルミナ多孔質体10の平均細孔径(μm)および気孔率(%)は、上述したように、マイクロメリテックス社のAuto PoreIIIを使用して測定した。また、アルミナ多孔質体10のアルミナ粒子16の間を結合するネックの主成分は、上述したように、粉末X線回折によって判定した。
【0045】
図15、
図19の測定結果に示すように、実施例品4乃至8のアルミナ多孔質体10は、比較例品6乃至9のアルミナ多孔質体10に比較して平均圧環強度KA(MPa)が高く、その実施例品4乃至8のアルミナ多孔質体10内においてアルミナ粒子16の間を結合するネックの主成分にY
2Si
2O
7(ケイ酸イットリウム)が含まれている。また、
図16は縦軸が圧環強度K(MPa)を示し横軸がカオリナイト/Y
2O
3(イットリア)のモル比を示す図であり、その
図16には上記した実施例品4乃至8、比較例品7乃至9のアルミナ多孔質体10の平均圧環強度KA(MPa)の値を結ぶ曲線L2が示されている。その
図16の曲線L2によれば、カオリナイト/イットリアのモル比が0.2〜6.2のときに平均圧環強度KA(MPa)が25MPa以上となる。
【0046】
また、
図15、
図17の測定結果に示すように、実施例品4乃至8、比較例品7乃至9のアルミナ多孔質体10において、それらアルミナ多孔質体10の平均細孔径(μm)の大きさは、比較例品9のアルミナ多孔質体10の平均細孔径(μm)が7.0μm以下であるが、それ以外は7.0μm以上と比較的大きな値であり、実施例品4乃至8のアルミナ多孔質体10の平均細孔径(μm)と比較例品7、8のアルミナ多孔質体10の平均細孔径(μm)とに大きな差はない。また、
図15、
図18の測定結果から示すように、実施例品4乃至8、比較例品7乃至9のアルミナ多孔質体10において、それらアルミナ多孔質体10の気孔率(%)の大きさは、比較例品9のアルミナ多孔質体10の気孔率(%)が30%以下であるが、それ以外は30%以上と比較的高い値であり、実施例品4乃至8のアルミナ多孔質体10の気孔率(%)と比較例品7、8のアルミナ多孔質体10の気孔率(%)とに大きな差はない。
【0047】
また、
図20乃至
図28は、アルミナ多孔質体10の破断面の一部を走査型電子顕微鏡により撮影されたSEM像を示す図である。なお、
図20はカオリナイト/イットリアのモル比が8.7である比較例品7のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図21はカオリナイト/イットリアのモル比が6.7である比較例品8のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図22はカオリナイト/イットリアのモル比が5.3である実施例品4のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図23はカオリナイト/イットリアのモル比が3.7である実施例品5のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図24はカオリナイト/イットリアのモル比が2.3である実施例品6のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図25はカオリナイト/イットリアのモル比が1.0である実施例品7のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図26はカオリナイト/イットリアのモル比が0.4である実施例品8のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図27はカオリナイト/イットリアのモル比が0.1である比較例品9のアルミナ多孔質体10のSEM像であり、
図28は比較例品6のアルミナ多孔質体10のSEM像である。これによれば、実施例品4乃至8のアルミナ多孔質体10においてアルミナ粒子16間を結合するネックが成長している。
【0048】
以上のことから、
図15の実施例品4乃至8、比較例品6乃至9のアルミナ多孔質体10において、アルミナ粒子16に所定量添加されたカオリナイトとイットリアとから合成される化合物22のY
2Si
2O
7がアルミナ粒子16の間を結合したことにより良好な結合強度が得られたので、実施例品4乃至8のアルミナ多孔質体10が、アルミナ多孔質体10内においてアルミナ粒子16の間をカオリナイトとイットリアとから合成されるY
2Si
2O
7で結合しない比較例品6乃至9のアルミナ多孔質体10よりも平均圧環強度KA(MPa)が高くなったと考えられる。また、
図15の実施例品4乃至8、比較例品7乃至9のアルミナ多孔質体10において、アルミナ粒子16に添加される焼結助剤であるカオリナイトおよびイットリアのモル比を0.2〜6.2の範囲内にすることによって、好適にアルミナ多孔質体10の平均圧環強度KAを比較的高い値にできると考えられる。
【0049】
上述のように、実施例品1乃至8のアルミナ多孔質体10によれば、骨材のアルミナ粒子16間は、Si系化合物18であるムライト或いはカオリナイトと希土類酸化物20であるイットリア(Y
2O
3)とから合成される化合物22であるY
2Si
2O
7(ケイ酸イットリウム)にて結合されている。このため、例えば、焼成温度が1450℃と比較的低温で比較的大きな粒径例えば15μm〜50μmの範囲の粒径のアルミナ粒子16を焼結した場合でも、アルミナ粒子16間がY
2Si
2O
7によって結合され良好な結合強度が得られるので、比較的低温で焼成しても比較的大きな平均圧環強度KA(MPa)を有し、気孔率(%)が比較的高く且つ平均細孔径(μm)が比較的大きなアルミナ多孔質体10が得られる。
【0050】
また、実施例品1乃至3のアルミナ多孔質体10によれば、Si系化合物18としてムライトを、希土類酸化物20としてY
2O
3を用いて、それ等のモル比が0.5〜7.5の範囲内となるように混合するものである。このため、焼成温度が1450℃と比較的低温で比較的大きな粒径例えば15μm〜50μmの範囲の粒径のアルミナ粒子16を焼結した場合でも、アルミナ多孔質体10の平均圧環強度KAを25MPa以上に向上させることができる。
【0051】
また、実施例品4乃至8のアルミナ多孔質体10によれば、Si系化合物18としてカオリナイトを、希土類酸化物20としてY
2O
3を用いて、それ等のモル比が0.2〜6.2の範囲内となるように混合するものである。このため、焼成温度が1450℃と比較的低温で比較的大きな粒径例えば15μm〜50μmの範囲の粒径のアルミナ粒子16を焼結した場合でも、アルミナ多孔質体10の平均圧環強度KAを25MPa以上に向上させることができる。
【0052】
実施例品1乃至8のアルミナ多孔質体10の製造方法によれば、第1混合工程P1において骨材のアルミナ粒子16に、Si系化合物18であるムライト或いはカオリナイトと、希土類酸化物20であるイットリアとが混合され、成形工程P3において第1混合工程P1によって混合された材料から所定形状に成形され、焼成工程P5において成形工程P3によって成形されたパイプ状グリーン成形体が化合物22が合成され且つその溶融によってアルミナ粒子16間を結合する焼成温度例えば1450℃で焼成されることにより、1450℃の比較的低温で焼成しても比較的大きな平均圧環強度KA(MPa)を有し、気孔率(%)が比較的高く且つ平均細孔径(μm)が比較的大きなアルミナ多孔質体10が製造される。
【0053】
また、実施例品1乃至3のアルミナ多孔質体10の製造方法によれば、第1混合工程P1は、Si系化合物18としてムライトを、希土類酸化物20としてY
2O
3を用いて、それ等のモル比が0.5〜7.5の範囲内となるように混合するものである。このため、焼成温度が1450℃と比較的低温で比較的大きな粒径例えば15μm〜50μmの範囲の粒径のアルミナ粒子16を焼結した場合でも、アルミナ多孔質体10の平均圧環強度KAを25MPa以上に向上させることができる。
【0054】
また、実施例品4乃至8のアルミナ多孔質体10の製造方法によれば、第1混合工程P1は、Si系化合物18としてカオリナイトを、希土類酸化物20としてY
2O
3を用いて、それ等のモル比が0.2〜6.2の範囲内となるように混合するものである。このため、焼成温度が1450℃と比較的低温で比較的大きな粒径例えば15μm〜50μmの範囲の粒径のアルミナ粒子16を焼結した場合でも、アルミナ多孔質体10の平均圧環強度KAを25MPa以上に向上させることができる。
【0055】
続いて、本発明の他の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【実施例2】
【0056】
図29は、前述の実施例1のアルミナ多孔質体10上に無機多孔質膜12を形成する二層構造のセラミック多孔質体14を示す模式図である。
【0057】
セラミック多孔質体14は、アルミナ多孔質体10の表面10aにアルミナ多孔質体10の細孔よりも小さな複数の細孔を有する無機多孔質膜12が形成されている。なお、無機多孔質膜12は、例えばアルミナ、シリカ、ゼオライト等の無機粉末12aにより構成されており、その無機粉末12aの粒径はアルミナ粒子16より十分に小さいものである。また、無機多孔質膜12の厚みは、10〜300μm、例えば80μm程度である。
【0058】
また、
図29に示すように、セラミック多孔質体14は、例えば、矢印A2方向から供給された気体或いは液体等の被処理流体を無機多孔質膜12およびアルミナ多孔質体10を透過させることにより、前記被処理流体すなわち濾過流体を濾過するセラミックフィルターとして構成されている。
【0059】
セラミック多孔質体14は、アルミナ多孔質体10の細孔よりも小さな粒径の無機粉末12aを含むスラリーが使用された場合においても、アルミナ多孔質体10上に厚みが略均一な無機多孔質膜12が形成されるものである。
【0060】
以下において、アルミナ多孔質体10上に無機多孔質膜12を形成する二層構造のセラミック多孔質体14の製造方法を
図30を用いて説明する。そして、
図30の製造方法によりアルミナ多孔質体10上に無機多孔質膜12を形成する二層構造のセラミック多孔質体14と、一度焼成したアルミナ多孔質体10に無機粉末12aを含むスラリーを塗布して再度焼成させる従来の製造方法によって製造させた二層構造のセラミック多孔質体14とをそれぞれ製造して、それら二層構造のセラミック多孔質体14を比較させることによって、アルミナ多孔質体10の細孔よりも小さな粒径の無機粉末12aを含むスラリーが使用された場合であっても、
図30の製造方法で製造された二層構造のセラミック多孔質体14の無機多孔質膜12が略均一な厚みに形成されることを以下の実験IIIに示す。
【0061】
以下に、
図30を用いて二層構造のセラミック多孔質体14の製造方法を示す。なお、
図2における第1混合工程P1〜第1乾燥工程P4と
図30における第1混合工程P1〜第1乾燥工程P4とは同じであるので、以下において、
図30の第1混合工程P1〜第1乾燥工程P4を省略して第2混合工程P6から説明する。
【0062】
第2混合工程P6において、無機多孔質膜12を構成する無機粉末12a例えば平均粒径が1.5μmのアルミナ粒子12aに、有機バインダー28および水26が混合され、攪拌されてスラリーが調整される。なお、アルミナ粒子12aの平均粒径(μm)は、上述したように、マルバーン社のMaster Sizerを使用して測定する。また、アルミナ粒子12aは、
図2によって製造されたアルミナ多孔質体10の細孔より十分に小さいものである。
【0063】
次に、ディッピング工程(スラリーコーティング工程)P7において、成形工程P3によって成形されたパイプ状グリーン成形体が第2混合工程P6によって調整されたスラリー中にディッピングされ、そのパイプ状グリーン成形体の表面にスラリーが層状に付着される。
【0064】
次に、第2乾燥工程P8において、ディッピング工程P7によってスラリーが表面に付着されたパイプ状グリーン成形体が所定の乾燥機内でたとえば80℃程度の温度で乾燥され、水分が低下される。
【0065】
次に、焼成工程P9において、第2乾燥工程P8によって乾燥させたパイプ状グリーン成形体が1450℃の焼成温度、2時間の焼成条件で所定の焼成炉内で焼成される。これによって、アルミナ多孔質体10上に無機多孔質膜12が形成された二層構造のセラミック多孔質体14が焼結されて製造される。
【0066】
[実験III]
ここで実験IIIを説明する。
図30の製造工程P1〜P9において第1混合工程P1におけるアルミナに添加されるムライトの添加量を1.99mol%にし、第1混合工程P1におけるアルミナに添加されるイットリアの添加量を0.85mol%にして、実施例2の二層構造のセラミック多孔質体14を製造した。また、パイプ状グリーン成形体を1450℃で2時間焼成させた実施例品2のアルミナ多孔質体10を第2混合工程P6によって調整されたスラリーをディッピングして乾燥させた後、再度1450℃で2時間焼成して比較例の二層構造のセラミック多孔質体14を製造した。そして、これら二層構造のセラミック多孔質体14の無機多孔質膜12の状態を
図31および
図32を用いて比較した。なお、
図31は実施例2の二層構造のセラミック多孔質体14の破断面の一部を走査型電子顕微鏡により撮影したSEM像であり、
図32は比較例の二層構造のセラミック多孔質体14の無機多孔質膜12の表面の一部を走査型電子顕微鏡により撮影したSEM像である。
【0067】
図31に示すように、アルミナ多孔質体10の細孔よりも小さなアルミナ粒子12aを有するスラリーが使用された場合においても、成形工程P3によって成形されたグリーン成形体にスラリーをディッピングすることで製膜が可能であり、実施例2の二層構造のセラミック多孔質体14には略均一な厚みの無機多孔質膜12が形成されている。なお、上記アルミナ多孔質体10は平均細孔径が9.3μm、気孔率が41%であり、無機多孔質膜
12は平均細孔径が0.4μm、気孔率が40%であり、無機多孔質膜
12を構成するアルミナ粒子12aの平均粒径は、アルミナ多孔質10の平均細孔径9.3μmより十分に小さい1.5μmであった。また、実施例2の二層構造のセラミック多孔質体14は焼成温度が1450℃と比較的低温で焼成したことから、平均粒径が1.5μm程度の細粒のアルミナ粒子12aを有する無機多孔質膜
12の焼結による緻密化は進行していない。
【0068】
図32に示すように、アルミナ多孔質体10の細孔よりも小さなアルミナ粒子12aを有するスラリーが使用されたので、アルミナ多孔質体10にディッピングしたスラリーがそのアルミナ多孔質体10内に吸収されてしまい比較例の二層構造のセラミック多孔質体14には殆ど無機多孔質膜12が形成されておらず所々に穴がある。
【0069】
また、実験IIIにおいて、実施例2の二層構造のセラミック多孔質体14は、第1混合工程P1におけるアルミナに添加されるムライトの添加量を1.99mol%にし、第1混合工程P1におけるアルミナに添加されるイットリアの添加量を0.85mol%にしているので、実質的に実施例品2のアルミナ多孔質体10上に無機多孔質膜12が形成されているが、例えば、第1混合工程P1におけるアルミナに添加されるムライト或いはカオリナイトの添加量を変化させ、第1混合工程P1におけるアルミナに添加されるイットリアの添加量を変化させることによって、実施例品1、3乃至8のアルミナ多孔質体10上に無機多孔質膜12を形成する実施例2の二層構造のセラミック多孔質体14を製造することができる。そして、それら実施例2の二層構造のセラミック多孔質体14の無機多孔質膜12は、
図31のように略均一な厚みであり、且つ、焼成温度が1450℃と比較的低温で焼成していることから無機多孔質膜
12の焼結による緻密化は進行していないものである。
【0070】
上述のように、実施例品1乃至8のアルミナ多孔質体10は、そのアルミナ多孔質体10上に無機多孔質膜12を形成する二層構造のセラミック多孔質体14に使用される。このため、焼成温度が1450℃と比較的低温でアルミナ多孔質体10が焼結させられるので、例えば、アルミナ粒子16に成形助剤を加えて混練したものを押出成形により所定形状に成形したアルミナ多孔質体10のグリーン成形体上に、無機多孔質膜12を形成させるスラリーを塗布して、それらグリーン成形体とスラリーとを同時焼成しても、無機多孔質膜12の焼結による緻密化の進行が抑制される。
【0071】
アルミナ多孔質体10上に無機多孔質膜12を形成する実施例2の二層構造のセラミック多孔質体14の製造方法によれば、第1混合工程P1において骨材のアルミナ粒子16に、Si系化合物18であるムライト或いはカオリナイトと希土類酸化物20であるイットリアとが混合され、成形工程P3において第1混合工程P1によって混合された材料からパイプ状に成形され、第2混合工程P6において無機多孔質膜12を構成する無機粉末12aに有機バインダー28および水26が混合されてスラリーが調整され、ディッピング工程P7において成形工程P3によって成形されたパイプ状グリーン成形体の表面に第2混合工程P6によって調整されたスラリーが層状に付着され、焼成工程P9においてディッピング工程P7によってスラリーが層状に付着したパイプ状グリーン成形体が化合物22が合成され且つその溶融によってアルミナ粒子16間を結合する焼成温度1450℃で焼成されることにより、緻密化の進行が好適に抑制された無機多孔質膜12をアルミナ多孔質体10上に形成する二層構造のセラミック多孔質体14が製造される。
【0072】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0073】
前述の実施例1において、第1混合工程P1で粗粒アルミナ16に希土類酸化物20としてY
2O
3が添加されたが、Y
2O
3の代わりにGd
2O
3或いはLa
2O
3が添加されても良い。また、希土類酸化物20は、Gd
2O
3、La
2O
3、Y
2O
3から選ばれた少なくとも1種類のものであれば良い。
【0074】
すなわち、第1混合工程P1で粗粒アルミナにSi系化合物18としてムライト或いはカオリナイトと希土類酸化物20としてY
2O
3が所定量添加されてその後焼成されることによって、アルミナ粒子16の間にムライト或いはカオリナイトとY
2O
3とから合成されるY
2Si
2O
7が結合されてアルミナ多孔質体10の平均圧環強度が高くなった。しかし、例えば、Y
2O
3の代わりにGd
2O
3を所定量添加させてアルミナ粒子16の間にGd
XSi
YO
Z(Gadolinium Silicate ケイ酸ガドリニウム)を結合させることによってアルミナ多孔質体10の平均圧環強度が高くなる。また、Y
2O
3の代わりにLa
2O
3を所定量添加させてアルミナ粒子16の間にLa
XSi
YO
Z(Lanthanum Silicate ケイ酸ランタン)を結合させることによってアルミナ多孔質体10の平均圧環強度が高くなる。このようにしても、前述の実施例品1乃至8のアルミナ多孔質体10と同様の効果が得られる。
【0075】
また、前述の実施例1では、アルミナ多孔質体10は焼成温度1450℃で焼成されたが、例えは1450℃以下の焼成温度で焼成してもアルミナ粒子16の間にY
2Si
2O
7が結合されるのであれば平均圧環強度が比較的高いアルミナ多孔質体10を製造することができる。要するに、Si系化合物18と希土類酸化物20とから化合物R
XSi
YO
Zが合成され、その化合物R
XSi
YO
Zの溶融によって粗粒アルミナ粒子16間を結合する焼成温度であれば良い。
【0076】
また、前述の第1乾燥工程P4および第2乾燥工程P8では、乾燥機を用いて積極的な乾燥が行われていたが、自然乾燥であっても差し支えない。
【0077】
また、前述の成形工程P3では、混練工程P2によって成形助剤を添加して混練された混合物から押出成形によりパイプ状グリーン成形体が成形されたが、プレス成形、ロール成形、スタンピング成形などによって板状のグリーン成形体が成形されても良い。また、成形工程P3において、流し込み(鋳込み)成形が用いられる場合には、第1混合工程P1において、アルミナ粒子16、希土類酸化物20、Si系化合物18の混合物に、水および必要に応じて合成胡料などの成形助剤を加えてスラリーを作成し、そのスラリーを用いて成形工程P3において流し込み成形が行われても良い。
【0078】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。