【実施例】
【0036】
[材料]
<試薬>
マイトマイシンC(ナカライテスク)、シスプラチン(和光純薬工業)、3−(4,5−Dimethylthial−2−yl)−2,5−Diphenyltetrazalium Bromide(MTT)(ナカライテスク)、Sulforhodamine B(SRB)(シグマアルドリッチ)、Trichloroacetic acid(TCA)(ナカライテスク)、L−グルタミン酸(和光純薬工業)、L−アスパラギン酸(和光純薬工業)、塩化ナトリウム(ナカライテスク)、及び塩化カルシウム(ナカライテスク)を用いた。
また、以下でEDSCAとはグルタミン酸(3mM)、アスパラギン酸(3mM)、塩化ナトリウム(12mM)、かつ、塩化カルシウム(3mM)の混合物をいう。
【0037】
<細胞培養>
HepG2(肝癌)(理化学研究所;以下RIKENと略記)、HLE(肝癌)(ヒューマンサイエンス研究資源バンク;以下JCRBと略記)、A549(肺癌)(RIKEN)及びMIA PaCa−2(膵臓癌)(JCRB)は10%血清含有DMEM培地、Huh−7(肝癌)(東北大学加齢医学研究所;以下TKGと略す)、MCF−7(乳癌)(TKG)、DLD−1(大腸癌)(JCRB)、及びB16F1(皮膚癌)(RIKEN)は10%血清含有RPMI培地、HL−60(白血病)(TKG)は10%血清含有IMDM培地でそれぞれ培養した。
【0038】
[細胞増殖抑制試験]
ヒト肝癌由来細胞
HepG2(1.5×10
3cells/90μL/well)、Huh−7(4.5×10
3cells/90μL/well)、HLE(1.0×10
3cells/90μL/well)を96穴プレートに播種して24時間培養後、被験物質を終濃度10%になるように加え、48時間作用させた後、MTTアッセイ法により被験物質の癌細胞増殖抑制活性を測定した。MTT標識試薬を10μL/well添加し、CO2インキュベーターにて37℃、4時間培養後、テトラゾリウム塩の分解により生じたフォルマザン色素を可溶化し、マルチウェル分光光度計(ELISAリーダー)で570nmの吸光度を測定した。得られる吸光度は生細胞数に比例するため、吸光度から癌細胞の生細胞数を間接的に評価することができる。ポジティヴコントロールにはマイトマイシンC(MMC)を終濃度0.5μg/mLで用いた。
【0039】
ラット正常肝細胞
ラット正常肝細胞の単離はin situコラーゲナーゼ法により行い、単離した細胞を96穴コラーゲンコートプレート(5×10
4cells/100μL/well)に播種し、5%血清を含むWilliams‘ E培地で一晩培養後、上記と同様の方法で被験物質を作用させ、MTTアッセイ法にて被験物質の細胞増殖抑制活性を評価した。
【0040】
ヒト乳癌、ヒト肺癌、ヒト白血病、ヒト大腸癌、ヒト膵臓癌及びマウス皮膚癌細胞
MCF−7(1.8×10
3cells/90μL/well)、HL−60(5.0×10
3cells/90μL/well)、及びA549(1.0×10
3cells/90μL/well)を96穴プレートに播種し、被験物質を24時間培養後添加し、48時間作用(HL−60のみ96時間)させ、MTTアッセイ法にて評価した。
DLD−1(2.0×10
3cells/100μL/well)、MIA PaCa−2(2.0×10
3cells/100μL/well)、及びB16F1(1.5×10
3cells/100μL/well)を96穴プレートに播種し、上記と同様の方法で被験物質を作用させた後、SRBアッセイ法にて細胞タンパク質含有量に基づき、被験物質の癌細胞増殖抑制活性を測定した。50%TCA溶液を25μL/well添加し、4℃ 1時間インキュベート後、MilliQ水で洗浄・乾燥した。その後0.4%SRB(50μL/well)にて20分染色後、1%酢酸溶液にて洗浄後、10mM Tris溶液にて溶解し、ELISAリーダーで565nmの吸光度を測定した。得られる吸光度は生細胞数に比例するため、吸光度から癌細胞の生細胞数を間接的に評価することができる。
【0041】
<各種アミノ酸のHepG2の癌細胞増殖抑制活性>
図1は、アラニン(Ala)、グリシン(Gly)、グルタミン酸(Glu)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、及びアスパラギン酸(Asp)をそれぞれ単独でHepG2に加えた場合の癌細胞増殖抑制活性を、MTTアッセイ法により測定した結果を示したグラフである。上記アミノ酸の濃度を、0.01mM、0.1mM、1mM、2mMとふり、それぞれのアミノ酸の癌細胞増殖抑制活性を測定した。また、ポジティヴコントロールとして、マイトマイシンC(MMC)の濃度を0.5μg/mLとした被験物質をHepG2に加えた場合の癌細胞増殖抑制活性をMTTアッセイ法により測定した。
なお、
図1の縦軸は、コントロール(Ctr)においてMTTアッセイ法により定量された生細胞の数を基準(100%)として、各種アミノ酸及びマイトマイシンCをHepG2に加えた場合の癌細胞増殖抑制活性を示したものである。
【0042】
図1から分かるように、特許文献1で腫瘍成長及び/又は転移の予防及び/又は治療措置のために使用されていた、グリシン、アラニン及びセリンには、HepG2に対する癌細胞増殖抑制活性がほとんど認められなかった。これに対し、グルタミン酸、アスパラギン酸を用いた場合には、濃度依存的にHepG2に対して癌細胞増殖抑制活性を示した。
【0043】
<塩化ナトリウム及び塩化カルシウムの濃度と肝癌細胞選択的細胞増殖抑制活性>
図2の範囲Aでは、肝癌細胞(HepG2)及び正常肝細胞に、被験物質のグルタミン酸及びアスパラギン酸の濃度を3mMに固定し、含有させる塩化ナトリウムの濃度を1.5〜18mMまで段階的に変化させて加えた場合の、肝癌細胞及び正常肝細胞に対する細胞増殖抑制活性をMTTアッセイ法により測定した結果を示している。
図2の範囲Aのグラフから、含有させるナトリウム塩の濃度を1.5から18mMへと上昇させた場合に、肝癌細胞の細胞増殖が、選択的に、かつ、ナトリウム塩の濃度依存的に抑制されることが分かる。
【0044】
図2の範囲Bでは、肝細胞癌及び正常肝細胞に、被験物質のグルタミン酸、アスパラギン酸、及び、ナトリウム塩の濃度をそれぞれ3mM、3mM、及び、12mMに固定し、含有させる塩化カルシウムの濃度を0.3〜3000μMまで段階的に変化させて加えた場合の、肝癌細胞及び正常肝細胞に対する細胞増殖抑制活性をMTTアッセイにより測定した結果を示している。
また、
図2の範囲Cでは、肝癌細胞及び正常肝細胞に、被験物質のグルタミン酸、アスパラギン酸、及び、ナトリウム塩の濃度をそれぞれ3mM、3mM、及び、18mMに固定し、含有させる塩化カルシウムの濃度を0.3〜3000μMまで段階的に変化させて加えた場合の、肝癌細胞及び正常肝細胞に対する細胞増殖抑制活性をMTTアッセイ法により測定した結果を示している。
図2の範囲B及びCのグラフから、塩化カルシウムが肝癌細胞の細胞増殖抑制活性を選択的に増強させることが分かる。
【0045】
<EDSCAの癌細胞選択的細胞増殖抑制活性>
図3は、EDSCAの肝癌細胞と正常肝細胞に対する細胞増殖抑制活性と、既存の抗癌剤であるMMC、5−FU、CDDPのそれとを比較したグラフである。ここで、
図3の縦軸は、コントロール(Ctr)においてMTTアッセイ法で定量した生細胞の数を基準(100%)として、MMC、EDSCA、5−FU、CDDPの細胞増殖抑制活性を示したものである。
図3から、肝癌細胞に対して、EDSCAはMMC、5−FU、CDDPと比較して優れた癌細胞増殖抑制活性を示すことが分かる。また、CDDPは正常肝細胞に対して、肝癌細胞に対するのと同程度の細胞毒性を有することが分かる。他方、MMC及び5−FUの場合は、正常肝細胞に対する細胞毒性が、肝癌細胞に対する細胞毒性に比べて、若干抑制されていることが分かる。そして、EDSCAでは、正常肝細胞に対する細胞毒性が肝癌細胞に対する細胞毒性と比較してさらに顕著に抑制されていることが分かる。このため、EDSCAによる細胞増殖抑制活性は、MMC、5−FU及びCDDPと比較して、癌細胞選択的に発揮されることが分かる。
【0046】
<各種癌細胞に対するEDSCAの癌細胞増殖抑制活性>
図4は、EDSCAのヒト肝癌細胞(HepG2、Huh−7、及びHLE)、ヒト乳癌細胞(MCF−7)、ヒト前骨髄性白血病細胞(HL−60)、及びヒト肺癌細胞(A549)に対する癌細胞増殖抑制活性をMTTアッセイ法により測定した結果を示したグラフである。
また、
図5は、EDSCAのヒト大腸癌細胞(DLD−1)、ヒト膵癌細胞(MIA PaCa−2)、及びマウス皮膚癌細胞(B16F1)に対する癌細胞増殖抑制活性をSRBアッセイ法により測定した結果を示したグラフである。
図4より、EDSCAはHepG2と同様に分化型のヒト肝癌細胞株であるHuh−7のみならず、未分化型のHLEに対しても、強い癌細胞増殖抑制活性を有することが分かる。また、
図4及び
図5より、肝癌以外のいずれの癌細胞株においても、EDSCAは癌細胞増殖抑制活性を有することが分かる。その中でも、ヒト乳癌細胞、ヒト肺癌細胞、ヒト大腸癌細胞、マウス皮膚癌細胞、及びヒト膵癌細胞に対して強い癌細胞増殖抑制活性を有することが分かる。
【0047】
[Winn assay]
実験動物は5日間の順化を行ったBalb/c(5週齢、雌)を用いた。また、癌の接種には、マウス大腸癌細胞CT−26をP7まで継代したものを用いた。細胞数が、下記表1に記載の各種薬剤を添加した際に、2.5×10
5cells/0.1mLになるように調整した。調整した細胞に各種薬剤を添加し懸濁した後、これを剃毛したマウスの腹側面に皮下接種した。癌のサイズは1週間に2回の頻度で縦と横の長さをノギスで測定し、腫瘍の体積を1/2×(長辺×短辺
2)として数値化した。
なお、表1中、X×EDSCAとは、グルタミン酸(X×3mM)、アスパラギン酸(X×3mM)、塩化ナトリウム(X×12mM)、かつ、塩化カルシウム(X×3mM)の混合物を意味する。
【0048】
【表1】
【0049】
癌細胞を接種後5日目に、全ての群(比較例及び実施例1〜3)において目視で確認できる程度の癌が形成されたため、週に2回の頻度で癌のサイズを計測した。
図6の縦軸は腫瘍の体積として見積もられる癌体積(mm
3)の値を示し、横軸は癌接種後の経過日数を示す。癌形成が進むにつれPBS群(比較例)の癌体積は4群の中で最も大きな値を示し、EDSCA投与濃度の上昇に伴って癌体積が小さくなる傾向が確認された(
図6)。
【0050】
各群n=5で3回試験を行い、その結果を併せて各群n=15として統計処理を行った。その結果、担癌接種後20日目の時点でPBS投与群に比べ10×EDSCA投与群において癌の増殖が遅延する傾向が認められ、5%水準の有意差があった。このことから、EDSCAがin vivoにおいて癌細胞増殖抑制活性を有することが確認された。
【0051】
[VX2肝臓担癌家兎を用いた抗癌試験]
1.材料及び方法
<試薬>
生理食塩液(株式会社大塚製薬工場)、リピオドール480注10mL(テルモ株式会社)、Tween20(ナカライテスク株式会社)、注射用水(株式会社大塚製薬工場)を用いた。
【0052】
<動物の準備>
Slc:JW/CSKウサギ(日本エスエルシー株式会社、SPF)の雌を14週齢で入荷し、7日間馴化した。15週齢で一般状態に異常のないことを確認した動物を腫瘍(VX2癌細胞)の移植に供した。また、腫瘍移植時から2週間後に一般状態に異常がなく体重の減少が見られないことが確認された動物を群分けに供した。
【0053】
<試験群の構成>
腫瘍の大きさが1〜2cmの動物を下記の通り群分けした(表2)。
【0054】
【表2】
【0055】
<投与液の調製>
生理食塩液又は被験物質、リピオドール及びTween20溶液を下記の通り混合した。混合したものを、さらにミキサーによる1分間の撹拌及び超音波による5分間の処理を2回繰り返すことにより1〜3群の投与液を調製した。
陰性対照物質:生理食塩液185μLと、リピオドール1015μLと、Tween20の最終濃度が0.03v/v%となるように調製したTween20溶液24μLとを混合したものを陰性対照物質とした。
被験物質A:アスパラギン酸及びグルタミン酸の最終濃度がそれぞれ30mMとなるように調製した溶液185μLと、リピオドール1015μLと、Tween20の最終濃度が0.03v/v%となるように調製したTween20溶液24μLとを混合したものを被験物質Aとした。
被験物質B:アスパラギン酸及びグルタミン酸の最終濃度がそれぞれ15mMとなるように調製した溶液185μLと、リピオドール1015μLと、Tween20の最終濃度が0.03v/v%となるように調製したTween20溶液24μLとを混合したものを被験物質Bとした。
群分け後、肝動脈内に、各投与液の0.1mL/匹を単回投与した。
【0056】
<体重>
群毎の投与時から解剖時までの体重変化量と体重変化率を表3に示した。
全群で投与後の体重減少が見られたが、1群と2群及び3群との間に統計学的に有意な差は認められなかった。
【0057】
【表3】
【0058】
<腫瘍増殖率>
1〜3の各群の平均腫瘍体積、平均腫瘍増殖率を表4に示した。
1群の腫瘍増殖率は355.3%であった。これに対し、2群では全例、3群では3例中2例における腫瘍増殖率がマイナスであった。腫瘍増殖率は2群では−33.9%、3群では−26.3%であった(
図7)。
2群及び3群で腫瘍の増殖抑制が認められ、1群と2群及び3群との間に統計学的に有意な差が認められた(
**p<0.01)。
【0059】
【表4】
【0060】
腫瘍増殖率について陰性対照である1群と2群及び3群との間に統計的な有意差が認められたことから、被験物質A及びBは、生体内の腫瘍細胞の増殖を抑制する作用を有することが確認された。