特許第5747188号(P5747188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5747188
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】射出成形装置及び射出成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/56 20060101AFI20150618BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20150618BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20150618BHJP
【FI】
   B29C45/56
   B29C45/26
   B29L11:00
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-524971(P2014-524971)
(86)(22)【出願日】2014年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2014052103
【審査請求日】2014年7月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597073645
【氏名又は名称】ナルックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105393
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 直哉
(72)【発明者】
【氏名】上野 拓也
(72)【発明者】
【氏名】笹原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 智也
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−216190(JP,A)
【文献】 特開昭63−114614(JP,A)
【文献】 特開2011−062823(JP,A)
【文献】 特開昭61−047227(JP,A)
【文献】 特開2006−255923(JP,A)
【文献】 特開2006−142521(JP,A)
【文献】 特開2011−240602(JP,A)
【文献】 特開平08−276478(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/043197(WO,A1)
【文献】 特開2003−181896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の取付板と、弾性部材と、前記第1の取付板に少なくとも前記弾性部材を介して取り付けた第1の金型部材と、第2の取付板と、前記第2の取付板に直接または他の部材を介して取り付けた第2の金型部材とを備え、前記弾性部材は、前記第1の金型部材に面した面の凹部に取り付けられ、前記第1の取付板と前記第2の取付板との間の距離を変更できるように構成された、少なくとも一つの面にサブ波長構造を備えたレンズを成形するための射出圧縮成形装置であって、
射出前に、前記第1の金型部材は、前記第1の金型部材及び前記第2の金型部材によって形成されるキャビティの容積を減少させるように、前記弾性部材によって、前記第2の金型部材の方向に変位し、射出中に、前記第1の金型部材は、前記キャビティ内に注入された溶融樹脂の圧力によって前記弾性部材の対抗力に抗して前記第1の取付板の方向に移動して、前記キャビティの容積を増加させ、射出後の圧縮のため前記第1の取付板が、前記第2の取付板の方向に移動する際には、前記弾性部材が収縮した状態で、前記第1の金型部材は、前記面に当接して、前記第1の取付板と一体となって移動してレンズを成形するように構成され、前記第1の金型部材及び前記第2の金型部材の少なくとも一方が、サブ波長構造用の金型の面を含み、
前記弾性部材の弾性係数は、前記第1の金型部材が、前記キャビティ内に注入された溶融樹脂の圧力によって前記弾性部材の対抗力に抗して前記第1の取付板の方向に移動する際に、サブ波長構造に対応する微細構造部分の形状の溶融樹脂への転写が行われるように定められた射出圧縮成形装置。
【請求項2】
前記弾性部材がバネである請求項1に記載の射出圧縮成形装置。
【請求項3】
第1の取付板と、弾性部材と、前記第1の取付板に少なくとも前記弾性部材を介して取り付けた第1の金型部材と、第2の取付板と、前記第2の取付板に直接または他の部材を介して取り付けた第2の金型部材とを備え、前記弾性部材は、前記第1の金型部材に面した面の凹部に取り付けられ、前記第1の取付板と前記第2の取付板との間の距離を変更できるように構成された射出圧縮成形装置を使用して、少なくとも一つの面にサブ波長構造を備えたレンズを成形するための射出圧縮成形方法であって、
射出前に、前記第1の金型部材及び前記第2の金型部材によって形成されるキャビティの容積を減少させるように、前記弾性部材によって、前記第1の金型部材を前記第2の金型部材の方向に変位させるステップと、
射出中に前記第1の金型部材及び前記第2の金型部材によって形成されるキャビティ内に注入した溶融樹脂の圧力によって、前記弾性部材を収縮させることにより前記キャビティの容積を増加させながら、前記第1の金型部材の、サブ波長構造に対応する微細構造部分の形状の、溶融樹脂への転写を行うステップと、
射出後の圧縮のために、前記弾性部材が収縮した状態で、前記第1の金型部材を、前記面に当接ながら、前記第1の取付板を、前記第1の金型部材とともに前記第2の取付板の方向に移動させ前記キャビティの容積を減少させて前記キャビティ内の樹脂を圧縮して、レンズの成形を行うステップと、を含み、
前記弾性部材の弾性係数は、前記第1の金型部材が、前記キャビティ内に注入された溶融樹脂の圧力によって前記弾性部材の対抗力に抗して前記第1の取付板の方向に移動する際に、サブ波長構造に対応する微細構造部分の形状の溶融樹脂への転写が行われるように定められた射出圧縮成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出圧縮成形に使用される射出成形装置及び射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形装置においては、溶融した樹脂を金型装置のキャビティ内に充填し、冷却し、固化させることによって成形品を成形する。金型装置は、キャビティを形成する複数の金型部材から構成され、型締装置によって該複数の金型部材を互いに接触させ、または、距離をとることによって、型閉、型締及び型開を行うことができるように構成されている。ここで、型閉とは、金型部材間の距離を空けた状態から金型部材のパーティング面が接触するまでの状態をいう。また、型締とは、金型部材のパーティング面を接触させて金型部材に締付力を付与している状態をいう。
【0003】
成形品の品質を向上させるために、キャビティがわずかに拡大された状態で樹脂を充填し、その後、キャビティに充填された樹脂を圧縮する射出成形圧縮法が開発されている。射出成形圧縮法の一つであるローリンクス法においては、溶融樹脂をキャビティ内に射出する前に、キャビティの容積を成形品の容積よりも拡大しておき、溶融樹脂を射出してキャビティに溶融樹脂を充填した後に、キャビティの容積を減少させてキャビティ内の溶融樹脂を加圧し圧縮する。この場合、パーティング面の隙間に樹脂が漏れ出してバリが発生することを防止するために、油圧シリンダーやスプリングによって、パーティング面は、互いに押し付け合うように構成されている。上述のローリンクス法は、高い精度を要求されるレンズなどの光学素子の成形に使用される(特許文献1)。
【0004】
他方、反射防止の目的で、レンズの表面に、従来の多層膜の代わりに、可視光の波長以下の周期を有する微細格子を形成する方法が開発されている(特許文献2)。このような可視光の波長以下の周期を有する微細格子をサブ波長構造(SWS)と呼称する。
【0005】
ところで、ローリンクス法によって、表面にSWSを備えたレンズを成形する場合に、キャビティの容積を成形品の容積よりも拡大しておき、溶融樹脂を射出してキャビティに溶融樹脂を充填した後に、キャビティの容積を減少させてキャビティ内の溶融樹脂を加圧し圧縮する際に、金型表面のSWS対応部分の溶融樹脂への転写を高い精度で行うことができないという問題があった。このため、金型表面のSWS対応部分の樹脂への転写を行うために、たとえば、射出成形装置に追加の加熱装置などを設置する必要があり、成形装置及び成形プロセスが煩雑とならざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-279784号公報
【特許文献2】特開2001-272505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、表面にSWSを備えた光学素子を成形することのできる、射出圧縮成形に使用される簡単な射出成形装置及び簡単な射出成形方法に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様による射出成形装置は、第1の取付板と、弾性部材と、前記第1の取付板に少なくとも前記弾性部材を介して取り付けた第1の金型部材と、第2の取付板と、前記第2の取付板に直接または他の部材を介して取り付けた第2の金型部材とを備え、前記第1の取付板と前記第2の取付板との間の距離を変更できるように構成された射出成形装置であって、前記第1の金型部材は、前記第1の金型部材及び前記第2の金型部材によって形成されるキャビティ内に注入された樹脂の圧力によって前記弾性部材の対抗力に抗して前記第1の取付板の方向に移動し、前記第1の取付板が、前記第2の取付板の方向に移動する際には、前記第1の取付板と一体となって移動するように構成され、前記第1の金型部材及び前記第2の金型部材の少なくとも一方が、サブ波長構造用の金型の面を含む。
【0009】
本態様の射出成形装置によれば、キャビティに溶融樹脂が充填される間に前記弾性部材の対抗力以上の力に対応する圧力が溶融樹脂にかけられる。したがって、前記弾性部材の対抗力を適切に定めれば、キャビティに溶融樹脂が充填される間に、前記第1の金型部材及び前記第2の金型部材の少なくとも一方の、サブ波長構造用の金型の形状を溶融樹脂に転写することができる。このため、溶融樹脂のスキン層が成長する前に、微細構造の溶融樹脂への転写を高い精度で行うことができる。
【0010】
本発明の第1の態様の第1の実施形態によれば、前記弾性部材は、前記第1の取付板または前記他の部材の、前記第1の金型部材に面した面の凹部に取り付けられ、射出後に前記第1の取付板が前記第2の取付板の方向に移動する際には、前記第1の金型部材が前記面の前記凹部の周囲に接することにより前記第1の取付板と一体となって移動するように構成されている。
【0011】
本実施形態によれば、上記の簡単な構造によって、前記第1の金型部材が、キャビティ内に注入された樹脂の圧力によって前記弾性部材の対抗力に抗して前記第1の取付板の方向に移動し、前記第1の取付板が、前記第2の取付板の方向に移動する際には、前記第1の取付板と一体となって移動するようにすることができる。
【0012】
本発明の第1の態様の第2の実施形態によれば、前記弾性部材がバネである。
【0013】
本実施形態によれば、所定のバネ定数のバネを選択することにより容易に所望の対抗力を実現することができる。
【0014】
本発明の第2の態様による射出成形方法は、第1の取付板と、弾性部材と、前記第1の取付板に少なくとも前記弾性部材を介して取り付けた第1の金型部材と、第2の取付板と、前記第2の取付板に直接または他の部材を介して取り付けた第2の金型部材とを備え、前記第1の取付板と前記第2の取付板との間の距離を変更できるように構成された射出成形装置を使用する射出圧縮成形方法であって、射出中に前記第1の金型部材及び前記第2の金型部材によって形成されるキャビティ内に注入した溶融樹脂の圧力によって、前記弾性部材を収縮させることにより前記キャビティの容積を増加させながら、前記第1の金型部材の、サブ波長構造に対応する微細構造部分の形状の、溶融樹脂への転写を行うステップと、射出後に、前記第1の取付板を、前記第1の金型部材とともに前記第2の取付板の方向に移動させ前記キャビティの容積を減少させて前記キャビティ内の樹脂を圧縮するステップと、を含む。
【0015】
本態様の射出成形方法によれば、射出中に前記第1の金型部材及び前記第2の金型部材によって形成されるキャビティ内に注入した溶融樹脂の圧力によって、前記弾性部材を収縮させることにより前記キャビティの容積を増加させながら、前記第1の金型部材の、サブ波長構造に対応する微細構造部分の形状の、溶融樹脂への転写を行う。このため、溶融樹脂のスキン層が成長する前に、微細構造の溶融樹脂への転写を高い精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】射出圧縮成形に使用される本発明の一実施形態による射出成形装置の構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態による射出成形装置による射出圧縮成形方法を説明するための流れ図である。
図3】本発明の一実施形態による射出成形装置の、キャビティの容積が十分に増加した状態を示す図である。
図4】本発明の一実施形態による射出成形装置の、油圧シリンダーを収縮させて、キャビティの容積を小さくした状態を示す図である。
図5】表面にSWSを備えたレンズの構成の一例を示す図である。
図6】射出圧縮成形に使用される従来の射出成形装置の構成を示す図である。
図7】従来の射出成形装置による射出圧縮成形方法を説明するための流れ図である。
図8】従来の射出成形装置の、ステップS2050が終了した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図6は、射出圧縮成形に使用される従来の射出成形装置100Aの構成を示す図である。射出成形装置100Aは、第1の取付板101、第1の受板103A、油圧シリンダー107、第1の鏡面駒(第1の金型部材)109A、第1の型板111、第2の鏡面駒(第2の金型部材)113、第2の型板115、第2の受板117、エジェクタプレート119及び121、スペーサブロック123、及び第2の取付板125を含む。第1の鏡面駒109A及び第2の鏡面駒113の間には樹脂が注入されるキャビティ301が形成される。図6及び図8において、キャビティ301を斜線で示す。第1の取付板101、第1の受板103A、油圧シリンダー107、及び第1の鏡面駒109Aは、相互に連結されて固定されている。図6は、油圧シリンダー107が伸長した状態を示す。油圧シリンダー107が伸長することによって、第1の受板103Aと第1の型板111との間の距離が大きくなり、キャビティ301の容積が増大している。
【0018】
図7は、従来の射出成形装置100Aによる射出圧縮成形方法を説明するための流れ図である。
【0019】
図7のステップS2010において、型締を開始する。具体的には、第1の型板111、及び第2の型板115をパーティング・ライン(PL)で接触させた状態で以下の動作を行う。
【0020】
図7のステップS2020において、油圧シリンダー107を伸長させて、第1の取付板101、第1の受板103A、及び第1の鏡面駒109Aを、キャビティ301の容積を増加させるように移動させる。図6は、従来の射出成形装置100Aの、ステップS2020が終了した状態を示す図である。
【0021】
この状態で、第1の鏡面駒109のキャビティ301に接する凹面の頂点と第2の鏡面駒113のキャビティ301に接する面との間の距離、すなわち、キャビティ301の高さは、一例として、23.6リメータである。
【0022】
図7のステップS2030において、射出を開始し、キャビティ301に溶融樹脂を注入する。
【0023】
図7のステップS2040において、キャビティ301内の溶融樹脂の圧力によって、溶融樹脂がキャビティ301を充填したかどうかを判断する。樹脂がキャビティ301を充填した後に次のステップS2050に進む。
【0024】
図7のステップS2050において、油圧シリンダー107を収縮させて、第1の取付板101、第1の受板103A、及び第1の鏡面駒109Aを、キャビティ301の容積を減少させるように移動させる。この動作によって、キャビティ301内の溶融樹脂が加圧され圧縮される。
【0025】
図8は、従来の射出成形装置100Aの、ステップS2050が終了した状態を示す図である。第1の受板103Aと第1の型板111が互いに接触し、キャビティ301の容積は、図6に示した容積と比較して減少している。
【0026】
この状態で、第1の鏡面駒109のキャビティ301に接する凹面の頂点と第2の鏡面駒113のキャビティ301に接する面との間の距離、すなわち、キャビティ301の高さは、一例として、23ミリメータである。
【0027】
すなわち、図7のステップS2050においては、キャビティ301の高さが23.6ミリメータから23ミリメータとなるように油圧シリンダー107の収縮が行われ、その結果、キャビティ301に充填した溶融樹脂が圧縮される。
【0028】
図7のステップS2060において、キャビティ301内の樹脂を冷却する。
【0029】
図7のステップS2070において、型開を行う。具体的には、エジェクタピン122を取り付けたエジェクタプレート119及び121を図示しないエジェクタ装置で突き上げて成形品を取り出す。
【0030】
図5は、表面にSWSを備えたレンズの構成の一例を示す図である。2本の点線の内側がレンズ201の有効範囲である。レンズ201の有効範囲において、面A及びBには、SWSが形成されている。これらのSWSを形成するために、第1の鏡面駒109A及び第2の鏡面駒113は、これらのSWSに対応する微細構造部分を有する。この微細構造部分の形状が溶融樹脂に転写されることにより、レンズ201のSWSが形成される。
【0031】
ところで、微細構造部分の形状が溶融樹脂に転写されるには、溶融樹脂がその表面張力に抗して微細構造部分に入り込む必要があり、そのためには溶融樹脂の圧力が所定値より高くなる必要がある。上述のステップS2030からステップS2040において、キャビティ301に溶融樹脂が充填される間に、第1の鏡面駒109A及び第2の鏡面駒113の表面にかかる溶融樹脂の圧力は、該表面のSWSに対応する微細構造部分の形状が溶融樹脂に転写される上記の所定値に達することはない。したがって、キャビティ301に溶融樹脂が充填される間に、第1の鏡面駒109A及び第2の鏡面駒113のSWSに対応する微細構造部分の形状が溶融樹脂に転写されることはない。ステップS2050において、キャビティ301に充填した溶融樹脂が圧縮される際に、第1の鏡面駒109A及び第2の鏡面駒113の表面にかかる溶融樹脂の圧力は、該表面のSWSに対応する微細構造部分の形状が溶融樹脂に転写される上記の所定値に達する。しかし、この段階では、溶融樹脂の表面にスキン層が成長してしまう。この結果、樹脂の粘度が高くなるので、変形開始圧力が上昇し、溶融樹脂の圧力が上記の所定値に達しても、微細構造の溶融樹脂への転写が高い精度で行われない。
【0032】
このように、第1の鏡面駒109A及び第2の鏡面駒113のSWS対応部分を樹脂に転写してレンズ201の面AのSWSを形成するのが困難であった。したがって、図7に示した従来の射出圧縮方法によって、その面にSWSを備えたレンズ201を成形するのは困難であった。
【0033】
図1は、射出圧縮成形に使用される本発明の一実施形態による射出成形装置100の構成を示す図である。射出成形装置100は、第1の取付板101、第1の受板103、弾性部材105、油圧シリンダー107、第1の鏡面駒(第1の金型部材)109、第1の型板111、第2の鏡面駒(第2の金型部材)113、第2の型板115、第2の受板117、エジェクタプレート119及び121、スペーサブロック123、及び第2の取付板125を含む。弾性部材105は、第1の受板103及び第1の鏡面駒109の間に取り付けられている。ここで、弾性部材とは、他から力を受けると対抗力を生じながら収縮し、力を取り除くと収縮した状態から元に戻る、バネ、ゴム、クッションなどの部材である。本実施形態において、弾性部材105はバネである。弾性部材105が伸縮することにより、第1の受板103及び第1の鏡面駒109の間の距離は変化しうる。第1の鏡面駒109及び第2の鏡面駒113の間には樹脂が注入されるキャビティ301が形成される。図1図3及び図4において、キャビティ301を斜線で示す。第1の取付板101、第1の受板103、及び油圧シリンダー107は、相互に連結されて固定されている。
【0034】
本実施形態において、直径60ミリメータの4個のレンズが同時に成形される。また、直径50ミリメータの6個のシリンダーが備わる。各シリンダーには、150kg・f/cmの圧力を与える。
【0035】
ここで、エジェクタプレート119及び121が設置されている側を可動側、設置されていない側を固定側と呼称する。本実施形態において、「第1の」と形容される部材は、固定側の部材に対応し、「第2の」と形容される部材は、可動側の部材に対応する。本実施形態においては、鏡面駒に結合された弾性部材105は固定側の部材(第1の受板103)に取り付けられている。他の実施形態において、鏡面駒に結合された弾性部材105は、可動側の部材に取り付けてもよい。
【0036】
図2は、本発明の一実施形態による射出成形装置100による射出圧縮成形方法を説明するための流れ図である。
【0037】
図2のステップS1010において、型締を開始する。具体的には、第1の型板111、及び第2の型板115をパーティング・ライン(PL)で接触させた状態で以下の動作を行う。
【0038】
図2のステップS1020において、油圧シリンダー107を伸長させて、第1の取付板101、及び第1の受板103を、第1の受板103と第1の型板111との間の距離が所定の大きさとなるように移動させる。
【0039】
図2のステップS1030において、弾性部材(バネ)105によって、第1の鏡面駒109が、キャビティ301の容積を減少させるように移動するのを確認する。図1は、本発明の一実施形態による射出成形装置100の、ステップS1030が終了した状態を示す図である。
【0040】
この状態で、第1の鏡面駒109のキャビティ301に接する凹面の頂点と第2の鏡面駒113のキャビティ301に接する面との間の距離、すなわち、キャビティ301の高さは、一例として、23ミリメータである。
【0041】
図2のステップS1040において、射出を開始し、キャビティ301に溶融樹脂を注入する。キャビティ301に所定量の溶融樹脂が注入されると、第1の鏡面駒109のキャビティ301に接する面が、キャビティ301の溶融樹脂の圧力を受ける。その結果、弾性部材(バネ)105が収縮し、第1の鏡面駒109が第1の受板103の方向に後退する。ここで、溶融樹脂の注入圧力は、0.9メガパスカル(MPa)である。
【0042】
弾性部材の反抗力、たとえば、バネ定数は、溶融樹脂の注入中、すなわち、第1の鏡面駒109の後退中に、第1の鏡面駒109及び第2の鏡面駒113の表面にかかる溶融樹脂の圧力が、該表面のSWSに対応する微細構造部分の形状が溶融樹脂に転写される所定値を超えるように定める。具体的に、本実施形態において、弾性部材105は、バネ定数が、16.1kg・f/mmである2本のバネから構成される。
【0043】
上述のようにバネ定数を適切に定めることにより、キャビティ301に溶融樹脂が充填される間(ステップS1040からステップS1050までの間)に、第1の鏡面駒109及び第2の鏡面駒113の微細構造部分の形状が溶融樹脂に転写される。
【0044】
図2のステップS1050において、キャビティ301の溶融樹脂の圧力によってキャビティ301の容積が十分に増加したかどうかを判断する。
【0045】
図3は、本発明の一実施形態による射出成形装置100の、キャビティ301の容積が十分に増加した状態を示す図である。第1の受板103及び第1の鏡面駒109の間に取り付けられたバネ105は収縮し、第1の受板103及び第1の鏡面駒109の、それぞれの対向する面が接している。ここで、バネ105は、第1の受け板103の、第1の型板111に対向する面の凹部に取り付けられており、バネが収縮した状態で、第1の受け板103の、第1の型板111に対向する面の凹部の周囲が、第1の型板111の面に接触するように構成されている。
【0046】
この状態で、第1の鏡面駒109のキャビティ301に接する凹面の頂点と第2の鏡面駒113のキャビティ301に接する面との間の距離、すなわち、キャビティ301の高さは、一例として、23.6ミリメータである。
【0047】
図2のステップS1060において、油圧シリンダー107を収縮させて、第1の受板103を、第1の型板111との間の距離が小さくなるように移動させる。この際、第1の受板103及び第1の鏡面駒109の間に取り付けられたバネ105は収縮し、第1の受板103及び第1の鏡面駒109の、それぞれ対向する面が接しているので、鏡面駒109も、第1の受板103とともに第1の型板111の方向へ移動する。その結果、キャビティ301の容積は小さくなり、キャビティ内の樹脂は圧縮される。最終的に、第1の受板103、及び第1の型板111の、それぞれの対抗する面が接するまで、油圧シリンダー107を収縮させる。
【0048】
図4は、本発明の一実施形態による射出成形装置100の、油圧シリンダー107を収縮させて、キャビティ301の容積を小さくした状態を示す図である。第1の受板103、及び第1の型板111の、それぞれの対向する面が接している。
【0049】
この状態で、第1の鏡面駒109のキャビティ301に接する凹面の頂点と第2の鏡面駒113のキャビティ301に接する面との間の距離、すなわち、キャビティ301の高さは、一例として、23ミリメータである。
【0050】
すなわち、図2のステップS1060においては、キャビティ301の高さが23.6ミリメータから23ミリメータとなるように油圧シリンダー107の収縮が行われ、その結果、キャビティ301に充填した溶融樹脂が圧縮される。
【0051】
図2のステップS1070において、キャビティ301内の樹脂を冷却する。
【0052】
図2のステップS1080において、型開を行う。具体的には、具体的には、エジェクタピン122を取り付けたエジェクタプレート119及び121を図示しないエジェクタ装置で突き上げて成形品を取り出す。
【0053】
従来技術においては、溶融樹脂がキャビティに充填される間(ステップS2030からステップS2040の終了まで)に鏡面駒のSWSの微細構造の溶融樹脂への転写が行われず、溶融樹脂がキャビティに充填された後(ステップS2040の終了後)、溶融樹脂の圧縮及び鏡面駒のSWSの微細構造の溶融樹脂への転写が同時に行われる(ステップS2050)。
【0054】
従来技術においては、キャビティに溶融樹脂が充填された後に、溶融樹脂を圧縮する段階で鏡面駒のSWSの微細構造の溶融樹脂への転写を行うので、溶融樹脂の表面にスキン層が成長してから微細構造の樹脂への転写が行われることとなる。表面にスキン層が成長することによって樹脂の粘度が高くなるので、変形開始圧力が上昇し、微細構造の樹脂への転写が高い精度で行われない。
【0055】
これに対して、本発明においては、溶融樹脂がキャビティに充填される間(ステップS1040からステップS1050までの間)に鏡面駒のSWSの微細構造の溶融樹脂への転写が行われ、その後に溶融樹脂の圧縮が行われる(ステップS1060)。
【0056】
このように、本発明においては、キャビティに溶融樹脂が充填される間に鏡面駒のSWSの微細構造の溶融樹脂への転写を行うので、樹脂のスキン層が成長する前に、鏡面駒のSWSの微細構造へ所定値以上の圧力で溶融樹脂を接触させて、微細構造の樹脂への転写を行うことができる。このため、鏡面駒のSWSの微細構造の樹脂への転写を高い精度で行うことができる。
【要約】
表面にサブ波長構造を備えた光学素子を成形することのできる射出成形装置を提供する。射出成形装置は、第1の取付板(101)と、弾性部材(105)と、前記第1の取付板に少なくとも前記弾性部材を介して取り付けた第1の金型部材(109)と、第2の取付板(125)と、前記第2の取付板に直接または他の部材を介して取り付けた第2の金型部材(113)とを備え、前記第1及び第2の取付板の間の距離を変更できるように構成され、前記第1の金型部材は、前記第1及び第2の金型部材によって形成されるキャビティ内に注入された樹脂の圧力によって前記弾性部材の対抗力に抗して前記第1の取付板の方向に移動し、前記第1の取付板が、前記第2の取付板の方向に移動する際には、前記第1の取付板と一体となって移動するように構成され、前記第1及び第2の金型部材の少なくとも一方が、サブ波長構造用の金型の面を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8