(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747231
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】プラズマ生成装置およびプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20150618BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20150618BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
H05H1/46 L
H01L21/302 101B
H01L21/302 101C
H01L21/205
【請求項の数】40
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2010-512945(P2010-512945)
(86)(22)【出願日】2009年5月21日
(86)【国際出願番号】JP2009002234
(87)【国際公開番号】WO2009142016
(87)【国際公開日】20091126
【審査請求日】2012年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2008-133881(P2008-133881)
(32)【優先日】2008年5月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505402581
【氏名又は名称】株式会社イー・エム・ディー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江部 明憲
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正則
【審査官】
林 靖
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−079416(JP,A)
【文献】
特開2005−285564(JP,A)
【文献】
特開平11−131244(JP,A)
【文献】
特開2003−147534(JP,A)
【文献】
特開平11−185996(JP,A)
【文献】
特開平10−189293(JP,A)
【文献】
特表平10−510095(JP,A)
【文献】
特開2006−185921(JP,A)
【文献】
特開2003−249452(JP,A)
【文献】
特開平08−306500(JP,A)
【文献】
特開平11−260596(JP,A)
【文献】
特開2000−164578(JP,A)
【文献】
特開平09−069399(JP,A)
【文献】
特開平09−111460(JP,A)
【文献】
特開平10−064697(JP,A)
【文献】
特開平04−362091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00−1/54
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
H01L 21/302
H01L 21/304
H01L 21/461
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器の壁面に設けられた開口部と、
c) 前記開口部を気密に覆うように取り付けられ、板状であり且つ前記真空容器外側に面し、高周波電源及び接地に接続される高周波アンテナ導体と、
を備えることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項2】
前記壁面が導体から成り、前記高周波アンテナ導体と前記壁面の間に絶縁材が介挿されることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ生成装置。
【請求項3】
前記高周波アンテナ導体を取り付けるためのフランジが前記開口部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ生成装置。
【請求項4】
前記開口部を複数有し、各開口部に高周波アンテナ導体が取り付けられる構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項5】
前記高周波アンテナ導体が長方形をなし、該高周波アンテナ導体の長手方向の一端がマッチングボックスを介して前記高周波電源に接続され、他端が前記接地に接続されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項6】
前記高周波アンテナ導体が長方形をなし、該高周波アンテナ導体の中央部がマッチングボックスを介して前記高周波電源に接続され、長手方向の両端が前記接地に接続されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項7】
前記開口部を複数有し、各開口部に前記高周波アンテナ導体が取り付けられ、該複数の高周波アンテナ導体が一定の間隔で平行に配置され、各高周波アンテナ導体の長手方向の一方の端部が給電バーで電気的に接続され、もう一方の端部が接地バーで電気的に接続され、各高周波アンテナ導体に流れる高周波電流が同一になるように給電及び接地されていることを特徴とする請求項5に記載のプラズマ生成装置。
【請求項8】
前記給電バーの一方の端部に前記高周波電源が接続され、前記複数の高周波アンテナ導体を挟んで給電バーと対向する接地バーの、前記高周波電源が接続された側の高周波アンテナ導体から数えて最終番目側の端部が前記接地に接続されていることを特徴とする請求項7に記載のプラズマ生成装置。
【請求項9】
前記給電バーの中央部が前記高周波電源と電気的に接続され、前記接地バーの両端部がそれぞれ前記接地に接続されていることを特徴とする請求項7に記載のプラズマ生成装置。
【請求項10】
前記開口部を複数有し、各開口部に前記高周波アンテナ導体が取り付けられ、該複数の高周波アンテナ導体が一定の間隔で平行に配置され、各高周波アンテナ導体の中央部が給電バーで電気的に接続され、各高周波アンテナ導体の長手方向の両端部が第1の接地バー及び第2の接地バーで電気的に接続され、各高周波アンテナ導体に流れる高周波電流が同一になるように給電及び接地されていることを特徴とする請求項6に記載のプラズマ生成装置。
【請求項11】
前記給電バーの一方の端部が前記高周波電源と接続され、前記第1接地バー及び第2接地バーの、前記高周波電源が接続された側の高周波アンテナ導体から数えて最終番目側の端部が前記接地に接続されていることを特徴とする請求項10に記載のプラズマ生成装置。
【請求項12】
前記給電バーの中央部が前記高周波電源と電気的に接続され、前記第1接地バー及び第2接地バーの両端部がそれぞれ前記接地に接続されていることを特徴とする請求項10に記載のプラズマ生成装置。
【請求項13】
前記高周波アンテナ導体の数が3個以上であり、該平行に並んだ高周波アンテナ導体のうち、少なくとも両端に配置された高周波アンテナ導体の前記真空容器の内部側表面が、両端より内側に配置された高周波アンテナ導体の方向に傾斜していることを特徴とする請求項7〜12のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項14】
前記平行に並んだ複数の高周波アンテナ導体から成る組を複数有することを特徴とする請求項7〜13のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項15】
前記複数組の高周波アンテナ導体の各組と接続された前記高周波電源及びマッチングボックスに対して、電力量の制御及びマッチングの調整を個別に行うための調整手段を有することを特徴とする請求項14に記載のプラズマ生成装置。
【請求項16】
前記高周波アンテナ導体の長手方向の長さが、前記高周波電源の周波数の真空波長の8分の1以下であることを特徴とする請求項5〜15のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項17】
前記高周波アンテナを前記接地に接続した状態と接続しない状態で切り替えることにより、プラズマのモードを誘導結合型と容量結合型の切り替えを行う切替手段を有することを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項18】
前記真空容器の内部側に前記高周波アンテナ導体の面に垂直な磁界成分を有する磁力線を生成する磁界生成手段を前記真空容器の外側に設置したことを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項19】
前記磁界生成手段が永久磁石であることを特徴とする請求項18に記載のプラズマ生成装置。
【請求項20】
前記磁界生成手段が電磁石であることを特徴とする請求項18に記載のプラズマ生成装置。
【請求項21】
前記高周波アンテナ導体の真空容器内側の面を覆うように遮蔽板が設けられていることを特徴とする請求項1〜20のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項22】
前記遮蔽板の材料が、酸化物、窒化物、炭化物、又はフッ化物であることを特徴とする請求項21に記載のプラズマ生成装置。
【請求項23】
前記遮蔽板の材料が、石英、アルミナ、イットリア、あるいは炭化硅素であることを特徴とする請求項21に記載のプラズマ生成装置。
【請求項24】
前記高周波アンテナ導体の真空容器内側の面が誘電体被膜で被覆されていることを特徴とする請求項1〜20のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項25】
前記誘電体被膜の材料が、酸化物、窒化物、炭化物、又はフッ化物であることを特徴とする請求項24に記載のプラズマ生成装置。
【請求項26】
前記誘電体被膜の材料が、石英、アルミナ、イットリア、あるいは炭化硅素であることを特徴とする請求項24に記載のプラズマ生成装置。
【請求項27】
前記高周波アンテナ導体の、前記真空容器の内部側表面におけるインピーダンスが該真空容器の外部側表面におけるインピーダンスより低いことを特徴とする請求項1〜26のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項28】
前記高周波アンテナ導体の前記真空容器外部側表面に凹凸が設けられていることを特徴とする請求項27に記載のプラズマ生成装置。
【請求項29】
前記高周波アンテナ導体の前記真空容器外部側表面にハニカムパターンが設けられていることを特徴とする請求項27に記載のプラズマ生成装置。
【請求項30】
前記高周波アンテナ導体の前記真空容器内部側表面が鏡面仕上げされていることを特徴とする請求項27〜29のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項31】
前記高周波アンテナ導体が、基材と、該基材より抵抗率の低い金属部材から成り、前記低抵抗率金属部材が前記基材の前記真空容器内部側の面に接合されていることを特徴とする請求項27〜30のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項32】
前記基材がステンレス鋼であることを特徴とする請求項31に記載のプラズマ生成装置。
【請求項33】
前記基材がセラミックスであることを特徴とする請求項31に記載のプラズマ生成装置。
【請求項34】
前記セラミックスが酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物であることを特徴とする請求項33に記載のプラズマ生成装置。
【請求項35】
前記低抵抗率金属部材が銀又は銅であることを特徴とする請求項31〜34に記載のプラズマ生成装置。
【請求項36】
前記高周波アンテナ導体に電力を供給する給電部が、前記低抵抗率金属部材と接続されていることを特徴とする請求項31〜35のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項37】
前記低抵抗率金属部材の厚さが、該低抵抗率属部材に流れる高周波電流に対して表皮効果が及ぶ深さ以上であることを特徴とする請求項31〜36のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項38】
前記高周波アンテナ導体の前記真空容器内部側表面が、該真空容器内壁面と同一の面上に配置されている、又は該真空容器の内部に突出していることを特徴とする請求項1〜37のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項39】
前記真空容器の壁面に設けられた開口部に、前記高周波アンテナ導体が絶縁材を介して嵌め込まれていることを特徴とする請求項1〜38のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項40】
請求項1〜39のいずれかに記載のプラズマ生成装置を有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを生成するための装置、及び生成したプラズマにより基板表面のエッチングや薄膜形成などを行うためのプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、液晶ディスプレイや太陽電池などの製造工程では、プラズマCVD装置、ドライエッチング装置、アッシング装置などのプラズマ処理装置が用いられる。これらの装置においては、大型基板への対応、高速処理、精細な加工などの目的を達するために、広い範囲に亘って高密度で均一性の高いプラズマを生成することが求められている。そのための一般的なプラズマ生成技術に、平行平板方式がある。平行平板方式は、2枚の平板電極を真空容器内に平行に配置して、一方の電極板に高周波電圧を印加し、他方の電極板を接地あるいは別の高周波電圧を印加して、両電極板間にプラズマを生成する。当該方式は所謂容量結合プラズマ(Capacitive Coupled Plasma:CCP)であり、構造が簡単で、且つ電極面にほぼ一様なプラズマを生成することができるという利点を有する。さらに、電極板を大型化することによって、大型基板への対応も比較的容易である。
【0003】
しかし、近年、ディスプレイ用ガラス基板の著しい大型化によって電極板のサイズも非常に大きくなり、印加する高周波電力の波長効果が無視できなくなってきた。その結果、電極板の面内での電子密度(プラズマ密度)等の不均一性が現れるようになった。高周波電圧を用いるCCPの難点を克服する方法として、小型アンテナと高周波電流を用いる誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)方式が開発されている。一般的に、ICPはCCPに較べて低ガス圧力下でも高密度で、電子温度が低く、イオンエネルギーの小さいプラズマが得られる技術として知られている。
【0004】
特許文献1にはICPに関する技術が開示されている。この装置は、基板処理を行うための真空容器に、石英ガラスやセラミックスなどの誘電体で作製された、プラズマを生成するための真空容器(以下、プラズマ室と呼ぶ)を接続し、当該プラズマ室の外部を周回するように1回以上の巻き数のコイルを配置したものである。このコイルに高周波電流を流すことによりプラズマ室内に誘導電界を発生させ、該誘導電界によってプラズマ室内のガス分子を電離してプラズマを生成する。当該技術は、所謂外部アンテナによるプラズマ生成方法である。しかし、この方式ではプラズマ室が誘電体でなければならないため、誘電体容器として石英ガラス、あるいはアルミナ等を用いる必要があるが、これらは破損し易く、取り扱い難いなど機械強度の点で課題がある。また、このため、大型の装置を製作することが困難である。
【0005】
特許文献2には、内部アンテナ方式のプラズマ生成装置が開示されている。内部アンテナ方式は、周回したアンテナを真空容器内に設け、マッチングボックスを介して該アンテナの一端を高周波電源に、他端を直接或いはキャパシタを介して接地に接続する。該アンテナに高周波電流を流すことにより、特許文献1に記載の装置と同様にプラズマを生成することができる。しかし、真空容器内部において広く一様なプラズマを生成しようとすると、アンテナは真空容器の内壁に沿うように設置しなければならないため、該アンテナの長さは真空容器の内周長に近い長さになり、高周波に対するインピーダンスが大きくなる。そのため、高周波電流の変化に対してアンテナ両端間に発生する電位差が大きく変化し、プラズマ電位が大きく変化するという課題がある。
【0006】
このような課題を解決するために、線状導体を用いた非周回アンテナ方式が特許文献3に開示されている。更に、低インピーダンスを実現する非周回小型アンテナが提案されている(非特許文献1)。当該技術を用いた結果、高密度、低電子温度のプラズマが比較的低いガス圧力下で得られることが報告されている。また、非周回小型アンテナを用いて大面積基板を処理するための方法として、複数のアンテナを分散して配置する技術が開示されている。
【0007】
非周回アンテナ方式では、高周波電流によるアンテナの温度上昇を抑制するためにアンテナ導体をパイプ状として冷却水を循環する方法が採用されている。この方法では、当該パイプの両端に真空シール部、冷却水接続部及び高周波電源や接地との電気的な接続部を設ける必要があるため、構成が複雑となるのみならず、アンテナの脱着や保守点検に支障が生じる等の課題があった。また、更なる低インピーダンス化を図るためには、高周波電流の電流路面積を大きくするためにアンテナ導体パイプの口径を大きくする必要がある。従って、アンテナ導体の曲率半径が大きくなり、全長を長くしなければならない等の課題があった。
【0008】
また、低ガス圧力下での安定したプラズマの生成、或いは高ガス圧力下でのプラズマの高密度化のために、アンテナ近傍に磁界を重畳することが有効であることは一般的に知られている。しかし、真空容器内に突出させた前記アンテナ構造の場合、アンテナ近傍のプラズマ生成
領域に効果的に磁界を付与することは容易でないなどの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−266174号公報(
図1)
【特許文献2】特開平11−233289号公報(
図1)
【特許文献3】特開2001−035697号公報(
図3)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.Plasma Fusion Res. Vol. 81, No. 2(2005)85-93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、構造が簡単であって製作が容易であり、脱着や保守点検などが容易な高周波アンテナを用いたプラズマ生成装置及びそれを用いたプラズマ処理装置を提供することである。また、プラズマ生成領域に必要な磁界を容易に付与することができるプラズマ生成装置及びプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る装置は、
a) 真空容器と、
b) 前記真空容器の壁面に設けられた開口部と、
c) 前記開口部を気密に覆うように取り付けられ
、板状であり且つ前記真空容器外側に面
し、高周波電源及び接地に接続される高周波アンテナ導体と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明のプラズマ生成装置は、高周波アンテナが真空容器壁面の開口部を覆うように取り付けられるため、装置の構造が簡単であって製作が容易であると共に、アンテナの脱着や保守点検が容易である。また、高周波アンテナ導体が板状であり且つ真空容器外側に面するように設けられるため、高周波アンテナ導体から熱を放出しやすい。
【0014】
一般に、真空容器には、作製が容易であり必要な強度を確保できるうえ、高周波アンテナの接地に用いることができるという点で、金属製のものが用いられる。そのため、本発明のプラズマ生成装置においては、前記高周波アンテナ導体と前記壁面の間に絶縁材が介挿されることが望ましい。なお、特許文献1に記載のように絶縁体製の真空容器を用いる場合には、前記絶縁材を用いる必要はない。
【0015】
高周波アンテナ導体の平面形状は特に問わないが、例えば長方形のものを用いることができる。長方形の高周波アンテナ導体を用いる場合、高周波電力の供給は、例えば以下のように行うことができる。第1の例として、高周波アンテナの長手方向の一端を高周波電源に接続し、他端を接地することが挙げられる。これにより、高周波アンテナ導体内で高周波電流を均等に流すことができる。第2の例として、高周波アンテナ導体の中央部に高周波電源を接続し、長手方向の両端を接地することが挙げられる。第2の例の場合、高周波アンテナ導体の中心と長手方向の両端の間で高周波電流が流れる。そのため、高周波アンテナ導体の長手方向の長さを第1の例の2倍にすることにより、第1の例の場合と同じインピーダンスで2倍の電流を流すことができる。
【0016】
本発明のプラズマ生成装置において、前記開口部を複数有し、各開口部に高周波アンテナ導体が取り付けられた構造とすることができる。これにより、広い範囲に亘って均一性が高いプラズマを生成することができ、大面積の基板に対して一層均一性の高いプラズマ処理を行うことができる。
【0017】
本発明のプラズマ生成装置において、高周波アンテナ導体に垂直な磁界成分を有する磁力線を生成可能な磁界生成手段を高周波アンテナ導体の大気側に設置することができる。磁界発生手段には、永久磁石、電磁石のいずれも用いることができる。本発明の構成では、磁界発生手段を高周波アンテナ導体に近接して設置することができるため、プラズマ生成領域に効果的に磁界を付与することができる。
【0018】
本発明において、プラズマと接触する側(真空容器内部側)の高周波アンテナ導体の面に誘電体遮蔽板を挿入することが望ましい。これにより、高周波アンテナ導体がプラズマに直接接触することを防止することができる。また、誘電体遮蔽板の代わりに、誘電体の被膜を高周波アンテナ導体の真空側の面に設けてもよい。なお、本発明では高周波アンテナ導体が真空容器外部に面していることで高周波アンテナ導体自体が効率よく冷却されるため、誘電体遮蔽板や誘電体被膜もまた効率よく冷却される。そのため、温度上昇に伴って抵抗率が急激に小さくなるような材料もこれら遮蔽板又は被膜の材料として使用することが可能である。当該誘電体としては酸化物、窒化物、炭化物、又はフッ化物のものを用いることができる。
【0019】
また、本発明で用いる板状の高周波アンテナ導体は、真空容器内部側表面のインピーダンスが大気側表面のインピーダンスより低くなることが望ましい。これにより、高周波アンテナ導体の真空容器内部側表面に流れる高周波電流が増加し、供給される高周波電力がプラズマの発生に効率良く消費される。
【0020】
本発明に係るプラズマ生成装置は、プラズマCVD装置や、ドライエッチング装置、アッシング装置などの各種プラズマ処理装置に用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、構成が簡単であって製作が容易であり、脱着や保守点検などが容易な高周波アンテナを用いたプラズマ生成装置及びそれを用いたプラズマ処理装置を得ることができる。
【0022】
また、高周波アンテナ導体の大気側に磁界生成手段を設けることにより、プラズマ生成領域に必要な磁界を容易に付与することができるプラズマ生成装置及びプラズマ処理装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るプラズマ生成装置の第1実施例を示す概略縦断面図。
【
図2】第1実施例におい
て高周波アンテナ導体13近傍に形成される磁力線を示す概略図。
【
図3】本発明に係るプラズマ生成装置の第2実施例における高周波アンテナ導体33近傍の構成を示す概略縦断面図。
【
図4】本発明に係るプラズマ生成装置の第3実施例を示す概略縦断面図。
【
図5】第3実施例のプラズマ生成装置を用いて生成したプラズマの電子密度を示すグラフ。
【
図6】第3実施例のプラズマ生成装置を用いて生成したプラズマのプラズマ電位を示すグラフ。
【
図7】第3実施例のプラズマ生成装置を用いて生成したプラズマの電子温度を示すグラフ。
【
図8】本発明に係るプラズマ生成装置の第4実施例を示す概略縦断面図。
【
図9】第4実施例のプラズマ生成装置を用いて生成したプラズマの電子密度を示すグラフ。
【
図10】第4実施例における高周波アンテナ導体の他の構成を示す概略縦断面図(a)、及び概略上面図(b)。
【
図11】本発明に係るプラズマ生成装置の第5実施例において、高周波アンテナ導体のプラズマ室側表面を真空容器の内壁面と同一面上に配置した場合の高周波アンテナ導体周辺を示す概略断面図(a)、及び高周波アンテナ導体のプラズマ室側表面を真空容器の内壁面より内部側に突出させた場合の高周波アンテナ導体周辺を示す概略断面図(b)。
【
図12】本発明に係るプラズマ生成装置の第6実施例を示す概略断面図。
【
図13】第6実施例における高周波アンテナ導体周辺の概略平面図(a)、概略断面図(b)、及び拡大図(c)。
【
図14】第6実施例における高周波アンテナ導体周辺の他の構成を示す概略平面図。
【
図15】本発明に係るプラズマ生成装置の第7実施例における高周波アンテナ導体周辺の概略
平面図。
【
図16】第7実施例の第1変形例において、高周波電源及びマッチングボックスを2組接続した場合の高周波アンテナ導体周辺の概略
平面図(a)、及び高周波電源及びマッチングボックスを1組だけ接続した場合の高周波アンテナ導体周辺の概略
平面図(b)。
【
図17】第7実施例の第2変形例における高周波アンテナ導体周辺の概略
平面図。
【
図18】本発明に係るプラズマ生成装置の第8実施例における高周波アンテナ導体周辺の概略断面図。
【
図19】本発明において天板全体を高周波アンテナ導体とした例を示す概略縦断面図。
【
図20】本発明において高周波アンテナ導体を複数設けた例を示す概略縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態について
図1〜
図3を用いて説明する。
図1に本発明のプラズマ生成装置の概略断面図で示す。本
実施例のプラズマ生成装置は、真空容器11と、フランジ12と、高周波アンテナ導体13と、絶縁碍子枠体14を有する。高周波アンテナ導体13は平板状の形状を有する。真空容器11の壁面の一部に開口部19が設けられており、その開口部にフランジ12が第1真空シール15(例えばOリング)を介して固定され、その上に高周波アンテナ導体13が載置されている。フランジ12と高周波アンテナ導体13の間には、前記開口部19を囲む絶縁碍子枠体14及び第2真空シール16が介挿されている。
【0025】
高周波アンテナ導体13の真空側には高周波アンテナ導体13の表面を覆うように誘電体遮蔽板17が配置され、大気側には磁界発生装置18が載置されている。高周波アンテナ導体13の一方の端部はマッチングボックス21を介して高周波電源20に接続され、他方の端部は接地されている。
【0026】
その他、真空容器11内に基体台29を設けることにより、本発明のプラズマ生成装置は、基体台29に載置された基体に対してプラズマCVD、ドライエッチング、アッシング等の処理を行うためのプラズマ処理装置として用いることができる。
【実施例1】
【0027】
図1を参照しながら第1の実施例のプラズマ生成装置を詳細に説明する。高周波アンテナ導体13は短辺約60mm×長辺約120mmの長方形のアルミニウム板である。高周波アンテナ導体13の真空側の面は平面状であり、大気側の面には凹状の切欠部23が設けられている。切欠部23内に、磁界発生装置18が載置されている。高周波アンテナ導体13の厚さは切欠部23よりも切欠部23の周囲の方が厚くなっており、その導体の厚い部分の導体内に、冷却水を循環するための水路22が設けられている。本実施例では、真空側に高周波アンテナ導体13と誘電体遮蔽板17を通して磁界を入れるために、切欠部23の厚みは約3mmとした。いうまでもなく、必要な磁束密度は磁石の大きさ、残留磁束密度及び磁石からの距離などで決まるため、高周波アンテナ導体13の厚みはこの値に限るものではない。
【0028】
前記絶縁碍子枠体14にはピーク(PEEK:ポリエーテルエーテルケトン、エーテル−エーテル−ケトンの順に結合した高分子)材を用いた。絶縁碍子枠体14と高周波アンテナ導体13の間、及び絶縁碍子枠体14とフランジ12の間にはそれぞれシート状のパッキンを挟み、高周波に対する絶縁性能と真空シールを満足させた。なお、絶縁碍子枠体14の素材については、高周波に対する絶縁性能と加工性能の点で満足すれば、ここに示すものに限るものではなく、セラミックス、エポキシ樹脂、ジュラコンあるいはテフロン(登録商標)でもよい。また真空シール用パッキンは、一般的なOリングでも可能である。フランジ12と高周波アンテナ導体13は樹脂製ボルト又は樹脂製カラーを介して金属ボルトで締結した(図示せず)。
【0029】
高周波アンテナ導体13の長辺方向の一端の側面に、銅平板を用いてマッチングボックス21の出力端子を接続した。一方、長辺方向の他端は銅平板を用いてマッチングボックスの接地電位のケースに接続した。
【0030】
当該構造のプラズマ生成装置は外部アンテナ方式でも内部アンテナ方式でもなく、一般的に真空機器で使用されるフランジと同様に、高周波アンテナ導体13が真空容器11の一部を兼ねた構成としたものである。このような構成により、真空シール部、冷却水流路22、冷却水接続部及び高周波電力供給のため接続部を分離することができる。更にはアンテナ導体保護のための誘電体遮蔽板17についても前記高周波アンテナ導体13とは独立に取り扱うことができる利点がある。
【0031】
従来例の高周波アンテナ導体はパイプを折り曲げた構造或いは湾曲させた三次元的な構造であるのに対して、本発明による高周波アンテナ導体は二次元的な構造であり、そのため同等サイズのアンテナ導体の場合でもインダクタンスが小さく、従ってインピーダンスを小さくすることができる。また、長方形の短辺の長さと長辺の長さは独立に設定することができるため、この点でもインピーダンスを小さくするための設計自由度が高い。
【0032】
本実施例では、高周波アンテナ導体13に流す高周波電流により発生する電界は高周波アンテナ導体13の長辺に沿った方向で該導体表面に平行な方向に発生する。該電界と直交する磁界方向としては、高周波アンテナ導体13の短辺方向と該導体表面に垂直な方向がある。前者の電界と磁界とが高周波アンテナ導体13に平行で且つ互いに直交する方向に配置される場合、プラズマ中の電子は磁界とアンテナ導体面に垂直な平面内で回転するため、該導体表面に入射する確率が大きく、したがって電子の損失が大きい。
【0033】
本実施例では、
図2に磁力線の方向を示すように、前記高周波アンテナ導体13に平行な電界と高周波アンテナ導体13に垂直な磁界を組み合わせることにより、プラズマ中の電子が該導体面に平行な面内で回転運動する。そのため、該導体表面への入射確率を小さくし、それにより電子の損失が小さくすることができるため、高密度プラズマを生成することができる。
【0034】
このような磁界を実現するために、高周波アンテナ導体13の大気側の面に平板状の永久磁石を設置し、該永久磁石の磁化の方向を高周波アンテナ導体13の厚み方向となるように該磁石の向きを定めた。高周波アンテナ導体13の真空側のプラズマ生成部に有効な磁束密度を付与するためには、高周波アンテナ導体13の磁石設置部(切欠部)の厚みは3mm〜25mmがよい。これにより、(永久磁石の種類、残留磁束密度、磁石サイズによって磁界の拡がりは異なるが)上記厚みの金属材料を通して、真空側のアンテナ導体面近傍での磁束密度がプラズマ生成部に有効な数Gauss〜数百Gaussの磁界を発生することができる。このような磁界は、上記のような永久磁石に限られるものではなく、空心コイルなどの電磁石を用いた磁界発生手段でも可能である。
【0035】
本実施例では、高周波アンテナ導体13の真空側に石英製の遮蔽板17を配置した。該遮蔽
板は高周波アンテナ導体表面と生成されたプラズマとの直接の接触を阻止するためである。もしアンテナ導体表面がプラズマと直接接触すると、アンテナ導体はプラズマに対して負の電位になり、加速されたイオンの衝突によってアンテナ導体材料がスパッタリングされて、その結果、放電ガス中に有害な不純物が混入する。遮蔽板17により、このように不純物の混入を回避することができる。
【0036】
誘電体遮蔽板17の材料は、石英に限られるものではなく、高純度シリコン板、アルミナ、イットリア、或いは炭化珪素などを用いることができる。また、高周波アンテナ導体13の真空容器内側表面を前記誘電体材料で直接被覆してもよい。
【実施例2】
【0037】
第2の実施例のプラズマ生成装置における高周波アンテナ付近の構成につき、要部概略断面を
図3に示す。本実施例のプラズマ生成装置の構成は、高周波アンテナ導体33及び高周波アンテナ導体33への給電に関する配線以外は第1実施例とほぼ同様である。高周波アンテナ導体33の長辺の長さは実施例1の高周波アンテナ導体13の約2倍とし、その中央部に高周波電力給電用の突起部30を設け、両端辺を接地した。高周波電力はマッチングボックスを介して前記突起部30に給電し、接地した両端辺へと高周波電流を流した。
【0038】
本実施例により、アンテナインピーダンスを増加することなくプラズマ生成領域をほぼ2倍に拡張することができる。
【0039】
また、第1及び第2の実施例における高周波アンテナを、例えばプラズマ発生装置の天板に所定の間隔で複数個設置することにより、大面積プラズマ発生装置、或いはプラズマ処理装置を安価に提供することができる。
【実施例3】
【0040】
第3の実施例のプラズマ生成装置における高周波アンテナ付近の構成につき、要部概略断面を
図4に示す。本実施例は、直径180mm(うち、プラズマ発生領域の直径130mm)のアルミニウム製円盤から成る高周波アンテナ導体43を用いる点以外は第1実施例とほぼ同様である。但し、第1実施例で設けられていた磁界発生装置は、本実施例では用いない。また、高周波アンテナ導体43の形状に合わせて、絶縁碍子枠体44は円形リング状に、誘電体遮蔽板47は円盤状に、開口部49は円形に、それぞれ第1実施例から形状を変更した。高周波アンテナ導体43の円盤の円周上における点(給電点)には整合器を介して高周波電源(周波数13.56MHz)が接続され、その給電点を通る直径上にある円盤端部の点において接地されている。
【0041】
第3実施例のプラズマ生成装置を用いて、以下の実験を行った。
まず、真空容器11内を1.0×10
-3Pa以下まで排気した後、図示していないガス導入部より真空容器11内にアルゴンガスを100ccm導入し、真空容器11内の圧力を10Paに調整する。その後、高周波アンテナ導体43に高周波電力を投入して真空容器内にプラズマを発生させた。そして、その生成したプラズマの特性を真空容器11内に設置されたラングミュアプローブ40を用いて測定した。
【0042】
この測定の結果を
図5〜
図7に示す。
図5に示すように、電子密度は、投入した高周波電力(RFパワー)に対するグラフにおいて直線的に増加した。そして、高周波電力が測定範囲における最大値である1200Wの時に、電子密度は7.5×10
10(cm
-3)という高い値が得られた。一方、プラズマ電位(
図6)や電子温度(
図7)は高周波電力に依存することなくほぼ一定値を示し、プラズマ電位では8V、電子温度では1.4eVという非常に低い値が得られた。このようなプラズマ特性は低インダクタンスの高周波アンテナを用いて生成したプラズマの特徴を示している。このように、本発明のプラズマ発生装置において、高密度で低ダメージなプラズマが生成できることが確認できた。
【実施例4】
【0043】
第4の実施例のプラズマ生成装置における高周波アンテナ付近の構成につき、要部概略断面を
図8に示す。本実施例は、第1実施例の構成とほぼ同じであるが、フランジ12を用いず、絶縁碍子枠体64を直接フランジとして用いている点と、高周波アンテナ導体63の真空容器大気側表面に凹凸部61を設け、プラズマ室側表面に銅箔62を接合させている点が異なっている。
【0044】
図8に示すように、高周波アンテナ導体63の真空容器大気側表面には、アンテナ導体の長手方向に垂直な複数本の溝(凹凸部61)が形成されている。これにより、高周波アンテナ導体63の真空容器大気側表面は、高周波電流の伝搬に対して高インピーダンスになる。一方、高周波アンテナ導体63のプラズマ室側表面には、低抵抗率部材である銅箔62を接合させることによって、高周波電流の伝搬に対して低インピーダンスになるようにしている。このように、高周波アンテナ導体63の真空容器大気側表面とプラズマ室側表面でインピーダンスに差をつけることにより、高周波アンテナ導体の真空容器内部側表面に流れる高周波電流が増加し、供給される高周波電力がプラズマの発生に効率良く消費されるようになる。
【0045】
高周波アンテナ導体63のプラズマ室側表面に接合した銅箔62は、その厚さを、高周波電流に対して表皮効果が及ぶ深さ以上にすることにより、さらにインピーダンスを低くすることができる。また、銅箔62を高周波アンテナ導体63のプラズマ室側表面だけでなく、高周波アンテナ導体に電力を供給する給電部にまで延長して接合することにより、大部分の高周波電流を前記銅箔部分に流れるようにすることができ、より効率良くプラズマを発生させることができる。本実施例では、銅箔の厚さを100μmとし、給電部を銅箔62と接続させた。また、高周波電源20には、周波数13.56MHz、最大出力3kWの電源を用いた。
【0046】
第4実施例のプラズマ生成装置を用いて、以下の実験を行った。
まず、真空容器11内を1.0×10
−3Pa以下まで排気した後、真空容器内にガス導入部(図示せず)よりアルゴンガスを100ccm導入し、真空容器内の圧力を1.33Paに調整した。その後、高周波アンテナ導体63に高周波電力を供給して真空容器内にプラズマを発生させた。その生成したプラズマの密度を真空容器内に設置したラングミュアプローブ(図示せず)を用いて測定した。
【0047】
前記アンテナ導体表面から80mm離れたプラズマ室内の電子密度の測定結果を
図9に示す。電子密度は投入した高周波電力にほぼ比例して増加した。高周波電力が1.5kWの時に、電子密度は1.02×10
12(cm
−3)であった。また、高周波パワー吸収効率は約80%であった。高周波アンテナ導体の両面を同一仕上げしたアンテナ導体を用いた比較実験の結果、0.84×10
12(cm
−3)と比較すると、電子密度が約22%増加することが明らかになった。
【0048】
本実施例では、高周波アンテナ導体63の真空容器大気側表面に、該高周波アンテナ導体の長手方向に垂直な複数本の溝を形成したが、表面の凹凸加工は高周波電流の伝搬に対して高インピーダンスになるような加工であればよく、本実施例に限定されるものではない。
図10の(a)及び(b)に示すように、高周波アンテナ導体63の真空容器外側表面にハニカムパターン部61Aを形成することによっても、高周波電流の伝搬を抑制することができる。また、このようなハニカムパターン構造を用いることにより、アンテナ導体の機械的強度を保持しながら軽量化を図ることができる。
【0049】
高周波アンテナ導体として抵抗率の高い鉄−クロム系合金(ステンレス鋼)等を基材として用い、その表面の必要な部分に低抵抗率の金属層を形成することができる。更に、前記高周波アンテナ導体の基材として絶縁物であるセラミックス材等を用い、そのプラズマ室側表面に低抵抗率の金属層を形成することもできる。この場合は、高周波電流はプラズマ室側表面にのみ流れ、高密度プラズマの生成に極めて有効である。前記セラミックス材としては、石英、アルミナ、炭化珪素など酸化物、窒化物、炭化物、又はフッ化物を用いることができる。
【実施例5】
【0050】
第5の実施例のプラズマ生成装置における高周波アンテナ付近の構成につき、要部概略断面を
図11の(a)及び(b)に示す。本実施例の高周波アンテナ付近の構成は、実施例4とほぼ同様であるが、第4実施例のものとは形状が異なる絶縁碍子枠体64Aを真空容器の器壁に設けた開口部に嵌め込む構成にした。また、高周波アンテナ導体63のプラズマ室側表面を鏡面仕上げにして、高周波アンテナ導体63のプラズマ室側表面のインピーダンスを低くすると共に、この高周波アンテナ導体63と絶縁碍子枠体64Aとを真空シール65を介挿して固定し、一体化させた構成とした。この構成によって、高周波アンテナ導体63のプラズマ室側表面を、真空容器内壁面と同一面(
図11(a))、又は真空容器内壁面よりプラズマ室側に突出(
図11(b))した構成とすることができ、プラズマ室に高密度のプラズマを効率よく生成させることができる。また、高周波アンテナ導体63の脱着や装置の保守点検を容易に行うことができる。
【0051】
本実施例では、前記高周波アンテナ導体63のプラズマ室側表面に遮蔽板67として、厚さ0.6mm、抵抗率1000〜4000Ωcmのn型高純度シリコン板を絶縁碍子枠体64Aによって挟持させた。シリコン板を遮蔽板として用いることによる高周波パワー吸収効率の変化は2%以下で、殆ど影響はなく、高周波アンテナ導体とプラズマとの直接の接触を遮断できる。このように高純度シリコン板を用いることにより、アンテナ導体材料がスパッタされることを防ぐことができるとともに、例えばポリシリコン薄膜を生成する場合において、遮蔽板がスパッタされることによる不純物原子の混入を回避することができる。遮蔽板67としては高純度シリコン板に限定されるものではなく、石英板など誘電体板を用いることもできる。また、誘電体板表面に高純度シリコン膜を被覆して用いることもできる。
【0052】
本発明に係るプラズマ生成装置は、絶縁碍子枠体64A及び板状の高周波アンテナ導体63によって真空容器内外の気圧差に耐える構造であるため、高周波アンテナ導体のプラズマ室側表面に設ける遮蔽板67は機械的強度を必要とせず、極めて薄い誘電体板或いは誘電体層を用いることができる。従って、当該誘電体板或いは誘電体層での電力損失を低減でき、プラズマの生成効率の向上に有効である。また、高周波アンテナ導体63と絶縁碍子枠体64Aを、真空容器11の壁面に設けられた開口部19に嵌め込む構成を用いることによって、高周波アンテナ導体と真空容器との間の電気容量を低減することができ、容量結合による高周波電力の損失を抑制することができる。
【実施例6】
【0053】
本発明に係る第6実施例のプラズマ生成装置の概略断面図を
図12に示す。本実施例のプラズマ生成装置は、真空容器11の天板に、ほぼ並行に配置した5個の長方形開口部191〜195を設け、絶縁碍子枠体64Aを介挿して高周波アンテナ導体731〜735を装着している。プラズマを生成するための原料ガスは、真空容器内に導入されたガス管24の管壁に一定間隔で設けた細孔(図示せず)から供給される。真空容器内11は排気口25に接続された真空ポンプ(図示せず)によって排気される。真空容器11内に基板支持台29を設け、その表面に基板Sが載置されている。基板支持台29には必要に応じて、基板加熱用のヒーター(図示せず)を設け、基板温度を調整することができる。
【0054】
第6実施例のプラズマ生成装置における高周波アンテナ付近の構成につき、要部概略図を
図13に示す。
図13の(a)には高周波アンテナ導体周辺の概略平面図を、(b)にはA−A’断面図を、(c)には断面部分の拡大図を示す。
【0055】
図13(a)に示すように、5個の高周波アンテナ導体731〜735の端部は、銅板製の給電バー74と電気的に接続されており、給電バー74の中央部にマッチングボックス21を介して接続された高周波電源20(13.56MHz)から、高周波電力を供給される。一方、高周波アンテナ導体731〜735の他方の端部は銅板製の接地バー75で電気的に接続され、該接地バー75の両端部を接地電位にある真空容器11の天板に接続されている。
【0056】
上記の接続により、給電バー74及び接地バー75を含めた各高周波アンテナ導体731〜735に流れる高周波電流の電流路を実質的に同一の長さにすることができる。従って、各高周波アンテナ導体731〜735のインピーダンスはほぼ同一となり、プラズマ室に均一な密度のプラズマを生成することができる。本発明によれば、1台の高周波電源とマッチングボックスによって複数個のアンテナ導体にほぼ均一な高周波電流を流すことができ、安価なプラズマ処理装置を提供することが可能になる。以下、複数の高周波アンテナ導体を1組とした構成のことを「高周波アンテナ構成体」と呼ぶことにする。
【0057】
なお、
図13(c)に示す高周波アンテナ導体731の周辺の構成は、高周波アンテナ導体731の真空容器大気側表面に凹凸部が設けられていない点を除いて実施例5と同じであり、高周波アンテナ導体731のプラズマ室側表面が、真空容器の内壁面と同一の面上にあるよう構成されている。
【0058】
本実施例の変形例を
図14に示す。
図14では、5個の高周波アンテナ導体の一方の端部が給電バー74Aによって、もう一方の端部が接地バー75Aによって電気的に接続されている。また、高周波電源20は、給電バー74Aの一方の端に、マッチングボックス21を介して接続されており、接地バー75Aの接地は、高周波電源20が接続された側の高周波アンテナ導体731から数えて最終番目側(高周波アンテナ導体735側)の端部で行われている。このような構成を用いることにより、各高周波アンテナ導体731〜735のインピーダンスをほぼ同一とすることができ、各高周波アンテナ導体に流れる高周波電流をほぼ同一にすることができる。
【0059】
更に、
図14に示すように、モード切り替えスイッチ80を介して接地バー75Aを接地する。このモード切り替えスイッチ80をオフにして高周波アンテナ導体731〜735を接地状態から開放することにより、プラズマのモードを誘導結合プラズマから容量結合プラズマに切り替えることができる。プラズマのモードを容量結合プラズマに切り替えることによって、スパッタリング又はエッチングによって、高周波アンテナ導体表面又は遮蔽板表面に堆積した堆積物を除去することが容易になる効果がある。また、モード切り替えスイッチ80をオフの状態からオンの状態に戻すことで、プラズマのモードを容量結合プラズマから誘導結合プラズマに戻すことができる。なお、このような高周波アンテナ導体の接地状態の切り替えによるプラズマのモード切り替えは、他の実施例でも行うことができる。
【実施例7】
【0060】
第7の実施例における高周波アンテナ構成体付近の構成につき、要部概略平面図を
図15に示す。本実施例では、高周波アンテナ導体731〜735の長手方向の長さを、実施例6の2倍の1200mmとしている。5個の長方形開口部191〜195と5本の長方形高周波アンテナ導体731〜735は一定の間隔でほぼ並行に配置されており、高周波アンテナ導体731〜735の中央部は給電バー74Bによって電気的に接続され、高周波アンテナ導体731〜735の長手方向の両端部はそれぞれ接地バー75Bによって電気的に接続されている。高周波電源20は、給電バーの一端にマッチングボックス21を介して接続され、接地バー75Bの接地は、高周波電源20が接続された側の高周波アンテナ導体731から数えて最終番目側(高周波アンテナ導体735側)の端部で行われている。このような構成を用いることにより、給電バー及び接地バーを含めた各高周波アンテナ導体731〜735のインピーダンスをほぼ同一にすることができ、各高周波アンテナ導体に流れる高周波電流をほぼ同一にすることができる。また、各高周波アンテナ導体のインピーダンスを増加させることなく、プラズマ生成領域をほぼ2倍に拡張することができる。
【0061】
また、本実施例の第1の変形例として、
図15に示す高周波アンテナ構成体において、給電バーと接地バーの配置を入れ替えることができる。この場合、接地バーは1本、給電バーは2本になるため、接地バーの接地点77は1点のみとなり、給電バーの給電点76は2点となる(
図16(a)及び(b))。高周波電源及びマッチングボックスは
図16(a)に示すように各給電点76にそれぞれ1組ずつ設けても良いし、
図16(b)に示すように1組の高周波電源及びマッチングボックスを各給電点に接続する構成であっても良い。このような構成によっても、上記実施例と同様に給電バー及び接地バーを含めた各高周波アンテナ導体731〜735のインピーダンスをほぼ同一にすることができ、各高周波アンテナ導体に流れる高周波電流をほぼ同一にすることができる。
【0062】
さらに、本実施例の第2の変形例として、
図17に示すように、給電点76を給電バー74Bの中央部に設け、接地点77を2本の接地バーの両端部すべてに設けるという構成を用いることにより、各高周波アンテナ導体のインピーダンス及びアンテナ導体に流れる高周波電流をほぼ同一にすることができる。
【0063】
さらに、これらの高周波アンテナ構成体は、一定の間隔で複数設置することができる。これにより、大面積のプラズマ生成装置、或いはプラズマ処理装置を提供することができる。
【実施例8】
【0064】
第8の実施例のプラズマ生成装置における高周波アンテナ付近の構成につき、要部概略断面を
図18に示す。本実施例では、
図18に示すように、3個以上の高周波アンテナ導体からなる高周波アンテナ構成体の少なくとも両端のアンテナ導体の表面が、前記両端より内側のアンテナ導体の方向に傾斜している。このように、両端部のアンテナ導体の表面を中央部に向かって傾斜させることによって、アンテナ構成体両端部の電子密度の低減を補償することができ、全面にわたってほぼ一様な密度のプラズマを生成することができる。
【0065】
これまでの実施例では、周波数13.56MHzの高周波電力を用いたが、この周波数に限られるものではなく、500MHzといった高い周波数のものや13.56MHz以下のものも使用することができる。しかし、均一な密度のプラズマを生成するには、高周波電力の当該周波数の真空波長を前記長方形高周波アンテナ導体の長手方向の長さの8倍以上とした方が良い。
【0066】
また、これまで真空容器の上面(天板)の一部に開口部を設けた例を示したが、
図19に示すように、天板全体を高周波アンテナ導体53として用いることもできる。また、ここまでに述べたものと同様の高周波アンテナ導体を真空容器の側面に設けてもよい。さらに、複数の高周波アンテナ導体を用いる場合、高周波電源及びマッチングボックスは、高周波アンテナ導体のそれぞれに1台ずつ接続させる構成としても良く(
図20)、長方形以外の形状の高周波アンテナ導体を用いても良い。
【符号の説明】
【0067】
11…真空容器
12…フランジ
13、33、43、53、63、731、732、733、734、735…高周波アンテナ導体
14、44、64、64A…絶縁碍子枠体
15…第1真空シール
16…第2真空シール
17、47、67…誘電体遮蔽板
18…磁界発生装置
19、191、192、193、194、195、49…開口部
20…高周波電源
21…マッチングボックス
22…冷却水流路
23…切欠部
24…ガス管
25…排気口
29…基体台
30…突起部
40…ラングミュアプローブ
61…凹凸部
61A…ハニカムパターン部
62…銅箔
65…真空シール
74、74A、74B…給電バー
75、75A、75B…接地バー
76…給電点
77…接地点
80…モード切り替えスイッチ