特許第5747243号(P5747243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747243
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】温間加工用鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20150618BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20150618BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   C22C38/00 301A
   C22C38/44
   C21D8/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2009-239122(P2009-239122)
(22)【出願日】2009年10月16日
(65)【公開番号】特開2011-84784(P2011-84784A)
(43)【公開日】2011年4月28日
【審査請求日】2012年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】木村 勇次
(72)【発明者】
【氏名】津崎 兼彰
(72)【発明者】
【氏名】井上 忠信
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−194548(JP,A)
【文献】 特許第5344454(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/00− 8/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、
P:0.03mass%超、0.1mass%未満、
C:0.37mass%以上0.44mass%以下
Si:0.15mass%以上0.35mass%以下、
Mn:0.55mass%以上0.95mass%以下、
Cr:0.85mass%以上1.25mass%以下、

Mo:0.15mass%以上0.35mass%以下
Ni:0.25%以下、
残部はFeおよび不可避的不純物である鋼材であって、
前記鋼材は<011>//RD(圧延方向)集合組織を呈する粒子分散型繊維状結晶粒組織からなり、基地組織を成す繊維状フェライト結晶の短軸の平均粒径が3μm以下で、第2相分散粒子が7×10−3以上12×10−2以下の体積率で基地組織内に微細に分散され、鋼材の室温におけるビッカース硬さがHV3.7×10以上である鋼材を創製するための温間加工用鋼であって、
350℃以上Ac1点以下の所定の温度域において温間加工により粒子分散型繊維組織が生成することを特徴とする温間加工用鋼。
【請求項2】
化学組成が、
P:0.03mass%超、0.1mass%未満、
C:0.38mass%以上0.43mass%以下
Si:0.15mass%以上0.35mass%以下、
Mn:0.60mass%以上0.90mass%以下、
Cr:0.90mass%以上1.20mass%以下、

Mo:0.15mass%以上0.30mass%以下
Ni:0.25%以下、
残部はFeおよび不可避的不純物である鋼材であって、
前記鋼材は<011>//RD(圧延方向)集合組織を呈する粒子分散型繊維状結晶粒組織からなり、基地組織を成す繊維状フェライト結晶の短軸の平均粒径が3μm以下で、第2相分散粒子が7×10−3以上12×10−2以下の体積率で基地組織内に微細に分散され、鋼材の室温におけるビッカース硬さがHV3.7×10以上である鋼材を創製するための温間加工用鋼であって、
350℃以上Ac1点以下の所定の温度域において温間加工により粒子分散型繊維組織が生成することを特徴とする温間加工用鋼。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の温間加工用鋼において、前記基地組織は、短軸の平均粒径が1μm以下の繊維状フェライト結晶からなることを特徴とする温間加工用鋼。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の温間加工用鋼において、前記基地組織は、短軸の平均粒径が0.5μm以下の繊維状フェライト結晶からなることを特徴とする温間加工用鋼。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれかに1項に記載の温間加工用鋼において、第2相分散粒子の長軸の平均粒径が0.1μm以下であることを特徴とする温間加工用鋼。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれかに1項に記載の温間加工用鋼において、基地組織の80体積%以上がマルテンサイトとベイナイトのいずれか単独組織、あるいはこれらの混合組織となっており、前記温度域において下記式(1)で表される焼戻しパラメーターλ
λ=T(logt+20)(T;温度(K)、t;時間(hr))・・・(1)
が1.4×10以上となる条件で無加工のままで焼戻し処理を施すことにより、ビッカース硬さ(HV)が下記式(2)の硬さH以上となる焼戻軟化抵抗を有し、前記焼戻し処理を施すことにより、室温における第2相分散粒子の総量が体積率として7×10−3以上12×10−2以下となるように、前記第2相分散粒子を析出、分散させる合金元素を含有していることを特徴とする温間加工用鋼。
H=(5.2−1.2×10−4λ)×10・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、350℃以上Ac1点以下の所定の温度域において温間加工により粒子分散型繊維組織が生成する温間加工用鋼に関する。
【背景技術】
【0002】

この種鋼は、本願発明者たちが、既に特許文献1(PCT/JP2006/323248)に示すように、1.2GPa以上の引張強さを有し、延性、耐遅れ破壊性に優れ、靱性が飛躍的に向上された温間加工用の高強度鋼として開発したものである。
当該発明では、高強度鋼の一般に倣い、リン(P)の含有量を0.03mass%以下とするのが望ましいとした。
【0003】
Pの添加は鋼の焼入性を向上させて高強度鋼の利用範囲をさらに広げる点では望まれるところであるが、高強度鋼を脆化させるため極力低減すべきものとされていたのが本願の出願時の技術常識であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実情に鑑み、これまで不純物元素として精錬で極力取り除かれていたPを焼入性を高める合金元素として有効に使い、かつ良好な靭性が得られる温間加工用鋼を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、特許文献1に示す粒子分散型繊維状組織を有する高強度鋼で、Pの含有量がどのように影響するのかを詳細に調べ、その結果、得られた知見によるものである。
【0006】

発明1の温間加工用鋼は、化学組成が、P:0.03mass%超、0.1mass%未満、C:0.37mass%以上0.44mass%以下、Si:0.15mass%以上0.35mass%以下、Mn:0.55mass%以上0.95mass%以下、Cr:0.85mass%以上1.25mass%以下、Mo:0.15mass%以上0.35mass%以下Ni:0.25%以下、残部はFeおよび不可避的不純物である鋼材であって、前記鋼材は<011>//RD(圧延方向)集合組織を呈する粒子分散型繊維状結晶粒組織からなり、基地組織を成す繊維状フェライト結晶の短軸の平均粒径が3μm以下で、第2相分散粒子が7×10−3以上12×10−2以下の体積率で基地組織内に微細に分散され、鋼材の室温におけるビッカース硬さがHV3.7×10以上である鋼材を創製するための温間加工用鋼であって、350℃以上Ac1点以下の所定の温度域において温間加工により粒子分散型繊維組織が生成する温間加工用鋼であることを特徴とする。
発明2の温間加工用鋼は、化学組成が、P:0.03mass%超、0.1mass%未満、C:0.38mass%以上0.43mass%以下、Si:0.15mass%以上0.35mass%以下、Mn:0.60mass%以上0.90mass%以下、Cr:0.90mass%以上1.20mass%以下、Mo:0.15mass%以上0.30mass%以下Ni:0.25%以下、残部はFeおよび不可避的不純物である鋼材であって、前記鋼材は<011>//RD(圧延方向)集合組織を呈する粒子分散型繊維状結晶粒組織からなり、基地組織を成す繊維状フェライト結晶の短軸の平均粒径が3μm以下で、第2相分散粒子が7×10−3以上12×10−2以下の体積率で基地組織内に微細に分散され、鋼材の室温におけるビッカース硬さがHV3.7×10以上である鋼材を創製するための温間加工用鋼であって、350℃以上Ac1点以下の所定の温度域において温間加工により粒子分散型繊維組織が生成する温間加工用鋼であることを特徴とする。
発明1又は2の温間加工用鋼において、好ましくは、前記基地組織は、短軸の平均粒径が1μm以下の繊維状フェライト結晶からなるとよい。
発明1又は2の温間加工用鋼において、好ましくは、前記基地組織は、短軸の平均粒径が0.5μm以下の繊維状フェライト結晶からなるとよい。
上記発明の温間加工用鋼において、好ましくは、第2相分散粒子の長軸の平均粒径が0.1μm以下であるとよい。
【0007】

発明は発明1又は2の温間加工用鋼において、基地組織の80体積%以上がマルテンサイトとベイナイトのいずれか単独組織、あるいはこれらの混合組織となっており、前記温度域において下記式(1)で表される焼戻しパラメーターλ
λ=T(logt+20)(T;温度(K)、t;時間(hr))・・・(1)
が1.4×10以上となる条件で無加工のままで焼戻し処理を施すことにより、ビッカース硬さ(HV)が下記式(2)の硬さH以上となる焼戻軟化抵抗を有し、前記焼戻し処理を施すことにより、室温における第2相分散粒子の総量が体積率として7×10−3以上12×10−2以下となるように、前記第2相分散粒子を析出、分散させる合金元素を含有していることを特徴とする。
H=(5.2−1.2×10−4λ)×10・・・(2)
【発明の効果】
【0008】
上記により、従来には、避けられていたPをあえて適量含有することにより、高強度鋼の焼入性を著しく向上することができた。さらに、発明とすることで、鋼を加熱した場合の軟化抵抗性、すなわち基地組織および第2相分散粒子の熱的安定性と総量とを制御することで、温間加工に供した場合に粒子分散型繊維状組織を生成でき、温間加工後のビッカース硬さを3.7×10以上にすることができるものである。この結果、1.2GPa以上の引張強度を常温において維持向上しながら、その靱性を飛躍的に向上できる温間加工用鋼を提供することができた。
さらに、リンの高含有は、焼入れ性を高めるとともに、従来はリンが高含有されているスクラップの使用は、この種高強度鋼には使用不可能とされていたが、それを用いることを可能とするものであり、いずれにしても、高強度鋼の生産性を向上する効果を有するものである。

【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は焼戻硬さとT(logt+20)=λの関係を例示した図であり、Tは焼戻温度(K)、tは焼戻時間(hr)である。
図2図2は、高P材(開発鋼)の超微細繊維組織を例示した図である。
図3図3は、吸収エネルギーとP量との関係を例示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下、本発明の要件等について詳しく説明する。
【0011】
本発明は、350℃以上Ac1点以下の所定の温度域において温間加工により粒子分散型繊維組織が生成する温間加工用鋼である。
好ましくは、下記式(1)で表されるパラメーターλ
λ=T(logt+20)(T;温度(K)、t;時間(hr))・・・(1)
が1.4×10以上、より好ましくは1.5×10以上となる条件で、無加工のままで焼鈍、焼戻し、時効処理のいずれかの熱処理を施した場合の室温における第2相分散粒子の総量が体積率として7×10−3以上となる合金成分又は/及び第2相分散粒子を含有し、かつビッカース硬さ(HV)が下記式(2)の硬さH
H=(5.2−1.2×10−4λ)×10・・・(2)
以上を示すことが望ましい。
本発明の温間加工用鋼は、これに施す温間加工中に第2相分散粒子の分散状態や基地組織が変化するため、温間加工の熱履歴を模擬した熱処理で得られる無加工材の硬さ(組織)に対して式(2)の下限を設定することで、構成されている。すなわち、以下に説明するとおり、硬さにより組織状態を表すものである。
(a)温間加工用鋼の組織
温間加工により複相組織鋼の高強度化と靭性の向上を同時に達成するには、できるだけ少量でかつ微細な第2相分散粒子の分散による強化と、基地組織の微細化および繊維組織化を同時に行えることが望まれる。そしてこの超微細複相組織化を達成するには、素材である温間加工用鋼における第2相分散粒子の微細分散または微細分散能が重要である。
【0012】
本願発明において、第2相分散粒子の微細分散または微細分散能については、
(i)温間加工用鋼において既に第2相分散粒子が分散している
(ii)温間加工用鋼において第2相分散粒子は分散していないが、温間加工中に第2相分散粒子が1種または2種以上析出し、加工処理後に粒子分散型繊維組織が形成される
(iii)温間加工用鋼において既に第2相分散粒子が分散しているが、温間加工中にそれとは別の粒子が析出する
の3通りを考慮することができる。
【0013】
そして、第2相分散粒子による分散(析出)強化は、第2相分散粒子の体積率、粒子の大きさ、硬さや形状等の分散状態に依存する。分散強化がOrowan機構による場合、下記の式(A)(「鉄鋼の析出制御メタラジー最前線(日本鉄鋼協会)(2001)P.69」)より、粒子径(d)が小さくて、体積率(f)が大きいほど分散強化量は大きくなる。すなわち、第2相分散粒子の分散状態(および分散能)は硬さと密接な関係を有することになる。
【0014】
Δσ=(3.2Gb)/[(0.9f−1/2−0.8)d] ・・・(A)
ここで、Gは鋼の剛性率80GPa、bはバーガースペクトル0.25nmである。
ところが、粒子がある臨界粒子径よりも小さくなりすぎると転位が粒子によってピン止めされなくなり、転位によって粒子がせん断されるようになるためOrowan機構が成立しなくなる。転位によって粒子がせん断される、いわゆるCutting機構では粒子径が大きくなるほど分散強化量は増加する。すなわちOrowan機構が成立する最小粒子径で最大の分散強化量が得られることになる。最大の分散強化が達成できる最小粒子径は粒子の硬さに依存し、粒子の硬さに逆比例して小さくなる(鉄鋼の析出制御メタラジー最前線(日本鉄鋼協会)(2001)P.69)。したがって、同一体積率で比較した場合、硬い粒子ほどOrowan機構が成立する最小粒子径も小さくなるため最大の粒子分散強化量も大きくなる。
【0015】

たとえば、TiCは合金炭化物の中でも高い硬度を有し、密度も小さいことから有効な分散粒子強化が行えることが知られている。いま、TiCでOrowan機構の適用できる最小粒子径として7nmが得られるとすれば、7×10−3の体積率の分散で0.9GPa程度(TS(GPa)≒0.0032HV,HV2.8×10)の粒子分散強化量が期待できる。ちなみに、TiCの密度が4.94Mg/m、Tiの原子量47.9、Cの原子量12では、体積率7×10−3のTiCを析出させるのに必要なTiは0.35mass%、Cは0.087mass%となる。加えて、実用フェライト鋼の基地の強度は0.3GPa(約HV0.9×10)程度であるので、フェライト基地中に上記TiCが分散した鋼の室温強度は1.2GPa以上(HV3.7×10以上)と予想される。よって、TiCについて理想的な分散状態を考察すると、Orowan機構が適用できる分散粒子では大きさが7nmあれば7×10−3の少量の体積率での分散強化のみでもHV3.7×10を十分に満足できることになる。これは、炭窒化物、金属間化合物、酸化物、Cu粒子等からなる第2相分散粒子についても同様の効果が期待できる。
【0016】
MoやTiなどの金属炭化物粒子は一般に10nm前後の大きさであり、体積率が10×10−3未満の少量の分散によっても高強度化が有効に図れることは知られている。ただし、合金元素等の偏析等によって第2相分散粒子の大きさや基地組織中での分布にもばらつきがある。よって、本発明においては、第2相分散粒子の分布のばらつきがあっても温間加工により微細な結晶組織が安定して得られるように考慮して、第2相分散粒子の室温における体積率を7×10−3以上と規定している。なお、低合金マルテンサイト鋼やベイトナイト鋼については、温間加工前の一般的なセメンタイト(FeC)の平均粒子径が数十nm以上であることを考慮すれば、第2相分散粒子の体積率を20×10−3以上とするのが好ましい。
【0017】
また、高強度化を図る上で第2相分散粒子の体積率の上限は特に制限しないが、靭性を考慮すれば、12×10−2以下とすることが好ましい。また、Orowan機構による粒子分散強化は、(A)式から、数十nm以下の領域で顕著になることが予想され、平均粒子径が0.5μmより大きな第2相分散粒子の分散状態では1.2GPa以上の強度が得られにくい。よって、第2相分散粒子の平均粒子径は0.5μm以下、より好ましくは0.1μm以下であることが温間加工用鋼として望まれる。
【0018】
ただし、上記条件は350℃の焼戻第3段階以上の温度域でも第2相分散粒子が成長しないことを前提としている。つまり、温間加工後も1.2GPa以上の強度を有するためには、加熱、加工中ならびに加工後に基地組織に加え、特に第2相分散粒子が著しくオストワルド成長して強度が低下しないことが必要条件となる。よって、一般に焼戻パラメーターとして知られている次の(1)式で表されるλを指標として組織の熱的安定性を評価した場合、350℃以上Ac1点以下の所定の温度域において、λ≧1.4×10の条件で、無加工のままで少なくとも焼鈍、焼戻し、時効のいずれかの熱処理を施した場合の室温におけるビッカース硬さ(HV)が下記式(2)で与えられる硬さH以上となるような軟化抵抗を示すことが前加工組織、すなわち本発明の温間加工用鋼としての必要十分条件であると考えることができる。
【0019】
λ=T(logt+20)・・・(1)
ここで、Tは温度(K)、tは時間(h)である。
【0020】
H=(5.2−1.2×10−4λ)×10・・・(2)
なお、所定の温度域においてとは、350℃からAc1点のいずれかの温度で上記条件を満たせばよいことを示し、すべての温度域にわたって上記条件を満たす必要は無いことを意味している。つまり、時効または焼戻処理した場合に、素材が顕著な時効硬化や2次硬化を起こして上記範囲内のある温度域に限って硬さH以上となる場合も、本発明の温間加工用鋼とすることができる。
【0021】
このように、TiC炭化物の理想分散状態による分散強化を基に、温間加工により1.2GPa上の引張強さを有する超微細複相組織を得るには、第2相分散粒子の体積率の下限値を7×10−3とし、かつT(logt+20)≧1.4×10の条件で焼鈍、焼戻し、時効のいずれかの熱処理後の鋼の硬さがHV≧(5.2−1.2×10−4λ)×10を有することを前加工組織の必要十分条件としている。すなわち、温間加工用鋼として、第2相分散粒子を基地組織中に粒子分散強化粒子として微細に分散又は析出させること、および第2相分散粒子の熱的安定性を高める組織制御が、本発明の特徴である。
【0022】
以上のような本願発明の温間加工用鋼の組織については、温間加工の処理中に第2相分散粒子の分散状態や基地組織が種々変化されるため、室温の組織形態で限定されることはないが、実際的には、パーライト組織を主組織とする鋼を除く、強度1.2GPa以上の鋼をすべて温間加工用鋼として考慮することができる。このようなものとしては、例えば、具体的には、マルテンサイト鋼(焼戻マルテンサイト組織)ではJIS−G4053の低合金鋼、JIS−G−4801のばね鋼や、それ以上の強度レベルの2次硬化鋼、マルエージ鋼、TRIP鋼、オースフォームド鋼等である。
【0023】
そして、本発明の第2の温間加工用鋼は、基地組織の80体積%以上をマルテンサイトとベイナイトのいずれかの単独組織あるいはこれらの混合組織とするようにしている。これは、中炭素低合金鋼では、マルテンサイトの有効結晶粒とされるブロックの幅が1μm以下である(Scripta Mater.,49(2003),P.1157)ことが最近の研究で明らかになっており、炭化物等を微細に分散した焼戻マルテンサイト組織に温間加工を施すことで繊維組織を効率よく形成できることに加え、ベイナイト組織も炭化物が微細に分散した針状や板状の組織形態を有しており、これを前加工組織とした場合も同様に繊維状組織を得ることができるためである。本発明の温間加工用鋼においては、このようなマルテンサイトとベイナイトのいずれかの単独組織あるいはこれらの混合組織が、基地組織の90体積%以上であることをより好ましい形態としている。
とくに温間加工後に1.2GPa以上の強度を安定して維持するためには、JIS−SCM430鋼の焼戻マルテンサイト鋼と同等あるいはそれ以上の焼戻軟化抵抗を有するマルテンサイトまたはベイナイト組織を80%以上含むことが望ましい。なお、マルテンサイト又はベイナイトおよびこれらの混合組織以外の20体積%以下は、フェライト、パーライト、オーステナイト組織など、如何なる組織であってもよい。というのは、このようなフェライト、パーライト、オーステナイト組織等は温間加工熱処理中に分解・消失したり、微細な組織へと変化するため20体積%以下であれば問題ないと判断されるためである。
【0024】

(b)化学組成
本発明の温間加工用鋼は、上記知見に基づいて合金設計されたものであり、その要旨とするところは、化学組成として、P:0.03mass%超0.1mass%未満、C:0.70mass%以下、Si:0.05mass%以上、Mn:0.05mass%以上、Cr:0.01mass%以上、Al:0.5mass%以下、O:0.3mass%以下、N:0.3mass%以下を含有し、残部は実質的にFe及び不可避的不純物であることを特徴とする温間加工用鋼である。また、この温間加工用鋼は、さらに、Mo:5.0mass%以下、W:5.0mass%以下、V:5.0mass%以下、Ti:3.0mass%以下、Nb:1.0mass%以下、Ta:1.0mass%以下から成る群より選ばれる1種又は2種以上を含有することや、Ni:9.0mass%以下、Cu:2.0mass%以下の1種又は2種を含有することなどを考慮することができる。以下に、本発明における鋼の成分組織の限定理由について述べる。
【0025】
C:Cは炭化物粒子を形成し、強度増加に最も有効な成分であるが、0.70mass%を超えると靱性劣化を招くことから、含有量を0.70mass%以下とした。強度増加を充分に期待するためには、好ましくは、0.08mass%以上、より好ましくは0.15mass%以上を含有させる。
【0026】
Si:Siは脱酸およびフェライト中に固溶して鋼の強度を高めるとともにセメンタイトを微細に分散させるのに有効な元素である。従って、脱酸材として添加したもので鋼中に残るものも含め、含有量を0.05mass%以上とする。高強度化を図る上で上限は特に制限しないが、鋼材の加工性を考慮すれば、2.5mass%以下とすることが好ましい。
【0027】
Mn:Mnはオーステナイト化温度を低下させオーステナイトの微細化に有効であるとともに、焼入れ性ならびにセメンタイト中に固溶してセメンタイトの粗大化を抑制するのに有効な元素である。0.05mass%未満では所望の効果が得られないため、0.05mass%以上と定めた。より好ましくは0.2mass%以上を含有させる。高強度化を図る上で上限は特に制限しないが、得られる鋼材の靭性を考慮すれば、3.0mass%以下とすることが好ましい。
【0028】
Cr:Crは焼入れ性向上に有効な元素であるとともにセメンタイト中に固溶してセメンタイトの成長を遅滞させる作用が強い元素である。また、比較的多く添加することでセメンタイトよりも熱的に安定な高Cr炭化物を形成したり、耐食性を向上させる、本発明では重要な元素のひとつでもある。従って、少なくとも0.01mass%以上含有させる必要がある。好ましくは0.1mass%以上であって、より好ましくは0.8mass%以上を含有させる。
【0029】
Al:Alは脱酸およびNiなどの元素と金属間化合物を形成して鋼の強度を高めるのに有効な元素である。ただし過剰な添加は靱性を低下させるため、0.5mass%以下とした。なお、Alと他の元素の金属間化合物やAlの窒化物や酸化物などを第2相分散粒子として利用しない場合は、0.02mass%以下、さらに限定的には0.01mass%以下とすることが好ましい。
【0030】
O:O(酸素)は酸化物として微細で均一に分散させることができれば、介在物ではなく、粒成長抑制や分散強化粒子として有効に作用する。ただし、過剰に含有させると靱性を低下させるので0.3mass%以下とした。酸化物を第2相分散粒子として利用しない場合は、0.01mass%以下とすることが好ましい。
【0031】
N:N(窒素)は窒化物として微細で均一に分散させることができれば、粒成長抑制粒子や分散強化粒子として有効に作用する。ただし、過剰に含有させると靱性を低下させるので0.3mass%以下とした。窒化物を第2相分散粒子として利用しない場合は、0.01mass%以下とすることが好ましい。
【0032】
Mo:Moは本発明において鋼の高強度化に有効な元素であり、鋼の焼入れ性向上を向上させるだけでなく、セメンタイト中にも少量固溶してセメンタイトを熱的に安定にする。とくにセメンタイトとはまったく別個に基地相中に新しく転位上に合金炭化物を核生成(separate nucleation)することで2次硬化を起こして鋼を強化する。しかも形成された合金炭化物は微細粒化に有効であると共に水素の置換にも有効である。したがって、好ましくは0.1mass%以上、より好ましくは0.5mass%以上を含有させるが、高価な元素であるとともに過剰な添加は粗大な未固溶炭化物または金属間化合物を形成して靱性を劣化させるため、添加量の上限を5mass%に定めた。経済性の観点からは、2mass%以下、若しくは含有しないことが好ましい。
【0033】
なお、W、V、Ti、NbならびにTaについてもMoと同様な効果を示し、それぞれ前記上限の添加量を定めた。さらにこれらの元素の複合添加は、分散強化粒子を微細に分散する上で有効である。
【0034】
Ni:Niは焼き入れ性の向上に有効であるとともに、オーステナイト化温度を低下させオーステナイトの微細化や靱性の向上、耐食性の向上に有効な元素である。また、適量を含有させればTiやAlと金属間化合物を形成して鋼を析出強化させるのにも有効な元素である。0.01mass%未満では所望の効果が得られないため、0.01mass%以上と定めた。より好ましくは0.2mass%以上を含有させる。上限については特に制限は無いが、高価な元素であるため、9mass%以下若しくは含有しないことが好ましい。
【0035】
Cu:Cuは熱間脆性を引き起こす有害な元素である反面、適量を添加すれば500℃〜600℃で微細なCu粒子の析出をもたらし、鋼を強化する。多量に添加すると熱間脆性を引き起こすので、フェライト中へのほぼ最大固溶量である2mass%以下とした。
【0036】
なお、微細な金属間化合物の析出による高強度化を意図する場合には、Co:15mass%以下を含有することも有効である。
【0037】
P:P(燐)は、0.03mass%以下であると、焼き入れ特性を改善する効果は認められないが、下記実施例のようにこれを超える量を含有させると、焼入性を大幅に向上することができた。
しかし0.1mass%未満、好ましくは0.08mass%以下より好ましくは0.07mass%以下、さらに好ましくは0.06以下とする。この上限を超えると粒界強度を低下させ、素材の作り込中に脆化を招くこととなる。
【0038】
S:S(硫黄)については特に規定されないが、Sは粒界強度を低下させるため極力取り除きたい元素であり、0.03mass%以下とすることが好ましい。
【0039】
なお、上記以外の元素についても、本発明の効果を下げない範囲で各種の元素が含有されることが許容される。
【0040】
(c)温間加工用鋼の調製
なお、以上のような温間加工用鋼の作製方法は、たとえば、JIS規格のマルテンサイト組織やベイナイト組織の製造方法等に準じて、多種多様なものを考慮することができる。
【0041】
(d)温間加工
本発明の温間加工方法は、上記いずれかの温間加工用鋼に対し、350℃以上Ac1点−20℃以下の温度域で、0.7以上のひずみを与える温間加工を施すことを特徴としている。温間加工を施した後、350℃以上Ac1点以下の温度域で時効、焼なまし処理を施すことも考慮される。
【0042】
このような加工温度について、より具体的には、例えば、一般機械構造用鋼として用いられている中炭素低合金鋼でマルテンサイト組織を基地とする場合では、セメンタイトが析出する焼戻第3段階にほぼ相当する350℃温度以上とすることができる。特に、合金炭化物、金属間化合物やCuなどを第2相分散粒子として有効に利用するには、これらの第2相分散粒子の析出温度である500℃から650℃の温度域で加工することが望ましい。
【0043】
一方、加工中にオーステナイト変態した部分では冷却過程でパーライト変態やマルテンサイト変態などの相変態を起こし、その結果、割れ発生の原因となるような不均一な組織が形成される可能性が高い。また、加工発熱による温度上昇も考慮して、加工の上限温度はAc1点−20℃とした。ただし、素材の加工温度と時間の組み合わせとしては、焼戻パラメーターλで硬さを整理した場合、無加工のままで素材に焼鈍、焼戻し、時効処理のいずれかを施した場合に室温におけるビッカース硬さがHV3.7×10以下にならない組み合わせが温間加工後に1.2GPa以上の強度を得るために好ましい。とくに高温域での加工では、素材の軟化抵抗性と加熱時間を考慮に入れて加工に要する時間を短くする必要がある。
【0044】
組織の発達の度合いは、前加工組織、加工温度とひずみ量に依存する。つまり、前加工組織や加工温度によって必要なひずみ量も変わるためここでひずみ量を厳密に規定はできないが、材料内部に繊維状組織を形成させようとする場合には、0.7以上、より好ましくは1以上のひずみを付与することが好ましい。あらかじめオーステナイトの未再結晶温度域で加工を加えるなどして旧オーステナイト結晶粒を微細な繊維状に伸長させたマルテンサイトやベイナイト組織を有する温間加工用鋼に対しては、1より小さなひずみ量の付与で微細な繊維組織を均一に生成させることができる。しかしながら、おおよその場合において、ひずみ量は好ましくは1以上、さら好適には1.5以上とするのが望ましい。
【0045】
このとき、付与するひずみは1回の加工に限らず、複数回の加工に分けて導入しても良い。また、加工の方向は常に同じ方向に限定されない。さらに、パス間の時間も特に限定するものではない。さらに、被加工材の全域でなく、特定の領域(たとえば、高強度化が必要な表層や部品のR部など)に所定のひずみを付与することも含まれる。ただし、実際のひずみ量は被加工材の材料特性、ロール(鍛造であれば金型)と被加工材の摩擦条件(たとえば、潤滑剤の種類や有無など)、ロール(鍛造であれば金型)の変形、圧延(鍛造)速度、圧延(鍛造)温度などを考慮してはじめて理解できるものである。特に、鍛造によって部品成型を行う場合には、不均一なひずみが導入されていることは必須である。よって、ひずみの量を精度の高い数値解析技術によって予測することが望ましいが、一般的に平面ひずみ状態を前提とした板圧延の場合累積圧下率は45%以上、棒線圧延の場合累積減面率45%以上であれば、ひずみ0.7以上は被加工材の全域に導入されていると考えられる。なお、累積圧下率または累積減面率が58%以上であればひずみ1以上が被加工材の全域に導入されていると考えられる。ただし、たとえば、圧下率(減面率)45%未満であっても摩擦などの影響で0.7以上のひずみが被加工材の全域あるいは特定の領域に導入されることもあるので、その場合には数値解析によって導入されたひずみの量を定量的に検討することが必要である。
【0046】
(e)鋼材
本発明の鋼材は、上記のとおりに温間加工用鋼を温間加工して得られる鋼であって、短軸の平均粒径が3μm以下の繊維状結晶からなる基地組織を有し、第2相分散粒子が室温において7×10−3以上の体積率で基地組織内に微細に分散し、室温におけるビッカース硬さがHV3.7×10以上であることを特徴としている。なお、本発明の鋼材における基地組織は、伸展度(アスペクト比)が2を超え、代表的にはアスペクト比5以上の繊維状フェライト結晶からなり、これに第2相分散粒子が微細に分散されているものと理解することができる。
【0047】
鋼の機械的特性に及ぼす結晶粒微細化の効果は、数μm以下の結晶粒領域において顕著になることが知られており、本発明では繊維状結晶からなる基地組織の平均間隔(すなわち短軸平均粒径)の上限を3μmとしている。なお、ここで結晶粒とは、15°以上の結晶方位差の粒界で囲まれた基地の結晶粒である。一方、分散粒子の長軸の平均粒径が0.3μmより大きい場合では、粒子分散強化がほとんど望めないうえに、1.2GPa以上の鋼では靭性を著しく劣化される可能性が高い。よって、長軸の平均粒径が0.3μm以下であることが望ましい。
【0048】
とくに結晶粒微細化の効果は平均結晶粒径が1μm以下、Orowan機構による粒子分散強化は、平均粒子径が0.1μm以下の領域でとくに顕著になる。よって、結晶繊維状化による強化と粒子分散強化を重畳して有効に利用するには、さらに繊維状結晶の短軸平均粒径を1μm以下、さらには0.5μm以下とすることが有効である。そして、第2相分散粒子の長軸の平均粒子径も、基地組織の微細化に応じて0.1μm以下、さらには0.05μm以下とするのがより好ましい。
【0049】
このような温間加工鋼材では、上記強化機構の他に固溶強化ならびに転位強化などの強化機構も加えることができるものであり、これらの強化機構が重畳する効果によって上記強化機構の単純な加算では予測できないような高機能性の材料が得られるに至っている。
【0050】
このように微細な繊維組織は、板材を始めとし、棒線材、ボルトのネジ部等の温間成形によって形成することができる。とくに累積ひずみ量が小さい場合でも、局所的に強変形を被った表層部などに繊維組織を形成させることができ、各種の部品および所望の部分の特性を大幅に向上させることができる。
【0051】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この出願の発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0052】
表1に、本発明範囲の鋼成分(A)と範囲外の鋼成分(B)を示す。なお、鋼の基本成分はJIS−SCM440鋼の成分に準じる。AおよびB鋼で第2相分散粒子として分散し得るセメンタイトの体積率は、炭素量0.4mass%とセメンタイトの密度7.68Mg/m、基地フェライト鉄の密度7.86Mg/mから60×10−3と求めることができる。よって、A鋼とB鋼での大きな違いはP量のみである。
【0053】
【表1】
【0054】
まず、熱延鋼板または鍛造材から切り出した4cm角×長さ12cmの角材を断面積10cm、長さ19cmの角棒材に熱間圧延した後空冷した。角棒材は920℃で0.5時間のオーステナイト化後焼入れして、ほぼ100体積%に近いマルテンサイト単一組織を得た。なお、ここで重要なことはA材では空冷でもほぼ100%のマルテンサイト組織が得られるのに対し、B材では氷食塩水で水冷しないとマルテンサイト組織が得られないことである。すなわち、Pの添加によって鋼材の焼き入れ性を高めることができた。ついで角材は500℃まで0.5時間で加熱して1時間の焼戻しを施した後、溝ロールを用いて77%の減面率まで温間圧延加工を施してひずみを付与し、空冷した。温間加工材はさらに550℃で1時間焼なまし処理を行った(TF材)。また、比較のために温間加工材の一部を880℃から焼準処理したのち920℃で0.5時間のオーステナイト化処理後焼入れ、550℃で1時間焼戻しして前記温間加工材と同じ硬さの材料を用意した(QT材)。
【0055】
得られた鋼材の組織を、FE−SEMおよびEBSP分析装置を用い、圧延加工(RD)方向に平行な断面を研磨仕上げして観察した。繊維組織における伸長粒の短軸は、EBSP解析によって、15°以上の結晶方位差を有する伸長結晶粒の短軸の平均切片長さを切断法で測定した。
【0056】
得られた鋼材の硬さは、JIS Z 2244で規定されている試験方法に準じて、ビッカース硬さ試験機を用いて、荷重20kg、保持時間15sで測定した。
【0057】
引張試験は、JIS Z 2241で規定されている試験方法に準じて、1)平行部直径6mm、長さ42mm、評点間距離30mmのJIS14号A比例試験片について常温で行った。クロスヘッドスピードは、0.5mm/minであり、伸びは、島津ビデオ式非接触伸び計(DVE−201)で測定した。
【0058】
衝撃試験は、JIS Z 2242で規定されている試験方法に準じて、鋼材から切削加工で作製した長さ55mm、高さと幅が10mmのVノッチ試験片ついて行った。
【0059】
図1は、T(logt+20)=λと無加工のままの焼戻マルテンサイト鋼の硬さの関係を示したものである。
【0060】
A鋼、B鋼のいずれもセメンタイトの体積率が60×10−3であり、λ=1.4×10以上の焼戻処理では、硬さは図中に破線で示したH=(5.2−1.2×10−4λ)以上となり、350℃以上の温間加工によってHV3.7×10を達成できる。
【0061】
図2は、温間溝ロール加工して得られたA材の組織を解析した例を示す。Bcc相のEBSP解析図からわかるように、圧延方向に伸長した超微細繊維組織が得られている。15°以上の結晶方位差を有する結晶粒の短軸の平均粒径を切断法で測定した結果、伸長した結晶粒の短軸の平均粒径は、A−TF材、B−TF材でいずれも0.4μmであった。
【0062】
圧延方向(RD)に関する逆極点図から、<011>//RD集合組織が発達した繊維組織であることがわかる。なお、他の開発鋼についても同様の集合組織が形成されていた。Bcc鉄のへき開面は{100}であるため、このような<011>繊維組織の形成は繊維軸方向の引張変形や繊維方向に沿って曲げモーメントを受ける曲げ変形等による破壊には極めて有効であると考える。
【0063】
表2に、引張試験の結果をまとめる。
【0064】
【表2】
【0065】
図3に、吸収エネルギーとP量の関係を示した。QT材ではPの添加により靭性が著しく低下している。これに対して、温間加工材(粒子分散型繊維組織鋼(TF))ではP添加によっても靭性があまり低下しないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、以上詳しく説明したとおり、
これまで不純物として精錬で取り除かれていたPを焼入れ性を高める元素として有効に使用して少量の第2相分散粒子の微細分散によって複相化を図った高強度鋼、とりわけ軟質化が困難で難成形の超高強度鋼に対しても、変形抵抗が低下してかつ材料中に割れが生じない温度域で所定の変形を与えて所定の形状(薄板、厚板、棒線、部品)に成形することで、従来の球状化焼きなましや部品成型後の焼入れおよび焼戻し処理を省略すると同時に超微細複相組織を繊維状に発達させて高強度とトレードオフバランスの関係にある靱性を大幅に向上させた高強度鋼および部材を提供する。
【0067】
これらは、各種の構造物や自動車の部品等に加工して使用される鋼、もしくは部材として有用なものである。
図1
図2
図3