特許第5747258号(P5747258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747258
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】保温ケース
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/06 20060101AFI20150618BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20150618BHJP
   B65D 81/38 20060101ALI20150618BHJP
   B65D 25/20 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   B32B5/06 Z
   B32B5/28 Z
   B65D81/38 H
   B65D25/20 K
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-203979(P2014-203979)
(22)【出願日】2014年10月2日
(62)【分割の表示】特願2014-524980(P2014-524980)の分割
【原出願日】2014年1月8日
(65)【公開番号】特開2015-24661(P2015-24661A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2014年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-129691(P2013-129691)
(32)【優先日】2013年6月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513156571
【氏名又は名称】フタバ産商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 信樹
【審査官】 中尾 奈穂子
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3175500(JP,U)
【文献】 特開2007−210664(JP,A)
【文献】 実開平05−000637(JP,U)
【文献】 特開2007−022598(JP,A)
【文献】 特開2012−051647(JP,A)
【文献】 特開2013−092221(JP,A)
【文献】 特許第5629040(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65D 81/38
B65D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間に収容された対象物を周囲の温度よりも低温に保持する保温ケースにおいて、
ターポリンシートと、複数層の合成樹脂製不織布シートと、ポリエステル帆布の各層がこの順に積層された積層体を有し、前記積層体の端縁の少なくとも一部においては少なくとも前記ターポリンシートと前記ポリエステル帆布とが融着され、前記積層体の端縁の残りの部分においては前記各層が縫合され、前記ポリエステル帆布の前記積層体の内部と連通する部位に貫通孔が形成されていない保温シートが、前記ターポリンシート側を外側に向けて、単独で、開口部を有する箱状に形成されてなり、
前記保温シートが箱状に形成された空間の内部の温度を計測し、前記保温シートの層間に挟んで固定されたICタグに前記温度を記録する温度計測・記録部を有することを特徴とする保温ケース。
【請求項2】
前記温度計測・記録部において、温度を計測する計測部と温度を記録する前記ICタグとの間を接続するケーブルが、前記保温シートが箱状に形成された内部の空間または前記保温シートの層間の空間を通って配線されていることを特徴とする請求項に記載の保温ケース。
【請求項3】
前記ケーブルは、前記保温シートの層間の空間を通って、前記保温シートの面に沿って配線されていることを特徴とする請求項2に記載の保温ケース。
【請求項4】
前記温度計測・記録部において温度を計測する計測部の素子部は、前記保温シートに埋め込んで固定され、温度を検知する部位が、前記保温シートが箱状に形成された内部の空間に露出されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の保温ケース。
【請求項5】
前記ターポリンシートと前記不織布シートは、面ファスナによって相互に固定されていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の保温ケース。
【請求項6】
載置面に載置した対象物の上方に、前記開口部を配置してから、前記保温ケースを下方に移動させ、前記開口部の端縁を前記載置面に接触させて前記保温ケースを載置面に立てることで、前記対象物を前記保温ケースの内部空間に収容し、被覆することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の保温ケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温ケースに関し、さらに詳しくは、薬剤等の資材、飲食物等を被覆し保温するのに好適に使用される保温シートよりなる保温ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の産業用資材において、品質や加工性を維持するために、保管時や運搬時に、温度の維持が求められる場合がある。例えば、アスファルト合材は、温度が低下すると施工性が著しく低下するため、工場等の製造場所から工事現場等の施工場所にアスファルト合材をトラックで運ぶに際し、温度をなるべく低下させないことが求められる。従来一般には、汎用的なトラック荷台用シートを2枚重ねて掛ける、アスファルト合材の下にフェルトシートを敷く等の対策がなされてきた。
【0003】
しかし、これらの対策法においては、汎用的なシートを2枚重ねても十分な保温性が得られない、フェルトシートが水を吸い込むことでかえってアスファルト合材の温度が下がるといった問題が生じていた。そこで、本発明者は、特許文献1に記載されているような高い保温性を有するアスファルト保温シートを考案した。このアスファルト保温シートは、いずれも長方形であるターポリン生地からなるシートとポリエステル帆布からなるシートを重ね合わせ、該2枚のシートの間にこの2枚のシートより幅の狭いポリプロピレンからなるシートを2枚はさんで4枚の積層シートとし、長辺の2辺はターポリン生地からなるシートとポリエステル帆布からなるシートを熱融着し、短辺の一方の辺は4枚の積層シートを縫着し他方の辺は縫着または熱融着したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3175500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているシートは、周囲の温度よりも高い領域でも、周囲の温度よりも低い領域でも、優れた保温性を発揮するため、アスファルト以外にも、種々資材の保温(および保冷)に対して適用できる可能性がある。しかし、特許文献1に記載されているようなシート形状のままでは、種々の資材を被覆するに際し、高い取り扱い性が得られず、また必ずしも高い保温性能が得られるわけではない。
【0006】
上記に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、対象物を低温に保持することができ、取り扱い性に優れた保温ケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる保温ケースは、ターポリンシートと、複数層の合成樹脂製不織布シートと、ポリエステル帆布の各層がこの順に積層された積層体を有し、前記積層体の端縁の少なくとも一部においては少なくとも前記ターポリンシートと前記ポリエステル帆布とが融着され、前記積層体の端縁の残りの部分においては前記各層が縫合され、前記ポリエステル帆布の前記積層体の内部と連通する部位に貫通孔が形成されていない保温シートが、前記ターポリンシート側を外側に向けて、開口部を有する箱状に形成されてなることを要旨とする。この際、前記保温ケースは、単独で開口部を有する箱状に形成されてなることが好ましい。
【0008】
ここで、前記保温ケースは、前記保温ケースの内部の温度を計測し、記録する温度計測・記録部を有することが好ましい。
【0009】
さらに、前記温度計測・記録部は、ICタグに前記温度を記録するものであるとよい。
【0010】
さらにこの場合、前記ICタグは、前記保温シートの層間に挟んで固定されていることが好ましい。
【0011】
また、前記温度計測・記録部において、温度を計測する計測部と温度を記録する部位との間を接続するケーブルが、前記保温シートが箱状に形成された内部の空間または前記保温シートの層間の空間を通って配線されていることが好ましい。
【0012】
また、前記温度計測・記録部において温度を計測する計測部の素子部は、前記保温シートに埋め込んで固定され、温度を検知する部位が、前記保温シートが箱状に形成された内部の空間に露出されていることが好ましい。
【0013】
また、前記ターポリンシートと前記不織布シートは、面ファスナによって相互に固定されているとよい。
【発明の効果】
【0014】
上記発明にかかる保温ケースを構成する保温シートは、3種のシートを重ねてなる積層体を有することにより、ポリエステル帆布側を対象物に接する面として対象物を被覆した際に、高い保温性と防水性を発揮する。上記発明にかかる保温ケースは、上記のような保温シートより形成されるので、高い保温性を有する。そして、開口部を有する箱状に形成されていることにより、簡便な操作で保温対象物を覆い、保温することができる。
【0015】
ここで、保温ケースが、保温ケースの内部の温度を計測し、記録する温度計測・記録部を有する場合には、保温対象物の保管や運搬の際に、保温対象物の温度を管理することができる。
【0016】
さらに、温度計測・記録部が、ICタグに前記温度を記録するものである場合には、非接触で温度情報を読み取ることができるので、温度管理を簡便に行うことができる。また、温度情報の読み取りに際し、保温ケースの一部を開けたりして、保温対象物を露出させる必要がないので、保温効率を高く維持することができる。
【0017】
ターポリンシートと不織布シートが、面ファスナによって相互に固定されている場合には、ターポリンシートと不織布シートの間で相互に対する滑り運動が起こるのが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態にかかる保温ケースを構成する保温シートの積層構造を示す図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図、(c)はB−B断面図である。
図2】上記保温シートの積層構造を示す分解平面図である。
図3】上記保温シートの不織布層とターポリンシートの間の接着構造を示す図であり、(a)は不織布層を示す分解平面図、(b)はターポリンシートを示す平面図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる保温ケースの構成を示す図であり、(a)は全体の斜視図、(b)は温度センサとICタグの接続を示す模式図、(c)は温度センサの取り付け部を示す模式図である。
図5】上記保温ケースにおける温度センサの取り付け部分を示す拡大図である。
図6】ICタグの取り付け方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態にかかる保温ケースについて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書において、「保温」とは、対象物を周囲の温度よりも高温に保持することのみならず、対象物を周囲の温度よりも低温に保持する、いわゆる「保冷」も含むものである。本発明の実施形態にかかる保温ケースは、対象物を低温に保持する目的に使用される。
【0020】
<保温シート>
本発明の一実施形態にかかる保温ケースを構成する保温シートの構成を、図1〜3に示す。
【0021】
(積層構造)
本発明の一実施形態にかかる保冷ケースを構成する保温シート1は、図1,2に示すように、ターポリンシート10と、不織布層11と、ポリエステル帆布12をこの順に積層した積層体を主としてなる。保温シート1を使用する際には、ポリエステル帆布12側を保温したい対象物側(内側)とし、ターポリンシート10側を大気等の外部環境と接する側(外側)とする。
【0022】
ターポリンシート10は、ポリエステル等の樹脂繊維よりなるシートを、塩化ビニル等の防水性の高い熱可塑性樹脂よりなるフィルムで挟んで形成されたものであり、非常に丈夫で遮熱性と耐水性に優れる。ターポリンシート10の厚さは、十分な強度と遮熱性、耐水性を得るため、0.25mm以上であることが好ましい。また、保温シート1の保温性を高めるとともに、耐候性を付与するため、ターポリンシート10は、例えばシルバーターポリンと称されるもののように、ラミネート加工等によって、表面に金属成分を含有するものであることが好ましい。ターポリンシート10の表面は印刷を行いやすく、外側の面に、社名やロゴマーク等を適宜印刷してもよい。
【0023】
不織布層11は、複数層の合成樹脂製の不織布シートを積層してなる。図1,2に示した例では、不織布層11は2枚の不織布シート11a,11bよりなる。不織布は組織内に空気を保持することで保温性に優れ、さらに複数層積層されることで、各層の間にも空気の層が形成され、高い保温性を発揮する。不織布シート11a,11bは、いかなる合成樹脂よりなる不織布であってもよいが、保温性に優れ、熱に強く、吸水性が低いうえ、軽量であるポリエステル製不織布が好ましい。また、強度に優れるという点から、スパンボンド不織布であることが好ましい。不織布シートの層数は、所望する保温性が得られ、かつ厚さが保温シート1の取り扱い性を妨げない範囲で、適宜選択すればよい。不織布シート11a,11bは、端縁において、ターポリンシート10、ポリエステル帆布12とともに相互に固定されるだけでもよいし、縫製等によって別途相互に固定されていてもよい。好ましくは、不織布シート11a,11b間でのずれを防止するため、端縁以外でも相互に別途固定されている方がよい。
【0024】
ポリエステル帆布12は、平織りしてなる厚手のポリエステル生地に、塩化ビニル等の防水性樹脂を塗布または含浸することで表面加工が施されたものである。ポリエステル帆布は、トラックの幌や積載物保護用のシートとして汎用されているものであり、ターポリンシート10ほどではないが耐水性を有し、また、耐油性、耐薬品性、耐摩耗性を有する。ポリエステル帆布12の厚さは、十分な耐水性、耐油性、強度を得る観点から、0.4mm以上であることが好ましく、保温シート1全体の取り扱い性の観点から1.0mm以下であることが好ましい。ポリエステル帆布12はスリット等の貫通孔を、積層体の内部と連通する部位に有さない。
【0025】
本保温シート1においては、不織布シート11a,11bが空気の層を保持し、それが空気を通しにくいターポリンシート10とポリエステル帆布12との間に挟まれているため、高い断熱作用が得られ、保温性が高くなっている。そして、保温対象の外側の面に配置されるターポリンシート10によって、さらに保温性が高められるとともに、高い防水性が付与される。保温対象と接する内側の面には、耐水性、耐油性、耐薬品性、耐摩耗性に優れるポリエステル帆布12が配置されていることで、種々の保温対象物を被覆しても、保温シート1が損傷や汚染を受けにくくなる。例えば、アスファルト合材のように油性の材料を被覆する場合にも、好適に使用することができる。油性材料等によって、ポリエステル帆布12の表面が汚れたとしても、表面加工が施されているため、適当な薬品で拭き取る等すれば、簡単に汚れを落とすことができる。
【0026】
ターポリンシート10、不織布層11、ポリエステル帆布12よりなる積層構造の端縁の少なくとも一部は、熱融着等によって融着される。融着された端縁からは、保温シート1の内部の空気が脱出できないので、融着は、保温シート1の保温性を高めるのに寄与する。融着に際し、ターポリンシート10、不織布層11、ポリエステル帆布12の全てを一体に融着してもよいし、ターポリンシート10とポリエステル帆布12のみを融着してもよい。不織布11をともに融着せず、ターポリンシート10とポリエステル帆布12のみを融着すれば、各シート層間での自由な空気の流れを確保し、保温シート1全体に均質な空気の層を形成することができる。この意味で、保温シート1の端縁の融着部位の少なくとも一部において、ターポリンシート10とポリエステル帆布12のみを融着した部位を設けることが望ましい。
【0027】
積層構造の端縁のうち、融着されていない部位においては、ミシン縫製等によって、ターポリンシート10、不織布層11、ポリエステル帆布12が縫合されている。縫合部は、空気の脱出口としても機能し、熱膨張した空気が保温シート1内部に籠るのを抑制する。また、縫合を行う際に、製品番号等を記載したタグ等を同時に縫い付けることができ、製品管理が容易になる。
【0028】
図1,2に示した例では、ターポリンシート10、不織布層11、ポリエステル帆布12が長方形に形成され、それらの長辺の長さは略等しいが、短辺の長さは不織布層11のみ短くなっている。そして、2つの対向する長辺に沿った端縁においては、図1(b)に示すように、ターポリンシート10とポリエステル帆布12が熱融着されている。一方、短辺のうち1辺に沿った端縁においては、図1(c)に示すように、ターポリンシート10、2枚の不織布シート11a,11b、ポリエステル帆布12が縫合されている。他方の短辺に沿った端縁においては、ターポリンシート10、2枚の不織布シート11a,11b、ポリエステル帆布12が融着されている。図中では、融着部位を細い実線で、縫合部位を破線で示している。
【0029】
このように、端縁の少なくとも一部を融着することで、保温シート1内部に空気を閉じ込めることができ、高い保温性が得られる。一方、端縁の一部を縫合することにより、適度な空気の抜け道を確保し、保温シート1の膨張を防止することができる。融着する部位と縫合する部位の割合は、必要とされる保温性と、保温シート1の膨張防止の必要度を考慮して、適宜定めればよい。図1,2の例では、対向する短辺の一方のみが縫合されたが、両方とも縫合するなどして、縫合部を増やしてもよい。
【0030】
このようにして形成された保温シート1全体の厚さは、典型的には、1〜2mmとなる。不織布シートを2枚使用する場合には、保温シート1全体の厚さは1mmに近く、4枚使用する場合には、2mmに近くなる。
【0031】
保温シート1には、ハトメ孔等、固定を行うための構造が適宜形成される。図1,2では、端縁の融着、縫合が行われた後、長方形の各頂点の近傍に、ハトメ孔14aが形成されている。
【0032】
(不織布層とターポリンシートの固定)
本保温シート1において、不織布層11とターポリンシート10の間は、面内方向での相互間のずれを防ぐため、固定手段によって固定されていることが好ましい。図3に、不織布層11とターポリンシート10の間の構造を示す。2枚の不織布シート11a,11bは、図3(a)中に破線で示したように、相互に縫合されている。そして、ターポリンシート10側となる不織布シート11aの面には、雌雄一方の面ファスナ(例えばマジックテープ(登録商標))17aが縫いつけられている。そして、ターポリンシート10の不織布層11側の面には、不織布シート11aに固定された面ファスナ17aと対向する位置に、雌雄他方の面ファスナ17bが縫いつけられている。そして、図1,2に示すようにターポリンシート10と不織布層11が重ねられた状態で、不織布層11に形成された面ファスナ17aとターポリンシート10に形成された面ファスナ17bが係合され、不織布層11とターポリンシート10が相互に面内方向に固定される。
【0033】
不織布とターポリン材は相互間で面内方向に滑りやすい組み合わせであり、ターポリンシート10と不織布層11の間が固定されていなければ、保温シート1上を人間が歩いた際などに、これらの層の間に滑りが発生しやすい。保温シート1上を人間が歩くことは、保温シート1がトラックの荷台に設置され、荷台上で作業員が作業を行う場合などに想定される。ターポリンシート10と不織布層11の間を面内方向に固定しておけば、このような滑りを低減することができ、保温シート1の上を人間が歩く際の作業性と安全性を高めることができる。
【0034】
面ファスナの数と配置は、ターポリンシート10と不織布層11の間のずれが十分に防止されるように決定すればよい。図3(a)のように、保温シート1の面内中ほどの中心対称な位置に4か所の面ファスナ17a,17bを設けておくことは、この観点から好適である。また、ターポリンシート10と不織布の間を固定する固定手段は、面ファスナに限られないが、面ファスナは、小面積でも面方向のずれに対して強い保持力を発揮するうえ、取り付けが容易である等の点で好適である。また、意匠面となるターポリンシート10の外側表面(不織布層11と反対側の面)には、面ファスナを取り付けるためのわずかな縫い目が露出するだけであり、社名やロゴマークなどを印刷するのに妨げとならない点においても好適である。例えば、ターポリンシート10と不織布層11を面内中ほどでミシン縫製等によって縫合することでも、両者を固定する機能は果たせるが、縫い目に囲まれた領域の中で空気の溜めこみと膨張が起こりやすいうえ、ターポリンシート10の外側表面に多くの縫い目が露出してしまう。
【0035】
(保温シートの用途)
本保温シート1は、上記のように、高い保温性と耐水性を備え、かつ不織布を保温機能の主体としてなる軽量のシートであるため、種々の物品の保温に使用することができる。ポリエステル帆布12側の面を保温対象物に接する内側とし、ターポリンシート10側の面を大気等に接する外側として、本保温シート1で保温対象物を被覆すれば、大気よりも高温の状態にある保温対象物から大気等への放熱や、大気よりも低温の状態にある保温対象物の加熱を効果的に抑制することができる。
【0036】
本保温シート1はターポリンシート10とポリエステル帆布12の間に複数層よりなる不織布層11が挟まれた構成を有することにより、常温よりも高温の領域においても、常温よりも低温の領域においても、高い保温性を有する。よって、本保温シートは、アスファルト合材をはじめとする周囲の温度よりも高温に加熱された対象物を高温の状態に保持する用途のみならず、周囲の温度よりも低温に冷却された対象物を低温の状態に保持する用途にも好適に使用することができる。例えば種々の薬剤や飲食物は、品質保持のために、保管時や運搬時に低温に維持することが求められることも多いが、本保温シート1は、これらの資材を被覆するのに好適に用いられる。
【0037】
<保温ケース>
本発明の一実施形態にかかる保温ケース60の構成を、図4〜6に示す。本保温ケース60は、上記で説明した本発明の実施形態にかかる保温シート1より形成され、種々の対象物を被覆する。
【0038】
保温ケース60は、上記保温シート1よりなる被覆部61を本体としてなる。被覆部61は、下面に開口部62を有する箱状の形状を有してなり、開口部62が形成されている面以外の5面は保温シート1よりなっている。保温シート1は、ターポリンシート10側の面が、外側つまり大気側に配置され、ポリエステル帆布12側の面が内側つまり箱形状の内部空間側に配置されている。
【0039】
地面、床面等の載置面に載置した対象物の上方に、被覆部61の開口部62を配置してから、被覆部61を下方に移動させ、開口部62の端縁を載置面に接触させて被覆部61を載置面に立てることで、対象物を被覆部61の内部空間に収容し、被覆することができる。載置面と被覆部61の間に空隙が生じないようにすれば、対象物を外気と接触しないように被覆部61で被覆することができ、簡便な操作で、対象物を高効率に保温することができる。
【0040】
保温ケース60で被覆して保温する対象物は、どのようなものでもかまわない。しかし、開口部62を有する箱形状にあらかじめ成形した被覆部61を対象物の上方からかぶせるという形態を保温ケース60が有するため、トラック荷台用シートで被覆する好適な対象物として想定されるアスファルト合材のような不定形の対象物よりも、容器に収容されて形状の定まった対象物に対して使用する方が、被覆部61の取り扱いが容易であり、また高い保温効率が得やすい。このような対象物としては、缶に収容された薬剤や、箱状の容器に収容された食品、飲料を例示することができる。薬剤や飲食物は、品質保持のために、所定の温度、特に低温に維持することが求められる場合が多い。なお、保温ケース60の被覆部61の内側面は、ポリエステル帆布12となっており、種々の薬剤に対して耐性を有するため、薬剤を収容した容器の一部が開口されている場合等にも、保温ケース60を用いることができる。
【0041】
保温ケース60は、さらに、被覆部61内部の温度管理のために、温度計測・記録部を有することが好ましい。温度計測・記録部は、被覆部61内部の温度を計測し、記録するためのものである。温度計測・記録部における温度の計測のための部位は、サーミスタ、熱電対等の温度センサ63によって具現される。本実施形態においては、温度センサ63は、第1チャンネル63a,第2チャンネル63b,第3チャンネル63cの3つ計測部からなり、被覆部61内の異なる部位の温度を計測している。温度計測・記録部における温度の記録のための部位は、ICタグ(RFIDタグ)64等によって具現することができる。図4(b)、(c)に示すように、温度センサ63とICタグ64の間は、信号ケーブル65によって接続され、所定時間間隔で、温度センサ63の各チャンネル63a〜63cが計測した温度が、ICタグ64に伝達されて記録される。温度計測・記録部にICタグ64が用いられる場合には、電磁波を用いて、記録されている温度情報を非接触で外部から読み取ることができる。つまり、対象物の保管や運搬の途中等において、温度情報の読み取りのために、被覆部61の一部を開けて対象物を大気に露出させながらケーブル接続等を行う必要がなく、被覆部61の保温効果が損なわれない。
【0042】
図4(c)および図5に、温度センサ63の構成および取り付け方法の一例を示す。温度センサ63は、温度を検知する素子部66と、素子部66を覆うように配置され、素子部66で検知された温度を電気信号としてICタグ64に出力する計測コネクタ67よりなる。素子部66は、被覆部61を構成する保温シート1に埋め込んで固定され、温度を検知する部位が被覆部61の内部の空間に露出される。計測コネクタ67には信号ケーブル65が接続されている。このように、温度センサ63が、別体の素子部66と計測コネクタ67より構成されることで、温度センサ63の取り付け位置に関する自由度や、メンテナンスの利便性が高くなる。
【0043】
ここで、計測コネクタ67に接続された信号ケーブル65は、図5に示すように、被覆部61の内部空間、または被覆部61を構成する保温シート1における層間の空間(例えばターポリンシート10と不織布層11の間)を通って、ICタグ64まで配線されていることが好ましい。これは、保温ケース60の取り扱い性を高くするためである。なお、温度センサ63が、この例のように素子部66と計測コネクタ67に分離されず、一体の部材として構成されている場合には、被覆部61に固定された温度センサ63とICタグ64の間が直接接続されることになり、温度センサ63の取り付け位置の自由度やメンテナンスの利便性は低くなるが、温度センサ63の取り付けおよび配線に関して、機械的強度が高くなる。
【0044】
図6は、ICタグ64の取り付け方法の一例を示す断面図である。ここでは、ICタグ64は、被覆部61を構成する保温シート1の層間に挟んで固定されている。つまり、ICタグ64は、保温シート1を構成するターポリンシート10と不織布層11の間に配置されている。このようにすることで、ICタグ64が被覆部61の外側に露出されず、保温ケース60の取り扱い性が高くなる。上記のように、ICタグ64は非接触で温度情報を読み出すことができるので、このようにシート材に被覆されていることが、温度の読み取りにおいて障害とならない。
【0045】
なお、以上において説明した保温ケース60は、あらかじめ所定の温度に加熱または冷却した対象物を外気から遮断し、対象物の温度を保持するためのものであったが、保温ケース60は、被覆部61内に、さらにヒータのような加熱手段や冷凍機のような冷却手段を備えるものであってもよい。そして、温度センサ63で計測された温度を参照しながら、所定温度に被覆部61内の空間を維持するように、加熱手段や冷却手段の出力を調節すればよい。すると、被覆部61を介した不可避的な熱伝達による保温効率の低下を補い、対象物を所定温度に維持しやすくなる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 保温シート
10 ターポリンシート
11 不織布層
11a,11b 不織布シート
12 ポリエステル帆布
17a,17b 面ファスナ
60 保温ケース
61 被覆部
62 開口部
63 温度センサ
64 ICタグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6