【文献】
FUJIWARA, Yuko et al,Cyclic phosphatidic acid elicits neurotrophin-like actions in embryonic hippocampal neurons,Journal of Neurochemistry,2003年,Vol.87, No.5,p.1272-1283
【文献】
SHIGENO, Taku et al,Amelioration of Delayed Neuronal Death in the Hippocampus by Nerve Growth Factor,The Journal of Neuroscience,1991年,Vol.11, No.9,p.2914-2919
【文献】
ABE, Koji,Therapeutic Potential of Neurotrophic Factors and Neural Stem Cells Against Ischemic Brain Injury,Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism,2000年,Vol.20,p.1393-1408
【文献】
HOTTA, Harumi et al,Cyclic phosphatidic acid stimulates respiration without producing vasopressor or tachycardiac effect,European Journal of Pharmacology,2006年,Vol.543, No.1-3,p.27-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に具体的に説明する。
本明細書中で以下に記載する実施例では、コントロール群を含むラット海馬CA1領域の錐体細胞に対して、一過性の脳虚血処理による遅発性神経細胞死が誘導されている実験系を用いた。この実験系において、環状ホスファチジン酸又はカルバ環状ホスファチジン酸は明らかに同領域の遅発性神経細胞死を抑制する働きがあることが示された。
【0016】
一過性脳虚血によって、遅発性の神経細胞死が起こることが、脳梗塞などの疾患の治療効果を妨げる原因となっている。そのメカニズムは未だ明らかでないことも多いが、一過性脳虚血後に、神経細胞特有の細胞死決定機構が働いて、それが最終的にアポトーシス共通の経路に不可逆的に進行すると考えられている。その際に、海馬CA1領域で一過性脳虚血後、遅発性神経細胞死に先立って、ユビキチン/プロテアソームの機能が不可逆的に低下し、それが神経細胞死を引き起こすきっかけとなることが報告され、その際に、カスパーゼ3やp53が必要不可欠であることが明らかにされている(Yonekura,I., Takai,K., Asai,A., Kawahara,N., Kirino,T. p53 potentiates hippocampal neuronal death caused by global ischemia. J. Cereb. Blood Flow Metab., 26: 1332-1340 (2006);及びAsai,A., Tanahashi,N., Qui,J.-H., Saito,N., Chi,S., Kawahara,N., Tanaka,K., Kirino,T. Selective proteasomal dysfunction in the hippocampal CA1 rregion after transient forebrain ischemia. J. Cereb. Blood Flow Metab., 22: 705-710 (2002))。
【0017】
また、虚血により、嫌気性代謝によるアシドーシスの進行によってNa+ の細胞内流入が起こり、Na+ 負荷のために細胞が膨張すること、その後に起こる再還流によってフリーラジカルの発生とCa2+ の流入が起こり、フリーラジカルによる細胞膜障害がさらなるCa2+ 増加を引き起こして、最終的には細胞膜破壊を起こして細胞死をきたすことも報告されている(橋本克次, 吉岡淳, 今橋憲一, 楠岡英雄 カルシムと再還流障害.呼吸と循環 49:43-49(2001))。また再還流後には、アラキドン酸代謝系や一酸化窒素合成酵素からのフリーラジカル産生による酸化ストレスも、細胞死を助長する(Love, S. Oxidative stress in brain ischemia. Brain Pathol . 9: 119-131 (1999))。このことから、再還流時にフリーラジカルスカベンジャーを投与することにより、細胞死への経路を遮断して再還流障害を軽減あるいは阻止できる可能性が考えられ、この観点から開発された治療薬がラジカット(一般名:エダラボン)である。これは、フリーラジカル消去により、細胞膜脂質の過酸化を抑制して、脳保護作用を示す物質で、本研究によるcPAとは作用機序が全く異なる。
【0018】
即ち、本発明の薬剤は、一過性脳虚血による遅発性の神経細胞死を抑制するために使用することができ、環状ホスファチジン酸又はカルバ環状ホスファチジン酸又はその塩を有効成分として含む。環状ホスファチジン酸又はカルバ環状ホスファチジン酸としては本発明の効果を示すものであれば特に限定されないが、好ましくは、下記式(I)で示される環状ホスファチジン酸を使用することができる。
【0020】
(式中、Rは、炭素数1〜30の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数2〜30の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基、又は炭素数2〜30の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基であり、これらの基はシクロアルカン環又は芳香環を含んでいてもよい。X及びYはそれぞれ独立に、−O−又は−CH
2−を示すが、X及びYが同時に−CH
2−になることはない。Mは、水素原子又は対カチオンである。)
【0021】
式(I)において、置換基Rが示す炭素数1〜30の直鎖状若しくは分岐状アルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基などが挙げられる。
【0022】
置換基Rが示す炭素数2〜30の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基の具体例としては、例えば、アリル基、ブテニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデカジエニル基、ヘキサデカトリエニル基などが挙げられ、より具体的には、8−デセニル基、8−ウンデセニル基、8−ドデセニル基、8−トリデセニル基、8−テトラデセニル基、8−ペンタデセニル基、8−ヘキサデセニル基、8−ヘプタデセニル基、8−オクタデセニル基、8−イコセニル基、8−ドコセニル基、ヘプタデカ−8,11−ジエニル基、ヘプタデカ−8,11,14−トリエニル基、ノナデカ−4,7,10,13−テトラエニル基、ノナデカ−4,7,10,13,16−ペンタエニル基、ヘニコサ−3,6,9,12,15,18−ヘキサエニル基などが挙げられる。
【0023】
置換基Rが示す炭素数2〜30の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基の具体例としては、例えば、8−デシニル基、8−ウンデシニル基、8−ドデシニル基、8−トリデシニル基、8−テトラデシニル基、8−ペンタデシニル基、8−ヘキサデシニル基、8−ヘプタデシニル基、8−オクタデシニル基、8−イコシニル基、8−ドコシニル基、ヘプタデカ−8,11−ジイニル基などが挙げられる。
【0024】
上記のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基に含有されうるシクロアルカン環の具体例としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環などが挙げられる。シクロアルカン環は、1個以上のヘテロ原子を含んでいてもよく、そのような例としては、例えば、オキシラン環、オキセタン環、テトラヒドロフラン環、N−メチルプロリジン環などが挙げられる。
【0025】
上記のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基に含有されうる芳香環の具体例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、フラン環、チオフェン環などが挙げられる。
【0026】
従って、置換基Rがシクロアルカン環によって置換されたアルキル基である場合の具体例としては、例えば、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルエチル基、8,9−メタノペンタデシル基などが挙げられる。
【0027】
置換基Rが芳香環によって置換されたアルキル基である場合の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、p−ペンチルフェニルオクチル基などが挙げられる。
【0028】
Rは、好ましくは、炭素数9〜17の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数9〜17の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基、又は炭素数9〜17の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基である。Rは、さらに好ましくは、炭素数9、11、13、15又は17の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又は炭素数9、11、13、15又は17の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基である。Rは、特に好ましくは、炭素数9、11、13、15又は17の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基である。
【0029】
一般式(1)で示される化合物中のX及びYはそれぞれ独立に、−O−又は−CH
2−を示すが、X及びYが同時に−CH
2−になることはない。即ち、X及びYの組み合わせは以下の3通りである。
(1)Xが−O−であり、Yが−O−である。
(2)Xが−CH
2−であり、Yが−O−である。
(3)Xが−O−であり、Yが−CH
2−である。
【0030】
式(I)で示される環状ホスファチジン酸誘導体中のMは、水素原子又は対カチオンである。Mが対カチオンである場合の例としては、例えば、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、置換若しくは無置換アンモニウム基が挙げられる。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられ、アルカリ土類金属原子としては、例えば、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。置換アンモニウム基としては、例えば、ブチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、テトラメチルアンモニウム基などが挙げられる。
【0031】
式(I)の化合物はその置換基の種類に応じて、位置異性体、幾何異性体、互変異性体、又は光学異性体のような異性体が存在する場合があるが、全ての可能な異性体、並びに2種類以上の該異性体を任意の比率で含む混合物も本発明の範囲内のものである。
【0032】
また、式(I)の化合物は、水あるいは各種溶媒との付加物(水和物又は溶媒和物)の形で存在することもあるが、これらの付加物も本発明の範囲内のものである。さらに、式(I)の化合物及びその塩の任意の結晶形も本発明の範囲内のものである。
【0033】
一般式(1)で示される化合物のうちX及びYが−O−である化合物は、例えば、特開平5−230088号公報、特開平7−149772号公報、特開平7−258278号公報、特開平9−25235号公報に記載の方法等に準じて化学的に合成することができる。
【0034】
また、一般式(1)で示される化合物のうちX及びYが−O−である化合物は、特開2001−178489号公報に記載の方法に準じてリゾ型リン脂質にホスホリパーゼDを作用させることによって合成することもできる。ここで用いるリゾ型リン脂質は、ホスホリパーゼDを作用しうるリゾ型リン脂質であれば特に限定されない。リゾ型リン脂質は多くの種類が知られており、脂肪酸種が異なるもの、エーテル又はビニルエーテル結合をもった分子種などが知られており、これらは市販品として入手可能である。ホスホリパーゼDとしては、キャベツや落花生などの高等植物由来のものや
Streptomyces chromofuscus,
Actinomadula sp.などの微生物由来のものが市販試薬として入手可能であるが、
Actinomadula sp. No.362由来の酵素によって極めて選択的にcPAが合成される(特開平11−367032号明細書)。リゾ型リン脂質とホスホリパーゼDとの反応は、酵素が活性を発現できる条件であれば特に限定されないが、例えば、塩化カルシウムを含有する酢酸緩衝液(pH5〜6程度)中で室温から加温下(好ましくは37℃程度)で1から5時間程度反応させることにより行う。生成したcPA誘導体は、常法に準じて、抽出、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー(TLC)などにより精製することができる。
【0035】
また、一般式(1)で示される化合物のうちXが−CH
2−であり、Yが−O−である化合物は、特開2004−010582号公報又は国際公開WO03/104246号公報に記載の方法により合成することができる。
【0036】
また、 一般式(1)で示される化合物のうちXが−O−であり、Yが−CH
2−である化合物は、文献記載の方法(Kobayashi,S.,他,Tetrahedron Letters 34,4047−4050(1993);並びに「日本薬学会 第23回 反応と合成の進歩シンポジウム1997年11月17、18日(熊本市民会館)環状ホスファチジン酸およびカルバ体誘導体の合成と生理作用、要旨集ページ101−104」)に準じて合成することができ、また国際公開WO2002/094286号公報に記載の方法により合成することができる。具体的な合成経路の一例を以下に示す。
【0038】
上記においては、先ず、市販の(R)-ベンジルグリシジルエーテル(1)をBF
3・Et
2Oで活性化させ、メチルホスホン酸ジメチルエステルにn-BuLiを作用させて得られるリチオ体を反応させることでアルコール(2)を得る。
得られたアルコールを、トルエン中で過剰のp-トルエンスルホン酸のピリジニウム塩を用いて80℃で反応させることにより、環化体(3)を得る。この環化体を、水素雰囲気下で20% Pd(OH)
2-Cを用いて加水素分解し、脱ベンジル化を行う(4)。縮合剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いて、脂肪酸と反応させてカップリング体(5)を得る。次に、求核剤としてブロモトリメチルシランを用いて、メチル基だけを位置選択的に除去し、環状ホスホン酸(6)を得る。これをエーテルを用いて分液ロートに移しこみ、少量の0.02Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、分液操作を行い、ナトリウム塩(7)として目的化合物を抽出、精製する。
【0039】
本発明において有効成分として用いる環状ホスファチジン酸又はカルバ環状ホスファチジン酸は、一過性脳虚血による遅発性の神経細胞死を抑制することができる。本発明の薬剤は、一過性脳虚血による遅発性の神経細胞死を抑制するための薬剤として使用することができる。
【0040】
本発明の薬剤は、1又は2以上の製剤学的に許容される製剤用添加物と有効成分である環状ホスファチジン酸又はカルバ環状ホスファチジン酸(好ましくは、式(1)で示される化合物)とを含む医薬組成物の形態で提供することが好ましい。
【0041】
本発明の薬剤は、種々の形態で投与することができるが、好適な投与形態としては、経口投与でも非経口投与(例えば、静脈内、筋肉内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与など)でもよい。経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などを挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤などを挙げることができるが、本発明の薬剤の剤形はこれらに限定されることはない。さらに、公知の技術によって持続性製剤とすることもできる。
【0042】
本発明の薬剤の製造に用いられる製剤用添加物の種類は特に限定されず、当業者が適宜選択可能である。例えば、賦形剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、基剤、溶解剤又は溶解補助剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐剤、等張化剤、pH調節剤、溶解剤、安定化剤などを用いることができ、これらの目的で使用される個々の具体的成分は当業者に周知されている。
【0043】
経口投与用の製剤の調製に用いることができる製剤用添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D-マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0044】
注射あるいは点滴用の製剤の調製に用いることができる製剤用添加物としては、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール、界面活性剤等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン,等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の製剤用添加物を用いることができる。
【0045】
本発明の薬剤はヒトなどの哺乳動物に投与することができる。
本発明の薬剤の投与量は患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路などの条件に応じて適宜増減されるべきであるが、一般的には、成人一日あたりの有効成分の量として1μg/kgから1,000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは10μg/kgから100mg/kg程度の範囲である。上記投与量の薬剤は一日一回に投与してもよいし、数回(例えば、2〜4回程度)に分けて投与してもよい。
【0046】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
【実施例】
【0047】
実施例1:cPAがラット海馬における一過性脳虚血後の遅発性神経細胞死に及ぼす効果
方法
実験は、20匹の成熟雄ウィスター系ラット(体重280−370g)で行った。
脳虚血及び組織学的解析の方法は、基本的にKagitani,F., Uchida,S., Hotta,H, and Sato,A (2000) Effects fo nicotine on blood flow and delayed neuronal death fllowing internittent transient ischemia in rat hippocampus. Jpn. J. Physiol. 50, 585-595に従い、以下に述べるように一部改変した。動物をハロセン(麻酔の導入時3.5%:手術および虚血中1.5%)で麻酔した。抗生物質を投与(viccillin 50mg/kg 筋注)し、環状ホスファチジン酸投与用の浸透圧ポンプを腹部皮下へ埋め込んだ。続いて気管挿管し、呼吸を人工呼吸器(SN-480-7, Shinano, 東京)を用いて維持した。直腸温および側頭筋温をモニターし、ヒートパッドとランプ(ATB-1100, 日本光電工業、東京)を用いて両者とも約37.5℃に維持した。両側椎骨動脈を永久結紮し、両側総頚動脈を8分間一過性に閉塞した。一過性脳虚血終了直後にハロセンを切り、15分後に人工呼吸器をはずした。
【0048】
ポンプ調製
5, 50μg/mL rac-2ccPA16:1/0.2%脂肪酸フリーのウシ血清アルブミン(BSA)−生理食塩水(0.9% NaCl)、500 μg/mL rac-2ccPA(16:1)/2% BSA−生理食塩水、50, 500μg/mL, 5mg/mL R-cPA18:1/0.2% BSA−生理食塩水を調整し、それぞれMini osmotic pump model 2000 (alzet, CA)に200μlずつ注入した。対照群として、0.2% BSA−生理食塩水、2% BSA−生理食塩水を注入したポンプを調整した。ポンプを虚血手術前に腹腔内に埋め込み、5日間継続皮下投与を行った。
【0049】
実験群
C1群(比較例):0.2% BSA−生理食塩水(4匹)
C2群(比較例):2% BSA−生理食塩水(2匹)
2ccPA群(本発明):50μg/mL 2ccPA16:1(18μg/kg/5d)、(44 nmol/kg/5d)(4匹)
cPA群(本発明):500μg/mL cPA16:1(180μg/kg/5d)、(400 nmol/kg/5d)(4匹)
参考:2ccPA16:1 (分子量:410.22)、cPA18:1 (分子量:440.23)
【0050】
2ccPA16:1の構造は以下の通りである。
【化4】
【0051】
cPA18:1の構造は以下の通りである。
【化5】
【0052】
光学顕微鏡観察
一過性脳虚血処理後5日目にラットをソムノペンチル深麻酔下で開胸し、ヘパリン含有生理食塩水、続いて10%ホルマリン溶液にて経心臓的還流固定を行った。2時間4度にて保存した後、脳を摘出した。海馬を含む部位を中心に厚さ3mmでスライスし、組織片はさらに4時間室温、10%ホルマリン溶液中にて浸漬固定した。ホルマリン固定の試料をパラフィンに包埋し、厚さ6μmのパラフィン切片を作成した。Bregmaより3.3mm後方の部分にあたる切片をヘマトキシリン・エオジン染色し、左右の海馬CAI領域の錐体細胞を組織学的に観察した。CAI領域の錐体細胞中、核濃縮を呈し、細胞体が萎縮していない生存錐体細胞数を測定し、CAIの長さで割ることでCAI単位長さ当たりの錐体細胞生存数を算出し、さらにCI群の値を1とし各群の値を相対的に表した。
【0053】
結果
C1群、C2群ラットの海馬CAI領域の錐体細胞に核濃縮及び細胞体の萎縮を起こしている細胞が観察され、一過性脳虚血処理による遅発性神経細胞死が誘導されていることが観察された。なお、BSAの濃度の違いによる錐体細胞生存率には差がみられなかった。各2ccPA群,cPA群ラットにおいても遅発性神経細胞死が観察されたが、2ccPA群においては、CAI単位長さ当たりの生存細胞の数はC1群よりも2倍多く顕著な遅発性神経細胞死抑制効果がみられた(
図1)。
【0054】
実施例2:cPAがラット海馬における一過性脳虚血後の遅発性神経細胞死に及ぼす効果
実施例1と同様の化合物(2ccPA16:1、及びcPA18:1)を用いて、実施例1と同様の実験系で、cPAがラット海馬における一過性脳虚血後の遅発性神経細胞死に及ぼす効果を調べた。
【0055】
海馬CAI領域の錐体細胞を組織学的に観察した結果を
図2に示す。
図2のA(Vehicle投与群)のa、及びB(cPA投与群)のaは、海馬(Bregma -3.3mm)のCA1(矢頭が挟んでいる範囲)の領域を示す。
【0056】
図2のA(Vehicle投与群)のb、及びB(cPA投与群)のbは、CA1領域における細胞の状態を示す。小さく濃く染まっているのが核の凝集を起こした細胞、つまり遅発性細胞死を起こした神経細胞であり、大きな丸になっている細胞が生細胞であり、核は細胞の中心に小さく存在することがわかる。A(Vehicle投与群)のbでは、死細胞の数が多く、生存している神経細胞がほぼ見当たらないのに対し、B(cPA投与群)のbでは生きている細胞が主となっており、死んでいる細胞は僅かである。cPA処理により、CA1領域の神経細胞の生存率が大幅に上昇していることがわかる。
【0057】
図2のA(Vehicle投与群)のc、及びB(cPA投与群)のcは、GFAP(glial-fibrillary acidic protein)の染色像を示す。GFAPはアストログリアに局在する中間径フィラメントを構成するタンパク質であり、GFAPの発現は、脳損傷、認知症などの神経疾患で増加、症例の重症度に関与すると考えられている。A(Vehicle投与群)のcでは、死細胞の周りにところどころ濃く茶色(anti-GFAP, DAB染色)に染色されている細胞がみられるが、B(cPA投与群)のcでは細胞の周りに濃く染色されている部位はAのcほど見当たらなかった。即ち、cPA投与により、GFAPの産生が抑制されたと考えられる。
【0058】
ラットの海馬CA1に存在する生細胞数の数を調べた結果を
図3に示す。Control(虚血処理なし)のラットは、420個ほどの神経細胞を持つことが示された。一方、Vehicle(虚血処理後)のラットでは生神経細胞の数は平均48個と1割ほどに減少する。しかしながら、cPA、2ccPAで処理したラットの脳では生細胞の数が顕著に増えることが示された。特に、cPAは濃度依存的に、脳虚血後の遅発性神経細胞死を抑制することが分かり、18μg/kg/5日の投与で、平均253個の細胞が生き残り、6割の細胞が生存したまま残ることが分かった。虚血処理から比べても、5倍ほど生存率が上がったといえる。