(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5747294
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子および電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
G01R33/02 D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-534866(P2014-534866)
(86)(22)【出願日】2014年6月20日
(86)【国際出願番号】JP2014066447
【審査請求日】2014年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-170061(P2013-170061)
(32)【優先日】2013年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】713000630
【氏名又は名称】マグネデザイン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
【審査官】
川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】
特許第3693119(JP,B2)
【文献】
国際公開第2013/047637(WO,A1)
【文献】
特開2005−277034(JP,A)
【文献】
特開2002−365349(JP,A)
【文献】
特開2010−281828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
G01R 33/04
G01R 33/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極配線基板上に、感磁体である絶縁素材で被覆された磁性ワイヤとその周りに巻きつけたコイルおよびそれらの端部に外部の集積回路と連結するための4つの端子を形成した電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子において、
コイルは、凹形状のコイル下部と凸形状のコイル上部および両者の間にある段差を介して両者を連結するジョイント部の3層構造または段差がゼロの特殊な場合は2層の凹凸構造からなり、磁性ワイヤの下部のみをコイル下部配線を施した基板溝に埋設し、それを接着機能およびレジスト機能を有する樹脂で固定し、ワイヤ上部は樹脂の表面張力で薄く覆われ、もしくは一部露出した状態で、コイル上部配線を行ない、コイル下部の端部とコイル上部の端部を段差がある場合には両者を連結するジョイント部を介して電気的に接合し、また段差がない場合にはコイル下部の端部とコイル上部の端部を直接電気的に接合して電磁コイルを形成すること、
および、ワイヤ端部の絶縁被覆については樹脂で埋もれているワイヤ下部を除いたワイヤ上部の絶縁被膜を除去した後、露出したワイヤ上部とワイヤ電極とを配線を施すことを特徴とする電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子。
【請求項2】
請求項1において、前記感磁体が、直径1μmから20μmのアモルファスの導電性の磁性ワイヤからなり、コイルはコイルピッチ14μm以下、コイル厚み30μm以下、厚みは前記感磁体のワイヤ径に対して2.5倍以下、かつコイルアスペクト比2以上のコイルで、コイル線の厚さを2μm以下で、ワイヤ長さが0.30mm以下でコイル巻数20回以上に設定されていることを特徴とする電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子。
【請求項3】
請求項1において、前記感磁体が、直径1から20μmのアモルファスの導電性の磁性ワイヤからなり、コイルはコイルピッチ7μm以下、コイル厚み25μm以下、コイル厚みは前記感磁体のワイヤ径に対して2倍以下、かつコイルアスペクト比5以上のコイル、コイル線の厚さを2μm以下で、ワイヤ長さが1.00mm以上でコイル巻数200回以上に設定されていることを特徴とする電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載された電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子において、磁性ワイヤの端部の絶縁被膜を除去したワイヤ上部の金属表面とワイヤ電極端子とを直接金属蒸着層で結合することを特徴とする電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載された電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子において、4つの電極上に半田ボールを取り付け、この半田ボールで当該素子の端子と集積回路面の端子を結合することを特徴とする電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載された電磁コイル付マグネト・インピーダス・センサ素子において、電磁コイルの電圧出力をパルス対応型バッファー回路を介してサンプルホールド回路にて検知することを特徴とする電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサとして用いられる電磁コイルを用いるマグネト・インピーダンス・センサ素子(以下、MI素子と記す。 )のコイルピッチを小さくしてコイル巻数を増加してその高感度化あるいは感度を維持しながら小型化を可能とするための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、このMI素子を使用した電子コンパスは3次元方位計としてスマートフォン、モーションキャプチャーなどの多くの用途で使用されているが、今後は動的3次元方位計として期待されており、そのためには一層の高性能化が要求されている。しかし、従来のMI素子を使用した電子コンパス用磁気センサは、3次元方位計としては十分な性能を実現したが、市場が求めている動的3次元方位計に対しては、高感度化、小型化および高精度化に関して充分ではないという問題があった。ここで動的三次元方位計とは、任意の時間で回転中の対象物の3次元方位を測定する計測装置である。
【0003】
MI素子の構造は、中心部に感磁体であるアモルファスワイヤを電極基板上に固定して、そのワイヤ周辺に電磁コイルを巻きつけたもので、ワイヤ端子接続電極とコイル端子接続電極が計4個あり配線がパターンニングされている。現在、大量生産されているMI素子の大きさは、幅0.3mm、長さ0.6mmで、そのMI素子の電磁コイルは、厚みが30〜50μm程度(厚みは下部コイルと上部コイルの最大幅で定義した。)、コイルピッチ(コイル幅とコイル間隔の合計をいう。)が30μm、コイル厚みとコイルピッチとの比、つまりコイル厚み/コイルピッチで定義されるコイルアスペクト比は1〜1.7程度、コイル巻数は17回である。このMI素子を使って電子コンパスとして使用されているMIセンサの感度は、200mV/G程度、ノイズレベルは標準偏差で2mG程度、および測定レンジは±12G程度である。
【0004】
これに対して、エアマウス、モーションキャプチャーなどの用途で使用される動的3次元方位計としては、感度は1000mV/G程度、ノイズレベルは標準偏差で0.4mG程度および±48G以上の測定レンジが望まれている。また胃カメラなど生体内部で使用する機器に内蔵する方位計に関しては一層の小型化、望ましくは長さ0.3mm以下が望まれている。生体磁気などの検知の用途ではノイズレベルは0.1mG以下が求められている。これらの要望に対応するためには、現行のMIセンサの大幅な性能向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3693119号
【特許文献2】特許第4835805号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MI素子としては、微細加工プロセスで製作したコイルで、コイルピッチが60μmの特許文献1(
図2)に記載されたワイヤを溝に埋設するタイプのもの、コイルピッチが30μmの特許文献2(
図2)に記載されたワイヤを平面基板に液状樹脂で付着させるタイプのものが実用化されている。コイルピッチの微細化を図ることで、MIセンサの高感度化、低ノイズ化、測定レンジの拡大およびマイクロサイズ化を図ることができると考えられる。
現在の微細加工プロセスで製作したコイルは、基板上に設置した溝付きタイプの凹状コイル方式(特許文献1)や、ワイヤ上部に凸状に形成したコイル方式(特許文献2)で製作されている。基板上に固定または仮固定するための深い溝や高いガイド用ポールを設け、それらを使ってワイヤを基板上に整列固定している。これらの方法だとマスクと基板底面との間に大きな間隙ができて、露光時に光の回折現象により微細な配線を焼き付けることができず、現状ではコイルピッチは30μmとなっている。また、液状樹脂を使ってワイヤを仮固定するため、樹脂がコイルとワイヤ間に介在する分、コイル厚みが大きくなり、コイルピッチの微細化の障害となっている。
よって、現状のコイル形成方式では、ワイヤ径10μm〜15μmに対応したコイル厚みは30μm〜50μm程度で、コイルピッチは30μmが限界であった。つまりコイルアスペクト比を1.7から2以上に大幅に改善しない限り、コイルピッチ14μm以下を実現することは困難である。
また、コイル線はコイル抵抗を小さくするために線厚み7μ程度とされているが、厚みをそのままでコイルピッチの微細化は困難である。コイルピッチの微細化を達成するためには、蒸着プロセスで薄膜コイルを製作する必要があるが、コイル線の断面積が小さくなるとコイル抵抗が大きくなって、コイル電圧はコイル電流による電圧降下で、出力電圧のアップは期待できない。
以上、基板面上に設置するコイルピッチの微細化については、コイルアスペクト比の改善を図る課題、およびコイル線の断面積の縮小によるコイル抵抗の増大に対処できる電子回路の考案、また素子を小型化できても集積回路とワイヤボンディング接合している限りMIセンサの小型化は困難である。同時に寄生容量の増加による出力電圧の低下などの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の技術課題を鋭意検討した結果、
絶縁素材で被覆された磁性ワイヤを用いて、基板上の3
次元形状のコイルの形成は凹形状のコイル下部、凸形状のコイル上部および両者の間にある段差を介して両者を接続するジョイント部の3層
または段差がゼロの特殊な場合は2層に分割して接合することで、コイルアスペクト比を小さくできて、コイルピッチの微細化が容易に実現できるという本発明の技術的思想に至った。
さらに、その微細ピッチコイル線の薄膜化に伴ってコイル抵抗が大幅アップする課題については、従来のサンプルホールド回路に代えて、パルス対応型のバッファー回路付のサンプルホールド回路と本素子を組合せることおよび寄生容量を大きくするワイヤボンディング接続を排して半田で直接集積回路チップに接続する方式を採用することによって解決するという着想を考案するに至った。
【0008】
第1発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、電極配線基板上に感磁体
である絶縁素材で被覆された磁性ワイヤとその周りに巻きつけて形成したコイルが、凹形状のコイル下部と凸形状のコイル上部および両者の間にある段差を介して両者を連結するジョイント部の3層
または段差がゼロの場合は2層に分割した多層構造からなり、
磁性ワイヤの下部のみをコイル下部配線を施した基板溝に埋設し、それを接着機能およびレジスト機能を有する樹脂で固定し、ワイヤ上部は樹脂の表面張力で薄く覆われ、もしくは一部露出した状態で、コイル上部配線およびジョイント部の配線を行ってコイルを形成すること、および、ワイヤ端部の絶縁素材の被覆部については樹脂で埋もれているワイヤ下部を除いてワイヤ端部の絶縁素材を除去した後、露出したワイヤ上部とワイヤ電極とを配線を施すことを特徴とするものである。
多層凹凸の構造にすることにより3次元コイルのコイルアスペクト比を3倍に増加させ、コイル巻き数を増やすことが容易にできる。
【0009】
ホトリソグラフィ技術で凹凸のある基板にコイル配線をパターニングする場合、凹凸によりマスクと基板に間隔が生じて、露光時の回折現象により線幅が制限される。ワイヤの半分(ワイヤ断面の半分をいう。)を基板上の溝に埋設し、残り半分を凸状の絶縁被膜で覆って露光することによって、さらに絶縁被膜の厚みを最小化することによって、凹凸を小さくすることができ、その結果コイルピッチの増大が実現する。
絶縁素材で被覆した磁性ワイヤを採用することで、コイルとワイヤ間の絶縁問題は無くなり、ワイヤを基板に固定するにあたって、磁石を埋め込んだ基板固定台を使ってワイヤを基板に仮止めして、コイル下部の上面とワイヤとの間並びにコイル上部とワイヤとの間には接着材を介せずに固定して、コイル厚みをワイヤ径とコイル線厚みの合計程度まで薄くすることができる。ワイヤ端部の絶縁被膜については固定後溝内にあるワイヤ上部に存在する絶縁被膜を除去して金属表面を露出させて、露出したワイヤ上部とワイヤ電極とを接続する。
本発明では、ワイヤを浅い溝に整列固定することが必要であるが、接着仮止め用の液状樹脂を塗布すると溝を浅くしてしまうので好ましくない。基板固定台に磁石を取り付けて、磁力によってワイヤを仮止めして、その後樹脂を薄く塗布すると、表面張力の力で溝面とワイヤ間に樹脂が浸透し、その状態でキュア処理を行ってワイヤを固定する。磁石と浅い溝のガイド機能を活用して接着材を極力薄くすることで、コイル厚みを小さくしマスクと基板底面の間隙を小さくしてコイルピッチの微細化を容易に
する。
【0010】
第2発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、
第1発明において、その感磁体は直径1から20μmのアモルファスの導電性の磁性ワイヤからなり、コイルはコイルピッチ14μm以下、コイル厚み30μm以下、コイル厚みは前記感磁体のワイヤ径に対して2.5倍以下、かつ、コイルアスペクト比2以上のコイルで、コイル線の厚さを2μm以下で、ワイヤ長さが0.30mm以下で、コイル巻数20回以上有して、MIセンサ素子のミニサイズ化と高感度化を同時に実現することを特徴としたものである。
【0011】
ワイヤの直径とコイル厚みを小さくし、蒸着プロセスによる薄膜コイルおよび3層構造を採用することにより、コイルピッチを微細化できる。また、コイル線の厚みを2μm以下に薄くすることによりコイルピッチの微細化を容易にする。一方、コイル抵抗の増加の問題については、バッファー回路付サンプルホールド回路と組み合わせることによって解決できる。
これら組み合わせることにより、ワイヤ長さとMI素子の長さを、従来の0.60mmから0.30mm以下と小さくすることができる。測定レンジは、ワイヤ長さに反比例するので、±12Gから±48G以上に大幅に改善できる。しかもワイヤ長さを短くしてもコイル巻き数は逆に増加させることができて、センサ感度の向上を図ることができる。つまり従来品のMIセンサに比べて10倍以上の機能性の向上が実現する。生体内など超小型センサが要求される用途において、性能を維持したままで小型化することが必要であるが、コイルピッチの微細化により容易に実現できる。
【0012】
第3発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、
第1発明において、その感磁体は直径1から20μmのアモルファスの導電性の磁性ワイヤからなり、コイルはコイルピッチ7μm以下、コイル厚み25μm以下、コイル厚みは前記感磁体のワイヤ径に対して2倍以下、かつコイルアスペクト比5以上のコイル、コイル線の厚さを2μm以下で、ワイヤ長さが1.00mm以上でコイル巻数200回以上に設定するものである。
生体磁気のようなピコテスラレベルの超微小磁界を検知する場合、200回以上のコイル巻き数が必要であるが、この巻き数は、コイルピッチを7μm以下とさらに微細化して、素子の長さ(ワイヤ長さ)を1mm以上とすることで実現することができる。
【0013】
第4発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、
第1発明から第3発明において、磁性ワイヤの端部の絶縁被膜を除去したワイヤ上部の金属表面とワイヤ用電極とを直接金属蒸着層で結合したことを特徴とするものである。
【0014】
第5発明のマグネト・インピーダンス・センサ素子は、
第1発明から第4発明において、ワイヤ用電極の上に半田ボールを取り付け、この半田ボールでワイヤ電極と集積回路面の電極を接合し、またコイル用電極に半田ボールを取り付け、この半田ボールでコイル電極と集積回路の端子を接続することを特徴とするものである。
ワイヤボンディングを省略して、MIセンサの小型化を実現すると同時に素子の寄生容量を低減してコイル抵抗の増加に伴うIRドロップ(電圧降下)を小さくして、MIセンサの感度の向上を図るものである。
【0015】
第6発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサは、第1発明から第5発明において、電磁コイルの電圧出力を、パルス対応型のバッファー回路を介してサンプルホールド回路にて検知するものである。
従来のサンプルホールド回路では、MI素子の抵抗が大きくなると、IRドロップによる電圧降下でコイル巻き数を増やしてもそれに比例した出力電圧を取り出すことができない。通常のバッファー回路では、周波数帯域が1MHz程度で、MIセンサ用のGHzのパルス電圧に対応できないと考えられる。周波数帯域をGHzに高めるためにはバッファー回路の消費電流が著しく増大し実用的ではない。この問題に対して、バッファー回路と入力側にMI素子のみの高インピーダンス回路、出力側に電子スイッチとコンデンサ(容量は5pF程度)と増幅器からなる高インピーダンス回路を組み合わせた場合、コイルにパルス電圧が発生するナノ秒の一瞬のみ、出力側が低インピーダンスとなりバッファー回路として機能して、コンデンサにコイルと同様の電圧がホールドされることを見出した。つまりこの構成においては、ナノ秒の一瞬バッファー回路の周波数帯域がGHzまで高まったとみなすことができる。この構成をパルス対応型のバッファー回路と呼ぶことにする。
第6発明は、微細コイルを持つMI素子とパルス対応型のバッファー回路とを組み合わせることで、MIセンサの感度を大幅に改善したものである。
【発明の効果】
【0016】
第1発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、
絶縁素材で被覆された磁性ワイヤを採用することおよび電極配線基板上に感磁体とその周りに巻きつけて形成したコイルが、凹形状のコイル下部と凸形状のコイル上部およびそれを連結するジョイント部の3層構造からなることを特徴としたもので、コイルアスペクト比の増加、コイルのファインピッチ化を容易にでき、その結果、本素子とバッファー回路付のサンプルホールド回路、集積回路とMI素子を半田で直接接続することとを組合せれば、MIセンサの高感度化、低ノイズ化、測定レンジの拡大および小型化を可能にするという効果を奏する。
【0017】
次に、第2発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、
0.30mm以下で、コイル巻数20回以上有して、MIセンサ素子のミニサイズ化、高感度化および測定レンジの拡大を同時に実現することができるという効果を奏する。
【0018】
また、第3発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、
200回以上のコイル巻き数を持ち生体磁気のようなピコテスラレベルの超微小磁界を検知することができるという効果を奏する。
【0019】
また、第4発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、
第1発明から第3発明において、磁性ワイヤの端部の絶縁被膜を除去したワイヤ上部の金属表面とワイヤ電極端子とを直接金属蒸着層で結合することで、磁性ワイヤと電極との電気的接続を安定化させてワイヤ通電を確実にすることができる。
【0020】
さらに、第5発明のマグネト・インピーダンス・センサ素子は、第1発明から第4発明において、磁性ワイヤ端部およびコイル端子部に半田ボールを取り付けて直接集積回路の表面に接続することを可能にするものである。ワイヤボンディング接続の方法を排することによって、センサの小型化が実現できると同時にコイルの寄生容量を低減して、バッファー回路に入力される検出コイル電圧のIRドロップによる電圧降下を小さくするという効果を奏する。
【0021】
また、第6発明の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサは、第1発明から第5発明の素子の電磁コイル電圧出力を、パルス対応型のバッファー回路を介してサンプルホールド回路にて検知することによって、コイルに流れる電流を抑制し電圧降下を最小化することによってセンサの高感度化、低ノイズ化を可能にするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態および第1実施例のMI素子を示す正面の概念図である。
【
図2】第1実施形態および第1実施例のMI素子を示す
図1のA1−A2線に沿う断面の概念図である。
【
図3】第1実施形態および第1実施例におけるコイル下部の概念図である。
【
図4】第1実施形態および第1実施例におけるコイル上部の概念図である。
【
図5】第1実施形態および第1実施例における
図2のB1-B2線に沿う断面の上下コイルの概念図である。
【
図6】第1実施形態および第1実施例のMI素子を示す
図1のA3−A4線に沿う断面の概念図である。
【
図7】第2実施形態および実施例におけるMIセンサの電子回路を示すブロック回路図である。
【
図8】第2実施例および比較例1と比較例2におけるセンサ出力電圧対外部磁場の特性を示す線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下本発明の実施の形態につき、図を用いて説明する。
【0024】
(第1実施形態)
第1実施形態の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、
図1、図2および図6に示されるMI素子において、電極配線基板1上に磁界を検知するCo合金の
絶縁被膜付アモルファス磁性ワイヤ2と絶縁物を介して3層構造の電磁コイル3、つまり凹状のコイル下部と凸状のコイル上部およびそれを連結するジョイント部からなる構造のコイルを形成し、このときの電磁コイル3はコイルピッチ14μm以下、内径40μm以下、コイルアスペクト比2以上として、ワイヤ2とコイル3の端子を基板1上のそれぞれの電極22、36に接続し、そこに半田ボールを設置して集積回路と接続する。ワイヤ2に高周波またはパルス電流を流した時、電磁コイル3に発生する外部磁界の強度に応じた電圧を出力する。その電圧を集積回路で検知するものである。
【0025】
また、本実施形態は、前記のMI素子において、
前記ワイヤ2の直径は1〜20μmである。前記電極基板1の溝11はワイヤ径の1/2程度(15μm以下)の深さであり、当該ワイヤ2の下部のみを電磁コイル3の凹状のコイル下部31配線が施された当該溝11に埋設し、それを接着機能およびレジスト機能を有する樹脂で固定し、ワイヤ上部は樹脂の表面張力で薄く覆われ、もしくは一部露出した状態で、その上に高さ25μm以下の凸状のコイル上部32が配置され、その間を段差0.5〜20μmに対してはジョイント部33で連結する3層構造とするものである。この3層構造によりコイルアスペクト比を2以上確保して、コイルピッチを14μm以下にすることができる。なお、本発明の3層構造は上下コイル間の段差が0μmの特殊な場合、事実上2層構造も3層構造の特殊なケースとして本発明に包含しうる。
【0026】
本実施形態において、望ましいワイヤ径は6〜15μmである。この場合3層の高さ比率は原則三等分とする。この時、溝深さは2〜10μmが望ましい。上コイル側の凸部の高さは同じく2〜10μmが望ましい。この場合コイル厚みは10〜30μm、コイルアスペクト比を3〜5、コイルピッチは2〜10μmとすることができる。
【0027】
本実施形態において、Co合金の
絶縁被膜付アモルファス磁性ワイヤは感磁性能が優れているため、電磁コイル1巻あたりの出力電圧が増加してセンサの高感度化を可能にすることができる。
また、本実施形態は、コイル厚みは、ワイヤ径に対して1.005ないし10倍に設定することによって、コイルアスペクト比が同じでも、いろいろな径のワイヤを使った場合においてもコイルピッチを小さくすることができて、高感度化と低ノイズ化を可能にする素子となる。
【0028】
さらに、本実施形態は、コイル線の厚みを2μm以下とすることで、コイルピッチを14μm以下に容易に実現することができる。
また、本実施形態は、コイルピッチを14μm以下にすることで、前記のMI素子において素子の長さを0.30mm以下としても、現行MI素子と同等のコイル巻数を確保することが出来て、高い感度を保持した状態で、小型化を可能にする素子となる。
【0029】
また、本実施形態は、コイルピッチを14μm以下にすることで、前記のMI素子の長さを1mm以上、コイル数が200回以上に設定することによって、小型でありながら、ノイズレベルを標準偏差で0.1mG以下の超高感度化を可能にする素子となる。
【0030】
また、本実施形態は、前記ワイヤ2の端部の絶縁被覆については樹脂で埋もれているワイヤ2の下部を除いたワイヤ2の上部の絶縁被膜を除去した後、露出したワイヤ2の上部とワイヤ2の電極とを直接金属蒸着層で結合配線を施して、磁性ワイヤと電極との電気的接続を安定化させてワイヤ通電を確実にした。
さらに、本実施形態は、ワイヤ電極、コイル電極に半田ボールを接続して、直接集積回路に接続することによってMIセンサの小型化を実現することができる。
【0031】
(第2実施形態)
第2実施形態は、第1実施形態のMI素子とバッファー回路付のサンプルホールド回路と組合せて使用するMIセンサに関するものである。ファインピッチコイルの電気抵抗は、コイル間隔を1/2としてコイル巻数を2倍とすると、コイル線厚みが同じならコイル線の断面積が1/2となり、しかもコイル長さは2倍となり、その結果電気抵抗は4倍となる。コイル出力電圧を、直接電子スイッチを介してサンプルホールドすると、コイルに電流が流れて降下電圧が4倍大きくなり、コイル出力電圧を大きく損なうことになる。そこでバッファー回路と電子スイッチを介して
サンプルホールドする回路を採用することによって、電圧降下を抑制してコイル数に比例した出力電圧を得ることができるようにしたMIセンサである。
【実施例1】
【0032】
以下本発明の実施例につき、図を用いて説明する。
第1実施例の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子について、
図1〜図6を用いて以下に説明する。
【0033】
基板1の大きさは、長さ0.3mm、幅0.2mm、高さ0.2mmである。 感磁体は、CoFeSiB系合金を使った直径10μmで
ガラス被覆されたアモルファスワイヤ2である。 基板1の凹形状のコイル下部31は、深さ7μm、線幅2μm、コイル幅が40μm、厚み1μmである。ジョイント部33は、高さ1μm、厚み1μm、凸形状のコイル上部32は、高さは7μm、線幅2μm、コイル幅が40μm、厚み1μmである。電磁コイル3の厚みは14μmの三層構造である。コイルピッチは5μm、コイルアスペクト比は2.6で、コイル巻数は50回である。
【0034】
3層コイルの配線構造を
図3〜図5を使って説明する。前記凹形状のコイル下部31は、
図3に示されるように電極配線基板1の長手方向に形成された溝11の溝面の全面および電極配線基板1の上面の前記溝11の近接部にコイル下部31を構成する導電性の金属薄膜(厚み1μm)を蒸着により形成し、形成された金属薄膜がクランク状31に残るように間隙部を構成する導電性金属薄膜部を選択エッチング手法により除去することにより形成される。
【0035】
凹形状のコイル下部31の配線をパターニングした溝に
アモルファスワイヤ2を挿入した後に、厚さ1μmの樹脂をスピンコートで塗布し硬化させて第2層面である樹脂層4を形成後、その第2層面上に厚さ1μmの
ジョイント部33とコイル下部31のクランク部34とは電気的に接合される。
【0036】
凸形状のコイル上部33は、第2層面の樹脂層4の上に、ワイヤ上部に沿って高さ7μmの凸状の樹脂を塗布し、その面にコイルを構成する導電性の金属薄膜(厚み1μm)を蒸着により形成し、形成された金属薄膜がクランク状に残るように間隙部を構成する導電性金属薄膜部を選択エッチング手法により除去することにより形成される。コイル上部32のクランク部は
ジョイント部33と電気的に接合される。
【0037】
アモルファスワイヤ2と電磁コイル3はアモルファスワイヤを被覆しているガラスで絶縁を保持している。アモルファスワイヤ2は樹脂によって基板に固定される。導電性のアモルファスワイヤ2と電磁コイルの電極はそれぞれ電極配線基板1の上面に電磁コイル3のコイル電極36と感磁体であるアモルファスワイヤ2のワイヤ電極22の計4個が焼付けられている。
【0038】
アモルファスワイヤ2の端部の構造について図6を使って説明する。樹脂によって基板に固定されているアモルファスワイヤ2の端部のガラス絶縁被膜部は、樹脂に埋もれているアモルファスワイヤ下部を除いて除去され、アモルファスワイヤ2の金属端部の金属表面とアモルファスワイヤ端子21とは金属蒸着膜とで接合し、アモルファスワイヤ端子21とワイヤ電極22との接合部23も金属蒸着膜で接合する。
ワイヤ電極
22の上に半田ボールを設置して、また、電磁コイル3のコイル端子35からのびるコイル電極36にも半田ボールを設置して、加熱して集積回路側の端子に直接接続する。これによりセンサの小型化が実現する。なおワイヤボンディングを廃止することで、パルス発振時の電磁ノイズの低減にも役立っている。さらにワイヤとMI素子のワイヤ電極とは半田で強く接合されMI素子の機械的強度が高いものとなった。
【0039】
次に、前記MI素子10の特性を
図7に示すMIセンサ用の電子回路を用いて評価した。
電子回路は、パルス発信器61と前記MI素子10とバッファー回路63を有する信号処理回路62とからなる。 信号は、500MHzに相当する100mAの強さのパルス信号で、信号間隔は1μsecである。 パルス信号はアモルファスワイヤ2に入力され、そのパルス印加中に電磁コイル3には外部磁界に比例した電圧が発生する。
【0040】
信号処理回路62は、電磁コイル3に発生したその電圧を、バッファー回路63に入力し、そこからの出力に電子スイッチ65を介してサンプルホールド回路66に入力される。電子スイッチの開閉のタイミングは、検波タイミング整回路64でパルス信号に対して適切なタイミングに調整し、その時の電圧をサンプルホールドする。その後その電圧を増幅器72にて所定の電圧に増幅する。
【0041】
前記回路からのセンサ出力を
図8に示す。
図8の横軸は外部磁場の大きさ、縦軸はセンサ出力電圧である。 センサの出力は磁界の強さ±10Gの間で優れた直線性を示す。 さらにその感度は42mV/Gであった。
【0042】
比較例として、市販製品AMI306に使用されているMI素子を同一の電子回路にて測定評価した。その結果を
図8の比較例1に示す。感度は14mV/Gであった。比較例のMI素子の寸法は、幅0.3mm、高さ0.2mm、長さ0.6mmで本実施例より3倍大きいサイズである。また感磁体には本実施例と同じアモルファスワイヤが使
用されている。この結果から、本実施例の微細ピッチコイルによる感度改善効果してはコイル巻数3倍で、感度も3倍になることが分かる。
第1実施例で製作した電子コンパスは、動的3次元方位計が要求する高い感度と低いノイズを実現しており、その応用が期待される。
【実施例2】
【0043】
第2実施例は、実施例1の電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子とバッファー回路付の信号処理回路62とを組み合わせたものである。MI素子のコイルは、コイルピッチは5μm、コイル巻数は50回、長さは0.3mm、コイル抵抗は48オームである。
【0044】
電子回路6は、パルス発振器61と信号処理回路62からなっている。信号処理回路62は、バッファー回路63、検波タイミング調整回路64、電子スイッチ65とサンプルホールド回路66および増幅回路67からなっている。パルス発信器61は500MHz相当の振動数、電流の強さは100mAのパルスをMI素子のワイヤ部に入力する。MI素子のコイルに発生した電圧はバッファー回路63に入力する。バッファー回路63からの出力電圧は電子スイッチ65を介してサンプルホールド回路66でホールドされ、その後その電圧は増幅器67にて増幅処理される。電子スイッチ65の開閉は、検波タイミング調整回路64でパルス信号に連動した適切なタイミングで開閉するよう調整され開閉する。閉じたタイミングの時の電圧をサンプルホールドする。
【0045】
また、比較例として、現行品のMI素子とバッファー回路付き回路を組合せたセンサを比較例1とした。さらに実施例1の発明MI素子とバッファー回路無しの回路と組合せたセンサを比較例2とした。本実施例の性能と二つ比較例の性能を比較した。その結果、比較例1の感度は14mV/G、比較例2は20mV/Gであった。これに対して実施例2は、感度は42mV/Gと大幅に向上する。
【0046】
なお、上述の実施形態および実施例は、説明のために例示したもので、本発明としてはそれらに限定されるものでは無く、特許請求の範囲、発明の詳細な説明および図面の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更および付加が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明のファインピッチの電磁コイル付マグネト・インピーダンス・センサ素子は、非常に小型で高感度であるため、動的3次元方位計としてスマートファオンやモーションキャプチャなど幅広い分野で適用を可能にするものである。
【符号の説明】
【0048】
1:MI素子の基板、10:MI素子、11:基板上の溝
2:アモルファスワイヤ、21:ワイヤ端子、22:ワイヤ電極、23:接続部、
3:電磁コイル、31:コイル下部、32:コイル上部、33:ジョイント部、
34:クランク部、35:コイル端子、36:コイル電極
4:樹脂層
6: 電子回路
61:パルス発振器 62:信号処理回路 63:バッファー回路 64:検波タイミング調整回路、65:電子スイッチ、66:サンプルホールド回路、67:増幅器
【要約】
【課題】
MI素子のコイルピッチを微細化してコイル巻数の増加を図り、高感度化・小型化を可能とするための技術を提供する。
【解決手段】
MI素子は、
絶縁素材で被覆した磁性ワイヤとその周りに巻きつけたコイルとを電極配線基板上に設置するものであるが、コイルの製作に関して、凹形状のコイル下部と凸形状のコイル上部および両者を連結する
ジョイント部の3層構造または段差ゼロの場合の2層構造とすることと蒸着プロセスによる薄膜コイル線に着目ことによって、コイルピッチを14μm以下にすることを実現した。
【選択図】
図2