特許第5747334号(P5747334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5747334カーボンナノチューブ発光素子、光源及びフォトカプラ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747334
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ発光素子、光源及びフォトカプラ
(51)【国際特許分類】
   H01K 1/06 20060101AFI20150625BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20150625BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20150625BHJP
   H01L 31/12 20060101ALI20150625BHJP
   C01B 31/02 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   H01K1/06
   H05B33/14 Z
   H05B33/22 Z
   H01L31/12 A
   C01B31/02 101F
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-512744(P2012-512744)
(86)(22)【出願日】2011年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2011058406
(87)【国際公開番号】WO2011135978
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2013年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-104124(P2010-104124)
(32)【優先日】2010年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(72)【発明者】
【氏名】牧 英之
(72)【発明者】
【氏名】山内 陽平
【審査官】 小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−523254(JP,A)
【文献】 特開2009−161393(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/139763(WO,A1)
【文献】 特表2003−534645(JP,A)
【文献】 Peng Li, et al.,Polarized oncandescent light emission from carbon nanotubes,Applied Physics Letters,米国,American Institute of Physics,2003年 3月17日,vol. 82, No. 11,1763-1765
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01K 1/06
C01B 31/02
H01L 31/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極と、
該電極間に配設された、少なくとも一部に金属カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブと、
少なくとも前記金属カーボンナノチューブの表面を覆う絶縁体とを備え、
前記電極への通電により金属カーボンナノチューブが発熱して発光する黒体放射によって、変調可能な発光を行うようにしたことを特徴とするカーボンナノチューブ発光素子。
【請求項2】
前記金属カーボンナノチューブ及び電極が基板上に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ発光素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ発光素子を備えたことを特徴とする光源。
【請求項4】
金属カーボンナノチューブが、光ファイバと直交するように、透明基板上に配設されていることを特徴とする請求項に記載の光源。
【請求項5】
金属カーボンナノチューブ及び電極が基板上に配設され、該基板の表面と平行な方向に発光するようにされていることを特徴とする請求項に記載の光源。
【請求項6】
金属カーボンナノチューブ及び電極が基板上に配設され、該基板の表面と垂直な方向に発光するようにされていることを特徴とする請求項に記載の光源。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ発光素子と、受光素子を備えたことを特徴とするフォトカプラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ発光素子、光源及びフォトカプラに係り、特に、情報通信電気電子分野で用いるのに好適な、高速変調できる連続スペクトル光源を実現可能なカーボンナノチューブ発光素子、該カーボンナノチューブ発光素子を用いた光源及びフォトカプラに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、光励起によって発光を観測するフォトルミネッセンス測定により発光が観測されたことを皮切りに研究が精力的に進められているが、近年は電流注入による発光が観測されたことから発光素子としても期待されている。カーボンナノチューブを用いた発光素子は、非特許文献1〜8に報告されている。しかし、カーボンナノチューブ発光素子の高速変調性は、これまで全く研究・開発の報告がされておらず、未開拓であった。
【0003】
カーボンナノチューブ発光素子の発光のメカニズムは、(a)電子・正孔の再結合による発光と、(b)黒体放射による発光の2つに分けられる。
【0004】
(a)電子・正孔の再結合による発光について
現在、精力的に研究が進められているのは、主にこの発光機構である。電子・正孔の再結合による発光は、半導体カーボンナノチューブ中に何らかの方法により電子と正孔を励起し、それらの再結合によって発光するものである。現在の固体半導体における発光ダイオード(LED)に対応する発光原理である。
【0005】
励起方法としては、(i)電子・正孔注入励起、(ii)衝突励起、(iii)加熱励起が報告されている。(i)は、カーボンナノチューブに形成した2つの電極から電子と正孔をそれぞれ反対方向より注入し、それらの再結合で発光するものである。(ii)は、電極から高い運動エネルギーをもつ正孔(または電子)を注入し、その運動エネルギーを失う際のエネルギーで電子・正孔ペア(励起子)を生成し、励起子の緩和により発光するものである。(iii)は、カーボンナノチューブに通電した際のジュール熱等による加熱による熱エネルギーで電子を励起し、電子が正孔と緩和する際に発光するものである。
【0006】
(b)黒体放射による発光について
あらゆる物質は、絶対零度を超える温度において熱による電磁波の放射(黒体放射)が見られる。この黒体放射では、その発光スペクトルはプランク則によって記述されるとともに、熱放射のエネルギーは温度Tの4乗に比例するステファン・ボルツマン則に従う。この黒体放射は、現在は例えば電球のタングステンフィラメントとして用いられていて、照明等に利用されている。
【0007】
カーボンナノチューブにおいても、カーボンナノチューブを束ねてフィラメント状にしたものを用いて、通電による加熱でフィラメントと同様に発光することが報告されている(非特許文献9)。しかし、フィラメント状の発光は、タングステンの電球と同様に高速でのオンオフ変調は不可能である。また、数μm程度の太い束状の多層カーボンナノチューブ(非特許文献10)や直径13nm程度の太い多層カーボンナノチューブを基板上に配置して(非特許文献11)、通電による黒体放射を観測した例も報告されていて、プランク則に従うことが示されているが、太いカーボンナノチューブでは高速変調が難しく、高速変調は試みられていない。
【0008】
また、黒体放射は、発光ダイオードやレーザーダイオードとは異なり、広い波長範囲において連続的なスペクトル(連続スペクトル光源)を得られる特徴がある。しかし、従来のフィラメント等による黒体放射では、高速の変調性は有していないため、現状では高速変調可能な連続スペクトル光源は存在しない。
【0009】
また、これまで報告されている発光素子では、一本のカーボンナノチューブを用いたものと多数のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ薄膜(カーボンナノチューブネットワーク)の2つに大別される。
【0010】
一本のカーボンナノチューブ発光素子は、非特許文献1〜6によって報告されるとともに、非特許文献7、8では、数本のカーボンナノチューブが絡まって一束となったバンドル状と呼ばれるカーボンナノチューブを一束用いて、発光を観測している。一本または一束のカーボンナノチューブを用いた発光素子は、単一の発光を取り出しやすく、スペクトルの幅が狭いという特徴を有する。しかし、(1)カーボンナノチューブを成長した基板を顕微鏡により観察して一本のカーボンナノチューブを探し出す、または、(2)多くの作製した素子の中から、偶然一本に電極形成された素子を選び出す必要がある。そのため、素子の歩留まりは悪いのが一般的である。
【0011】
一方、カーボンナノチューブ薄膜(またはネットワーク)を用いた発光素子は、出願人が特許文献1で提案しているが、歩留まり良く素子を作製することが出来る。ただし、発光スペクトルは、一本のものと比べてブロードになる特徴がある。また、非特許文献7、8においても薄膜状のカーボンナノチューブ素子からの発光が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−283303号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J. A. Misewich et al., Science 300, 783 (2003)
【非特許文献2】Freitag, M.; Chen, J.; Tersoff, J.; Tsang, J. C.; Fu, Q.; Liu, J.; Avouris, Ph. Phys. ReV. Lett. 2004, 93, 076803.
【非特許文献3】Freitag, M.; Perebeinos, V.; Chen, J.; Stein, A.; Tsang, J. C.; Misewich, J. A.; Martel, R.; Avouris, Ph. Nano Lett. 2004, 4, 1063.
【非特許文献4】Chen, J.; Perebeinos, V.; Freitag, M.; Tsang, J. C.; Fu, Q.; Liu, J.;Avouris, Ph. Science 2005, 310, 1171.
【非特許文献5】Marcus Freitag, James C. Tsang, John Kirtley, Autumn Carlsen, Jia Chen, Aico Troeman, Hans Hilgenkamp, and Phaedon Avouris, Nano Letters 6, 1425 (2006)
【非特許文献6】DAVID MANN, Y. K. KATO, ANIKA KINKHABWALA, ERIC POP, JIEN CAO, XINRAN WANG, LI ZHANG, QIAN WANG, JING GUO AND HONGJIE DAI, Nature nanotechnology, 2, 33 (2007).
【非特許文献7】L. Marty, E. Adam, L. Albert, R. Doyon, D. Me´nard, and R. Martel, Phys. Rev. Lett. 96, 136803 (2006)
【非特許文献8】E. Adam, C. M. Aguirre, L. Marty, B. C. St-Antoine, F. Meunier, P. Desjardins, D. Me´nard, and R. Martel, Nano Letters, 8, 2351 (2008)
【非特許文献9】Jinquan Wei, Hongwei Zhu, Dehai Wu, Bingqing Wei, APPLIED PHYSICS LETTERS 84, 4869 (2004)
【非特許文献10】Peng Li, Kaili Jiang, Ming Liu, Qunqing Li, and Shoushan Fan, Jialin Sun, APPLIED PHYSICS LETTERS 82, 1763 (2003)
【非特許文献11】Yuwei Fan, S. B. Singer, Raymond Bergstrom, and B. C. Regan, PHYSICAL REVIEW LETTERS 102, 187402 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来報告されているカーボンナノチューブ発光素子は、直流電圧または直流電流によって駆動する変調無しの発光素子である。光通信や光集積回路で使用する場合は、高速で変調してオンオフする必要があるため、従来のカーボンナノチューブ発光素子は光による情報通信には使用することが出来ない。大量の情報を光通信により伝送するためには、高速で変調する発光素子が必要である。
【0015】
また、現在高速変調に利用されている発光ダイオードやレーザーダイオードは、特定のエネルギー間の緩和に伴う発光を利用しているため、広い波長範囲で連続的なスペクトル(連続スペクトル光源)を得ることが出来ない。一方、従来のフィラメントによる連続スペクトル光源は、高速の変調性を有していないため、現状では高速変調可能な連続スペクトル光源は存在しない。
【0016】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、高速変調できる連続スペクトル光源を実現可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
カーボンナノチューブ(CNT)は、その構造(カイラリティー)に依存して、バンドギャップを有する半導体カーボンナノチューブとバンドギャップを有しない金属カーボンナノチューブが存在する。このうち半導体カーボンナノチューブを用いた場合、電極金属との接合付近において半導体と金属の接合に伴うショットキーバリアが発生する。これは、電極からカーボンナノチューブへのキャリア注入の妨げとなるため、半導体カーボンナノチューブでは黒体放射を得るための電圧が上昇する。一方、金属カーボンナノチューブでは、ショットキーバリアが発生しないことから、効率よくキャリアが注入される。一本の金属カーボンナノチューブと半導体カーボンナノチューブを比較した場合、図1に示すように、1Vの印加電圧では、金属カーボンナノチューブでは10μA程度の電流が流れる(図1(a)参照)のに対して、半導体カーボンナノチューブでは数十nA程度の電流しか流れない(図1(b)参照)。従って、金属カーボンナノチューブでは、半導体カーボンナノチューブよりも非常に低い電圧で黒体放射を実現できる。
【0018】
一般に、カーボンナノチューブを生成させると、金属カーボンナノチューブと半導体カーボンナノチューブが混在する。複数のカーボンナノチューブを用いた場合、その中に一本でも金属カーボンナノチューブが存在すれば、金属カーボンナノチューブから発光する。また、最近になって、金属カーボンナノチューブを分離する技術として、電気泳動や遠心分離によって金属と半導体カーボンナノチューブを分離する技術が開発されているので、これによって金属カーボンナノチューブだけを用いて発光素子を作成することも可能である。
【0019】
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、複数の電極と、該電極間に配設された、少なくとも一部に金属カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブと、少なくとも前記金属カーボンナノチューブの表面を覆う絶縁体とを備え、前記電極への通電により金属カーボンナノチューブが発熱して発光する黒体放射によって、変調可能な発光を行うようにして、前記課題を解決したものである
【0020】
ここで、前記金属カーボンナノチューブ及び電極を基板上に配設して、放熱性を高めることができる。
【0022】
本発明は、又、前記のカーボンナノチューブ発光素子を備えたことを特徴とする光源を提供するものである。
【0023】
ここで、金属カーボンナノチューブを、光ファイバと直交するように、透明基板上に配設することができる。
【0024】
又、金属カーボンナノチューブ及び電極を基板上に配設し、該基板の表面と平行な方向に発光するようにすることができる。
【0025】
あるいは、金属カーボンナノチューブ及び電極を基板上に配設し、該基板の表面と垂直な方向に発光するようにすることができる。
【0026】
本発明は、又、前記のカーボンナノチューブ発光素子と、受光素子を備えたことを特徴とするフォトカプラを提供するものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、金属カーボンナノチューブに電極を形成するだけで、高速変調可能な発光素子が得られる。この変調性は、光通信に応用した場合、最低でも1〜3Gbps程度の超高速通信が期待される。また、Si基板など様々な基板上に集積して作製することも容易である。そのため、光ファイバを用いた光通信や集積回路上への発光素子作製による光集積回路など、極めて多くの電子・情報通信分野に応用可能である。
【0028】
また、本発明によれば、従来の発光ダイオードやレーザーダイオードでは不可能な広い波長範囲において連続的なスペクトル(連続スペクトル光源)を得られる特徴がある。従来のフィラメント等による黒体放射では、高速の変調性は有していないため、現状では高速変調可能な連続スペクトル光源は存在しないが、本発明により、高速変調可能な連続スペクトル光源が実現される。
【0029】
本発明は、非常に高速に変調可能な発光素子について、(a)化合物半導体とは異なり、シリコン上に容易に集積化が可能、(b)化合物半導体などに用いられる高価な半導体製造装置が不要なため、安価に製造可能、などの特徴を有している。そのため、光ファイバ通信だけではなく、シリコン基板上への光集積回路、チップ間やボード間の短距離情報伝送、フォトカプラなど、高速変調性を必要とする様々な応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】カーボンナノチューブの電圧電流特性を示す図
図2】本発明の第1実施形態である発光素子の構成を示す斜視図
図3】第1実施形態に電圧を印加した際の発光スペクトル図
図4】同じくパルス電圧を印加した際の(A)印加電圧から計算される発光時間分解測定結果、及び(B)観測された発光時間分解測定結果と立ち上がり、立ち下がり時間のフィッティング結果を示す図
図5】同じく1nsパルス印加時の発光時間分解測定結果を示す図
図6】本発明の第2実施形態である発光素子の構成を示す断面図
図7】本発明に係る発光素子が用いられた連続スペクトル光源である本発明の第3実施形態を示す分解斜視図
図8】同じく第4実施形態の構成を示す斜視図
図9】同じく第5実施形態の構成を示す(A)斜視図及び(B)断面図
図10】同じく第6実施形態の構成を示す(A)斜視図及び(B)断面図
図11】本発明に係る発光素子が用いられたフォトカプラである本発明の第7実施形態の構成を示す(A)回路図及び(B)断面図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0032】
本発明の第1実施形態である発光素子は、図2に示す如く、一本(一束)の金属カーボンナノチューブまたは複数の金属カーボンナノチューブ(CNT)10を含むカーボンナノチューブ薄膜に対してソース電極12とドレイン電極14を形成した素子構造を持つ。
【0033】
基板20としては、どのような基板を用いても良く、例えばSi、SiO、Al、MgOなどソース−ドレイン間が電気的に短絡しなければ、どのような基板を用いても良い。図において、21は、基板20上に設けられたSiO膜である。
【0034】
電極12、14の形状は、矩形などどのような形状でも良く、発光面積を増やすために櫛型電極にしても良い。また、電極材料は電流が流れる材料であれば、どのような材料でも良く、金属でも半導体でも良い。
【0035】
図2に示したようにカーボンナノチューブ10は、ソース−ドレイン電極間に配置される。電極間のカーボンナノチューブは、一本・一束のカーボンナノチューブでも複数のカーボンナノチューブでも良い。複数のカーボンナノチューブの場合は、歩留まりおよび発光強度が向上する。また、カーボンナノチューブであれば、化学気相成長法、アーク放電法、レーザーアブレーション法、HiPco法など、どのような成長法によるカーボンナノチューブを用いても良い。また、複数のカーボンナノチューブを用いる場合、複数のカーボンナノチューブの中に一本以上の金属カーボンナノチューブが含まれていれば、金属カーボンナノチューブから発光するため、半導体カーボンナノチューブと金属カーボンナノチューブが混在していてもよい。また、電気泳動や遠心分離により金属カーボンナノチューブのみを分離したものを用いてもよい。
【0036】
第1実施形態の発光素子で用いるカーボンナノチューブ10は、基板20に横たわって接触しているものでも良く、カーボンナノチューブの両端のみが基板に支えられた架橋カーボンナノチューブでも良い。また、カーボンナノチューブは、SiOまたはガラスやサファイアなどの絶縁体材料に覆われているカーボンナノチューブでも良い。カーボンナノチューブは大気中に露出していると、大気中の酸素と反応して損傷するが、カーボンナノチューブが絶縁体材料に覆われているか、真空中に保持されていれば、酸素との反応によるカーボンナノチューブの損傷を防ぐことが出来る。
【0037】
第1実施形態の発光素子に電圧(4V)を印加した際の発光スペクトルの例を図3に示す。この発光素子は、基板20に横たわって接触している多数のカーボンナノチューブ10を用いた発光素子の例である。長波長側に見られる緩やかな発光は、通電によりカーボンナノチューブ10が発熱することによる黒体放射による発光である。この長波長側の発光に対して、パルス電圧を印加した際の発光の時間分解測定の観測結果を図4に示す。また、図4には、印加されているパルス電圧(4V)から見積もられた発光強度の時間依存性も示されている。両者の結果より、印加したパルス電圧に追随した発光パルスが観測される。この発光の時間分解測定の立ち上がり時間・立ち下がり時間をフィッティングにより計算したところ、立ち上がり1ns、立ち下がり0.1nsが見積もられ、パルス電圧印加による発光の高速変調が可能であることが確認された。この結果は、高速変調された電圧印加に伴い、高速での発光変調が可能であることを示しており、立ち上がり・立ち下がり時間から1Gbps程度以上の高速光通信が可能であることを示している。また、図5(a)に示すような構成の測定装置で、一回の励起によって発生する全光子の時間軸上での強度分布が、一回の励起によって最初に発生する素子1個の時間軸上での発生確率と一致することを利用して、パルス電源60から1nsのパルス電圧(4V)を金属CNT10に印加した際にAPD62で検出した発光の単一素子計数装置64による時間分解測定の結果を図5(b)に示す。CNT黒体放射発光の応答速度が少なくとも1GHz程度であることが確認できた。この時間分解測定は、カーボンナノチューブからの発光を光ファイバを通して測定しており、この発光素子が光ファイバを用いた高速光通信に用いることができることを示している。
【0038】
この黒体放射による発光の高速変調は、(1)カーボンナノチューブが直径1nm程度の微小な一次元材料であることに起因して熱容量が非常に小さいこと、(2)カーボンナノチューブの熱伝導率が非常に高いことに起因している。これらに起因して、カーボンナノチューブに通電して発生する熱によって、速やかな昇温、降温が実現されることから、黒体放射にも関わらず高速に発光が変調される。このような黒体放射による発光の高速変調は、一本・一束のカーボンナノチューブ発光素子、および多数のカーボンナノチューブを用いた発光素子の両方で得られる。また、基板に横たわったカーボンナノチューブ発光素子、架橋したカーボンナノチューブ発光素子に関わらず高速変調が可能である。
【0039】
ただし、この黒体放射の発光原理による高速変調では、少ない熱エネルギーでカーボンナノチューブの温度が速やかに変化することで高速変調が得られることから、高い放熱性を得ることができる基板に接触、または、材料で覆われたナノチューブを使用した場合に、立ち下がり時間の向上が見られる。
【0040】
また、黒体放射に用いるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ・二層カーボンナノチューブ・多層カーボンナノチューブなどいずれのカーボンナノチューブでも作製可能である。ただし、単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブと比べて熱容量が小さくなることから、高速変調特性が向上する。また、多数のカーボンナノチューブを用いたカーボンナノチューブ薄膜を用いる場合、高速変調性を向上させるためには、熱容量が小さく、基板に速やかに熱を逃がした方が高速変調性が向上することから、多くのカーボンナノチューブが太い束になったカーボンナノチューブ薄膜ではなく、個々のカーボンナノチューブが孤立したカーボンナノチューブ薄膜を用いるほうが特性が向上する。
【0041】
なお長時間の黒体放射を可能するためには、図6に示す本発明の第2実施形態である発光素子のように、絶縁膜16を設けて、大気中の酸素との反応を防ぐことが望ましい。絶縁膜16としては、SiO2、SiN、SiON、Al23、MgO、HfO2などの酸化物絶縁体や、PMMAなどの高分子材料絶縁体など、絶縁性を有しており光が透過可能であれば、どのような材料の絶縁膜でも良い。
【0042】
次に、光ファイバに対する入射光源として用いるのに好適な本発明の第3実施形態である連続スペクトル光源を説明する。
【0043】
本実施形態は、図7に示す如く、第1実施形態と同様な発光素子に対し、光ファイバ32のコア34を押し当てて、PMMAやエポキシ等の接着剤により接合するようにしたものである。
【0044】
本実施形態によれば、光ファイバ32のコア34に効率良く光を入射することができる。
【0045】
次に、基板と平行な方向に光を照射するようにした本発明の第4実施形態である連続スペクトル光源を説明する。
【0046】
本実施形態は、図8に示す如く、Si基板20上に形成されたSiO2膜21の上にカーボンナノチューブ10及び電極12、14を配置すると共に、電極12、14間にコア36を配置し、該コア36の端面から発光するようにしたものである。図において38は、前記コア36を覆うクラッドである。
【0047】
本実施形態によれば、基板20と平行な方向に光を照射することができる。
【0048】
黒体放射では連続スペクトルが得られるが、石英光ファイバなどを用いて更なる高速化を行うことを目指した場合、スペクトル幅を狭くすることが有用である。そこで、カーボンナノチューブ発光素子をミラーで挟んだ共振器構造を作製することにより、スペクトル幅の狭い発光素子とし、基板と垂直な方向に光を照射するようにした本発明の第5実施形態である光源を説明する。
【0049】
本実施形態は、図9(A)(斜視図)及び(B)(断面図)に示す如く、中心に光が通る孔20Aが形成されたSi基板20を用い、カーボンナノチューブ10をSiO2等の誘電体薄膜40で覆うとともに、該誘電体薄膜40の上面及びSiO2膜21の下面に、例えば金製の薄膜ミラー42を配置したものである。
【0050】
本実施形態によれば、スペクトル幅の狭い光を照射することができる。
【0051】
次に、第5実施形態の上部のミラーを削除して上面から発光を取り出すようにした本発明の第6実施形態を図10に示す。
【0052】
本発明は、安価に高速変調光源が得られるため、フォトカプラへの応用が期待される。フォトカプラは、図11に例示するように、発光素子10と例えばフォトトランジスタチップのような受光素子50を対として、電気信号を光に変換して伝達する素子である。フォトカプラでは、入力と出力が電気的に絶縁されており、基準電圧の異なる回路間の情報伝達やノイズ除去を目的として様々な機器で用いられている。現在実用化されているフォトカプラは、発光ダイオードを用いているために、超高速と呼ばれるものでも10Mbps程度であるが、本発明を用いることにより大幅な高速化が可能である。また、安価に作製可能であることや構造が単純であることから、比較的早期に実用化可能であると考えられる。
【0053】
本発明に係る第7実施形態であるフォトカプラの基本構成を図11(A)に、内部構成を図11(B)に示す。
【0054】
図において、52はリードフレーム、54は、発光素子10及び受光素子50を覆う半透明エポキシ樹脂、56は、該半透明エポキシ樹脂54の周囲を覆う黒色エポキシ樹脂である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の特徴である、高速変調性、微小光源、シリコン上への集積可能を利用して、光集積回路(PIC)や光・電子集積回路(OEIC)内のチップ内光配線・光回路用光源や、チップ間・ボード間光配線用光源として用いることが期待される。
【符号の説明】
【0056】
10…金属カーボンナノチューブ(CNT)
12、14…電極
20…基板
21…SiO2
22…透明基板
32…光ファイバ
34、36…コア
38…クラッド
40…誘電体薄膜
42…薄膜ミラー
50…受光素子
図1
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