特許第5747354号(P5747354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 芝浦工業大学の特許一覧

<>
  • 特許5747354-ナノカーボン材料含有ゲルの製造方法 図000003
  • 特許5747354-ナノカーボン材料含有ゲルの製造方法 図000004
  • 特許5747354-ナノカーボン材料含有ゲルの製造方法 図000005
  • 特許5747354-ナノカーボン材料含有ゲルの製造方法 図000006
  • 特許5747354-ナノカーボン材料含有ゲルの製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747354
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】ナノカーボン材料含有ゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20150625BHJP
   C01B 31/04 20060101ALI20150625BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20150625BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20150625BHJP
【FI】
   C01B31/02 101F
   C01B31/04 101Z
   B82Y40/00
   B82Y30/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-539397(P2011-539397)
(86)(22)【出願日】2010年11月5日
(86)【国際出願番号】JP2010069666
(87)【国際公開番号】WO2011055776
(87)【国際公開日】20110512
【審査請求日】2013年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2009-255135(P2009-255135)
(32)【優先日】2009年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小西 利史
(72)【発明者】
【氏名】望月 隆行
(72)【発明者】
【氏名】松井 光一郎
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/052739(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/110594(WO,A1)
【文献】 特許第3676337(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/02−31/04
B82Y 30/00
B82Y 40/00
H01L 51/42
CA(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノカーボン材料としてのカーボンナノチューブと、以下の条件を満たすゲル化媒体(但しイオン液体を除く)を、ゲル化媒体が液体状態または溶融状態にて攪拌混合することによることを特徴とするナノカーボン材料含有ゲルの製造方法。
(1)常温で液体状態であるか、または加熱によって溶融すること
(2)置換基を有していてもよい芳香族炭化水素単環、置換基を有していてもよい芳香族複素単環から選択される少なくとも1種を分子内にあわせて2個以上有するこ
【請求項2】
ゲル化媒体が分子内にヘテロ原子を少なくとも1個有していることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ナノカーボン材料としてのカーボンナノチューブと、以下の特性を有するゲル化媒体(但しイオン液体を除く)を、ゲル化媒体が液体状態または溶融状態にて攪拌混合することによって製造されてなることを特徴とするナノカーボン材料含有ゲル。
(1)常温で液体状態であるか、または加熱によって溶融すること
(2)置換基を有していてもよい芳香族炭化水素単環、置換基を有していてもよい芳香族複素単環から選択される少なくとも1種を分子内にあわせて2個以上有すること
【請求項4】
グラファイトと、以下の特性を有するゲル化媒体(但しイオン液体を除く)を、ゲル化媒体が液体状態または溶融状態にて攪拌混合することによって製造されてなることを特徴とするグラファイト含有ゲル。
(1)常温で液体状態であるか、または加熱によって溶融すること
(2)置換基を有していてもよい芳香族炭化水素単環、置換基を有していてもよい芳香族複素単環から選択される少なくとも1種を分子内にあわせて2個以上有すること
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブなどのナノカーボン材料を含有するゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、電気伝導性、熱伝導性、機械的強度などの点において優れた特性を有する次世代の炭素素材として、エレクトロニクス分野をはじめとする様々な分野における利用が期待されていることは周知の通りである。しかしながら、カーボンナノチューブは、ファンデルワールス力などの作用に起因して容易かつ不可逆に凝集(バンドル化)し、それによって特性の低下や加工性の低下をきたすことがその実用化の障壁になっている。この問題を解決するための方法の研究開発はこれまでにも精力的に行われている。問題解決のポイントは、凝集を引き起こす要因ともいえるカーボンナノチューブが有するπ表面がもたらすカーボンナノチューブ相互間に働くπ−π相互作用にいかに対処するかという点にある。そこで、カーボンナノチューブの表面を化学処理することでπ表面を変質させてしまう方法が提案されているが、この方法には、カーボンナノチューブの表面の化学処理によってカーボンナノチューブ本来の特性が低下してしまう問題がある。また、これとは別な方法として、カーボンナノチューブの表面に対して親和性の高い界面活性剤などを分散剤としてカーボンナノチューブとともに溶媒(水系溶媒や有機溶媒など)に添加し、溶媒中においてカーボンナノチューブとカーボンナノチューブの間に分散剤分子を介在させることで、カーボンナノチューブ相互間に働くπ−π相互作用を軽減乃至遮断する方法が提案されている。この方法は、カーボンナノチューブを、その本来の特性を低下させることなく溶媒中に分散させることができる点において優れている。しかしながら、カーボンナノチューブと分散剤の会合には平衡論が成立しているため、両者の会合は動的で可逆な現象であるのに対し、カーボンナノチューブ同士の会合(即ち凝集)は沈殿をともなうため、動的で不可逆な現象である。そのため、溶媒中にカーボンナノチューブと分散剤を共存させることによってカーボンナノチューブ同士の会合を一時的に抑制することができても、カーボンナノチューブ同士の会合を完全に止めることはできないので、時間の経過とともにカーボンナノチューブが再凝集してしまう問題がある。また、カーボンナノチューブは溶媒中に分散しているため、加工の場面において、溶媒をどのように取り扱うかという問題や、溶媒を取り扱う際にカーボンナノチューブが再凝集してしまう問題がある。
【0003】
近年、上記の方法が有する問題がない新たな方法として、イオン液体(常温溶融塩や単に溶融塩などとも称される常温で溶融状態を呈する塩)の存在下でカーボンナノチューブにせん断力を加えて細分化することによってカーボンナノチューブ含有ゲルを得る方法が特許文献1において提案されている。この方法は、カーボンナノチューブとイオン液体を混合して乳鉢ですりつぶすといった簡単な手法で行うことができ、カーボンナノチューブはゲル中で分散され、ゲルゆえに加工性が高いといったことから、非常に利用価値に優れる方法として評価されている。しかしながら、特許文献1に記載の通り、この方法には、1.イオン液体の存在下で、2.カーボンナノチューブに、3.せん断力を加えて細分化する、という3要素が必須であり、このうち1要素が欠けてもゲルは得られないとされていることから、汎用性に劣る側面がある。具体的には、ゲル化媒体としてイオン液体の使用が必須である以上、限られた物質群からゲル化媒体を選択せざるを得ない。加えて、イオン液体は電気伝導性を有するので、この方法は、ゲルが電気伝導性を有していることが好都合である分野での利用には適しているが、ゲルが電気伝導性を有しない方が都合がよい分野での利用には適さない。また、カーボンナノチューブ以外のナノカーボン材料、例えばカーボンナノファイバーやグラフェンではゲルは得られない。さらに、カーボンナノチューブにせん断力を加えて細分化する操作は、実験室レベルでは簡単に行うことができても、工業規模では、特許文献1には湿式粉砕装置やニーダータイプの混練機が使用できるとの記載はあるものの、必ずしも簡単に行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3676337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、使用するゲル化媒体を広範囲な物質群から選択でき、カーボンナノチューブ以外のナノカーボン材料にも適用でき、極めて簡単な手法で行うことができるナノカーボン材料含有ゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、全く意外にも、特許文献1に記載の方法おいてカーボンナノチューブ含有ゲルを得るために必須とされている3要素は必ずしも必須ではなく、イオン液体のような塩の形態でない物質であってもゲル化媒体となり得ることを見出した。そこで、様々な物質についてゲル形成能を調べてみたところ、ゲル形成能を有する物質の共通点として、常温で液体状態であるかまたは加熱によって溶融する物質であるということと、ベンゼン環や芳香族複素単環を分子内にあわせて2個以上有する物質(ベンゼン環や芳香族複素単環は縮合していてもよい)であるということが判明した。さらに、こうしたゲル形成能を有する物質を液体状態や溶融状態にてカーボンナノチューブと攪拌混合するだけでゲル化し、この現象はカーボンナノチューブに特有のものではなく、カーボンナノチューブ以外のナノカーボン材料でも起こることが判明した。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明のナノカーボン材料含有ゲルの製造方法は、請求項1記載の通り、ナノカーボン材料としてのカーボンナノチューブと、以下の条件を満たすゲル化媒体(但しイオン液体を除く)を、ゲル化媒体が液体状態または溶融状態にて攪拌混合することによることを特徴とする。
(1)常温で液体状態であるか、または加熱によって溶融すること
(2)置換基を有していてもよい芳香族炭化水素単環、置換基を有していてもよい芳香族複素単環から選択される少なくとも1種を分子内にあわせて2個以上有するこ
た、請求項記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、ゲル化媒体が分子内にヘテロ原子を少なくとも1個有していることを特徴とする。
また、本発明のナノカーボン材料含有ゲルは、請求項記載の通り、ナノカーボン材料としてのカーボンナノチューブと、以下の特性を有するゲル化媒体(但しイオン液体を除く)を、ゲル化媒体が液体状態または溶融状態にて攪拌混合することによって製造されてなることを特徴とする。
(1)常温で液体状態であるか、または加熱によって溶融すること
(2)置換基を有していてもよい芳香族炭化水素単環、置換基を有していてもよい芳香族複素単環から選択される少なくとも1種を分子内にあわせて2個以上有すること
また、本発明のグラファイト含有ゲルは、請求項4記載の通り、グラファイトと、以下の特性を有するゲル化媒体(但しイオン液体を除く)を、ゲル化媒体が液体状態または溶融状態にて攪拌混合することによって製造されてなることを特徴とする。
(1)常温で液体状態であるか、または加熱によって溶融すること
(2)置換基を有していてもよい芳香族炭化水素単環、置換基を有していてもよい芳香族複素単環から選択される少なくとも1種を分子内にあわせて2個以上有すること
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、使用するゲル化媒体を広範囲な物質群から選択でき、カーボンナノチューブ以外のナノカーボン材料にも適用でき、極めて簡単な手法で行うことができるナノカーボン材料含有ゲルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1におけるバイアルの内容物がゲルであることを示す写真(バイアルを反転させた状態で上部の黒色の内容物がゲルである)
図2】実施例4で得たゲル中でカーボンナノチューブが三次元網目構造を形成していることを示すSEM画像
図3】実施例4で得たゲル中のカーボンナノチューブが高い分散性を有していることを示す吸収スペクトル
図4】実施例4と同様にして得たゲルが有する電気伝導性を示すグラフ
図5】同、光電変換機能を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のナノカーボン材料含有ゲルの製造方法は、ナノカーボン材料と、以下の条件を満たすゲル化媒体(但しイオン液体を除く)を、ゲル化媒体が液体状態または溶融状態にて攪拌混合することによることを特徴とするものである。
(1)常温で液体状態であるか、または加熱によって溶融すること
(2)置換基を有していてもよい芳香族炭化水素単環、置換基を有していてもよい芳香族複素単環から選択される少なくとも1種を分子内にあわせて2個以上有すること
以下、その詳細を説明する。
【0011】
(ナノカーボン材料)
本発明の適用対象となるナノカーボン材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイト、グラフェン、カーボンナノホーン、ピーポッド、フラーレンなどの、大きさ(カーボンナノチューブにおいては直径、カーボンナノファイバーにおいては繊維径)がナノメートルスケールの炭素素材が例示される。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWNTs)であってもよいし多層カーボンナノチューブ(MWNTs)であってもよい。
【0012】
(ゲル化媒体)
本発明のゲル化媒体は以下の条件を満たす物質である(但しイオン液体を除く)。
(1)常温で液体状態であるか、または加熱によって溶融すること
(2)置換基を有していてもよい芳香族炭化水素単環、置換基を有していてもよい芳香族複素単環から選択される少なくとも1種を分子内にあわせて2個以上有すること
【0013】
(1)の条件は、本発明のゲル化媒体に要求される物理化学的性質についての条件である。常温で液体状態であるかまたは加熱によって溶融する必要があるのは、本発明のゲル化媒体は、液体状態または溶融状態にてナノカーボン材料と混合攪拌する必要があるからである。常温で液体状態であるかまたは加熱によって溶融する物質には、常温で液体状態である物質や、常温で固体状態であって加熱によって常温以上の温度で溶融状態となる物質などが含まれる。なお、本発明において常温とは、例えば室温を意味し、具体的には15℃〜25℃が例示される。加熱によって溶融状態となる物質を溶融状態とするための加熱の程度は、物質の融点に依存するため、個々の物質によって異なるが、本発明のゲル化媒体は有機物質であることに鑑みれば、その上限は通常300℃である。
【0014】
(2)の条件は、本発明のゲル化媒体に要求される化学構造についての条件である。本発明のゲル化媒体になり得るか否かに関し、(1)の条件と(2)の条件は全く関連性を持たない独立した条件ではないと考えられるが、(1)の条件を満たす物質であっても(2)の条件を満たさない物質、例えば、ベンゼン、アニリン、ベンゾニトリル、ピリジン、エチルアルコールなどは本発明のゲル化媒体になり得ない。
【0015】
芳香族炭化水素単環とは、芳香族性を有する炭化水素単環を意味し、その代表例としてはベンゼンが挙げられるが、6π電子構造を有するシクロペンタジエニルアニオンやシクロヘプタトリエニウムイオンなどのイオン性のものであってもよい。芳香族炭化水素単環の員数は5〜10が望ましい。環の員数が小さすぎても大きすぎてもナノカーボン材料と効果的な相互作用を示すことが困難になることでゲル形成能が低下する。
【0016】
芳香族複素単環とは、芳香族性を有する複素単環を意味し、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を1個以上含むものであればどのようなものであってもよい(ヘテロ原子を2個以上含む場合は同じへテロ原子を含んでもよいし異なるヘテロ原子を含んでもよい)。その具体例としては、窒素原子を含む芳香族複素単環であるピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、酸素原子を含む芳香族複素単環であるフラン、硫黄原子を含む芳香族複素単環であるチオフェン、リン原子を含む芳香族複素単環であるホスホール、窒素原子と酸素原子を含む芳香族複素単環であるオキサゾールやイソオキサゾール、窒素原子と硫黄原子を含む芳香族複素単環であるチアゾールやイソチアゾールなどが挙げられる。芳香族複素単環の員数は5〜10が望ましい。環の員数が小さすぎても大きすぎてもナノカーボン材料と効果的な相互作用を示すことが困難になることでゲル形成能が低下する。
【0017】
本発明のゲル化媒体が分子内にあわせて2個以上有する芳香族炭化水素単環や芳香族複素単環の分子内における存在形態は特に限定されるものではなく、互いが直接的に結合して存在してもよいし、他の原子(炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子など)を介して結合して存在してもよい。また、これらは、縮合環の構成単環として互いが縮合して存在してもよいし、直接的に結合して存在してもよいし、他の原子を介して結合して存在してもよい。縮合環の具体例としては以下のものが挙げられる。
A.芳香族炭化水素縮合環:6員環同士
ナフタレン、フェナントレン、ピレン、アセナフテン、アセナフチレン、アントラセン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[a]ピレン、ベンゾ[e]ピレン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[g,h,i]ペリレン、ベンゾ[j]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、クリセン、ジベンゾ[a,h]アントラセン、フルオランテン、フルオレン、インデノ[1,2,3−c,d]ピレン、テトラセン、トリフェニレン、テトラフェン、ペンタセン、ピセン、ペリレン
B.ヘテロ原子を有する芳香族縮合環:5員環+6員環
ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、ベンゾチオフェン、ベンゾ(c)チオフェン、ベンゾホスホール、ベンゾイミダゾール、プリン、インダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール
C.ヘテロ原子を有する芳香族縮合環:6員環+6員環
キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、アクリジン
D.その他
例えばシクロペンタジエニルアニオンとシクロヘプタトリエニウムイオンが縮合して構成されるアズレン(5員環+7員環)
【0018】
本発明のゲル化媒体が分子内に有していてもよい置換基は特に限定されるものではない。置換基の具体例としては、低級アルキル基(メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基などの炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基)、トリフルオロメチル基、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基などの炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルコキシ基)、ハロゲン(塩素など)、ニトロ基、水酸基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基(モノメチルアミノ基などの炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基でモノ置換されたアミノ基)、ジ低級アルキルアミノ基(ジメチルアミノ基などの炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基でジ置換されたアミノ基)、トリ低級アルキルシリル基(トリメチルシリル基などの炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基でトリ置換されたシリル基)、ヒドロキシ低級アルキル基(ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基などの炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状のヒドロキシアルキル基)、低級アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのアルコキシ部分が炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状であるアルコキシカルボニル基)、ホルミル基、シアノ基、カルボニル基、カルバモイル基、低級アルキルカルバモイル基(メチルカルバモイル基などのアルキル部分が炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状であるアルキルカルバモイル基)、低級アルキルスルホニル基(メチルスルホニル基などのアルキル部分が炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状であるアルキルスルホニル基)、アリールスルホニル基(フェニルスルホニル基など)、低級アルコキシスルホニル基(メトキシスルホニル基などのアルコキシ部分が炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状であるアルコキシスルホニル基)、スルファモイル基、低級アルキルスルファモイル基(メチルスルファモイル基などのアルキル部分が炭素数が1〜10の直鎖状または分岐鎖状であるアルキルスルファモイル基)、ジ低級アルキルホスホリル基(ジメチルホスホリル基など)、ジ低級アルコキシホスホリル基(ジメトキシホスホリル基など)、ジアミノホスホリル基などが挙げられる。
【0019】
なお、例えば、側鎖にアンモニウムイオンを導入したピレン誘導体を分散剤として使用してカーボンナノチューブを水中に分散させる方法が従来技術として知られている(中嶋ら、Chem.Lett.,6,638−639,2002)。このように、(2)の条件を満たし得る物質を分散剤として使用したナノカーボン材料の溶媒(水系溶媒や有機溶媒など)中への分散方法は公知であるが、本発明のナノカーボン材料含有ゲルの製造方法は、溶媒を使用せずにナノカーボン材料とゲル化媒体でゲルを構成させるものであり、使用するゲル化媒体はイオン性を有する(塩の形態である)必要がない(即ち非イオン性であってよい)。従って、ナノカーボン材料を溶媒中に分散させる従来から知られている方法とは根本的に異なる。
【0020】
(ナノカーボン材料とゲル化媒体の攪拌混合)
ゲル化媒体が液体状態または溶融状態にて行う限りどのような方法で行ってもよい。具体的には、手動または電動によるメノウ乳鉢と乳棒を使用した混合、超音波照射、攪拌子を使用した攪拌、振とう攪拌、粉砕機による高速振動といった機械的手法を採用することができる。特筆すべきは、特許文献1に記載の方法において必須とされているせん断力は必ずしも必要でないことである。ナノカーボン材料とゲル化媒体の配合割合は、ゲル化媒体に対してナノカーボン材料を0.1%〜20%とすることが望ましく、0.5%〜10%とすることがより望ましく、1%〜5%とすることがさらに望ましい(重量比)。ゲル化媒体に対するナノカーボン材料の配合割合が少なすぎると得られるゲルのナノカーボン材料含有量が少なくなる一方、配合割合が多すぎるとゲル化媒体がナノカーボン材料に対して相対的に不足することになって十分にその機能を果たすことができなくなることでゲル化しにくくなる。なお、ゲル化媒体に対するナノカーボン材料の配合割合が少ない場合、ゲルに取り込まれなかったゲル化媒体が残留することがあるが、この場合には残留したゲル化媒体は遠心分離することでゲルと分離すればよい。
【0021】
以上のようにして製造される本発明のナノカーボン材料含有ゲルは、ゲルゆえに加工性が高いので、塗布、射出、押出といった様々な手法で加工することができる。常温で固体状態であって加熱によって常温以上の温度で溶融状態となる物質をゲル化媒体として使用すれば、得られるゲルは常温で固化するので、所望する形状や場所で固化させれば、そのままナノカーボン材料を含有する成形体として利用することができる。また、揮発性の高い物質をゲル化媒体として使用すれば、例えばゲルを基材の表面に塗布した後、減圧下や常圧下でゲルからゲル化媒体を抜去することで、ナノカーボン材料からなる構造体を基材の表面に形成することができる。電子機能性を有する物質をゲル化媒体として使用すれば、得られたゲルを電子機能性素材として利用することができる。重合性を有する物質をゲル化媒体として使用すれば、ゲルを得た後にゲル化媒体を重合させることで、ナノカーボン材料を含有する高分子を得ることができる。このように、本発明においては、使用するゲル化媒体を様々な性質を有する広範囲な物質群から選択できるので、ナノカーボン材料の用途展開が多彩になる。さらに、ナノカーボン材料とゲル化媒体からゲルを製造する際にナノカーボン材料とは異なる機能性材料を系内に添加した場合、得られるゲルは両者を含有する複合素材として利用することができる。従って、本発明によれば、ナノカーボン材料の利用可能性を従来技術では達成しえなかった分野や用途にまで広げることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。
【0023】
実施例1:
室温で液体状態であるN,N−ジメチル−1−ナフチルアミン289mgをバイアルにとり、超音波照射しながらSWNTs(カーボンナノテクノロジー社製、以下同じ)10mg(前者に対して3.5wt%)を少量ずつ添加すると、添加を終了した段階で内容物はゲル化していた。内容物がゲルであることの確認は、バイアルを反転させてもバイアルの底の内容物が維持されたままであることと外観観察で行った(図1)。
【0024】
実施例2:
室温で固体状態であるN,N−ジメチル−2−ナフチルアミン285mgをホットプレートで50℃に加温したメノウ乳鉢にとり、これを溶融状態にした上で、乳棒を使用して混合しながらSWNTs10mg(前者に対して3.5wt%)を少量ずつ添加すると、添加を終了した段階で内容物はゲル化していた。得られたゲルを室温まで冷却すると固化した。この固形物をバイアルにとり、バイアルをホットプレートで50℃に加温すると、内容物は再びゲル化した(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【0025】
実施例3:
室温で液体状態である2−フェニルピリジン428mgをバイアルにとり、超音波照射しながらSWNTs8mg(前者に対して1.9wt%)を少量ずつ添加すると、添加を終了した段階で内容物はゲル化していた(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【0026】
実施例4:
室温で液体状態であるN−(2−エチルヘキシル)カルバゾール331mgをバイアルにとり、超音波照射しながらSWNTs8mg(前者に対して2.4wt%)を少量ずつ添加すると、添加を終了した段階で内容物はゲル化していた(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【0027】
実施例5:
室温で液体状態であるm、m’−ジトリルアミン331mgをバイアルにとり、超音波照射しながらSWNTs14mg(前者に対して4.2wt%)を少量ずつ添加すると、添加を終了した段階で内容物はゲル化していた(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【0028】
実施例6:
室温で固体状態である9−エチルカルバゾール378mgをホットプレートで100℃に加温したメノウ乳鉢にとり、これを溶融状態にした上で、乳棒を使用して混合しながらSWNTs7mg(前者に対して1.9wt%)を少量ずつ添加すると、添加を終了した段階で内容物はゲル化していた。得られたゲルを室温まで冷却すると固化した。この固形物をバイアルにとり、バイアルをホットプレートで100℃に加温すると、内容物は再びゲル化した(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【0029】
実施例7:
室温で固体状態である1,10−フェナントロリン・1水和物743mgをホットプレートで200℃に加温したメノウ乳鉢にとり、これを溶融状態にした上で、乳棒を使用して混合しながらSWNTs16mg(前者に対して2.2wt%)を少量ずつ添加すると、添加を終了した段階で内容物はゲル化していた。得られたゲルを室温まで冷却すると固化した。この固形物をバイアルにとり、バイアルをホットプレートで200℃に加温すると、内容物は再びゲル化した(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【0030】
実施例8:
室温で液体状態である2−メチルキノリン357mgをバイアルにとり、超音波照射しながらSWNTs7mg(前者に対して2.0wt%)を少量ずつ添加すると、添加を終了した段階で内容物はゲル化していた(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【0031】
実施例9:
室温で固体状態であるフェナントレン500mgをバイアルにとり、さらにSWNTs20mg(前者に対して4.0wt%)を加え、バイアルをホットプレートで180℃に加温して前者を溶融状態にした上で30秒間超音波照射すると、内容物がゲル化した(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【0032】
実施例10:
室温で固体状態であるピレン500mgをバイアルにとり、さらにSWNTs20mg(前者に対して4.0wt%)を加え、バイアルをホットプレートで180℃に加温して前者を溶融状態にした上で30秒間超音波照射すると、内容物がゲル化した(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【0033】
(実施例1〜実施例10のまとめと考察)
実施例1〜実施例10でゲル化媒体として使用した物質の化学構造式を表1に示す(いずれも公知物質である)。表1から明らかなように、本発明においては、実に様々な化学構造を有する物質をゲル化媒体として使用することができるが、化学構造上の共通点として挙げられるのは芳香族炭化水素単環および/または芳香族複素単環を分子内にあわせて2個以上有するということである。実施例1で使用したN,N−ジメチル−1−ナフチルアミンのかわりにベンゼン、アニリン、ベンゾニトリル、ピリジン、エチルアルコールを使用して同じ操作をしてもゲル化は起こらない。実施例1〜実施例10で使用した物質がなぜ本発明のゲル化媒体として機能するかについては必ずしも全容が明らかではないが、ゲル化媒体分子がカーボンナノチューブとカーボンナノチューブの間にいったん割り込むと、カーボンナノチューブが有するπ表面との間でのπ−π相互作用によってカーボンナノチューブ相互間に働いていたπ−π相互作用を軽減乃至遮断することで、カーボンナノチューブが分散して三次元網目構造(カーボンナノチューブネットワーク)を形成するとともに、ゲル化媒体分子はその空隙内において流動性を失うことによると推察される。ゲル化媒体として使用した10の物質のうち8の物質が分子内に窒素原子を有するが(実施例1〜実施例8)、窒素原子を分子内に有することは本発明のゲル化媒体の必須条件ではない。しかしながら、本発明のゲル化媒体が分子内に窒素原子を有することで、その非共有電子対とカーボンナノチューブが有するπ表面との間で電荷移動(CT:Charge Transfer)相互作用が生じ、π−π相互作用と相俟ってカーボンナノチューブをより強力に分散させると考えられる。この点に鑑みれば、本発明のゲル化媒体が分子内に窒素原子などのヘテロ原子(窒素原子の他には、酸素原子、硫黄原子、リン原子などが挙げられる)を有することは、本発明において有利に働くと思われる。
【0034】
【表1】
【0035】
(ゲル化媒体としてN−(2−エチルヘキシル)カルバゾールを使用したゲルの特性)
実施例4で得たゲルの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を図2に示す。図2から明らかなように、カーボンナノチューブはゲル中で三次元網目構造を形成していることがわかる。また、実施例4で得たゲルの吸収スペクトルを図3に示す。図3から明らかなように、500nm〜900nmの波長域で微細な波打ち構造が認められることから、カーボンナノチューブのゲル中での分散性が高いことがわかる(カーボンナノチューブが凝集しているとこの波打ち構造は認められない)。また、7種類のカーボンナノチューブの添加量で実施例4と同様にして得たゲルを市販のくし型電極に載置し、電気化学アナライザを用いて電圧を−0.1Vから+0.1Vまで掃引した時の電流値(A)を測定することで電気抵抗値を解析し、それぞれのゲルの導電率を算出した結果を図4に示す。図4から明らかなように、ゲルの導電率はカーボンナノチューブの含有量に単純比例して上昇するのではなく、飽和曲線を示すことから、ゲルが有する電気伝導性は、カーボンナノチューブからなる三次元網目構造の形成の程度に基づくことがわかる。また、1wt%のカーボンナノチューブの添加量で実施例4と同様にして得たゲルを市販のくし型電極に載置し、カバーガラスで上から押し込んで厚みを0.1μmとし、10mVのバイアス電圧下、IRカットフィルターとシャープカットフィルター(透過波長>480nm)を装着した500Wキセノンランプを使用して光照射を行い、光電流を測定した結果を図5に示す。図5から明らかなように、このゲルは光電変換機能を有することから、光電子デバイス素子などとしての利用可能性を有することがわかる。
【0036】
実施例11:
グラファイトを約30wt%含む市販の鉛筆の芯をメノウ乳鉢で乳棒を使用して微細に粉砕したものを2−メチルキノンに対して65wt%添加すること以外は実施例8と同様の操作を行ったところ、添加を終了した段階で内容物はゲル化していた(実施例1と同様にして内容物がゲルであることを確認)。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、使用するゲル化媒体を広範囲な物質群から選択でき、カーボンナノチューブ以外のナノカーボン材料にも適用でき、極めて簡単な手法で行うことができるナノカーボン材料含有ゲルの製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5