特許第5747359号(P5747359)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5747359ジンケート型亜鉛系めっき浴、ジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤および亜鉛系めっき部材の製造方法
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  • 特許5747359-ジンケート型亜鉛系めっき浴、ジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤および亜鉛系めっき部材の製造方法 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747359
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】ジンケート型亜鉛系めっき浴、ジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤および亜鉛系めっき部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/22 20060101AFI20150625BHJP
   C25D 3/56 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C25D3/22 102
   C25D3/56 D
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-206723(P2013-206723)
(22)【出願日】2013年10月1日
(65)【公開番号】特開2014-95147(P2014-95147A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2014年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-224577(P2012-224577)
(32)【優先日】2012年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115072
【氏名又は名称】ユケン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和生
(72)【発明者】
【氏名】巴山 友里
(72)【発明者】
【氏名】石崎 伸治
【審査官】 向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−088608(JP,A)
【文献】 特表2009−541580(JP,A)
【文献】 特表2002−524662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00〜 3/66
JSTplus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖式アルキルハライドおよび脂環式アルキルハライド、ならびにそれらのアルキルハライドにおける水素の少なくとも一つがアミノ基、ヒドロキシ基、オキシアルキレンエーテル基、アルキルカルボキシアルキル基、アリールカルボキシアルキル基、カルボキシアルキル基、ホスホン酸基またはアリール基で置換された化合物、ならびにアルカンサルトンからなる群から選ばれる一種または二種以上とニコチン酸アミドとの反応生成物(a)と、グリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物とを反応させて得られる反応生成物(A)、および浴可溶性亜鉛含有物質を含有することを特徴とするジンケート型亜鉛系めっき浴。
【請求項2】
前記反応生成物(A)を0.1g/L以上15g/L以下含有する請求項1に記載のめっき浴。
【請求項3】
シアン化物を含有しない請求項1または2に記載のめっき浴。
【請求項4】
浴可溶性亜鉛含有物質を亜鉛換算で2g/L以上60g/L含有する請求項1から3のいずれか一項に記載のめっき浴。
【請求項5】
浴可溶性金属含有物質をさらに含有し、
当該浴可溶性金属含有物質に含まれる金属元素は鉄、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選ばれる一種または二種以上である請求項1から4のいずれか一項に記載のめっき浴。
【請求項6】
請求項1に記載される反応生成物(A)を含有するジンケート型亜鉛系めっき浴用添加
剤。
【請求項7】
被めっき部材と、該被めっき部材の被めっき面上に積層された亜鉛系めっき皮膜とを備えた亜鉛系めっき部材の製造方法であって、
請求項1から5のいずれかに記載されるジンケート型亜鉛系めっき浴を用い、当該めっき浴に含有される前記反応生成物(A)の含有量を0.0001mol/L以上0.05mol/L以下の範囲に管理しながらめっきすることを特徴とする亜鉛系めっき部材の製造方法。
【請求項8】
被めっき部材と、該被めっき部材の被めっき面上に積層された亜鉛合金めっき皮膜とを備えた亜鉛合金めっき部材の製造方法であって、
請求項5に記載されるジンケート型亜鉛系めっき浴であって浴可溶性ニッケル含有物質を含有するジンケート型亜鉛合金めっき浴を用い、
前記ジンケート型亜鉛合金めっき浴から得られた亜鉛合金めっき皮膜におけるニッケルの共析率を12質量%以上20質量%以下とする亜鉛合金めっき部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性であってシアン化物を含有しない、いわゆるジンケート型亜鉛系めっき浴に関する。
【0002】
本明細書において、亜鉛系めっきとは、亜鉛および不可避的な不純物からなる亜鉛めっきと、亜鉛および合金成分ならびに不可避的な不純物からなる亜鉛合金めっきとの総称である。ここで、亜鉛合金めっきはめっき中の亜鉛の含有量(質量%)が他の合金元素の含有量(質量%)のいずれよりも高くてもよいし、亜鉛の含有量(質量%)よりも含有量が高い合金元素が含まれていてもよい。
【背景技術】
【0003】
亜鉛系めっきからなる皮膜(本明細書において「亜鉛系めっき皮膜」ともいう。)は、自動車用の鋼板やボルトやナットなどの鋼材からなる機械部品をはじめとして、我々の身の回りの部材に対して、耐食性を向上させるなどの目的で広汎に用いられている。亜鉛−ニッケル合金、亜鉛−鉄合金、すず−亜鉛合金など、亜鉛合金めっき皮膜も、耐食性に加えて耐熱性や耐塩水性の向上などが求められる場合には、広く利用されている。
【0004】
亜鉛系めっき皮膜は、亜鉛系めっき皮膜を形成するためのめっき浴(本明細書において「亜鉛系めっき浴」ともいう。)に被めっき部材を浸漬した状態で電解を行う電気めっきにて形成される。この亜鉛系めっき浴は、アルカリ浴と酸性浴とに大別され、アルカリ浴にはシアン化物浴やジンケート型亜鉛系めっき浴、酸性浴には塩化亜鉛浴や硫酸亜鉛浴がある。求める亜鉛系めっき皮膜の硬度や光沢性、被めっき部材の形状や大きさ、作業環境などの様々な条件を勘案して、これらの亜鉛系めっき浴から適切な浴が選択されている。
【0005】
これらの亜鉛系めっき浴の中でも、ジンケート型亜鉛系めっき浴は、排水処理の負担が大きいシアン化物を使用しない上、浴組成が比較的単純で管理しやすく、プレス小物、ボルト、ナットなどにも適用できる利点があるため、好まれて工業的な実施がなされている。また、めっき皮膜の特性を向上させたり、浴の安定性を向上させたりする観点から、多くの改良型浴が開発されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、亜鉛金属の滑らかで光輝のあるめっき皮膜が得られかつ安定なアルカリ性亜鉛および亜鉛合金めっき浴を提供することを目的として、ニコチン酸と特定の化合物との水溶性反応性生成物をアルカリ性亜鉛および亜鉛合金めっき浴用の光沢剤として用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−84821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1にて開示された光沢剤はジンケート型亜鉛系めっき浴内での安定性が必ずしも高くなく、めっき浴の使用時間が増加することに伴いめっき浴内に形成される不溶性物質の量が増加し、これが被めっき部材に付着してめっき皮膜の外観不良を引き起こす場合があった。
【0009】
本発明は、めっき浴の使用時間が増加してもめっき浴内に不溶性物質が形成されにくいジンケート型亜鉛系めっき浴、めっき浴に添加されたときにその浴に不溶性物質が形成されにくいジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤、および上記亜鉛系めっき浴を用いて形成される亜鉛系めっき部材の製造方法を提供することを目的とする。
なお、亜鉛系めっき部材とは、被めっき部材と、この被めっき部材の被めっき面上に積層された亜鉛系めっき皮膜とを備えた部材をいう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく提供される本発明は次のとおりである。
(1)鎖式アルキルハライドおよび脂環式アルキルハライド、ならびにそれらのアルキルハライドにおける水素の少なくとも一つがアミノ基、ヒドロキシ基、オキシアルキレンエーテル基、アルキルカルボキシアルキル基、アリールカルボキシアルキル基、カルボキシアルキル基、ホスホン酸基またはアリール基で置換された化合物、ならびにアルカンサルトンからなる群から選ばれる一種または二種以上とニコチン酸アミドとの反応生成物(a)と、グリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物とを反応させて得られる反応生成物(A)、および浴可溶性亜鉛含有物質を含有することを特徴とするジンケート型亜鉛系めっき浴。
【0011】
(2)前記反応生成物(A)を0.1g/L以上15g/L以下含有する上記(1)に記載のめっき浴。
【0012】
(3)シアン化物を含有しない上記(1)または(2)に記載のめっき浴。
【0013】
(4)浴可溶性亜鉛含有物質を亜鉛換算で2g/L以上60g/L含有する上記(1)から(3)のいずれか一項に記載のめっき浴。
【0014】
(5)浴可溶性金属含有物質をさらに含有し、当該浴可溶性金属含有物質に含まれる金属元素は鉄、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選ばれる一種または二種以上である上記(1)から(4)のいずれか一項に記載のめっき浴。
【0015】
(6)上記(1)に記載される反応生成物(A)を含有するジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤。
【0016】
(7)被めっき部材と、該被めっき部材の被めっき面上に積層された亜鉛系めっき皮膜とを備えた亜鉛系めっき部材の製造方法であって、上記(1)から(5)のいずれかに記載されるジンケート型亜鉛系めっき浴を用い、当該めっき浴に含有される前記反応生成物(A)の含有量を0.1g/L以上15g/L以下の範囲に管理しながらめっきすることを特徴とする亜鉛系めっき部材の製造方法。
【0017】
(8)被めっき部材と、該被めっき部材の被めっき面上に積層された亜鉛合金めっき皮膜とを備えた亜鉛合金めっき部材の製造方法であって、上記(5)に記載されるジンケート型亜鉛系めっき浴であって浴可溶性ニッケル含有物質を含有するジンケート型亜鉛合金めっき浴を用い、前記ジンケート型亜鉛合金めっき浴から得られた亜鉛合金めっき皮膜におけるニッケルの共析率を12質量%以上20質量%以下とする亜鉛合金めっき部材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
上記の発明に係るジンケート型亜鉛系めっき浴は、優れた外観を有する亜鉛系めっき皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1から3および比較例1から3に係るめっき皮膜を有する部材のめっき面の高電流密度側端部からの位置とめっき皮膜の厚さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳しく説明する。
1.ジンケート型亜鉛系めっき浴
本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、ジンケート型のめっき浴であるから、液性はアルカリ性である。また、本実施形態の好ましい一例に係る亜鉛系めっき浴はシアン化物を含有せず、有害なシアンガスが発生しないため、作業性に優れ、環境に優しい。
【0021】
(1)金属成分
(1−1)浴可溶性亜鉛含有物質
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、浴可溶性亜鉛含有物質を含有する。本明細書において浴可溶性亜鉛含有物質とは、亜鉛系めっき皮膜として析出する亜鉛の供給源であって、亜鉛の陽イオンおよびこれを含有する浴可溶性物質からなる群から選ばれる一種または二種以上の成分をいう。本実施形態に係る亜鉛系めっき浴はジンケート型の浴であるから、めっき浴はアルカリ性である。したがって、浴可溶性亜鉛含有物質の一例はジンケートイオン([Zn(OH)2−)である。
浴可溶性亜鉛含有物質をめっき浴に供給する原料物質(本発明において、「亜鉛源」ともいう。)として、酸化亜鉛が例示される。
【0022】
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴における可溶性亜鉛含有物質の亜鉛換算含有量は限定されない。この含有量が過度に少ない場合には亜鉛系めっき皮膜が析出しにくくなることから、上記の亜鉛換算含有量は2g/L以上であることが好ましく、4g/L以上であることがより好ましく、8g/L以上であることが特に好ましい。可溶性亜鉛含有物質の亜鉛換算含有量が過度に多い場合には外観不良やつきまわり性の低下が生じることが懸念されるため、上記の亜鉛換算含有量は60g/L以下であることが好ましく、40g/L以下であることがより好ましく、20g/L以下であることが特に好ましい。
【0023】
(1−2)浴可溶性金属含有物質
本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、当該めっき浴が亜鉛合金めっき浴である場合には、浴可溶性金属含有物質を含有する。本明細書において浴可溶性金属含有物質とは、亜鉛合金めっき皮膜に含有される亜鉛以外の金属の供給源であって、金属元素の陽イオンおよびこれを含有する浴可溶性物質からなる群から選ばれる一種または二種以上の成分をいう。浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素として、鉄、ニッケル、コバルトおよびマンガンが例示される。好ましい一例において、金属含有物質に含まれる金属元素は鉄、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群から選ばれる。
【0024】
浴可溶性金属含有物質をめっき浴に供給する原料物質(本発明において、「金属源」ともいう。)はその浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素が鉄である場合、すなわち、亜鉛合金めっき浴が浴可溶性鉄含有物質を含有する場合には、Fe(SO・7HO、FeSO・7HO、Fe(OH)、FeCl・6HO、FeCl・4HOなどが鉄源として例示される。浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素がニッケルである場合、すなわち、亜鉛合金めっき浴が浴可溶性ニッケル含有物質を含有する場合には、NiSO・6HO、NiCl・6HO,Ni(OH)などがニッケル源として例示される。浴可溶性金属含有物質に含有される金属元素がマンガンである場合、すなわち、亜鉛合金めっき浴が浴可溶性マンガン含有物質を含有する場合には、MnSO,MnSO・HO,MnCl・4HOなどがマンガン源として例示される。
【0025】
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴における可溶性金属含有物質の金属換算含有量は、目的とする亜鉛合金めっきの組成に応じて適宜設定される。亜鉛系めっき浴が浴可溶性鉄含有物質を含有する場合には、可溶性鉄含有物質の鉄換算含有量を5mg/L以上300mg/L以下程度とすることが例示され、10mg/L以上150mg/L以下程度とすることや、20mg/L以上70mg/L以下程度とすることが好ましい場合もある。亜鉛系めっき浴が浴可溶性ニッケル含有物質を含有する場合には、可溶性ニッケル含有物質のニッケル換算含有量を50mg/L以上10000mg/L以下程度とすることが例示され、100mg/L以上4000mg/L以下程度とすることや、200mg/L以上2000mg/L以下程度とすることが好ましい場合もある。亜鉛系めっき浴が浴可溶性マンガン含有物質を含有する場合には、可溶性マンガン含有物質のマンガン換算含有量を2g/L以上80g/L以下程度とすることが例示され、5g/L以上50g/L以下程度とすることや、10g/L以上20g/L以下程度とすることが好ましい場合もある。
【0026】
(2)添加剤成分
本実施形態に係るめっき浴は次に説明する反応生成物(A)を添加剤成分として含有し、必要に応じてさらに他の添加剤成分も含有する。
【0027】
(2−1)反応生成物(A)
本実施形態に係るめっき浴は、鎖式アルキルハライドおよび脂環式アルキルハライド、ならびにそれらのアルキルハライドにおける水素の少なくとも一つがアミノ基、ヒドロキシ基、オキシアルキレンエーテル基、アルキルカルボキシアルキル基、アリールカルボキシアルキル基、カルボキシアルキル基、ホスホン酸基またはアリール基で置換された化合物、ならびにアルカンサルトンからなる群から選ばれる一種または二種以上(本明細書において、これらの化合物を「付加化合物」と総称する場合もある。)とニコチン酸アミドとの反応生成物(a)と、グリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物とを反応させて得られる反応生成物(A)を添加剤成分の一つとして含有する。
【0028】
上記の反応生成物(a)に含まれるハロゲンおよびグリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物に含まれるハロゲンのいずれについても、具体的な種類は特に限定されない。作業性を低下させない観点および廃液処理の負荷を軽減させる観点から、ハロゲンとしてフッ素を使用しないことが好ましく、取り扱いの容易さなどの観点から、ハロゲンは塩素であることが好ましい。
【0029】
反応生成物(a)の製造方法は特に限定されない。付加化合物とニコチン酸アミドとを適切な条件で反応させればよい。付加化合物がエチレンハロヒドリンである場合を具体例としてその反応条件を説明すれば次のとおりである。すなわち、ニコチン酸アミドとエチレンハロヒドリンとを、これらのモル比(ニコチン酸アミド/エチレンハロヒドリン)を0.5〜2程度として水系溶媒に投入し、得られた液体を100℃程度の温度で2〜6時間程度攪拌する。その後、液体の攪拌を維持しながら20〜40℃程度まで冷却することにより、反応生成物(a)を含有する液体を得ることができる。結晶化などの作業により、この反応生成物(a)を含有する液体から、反応生成物(a)を取り出してもよいが、生産性を高める観点から、反応生成物(a)を含有する液体を次の反応生成物(A)を得るための出発原料として用いてもよい。
【0030】
上記の製造方法により得られる反応生成物(a)は、ニコチン酸アミドがピリジン環における窒素を反応部位として付加化合物と反応してなるピリジニウムアミド化合物を含むと考えられる。そのようなピリジニウムアミド化合物の具体例として、付加化合物がエチレンハロヒドリンからなる場合のピリジニウムアミド化合物として、1−プロパノール−ピリジニウム−3−カルボアミド(以下、「PPCA」ともいう。)が挙げられる。
付加化合物の具体例と、上記の反応生成物(a)に含有されるピリジニウムアミド化合物におけるピリジン環の窒素に結合する基との関係を示せば、次のとおりである。
付加化合物:エチレンクロルヒドリン → 得られる基:ヒドロキシエチル基
付加化合物:ヨウ化メチル → 得られる基:メチル基
付加化合物:ヨウ化エチル → 得られる基:エチル基
付加化合物:臭化プロピル → 得られる基:プロピル基
付加化合物:ブロモメチルシクロヘキサン → 得られる基:シクロヘキシルメチル基
付加化合物:クロロ酢酸メチル → 得られる基:メチルカルボキシメチル基
付加化合物:クロロ酢酸 → 得られる基:カルボキシメチル基
付加化合物:プロパンサルトン → 得られる基:スルホプロピル基
付加化合物:塩化ベンジル → 得られる基:ベンジル基
【0031】
反応生成物(A)の製造方法も特に限定されない。反応生成物(a)とグリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物とを適切な条件で反応させればよい。上記のように反応生成物(a)を含有する液体を次の反応生成物(A)を得るための出発原料とした場合を例とすれば、次のとおりである。すなわち、20〜40℃程度まで冷却された反応生成物(a)を含有する液体に、グリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物を、反応生成物(a)を含有する液体を得るために用いたニコチン酸アミドとグリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物とのモル比(ニコチン酸アミド/グリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物)を0.5〜2程度となる量添加する。必要に応じさらに溶媒としての水を若干量追加して、得られた液体を2〜4時間程度還流させる。この環流の際の温度は特に限定されないが、50℃程度から80℃程度とすることが具体例として挙げられる。この環流後の液体を室温まで冷却することにより、反応生成物(A)を含有する液体が得られる。
【0032】
上記の製造方法により得られる反応生成物(A)は、反応生成物(a)が含有すると考えられるピリジニウムアミド化合物が、そのアミド基を反応部位としてグリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物と反応してなる化合物(α)を含有すると考えられる。上記の付加化合物がエチレンクロルヒドリンの場合における化合物(α)の具体例として、下記式(I)に示される化合物(α1)(1−(2−ヒドロキシエチル−3−[N−(1−トリメチルアンモニオー2−ヒドロキシプロピル)カルバモイル]−ピリジニウムイオン)が挙げられる。
【化1】
【0033】
また、上記の製造方法により得られる反応生成物(A)は、そのアミド基および水酸基を反応部位としてグリシジルトリメチルアンモニウムのハロゲン化物と反応してなる、化合物(β)を含有している可能性もある。上記の付加化合物がエチレンクロルヒドリンの場合における化合物(β)の具体例として、下記式(II)に示される化合物(β1)が挙げられる。
【0034】
【化2】
【0035】
この反応生成物(A)は亜鉛めっき浴においても、亜鉛合金めっき浴においても、優れた添加剤として機能することができる。以下、反応生成物(A)に含まれると考えられる上記式(I)で表わされる化合物(α1)を具体例として、反応生成物(A)の機能について説明する。
【0036】
化合物(α1)は、アルカリ性である亜鉛系めっき浴中で加水分解されたり、めっき析出のための電解によって電気分解されたりしても、化合物(α1)の分解生成物やその重合体(本明細書において「分解生成物等」という。)は可溶性を維持することができる。例えば、化合物(α1)におけるアミド結合が加水分解されても、アルカリ性であるめっき浴中に形成される分解生成物は、4級アミノ基を有するカチオン化合物とニコチン酸骨格を有するカルボン酸イオンとなる。このため、電解時間の増加に伴いめっき浴に添加剤の分解生成物等に基づく不溶性物質(油状物質であったり、樹脂状の物質であったりする。)が蓄積することに起因する問題が生じにくい。このような不溶性物質が生じる場合には、その性状が油状のものはめっき浴の液面に浮くように存在し、樹脂状のものはめっき浴中に浮遊し、いずれも被めっき部材の表面に吸着され、めっき外観の低下や耐食性などの特性低下をもたらす。また、化合物(α1)は不溶性物質を生じにくいため、めっき浴中の添加濃度を高めることができ、結果的に優れた外観(光沢など)を有する亜鉛系めっき皮膜が幅広いめっき条件で得られやすくなる。なお、反応生成物(A)が化合物(β)を含有する場合であっても上記の機能は得られると期待される。
【0037】
亜鉛めっき浴が化合物(α1)を含むと考えられる反応生成物(A)を含有する場合には反応生成物(A)は光沢剤として機能し、得られる亜鉛めっき皮膜は光沢を有する。また、この場合には、反応生成物(A)は得られる亜鉛めっき皮膜の析出速度の電流密度の依存性を緩和し、亜鉛めっき皮膜の均一電着性やつきまわり性を向上させることができる。さらに、これらの機能は、反応生成物(A)の亜鉛めっき浴中の含有量に対する依存性が低く、0.1g/L程度の低含有量から15g/L程度の高含有量の幅広い範囲の電流密度で光沢を有する亜鉛めっき皮膜が得られる。
【0038】
したがって、亜鉛めっき浴が反応生成物(A)を含有する場合には、被めっき部材の被めっき面が凹凸を有し電流密度を均一にすることが困難な場合であっても、得られた亜鉛めっき皮膜は均一電着性およびつきまわり性が高く、かつめっき皮膜の光沢度の均一性も高い。その上、亜鉛めっき浴の組成管理、特に添加剤濃度の管理が容易である。それゆえ、反応生成物(A)を添加剤成分として用いることによって、優れた品質の亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材が生産性高く得られる。
【0039】
亜鉛合金めっき浴が反応生成物(A)を含有する場合も、反応生成物(A)は光沢剤として機能し、幅広い電流密度の範囲で優れた光沢を有する亜鉛合金めっき皮膜が得られる。また、通常光沢剤は、一次光沢剤と二次光沢剤とに分類できるところ、反応生成物(A)は亜鉛合金めっき浴中では両者の役割を行うため、一次光沢剤や二次光沢剤を追加的に使用しなくとも、優れた外観を有する亜鉛合金めっきを得ることができる。さらに、反応生成物(A)に含有されると考えられる化合物(α)は浴可溶性金属含有物質に係る金属元素(例えばニッケル)とめっき浴中で化学的な相互作用が生じにくいため、反応生成物(A)の含有量が変化したことによるめっき浴の液性状(例えば液体の透過率)の変化が少ない。それゆえ、本実施形態に係るめっき浴は、めっき浴の組成管理が容易であり、生産性に優れる。
【0040】
しかも、亜鉛合金めっき浴が反応生成物(A)を含有する場合には、当該めっき浴から得られた亜鉛合金めっき皮膜は、従来技術に係る添加剤を含有する亜鉛合金めっき浴から形成される亜鉛合金めっき皮膜に比べて、耐食性に優れる。その詳細は実施例において示すが、本実施形態に係る反応生成物(A)を含有する亜鉛合金めっき浴から得られた亜鉛合金めっき皮膜を鉄系部材(本明細書において、「鉄系部材」とは鉄系金属表面を有する部材を意味する。)上に有する部材(亜鉛合金めっき部材)を耐食性試験に供したときに、従来技術に係る光沢剤を含有する亜鉛合金めっき浴から得られた亜鉛合金めっき部材に比べて、亜鉛合金めっき皮膜が腐食されたことに基づき生じる赤錆の発生の程度が少なく、亜鉛合金めっき皮膜からなる面の性状(表面粗さなど)が劣化しにくい。すなわち、反応生成物(A)を添加剤成分として用いることによって、耐食性に優れる亜鉛合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材が生産性高く得られる。
【0041】
上記の反応生成物(A)の亜鉛系めっき浴における含有量は特に限定されない。過度に少ない場合には反応生成物(A)を含有させたことに基づく効果(優れた外観を有するめっきが得られることなど)が得られにくく、過度に多い場合には電流密度が高い条件で光沢を有するめっきを得られにくくなることが懸念される。したがって、反応生成物(A)の亜鉛系めっき浴における含有量は、0.1g/L以上15g/L以下とすることが好ましく、0.5g/L以上10g/L以下とすることがより好ましく、1g/L以上5g/L以下とすることが特に好ましい。
【0042】
なお、反応生成物(A)は、高圧水銀灯のi線(波長365nm)が照射されると、青色(発光波長:450〜460nm程度)の発光を呈する。この発光を与える構造は明確でないが、化合物(α)や化合物(β)が有するアミド結合をなす部分、特にそのカルボニル基と、アミド結合の窒素に対してβ位にある水酸基との相互作用に基づくものである可能性がある。従来技術に係るジンケート型亜鉛系めっき浴では上記のような発光を呈する成分が添加剤として含有されることはないため、あるジンケート型亜鉛系めっき浴が本実施形態に係る亜鉛系めっき浴であることを、この発光の有無により確認することができる。すなわち、本実施形態は、一態様として、ジンケート型亜鉛系めっき浴に高圧水銀灯のi線を照射したときに青色の発光が観測されるか否かによってそのジンケート型亜鉛系めっき浴に反応生成物(A)が含まれているか否かを判定する方法も提供する。
【0043】
(2−2)その他の添加剤成分
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、上記の反応生成物(A)以外の添加剤成分を含有してもよい。そのような添加剤成分またはめっき浴中で添加剤成分を与える材料として、次のようなものが例示される。
【0044】
i)一次光沢剤
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、添加剤成分の一種として一次光沢剤を含有してもよい。かかる一次光沢剤の例として、各種亜鉛めっき浴に使用されるアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、ポリアミン化合物および水溶性カチオン高分子化合物などの水溶性の有機化合物などを挙げることができる。
このポリアミン化合物および水溶性カチオン高分子化合物として、ポリアリルアミン、ポリエポキシポリアミン、ポリアミドポリアミン、およびポリアルキレンポリアミン、などが例示される。
【0045】
ポリアリルアミンの具体例として、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドと二酸化硫黄の共重合体などが挙げられる。ポリエポキシポリアミンの具体例として、エチレンジアミンとエピクロルヒドリンとの縮合重合体、ジメチルアミノプロピルアミンとエピクロルヒドリンとの縮合重合体、イミダゾールとエピクロルヒドリンとの縮合重合体、1−メチルイミダゾールや2−メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体とエピクロルヒドリンとの縮合重合体、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等のトリアジン誘導体などを含む複素環状アミンとエピクロルヒドリンとの縮合重合体などが挙げられる。ポリアミドポリアミンの具体例として、3−ジメチルアミノプロピル尿素とエピクロルヒドリンとの縮合重合体、ビス(N,N−ジメチルアミノプロピル)尿素とエピクロルヒドリンとの縮合重合体等のポリアミンポリ尿素樹脂、N,N−ジメチルアミノプロピルアミンとアルキレンジカルボン酸とエピクロルヒドリンとの縮合重合体等の水溶性ナイロン樹脂などが挙げられる。また、ポリアルキレンポリアミンの具体例として、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミンと2,2’−ジクロルジエチルエーテルとの縮合重合体、ジメチルアミノプロピルアミンと1,3−ジクロルプロパンとの縮合重合体、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパンと2,2’−ジクロルジエチルエーテルとの縮合重合体、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパンと1,4−ジクロルブタンとの縮合重合体、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパンと1,3−ジクロルプロパン−2−オールとの縮合重合体などが挙げられる。
【0046】
なお、上記の反応生成物(A)は一次光沢剤としての機能を有するため、上記の一次光沢剤の分解生成物が亜鉛系めっき皮膜の外観や特性(耐食性など)を劣化させる可能性がある場合には、本実施形態に係る亜鉛系めっき浴に上記の一次光沢剤を含有させなくとも優れた外観を有する亜鉛系めっき皮膜を得ることができる。この傾向は、亜鉛系めっき浴が亜鉛合金めっき浴の場合に特に顕著である。通常、一次光沢剤を含有しない亜鉛合金めっき浴から外観に優れる亜鉛合金めっき皮膜を得ることは困難であるが、上記の反応生成物(A)を含有する場合には、一次光沢剤を含有することなく優れた外観の亜鉛合金めっき皮膜を安定的に得ることができる。なお、本実施形態に係る亜鉛系めっき浴が亜鉛めっき浴の場合には、一次光沢剤を含有させた方が優れた外観の亜鉛めっき皮膜がより安定的に得られることもある。
【0047】
ii)二次光沢剤
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴は、添加剤成分の一種として一次光沢剤を含有してもよい。特に、光沢性の向上とつきまわり性の向上の観点からは、二次光沢剤として、芳香族アルデヒドおよびピリジニウム化合物のうち少なくとも一方を含有してもよい。
二次光沢剤として機能することができる芳香族アルデヒドとしては、アニスアルデヒド、ベラトルアルデヒド、サリチルアルデヒド、バニリン、ピペロナール、およびp−ヒドロキシベンズアルデヒドなどを挙げることができる。光沢性の向上と亜鉛系めっき浴に含有される化合物の安定性の観点から、二次光沢剤として含有されることが好ましい芳香族アルデヒドとして、ベラトルアルデヒド、およびバニリンが例示される。
二次光沢剤として機能することができるピリジニウム化合物としては、ベンジルピリジニウムカルボキシレート(塩化3−カルボキシベンジルピリジニウム)、および塩化3−カルバモイルベンジルピリジニウムなどを挙げることができる。
【0048】
iii)めっき促進剤
「めっき促進剤」とは、めっき金属の析出を促進させる機能を有するものであって、被めっき面に吸着してその吸着した領域近傍で金属イオンの還元反応が生じることを促進しているものと推測される。
そのようなめっき促進剤として、チアジアゾール骨格を有する化合物であるチアジアゾール化合物が例示される。チアジアゾール骨格に含まれる3つの硫黄が被めっき面に化学吸着し、この化学吸着した領域での金属イオンの還元反応を促進している可能性がある。チアジアゾール化合物の具体例として、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−チオ酢酸−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジチオ酢酸−1,3,4−チアジアゾール、2−ヒドロキシエチルチオ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジヒドロキシエチルチオ−1,3,4−チアジアゾール、エピクロルヒドリン改質2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、ビス(1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル)などが挙げられる。
【0049】
iv)キレート剤
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴が亜鉛合金めっき浴である場合には、キレート剤を含有させてもよい。
キレート剤の具体例として、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、エチレンジアミン、ヘキサミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、トリアミノトリエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミノプロピルアミン、2−ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、1,3−ビス−(3−アミノプロポキシ)エタン、ニトリロトリ酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)などが例示される。このキレート剤は、例えばジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどのポリアミン化合物のように、一次光沢剤としての機能も有するキレート剤であってもよい。なお、キレート剤がカルボン酸など酸の部分構造を有する場合には、キレート剤はフリーの酸の形態として亜鉛合金めっき浴に添加されてもよいし、塩として添加されてもよい。あるいは、アルカリ性である亜鉛合金めっき浴中で加水分解されることにより酸イオンを形成しうる誘導体(例えばエステル)の形態で亜鉛合金めっき浴に添加されてもよい。
【0050】
v)酸化防止剤、消泡剤等
酸化防止剤として、フェノール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ピロガロール等のヒドロキシフェニル化合物や、L−アスコルビン酸、ソルビトール等が例示される。なお、上記のキレート剤が還元性物質である場合には、そのキレート剤が酸化防止剤の機能を有しているため、酸化防止剤を含有させなくともよい。
消泡剤として、シリコーン系消泡剤や、界面活性剤、ポリエーテル、高級アルコール等の有機系消泡剤が例示される。
【0051】
(3)溶媒、液性
本実施形態に係るめっき浴の溶媒は水を主成分とする。水以外の溶媒としてアルコール、エーテル、ケトンなど水への溶解度が高い有機溶媒を混在させてもよい。この場合には、めっき浴全体の安定性および廃液処理への負荷の緩和の観点から、その比率は全溶媒に対して10体積%以下とすることが好ましい。
【0052】
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴はジンケート型のめっき浴であるから、アルカリ性である。めっき浴をアルカリ性とするために用いられる材料(本明細書において「アルカリ成分」ともいう。)の種類は特に限定されない。水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物など公知の材料を用いればよい。
【0053】
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴に含まれるアルカリ成分の含有量は特に限定されない。過度に少ない場合には亜鉛系めっき浴の液性をアルカリ性とすることができず、めっき浴中でジンケートイオンを生成することが困難となる。一方、アルカリ成分の含有量が過度に高い場合には、亜鉛系めっき浴の安定性が低下して、得られる亜鉛系めっき皮膜の外観が低下したりつきまわり性が低下したりすることが懸念される。したがって、亜鉛系めっき浴に含まれるアルカリ成分の含有量は、水酸化ナトリウム換算で40g/L以上400g/L以下とすることが好ましく、80g/L以上250g/L以下とすることがより好ましく、100g/L以上200g/L以下とすることが特に好ましい。
【0054】
(4)調製方法
本実施形態に係る亜鉛系めっき浴の調製方法は特に限定されない。亜鉛めっき浴の場合には、アルカリ成分、亜鉛源および反応生成物(A)を含む成分(そのような成分の具体例として前述の反応生成物を含む液体が挙げられ、以下、この成分を「反応生成物(A)源」ともいう。)、ならびに必要に応じ任意添加成分として前述のその他の添加剤成分などを水などの溶媒に溶解させることによって調製することができる。亜鉛合金めっき浴の場合には、アルカリ成分、亜鉛源、金属源および反応生成物(A)源、ならびに必要に応じ任意添加成分として前述のその他の添加剤成分などを溶媒に溶解させることによって調製することができる。通常は、溶媒にアルカリ成分を添加し、続いて他の成分を添加することによって、作業性を低下させることなくかつ安全に亜鉛系めっき浴を調製することができる。
【0055】
2.ジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤
本実施形態に係るジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤は、上記の本実施形態に係る亜鉛系めっき浴に含有される添加剤成分を含有する。すなわち、本実施形態に係るジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤は反応生成物(A)を含有し、必要に応じ、さらに、一次光沢剤、二次光沢剤、めっき促進剤などの他の添加剤成分を含有する。なお、前述のように、反応生成物(A)は高圧水銀灯のi線(波長365nm)が照射されたときに青色の発光を呈するため、ある添加剤が反応生成物(A)を含有しているか否かを、その添加剤に高圧水銀灯のi線を照射したときに青色の発光が観測されるか否かによって判定することができる。
【0056】
本実施形態に係るジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤における反応生成物(A)の含有量は特に限定されない。反応生成物(A)は溶解度が高いため、50g/L程度まで含有量を高めることができる。
本実施形態に係るジンケート型亜鉛系めっき浴用添加剤が反応生成物(A)以外の成分を含有する場合におけるそれらの含有量は、その添加剤の機能との関係で適宜設定されるべきものである。
【0057】
3.亜鉛系めっき部材の製造方法
亜鉛系めっき部材は、本実施形態に係る亜鉛系めっき浴に被めっき部材を浸漬させ、被めっき部材をカソード(陰極)として電解を行うことによって得ることができる。被めっき部材の材質は導電性を有する限り特に限定されない。鉄系材料などの金属系材料、および樹脂系材料やセラミックス系材料などからなる導電性を有さない材料の表面に無電解めっきなどにより導電性材料からなる層が形成されたものが例示される。被めっき部材の形状も特に限定されない。板材や棒材、線材などの一次加工品、ねじ、ボルト、プレス加工品などの二次加工品が挙げられる。
なお、アノード(陽極)を構成する材料は特に限定されない。通常は、安価で入手しやすい鉄系材料が用いられる。
【0058】
電解における電流密度は特に限定されない。電流密度が過度に低い場合には得られる亜鉛系めっき皮膜の析出速度が低く生産性に劣り、電流密度が過度に高い場合には得られる亜鉛めっき皮膜の外観が劣化したり、均一電着性、つきまわり性などが低下したりすることが懸念されることを考慮して、適宜設定すればよい。生産性を高めることとめっき皮膜の品質を高めることとを両立する観点から、0.01A/dm以上10A/dm以下とすることが好ましく、0.5A/dm以上6A/dm以下とすることがより好ましく、0.5A/dm以上3A/dm以下とすることが特に好ましい。
【0059】
電解におけるめっき浴の温度(めっき浴温度)は室温程度(25℃程度)で行えばよい。めっき浴温度が過度に高い場合には、溶媒や低分子量の有機成分が揮発しやすくなることが懸念される。この揮発が顕著となると、液組成が安定せずめっき皮膜の品質安定性を維持することが困難となる。めっき浴温度が過度に低い場合には、めっき皮膜の析出速度が低下するなど生産性に悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0060】
電解時間(めっき時間)は、めっき浴の組成、上記の電流密度、めっき浴温度などによって決定されるめっき皮膜の析出速度と求めるめっき皮膜の厚さとから適宜設定される。
【0061】
めっき設備の構成は特に限定されない。板状または棒状のアノードに対向するようにカソードとしての被めっき部材を亜鉛系めっき浴中に配置し、亜鉛系めっき浴内で液攪拌を適宜行いながら電解して被めっき部材に亜鉛系めっき皮膜を形成してもよいし、ボルトなどの被めっき部材がその内部に入っているバレルを亜鉛系めっき浴中に浸漬させ、バレルを回転させながら電解を行うことで被めっき部材に亜鉛系めっき皮膜を形成してもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
1.亜鉛系めっき浴の調製および亜鉛系めっき皮膜を有する部材の作製
[実施例1]
(1)反応生成物(A1)源の製造
ニコチン酸アミド97.7g(0.8mol)と水168.6gを容量が1000mlの三つ口フラスコに入れ攪拌し、このフラスコ内にエチレンクロロヒドリン70.9g(0.88mol)を投入した。投入後フラスコ内の液温を100℃に維持して4時間攪拌し、その後、フラスコ内の液を攪拌しながら放冷して液温を35℃まで低下させた後、フラスコ内にグリシジルトリメチルアンモニウムクロライドを主成分とする水溶液(四日市合成社製「カチオマスター(登録商標)G」、73%純分)166.7g(0.8mol)、水76.7mlを添加し撹拌した。続いて、フラスコ内の液温を65℃に調整し2時間環流して得られた反応物(以下、「反応生成物(A1)」ともいう。)を含む液体をめっき浴添加剤の一種として用いた。この液体は反応生成物(A)源の一種であり、以下、「反応生成物(A1)源」ともいう。得られた反応生成物(A1)源は、収量580.6g、固形分(すなわち、反応生成物(A1)の含有量)50重量%の褐色液体であった。
【0064】
(2)亜鉛めっき浴の調製
亜鉛源としての酸化亜鉛を、これに由来する浴可溶性亜鉛含有物質のめっき浴中の亜鉛換算含有量が12g/Lとなる量、アルカリ成分としての水酸化ナトリウムを、めっき浴1Lあたりの溶解量が120gとなる量、上記の反応生成物(A1)源を、めっき浴中の反応生成物(A1)の含有量が1.0g/Lとなる量(すなわち、反応生成物(A1)源としては2.0g/L)、およびN,N’−ビス[3−(ジメチルアミノ)プロピル尿素]と1,1’−オキシビス[2−クロロエタン]とのポリマー(ローディア日華社製「MIRAPOL WT」、以下、「ポリマー1」という。)を、ポリマー1に基づきめっき浴中に形成されるカチオンポリマー(以下、「カチオンポリマー1」という。)の含有量が2g/Lとなる量、純水からなる溶媒に溶解させて、浴可溶性亜鉛含有物質および化合物(A1)を含有するアルカリ性のジンケート型亜鉛めっき浴を調製した。
【0065】
(3)亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材の作製
スターラー回転数1000rpmの液循環型ハルセル試験器(山本めっき試験器社製:スマートハルセルB−53−SM)を用意した。この試験器のめっき槽内の所定の位置に、縦45mm、横45mm、厚さ1mmのアノードとしての鉄板、および縦67mm、横100mm、厚さ0.3mmの被めっき部材(カソード)としての鉄板を配置した。めっき槽内に上記のめっき浴を液面が所定の高さとなるまで入れた。アノードおよびカソードをめっき電源に接続し、次の電解条件で電気めっきを行って、亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
電流:1A
通電時間:10分
めっき浴温度:25℃
上記の電流では、カソードの電流密度は0.1A/dmから5A/dmの範囲であった。
【0066】
[実施例2]
実施例1に係るめっき浴の調製にあたり、上記の反応生成物(A1)源の配合量を変更して、めっき浴中の反応生成物(A1)の含有量を5.0g/Lとした以外は、実施例1と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0067】
[実施例3]
実施例1に係るめっき浴の調製にあたり、上記の反応生成物(A1)源の配合量を変更して、めっき浴中の反応生成物(A1)の含有量を10g/Lとした以外は、実施例1と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0068】
[比較例1]
実施例1に係るめっき浴の調製にあたり、反応生成物(A1)源に代えて、ベンジルピリジニウムカルボキシレート(BPC)の塩酸塩を配合し、その添加量をめっき浴中に形成されるBPCの含有量が0.24g/Lとなる量とした以外は、実施例1と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0069】
[比較例2]
比較例1に係るめっき浴の調製にあたり、BPCの塩酸塩の配合量を変更して、BPCの含有量を1.2g/Lとした以外は、比較例1と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0070】
[比較例3]
比較例1に係るめっき浴の調製にあたり、BPCの塩酸塩の配合量を変更して、BPCの含有量を2.4g/Lとした以外は、比較例1と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0071】
[実施例4]
(1)亜鉛合金めっき浴の調製
亜鉛源としての酸化亜鉛を、これに由来する浴可溶性亜鉛含有物質のめっき浴中の亜鉛換算含有量が10g/Lとなる量、ニッケル源としての硫酸ニッケルを、これに由来する浴可溶性ニッケル含有物質のめっき浴中のニッケル換算含有量が1.5g/Lとなる量、アルカリ成分としての水酸化ナトリウムを、めっき浴1Lあたりの溶解量が120gとなる量、キレート剤としてのテトラエチレンペンタミン(TEPA)を、めっき浴の含有量が15g/Lとなる量、および反応生成物(A1)源を、めっき浴中の反応生成物(A1)の含有量が1.0g/Lとなる量、純水からなる溶媒に溶解させて、浴可溶性亜鉛含有物質、浴可溶性ニッケル含有物質、反応生成物(A1)およびTEPAを含有するアルカリ性のジンケート型亜鉛−ニッケル合金めっき浴を調製した。
【0072】
(2)亜鉛合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材の作製
スターラー回転数1000rpmの液循環型ハルセル試験器(山本めっき試験器社製:スマートハルセルB−53−SM)を用意した。この試験器のめっき槽内の所定の位置に、縦45mm、横45mm、厚さ1mmのアノードとしての鉄板、および縦67mm、横100mm、厚さ0.3mmの被めっき部材(カソード)としての鉄板を配置した。めっき槽内に上記のめっき浴を液面が所定の高さとなるまで入れた。アノードおよびカソードをめっき電源に接続し、次の電解条件で電気めっきを行って、亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
電流:1A
通電時間:10分
めっき浴温度:25℃
上記の電流では、カソードの電流密度は0.1A/dmから5A/dmの範囲であった。
【0073】
[実施例5]
実施例4に係るめっき浴の調製にあたり、反応生成物(A1)源の配合量を変更して、めっき浴中の反応生成物(A1)の含有量を5.0g/Lとした以外は、実施例4と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0074】
[実施例6]
実施例4に係るめっき浴の調製にあたり、反応生成物(A1)源の配合量を変更して、めっき浴中の反応生成物(A1)の含有量を10g/Lとした以外は、実施例4と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0075】
[比較例4]
実施例4に係るめっき浴の調製にあたり、反応生成物(A1)源に代えてベンジルピリジニウムカルボキシレート(BPC)の塩酸塩を配合して、めっき浴中に形成されるBPCの含有量が0.24g/Lとなる量とするとともに、カチオンポリマー1の含有量が0.001mol/Lとなる量のポリマー1をめっき浴に配合した以外は、実施例4と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0076】
[比較例5]
比較例4に係るめっき浴の調製にあたり、BPCの塩酸塩の配合量を変更して、BPCの含有量を1.2g/Lとした以外は、比較例4と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0077】
[比較例6]
比較例4に係るめっき浴の調製にあたり、BPCの塩酸塩の配合量を変更して、BPCの含有量を2.4g/Lとした以外は、比較例4と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0078】
[実施例7]
(1)亜鉛合金めっき浴の調製
実施例4に係るめっき浴の調製にあたり、反応生成物(A1)源の配合量を変更して、めっき浴中の反応生成物(A1)の含有量を0.5g/Lとした以外は、実施例4と同様の操作によりめっき浴を調製した。
(2)亜鉛合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材の作製
スターラー回転数450rpmの縦100mm、横100mm、高さ145mmのめっき槽を用意した。めっき槽内の所定の位置に、縦130mm、横65mm、厚さ1mmのアノードとしてのニッケル板を2枚、および縦50mm、横100mm、厚さ1mmの被めっき部材(カソード)としての鉄板をアノードの間に配置した。めっき槽内に上記のめっき浴を液面が130mmの高さとなるまで入れた。アノードおよびカソードをめっき電源に接続し、次の電解条件で電気めっきを行って、亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
電流密度:2A/dm
通電時間:19分
めっき浴温度:25℃
得られためっき皮膜の厚さは6〜7μmの範囲であった。
【0079】
[実施例8]
実施例4に係るめっき浴を用いて、実施例7と同じようにニッケル板に対して電気めっきを行って、厚さが6〜7μmの亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0080】
[実施例9]
(1)反応生成物(A2)の製造
ニコチン酸アミド97.7g(0.8mol)と水222.6gを容量が1000mlの三つ口フラスコに入れ攪拌し、このフラスコ内にヨウ化メチル124.9g(0.88mol)を投入した。投入後フラスコ内の液温を100℃に維持して4時間攪拌し、その後、フラスコ内の液を攪拌しながら放冷して液温を35℃まで低下させた後、フラスコ内にグリシジルトリメチルアンモニウムクロライドを主成分とする水溶液(四日市合成社製「カチオマスター(登録商標)G」、73%純分)166.7g(0.8mol)、水76.7mlを添加し撹拌した。続いて、フラスコ内の液温を65℃に調整し2時間環流して得られた反応物(以下、「反応生成物(A2)」ともいう。)を含む液体をめっき浴添加剤の一種として用いた。この液体は反応生成物(A)源の一種であり、以下、「反応生成物(A2)源」ともいう。得られた反応生成物(A1)源は、収量688.6g、固形分(すなわち、反応生成物(A2)の含有量)50重量%の褐色液体であった。
【0081】
(2)亜鉛合金めっき浴の調製
亜鉛源としての酸化亜鉛を、これに由来する浴可溶性亜鉛含有物質のめっき浴中の亜鉛換算含有量が10g/Lとなる量、ニッケル源としての硫酸ニッケルを、これに由来する浴可溶性ニッケル含有物質のめっき浴中のニッケル換算含有量が1.5g/Lとなる量、アルカリ成分としての水酸化ナトリウムを、めっき浴1Lあたりの溶解量が120gとなる量、キレート剤としてのテトラエチレンペンタミン(TEPA)を、めっき浴の含有量が15g/Lとなる量、および反応生成物(A2)源を、めっき浴中の反応生成物(A2)の含有量が1.0g/Lとなる量、純水からなる溶媒に溶解させて、浴可溶性亜鉛含有物質、浴可溶性ニッケル含有物質、反応生成物(A2)およびTEPAを含有するアルカリ性のジンケート型亜鉛−ニッケル合金めっき浴を調製した。
【0082】
(3)亜鉛合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材の作製
上記のめっき浴を用いて、実施例7と同じようにニッケル板に対して電気めっきを行って、厚さが6〜7μmの亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0083】
[比較例7]
比較例4に係るめっき浴の調製にあたり、BPCの塩酸塩の配合量を変更して、BPCの含有量を0.12g/Lとした以外は、比較例4と同様の操作によりめっき浴を調製した。
得られためっき浴を用いて、実施例7と同じようにニッケル板に対して電気めっきを行って、厚さが6〜7μmの亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
【0084】
[実施例10から12]
実施例4に係るめっき浴の調製にあたり、下記のカチオンポリマー2から4の含有量が1.5g/Lとなる量の各ポリマーをめっき浴に配合したとした以外は、実施例4と同様の操作によりめっき浴の調製および電気めっきを行って、亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜を有する亜鉛系めっき部材を得た。
カチオンポリマー2:尿素1モルとN,N−ジメチルアミノプロピルアミン2モルとエピクロロヒドリン1モルの反応物
カチオンポリマー3:尿素1モルとN,N−ジメチルアミノプロピルアミン1.5モルとエピクロロヒドリン1モルの反応物
カチオンポリマー4:尿素1モルとN,N−ジメチルアミノプロピルアミン1.5モルとエピクロロヒドリン0.6モル、ジクロロエチルエーテル0.8モルとの反応物
【0085】
2.評価
(1)めっき浴の外観評価
実施例4から6および比較例4から6により作製しためっき浴の外観を目視で観察して、その性状を評価した。評価結果を表1に示す。なお、表1中の「含有量(g/L)」の列に示される数値は、実施例4から6については反応生成物(A1)の含有量であり、比較例4から6についてはBPCの含有量である。
【0086】
【表1】
【0087】
(2)めっき面の外観評価
実施例および比較例により作製しためっき皮膜を有する部材のめっき面性状を、電気めっきを行った際に高電流密度であった側の端部(以下、「高電流密度側端部」という。)から10mmごとの位置で目視にて観察して、次の基準で評価した。
1:ほぼ鏡面の高光沢
2:光沢
3:半光沢
4:無光沢
5:気泡発生に基づく粗な面
評価結果を表2から3に示す。なお、表2および3中の「含有量(g/L)」の列に示される数値は、実施例1から6および10から12については反応生成物(A1)の含有量であり、比較例1から6についてはBPCの含有量である。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
(3)めっき膜厚分布
実施例および比較例により作製しためっき皮膜を有する部材のめっき皮膜の厚さ(単位:μm)を、高電流密度側端部から10mmごとの位置で、蛍光X線膜厚計(SII社製:SFT−9200)により測定した。
測定結果を表4から6ならびに図1に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
(4)ニッケル共析率
実施例4から6および10から12ならびに比較例4から6により作製しためっき皮膜を有する部材のめっき皮膜におけるニッケルの共析率(単位:質量%)を、高電流密度側端部から10mmごとの位置で、蛍光X線膜厚計(SII社製:SFT−9200)により測定した。
測定結果を表7および8に示す。
【0095】
【表7】
【0096】
【表8】
【0097】
(5)耐食性試験
実施例7から9および比較例7に係る亜鉛系めっき部材について、JASO M609に規定されるCCT(自動車部品外観腐食試験方法)に基づく耐食性試験を5サイクル行った。
【0098】
耐食性試験の条件について以下に示す。
(A)塩水噴霧
温度:35±1℃
塩水濃度:5±0.5%
その他はJIS Z2371:2000(ISO 9227:1990)に準拠した。
(B)乾燥
温度:60±1℃
相対湿度:20〜30%RH
(C)湿潤
温度:50±1℃
相対湿度:95%RH以上
(D)1サイクルの時間および内容
塩水噴霧2時間、乾燥4時間、湿潤2時間
各時間は、それぞれの移行時間(各条件に移行後、その条件の規定の温度および相対湿度に達するまでの時間)を含む。
(E)移行時間
噴霧から乾燥:30分以内
乾燥から湿潤:15分以内
湿潤から噴霧:30分以内(通常はこの移行時間は瞬時である。)
(F)試験片保持角度
原則として、試験片の評価対象面が垂直に対し15〜20°となるように保持する。
【0099】
5サイクル終了後の亜鉛系めっき部材の亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜からなる面を目視にて観察し、赤錆が発生している位置(赤錆発生ポイント)数を計測した。また、耐食性試験を行う前後で亜鉛−ニッケル合金めっき皮膜からなる面の表面粗さを測定した(測定装置:東京精密社製、サーフコム1400G)。なお、表面粗さに関するパラメータとして、中心線平均粗さRa75、十点平均粗さRzおよび最大高さRmax(いずれもJIS B0601:1994に基づく。)を求めた。さらに、各パラメータについて、耐食性試験前後の測定結果の比(試験後/試験前)について算出した。
測定結果を表9に示す。
【0100】
【表9】
【0101】
(6)発光の有無の確認
反応生成物(A1)源および反応生成物(A2)源、ならびに実施例1から9および比較例1から7に係るジンケート型亜鉛系めっき浴に高圧水銀灯(i線)を照射したところ、反応生成物(A1)または反応生成物(A2)を含有する、反応生成物(A1)源および反応生成物(A2)源ならびに実施例1から9に係るジンケート型亜鉛系めっき浴については、青色(450〜460nm)の発光が観測された。一方、比較例1から7に係るジンケート型亜鉛系めっき浴については青色の発光は確認されなかった。
図1