【実施例1】
【0016】
図1は本発明金属層の結晶粒径及び粒径分布評価方法を説明する概略工程図で、本発明の評価方法は、結晶組織を有し特定の面方位においてX線に対して回折ピークを持つ金属層にX線を照射して得られる回折ピークを入手するステップA、回折ピークに基づいて面積平均コラム長及び体積平均コラム長を求めるステップB、及び面積平均コラム長及び体積平均コラム長から結晶粒径の対数正規分布を求めるステップCから成っている。結晶粒は原子の結び付きで構成されたコラムの集合体で形成され、各コラムは様々の大きさを有している。各コラム領域の長さをその領域の面積を考慮して平均した値が面積平均コラム長、各コラム領域の長さをその領域の体積を考慮して平均した値が体積平均コラム長と称す。
【0017】
ステップAを詳述するに、このステップAはX線ディフラクトメータにより銅Kα線(管電圧40kV、管電流40mA)を用いて例えば線幅100nmの銅配線膜の回折パターンを測定するステップである。銅配線層の回折パターンは
図2に示すように、(111)配向が強いため(111)回折ピークと(222)回折ピークのみが観察される。(222)回折ピークについては回折強度が弱いため、計数時間を長くして測定する。銅Kα線はX線の生成メカニズムに基づき僅かにエネルギーの異なるKα1、Kα2と呼称される2種類のX線を持ち、回折ピークにもこれに対応する2種類のピークが含まれている。この回折ピークを使用するとプロファイルが左右対称にならず、装置によるピークの広がりを補正するStokes法における処理が複雑になる。これを避けるために、Rachingen法を用いて銅配線層の回折パターンからKα2線に起因するプロファイルを除き、Kα1線に起因するプロファイル(以下Kα1プロファイルと称す)のみを求める。
図2はKα1プロファイルを示している。このステップAと同様の方法により、結晶粒が十分大きく歪の影響がない標準試料として、十分に焼鈍した高純度銅メッシュのKα1プロファイルを準備する。これは回折装置に依存するピークの広がりを除くために次ステップBにおいて使用される。
【0018】
ステップBを詳述するに、先ず銅配線層及び標準試料の(111)及び(222)回折ピークのKα1プロファイルをフーリエ解析し、それぞれのピークについてコラム長さLに対するフーリエ係数A(L)を求める。Stokes法により回折装置によるピークの広がりを補正したA(L)は、補正した後、Warren−Averbach法により面積平均コラム長L(
area)及び体積平均コラム長L(
Vol)を算出する。フーリエ係数A(L)はの結晶子サイズの項As(L)と歪の項A
D(L)の積として表される。
【数1】
ここで、両辺の対数をとると、歪の項の対数はlnA
D(L)=−2πL
2<ε
L2>Sb
2として表され、数式(2)に整理される。
【数2】
ここで、ε
Lはコラム長さ方向の歪(=ΔL/L)、Sb
2=(h
2+k
2+l
2)/a
2、hklは面指数、aは格子定数である。
(111)及び(222)回折ピークについては、L=2.2〜77.0Åにおける数式(2)の関係を
図3に示す。それぞれのLにおける直線の切片からAs(L)が求められ、傾きからは<ε
L2 >が求められる。得られたAs(L)とLの関係が
図4になる。
図4において、As(L)−Lの関係でL=0の近傍における接線と横軸の切片よりL(area)が実線で示したAs(L)−Lの近似曲線と縦横軸間の面積の2倍としてL(Vol)がそれぞれ求められる。
【0019】
ステップCを詳述する。結晶粒の大きさが対数正規分布をとると仮定すると、大きさDの結晶粒の対数正規分布g
LN(D)は数式(3)で表される。
【数3】
ここで、D
0及びσはそれぞれ平均粒径及び標準偏差を表す。結晶粒を球と仮定すると、D
0及びσとL(area)及びL(Vol)の関係が数式(4)及び数式(5)で与えられる。
【数4】
【数5】
ステップBで求めたL(area)及びL(V0l)から数式(4)及び数式(5)を用いてD
0及びσを決定し、結晶粒径の対数正規分布を求める。このようにして決定した線幅100nmの銅配線層の粒径分布を透過型電子顕微鏡による観察から求めた結果と比較して
図5に示す。
【0020】
本発明結晶粒径及び粒径分布評価方法は、上述したように結晶組織を有し特定の面方位においてX線に対して回折ピークを持つ金属層に適用できる。本発明において重要なことは、例えば金属層を形成する場合その下地となるシード層が結晶組織を有することで、かつ特定の面方位を有することである。
【0021】
図5は本発明結晶粒径及び粒径分布評価方法で得た粒径分布図とTEMで得た粒径分布図で、本発明で評価した平均粒径D
0は63nm、粒径分布σは1.51であるに対し、TEMで評価した平均粒径D
0は76nm、粒径分布σは1.57であり、両者は良く一致していることが解る。このことは、本発明結晶粒径及び粒径分布評価方法は、評価精度はFIBとTEMを組み合わせた評価方法と同程度の高精度を有し、評価対象の試料を加工することなく非破壊で試料全体に亘って評価できる点でFIBとTEMを組み合わせた評価方法より優れていることを意味している。
【実施例2】
【0022】
本発明金属層の結晶粒径及び粒径分布評価方法を適用した半導体集積回路装置の製造方法の一実施例を説明する。半導体集積回路装置は、大面積の半導体ウエハに所望の回路素子を有する多数の区分を形成する工程、半導体ウエハ上に多層配線層を形成する工程、半導体ウエハを区分とその上に形成された配線層と共に多数のチップに分割する工程、チップ毎にパッケージ内に封止する工程を経て製造されるが、この実施例では配線層の結晶粒径及び粒径分布評価方法を適用する工程に限定して説明する。
【0023】
図6は半導体ウエハの概略平面図で、例えば直径12インチの円板形状を有する半導体ウエハWに、多数個の方形状領域に区分され、多数個の方形状領域のうち白表示の領域W11が半導体集積回路装置となる素子チップ領域、黒で塗り潰した領域W12がモニターチップ領域となっている。モニターチップ領域W12はこの図では半導体ウエハWの中心部にW12a、周縁部にW12bを1個づつ配置形成してあるが、この位置についてはこの実施例では特別な意味はない。しかしながら、半導体集積回路装置製造者の意思で半導体ウエハの中心部と周辺部で配線層の形成条件が多少相違し、それに伴って粒径に相違が生じるか否かを把握するという目的を持って形成する位置を選定する場合がある。本発明ではモニターチップ領域の数及び設ける位置を特定するものでなく、必要に応じて任意の数を任意の位置に設けることが出来る。例えば、モニターチップ領域W12を中央部と周辺部にそれぞれ複数個づつ設けても、周辺部に一定間隔で複数個設けても良い。
【0024】
図7は素子チップ領域W11の一部の概略断面図で、説明の都合上配線層を2層構成にした例を示している。図において、1は一方の主表面1aに隣接してpn接合によって多数個の回路素子(図示せず)が形成された半導体基体、2は半導体基体1の一方の主表面1a上に形成された例えばシリコン酸化物層からなる第1絶縁層、2aは第1絶縁層2に形成されたスルーホール、3はスルーホール2a内に形成された例えばタングステンからなるプラグ、3aはスルーホール2aとプラグ3との間に形成された例えばTiN(窒化チタン)からなるバリア層、4は第1絶縁層2及びプラグ3上に例えば窒化シリコン層41を介して形成された例えばシリコン酸化物層42からなる第2絶縁層、4aは第2絶縁層4に形成された第1トレンチ、5は第1トレンチ4a内に形成された第1銅配線層、5aは第1トレンチ4aと第1銅配線層5との間に形成された例えばTaN(窒化タンタル)/Ta(タンタル)からなるバリア層、6は第2絶縁層4及び第1銅配線層5上に例えば窒化シリコン層61を介して例えばシリコン酸化物層62からなる第3絶縁層、6aは第3絶縁層6形成されたコンタクトホール、7は第3絶縁層6上に例えば窒化シリコン層71を介して例えばシリコン酸化物層72からなる第4絶縁層、7aはコンタクトホール6a上の第4絶縁層7に形成された第2トレンチ、8はコンタクトホール6a及び第2トレンチ7a内にバリア層8aを介して形成された第2銅配線層である。
【0025】
図7に示す素子チップ領域W11の配線層は、概略次のようなデュアルダマシンプロセスを用いて製造される。まず、一方の主表面1aに隣接してpn接合によって多数の回路素子(図示せず)が形成された半導体基体1を準備し、半導体基体1の一方の主表面1a上に第1絶縁層2をCVD(Chemical Vapor Deposition)法により堆積し、配線層を形成する予定の領域となる第1絶縁層2の一部をエッチングしてスルーホール2aを形成し、このスルーホール2a内にバリア層3aを介してプラグ3を形成する。次に、第1絶縁層2、バリア層3a及びプラグ3の露出面上に第2絶縁層4をCVD法により堆積し、配線層を形成する予定の領域となる第2絶縁層4をエッチングすることにより第1トレンチ4aを形成する。この第1トレンチ4aは幅が100nm以下、深さは50〜300nmの範囲から通電容量によって選択された値を有している。第2絶縁層4上の窒化シリコン層41はシリコン酸化物層42をエッチングするときのストッパーとして利用される。第1トレンチ4a内にバリア層5aを介して第1銅配線層5を形成する。バリア層5aはスパッタ法又はCVD法によって形成し、第1銅配線層5はバリア層5a上に形成した図示しない極く薄い銅シード層上に硫酸銅めっき浴、アノードに銅電極を用いて電解めっき法により形成する。次いで、CMP(Chemical Mechanical Polishing)により第1トレンチ4a部分においてはその深さを超える部分の銅層、並びに第2絶縁層4及びバリア層5aを除去して第1トレンチ4a内にのみ第1銅配線層5となる銅層及びバリア層5aを残す。次に、第2絶縁層4及び第1銅配線層5上に第3絶縁層6及び第4絶縁層7を順次CVD法により堆積し、第1銅配線層5上方の第4絶縁層7をエッチングして第2トレンチ7aを形成し、更に第3絶縁層6をエッチングにより除去してコンタクトホール6aを形成する。次いで、第2トレンチ7a内及びコンタクトホ−ル6aの表面に例えばTa/TaN/Ta積層体からなるバリア層8aをスパッタ法またはCVD法により数nmから10nm程度の厚さ堆積し、バリア層8a上に薄い銅シード層(図示せず)を
図7と同じをスパッタ法により形成し、第1銅配線層5と同様の方法により第2トレンチ7a及びコンタクトホール6a内に深さを超える厚さの銅層を形成する。しかる後、CMPにより第2トレンチ7a部分においてはその深さを超える部分の銅層、並びに第4絶縁層7上の銅層及びバリア層7aを除去して、第2トレンチ7a内にのみ第2銅配線層8となる銅層及びバリア層7aを残し、2層構造の銅配線が完成する。この実施例では2層構造の銅配線の製造方法を説明したが、3層以上の配線構造にする場合には、第2銅配線層を形成した工程を繰り返すことで実現できる。
【0026】
図8はモニターチップ領域W12を説明する概略平面図及び概略断面図である。(a)は
図7のモニターチップ領域W12aに、(b)は
図7のモニターチップ領域W12bにそれぞれ対応している。図において、1、2、4、6及び7は
図7と同じ半導体基体、第1絶縁層、第2絶縁層、第3絶縁層及び第4絶縁層、91は第2絶縁層2に形成された第1トレンチ4a内にバリア層91aを介して形成された第1モニター用銅配線層、101は第4絶縁層4に形成された第2トレンチ7a内にバリア層101aを介して形成された第2モニター用銅配線層で、これらは素子チップ領域W11と同時に同じ寸法、材料、プロセスで形成されている。従って、第1モニター用銅配線層91及び第2モニター用銅配線層101は素子チップ領域W11の第1銅配線層5及び第2銅配線層8と線幅、線厚及び結晶状態が同一になっている。当然のことながら、バリア層91a及び101aは
図6のバリア層5a、8aと同時に形成され、その上に図示しない銅シード層が形成されている。
図から理解されるように、モニターチップ領域W12aには第1モニター用銅配線層91が、モニターチップ領域W12bには第2モニター用銅配線層101が形成され、換言すればモニターチップ領域W12aは素子チップ領域W11の第1銅配線層5の結晶粒径及び粒径分布評価に、モニターチップ領域W12bは素子チップ領域W11の第2銅配線層8の結晶粒径及び粒径分布評価にそれぞれ使用される。
【0027】
半導体集積回路装置の製造において、
図8に示すモニターチップ領域W12aを
図7に示す半導体ウエハWに作り込むことにより、第1銅配線層5が完成した時点において第1モニター用銅配線層91のX線回折ピークを入手して上述した金属層の結晶粒径及び粒径分布評価方法を用いて、非破壊で第1モニター用銅配線層91の結晶粒径及び粒径分布を評価し、第1銅配線層5が所望の結晶粒径及び粒径分布を有しているか否かを判定する。所望の結晶粒径及び粒径分布を有している場合には次の製造工程に移行し、所望の結晶粒径及び粒径分布を有していない場合には結晶粒径及び粒径分布を修正するプロセスを実施するか、修正が困難な場合には廃棄処分する。第2銅配線層8が完成した時点において第2モニター用銅配線層101のX線回折ピークを入手して上述した金属層の結晶粒径及び粒径分布評価方法を用いて、非破壊で第2モニター用銅配線層101の結晶粒径及び粒径分布を評価し、第2銅配線層8が所望の結晶粒径及び粒径分布を有しているか否かを判定する。判定結果に基づいて行う対応は第1銅配線層5の場合と同様である。このように配線層数に対応したモニターチップ領域を準備することにより、配線数に応じて結晶粒径及び粒径分布評価を繰り返すことにより、所望の結晶粒径及び粒径分布を有する銅配線層を備える半導体集積回路装置を実現できる。
【0028】
図9は
図8に示すモニターチップ領域W12の変形例を示す概略断面図である。(a)は
図7のモニターチップ領域W12aに、(b)は
図7のモニターチップ領域W12bにそれぞれ対応している。
図8のモニターチップ領域と相違する点は、第1モニター用銅配線層91の下方にプラグ33を、第2モニター用銅配線層101の下方にコンタクトホール6aを夫々形成して第1銅配線層5及び第2銅配線層8に近似した配線構造になっている点である。これによって、第1モニター用銅配線層91及び第2モニター用銅配線層101の結晶粒径及び粒径分布が第1銅配線層5及び第2銅配線層8のそれに近似したものとなり、高精度の結晶粒径及び粒径分布評価が可能になるという利点が期待できる。
【0029】
図10は
図8及び
図9に示すモニターチップ領域W12と異なる変形例を示す概略断面図である。このモニターチップ領域W12の特徴は、第1モニター用銅配線層91と第2モニター用銅配線層101の双方を備えている点にある。このため、第1モニター用銅配線層91によって第1銅配線層5の結晶粒径及び粒径分布評価をすることが出来る点は
図8及び
図9と同じであるが、第2モニター用銅配線層101を用いて評価する時は第1モニター用銅配線層91と第2モニター用銅配線層101の双方を重ね合わせた配線を評価することになる。このモニターチップ領域W12を用いる利点は、銅配線層の形成の都度評価をしないで、最後に纏めて評価することで半導体集積回路装置の製造プロセス数を低減できる点である。(a)はプラグ及びコンタクトホールを形成していないので製造が容易であり、(b)はプラグ及びコンタクトホールを形成していて素子チップ領域W11と同じ構造であり、素子チップ領域の評価が可能になる。
【0030】
図8、
図9及び
図10に示すモニターチップ領域W12を半導体ウエハに作り込む場合に重要な点は、第1モニター用銅配線層91及び第2モニター用銅配線層101の総質量を所定値以上にすることである。
図11はモニターチップ領域W12の各配線層における単位面積あたりの配線層を形成している銅の総質量とX線回折ピーク強度との関係を測定した結果を示している。この結果によれば、単位面積当たりの銅の総質量が1×10
−5g/cm
2以上であれば回折ピークの解析が可能になるが、それ未満であれば解析が出来たり出来なかったりし、3×10
−6g/cm
2以下になると解析が不可能になることを確認した。このことは、本発明金属膜の結晶粒径及び粒径分布評価方法を使用する場合には、銅配線層の総質量が1×10
−5g/cm
2以上であることを必要としている。従って、モニターチップ領域W12の各銅配線層における単位面積あたりの銅配線層の総質量を1×10
−5g/cm
2以上にするために、第1モニター用銅配線層91及び第2モニター用銅配線層101の数を
図8(c)に示すように線幅100nmの銅配線層を1400nm間隔で多数併設してある。
【0031】
半導体集積回路装置の配線層としてアルミニウムを使用する場合のモニター用アルミニウム配線層の総質量について説明する。粉末結晶試料における回折強度を求める一般数式(6)があり、この式を用いて銅及びアルミニウムの(111)面の回折強度Iを見積もることが出来る。
【数6】
式(6)で考慮されている種々の因子を算出し、銅のKα線を用いた場合の銅及びアルミニウムの(111)面の回折強度を求めてみると強度比がICu:IAl=100:28となり、銅と同程度の回折強度を得るためにアルミニウムでは約3.6倍の質量が必要であることが分かる。従って、モニター用アルミニウム配線層を用いてX線回折ピークを利用して結晶粒径及び粒径分布評価するためには、単位面積当たりの総質量は3.6×10−5g/cm2以上にすることが望ましい。