特許第5747420号(P5747420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧 ▶ サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス)の特許一覧 ▶ ユニヴェルジーテ モンペリエ 2の特許一覧

<>
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000003
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000004
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000005
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000006
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000007
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000008
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000009
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000010
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000011
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000012
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000013
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000014
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000015
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000016
  • 特許5747420-テラヘルツ電磁波変換装置 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747420
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】テラヘルツ電磁波変換装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/14 20060101AFI20150625BHJP
   H01S 1/02 20060101ALN20150625BHJP
【FI】
   H01L31/14 A
   !H01S1/02
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-546581(P2012-546581)
(86)(22)【出願日】2010年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2010007074
(87)【国際公開番号】WO2012073298
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2013年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505045610
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
(73)【特許権者】
【識別番号】513139840
【氏名又は名称】ユニヴェルジーテ モンペリエ 2
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 泰一
(72)【発明者】
【氏名】ポポフ ヴィチェスラブ
(72)【発明者】
【氏名】クナップ ウォイチェク
(72)【発明者】
【氏名】メチアーニ ヤーヤ ムバラク
(72)【発明者】
【氏名】ディアコノワ ニーナ
(72)【発明者】
【氏名】コキラ ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】テッペ フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】ファティフ デニス
(72)【発明者】
【氏名】ベラスケス ペレス エスス エンリケ
【審査官】 濱田 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−224467(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/030608(WO,A1)
【文献】 D.Coquillat,"Room temperature detection of sub-terahertz radiation in double-grating-gate transistors",Optics Express,Vol.18, No.6 (2010),p.6024-6032
【文献】 D.Coquillat,"Terahertz detection in a double-grating-gate heterotransistor",Journal of Physics,Conference Series, 2009, Vol.193,012074
【文献】 I.Khmyrova,"Analysis of terahertz plasma resonances in structures with two-dimensional electron systems periodically modulated by interdigitated gate",Journal of Applied Physics,Vol.108, No.7 (2010),074511
【文献】 T.Nishimura,"An Intensity Modulator for Terahertz Electromagnetic Waves Utilizing Two-Dimensional Plasmon Resonance in a Dual-Grating-Gate High-Electron-Mobility Transistor",Japanese Journal of Applied Physics,Vol.49, No.5 (2010),054301
【文献】 Y.M.Meziani,"Room temperature generation of terahertz radiation from dual grating gate HEMT's",33rd International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves (IRMMW-THz), 2008,p.1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L
H01S
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース、ゲート及びドレインを有する電界効果トランジスタ構造のテラヘルツ電磁波変換装置において、前記電界効果トランジスタ構造の表面上に、前記ソースから前記ドレインの方向に
等間隔で並列に配置された複数のフィンガーを有する第1の組のゲートと、
等間隔で並列に配置された複数のフィンガーを有する第2の組のゲートとを備え、
前記第1の組のゲートの各フィンガーと前記第2の組のゲートの各フィンガーとは交互に入れ子状に配置され、
前記第1の組のゲートの各フィンガーと前記ドレイン側に隣接する前記第2の組のゲートのフィンガーとの間の第1の距離D1と、前記第1の組のゲートの各フィンガーと前記ソース側に隣接する前記第2の組のゲートのフィンガーとの間の第2の距離D2とは、不等長であることを特徴とするテラヘルツ電磁波変換装置。
【請求項2】
D1/D2が約0.55であることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ電磁波変換装置。
【請求項3】
前記ソースから前記ドレインに向かって、前記第1の組のゲートの前記ソースから前記ドレイン方向の長さであるゲート長および/または前記第2の組のゲートの前記ソースから前記ドレイン方向の長さであるゲート長が順次狭くなることを特徴とする請求項1又は2に記載のテラヘルツ電磁波変換装置。
【請求項4】
前記ソースが接地され、前記ソースと前記ドレインとの間に直流バイアス電流が印加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のテラヘルツ電磁波変換装置。
【請求項5】
前記第1の組のゲートの前記ソースから前記ドレイン方向の長さであるゲート長は、前記第2の組のゲートの前記ソースから前記ドレイン方向の長さであるゲート長より狭く、
記第1の組のゲートの下の電子密度は、前記第2の組のゲートの下の電子密度よりも高いことを特徴とする請求項4に記載のテラヘルツ電磁波変換装置。
【請求項6】
前記ソースから前記ドレインに向かって、前記第1の組のゲートのゲート長が順次狭くなることを特徴とする請求項5に記載のテラヘルツ電磁波変換装置。
【請求項7】
前記第1の組のゲートの各フィンガーにおいて、ゲート長に対する電子濃度の平方根の比が一定値となるようにゲート長が定まっていることを特徴とする請求項に記載のテラヘルツ電磁波変換装置。
【請求項8】
前記電界効果トランジスタ構造は、HEMT構造であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のテラヘルツ電磁波変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ電磁波変換装置に関し、より詳細には、ソース、ゲート及びドレインを有する電界効果トランジスタ構造のテラヘルツ電磁波変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
0.1THz〜30THzの周波数帯にあるテラヘルツ電磁波は、高周波数の光と低周波数の電波の中間領域に存在し、これまでは未開拓の領域であった。近年、レーザー光技術の発展により、コヒーレントなテラヘルツ電磁波の発生および検知が可能になり、その物質を透過する性質から、食品検査、封筒内毒物検査、構造物の欠陥検査等のセキュリティ分野や、LSI断線検査、生体分子のダイナミクスイメージング、宇宙望遠鏡等の分野で活発に研究がなされている。
【0003】
常温下での高周波数の電磁波の検出における現在の主流は、電子走行型素子であるショットキーバリアダイオードを用いた技術であるが、周波数の向上とともに一層の微細化が必要となり、必然的に感度低下をきたす。電子の移動速度では、トランジスタの使用限界周波数(カットオフ周波数)は700GHz程度である。
【0004】
それに対して、高電子移動度トランジスタ(HEMT)をプラズモン共鳴型素子として動作させた場合には、電子走行に依存せず、電子の分極振動によって機能するため、テラヘルツ以上の超高周波域でも感度低下を来さない。HEMTの電子走行層に存在する二次元電子ガス(2DEG)は、その電子濃度が1012cm−2程度と非常に大きく、電子単体としての挙動よりも流体としての性質が顕著に現れる。このような二次元電子流体に外的な励起を加えると、電子の粗密波、つまりプラズマ波が発生する。プラズマ波が共振器構造内部で発生することによって量子化されたものがプラズモンである。電子のドリフト速度がたかだか10cm/s程度であるのに対し、プラズマ波の速度はおよそ10cm/s程度となり、ドリフト速度より1〜2桁大きい値をとる。このことから、プラズマ波に起因して発生するプラズモンの共鳴周波数は、キャリア輸送を用いる従来のトランジスタのカットオフ周波数よりも高周波となり、数十THzの周波数まで到達することが可能となる。こうした二次元プラズモンの励起によりテラヘルツ電磁波の検出が可能である。
【0005】
ここで、テラヘルツ電磁波とプラズマ波との間の変換メカニズムを説明する。自由空間を伝播する電磁波は横波である一方で、電子の粗密波であるプラズマ波はエバネッセントな非放射モードの分極(縦波)振動波であるため、プラズモン領域から外部へ向かう振動成分は全て減衰し、両者の変換は原理的にすることができない。また、この変換には、エネルギー保存則と運動量保存則の充足が要求されるが、プラズマ波の速度は上述の通り、真空中の光速度(3×1010cm/s)に比して桁違いに低く、それに対応して、プラズマ波の波長は電磁波の波長に比して桁違いに短い。電磁波(フォトン)やプラズモンの振動エネルギーは周波数に比例し、運動量は波長に反比例するため、同じ周波数の振動としてプラズモンと電磁波の相互の変換が果たされるときに、エネルギーは保存則されるが、運動量は保存されない。この観点からも変換は困難である。
【0006】
図1に、電磁波およびプラズマ波の周波数と波数との関係を示す。横軸の波数kは1/λに比例し、運動量に関係する量である。縦軸の周波数fはエネルギーに関係する量である。ある周波数fでのモード変換を考えると、図1から明らかなように運動量保存則を成立させることができない。図中、電磁波の直線の傾きcは、光速であり約3×10m/sである。また、プラズマ波の直線の傾きvは、電子密度nのルートに比例する値であり、約10〜10m/sである。図1は模式的に図示してあるが、2つの曲線の傾きは2桁程度異なることになる。
【0007】
図2は、上記問題を解決してモード変換を可能にする従来のテラヘルツ電磁波検出装置を示している。基板201、電子走行層202、電子供給層203、ソース204、及びドレイン205を有するHEMT構造であり、第1の組のゲートG1と第2の組のゲートG2を備える。第1の組のゲートG1の各ゲート(櫛状(comb−like)ゲートのそれぞれを「フィンガー」と呼ぶ。)のゲート長L1は、第2の組のゲートG2の各ゲートのゲート長L2よりも短く、各組の各ゲートは、ともに同一の空間的周期Wでソース204とドレイン205との間に配置されている。第1の組のゲートG1及び第2の組のゲートG2は、それぞれ周期Wの回折格子(grating)であり、かつ、互いに入れ子状に配置されている(interdigitated)ため、二組のゲートをあわせて「入れ子状二重回折格子ゲート(interdigitated dual−grating gate)」と呼ぶ。
【0008】
ここで、第1の組のゲートG1の各ゲートに、高電圧VG1を、第2の組のゲートG2の各ゲートに、低電圧VG2(<VG1)を印加した場合を考える。第1の組のゲートG1の下には第2の組のゲートG2の下よりも電子が多く集まり、電子密度nに差が生じる。上述したようにプラズマ波の速度は電子密度nのルートに比例する。第1の組のゲートG1と第2の組のゲートG2が異なる電圧状態にあるとき、各ゲート下の電子によるプラズマ波はゲートの幅を周期とする局在化した定在波となるため、次式でその基本定在波の共鳴周波数を表すことができる。
【数1】
ここで、iは、2又は4の整数値で、各ゲート下の高電子濃度の領域の両端が対称境界の場合は、両端ともに節または両端ともに腹になるため2、非対称境界の場合は、一端が節(腹)のとき他端は逆に腹(節)となるため4となる。第1の組のゲートG1では、第2の組のゲートG2よりも電子密度nが大きく、ゲート長Lが小さいことから、共鳴周波数は、第1の組のゲートG1の方が十分に大きいという関係になる。
【0009】
このようなプラズマ波の共鳴周波数の周期性は、図1に示したプラズマ波の直線に変化をもたらす。つまり、プラズマ波の直線が、ゲートの周期性に起因するブリルアンゾーンの境界である波数π/Wの位置で折り返される。折返しの結果、図3から明らかなように、エネルギー保存則を満たしつつ、運動量保存則を満たすことのできる周波数が存在することになる。交互に配置された、同一周期Wを有する第1及び第2の組のゲートG1、G2がアンテナとして機能して、テラヘルツ電磁波・プラズマ波間のモード変換を可能としていると言うことができる。
【0010】
なお、図3は図式的に示したものであり、傾きvの実際の小ささを考えれば、エネルギー保存則と運動量保存則とを共に充足する周波数が多数生じることに留意されたい。
【0011】
また、上述の説明では、第1の組のゲートG1及び第2の組のゲートG2にそれぞれ電圧を印加した場合を例に説明したが、一方が他方よりも高電位となるようにすれば同様の議論が成立する。たとえば、第2の組のゲートG2には電圧を印加せずに短絡し、第1の組のゲートG1のみに電圧を印加してもよい。
【0012】
また、第1の組のゲートG1と第2の組のゲートG2の電位が等しくても、ゲート長が異なれば共鳴周波数も異なることとなり周期性が生じるため、上述の説明と同様の議論が成立する。
【0013】
特許文献1には、図2に示した構造を利用したテラヘルツ電磁波放射素子が開示されている。
【0014】
上述の機構によって、周期的なアンテナ構造によってテラヘルツ電磁波のエネルギーをプラズマ波に変換する、言いかえれば、プラズマ波を励起することが可能となる。その逆に、プラズマ波が何らかの外的要因によって励起されると、そのプラズマ波のエネルギーをテラヘルツ電磁波に変換することも可能となる。テラヘルツ電磁波からプラズマ波への変換は、テラヘルツ電磁波の検出機構として有効な手段であり、一方、プラズマ波からテラヘルツ電磁波への変換は、テラヘルツ電磁波の発生機構として有効な手段である。これらテラヘルツ電磁波の検出および発生という2つの機構について、以下に説明する。
【0015】
テラヘルツ電磁波のエネルギーがプラズマ波に変換されてプラズマ波が励起された際に、テラヘルツ波の検出が果たされるためには、さらにプラズマ波の非線形性を有効利用することが必要になる。テラヘルツ電磁波の検出装置とは、ショットキーバリアダイオードをその代表例として、テラヘルツ電磁波の入射電力に応じて、直流の電圧または電流を出力する装置のことを意味する。ダイオードの電流・電圧特性は、順方向に対しては電圧とともに指数関数的に電流が増加する非線形特性を有する。図4Aのように、ショットキーバリアダイオードに予め正の一定の直流バイアスVDCを印加しておき、そこへテラヘルツ電磁波を入射させると、電磁波の瞬時電圧成分Vsin ωtに応じてダイオード電流が入射電磁波周波数で変調される。このとき、ダイオードの電流・電圧特性が非線形性を有するために、入射テラヘルツ電磁波が単一周波数の正弦波信号であっても、ダイオードの電流には、図4Bのような歪成分が生じる。この非線形応答の結果、ダイオード電流の時間平均値である直流成分をみると、もともとの直流電流値から変動していることがわかる。この変動量ΔITHzが入射テラヘルツ電磁波の電力に依存することから、ダイオードの直流電流の変動量を測定することによって、テラヘルツ電磁波の入射電力を検出することができる。これは、ダイオードに負荷抵抗を接続すれば、負荷抵抗の両端に生じる電圧の変動量ΔVTHzとして検出することができる。電流・電圧特性の非線形性が強いほど、検出感度が高くなる。
【0016】
テラヘルツ電磁波がプラズマ波に変換された場合にも、プラズマ波の非線形性によって、上述したのと同様の検出機構が実現できる。このとき、プラズマ波を上述したトランジスタの電子走行層に励起した場合、直流電流または直流電圧の変動量として検出信号を取りだすことができるのはトランジスタの電極部であり、ソース電極を接地し、ドレイン電極は負荷抵抗を介して電源に接続するソース接地の構成においては、ドレイン電極からドレイン電圧の変動量として取り出すことになる。このとき、有意なドレイン電圧の変動を発生させるためには、言いかえれば、感度の高いテラヘルツ電磁波の検出を実現するためには、テラヘルツ電磁波の吸収によって励起されたプラズマ波に、ドレイン電極において、上述した歪成分ができるだけ大きく生じる必要がある。単一ゲート構造の最も単純な構造のトランジスタにおけるこのプラズマ波によるテラヘルツ電磁波の検出理論については、非特許文献5にその詳細が記載されているが、ソース電極を電気的に接地し、ドレイン電極を電気的に開放端とした場合に最も高い検出感度が得られることが記されている。ソース電極とともにドレイン電極も接地されている場合にはドレイン電極には電圧変動を生じさせることができないことからも、ドレイン電極を電気的に開放端とすることの必要性が理解される。ここで重要なのは、プラズマ波が定在波を生じる電子走行層内の領域の両端(ソース端とドレイン端)が電気的に異なる境界条件(以下「非対称境界条件」と呼ぶ。)を有することである。これは、見方を変えれば、非対称境界条件におかれたプラズマ波を介して、テラヘルツ電磁波のエネルギーが直流エネルギーに変換されたものであることが分かる。
【0017】
一方、トランジスタの電子走行層内では、熱的な擾乱、ドレインからソースに流れる直流電流(微視的に見れば電子の直流ドリフト走行)、光の吸収によって生成された光電子・正孔対に伴う光電流等の存在によって、常に電子の空間分布には粗密が生じ、時間的に変動している。時間変動するこの電子の粗密は、プラズマ波である。特に、電子の直流ドリフトによって直流電流がソース・ドレイン間に流れている場合であって、ソース及びドレインの両端がそれぞれ短絡及び開放の非対称境界条件にあるときには、プラズマ波の振幅がドレイン端で多重反射を繰り返すうちに次第に増大し、自励発振が生じる。これをプラズマ不安定性という。このプラズマ不安定性の原理についてさらに説明する。
【0018】
簡単のため、ソース端短絡、ドレイン端開放のような理想的な非対称境界条件を仮定する。ここでは、プラズマ波による電流成分がソース・ドレイン間を往復伝搬する場合を考える。プラズマ波とは均一な電子濃度分布からの局所的な変動によってもたらされる局所的電荷変動がある速度で移動することによる電荷密度波である。従って、プラズマ波の電流成分は、電荷密度の局所的変動量eΔnとプラズマ波の伝搬速度vpの積で与えられる。ここで、eは素電荷、Δnは電子密度の局所変動量である。いま、ソース・ドレイン間の直流バイアスによって、電子走行層内では、電子が一様なドリフト速度vdでソースからドレインへ走行している場合を考えると、ソースからドレインへ伝搬する(これを往路とする。)進行波の電流jFは、そのときのΔnとvpをそれぞれΔnFとvpFとして、jF=eΔnF・vpF=eΔnF・(s+vd)で与えられる。一方、ドレイン端(理想的開放端)で全反射したプラズマ波の復路(後退波)の電流成分jBは、そのときのΔnとvpをそれぞれΔnBとvpBとして、jB=eΔnB・vpB=eΔnB・(s−vd)で与えられる。プラズマ波は往路では電子のドリフト流に重畳して流れるため、その速度はs+vd(但し:sはプラズマ波の速度)で与えられ、復路では、ドリフト流に逆らって逆行するためにその速度はs−vdで与えられる。理想的開放端では、反射の前後で電流が保存されるから、jF=jBが成立する。一般にsは10cm/s、vdは10〜10cm/sのオーダであって、s>vdが成立するために、jF=jBの条件から、ΔnB>ΔnFが成立する。すなわち、反射の後には電荷密度の変動量が増大することになる。毎回反射を繰り返す毎に、電荷密度変動量がどんどん増大することになる。ここで、電荷密度はゲート電極と電子走行層の間のキャパシタの容量値をC(F:ファラッド)とすると、ゲート―電子走行層間電位Vgとの間に、Q=en=CVgの関係が成立するから、電荷密度の変動eΔnによってゲート電位Vgも変動することになる。こうして、電荷密度がどんどん増大することによって、ゲート電位もどんどん変動量が増すことになり、不安定な発振状態に陥る。このプラズマ不安定性は、M.DyakonovとM.Shurによって1993年に明らかにされた(非特許文献4参照)。これはDyakonov−Shur(DS)不安定性とも呼ばれる。DS不安定性誘発の必要条件はプラズマ波の共振器(ここでは電子走行層)の境界条件(ソース端とドレイン端のインピーダンス条件)の非対称性である。
【0019】
以上、テラヘルツ電磁波の検出と発生の2つの動作機構をまとめると、テラヘルツ電磁波とプラズマ波の変換を介して、テラヘルツ電磁波のエネルギーが直流エネルギーへと効率よく変換できれば、高感度なテラヘルツ電磁波検出装置を構成することができ、直流エネルギーがテラヘルツ電磁波へと効率よく変換できれば、高効率高出力なテラヘルツ電磁波発生装置を構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開第2006/030608号
【特許文献2】特開2009−224467号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】D. V. Fateev, V. V. Popov, and M. S. Shur, "Transformation of the Plasmon Spectrum in a Grating Gate Transistor Structure with Spatially Modulated Two Dimensional Electron Channel," Semiconductors, Vol. 44, No. 11, pp. 1406-1413, 2010.
【非特許文献2】V.V Popov, G.M Tsymbalov and M.S Shur, "Plasma wave in-stability and amplification of terahertz radiation in field-effect-transistor arrays," J. Phys.: Condens. Matter, Vol. 20, iss. 384208 (6pages), 2008.
【非特許文献3】G.R. Aizin, D.V. Gateev, G.M. Tsymbalov, and V.V. Popov, "Terahertz plasmon photoresponse in a density modulated two-dimensional electron channel of a GaAs/AlGaAs field-effect transistor," Appl. Phys. Lett. Vol. 91, iss. 163507 (3 pages), 2007.
【非特許文献4】M. Dyakonov and M. Shur , Phys. Rev. Lett. Vol. 71, pp. 2465-2468, 1993.
【非特許文献5】M. Dyakonov and M. Shur, IEEE Trans. Electron Devices Vol. 43, pp. 380-387, 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、図2に示した従来の構造では、プラズマ波を介したテラヘルツ電磁波エネルギーと直流エネルギーとの間の変換効率が低いという問題があった。
【0023】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ソース、ゲート及びドレインを有する電界効果トランジスタ構造のテラヘルツ電磁波変換装置において、プラズマ波を介したテラヘルツ電磁波エネルギーと直流エネルギーとの間の変換効率を向上させることを目的とする。ここで、「変換装置」とは、プラズマ波を介してテラヘルツ電磁波エネルギーを直流エネルギーに変換する検出装置と、プラズマ波を介して直流エネルギーをテラヘルツ電磁波に変換する放射装置を共に含むことが意図されている。
【0024】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、ソース、ゲート及びドレインを有する電界効果トランジスタ構造のテラヘルツ電磁波変換装置において、前記電界効果トランジスタ構造の表面上に、前記ソースから前記ドレインの方向に等間隔で並列に配置された複数のフィンガーを有する第1の組のゲートと、等間隔で並列に配置された複数のフィンガーを有する第2の組のゲートとを備え、前記第1の組のゲートの各フィンガーと前記第2の組のゲートの各フィンガーとは交互に入れ子状に配置され、前記第1の組のゲートの各フィンガーと前記ドレイン側に隣接する前記第2の組のゲートのフィンガーとの間の第1の距離D1と、前記第1の組のゲートの各フィンガーと前記ソース側に隣接する前記第2の組のゲートのフィンガーとの間の第2の距離D2とは、不等長であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、D1/D2が約0.55であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記ソースから前記ドレインに向かって、前記第1の組のゲートの前記ソースから前記ドレイン方向の長さであるゲート長および/または前記第2の組のゲートの前記ソースから前記ドレイン方向の長さであるゲート長が順次狭くなることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の第4の態様は、第1又は第2の態様において、前記ソースが接地され、前記ソースと前記ドレインとの間に直流バイアス電流が印加されていることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記第1の組のゲートの前記ソースから前記ドレイン方向の長さであるゲート長は、前記第2の組のゲートの前記ソースから前記ドレイン方向の長さであるゲート長より狭く、前記第1の組のゲートの下の電子密度は、前記第2の組のゲートの下の電子密度よりも高いことを特徴とする。
【0031】
また、本発明の第の態様は、第の態様において、前記ソースから前記ドレインに向かって、前記第1の組のゲートのゲート長が順次狭くなることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の第の態様は、第の態様において、前記第1の組のゲートの各フィンガーにおいて、ゲート長に対する電子濃度の平方根の比が一定値となるようにゲート長が定まっていることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の第の態様は、第1から第のいずれかの態様において、前記電界効果トランジスタ構造は、HEMT構造であることを特徴とする。
【0035】
本発明によれば、ソース204とドレイン205との間に配置されている第1の組のゲートG1と第2の組のゲートG2において、第1の組のゲートG1の各フィンガーと、そのフィンガーに隣接する第2の組のゲートG2の2つのフィンガーとの間の第1の距離D1と第2の距離D2を不等長とすることにより、電界効果トランジスタ構造のテラヘルツ電磁波変換装置において、プラズマ波を介したテラヘルツ電磁波エネルギーと直流エネルギーとの間の変換効率を桁違いに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、電磁波およびプラズマ波の周波数と波数との関係を模式的に示す図である。
図2図2は、従来のテラヘルツ電磁波変換装置を示す図である。
図3図3は、図2のテラヘルツ電磁波変換装置における、電磁波およびプラズマ波の周波数と波数との関係を模式的に示す図である。
図4A図4Aは、ショットキーバリアダイオードを用いたテラヘルツ電磁波の検出装置を示す図である。
図4B図4Bは、ショットキーバリアダイオードの電流・電圧特性の非線形性を説明するための図である。
図5図5は、本発明に係るテラヘルツ電磁波変換装置を示す図である。
図6図6は、本発明に係るテラヘルツ電磁波変換装置のシミュレーションモデルを示す図である。
図7図7は、相対光応答とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示す図である。
図8図8は、吸光度とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示す図である。
図9図9は、各周波数における光応答とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示す図である。
図10図10は、プラズマ不安定性について説明するために、D1/D2=0.5の場合に電界強度振幅をフーリエ級数展開して解析した結果を示す図である。
図11図11は、比較のために、D1/D2=1.0の場合に電界強度振幅をフーリエ級数展開して解析した結果を示す図である。
図12図12は、相対光応答とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示す図である。
図13図13は、吸光度とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示す図である。
図14図14は、各周波数における光応答とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
【0038】
図5に、本発明に係るテラヘルツ電磁波変換装置を示す。図2に示した従来のテラヘルツ電磁波変換装置とほぼ同一の構造であるが、第1の組のゲートG1の各フィンガーと、そのフィンガーに隣接する第2の組のゲートG2の2つのフィンガーとの間の第1の距離D1と第2の距離D2を不等長としている。
【0039】
テラヘルツ電磁波変換装置は、次のように作製することができる。(1)まず、半導体基板201上に、所望のヘテロエピタキシャル層を成長させる。例えば、半絶縁性のGaAs基板201上に、GaAsバッファ層(図示せず)をエピ成長し、その上に電子走行層202としてInGaAs層をエピ成長する。そして、電子走行層202上の電子供給層およびバリア層として、(途中、ドナーのSiを局部的にドープしながら)InGaP層をエピ成長し、その上に、ソース204及びドレイン205のための高濃度にSiを注入したハイドープInGaAs層(図示せず)を成長する。
【0040】
(2)次いで、ヘテロエピタキシャル層の表面を洗浄した後、(3)電界効果トランジスタとして機能する領域(「メサ」と呼ぶ。)を残して、ヘテロエピタキシャル層をエッチングする(素子間分離)。(4)次いで、レジスト塗布、光露光およびエッチングによって、ソース204及びドレイン205の形成領域を特定し、(5)金属蒸着およびリフトオフによって、ソース204及びドレイン205を形成する。
【0041】
(6)レジスト塗布、光露光およびエッチングによって、トランジスタ能動領域(メサ)内の電子走行層領域上の余分なハイドープ層を除去した後、(7)レジスト塗布、電子線露光およびエッチングによって、第1及び第2の組のゲートG1、G2の形成領域を特定する。(8)そして、金属蒸着およびリフトオフによって、第1及び第2の組のゲートG1、G2を形成する。
【0042】
(9)その後、レジスト塗布、光露光およびエッチングによって、ソース204、ドレイン205、第1及び第2の組のゲートG1、G2からパッド引出電極部分(図示せず)までの金属配線部分(図示せず)を特定し、(10)金属蒸着およびリフトオフによって、当該金属配線部分を形成する。(11)そして、SiNなどの絶縁膜(図示せず)でパッシべーションする。(12)最後に、レジスト塗布、光露光およびエッチングによって、パッド引出電極部分を特定し、パッド引出電極部分上の絶縁膜を除去する。
【0043】
本発明者らは、第1の距離D1と第2の距離D2を不等長とすることでテラヘルツ電磁波エネルギー・直流エネルギー間の変換効率に飛躍的な改善が得られることを電磁界数値解析によって検証した。図6にシミュレーションのモデルを示し、図7にシミュレーション結果を示す。
【0044】
図6では、シミュレーションを単純化するため、各領域の電子濃度N〜Nを同一の値2.57×1016−2(=2.57×1012cm−2)に設定している。第1の組のゲートG1のゲート長L1を0.1μm、第2の組のゲートG2のゲート長L2を0.6μm、周期Wを0.9μm、基本周期構造の繰り返し数を89(従って、電子走行層202の距離は80.1μm)、HEMT構造の表面と2DEGが存在する領域との間の距離dを65nmとした。また、ソース端は短絡し、ソース・ドレイン間の直流バイアス電流は、ゲート幅Lw(紙面に垂直の奥行き方向の長さ)1mmあたり0.5A(すなわち0.5A/mm)とした。
【0045】
シミュレーションの具体的方法については、非特許文献1〜3を参照されたいが、その概略を説明すると以下の通りである。(1)まず、第1及び第2の組のゲートG1、G2の電位とドレイン205の電位を与え、ポアソン方程式を解くことによって、空間的に分布している二次元電子層の領域の電荷密度分布を求める。その電荷密度分布をマクスウェル方程式に組み込み、電磁界の空間分布を解く。プラズマ波は、電荷密度分布の時間的空間的変動として与えられる。解法には時間領域解析と周波数領域解析があるが、定常状態での電場分布を求めればよいので、本実施例では周波数領域解析を採用した。(2)対象とする入れ子状二重回折格子ゲートで規定される周期構造においては、電場、磁場およびそれらによってもたらされる電流成分を、当該周期構造で規定される基本定在波を基本成分とするフーリエ級数によって表現することができる。フーリエ級数の各成分に分離して、マクスウェル方程式を解く。解法には種々あるが、本実施例では、Galerkin法を採用している(非特許文献1及び2参照)。(3)このようにして、電場および電流成分の空間分布が得られると、電磁波とプラズモンとの結合、言いかえれば、電磁波のプラズモンによる吸光度を計算することができる。吸光度はジュールの法則より、電流密度と電界の積の空間積分の実部と入射電磁波のエネルギーの比、すなわち、入射電磁波エネルギーに対するプラズモン領域に吸収された電磁波エネルギーの比によって与えられる(非特許文献2参照)。(4)電荷密度および電場の空間分布が算出されると、二次元電子層内のプラズマ波に対する流体力学方程式を解くことによって、電荷密度および電子速度の変動分の積として、プラズマ波による電流成分を算出することができる。この場合にも、周期構造を対象とする本発明では、電荷密度および電子速度成分をフーリエ級数展開して各フーリエ成分に分解して解析することができる。そうして、プラズマ波の直流電流成分δjdcが得られれば、テラヘルツ電磁波に対する応答は、ドレイン電位の変動分δVds=−δjdc×Lw/σ0として求められる。ここで、Lwはゲート幅(奥行き方向の長さ)、σ0は背景の直流導電率(電荷密度、電子速度の局所変動のない静止状態における直流導電率)である(非特許文献3参照)。以下では、テラヘルツ電磁波の単位入射電力1Wあたりのドレイン電位変動量δVdsを光応答(photoresponse、単位:V/W)として表記する。また、解析例においては、テラヘルツ電磁波は、すべてゲート電極が存在する側の上部より垂直に入射した場合を示す。
【0046】
図7の結果は、対称なD1/D2=1.0のときの光応答で正規化している。つまり、第1の組のゲートG1と第2の組のゲートG2が等間隔で配置されている従来の図2のような場合と比較して、第1の距離D1と第2の距離D2にあえて差を設けるにつれて光応答が改善され、D1/D2=0.5付近ではD1/D2=1.0の70倍程度となっている。約0.5で相対光応答がピークとなっているが、相対光応答が50倍以上のときを従来の技術に比して顕著な改善と見なせば、D1/D2が0.23≦D1/D2≦0.72の範囲にあるのが好ましいことが図7から分かる。従来の図2のようなテラヘルツ電磁波変換装置ではD1/D2=1.0であったが、本発明のようにゲート間隔を非対称にすることの物理的意義がこれまで理解されていなかったため、第1の距離D1と第2の距離D2に差を設ける動機がなかった。また、製造プロセスの観点からも、ゲート間隔を非対称にすることは露光条件の制御および管理が厳しくなり、歩留まりの低下やコスト高等のデメリットしか見出せなかった。以下で図面を参照して詳細に説明するが、本発明者らは、ゲート間隔を非対称、つまり第1の距離D1と第2の距離D2を不等長とすることにより、プラズマ不安定性を生じせしめることができ、その結果、プラズマ波を介したテラヘルツ電磁波エネルギーと直流エネルギーとの変換能力を桁違いに向上できること、すなわち、検出動作においては光(テラヘルツ電磁波)応答感度を、発生動作においては、電磁波放射強度をそれぞれ桁違いに向上できることを見出した。
【0047】
図8は、図6のモデルを用いた各周波数における吸光度とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示す図である。図8から、テラヘルツ電磁波の吸収度はD1/D2に依存せず一様であること、プラズモン共鳴周波数と対応する特定の周波数で一様に吸光度が高いことが分かる。
【0048】
図9は、各周波数における光応答とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示している。6.4THzにおいて、D1/D2=1.0のときの光応答が0.03程度であり、この値で6.4THzにおける光応答の正規化を行うと、図7に示した相対光応答のグラフに対応するものが得られる。
【0049】
図8及び9が示す重要な点は、テラヘルツ電磁波からプラズマ波への変換効率である吸光度自体は、二重回折格子ゲートの対称性を表すD1/D2にはほとんど依存しないものの、プラズマ波への変換を介して得られる光応答(直流電圧の変動分)、言いかえればテラヘルツ電磁波エネルギーから直流エネルギーへの変換効率は、本発明によって著しく向上することである。
【0050】
図10及び11を参照して、光応答感度、すなわちテラヘルツ電磁波の検出感度の向上に必要な非対称境界条件について説明する。ここでは、シミュレーションを単純化するため、各領域の電子濃度N〜Nを同一の値2.57×1016−2(=2.57×1012cm−2)に設定している。第1の組のゲートG1のゲート長L1を0.5μm、第2の組のゲートG2のゲート長L2を2.0μm、周期Wを4.0μm、基本周期構造の繰り返し数を50(従って、電子走行層202の距離は200μm)、HEMT構造の表面と2DEGが存在する領域との間の距離dを40nmとした。また、ソース端は短絡し、ソース・ドレイン間の直流バイアス電流は、ゲート幅Lw(紙面に垂直の奥行き方向の長さ)1mmあたり0.5A(すなわち0.5A/mm)とした。図10は、D1/D2=0.5の場合に、電界強度振幅をフーリエ級数展開して解析した結果を示している。p=1、2、3のグラフは、図6のモデルにおいて、第2の組のゲートG2の右側の間隙の中央付近における電界強度振幅を示しており、p=−1、−2、−3のグラフは、第2の組のゲートG2の左側の間隙の中央付近における電界強度振幅を示している。図10より明白な通り、非対称構造においては、ゲートの左側と右側とで電界強度に大きな差異が生じている。この結果、非対称境界条件が実現でき、光応答感度が大きく向上することとなる。図11は、比較のためにD1/D2=1.0の場合の解析結果である。ゲートの左側と右側で電界強度が一致している対称境界条件となり、非対称境界条件が実現できていないことが分かる。
【0051】
図7および9は、光応答感度、すなわちテラヘルツ電磁波の検出感度が大きく向上することを示しているが、上述したとおり、非対称境界条件を実現することによってプラズマ不安定性が如実に誘起されることととなり、テラヘルツ電磁波の発生及び放射能力も格段に向上することは言うまでもない。
【0052】
ここまでは、ゲート下の各領域の電子濃度N〜Nを同一として説明してきたが、幅の狭い方のゲートの下の電子濃度Nを他の領域よりも大きくした例を挙げる。
【0053】
図12は、相対光応答とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示す図である。幅の狭い方のゲートの下の各領域の電子濃度Nを2.57×1016−2に設定し、その他の領域の電子濃度N〜Nを同一の値2.57×1015−2に設定している。それ以外の条件は図7〜9における条件と同一である。すなわち、第1の組のゲートG1のゲート長L1を0.1μm、第2の組のゲートG2のゲート長L2を0.6μm、周期Wを0.9μm、基本周期構造の繰り返し数を89(従って、電子走行層202の距離は80.1μm)、HEMT構造の表面と2DEGが存在する領域との間の距離dを65nmとした。また、ソース端は短絡し、ソース・ドレイン間の直流バイアス電流は、ゲート幅Lw1mmあたり0.5A(すなわち0.5A/mm)とした。図12の結果は、D1/D2=1.0のときの光応答で正規化している。D1/D2=0.5付近において、相対光応答が5.5×10程度となっており、図7の結果と比較して2桁近く大幅に向上している。この結果は、実際に本装置を使用する実使用条件を想定したものであって、電子濃度が1桁高い、幅の狭い方のゲートの下の各領域に、その電子濃度の大きな違いによってプラズマ波がより強く閉じ込められたために、(1)式に示したプラズマ波の共鳴現象がより強く生じることに起因する。また、図7の結果と比較して相対光強度のD1/D2に対する依存性が敏感でかつ異なる強度の著しいピークが複数存在している。前述したように、光応答は、プラズマ波の非線形特性による歪成分、すなわちプラズマ波の基本定在波に対する高次高調波成分の重畳によってもたらされる。本結果の場合、電子走行層内においてソース・ドレイン方向に電子濃度の空間分布を生じせしめたことによって、当該の高次高調波成分の位相特性が、D1/D2によって決まる電界強度分布の非対称性に敏感に依存することとなる。その結果、その直流成分(プラズマ波によるドレイン電流成分の時間平均値の初期値からの変動分)である光応答には、強いD1/D2依存性が現れるためである。図12では、ピークがD1/D2=0.54であるが、図7に示した電子濃度一定の条件で示した相対光強度が50倍以上となる条件は、D1/D2が0.52≦D1/D2≦0.78の範囲で得られる。さらに桁違いの強度として、相対光強度が1000倍以上となる条件は、D1/D2が0.53≦D1/D2≦0.58の範囲で得られる。従って、本発明が有効に作用するためには、D1/D2が0.53≦D1/D2≦0.58にあるのが好ましい。最も好ましいのは、0.55程度である。
【0054】
図12では、図7と同様に、光応答感度、すなわちテラヘルツ電磁波の検出感度が大きく向上することを示しているが、上述したとおり、非対称境界条件を実現することによってプラズマ不安定性が如実に誘起されることととなり、かつ、プラズマ波の共鳴現象がより強く生じることによって、テラヘルツ電磁波の発生及び放射能力も格段に向上する。
【0055】
図13は、各周波数における吸光度とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示す図である。図12と同一の条件下で図6のモデルを用いたシミュレーションである。図13から、図8と同様に、テラヘルツ電磁波の吸収度はD1/D2に依存せず一様であること、プラズモン共鳴周波数と対応する特定の周波数(7.0THz)で一様に吸光度が高いことが分かる。
【0056】
図14は、各周波数における光応答とD1/D2との関係のシミュレーション結果を示している。7.0THzにおける光応答の正規化を行うと、図12に示した相対光応答のグラフに対応するものが得られる。
【0057】
図13及び14が示す重要な点は、テラヘルツ電磁波からプラズマ波への変換効率である吸光度自体は、二重回折格子ゲートの対称性を表すD1/D2にはほとんど依存しないものの、プラズマ波への変換を介して得られる光応答(直流電圧の変動分)、言いかえればテラヘルツ電磁波エネルギーから直流エネルギーへの変換効率は、本発明によって著しく向上することである。
【0058】
なお、図6〜14の説明においてゲート長等の具体的数値に言及しているが、本発明をこれらの数値に限定されるものではないことに留意されたい。
(第2の実施形態)
【0059】
以上では、ソース・ドレイン間に印加したバイアス電流に伴うソース・ドレイン間の電位差VDSの電子濃度に対する影響を考慮せずに議論してきた。しかし実際には、バイアス電位差VDSのため、ゲートとプラズマ波が存在する領域との間にかかる電圧がソースからドレインに向かって低下し、電子密度nが減少する。その結果、入れ子状二重回折格子ゲートの各ゲート直下の各プラズモン領域における共鳴周波数が異なってしまい、検出または放射されるテラヘルツ電磁波にスペクトル広がりが生じることになる。
【0060】
スペクトル広がりを抑止するための技術として、特許文献2に開示されたものが挙げられる。式(1)から分かるように、各プラズモン領域における共鳴周波数は、ゲート長Lに対する電子濃度nの平方根の比に比例する。そこで、この比が一定値となるようにソースからドレインに向かってゲート長を定めれば、共鳴周波数の不一致を回避してスペクトル広がりを抑止することができる。この際、設計は複雑になるが、周期Wを一定、かつ、D1/D2を一定にすることは可能である。また、第1の組のゲートG1及び第2の組のゲートG2が有するフィンガーの周期が一定でない場合であっても、D1/D2を一定にすれば非対称境界条件が実現でき、本発明が有効に作用することに留意されたい。第1の実施形態で説明した本発明に、このスペクトル広がりを抑止するための技術を組み合わせることにより、極めて高いテラヘルツ電磁波・プラズマ波間の変換効率と、スペクトル狭窄化を共に実現することができる。
【0061】
なお、ゲート長Lに対する電子濃度nの平方根の比が一定値となるように設計することが好ましいが、少なくとも一方の組のゲートのゲート長を、ソースからドレインに向かって順次狭くすることにより、スペクトル広がりを抑止する効果が得られる。
【0062】
また、フィンガーの周期が一定でない場合は、図3で説明したブリルアンゾーンが周期に応じて異なるために、ブリルアンゾーン境界におけるプラズマ波分散特性の折り返しが一様ではなくなり、テラヘルツ電磁波とプラズマ波のヘネルギー変換が可能となるテラヘルツ電磁波の分散線とプラズマ波の分散線との交点位置がゲートのフィンガーごとにずれることになる。しかし、上述した通り、テラヘルツ電磁波の速度とプラズマ波の速度が2桁以上の違いであるので、テラヘルツ電磁波とプラズマ波のヘネルギー変換が可能となるテラヘルツ電磁波の分散線とプラズマ波の分散線の交点は極めて稠密に存在すること、さらに、フィンガーの周期の変動幅(ブリルアンゾーン境界点の変動幅)はたかだか1桁以内におさまるために、それによる上記交点に変動(ゲートフィンガーの位置による分布)が生じたとしても、テラヘルツ電磁波とプラズマ波の変換効率にさしたる支障はきたさない。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14