【実施例】
【0042】
以下の詳細な実施例は、単に例示するものであって、本開示および特許請求の範囲を決して限定するものではない。当業者が、前述の記載を使用して、本発明を最大限実行することができる。また、当業者は、適した変更を行なうことができる。
【0043】
本実施の形態において使用した市販の試薬は、特記しない限り製造元の説明書に従って用いられた。検出対象のAβの測定はELISA法により行った。
【0044】
(実証例)
液性サンプル中における可溶化剤の効果
図3は、実証例における測定フローを示す。
【0045】
1.サンプルの調製
市販のAβ(42)合成ペプチド((株)ペプチド研究所製;商品番号4349−V)をDMSO(ジメチルスルフォキサイド)に溶解して100umol/Lとした。次いで濃度10mMのリン酸緩衝液pH7.4を加えて1000倍に希釈してサンプル41を調製した。
【0046】
サンプル41の一部を、pH8.2の1%BSAを含むTBS溶液42で希釈して、Aβの濃度が5又は10pmol/Lとなる2種類のサンプルaを調製した。
【0047】
一方で、サンプル41の一部を100倍量の70%ギ酸(可溶化剤)溶液43と混合し、さらに24倍量の濃度1MのTris(pH未調整)溶液により中和した。その後、1%BSAを含むTBS溶液(pH8.2)で希釈して、Aβ(42)の濃度が5又は10pmol/Lとなる2種類のサンプルbを調製した。
【0048】
2.Aβ量の測定
測定は、和光純薬(株)製の、Aβを測定するELISAの測定キット(Human/Rat βAmyloid42 ELISA Kit wako、High−Sensitive;商品番号292−64501)を用い、製造元の説明書に従って行った。
【0049】
サンプルaとサンプルbのAβ濃度を上記キットを用いて測定した。結果を(表1)に示す。
【0050】
【表1】
(表1)中の既定値とは、サンプルaとbが示す理論上の設定濃度のことである。上述のとおり、サンプルaとbの濃度は5又は10pmol/Lに調整している。
【0051】
(表1)から、希釈のみを行ったサンプルaでは既定値の30から38%と低い値を示すのに対して、ギ酸処理を行ったサンプルbでは既定値の96から100%と、既定値とほぼ同等の値を示していることが分かる。
【0052】
従って、可溶化剤を含んでいない液性サンプル(サンプルa)では、Aβの一部は測定されず、サンプルaの測定値とサンプルbの測定値を比較することにより、液性サンプル中に存在する凝集体や吸着Aβなどの「存在がマスクされたAβ」の量を推測できることが確認された。
【0053】
(実施例1)
血清サンプルを用いた実施例
図4は、実施例1における測定フローを示す。
【0054】
1.血清サンプルの調製
月齢の異なるAPPsweマウスの21検体から血液を採取した。該21検体は異なった日に測定を行った。まず、APPsweマウスより採血を行い、採取した血液を氷上にて1−4時間インキュベートし、3,000×rpm、4度、15分間の遠心処理をした後、上澄みである血清サンプル71を採取した。
【0055】
血清サンプルの希釈には、特に断りのない限り、Human/Rat βAmyloid42 ELISA Kit wako、High−Sensitive;商品番号292−64501に添付されたスタンダード希釈液72を用いた。
【0056】
最初に、血清サンプル71を希釈液72にて単に希釈したサンプルAを調製した。
【0057】
一方で、血清サンプル71と95%ギ酸(可溶化剤)73を1:3の割合で、ギ酸の終濃度が71%となるように混合した。得られた混合液を、24倍量の濃度1MのTris(pH未調整)溶液により中和し、サンプルBとした。なお、サンプルA、Bとも同等の希釈率とした。本実施例1では100倍及び200倍希釈であった。
【0058】
2.サンプルA、B中のAβ量の測定
サンプルAとサンプルBのAβ濃度を、和光純薬(株)製の、Aβを測定するELISAの測定キット(Human/Rat βAmyloid42 ELISA Kit wako、 High−Sensitive;商品番号292−64501)を用い、製造元の説明書に従って測定した。
【0059】
12.4ヶ月齢、16.7ヶ月齢、21.7ヶ月齢のAPPsweマウス各1匹の計3検体のAβ(42)に関する測定結果について(表2)に示す。
【0060】
【表2】
(表2)より、Aβ(42)濃度は、サンプルAに比べサンプルBが1.2から2.9倍高い値を示すことが分かる。従って、血清中のAβ(42)についても、前記(表1)に示した結果と同様、サンプルAとサンプルBの測定値を比較することにより、液性サンプル中に存在する凝集体や吸着Aβなどの「存在がマスクされたAβ」の量を推測できることが確認された。
【0061】
3.APPマウス月齢に対する、本発明の指標の影響
前記測定により得られたサンプルAとサンプルBの測定値の比率を算出した。ここで、サンプルAの測定値が液性サンプル中で存在がマスクされていないAβ量(A)であり、サンプルBの測定値が液性サンプル中の総Aβ量(B)であり、総Aβ量(B)からAβ量(A)を差し引いた値が存在がマスクされたAβ量(C)である。次いで、存在がマスクされたAβ量(C)と存在がマスクされていないAβ量(A)との比率(C/A)を算出し、これを指標として用いた。
【0062】
指標である比率(C/A)を、採取したAPPsweマウスの月齢により4つのグループに分類した。
【0063】
月齢3から5.9ヶ月のAPPsweマウス群においては脳内でのAβ沈着はみられず、月齢6から8.9ヶ月のAPPマウス群においては、老人斑形成の核となるCored plaquesの形成がみられる。その後、月齢9から15.9ヶ月のAPPsweマウス群においては、老人斑形成初期段階となり、引き続き、月齢16から23ヶ月のAPPsweマウス群において、老人斑形成増殖期となる。非特許文献3において、APPsweマウスに関し同様の説明が記載されている。
【0064】
測定の日間差を除くために比率(C/A)の標準化を行った。具体的には、まず、各実施日ごとに、グループ3の比率(C/A)の平均値を求め、同日実施した各検体の比率(C/A)を前記グループ3の比率(C/A)の平均値で割った値(D)で評価した。この結果をグラフにして
図5に示す。なお、
図5において、1グループは、n数が2であるので、平均値のみの記載とした。
【0065】
図6、
図7及び
図8は、非特許文献3から引用したグラフである。
図6は、上記4グループに対する脳内のAβ(42)濃度を示すものである。また、
図7は、上記4グループに対する髄液(CSF)中のAβ(42)濃度を示すものである。
図6及び
図7によると、グループ2からグループ3にかけて、脳内Aβ(42)量が増大し、CSF中のAβ(42)濃度が変化していることが分かる。一方、本発明の結果である
図5においてもグループ2からグループ3にかけて変化が見えている。このことから、本発明で血清サンプルを用いることで、脳内Aβ濃度及びCSF中Aβ濃度を推定できることが分かる。以上より、画像診断又は髄液検査をすることなく、血液検査によって、脳内のAβ量を推定することが可能となる。
【0066】
また、
図8の血漿の結果をみると、グループ3からグループ4にかけてAβ濃度変化が見えるのに対して、本発明の結果である
図5ではグループ2からグループ3にかけて変化が見えている。このことにより、同じ血液サンプルを測定する場合でも、指標(C/A)を用いることにより、より鋭敏に脳内Aβ濃度及びCSF中のAβ濃度を推定することができる。
【0067】
従って、グループ2からグループ3にかけての変化が、指標(C/A)で推定することができる。よって、本発明は、アルツハイマー病等の、Aβに関連する病的状態の早期診断、治療効果のモニター、又は、スクリーニングにおいて有用な判断材料を提供することができる。
【0068】
以上の実施例1で説明したように本発明を用いると、従来の血液検査で用いていた指標と比較して、より早期において、信頼性の高い診断判定を極めて簡便に行うことができる。
【0069】
本発明は、ヒト患者において、アルツハイマー病等の、Aβに関連する病的状態の早期診断、治療効果のモニター、又は、スクリーニングにおいて有用な判断材料を提供することができる。本実施例1では、血液検体を液性サンプルとして用いたが、その他の体液や生体組織の懸濁液を用いることもできる。これにより、ヒト患者への負担を最小限に抑え、しかも低リスクで被験者内Aβ量を判定することができる。
【0070】
本発明の方法は、アミロイド形成のほか、複合体形成の程度を知ることが必要な疾患の診断又はモニターを補助するための方法として応用可能である。
【0071】
Aβに関連する病的状態を診断するにあたっては、本発明の方法により得られた結果を他の臨床的徴候と合わせて考慮することができる。従って、本発明は、PETやMRIといったリスクを伴う診断を行う前のスクリーニングとして有用である。