【実施例】
【0037】
[第1実施例]
(実施例1)
上記発明を実施するための最良の形態で示した電池を用いた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A1と称する。
【0038】
(実施例2)
正極の作製において、懸濁液を吸引濾過し、更に水洗して得られた粉末の熱処理温度を300℃としたこと以外は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。このように300℃で熱処理すると、全部或いは大部分の水酸化エルビウムがオキシ水酸化エルビウムに変化するので、コバルト酸リチウム粒子の表面上にオキシ水酸化エルビウムが分散した状態で固着される。但し、一部は水酸化エルビウムの状態で残存する(オキシ水酸化エルビウムに変化しない)場合があるので、コバルト酸リチウム粒子の表面上には水酸化エルビウムが存在している場合もある。尚、全部或いは大部分はオキシ水酸化エルビウムに変化していることを考慮して、コバルト酸リチウム粒子の表面上に分散した状態で固着される化合物として、オキシ水酸化エルビウムと記載することがある。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A2と称する。
【0039】
(比較例1)
硝酸エルビウム5水和物に代えて、オキシ硝酸ジルコニウム2水和物を2.06g用いたこと以外は実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理温度は120℃とし、また、コバルト酸リチウムに対するジルコニウムの量は0.07質量%であった。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z1と称する。
【0040】
(比較例2)
正極活物質として、コバルト酸リチウムの表面に水酸化エルビウム粒子が固着されていないものを用いた以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z2と称する。
【0041】
(実験)
上記の本発明電池A1、A2及び比較電池Z1、Z2について、下記の条件にて充放電サイクルを行って充放電サイクル特性(サイクル寿命、及び、充放電サイクル前後での電池厚み増加量)を調べたので、それらの結果を表1に示す。
【0042】
〔実施温度〕
25℃及び45℃
〔充放電条件〕
・1サイクル目の充電条件
50mAの電流で4時間定電流充電を行った後、200mAの電流で電池電圧が4.20Vとなるまで定電流充電を行い、更に、4.20Vの電圧で電流値が50mAとなるまで定電圧充電を行った。
・1サイクル目の放電条件
200mAの電流で電池電圧が2.75Vとなるまで定電流放電を行った。
【0043】
・2サイクル目〜500サイクル目の充電条件
1000mAの電流で電池電圧が4.20Vとなるまで定電流充電を行い、更に、4.20Vの電圧で電流値が50mAとなるまで定電圧充電を行った。
・2サイクル目〜500サイクル目の放電条件
1000mAの電流で電池電圧が2.75Vとなるまで定電流放電を行った。
【0044】
〔サイクル寿命の測定〕
下記(1)式で示す容量維持率が60%になった時点で充放電サイクルを終了し、充放電を終了時点でのサイクル数をサイクル寿命とした。
(nサイクル目の放電容量Q2/2サイクル目の放電容量Q1)×100・・・(1)
【0045】
〔電池厚みの測定〕
図3に示すように、電池11の最大面積の2つの面を2つの平板12で挟んだ。この2つの平板12間の距離(電池厚み)を1サイクル目の放電後と充放電サイクル試験後に測定した。1サイクル目の放電後の電池厚みをL1(以下、単に、電池厚みL1という)とし、充放電サイクル試験後の電池厚みをL2(以下、単に、電池厚みL2という)とした。そして、これらの厚みから、下記(2)式に示す電池厚み増加量を算出した。
電池厚み増加量=電池厚みL2−電池厚みL1・・・(2)
【0046】
【表1】
【0047】
表1から明らかなように、コバルト酸リチウム粒子(リチウム遷移金属複合酸化物粒子)表面に水酸化エルビウムを固着させた本発明電池A1、及び、コバルト酸リチウム粒子表面にオキシ水酸化エルビウムを固着させた本発明電池A2は、コバルト酸リチウム粒子表面に水酸化ジルコニウムを固着させた比較電池Z1や、コバルト酸リチウム粒子表面に何も固着させていない比較電池Z2に比べ、サイクル寿命が長く、且つ充放電サイクル試験後の電池厚み増加が抑えられていることが認められる。そして、この効果は、充放電サイクル試験時の温度がより高い45℃で顕著である。
【0048】
これは、本発明電池A1、A2では、コバルト酸リチウム粒子表面に水酸化エルビウムもしくはオキシ水酸化エルビウムの粒子が固着していることにより、充放電時にケイ素負極活物質粒子表面内に存在する高活性の新生面上で生じる非水電解質の還元分解生成物が、正極に拡散、泳動し、コバルト酸リチウムと接触した際でも、コバルト酸リチウム表面で還元分解生成物が酸化分解されるのが大幅に抑制される。このため、正極活物質粒子表面と電解液の界面との間での充放電反応抵抗を増加させる要因となる酸化分解生成物の堆積による充放電特性の低下や、酸化分解生成物の一種であるガス発生による電池厚みの増加が抑制される。尚、この非水電解質の還元分解物の正極での更なる酸化分解反応は、高温にて促進されるものであるので、水酸化エルビウム粒子等を固着したことによる効果は、充放電サイクル試験時の温度が25℃より45℃のときに、より大きく発現したものと考えられる。
【0049】
これに対し、比較電池Z1では、コバルト酸リチウム粒子表面に固着させているものが水酸化ジルコニウム粒子である(希土類の水酸化物粒子ではない)ため、希土類の水酸化物粒子である水酸化エルビウム粒子に比べて非水電解質の還元分解物の正極での更なる酸化分解反応の発生を抑制する効果が小さい。また、比較電池Z2では、リチウム遷移金属酸化物粒子表面には何も固着されていないため、酸化分解反応の抑制効果が全く得られなかったものと考えられる。
【0050】
[第2実施例]
(実施例)
〔正極の作製〕
先ず、LiOHとニッケルを金属元素の主成分とする複合水酸化物〔Ni
0.80Co
0.17Al
0.03(OH)
2〕を、Liと遷移金属全体とのモル比が1.05:1となるようにして石川式らいかい乳鉢にて混合した後、酸素雰囲気中にて720℃で20時間熱処理し、さらに粉砕することによりLi
1.05Ni
0.80Co
0.17Al
0.03O
2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(平均粒子径15μm)を得た。次に、このリチウム遷移金属複合酸化物の表面に、前記第1実施例の実施例2と同様にして、オキシ水酸化エルビウムを固着させた。
【0051】
次いで、上記オキシ水酸化エルビウムが表面に固着された正極活物質粉末を用いて、前記第1実施例の実施例2と同様に正極合剤スラリーを調製した後、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み15μm、長さ339mm、幅50mm)の両面に正極合剤スラリーを塗布し(塗布部の長さは、表面側で277mm、裏面側で208mm、塗布部の幅は共に50mm)、乾燥した後、圧延することにより正極を作製した。尚、両面に正極活物質層が形成されている部分において、正極集電体上の正極活物質層の量及び正極の厚みは、各々、37mg/cm
2、104μmであった。また、正極の端部にある正極活物質層の未塗布部分には、正極集電タブとしてアルミニウム板を接続した。
【0052】
〔負極の作製〕
長さ317mm、幅52mmに切り出したこと以外は、前記第1実施例の実施例2と同様に負極を作製した。
【0053】
〔非水電解液の調整〕
フルオロエチレンカーボネート(FEC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを、体積比20:80で混合した溶媒に対し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1モル/リットル溶解させた後、この溶液に対して、0.4質量%の二酸化炭素ガスを溶存させ、非水電解液を調製した。
【0054】
〔電極体の作製〕
ポリエチレン製微多孔膜の長さ380mmにした以外は、前記第1実施例の実施例2と同様に扁平型の電極体を作製した。
【0055】
〔電池の作製〕
前記第1実施例の実施例2と同様にして、扁平型のリチウム二次電池を作製した。尚、当該二次電池を4.2Vまで充電した場合の設計容量は800mAhである。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A3と称する。
【0056】
(比較例)
正極活物質として、Li
1.05Ni
0.80Co
0.17Al
0.03O
2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の表面にオキシ水酸化エルビウム粒子が固着されていないものを用いた以外は、上記実施例と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z3と称する。
【0057】
(実験)
上記の本発明電池A3及び比較電池Z3について、下記条件で充放電を行い(初期充放電を行った後に、高温連続充電を行なう)、高温連続充電前後における電池厚み増加量を調べたので、その結果を下記表2に示す。
【0058】
〔初期充放電条件〕
・温度
25℃(室温)
・充電条件
800mAの電流で電池電圧4.20Vまで定電流充電した後、4.20Vの電圧で電流値が40mAになるまで定電圧充電するという条件。
・放電条件
上記条件で初期充電した各リチウム二次電池を5分間休止させた後、800mAの定電流で電池電圧2.50Vになるまで放電するという条件。
【0059】
〔高温連続充電時の充電〕
・温度
60℃(各電池を恒温槽内に配置)
・充電条件
800mAの電流で電池電圧4.20Vまで定電流充電した後、4.20Vの電圧を維持した状態で50時間充電するという条件。
そして、上記高温連続充電前後に各電池厚みを測定して、各電池の厚み増加量を求めた。尚、測定方法は、上記第1実施例の実験で示した方法と同様の方法である。
【0060】
【表2】
【0061】
表2から明らかなように、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面にオキシ水酸化エルビウムが固着した本発明電池A3は、表面に何も固着させていない比較電池Z3に比べ、電池厚みの増加が抑制されていることが認められる。これは前記第1実施例の実験に述べた理由と同様に、本発明電池A3では高活性の負極新生面で生じる非水電解質の還元分解生成物が、正極に拡散、泳動し、リチウム遷移金属複合酸化物と接触した際に、還元分解生成物が酸化分解されるのが大幅に抑制され、これにより、酸化分解生成物の一種であるガス発生が抑えられる。これに対して、比較電池Z3では、正極活物質粒子の表面に何も固着されていないため、酸化分解反応の抑制効果が全く得られず、多量のガス発生が生じることによるものと考えられる。したがって、リチウム遷移金属複合酸化物としては、コバルト酸リチウムの他に、ニッケルやアルミニウム等の遷移金属を含んでいるものでも本発明を適用できることがわかる。
【0062】
但し、第1実施例の実験結果と比較して、比較電池Z3のみならず、本発明電池A3であっても、電池膨れの絶対量は大きくなっていることが認められる。これは、電解液にFECを含み且つ負極にケイ素を用いた場合においては、上記実験条件は極めて過酷であるということに起因して、電解液中のFECが負極表面で分解し、これによりガスが発生したことに起因するものと考えられる。
但し、本発明電池A3では、上述の如く、正極活物質の表面における還元分解生成物の酸化分解反応は大幅に抑制されるので、過酷な条件下であっても、比較電池Z3よりも膨れが抑制されている。また、本発明電池A3及び比較電池Z3と異なり、電解液中のFECが負極表面で分解、ガス発生しない場合においても、正極表面での酸化分解反応の抑制効果が同様に発揮されることを、後述の第2参考例において実証した。
【0063】
(その他の事項)
(1)リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に固着させる化合物としては、上記水酸化エルビウムや上記オキシ水酸化エルビウムに限定されるものではなく、イッテルビウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、ツリウム、ルテチウム、ネオジム、サマリウム、プラセオジム、ユーロピウム、ガドリニウム、ランタン、及びイットリウム等の希土類の水酸化物やオキシ水酸化物を用いた場合にも同様の効果が得られる。この場合の正極活物質の製造方法は上記実施例1又は実施例2と略同様であり(例えば、イットリウムの水酸化物を得るには、リチウム遷移金属複合酸化物粒子を分散させた溶液に、エルビウム塩に代えてイットリウム塩の溶液を加える他は実施例1と同様の方法で良く)、また、希土類のオキシ水酸化物を得るには、上記と同様、塩を変更する他に、後述の如く熱処理温度を変更すれば良い。
【0064】
次に、希土類の水酸化物が析出された正極活物質を熱処理する場合の熱処理温度について説明する。
・水酸化エルビウム
水酸化エルビウムの場合、水酸化エルビウムが分解されてオキシ水酸化エルビウムに変化する温度が約230℃であり、このオキシ水酸化エルビウムがさらに分解されて酸化エルビウムに変化する温度が約440℃である。そして、水酸化エルビウムが析出された正極活物質粒子を熱処理する温度が440℃以上になると、水酸化エルビウムが酸化エルビウムに変化すると共に、エルビウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散する。このような構成になると、正極活物質と非水電解液との反応を十分に抑制することが困難になると共に、正極活物質の充放電特性が大きく低下する。
このため、水酸化エルビウムが析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を440℃未満に規制することが好ましい。
【0065】
・水酸化イッテルビウム
水酸化イッテルビウムの場合、熱処理温度を1分間に5℃上昇させて熱重量分析を行った結果、約230℃と約400℃とにおいて重量変化の変極点が認められ、約500℃では重量の変化が小さくなって安定した。これは、約230℃の温度で水酸化イッテルビウムが分解されてオキシ水酸化イッテルビウムに変化し始め、さらに約400℃温度ではこのオキシ水酸化イッテルビウムがさらに分解されて酸化イッテルビウムに変化し始め、約500℃の温度では水酸化イッテルビウムが酸化イッテルビウムに変化したためと考えられる。
したがって、水酸化イッテルビウムが析出された正極活物質を熱処理する温度が400℃以上になると、オキシ水酸化イッテルビウムが酸化イッテルビウムに変化し始め、500℃以上にすると、水酸化イッテルビウムが酸化イッテルビウムに変化すると共に、イッテルビウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散する。この場合、正極活物質と非水電解液との反応を十分に抑制することが困難になると共に、正極活物質の充放電特性が大きく低下する。
このため、水酸化イッテルビウムが析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を500℃未満、好ましくは400℃未満に規制することが好ましい。
【0066】
・水酸化テルビウム
水酸化テルビウムの場合、水酸化テルビウムが分解されてオキシ水酸化テルビウムに変化する温度が約295℃であり、このオキシ水酸化テルビウムが更に分解されて酸化テルビウムに変化する温度が約395℃である。
そして、水酸化テルビウムが析出された正極活物質を熱処理する温度が395℃以上になると、水酸化テルビウムが酸化テルビウムに変化すると共に、テルビウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散する。この場合、正極活物質と非水電解液とが反応するのを十分に抑制することが困難になると共に、正極活物質の充放電特性が大きく低下する。
このため、水酸化テルビウムが析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を395℃未満に規制することが好ましい。
【0067】
・水酸化ジスプロシウム
水酸化ジスプロシウムの場合、水酸化ジスプロシウムが分解されてオキシ水酸化ジスプロシウムに変化する温度が約275℃であり、オキシ水酸化ジスプロシウムがさらに分解されて酸化ジスプロシウムに変化する温度が約450℃である。
そして、水酸化ジスプロシウムが析出された正極活物質を熱処理する温度が450℃以上になると、水酸化ジスプロシウムが酸化ジスプロシウムに変化すると共に、ジスプロシウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散する。この場合、正極活物質と非水電解液との反応を十分に抑制することが困難になると共に、正極活物質の充放電特性が大きく低下する。
このため、水酸化ジスプロシウムが析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を450℃未満に規制することが好ましい。
【0068】
・水酸化ホルミウム
水酸化ホルミウムの場合、水酸化ホルミウムが分解されてオキシ水酸化ホルミウムに変化する温度が約265℃であり、このオキシ水酸化ホルミウムがさらに分解されて酸化ホルミウムに変化する温度が約445℃である。
そして、水酸化ホルミウムが析出された正極活物質を熱処理する温度が445℃以上になると、水酸化ホルミウムが酸化ホルミウムに変化すると共に、ホルミウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散する。この場合、正極活物質と非水電解液との反応を十分に抑制することが困難になると共に、正極活物質の充放電特性が大きく低下する。
このため、水酸化ホルミウムが析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を445℃未満に規制することが好ましい。
【0069】
・水酸化ツリウム
水酸化ツリウムの場合、水酸化ツリウムが分解されてオキシ水酸化ツリウムに変化する温度が約250℃であり、このオキシ水酸化ツリウムがさらに分解されて酸化ツリウムに変化する温度が約405℃である。
そして、水酸化ツリウムが析出された正極活物質を熱処理する温度が405℃以上になると、水酸化ツリウムが酸化ツリウムに変化すると共に、ツリウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散する。この場合、正極活物質と非水電解液との反応を十分に抑制することが困難になると共に、正極活物質の充放電特性が大きく低下する。
このため、水酸化ツリウムが析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を405℃未満に規制することが好ましい。
【0070】
・水酸化ルテチウム
水酸化ルテチウムの場合、熱重量分析を行った結果、水酸化ルテチウムが分解されてオキシ水酸化ルテチウムになる温度が約280℃であり、このオキシ水酸化ルテチウムがさらに分解されて酸化ルテチウムに変化する温度が約405℃であった。
そして、水酸化ルテチウムが析出された正極活物質を熱処理する温度が405℃以上になると、水酸化ルテチウムが酸化ルテチウムに変化すると共に、ルテチウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散する。この場合、正極活物質と非水電解液との反応を十分に抑制することが困難になると共に、正極活物質の充放電特性が大きく低下する。
このため、水酸化ルテチウムが析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を405℃未満に規制することが好ましい。
【0071】
・水酸化ネオジム
水酸化ネオジムの場合、水酸化ネオジムは335℃〜350℃の温度でオキシ水酸化ネオジウムに変化し、440℃〜485℃の温度で酸化ネオジムに変化する。
そして、水酸化ネオジムが表面に析出された正極活物質を熱処理する温度が440℃以上になると、水酸化ネオジムが酸化ネオジムに変化すると共に、ネオジムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散することがある。この場合、酸化ネオジムでは、水酸化ネオジムやオキシ水酸化ネオジムの場合と同様の効果を得ることができず、正極活物質の特性が低下し、充放電効率などの特性が低下する。
このため、水酸化ネオジムが表面に析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を440℃未満に規制することが好ましい。
【0072】
・水酸化サマリウム
水酸化サマリウムの場合、水酸化サマリウムは290℃〜330℃の温度でオキシ水酸化サマリウムに変化し、430℃〜480℃の温度で酸化サマリウムに変化する。
そして、水酸化サマリウムが表面に析出された正極活物質を熱処理する温度が430℃以上になると、水酸化サマリウムが酸化サマリウムに変化すると共に、サマリウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散することがある。この場合、酸化サマリウムでは、水酸化サマリウムやオキシ水酸化サマリウムの場合と同様の効果を得ることができず、正極活物質の特性が低下し、充放電効率などの特性が低下する。
このため、水酸化サマリウムが表面に析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を430℃未満に規制することが好ましい。
【0073】
・水酸化プラセオジム
水酸化プラセオジムの場合、正極活物質粒子の表面に水酸化プラセオジムを析出させた後において、水分除去を兼ねて熱処理することが好ましい。ここで、表面に水酸化プラセオジムが析出された正極活物質を熱処理するにあたり、熱処理する温度が約310℃以上になると、水酸化プラセオジムが酸化物に変化して、水酸化プラセオジムと同様の効果が得られない。
このため、水酸化プラセオジムが表面に析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を310℃未満に規制することが好ましい。
【0074】
・水酸化ユーロピウム
水酸化ユーロピウムの場合、水酸化ユーロピウムは約305℃の温度でオキシ水酸化ユーロピウムに変化し、約470℃の温度で酸化ユーロピウムに変化する。
そして、水酸化ユーロピウムが表面に析出された正極活物質を熱処理する温度が470℃以上になると、水酸化ユーロピウムが酸化ユーロピウムに変化すると共に、ユーロピウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散する。この場合、酸化ユーロピウムでは、水酸化ユーロピウムやオキシ水酸化ユーロピウムの場合と同様の効果を得ることができず、正極活物質の特性が低下し、充放電効率などの特性が低下する。
このため、水酸化ユーロピウムが表面に析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を470℃未満に規制することが好ましい。
【0075】
・水酸化ガドリニウム
水酸化ガドリニウムの場合、水酸化ガドリニウムは218℃〜270℃の温度でオキシ水酸化ガドリニウムに変化し、420℃〜500℃の温度で酸化ガドリニウムに変化する。
そして、水酸ガドリニウムが表面に析出された正極活物質を熱処理する場合において、熱処理する温度が420℃以上になると、水酸化ガドリニウムが酸化ガドリニウムに変化すると共に、ガドリニウムが正極活物質粒子の内部に拡散することがある。この場合、酸化ガドリニウムでは、水酸化ガドリニウムやオキシ水酸化ガドリニウムの場合と同様の効果を得ることができず、正極活物質の特性が低下し、充放電効率などの特性が低下する。
このため、水酸化ガドリニウムが表面に析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を420℃未満に規制することが好ましい。
【0076】
・水酸化ランタン
水酸化ランタンの場合、水酸化ランタンは310℃〜365℃の温度でオキシ水酸化ランタンに変化し、460℃〜510℃の温度でオキシ水酸化ランタンが酸化ランタンに変化する。
そして、水酸化ランタンが表面に析出された正極活物質を熱処理する温度が600℃以上になると、水酸化ランタンが酸化ランタンに変化して、水酸化ランタンやオキシ水酸化ランタンの場合と同様の効果を得ることができなくなると共に、ランタンがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散されて正極活物質の特性が低下し、充放電効率などの特性が低下する。
このため、水酸化ランタンが表面に析出された正極活物質を熱処理する場合には、熱処理温度を460℃未満に規制することが好ましい。
【0077】
・水酸化イットリウム
水酸化イットリウムの場合、水酸化イットリウムは約260℃の温度でオキシ水酸化イットリウムに変化し、約450℃の温度で酸化イットリウムに変化する。そして、水酸化イットリウムが表面に析出された正極活物質を熱処理する温度が450℃以上になると、水酸化イットリウムが酸化イットリウムに変化して、水酸化イットリウムやオキシ水酸化イットリウムの場合と同様の効果を得ることができなくなると共に、イットリウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散されて正極活物質の特性が低下し、充放電効率などの特性が低下する。
このため、水酸化イットリウムが表面に析出された正極活物質を熱処理する場合、熱処理温度を450℃未満にすることが好ましい。
ここで、理解の容易のために、上記希土類の水酸化物が希土類のオキシ水酸化物に変化する温度、及び、希土類の酸化物に変化する温度について、下記表3に記載しておく。
【0078】
【表3】
【0079】
尚、上述の化合物の他に、スカンジウムの水酸化物やオキシ水酸化物を用いても良い。
【0080】
(2)リチウム遷移金属複合酸化物の表面に固着している水酸化エルビウム、オキシ水酸化エルビウムの固着量は、上述した量(エルビウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.07質量%)に限定するものではないが、エルビウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して、0.005〜0.5質量%の範囲、特に、0.01〜0.3質量%の範囲であることが好ましい。これは、水酸化エルビウム等の固着量が0.005質量%未満の場合、水酸化エルビウム等の量が少な過ぎるため、正極での非水電解質の還元分解物の酸化分解を抑制する効果が十分に得られない一方、水酸化エルビウム等の固着量が0.5質量%を超える場合、充放電反応に寄与しない粒子の量が多過ぎるため、正極活物質粒子間の電子伝導性が低下し、充放電特性が低下するからである。
尚、このことは、エルビウム化合物以外の上述した化合物を用いる場合も同様であり、また、下記(3)〜(5)に記載の事項についてもエルビウム化合物以外の上述した化合物に適用される。
【0081】
(3)リチウム遷移金属複合酸化物粒子を分散させた溶液のpHは上述した値(pH=9)に限定するものではないが、6以上とする必要がある。当該pHが6未満になると、上記エルビウム塩(硝酸エルビウム5水和物)が、水酸化エルビウムに変化しないためである。特に、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に微細な水酸化物を、適切に分散させた状態で析出させるためには、好ましくはリチウム遷移金属複合酸化物を分散させた溶液のpHは6〜13、特に7〜10の範囲に規制するのが望ましい。
【0082】
(4)リチウム遷移金属複合酸化物に水酸化エルビウム等を固着する方法としては、上述した湿式法に限定するものではなく、乾式法(固体状態の水酸化エルビウムとリチウム遷移金属複合酸化物とを物理的に混合させて、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に水酸化エルビウムを固着させる方法)であっても良い。但し、湿式法は乾式法に比べて、水酸化エルビウム粒子の微粒子がリチウム遷移金属複合酸化物の表面に均一に分散した状態で固着しており、このため、その後の熱処理により水酸化エルビウム粒子から生成するオキシ水酸化エルビウム粒子も微粒子で分散して固着した状態となる。よって、湿式法は乾式法に比べて、非水電解質やその還元分解物の酸化分解反応の抑制効果がリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面において均一に発現できるので、湿式法を用いるのが好ましい。
【0083】
(5)本発明の効果は、非水電解質の溶媒成分としてフルオロエチレンカーボネートを含む系において特に大きい効果が得られる。これは、以下に示す理由による。
ケイ素を負極活物質として用いた電池では、充放電時のケイ素の大きな体積変化に起因した割れの発生によるケイ素粒子表面での劣化を抑制すべく、非水電解質の溶媒成分としてフルオロエチレンカーボネートを用いることがある。しかし、当該フルオロエチレンカーボネートは、電子吸引性の高いフッ素原子を含むため還元分解性が高い。還元性の高いケイ素負極活物質表面上では、フルオロエチレンカーボネートの還元分解反応が多く生じる。この還元分解反応により生じるフッ化リチウムはケイ素負極表面上に生成し、ケイ素負極の劣化を抑制する効果を発現するが、残りの還元分解生成物の中の一部は正極に拡散,泳動し、正極活物質表面上でさらに酸化分解される。この酸化分解生成物は、他の非水電解質成分の還元分解物の正極での酸化分解生成物と同様、リチウム遷移金属複合酸化物粒子表面での堆積による充放電反応抵抗の増加や、酸化分解生成物の一部であるガスの発生による電池厚みの増加を引き起こす。
【0084】
しかしながら、上記実施例に示したように、リチウム遷移金属複合酸化物(コバルト酸リチウム)粒子の表面に水酸化エルビウム、オキシ水酸化エルビウムから選ばれた少なくも1種の粒子が固着していることにより、他の非水電解質成分の還元分解物と同様に、フルオロエチレンカーボネートの還元分解物のリチウム遷移金属複合酸化物粒子表面での酸化分解反応も抑制されることになる。この結果、正極での酸化分解生成物による充放電特性の低下といったフルオロエチレンカーボネートの添加デメリットを抑制しつつ、ケイ素負極活物質の劣化の抑制といったフルオロエチレンカーボネートの添加メリットを有効に引き出すことが可能となる。このことは、上記第2実施例より明らかである。
【0085】
[第1参考例]
(下記実験に関し、前提となる事項)
上述の如く、正極活物質粒子の表面に固着させる物質としては、上記水酸化エルビウムや上記オキシ水酸化エルビウムに限定されるものではなく、エルビウム以外の希土類の水酸化物やオキシ水酸化物であっても良いが、これを実証すべく、以下の実験を行った。
ここで、本参考例では、正極活物質粒子の表面に固着させる希土類の水酸化物、オキシ水酸化物として、上記実施例で示したオキシ水酸化エルビウムに加えて、水酸化イッテルビウム、オキシ水酸化サマリウム、オキシ水酸化ネオジムを用いて電池を作製し、充放電サイクル特性試験を行った。但し、各参考例では、負極活物質として炭素材料を用いたという点が、負極活物質としてケイ素を用いた上述の各実施例と大きく異なる(尚、正極活物質粒子の種類や非水電解液の種類も上記実施例と若干異なっているが、これらの相違は本質的な相違ではない)。
【0086】
負極活物質として炭素材料を用いた場合には、負極の還元分解生成物が正極側に拡散,泳動することに起因して、正極表面上にて酸化分解反応を生じるという大きな問題は生じないが、高い電圧まで充電した場合には、触媒性を有する遷移金属(例えば、Co,Fe,Ni,Mn等)が存在することに起因して、正極活物質の表面で非水電解液が反応するという問題は生じる。即ち、負極活物質としてケイ素を用いた場合のみならず炭素材料を用いた場合においても、正極表面上で何らかの反応を抑制しなければならず、このために、参考電池に示す如く、希土類の水酸化物、オキシ水酸化物を正極活物質の表面に均一に固着させている。このことを考慮すれば、正極活物質の表面での反応を抑制できる各参考電池の正極の構成を本発明にも適用すると(実施例で示した水酸化エルビウムやオキシ水酸化エルビウムのみならず、水酸化イッテルビウム等をリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に均一に固着させた場合であっても)、本発明の作用効果を発揮できるものと考える。このことを前提として、以下に実験を行った。
【0087】
(参考例1)
正極の作製、負極の作製、及び電解液の調製を、下記のようにして行った以外は、上記実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、当該二次電池を4.40Vまで充電した場合の設計容量は780mAhである。
このようにして作製した電池を、以下、参考電池B1と称する。
【0088】
〔正極の作製〕
(1)湿式法による水酸化エルビウムコート
リチウム遷移金属複合酸化物粒子として、MgとAlとがそれぞれ0.5モル%固溶されたコバルト酸リチウムを用い、このコバルト酸リチウム粒子1000gを3リットルの純水中に投入し、これを撹拌しながら、5.79gの硝酸エルビウム5水和物を200mlの純水に溶解させた硝酸エルビウム水溶液を添加した。このとき、この溶液のpHが9になるように10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適宜加えて、コバルト酸リチウム粒子の表面に水酸化エルビウムを固着させた。そして、これを吸引濾過して処理物を濾取し、この処理物を120℃で乾燥させて、水酸化エルビウムが表面に固着されたコバルト酸リチウム粒子を得た。
【0089】
次いで、水酸化エルビウムが表面に固着されたコバルト酸リチウム粒子を空気雰囲気中において300℃の温度で5時間熱処理した。これにより、コバルト酸リチウム粒子の表面に、エルビウム化合物(主としてオキシ水酸化エルビウムから成るが、水酸化エルビウムがオキシ水酸化エルビウムに変化せず水酸化エルビウムとして残存している場合もある)の粒子が固着された正極活物質を得た。
ここで、エルビウム化合物の固着量は、エルビウム元素換算で、コバルト酸リチウムに対して0.22質量%であった。また、当該正極活物質をSEMにより観察したところ、コバルト酸リチウム粒子の表面に固着されたエルビウム化合物の粒子の粒径は、その殆どが100nm以下であり、しかも、エルビウム化合物の粒子がコバルト酸リチウム粒子の表面に分散された状態で固着していた。
【0090】
次に、この正極活物質と、導電剤のアセチレンブラックと、結着剤のポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、混合撹拌装置(特殊機化社製:コンビミックス)により混合攪拌させて正極合剤スラリーを調製した。このとき、正極活物質と導電剤と結着剤とを95:2.5:2.5の質量比にした。そして、この正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布した後、これを乾燥させ、更に圧延ローラにより圧延させて、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を得た。尚、この正極における正極活物質の充填密度は3.60g/cm
3であった。
【0091】
〔負極の作製〕
負極活物質としての人造黒鉛と、CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)と、結着剤のSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを98:1:1の質量比で水溶液中において混合し、負極合剤スラリーを調製した。そして、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布し、これを乾燥させ、圧延ローラにより圧延させて、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を得た。尚、この負極における負極活物質の充填密度は1.75g/cm
3であった。
【0092】
〔非水電解液の作製〕
非水系溶媒のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを3:7の体積比で混合した混合溶媒に、溶質のLiPF
6を1.0モル/リットルの濃度になるように溶解させて、非水電解液を作製した。
【0093】
(参考例2)
上記硝酸エルビウムに代えて、5.24gの硝酸イッテルビウム3水和物を用いたこと以外は、上記参考例1と同様にして電池を作製した。この電池の正極活物質では、コバルト酸リチウム粒子の表面に、イッテルビウム化合物(主としてオキシ水酸化イッテルビウムから成るが、水酸化イッテルビウムがオキシ水酸化イッテルビウムに変化せず水酸化イッテルビウムとして残存している場合もある)の粒子が固着された構造となっている。また、上記イッテルビウム化合物の固着量は、イッテルビウム元素(Yb)換算で、コバルト酸リチウムに対して0.22質量%であった。
このようにして作製した電池を、以下、参考電池B2と称する。
【0094】
(参考例3)
リチウム遷移金属複合酸化物粒子として、MgとAlとがそれぞれ0.5モル%、Zrが0.1モル%固溶されたコバルト酸リチウムを用い、硝酸エルビウム5水和物に代えて、硝酸サマリウム6水和物5.35gを用い、且つ、熱処理温度を400℃としたこと以外は、上記参考例1と同様にして電池を作製した。この電池の正極活物質では、コバルト酸リチウム粒子の表面に、サマリウム化合物(主としてオキシ水酸化サマリウムから成るが、水酸化サマリウムがオキシ水酸化サマリウムに変化せず水酸化サマリウムとして残存している場合もある)の粒子が固着された構造となっている。また、上記サマリウム化合物の固着量は、サマリウム元素(Sm)換算で、コバルト酸リチウムに対して0.18質量%であった。
このようにして作製した電池を、以下、参考電池B3と称する。
【0095】
(参考例4)
リチウム遷移金属複合酸化物として、MgとAlとがそれぞれ0.5モル%、Zrが0.1モル%固溶されたコバルト酸リチウムを用い、硝酸エルビウム5水和物に代えて硝酸ネオジム6水和物5.47gを用い、熱処理温度を400℃としたこと以外は、上記参考例1と同様にして電池を作製した。この電池の正極活物質では、コバルト酸リチウム粒子の表面に、ネオジム化合物(主としてオキシ水酸化ネオジムから成るが、水酸化ネオジムがオキシ水酸化ネオジムに変化せず水酸化ネオジムとして残存している場合もある)の粒子が固着された構造となっている。また、上記ネオジム化合物の固着量は、ネオジム元素(Nd)換算で、コバルト酸リチウムに対して0.18質量%であった。
このようにして作製した電池を、以下、参考電池B4と称する。
【0096】
(比較参考例1)
コバルト酸リチウム粒子の表面にエルビウム化合物を固着させなかったこと以外は、上記参考例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較参考電池Y1と称する。
【0097】
(比較参考例2)
硝酸エルビウム5水和物の代わりに硝酸アルミニウム9水和物30.9gを用い、且つ、熱処理温度を120℃としたこと以外は、参考例1と同様にして電池を作製した。この電池の正極活物質では、コバルト酸リチウム粒子の表面に、水酸化アルミニウムの粒子が固着された構造となっている。また、上記水酸化アルミニウムの固着量は、アルミニウム元素(Al)換算で、コバルト酸リチウムに対して0.22質量%であった。
このようにして作製した電池を、以下、比較参考電池Y2と称する。
【0098】
(比較参考例3)
硝酸エルビウム5水和物の代わりに硝酸アルミニウム9水和物30.9gを用い、且つ、熱処理温度を500℃としたこと以外は、参考例1と同様にして電池を作製した。この電池の正極活物質では、コバルト酸リチウム粒子の表面に、酸化アルミニウムの粒子が固着された構造となっている。また、上記酸化アルミニウムの固着量は、アルミニウム元素(Al)換算で、コバルト酸リチウムに対して0.22質量%であった。
このようにして作製した電池を、以下、比較参考電池Y3と称する。
【0099】
(比較参考例4)
熱処理温度を500℃としたこと以外は、参考例1と同様にして電池を作製した。この電池の正極活物質では、コバルト酸リチウム粒子の表面に、酸化エルビウムの粒子が固着された構造となっている。また、上記酸化エルビウムの固着量は、エルビウム元素(Er)換算で、コバルト酸リチウムに対して0.22質量%であった。
このようにして作製した電池を、以下、比較参考電池Y4と称する。
【0100】
(比較参考例5)
コバルト酸リチウム粒子の表面にサマリウム化合物を固着させなかったこと以外は、上記参考例3と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較参考電池Y5と称する。
【0101】
(実験)
次に、参考電池B1〜B4及び比較参考電池Y1〜Y5を、下記条件で充放電を行い、高温連続充電試験後の残存容量率と電池厚み増加量とを調べたので、その結果を下記表4に示す。
〔初期充放電〕
・温度
25℃(室温)
・充電条件
750mAの電流で電池電圧4.40V(リチウム金属基準4.50V)まで定電流充電した後、4.40Vの電圧で電流値が37.5mAになるまで定電圧充電するという条件。
・放電条件
上記条件で初期充電した各リチウム二次電池を10分間休止した後、750mAの定電流で電池電圧2.75Vになるまで放電するという条件。そして、この放電時における放電容量を測定し、これを初期放電容量Q3とした。
【0102】
〔高温連続充電時の充電〕
・温度
60℃(各電池を恒温槽内に配置)
・充電条件
750mAの電流で電池電圧4.40Vまで定電流充電した後、4.40Vの電圧を維持した状態で充電するという条件。
・充電時間
参考電池B1、B2及び比較参考電池Y1〜Y4については3日間。
参考電池B3、B4及び比較参考電池Y5については75時間。
そして、上記高温連続充電終了前後に各電池厚みを測定して、各電池の厚み増加量を求めた。尚、測定方法は、上記実施例に実験で示した方法と同様の方法である。
【0103】
〔高温連続充電後の放電〕
・温度
25℃(室温)
・放電条件
上記条件で初期充電した各リチウム二次電池を10分間休止した後、750mAの定電流で電池電圧2.75Vになるまで放電するという条件。そして、この放電時における放電容量を測定し、これを高温連続充電試験後の放電容量Q4とした。
そして、上記初期放電容量Q3と高温連続充電試験後の放電容量Q4とから、下記(3)式に示す高温連続充電試験後の残存容量率(%)を求めた。
高温連続充電試験後の残存容量率(%)=(Q4/Q3)×100…(3)
【0104】
【表4】
【0105】
上記表4から明らかなように、コバルト酸リチウム粒子の表面にエルビウムの化合物(主として、オキシ水酸化エルビウム)が固着している参考電池B1のみならず、コバルト酸リチウム粒子の表面にイッテルビウムの化合物(主として、オキシ水酸化イッテルビウム)が固着している参考電池B2でも、コバルト酸リチウム粒子の表面にアルミニウムの水酸化物や酸化物が固着している比較参考電池Y2、Y3、コバルト酸リチウム粒子の表面にエルビウムの化合物(主として、酸化エルビウム)が固着している比較参考電池Y4、及びコバルト酸リチウム粒子の表面に化合物が存在しない比較参考電池Y1と比べて高温連続充電後の残存容量が高く、電池の厚み増加も抑制されていることが認められる。また、コバルト酸リチウム粒子の表面にサマリウムやネオジムの化合物(主として、各々、オキシ水酸化サマリウム、オキシ水酸化ネオジム)が固着している参考電池B3、B4も、コバルト酸リチウム粒子の表面に化合物が存在しない比較参考電池Y5と比較すると、高温連続充電後の残存容量が高く、電池の厚み増加も抑制されていることが認められる。この理由につき以下に述べる。
【0106】
リチウム二次電池を高い電圧(例えば、上記実験の如く4.40V)まで充電した場合、正極活物質の酸化力が強くなる。また、正極活物質が触媒性を有する遷移金属(例えば、Co、Fe、Ni、Mn等)を有している場合、この触媒性を有する遷移金属により、正極活物質の表面において非水電解液や負極で生成した分解生成物が反応して正極とさらに反応し、この結果、リチウム二次電池における充放電サイクル特性や保存特性や連続充電後の特性が大きく低下し、電池内部にガスが発生して電池が膨化する。特に、高温環境下においては、リチウム二次電池の劣化が極めて大きい。
【0107】
そこで、参考電池B1〜B4の如く、希土類の水酸化物やオキシ水酸化物をリチウム遷移金属複合酸化物の表面に均一に分散して固着させると、遷移金属の触媒性を抑制することができる。これは、単に上記の化合物の粒子によって非水電解液とリチウム遷移金属複合酸化物との接触が少なくなるだけではなく、リチウム遷移金属複合酸化物に含まれる触媒性を有するニッケルやコバルトからなる遷移金属によって電解液が分解する反応の活性化エネルギーが高くなり、非水電解液が正極活物質の表面において反応して分解するのが抑制されるためと考えられる。
【0108】
これに対して、比較参考電池Y1、Y5の如くリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に化合物が存在しないときには上記作用効果は発揮されない。また、比較参考電池Y2、Y3の如くリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面にアルミニウムの水酸化物や酸化物が固着している場合には、充放電に関与しないアルミニウム化合物の粒子をリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に固着させることにより、非水電解液とリチウム遷移金属複合酸化物粒子との接触が抑制されるが、リチウム遷移金属複合酸化物に含まれる触媒性を有するニッケルやコバルトからなる遷移金属によって電解液が分解する反応の活性化エネルギーが高くなるという作用は発揮されない。このため、正極活物質の表面における非水電解液の分解を十分に抑制できない。更に、比較参考電池Y4の如くリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に酸化エルビウムが固着している場合には、一部のエルビウムがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の内部に拡散する。このため、正極活物質の表面における非水電解液の分解を十分に抑制できないものと考えられる。
【0109】
上述の如く、エルビウムのオキシ水酸化物が固着している参考電池B1のみならず、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面にイッテルビウム、サマリウム、ネオジムのオキシ水酸化物等が固着している参考電池B2〜B4でも、電池特性が向上している。したがって、これらの化合物をリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に形成した正極を用いる一方、ケイ素を負極に用いた場合にも、充放電サイクル特性等の電池特性を向上できるものと考えられる。
【0110】
尚、上記第1参考例では、エルビウム、イッテルビウム、サマリウム、及びネオジムの水酸化物やオキシ水酸化物について実験したが、これ以外の希土類(但し、セリウムとプロメチウムとは除く)の水酸化物やオキシ水酸化物についても同様の効果があることについて、実験により確認している。
【0111】
[第2参考例]
(下記実験に関し、前提となる事項)
電解液にFECを含み且つ負極にケイ素を用いた場合には、電解液中のFECが負極表面で分解し、これによりガスが発生するため正極表面での酸化分解反応の抑制効果が見えづらい。正極表面での酸化分解反応の抑制効果を明確にするため、下記の実験を行った。
(参考例)
上記第1参考例の参考例1に示す電解液(ECとDECとの混合溶媒)と負極(炭素負極)とを使用した以外は、前記第2実施例の実施例と同様にして電池を作製した。
このように作製した電池を、以下、参考電池B5と称する。
【0112】
(比較参考例)
正極活物質として、リチウム遷移金属複合酸化物の表面にオキシ水酸化エルビウム粒子を固着しなかったものを用いた以外は、上記参考例と同様にして電池を作製した。
このように作製した電池を、以下、比較参考電池Y6と称する。
【0113】
(実験)
上記参考電池B5及び比較参考電池Y6について、下記条件で充放電を行い、充電保存後の残存容量率と電池厚み増加量とを調べたので、その結果を下記表5に示す。
【0114】
〔初期充放電〕
・温度
25℃(室温)
・充電条件
800mAの電流で電池電圧4.20Vまで定電流充電した後、4.20Vの電圧で電流値が40mAになるまで定電圧充電するという条件。
・放電条件
上記条件で初期充電した各リチウム二次電池を5分間休止した後、800mAの定電流で電池電圧2.50Vになるまで放電するという条件。そして、この放電時における放電容量を測定し、これを初期放電容量Q5とした。
【0115】
〔充電保存試験〕
・温度
85℃(各電池を恒温槽内に配置)
・充電条件
800mAの電流で電池電圧4.20Vまで定電流充電した後、4.20Vの電圧を維持した状態で電流値が40mAになるまで定電圧充電するという条件。
・保存時間
3時間
そして、上記、充電保存前後に各電池厚みを測定して、各電池の厚み増加量を求めた。尚、厚みの測定方法は、前記第1実施例の実験で示した方法と同様の方法である。
・放電条件
800mAの定電流で電池電圧2.5Vになるまで放電するという条件。そして、この放電時における放電容量を測定し、これを放電容量Q6とした。
そして、上記初期放電容量Q5と充電保存後の放電容量Q6とから、下記(4)式に示す充電保存試験後の残存容量率(%)を求めた。
充電保存試験後の残存容量率(%)=(Q6/Q5)×100・・・(4)
【0116】
【表5】
【0117】
表5から明らかなように、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面にオキシ水酸化エルビウムを固着させた参考電池B5は、表面に何も固着させていない比較参考電池Y6に比べ、残存容量率が高く、電池厚みの増加も抑制されていることが認められる。これは、上記第1実施例の実験で示した理由と同様の理由によるものと考えられる。
また、参考電池B5と比較参考電池Y6とを比較した場合と同様に、本発明電池A3と比較電池Z3の比較でも電池厚みの増加が抑制されていることから、本発明電池A3と比較電池Z3の電池厚み増加の差は正極表面に固着させたオキシ水酸化エルビウムが酸化分解反応を抑制したためであると考えられる。したがって、参考電池B5と比較参考電池Y6のように負極が黒鉛の場合に酸化分解反応が抑制することができる正極であれば、本発明電池A3と比較電池Z3のように電解液にFECを含み、負極にSiを用いた場合においても同様にその効果が発現するものと考えられる。
【0118】
[第3参考例]
(下記実験に関し、前提となる事項)
リチウム遷移金属複合酸化物として、LiCoO
2及びLi
1.05Ni
0.80Co
0.17Al
0.03O
2以外のものを用いた場合にも、同様の効果を発揮するか否かについて調べた。
(参考例)
リチウム遷移金属複合酸化物として、下記の製造方法により作製したLiMn
0.33Ni
0.33Co
0.34O
2を用いたこと以外は、上記第2参考例の参考例と同様に電池を作製した。
LiOHとMn
0.33Ni
0.33Co
0.34(OH)
2で表される共沈水酸化物とを、Liと遷移金属全体とのモル比が1:1となるようにして、石川式らいかい乳鉢にて混合した後、空気雰囲気中にて1000℃で20時間熱処理し、さらに粉砕することによりLiMn
0.33Ni
0.33Co
0.34O
2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(平均粒子径13μm)を得た。
このように作製した電池を、以下、参考電池B6と称する。
【0119】
(比較参考例)
正極活物質として、リチウム遷移金属複合酸化物の表面へのオキシ水酸化エルビウム粒子の固着を行わなかったものを用いた以外は、上記参考例と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較参考電池Y7と称する。
【0120】
[実験]
上記の参考電池B6及び比較参考電池Y7について、下記条件で充放電を行い、充電保存後の残存容量率と電池厚み増加量とを調べたので、その結果を下記表6に示す。
【0121】
〔初期充放電〕
・温度
25℃(室温)
・充電条件
750mAの電流で電池電圧4.40Vまで定電流充電した後、4.40Vの電圧で電流値が37.5mAになるまで定電圧充電するという条件。
・放電条件
上記条件で初期充電した各リチウム二次電池を10分間休止した後、750mAの定電流で電池電圧2.75Vになるまで放電するという条件。そして、この放電時における放電容量を測定し、これを初期放電容量Q5とした。
【0122】
〔充電保存試験〕
・温度
60℃(各電池を恒温槽内に配置)。
・充電条件
750mAの電流で電池電圧4.40Vまで定電流充電した後、4.40Vの電圧を維持した状態で電流値が37.5mAになるまで定電圧充電するという条件。
・保存時間
9日間。
そして、充電保存前・後に各電池厚みを測定して、各電池の厚み増加量を求めた。尚、厚みの測定方法は、前記第1実施例の実験で示した方法と同様の方法である。
・放電条件
800mAの定電流で電池電圧2.5Vになるまで放電するという条件。そして、この放電時における放電容量を測定し、これを充電保存後の放電容量Q6とした。
そして、上記(4)式より充電保存試験後の残存容量率(%)を求めた。
【0123】
【表6】
【0124】
表6から明らかなように、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面にオキシ水酸化エルビウムを固着させた参考電池B6は、表面に何も固着させていない比較参考電池Y7に比べ、残存容量率が高く、電池厚みの増加も抑制されていることが認められる。これは、上記第1参考例の実験で示した理由と同様の理由によるものと考えられる。
【0125】
上述のように、Coを多く含む正極(第1実施例、第1参考例)だけでなく、Niを多く含む正極(第2実施例、第2参考例)や、NiとCoとMnとがほぼ均等に含まれる正極(第3参考例)でも、電解液の分解が抑制されており、更に、負極で生成した分解生成物が正極で反応することも抑制されている。即ち、表面に固着した希土類元素の水酸化物やオキシ水酸化物により、上述した遷移金属やその他の遷移金属(例えば、Fe等)の触媒性を抑制することができるので、本発明の反応抑制効果が確実に発現される。