特許第5747458号(P5747458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747458
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】地盤変位吸収免震構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/08 20060101AFI20150625BHJP
   E02D 27/34 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   E02D31/08
   E02D27/34 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-173015(P2010-173015)
(22)【出願日】2010年7月30日
(65)【公開番号】特開2012-31662(P2012-31662A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2013年1月31日
【審判番号】不服2014-10846(P2014-10846/J1)
【審判請求日】2014年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】張 至鎬
(72)【発明者】
【氏名】福武 毅芳
(72)【発明者】
【氏名】石井 卓
(72)【発明者】
【氏名】木全 宏之
(72)【発明者】
【氏名】西村 晋一
【合議体】
【審判長】 中川 真一
【審判官】 竹村 真一郎
【審判官】 住田 秀弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−233121(JP,A)
【文献】 特開2007−332553(JP,A)
【文献】 特開平8−177389(JP,A)
【文献】 特開2006−45835(JP,A)
【文献】 特開2007−332553(JP,A)
【文献】 特開2006−112182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D27/34
E02D31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周辺地盤と地中構造物との間に吸水膨潤性を有する粘土系材料からなる連続した壁状の地中免震壁設置され
該地中免震壁の壁幅は、0.2〜2.5mであり、
前記地中免震壁は、前記地中構造物の両側に配置され、地震時の地盤変形を吸収して前記地中構造物への作用力を緩和することを特徴とする地盤変位吸収免震構造。
【請求項2】
周辺地盤と地中構造物との間に吸水膨潤性を有する粘土系材料からなる連続した壁状の地中免震壁設置され
前記周辺地盤と前記地中免震壁の粘土系材料のせん断波速度比は、0.6以下であり、
前記地中免震壁は、前記地中構造物の両側に配置され、地震時の地盤変形を吸収して前記地中構造物への作用力を緩和することを特徴とする地盤変位吸収免震構造。
【請求項3】
周辺地盤と地中構造物との間に吸水膨潤性を有する粘土系材料からなる連続した壁状の地中免震壁が設置され、
該地中免震壁の壁幅は、0.2〜2.5mであり、
前記周辺地盤と前記地中免震壁の粘土系材料のせん断波速度比は、0.6以下であり、
前記地中免震壁は、前記地中構造物の両側に配置され、地震時の地盤変形を吸収して前記地中構造物への作用力を緩和することを特徴とする地盤変位吸収免震構造。
【請求項4】
前記粘土系材料は、ベントナイトと水の混合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤変位吸収免震構造。
【請求項5】
前記粘性土系材料におけるベントナイトと水の混合物からなる材料で満たされている領域は、ベントナイト有効乾燥密度で300〜1200kg/mであることを特徴とする請求項に記載の地盤変位吸収免震構造。
【請求項6】
前記粘土系材料は、ベントナイトと骨材と水との混合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤変位吸収免震構造。
【請求項7】
前記粘性土系材料におけるベントナイトと骨材と水の混合物からなる材料において、ベントナイトと水で満たされている領域は、ベントナイト有効乾燥密度で300〜1200kg/mであることを特徴とする請求項に記載の地盤変位吸収免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時の開削トンネルなどの地中構造物への応力低減を図るための地盤変位吸収免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、開削トンネルなどの地中構造物への地震時の応力低減を目的とした地中免震壁として、地中構造物に接する形で延長方向に連続的に設置することが一般的であり、この設置位置であれば、地中構造物の建設時に同時に構築することができる。このような地震時の地中構造物への応力低減を目的とする地中免震壁として、ポリマー改良土を打設した地盤変位吸収工法が例えば特許文献1に提案されている。
【0003】
一方、開削トンネルなどの地中構造物に対する地中免震壁として、地中構造物の延長方向に連続的に設置しない構造のものが例えば非特許文献1に開示されている。この非特許文献1では、地中に鉛直円柱状のポリマー改良土を地中構造物に沿って飛び飛びに断続的に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−112182号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】室野剛隆、館山勝、桐生郷史、小林正介著、「ポリマー免震壁による既設開削トンネルの補強」、基礎工、2007.3、P69−71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の地中免震壁では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1で開示されるようなポリマー改良土を打設する工法では、常時の土圧などの影響によりポリマー免震材が大きく圧縮変形する。そのため、施工時に設定した所定の地中免震壁の壁厚は、初期の壁厚を長期的に保持できず、場合によっては免震壁が潰れてしまう懸念があった。このような免震壁厚の変化は、ポリマー材免震壁の変位吸収性能が低下して地中免震壁による地盤変位吸収効果が十分に発揮されず、地震時の地中構造物の応力低減効果が低下するという問題があった。
【0007】
この対応として、地中免震壁を開削トンネルなどの地中構造物に沿って連続的に配置することを避け断続的な配置とした非特許文献1が検討される。しかし、連続して配置されない地中免震壁では、周辺地盤と構造物とが土で繋がっているため、本来の目的である変位を十分に吸収するという免震効果が著しく低下するという欠点があった。
また、ポリマー材は、地下水位が存在する地盤においては、ポリマー材が水に溶けてしまうため、施工が容易ではないという問題もあった。さらに、ポリマー免震材には、所定の加強剤を添加しなければならないが、環境上の配慮から高価な加強剤が必要とされ、コストがかかるという問題があった。
【0008】
このように、開削トンネルのような地中構造物に沿って地中免震壁を設ける場合には、地中免震壁に作用する土圧に対して十分に抵抗でき長期的安定性が確保できる材料である一方で、免震効果を発揮するためには、材料の剛性が小さいことが望ましいとされ、この両者がバランスよく設けられる地中免震壁が求められており、その点で改良の余地があった。
【0009】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、地中免震壁の長期安定性を確保できるうえ、地震時の開削トンネルなどの地中構造物への応力低減を図ることができる地盤変位吸収免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る地盤変位吸収免震構造では、周辺地盤と地中構造物との間に吸水膨潤性を有する粘土系材料からなる連続した壁状の地中免震壁設置され、地中免震壁の壁幅は、0.2〜2.5mであり、地中免震壁は、地中構造物の両側に配置され、地震時の地盤変形を吸収して地中構造物への作用力を緩和することを特徴としている。
【0011】
本発明では、地中免震壁が吸水膨潤性を有する粘土系材料から構成され、その材料の吸水膨潤性より土圧に対して反発して膨張するので、材料の周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗でき、地中免震壁の壁幅を一定に保つことができ、長期安定性を確保できるとともに、材料密度変化の安定性に優れる。
そして、粘土系材料は周囲の地盤に比べて剛性を小さく設定することができるので、地震時の地盤の変形を緩和することで、免震効果を発揮することができる。
【0012】
また、本発明では、地中免震壁の壁幅が0.2〜2.5mの範囲であれば、せん断力低減率(地中免震壁を設けた場合の地中構造物に生じるせん断力を地中免震壁が無い場合の地中構造物に生じるせん断力で除した値)が1より小さくなり、地中構造物に生じるせん断力を低減する効果がある。これは、鉛直円柱状のポリマー改良土を地中に飛び飛びに配置して施工した場合の従来のポリマー工法よりも対策範囲(地中免震壁を配置する平面領域)が小さくなることから、大きな低減効果を得ることができ、コストダンウンを図ることも可能となる。
【0013】
また、本発明に係る地盤変位吸収免震構造では、周辺地盤と地中構造物との間に吸水膨潤性を有する粘土系材料からなる連続した壁状の地中免震壁設置され、周辺地盤と地中免震壁の粘土系材料のせん断波速度比は、0.6以下であり、地中免震壁は、地中構造物の両側に配置され、地震時の地盤変形を吸収して地中構造物への作用力を緩和することを特徴としている。
この場合、周辺地盤よりも著しくせん断剛性が小さく、柔らかい部材を用いる必要がないので、材料の設計が容易になるという利点がある。
また、本発明に係る地盤変位吸収免震構造では、周辺地盤と地中構造物との間に吸水膨潤性を有する粘土系材料からなる連続した壁状の地中免震壁が設置され、該地中免震壁の壁幅は、0.2〜2.5mであり、前記周辺地盤と前記地中免震壁の粘土系材料のせん断波速度比は、0.6以下であり、前記地中免震壁は、前記地中構造物の両側に配置され、地震時の地盤変形を吸収して前記地中構造物への作用力を緩和することを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る地盤変位吸収免震構造では、粘土系材料は、ベントナイトと水の混合物であることが好ましい。
また、本発明に係る地盤変位吸収免震構造では、粘土系材料は、ベントナイトと骨材と水との混合物であってもよい。
本発明では、ベントナイトの吸水膨張特性を十分に活用することから、地下水位が高い地盤環境下においても施工が容易である。そして、地下水位が低くても地盤が乾燥していなければ、ベントナイトは自らの吸水膨潤性を発揮して構築時に保水した水を保持し続けるので、乾燥によって剛性が変化することはなく、地下水位が低くても機能が失われることはない。また、ベントナイトは吸水膨張する特性を有しており、ひび割れや何らかの損傷が生じたとしても、地下水が浸透してくる条件下ではその損傷を自己修復することができ、連続体としての特長を保護しつつ周囲の地盤からの土圧によって地中免震壁の壁幅が減少することがない利点がある。
【0015】
また、本発明に係る地盤変位吸収免震構造では、粘性土系材料におけるベントナイトと水の混合物からなる材料で満たされている領域は、ベントナイト有効乾燥密度で300〜1200kg/mであることがより好ましい。
また、本発明に係る地盤変位吸収免震構造では、粘性土系材料におけるベントナイトと骨材と水の混合物からなる材料において、ベントナイトと水で満たされている領域は、ベントナイト有効乾燥密度で300〜1200kg/mであることがより好ましい。
本発明では、吸水膨潤圧が0.03〜0.3MPaとなるため、地盤の水中質量を約1g/cmと仮定して、側方土圧が土被り圧の1倍とすると、深さ30mまでの土圧に耐えることができる。また、地中免震壁の設置する深さに応じて、材料のベントナイト有効乾燥密度を適宜調整して構築することでより効果的な地中免震壁を設けることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の地盤変位吸収免震構造によれば、地中免震壁を構成する粘土系材料が吸水膨潤性を有し、周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗でき、地中免震壁の壁幅を一定に保つことができることから、長期安定性を確保できる。そのうえ、地震時の開削トンネルなどの地中構造物への応力低減を図ることができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態による地盤変位吸収免震構造の地中免震壁の一例を模式的に示した概略斜視図である。
図2】ベントナイト有効乾燥密度と膨潤圧の関係を示す図である。
図3】ベントナイト配合による混合物の三軸試験結果を示す図である。
図4】動的三軸圧縮試験装置で求めたベントナイト繰返し非線形特性(応力−ひずみ関係)を示す図である。
図5】実施例による地中免震壁の解析モデルを示す図である。
図6】実施例による解析結果を示す図であって、地中免震壁の壁幅とせん断力低減率の関係を示す図である。
図7】実施例による解析結果を示す図であって、地盤のせん断波速度比とせん断力低減率の関係を示す図である。
図8】実施例による解析結果を示す図であって、地中構造物からの距離とせん断力低減率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態による地盤変位吸収免震構造について、図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態による地盤変位吸収免震構造1は、開削トンネルなどの地中構造物2に作用する地震時の応力を低減するためのものである。地中構造物2は、ボックスカルバートなどの鉄筋コンクリート製の構造物であり、上層地盤3Aに埋設された状態で所定方向(図1に示す矢印X方向)に延びて構築されている。地中構造物2が埋設される上層地盤3Aは、弾性波速度Vsが例えば100〜200m/sの軟弱地盤であり、弾性波速度Vsが例えば300〜500m/sの下層地盤3B上に存在している。
【0020】
地中構造物2と周辺地盤の上層地盤3Aとの間には、吸水膨潤性を有する粘土系材料からなる連続した壁状の地中免震壁4が設置されている。地中免震壁4は、所定の壁幅D(図1参照)を有し、地中構造物2の左右両側に接した状態で配置され、地中構造物2の延長方向に連続する壁状態である。この地中免震壁4は、上層地盤3A内に配置されており、地表部分から地中構造物2の下端と略同じ深さまで設けられている。なお、地中免震壁4は、延設される地中構造物2の全長にわたって設けられることに限定されず、延長方向で部分的に設けられていてもよい。
【0021】
地中免震壁4を構成する粘土系材料として、ベントナイトと水の混合物(以下、「第1混合物」という)、或いはベントナイトと骨材と水との混合物(以下、「第2混合物」という)が用いられる。
そして、第1混合物からなる材料で満たされている領域は、ベントナイト有効乾燥密度で300〜1200kg/mである。また、第2混合物からなる材料において、ベントナイトと水で満たされている領域は、ベントナイト有効乾燥密度(ベントナイトと骨材を混合した材料の場合で、骨材間隙を満たしているベントナイト部分の密度を乾燥密度で示した値)で300〜1200kg/mである。なお、第2混合物の骨材とは、砂や砂礫などの土質材料、或いはガラスビーズなどの長期変質しにくい人工材料を採用することができる。
なお、上述した第1混合物で骨材が入っていない材料の場合は、ベントナイト密度のみなのでベントナイト乾燥密度であるが、ここでは「ベントナイト有効乾燥密度」として以下統一して用いる。
【0022】
また、地中免震壁4の壁幅Dは、0.2〜2.5mであることが好ましく、より好ましくは0.25〜1.0mとされる。なお、施工的に地中免震壁4の壁幅Dは、一般的な施工装置の使用が可能なため0.5〜1.0mが良い。
このような粘土系材料は、地震時に繰り返し応力がかかると、履歴減衰によって地震エネルギーを吸収して塑性変形し、地震が終わると元に戻る特性を有している。
【0023】
次に、上述した地盤変位吸収免震構造1の作用について詳細に説明する。
図1に示すように、本地盤変位吸収免震構造1では、地中免震壁4として選定した粘性土系材料を用いれば、連続した壁状にできることから、地中構造物4への応力低減効果を大きくすることができる。そして、粘土系材料は周囲の上層地盤3Aに比べて0.6倍以下の剛性とすることで、地中構造物2のせん断力低減効果が得られ、地震時の地盤の変形を緩和することができ、免震効果を発揮することができる。
【0024】
また、地中免震壁4の粘土系材料がベントナイトと水の第1混合物、或いはベントナイトと骨材と水の第2混合物である場合には、ベントナイト有効乾燥密度を調整することにより、所定の膨潤圧を発揮することができるため、周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗する反力を確保することができる。
【0025】
そして、第1混合物の場合において、ベントナイトと水で満たされている領域がベントナイト有効乾燥密度の値で300〜1200kg/mの範囲であるので、この密度範囲であれば、図2に示すように吸水膨潤圧が0.03〜0.3MPaとなる。そのため、地盤(上層地盤3A)の水中質量を約1g/cmと仮定して、側方土圧が土被り圧の1倍とすると、深さ30mまでの土圧に耐えることができる。地中免震壁4の設置する深さに応じて、材料の密度を適宜調整して構築することでより効果的にできる。
ここで、図2は、非特許文献2(「締固めたベントナイト試料の膨潤圧測定方法に関する検討」、第40回地盤工学研究発表会、2005年7月、2574頁)に記載されている。なお、非特許文献2の「有効ベントナイト乾燥密度」は、「ベントナイト有効乾燥密度」と同じである。
【0026】
また、ベントナイトのせん断剛性も同様にベントナイト有効乾燥密度によって異なる特性を有している。これは、骨材体積が材料中に占める割合が5割以下である場合には、骨材粒子相互が接触して相互に応力を伝達する粒子構造とはならずに、骨材と骨材との間にベントナイトゲル(ベントナイトと水の混合物)が介在しているので、材料のせん断特性はベントナイトゲルの特性によって主として決まるからである。
したがって、ベントナイト有効乾燥密度を調整することにより、当接材料のせん断剛性を周囲の地盤より小さくすることができ、地震時の繰り返し変形により地盤変形を吸収し、躯体への悪影響を軽減して、外力を吸収する効果が期待できる。
【0027】
また、ベントナイトの吸水膨張特性を十分に活用することを特徴としているため、地下水位が高い地盤環境下においても施工が容易である。つまり、周囲の地盤が完全に乾燥していない湿潤状態であれば、ベントナイトの保水能力が維持されるので、壁幅Dと材料密度を長期間維持することができる。
さらに、地中免震壁4として、無機系の天然鉱物である粘性土系材料を用いるので、周囲への環境上の影響を懸念する必要がない。
【0028】
図3に示すように、地中免震壁4の材料は、豊浦砂の結果と比較し、剛性はかなり小さいことがわかる。
図4に示す非線形特性は、図3で示したベントナイト配合3(ρd=0.7Mg/m)の材料における動的三軸圧縮試験装置で求めた応力−ひずみ関係を示しており、地震時(繰り返しせん断時)にはヒステリシスを描くので、エネルギー吸収による履歴減衰材料(ダンパー材料)として適している。この履歴減衰効果は、ベントナイトに砂を混入することで、大きくすることができる。
したがって、拘束圧依存性は、地盤材料ほど大きくなく、ベントナイト有効乾燥密度を適宜調整することができる。
【0029】
このように本地盤変位吸収免震構造1では、ベントナイトの吸水膨張特性を十分に活用することから、地下水位が高い環境下においても施工が容易である。なお、地下水位が低くても地盤が乾燥していなければ、ベントナイトは自らの吸水膨潤性を発揮して構築時に保水した水を保持し続けるので、乾燥によって剛性が変化することはなく、地下水位が低くても機能が失われることはない。
【0030】
また、ベントナイトは吸水膨張する特性を有しており、ひび割れや何らかの損傷が生じたとしても、地下水が浸透してくる条件下ではその損傷を自己修復することができる。つまり、周囲の地盤からの土圧によって地中免震壁4の壁幅が減少することがない利点がある。
さらに、地中免震壁4を構成する粘土系材料は天然の無機質鉱物材料であるから変質がなく、保水状態も変化し難いのでメンテンスが不要になるという効果を奏する。
【0031】
また、地中免震壁4の壁幅Dが0.2〜2.5mの範囲であれば、せん断力低減率(地中免震壁4を設けた場合の地中構造物2に生じるせん断力を地中免震壁4が無い場合の地中構造物に生じるせん断力で除した値)が1より小さくなり、地中構造物2のせん断力を低減する効果がある。これは、鉛直円柱状のポリマー改良土を地中に飛び飛びに配置して施工した場合の従来のポリマー工法よりも対策範囲(地中免震壁4を配置する平面領域)が小さくなることから、大きな低減効果を得ることができ、コストダンウンを図ることも可能となる。
【0032】
そして、新規に地中構造物2を構築する際に、それに接するようにして地中免震壁4を構築しているが、このような場合に地中構造物2の周囲に必要な構築空間を小さくすることができる。
また、既設の地中構造物の近傍の地中に対して、後で地中免震壁4を構築する場合も想定されるが、地中免震壁4の壁幅Dが小さくても効果があることから、隣接した地中構造物が存在する狭隘な場所や狭い敷地の中で地中構造物の外側に、既設構造物の免震対策として設置することも可能である。
さらに、耐震基準を満足しない地中構造物2に対する耐震補強工事においても、本地盤変位吸収免震構造1を用いることにより、既存構造物では耐震補強し難いとされている地中構造物2の補強に有効に活用できる。
【0033】
上述のように本実施の形態による地盤変位吸収免震構造では、地中免震壁4を構成する粘土系材料が吸水膨潤性を有し、周囲の地盤から受ける常時の土圧に抵抗でき、地中免震壁4の壁幅Dを一定に保つことができることから、長期安定性を確保できる。
そのうえ、地震時の開削トンネルなどの地中構造物2への応力低減を図ることができる効果を奏する。
【0034】
[実施例]
次に、上述した実施の形態による地盤変位吸収免震構造の効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0035】
本実施例では、地中免震壁4の効果を実証するため、図5に示すようにボックスカルバートからなる地中構造物2を対象にして動的シミュレーションによる検討解析を行い、下記条件を変えてその効果を比較した。ここで、図5は、本検討解析に用いたモデルを示している。
地中免震壁4の壁幅Dを0〜5mとし、上層地盤3Aと地中免震壁4とのせん断剛性の違いを弾性波速度Vs比で0.1〜0.6とし、地中構造物2と地中免震壁4との離間を0〜2mとした。
【0036】
入力地震波として「東海・東南海地震同時発生予想地震」を用い、検討解析から得られた結果を図6乃至図8に示す。
図6は、吸水膨潤性を有する粘土系材料で構成された地中免震壁4の壁幅とせん断力低減率(地中免震壁を設けた場合の地中構造物に生じるせん断力を地中免震壁が無い場合の地中構造物に生じるせん断力で除した値)との関係を示し、免震効果の指標としている。
【0037】
図6に示すように、せん断力低減率は、その値が1.0より小さい場合に効果がある。
そのため、地中免震壁4の壁幅は、好ましくは0.2〜2.5mの範囲であれば地中構造物2のせん断力を低減する効果がある。また、0.2mの地中免震壁4においても、略20%程度のせん断力低減効果があり、鉛直円柱状のポリマー改良土を地中に飛び飛びに配置して施工した場合の従来のポリマー工法よりも小さい対策範囲でより大きい低減効果を得ることができる。
ここで、地中免震壁4の壁幅が大きくなり過ぎると、せん断力低減率が1より大きくなり、地中構造物2のせん断力を低減する効果がなくなる(逆効果になる)。これは、地中免震壁4と地中構造物2の躯体自体とが独立して揺れ始め、地中構造物2自体の揺れの慣性力を抑制できなくなるためと考えられる。
【0038】
続いて、図7は、周辺地盤と地中免震壁の粘土系材料のせん断波速度Vsの比が異なる場合について、せん断力低減率を動的シミュレーションによって試算した結果であり、地中免震壁の壁幅を0.5mと1.0mの2ケースとした。
本解析結果では、0.6以下のせん断波速度比において、地中構造物2の応力低減効果が得られている。すなわち、周囲の地盤よりも著しく柔らかい(小さいせん断剛性の)材料を使う必要はないことが確認でき、これにより材料の設計がし難いことがない。
【0039】
図8は、免震壁の設置位置に関する解析結果を示しており、地中構造物2と接している条件、すなわち地中構造物2との離間距離が0の場合で略40%のせん断力低減効果があるが、1m離れたケースにおいても10%程度の低減効果が得られることが確認できた。
【0040】
このような解析結果から、開削トンネル、ボックスカルバートなどの地中構造物の地震時の応力低減に寄与することが実証され、従来のポリマー工法よりも小さい対策範囲で同等以上の応力低減効果を発揮することから、既設構造物への適用性はより大きいことがいえる。
【0041】
以上、本発明による地盤変位吸収免震構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 地盤変位吸収免震構造
2 地中構造物
3A 上層地盤
3B 下層地盤
4 地中免震壁
D 地中免震壁の壁幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8