特許第5747475号(P5747475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5747475青色遮蔽黒色粉末とその製造方法および用途
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  • 特許5747475-青色遮蔽黒色粉末とその製造方法および用途 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747475
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】青色遮蔽黒色粉末とその製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20150625BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20150625BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20150625BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20150625BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C01G31/00
   C01G33/00 A
   C09D17/00
   C09D7/12
   C09C3/06
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-244399(P2010-244399)
(22)【出願日】2010年10月29日
(65)【公開番号】特開2012-96945(P2012-96945A)
(43)【公開日】2012年5月24日
【審査請求日】2013年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】影山 謙介
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 雅也
【審査官】 武重 竜男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−206891(JP,A)
【文献】 特開平07−326308(JP,A)
【文献】 特開昭63−045106(JP,A)
【文献】 特開昭61−201610(JP,A)
【文献】 Hak Soo KIM et al.,Catalytic activity of niobium oxynitride and carbide I. Preparation, characterization and thermal stability of finely divided niobium oxynitrides,Appl. Catal. A Gen,1994年11月24日,Vol.119, No.2,p.223-240
【文献】 Weibing HU et al.,Synthesis of Nb3.49N4.56O0.44 nanoplatelets and NbS2-Nb2O5 nanoflakes,Mater. Chem. Phys.,2009年 2月15日,Vol.113, No.2-3,p.511-514
【文献】 Kohta YAMADA et al.,Synthesis and Crystal Structure of a New Niobium Oxynitride, Nb2N0.88O0.12,J. Solid State Chem.,2000年 2月15日,Vol.150, No.1,p.36-42
【文献】 藤元高佳他,アンモニア窒化法による岩塩型窒化ニオブおよび酸窒化ニオブの合成と超伝導特性,日本化学会中国四国・同九州支部合同大会講演要旨集,日本,2001年10月27日,Vol.2001,p.90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G1/00−99/00
C09C1/00− 3/12
C09D15/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸窒化バナジウムまたは酸窒化ニオブからなる黒色粉末であり、酸窒化バナジウムは酸素含有量16wt%以下および窒素含有量10wt%以上であって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下であり、酸窒化ニオブはシリカまたはアルミナがコーティングされていて酸素含有量8.5〜9.3wt%および窒素含有量10〜12wt%であって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが8.2〜8.4%であることを特徴とする青色遮蔽黒色粉末。
【請求項2】
酸窒化バナジウムはシリカまたはアルミナがコーティングされていて酸素含有量12〜16wt%および窒素含有量13〜14wt%であって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが8.3〜8.9%である請求項1に記載する青色遮蔽黒色粉末。
【請求項3】
450nmの透過率Xと550nmの透過率Yの比(X/Y)が2.0以下であり、および/または450nmの透過率Xと650nmの透過率Zの比(X/Z)が1.5以下である請求項1または請求項2に記載する青色遮蔽黒色粉末。
【請求項4】
黒色度のL値が16.5以下であり、比表面積が10m/g以上である請求項1〜請求項3の何れかに記載する青色遮蔽黒色粉末。
【請求項5】
バナジウムまたはニオブの金属酸化物または金属水酸化物を、バナジウムについては酸素含有量16wt%以下および窒素含有量10wt%以上になるように800℃まで昇温してアンモニアガスを用いて還元処理することによって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下になるようにし、ニオブについてはシリカまたはアルミナをコーティングした後に酸素含有量8.5〜9.3wt%および窒素含有量10〜12wt%になるように800℃まで昇温してアンモニアガスを用いて還元処理することによって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが8.2〜8.4%になるようにする青色遮蔽黒色粉末を製造する方法。
【請求項6】
請求項5に記載する製造方法において、バナジウムまたはニオブを含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、またはアンモニウム塩を水で溶解し、酸または塩基によって中和処理した後に乾燥した水酸化物原料を用いる青色遮蔽黒色粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項4の何れかに記載する青色遮蔽黒色粉末を含有する黒色ペースト、黒色塗料、黒色樹脂フィルム、または黒色被膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い黒色度と青色光に対する優れた遮光性を有し、さらに好ましくは高い絶縁性を有する黒色粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
黒色粉末として、カーボンブラック、酸化鉄、低次酸化チタン、酸窒化チタン粉末などが知られている。カーボンブラックは黒色度、着色度とも優れており高い導電性を有しているが、嵩が大きいため取り扱いが難しく、また樹脂との馴染みが良くない。また極微量ではあるが原料起因の発ガン性物質である3,4−ベンズピレンを伴うため、その安全性が問題となっている。
【0003】
酸化鉄は磁性による凝集があり、分散性に劣る。耐熱性も低く、大気中150℃付近で茶色のγ−Fe23に酸化される。低次酸化チタンは二酸化チタン粉末をTi粉末または水素ガスによって1000℃以上の温度で還元して得られる粉末であり、Ti35およびTi23等の多種の構造を持つ低次酸化チタンの混合物である。低次酸化チタンは高温での還元反応を行うために焼結による粒子成長が著しく、顔料用としては不適な粗大粒子(1.0ミクロン以上)となってしまう。
【0004】
特許1758344号公報に記載されている黒色顔料である酸窒化チタン(チタンブラック)は二酸化チタンをアンモニアによって還元して得られる粉末であり、半導電性を示す青みを帯びた特徴のある黒色を示す黒色顔料粉末である。酸窒化チタンは有害物質を含まないため、飲食品用プラスチックス、化粧品の原料として最適である。また近年、黒色顔料を樹脂に分散させ、フォトリソ法などでパターニングすることによって液晶カラーフィルター等画像形成素子のブラックマトリックス(以下樹脂BM)に用いられている。酸窒化チタンは高い隠蔽性や高絶縁性等のブラックマトリックス用黒色顔料としての優れた性質を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許1758344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化チタンを還元処理した低次酸化チタンや酸窒素化チタンは青みを有する黒色あるいは青色を有する粉末であり、可視光の低波長側、具体的には450nm付近の青色波長域における遮蔽性が低く、青色光を十分に遮蔽することが出来ないと云う問題があった。
【0007】
青色光に対する遮蔽性を高めるために、低次酸化チタン粉末や酸窒化チタン粉末にカーボンブラックを混合することも提案されているが、カーボンは導電性があるためにブラックマトリックスとして要求される絶縁性が低下し、またカーボンと混ぜることによって凝集が起こり、均一な色味を出すことが困難になると云う問題を生じる。
【0008】
本発明は、従来用いられているチタン(4A族元素)に代えて、バナジウムおよびニオブ(5族元素)の酸窒化物を検討し、これらの酸窒化物は黒色度が高く、かつ青色光の遮蔽性が従来の酸窒化チタンよりも格段に高いことを見出した。その中でもバナジウム酸窒化物は300nmから800nmの広い波長域において優れた遮蔽性を有することを見出した。本発明は上記知見に基づくものであり、高い黒色度と青色光に対する優れた遮光性を有し、さらに好ましくは高い絶縁性を有する黒色粉末を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の構成からなる青色遮蔽黒色粉末が提供される。
〔1〕酸窒化バナジウムまたは酸窒化ニオブからなる黒色粉末であり、酸窒化バナジウムは酸素含有量16wt%以下および窒素含有量10wt%以上であって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下であり、酸窒化ニオブはシリカまたはアルミナがコーティングされていて酸素含有量8.5〜9.3wt%および窒素含有量10〜12wt%であって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが8.2〜8.4%であることを特徴とする青色遮蔽黒色粉末。
〔2〕酸窒化バナジウムはシリカまたはアルミナがコーティングされていて酸素含有量12〜16wt%および窒素含有量13〜14wt%であって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが8.3〜8.9%である上記[1]に記載する青色遮蔽黒色粉末。
〔3〕450nmの透過率Xと550nmの透過率Yの比(X/Y)が2.0以下であり、および/または450nmの透過率Xと650nmの透過率Zの比(X/Z)が1.5以下である上記[1]または上記[2]に記載する青色遮蔽黒色粉末。
〔4〕黒色度のL値が16.5以下であり、比表面積が10m/g以上である上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する青色遮蔽黒色粉末。
【0010】
本発明によれば、以下の構成からなる青色遮蔽黒色粉末の製造方法および用途が提供される。
〔5〕バナジウムまたはニオブの金属酸化物または金属水酸化物を、バナジウムについては酸素含有量16wt%以下および窒素含有量10wt%以上になるように800℃まで昇温してアンモニアガスを用いて還元処理することによって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下になるようにし、ニオブについてはシリカまたはアルミナをコーティングした後に酸素含有量8.5〜9.3wt%および窒素含有量10〜12wt%になるように800℃まで昇温してアンモニアガスを用いて還元処理することによって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが8.2〜8.4%になるようにする青色遮蔽黒色粉末を製造する方法。
〔6〕上記[5]に記載する製造方法において、バナジウムまたはニオブを含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、またはアンモニウム塩を水で溶解し、酸または塩基によって中和処理した後に乾燥した水酸化物原料を用いる青色遮蔽黒色粉末の製造方法。
〔7〕上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する青色遮蔽黒色粉末を含有する黒色ペースト、黒色塗料、黒色樹脂フィルム、または黒色被膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明の青色遮蔽黒色粉末は青色光に対する遮蔽性に優れており、酸素含有量16wt%以下および窒素含有量10wt%以上であって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下である。従来の酸窒化チタン(チタンブラック)は窒素含有量が20wt%で上記透過率Xが10%程度であるが、本発明の黒色粉末は窒素含有量が10wt%でも上記透過率Xが10%以下の青色光に対する遮蔽性に優れた粉末を得ることができる。
【0012】
本発明の黒色粉末において、酸素含有量が少なく、かつ窒素含有量が多いものは、さらに遮光性に優れている。具体的には、酸素含有量6.5wt%以下であって窒素含有量14wt%以上に調整することによって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nm〜550nmの透過率が7%以下の青色光に対する遮蔽性が格段に優れた粉末を得ることができる。
【0013】
従来のチタンブラックは、波長域450nm〜550nmにおける透過率は概ね9%〜10%であるので、本発明によれば、酸素含有量6.5wt%以下であって窒素含有量14wt%以上に調整することによって、青色光の透過率がチタンブラックの約2/3以下、好ましくは1/2である青色波長域の遮蔽性が格段に高い黒色粉末を得ることができる。
【0014】
本発明の黒色粉末は、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、450nmの透過率Xが10.0%以下であり、450nmの透過率Xと550nmの透過率Yの比(X/Y)が2.0以下、および/または450nmの透過率Xと650nmの透過率Zの比(X/Z)が1.5以下である。
【0015】
従来のチタンブラックは、450nmの透過率Xと550nmの透過率Yの比(X/Y)は概ね2.3以上であり、450nmの透過率Xと650nmの透過率Zの比(X/Z)は6.0以上であるが、本発明の黒色粉末はX/Y比およびX/Z比が格段に小さく、450nm〜650nmの広い波長域において透過率の変化が小さく安定である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1,2と比較例1の透過率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の黒色粉末は、酸窒化バナジウムまたは酸窒化ニオブからなる黒色粉末であり、酸窒化バナジウムは酸素含有量16wt%以下および窒素含有量10wt%以上であって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下であり、酸窒化ニオブはシリカまたはアルミナがコーティングされていて酸素含有量8.5〜9.3wt%および窒素含有量10〜12wt%であって粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが8.2〜8.4%であることを特徴とする青色遮蔽黒色粉末である。
【0018】
バナジウムまたはニオブの酸窒化物〕
本発明の黒色粉末は酸窒化バナジウムまたは酸窒化ニオブからなる黒色粉末である。酸窒化バナジウムまたは酸窒化ニオブは、バナジウムまたはニオブの金属酸化物または金属水酸化物を、高温下でアンモニアガスを用いて還元処理することによって得ることができる。
【0019】
バナジウムの金属酸化物または金属水酸化物を、酸素含有量16wt%以下および窒素含有量10wt%以上になるように800℃まで昇温してアンモニアガスを用いて還元処理することによって、黒色度のL値が16.5以下であって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下の青色遮蔽黒色粉末を製造することができ、また、ニオブの金属酸化物または金属水酸化物をシリカまたはアルミナをコーティングした後に、酸素含有量8.5〜9.3wt%および窒素含有量10〜12wt%になるように800℃まで昇温してアンモニアガスを用いて還元処理することによって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが8.2〜8.4%の青色遮蔽黒色粉末を製造することができる。
【0020】
酸窒化バナジウムまたは酸窒化ニオブにおいて、窒素含有量が10wt%未満であると黒色度が低下する。黒色度はL、a、b表色系のL値であり、L値が小さいほど黒色度が高い。また、酸窒化バナジウムまたは酸窒化ニオブにおいて、窒素含有量が10wt%未満であると450nmの透過率Xが10.0%より高くなる傾向があり、青色光に対する遮蔽性が低下する。
【0021】
本発明の黒色粉末は、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、450nmの透過率Xが10.0%以下であって、450nmの透過率Xと550nmの透過率Yの比(X/Y)が2.0以下であるもの、あるいは450nmの透過率Xと650nmの透過率Zの比(X/Z)が1.5以下であるもの、あるいはX/Y=2.0以下であってX/Z=1.5以下である。
【0022】
X/Y=2.0以下、および/またはX/Z=1.5以下の酸窒化バナジウムまたは酸窒化ニオブは450nm〜650nmの広い波長域において透過率の変化が小さく安定である。
【0023】
本発明の黒色粉末は、好ましくは、黒色度のL値が16.5以下であって、比表面積10m/g以上の粉末である。
【0024】
〔製造方法〕
バナジウムまたはニオブの金属酸化物または金属水酸化物を、バナジウムについては酸素含有量16wt%以下、および窒素含有量10wt%以上(実施例1、2では酸素含有量6.0wt%、6.4wt%、窒素含有量14wt%、19wt%、実施例5、6では酸素含有量12wt%、16wt%、窒素含有量13wt%、14wt%)になるように800℃まで昇温してアンモニアガスを用いて還元処理することにより、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが10.0%以下の酸窒化バナジウムを製造することができ、ニオブについてはシリカまたはアルミナをコーティングした後に、酸素含有量8.5〜9.3wt%および窒素含有量10〜12wt%になるように800℃まで昇温してアンモニアガスを用いて還元処理することによって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて450nmの透過率Xが8.2〜8.4%の酸窒化ニオブを製造することができる。
【0025】
酸化バナジウムや酸化ニオブを原料として用いることができる。また、バナジウムまたはニオブの塩化物、硝酸塩、硫酸塩などを水に溶解した後に、デカンテーションにより不純物を除去し、酸または塩基によって中和処理した後に乾燥して回収した水酸化物を原料に用いてもよい。これらの原料は比表面積10m2/g以上の粉末が好ましい。
【0026】
バナジウムまたはニオブの酸化物または水酸化物を効率よく還元して窒化反応を進めるにはアンモニアガスによる還元が適している。目的の窒素含有量になるように、反応温度、ガス流量を調整し、所定の黒色度になるまで反応を継続する。黒色度は酸素濃度、窒素濃度により確認できる。酸素濃度17%以上、窒素濃度10%未満では還元反応が不十分であり、目標とする遮光性能が得られない。
【0027】
本発明の黒色粉末の絶縁性を向上させるために、シリカ、アルミナ、ジルコニア、イットリアなどをコーティングしても良い。その際、原料粉末にコーティングしてもよいが、還元後の粉末にコーティングを行ってもよい。コーティングは乾式、湿式いずれの方法でも効果がある。
【0028】
本発明の青色遮蔽黒色粉末は、黒色ペースト、黒色塗料、黒色樹脂フィルム、または黒色被膜の黒色顔料として好適である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
L値は規格JISZ8722に従って測定した。
比表面積は規格JISZ8830に従って測定した。
酸素濃度および窒素濃度は不活性ガス雰囲気溶解ガスクロマトグラフ法により測定した。
透過率は規格JISR3106に従って測定した。
【0030】
〔実施例1〜2、比較例1〕
酸化バナジウム粉末(比表面積1〜10m2/g)を、窒素雰囲気下、7℃/minで800℃まで昇温後、アンモニアガスを流し、表1に示す黒色度(L値)、酸素含有量および窒素含有量になるように窒化還元を行った。得られた黒色粉末を循環式横型ビーズミル(メディア:ジルコニア)を使用し、アミン系分散剤を使用しPGM−Ac溶剤中で分散処理を行った後、作製した分散液を10万倍に希釈し(粉末濃度50ppm)、透過率を測定した。測定結果を表1および図1に示した。
【0031】
参考例3〜4、比較例2〜3〕
酸化ニオブ粉末または酸化チタン粉末(比表面積8m/g、9m/g)を用いた以外は実施例1〜2と同様にして、黒色粉末を製造し、該黒色粉末を用いて分散液を調製し、透過率を測定した。測定結果を表1に示した。
【0032】
表1の結果に示すように、実施例1〜2の黒色粉末(酸窒化バナジウム)および参考例3〜4の黒色粉末(酸窒化ニオブ)は、450nm〜500nmにおける透過率が7%以下であって青色光に対する遮光性が高く、また450nm〜650nmの広い波長域における透過率も低く、高い遮光性を有している。具体的には、実施例1〜2、参考例3〜4の黒色粉末は450nmの透過率Xと550nmの透過率Yの比(X/Y)が2.0以下であり、さらに450nmの透過率Xと650nmの透過率Zの比(X/Z)が1.5以下である。
【0033】
一方、窒素含有量が10wt%未満の比較例1および比較例2の黒色粉末は、450nmの透過率が10%より高く、実施例1〜2、実施例の黒色粉末よりも遮光性が低い。また、表1および図1に示すように、従来の酸窒化チタン粉末(比較例3)は550nm〜650nmの透過率は低いが、450nmの透過率が10%であり、青色光に対する遮光性が低い。また、比較例3の黒色粉末はX/Y比が2.0よりも高く、X/Z比が1.5よりも大幅に高い。
【0034】
〔実施例5〜8〕
酸化ニオブ粉末または酸化バナジウム粉末(比表面積1〜10m/g)について、おのおの粉末表面にシリカまたはアルミナをコーティングコーティング量は粉末量の4wt%)した後に、実施例1〜2と同様にして、黒色粉末を製造し、該黒色粉末を用いて分散液を調製し、透過率を測定した。測定結果を表2に示した。
【0035】
表2に示すように、実施例5〜8の黒色粉末は450nmの透過率Xと550nmの透過率Yの比(X/Y)が2.0以下であって、また450nmの透過率Xと650nmの透過率Zの比(X/Z)が1.5以下であり、450nm〜650nmの広い波長域において透過率の変化が小さく、安定である。
【0036】
実施例5〜8の黒色粉末について、圧粉体積抵抗値を測定することにより絶縁性を測定した。圧粉体積抵抗値は粉末を円筒状の治具に充填後、上下を金属製電極ではさみ、油圧プレスにより50kg/cm2の圧力を印加、上下の電極間の抵抗値をデジタルマルチメーター(アドバンテスト社製)により測定した。その結果、実施例5〜8の粉末については、いずれも1.0x105Ω・cm以上の高い絶縁性を有していた。
【0037】
実施例9
実施例1の黒色粉末について、透過率の測定に用いた分散液にアクリル樹脂を添加し、黒色顔料:樹脂=6:4となるように黒色塗料を作製した。作製した塗料をガラス基板上に膜厚1μmになるようにスピンコート成膜し、250℃、一時間焼成して被膜を形成した。この被膜のOD値を測定したところ、R(620nm)、G(530nm)、B(440nm)のOD値はそれぞれ5.64、5.46、5.65であり、BM膜として使用するための充分な特性を有することが確認され、いずれの波長でも高い数値が得られた。実施例2〜8の黒色粉末についても同様の傾向を示した。
【0038】
〔比較例4〕
比較例3の黒色粉末(酸窒化チタン粉末)について、透過率の測定に用いた分散液にアクリル樹脂を添加し、黒色顔料:樹脂=6:4となるように黒色塗料を作製した。作製した塗料をガラス基板上に膜厚1μmになるようにスピンコート成膜し、250℃、一時間焼成して被膜を形成した。この被膜のOD値を測定したところ、R(620nm)、G(530nm)、B(440nm)のOD値はそれぞれ4.59、3.30、3.15であり、BM膜として使用することは可能だが、Bの波長でやや低い数値となった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
図1