特許第5747533号(P5747533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747533
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】旋回式作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20150625BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20150625BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   E02F9/20 Z
   E02F9/22 C
   H02J7/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-20759(P2011-20759)
(22)【出願日】2011年2月2日
(65)【公開番号】特開2012-158952(P2012-158952A)
(43)【公開日】2012年8月23日
【審査請求日】2013年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 允紀
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−173599(JP,A)
【文献】 特開2010−041828(JP,A)
【文献】 特開2009−235707(JP,A)
【文献】 特開2002−359935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 9/22
H02J 7/00
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体上に上部旋回体が旋回自在に搭載され、蓄電器を電源とする旋回電動機によってこの上部旋回体を旋回駆動し、旋回制動時に上記旋回電動機に回生ブレーキ力と回生電力を発生させ、回生電力を上記蓄電器に充電することによって旋回エネルギーを回生するように構成された旋回式作業機械において、上記蓄電器が上記旋回エネルギーを回生する余裕を持った通常状態か余裕がない非常状態かを検出する蓄電器状態検出手段と、この蓄電器状態検出手段の検出結果に基づいて上記旋回電動機の速度を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、上記蓄電器が非常状態であるときに、上記旋回電動機の最高速度を制限する速度制限制御を行うように構成したことを特徴とする旋回式作業機械。
【請求項2】
上記蓄電器状態検出手段として、上記蓄電器の充電量を検出する充電量検出手段を設け、上記制御手段は、上記充電量検出手段によって検出された充電量が充電量設定値以上のときに蓄電器が非常状態であるとして上記速度制限制御を行うように構成したことを特徴とする請求項1記載の旋回式作業機械。
【請求項3】
上記蓄電器状態検出手段として、上記蓄電器の容量を検出する容量検出手段を設け、上記制御手段は、上記容量検出手段によって検出された蓄電器容量が容量設定値以下のときに蓄電器が非常状態であるとして上記旋回電動機の速度制限制御を行うように構成したことを特徴とする請求項1または2記載の旋回式作業機械。
【請求項4】
上記容量検出手段は上記蓄電器の温度を検出し、この温度から蓄電器の容量を求めるように構成したことを特徴とする請求項3記載の旋回式作業機械。
【請求項5】
上記上部旋回体に装着された作業アタッチメントの慣性モーメントを検出する慣性モーメント検出手段を設け、上記制御手段は、上記蓄電器が非常状態であって、かつ、上記慣性モーメント検出手段によって検出された作業アタッチメントの慣性モーメントが設定値以上であるときに上記速度制限制御を行うように構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の旋回式作業機械。
【請求項6】
上記制御手段は、旋回操作が開始されてから一定時間の経過を待って上記速度制限制御を開始するように構成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の旋回式作業機械。
【請求項7】
上記旋回電動機に対する速度指令を出す旋回操作手段を備え、上記制御手段は、旋回電動機の速度制限制御として、旋回電動機の速度が上記旋回操作手段の全操作量を通じて速度制限値まで連続的に変化するように操作量に対する速度のゲインを設定するように構成したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の旋回式作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動機によって旋回体を旋回駆動するショベル等の旋回式作業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、図13に示すように、クローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2が地面に対して鉛直な軸Oのまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体2に、ブーム3、アーム4、バケット5及びブーム用、アーム用、バケット用各シリンダ6,7,8を備えた作業アタッチメントAが装着されて構成される。
【0004】
このショベルにおいて、ハイブリッドタイプや電動タイプのものでは、旋回駆動源として電動機、または油圧モータと電動機を用い、蓄電器で旋回電動機を駆動し、旋回駆動力を発生させる一方、旋回制動時には旋回電動機に回生電力と回生ブレーキ力を発生させ、回生電力を蓄電器に充電することによって旋回エネルギーを回生するように構成される(特許文献1参照)。
【0005】
この電動旋回式のショベルにおいて、蓄電器の充電量が多い場合に、回生電力を十分取り込めなくなるため、上記旋回エネルギーを回生し切れなくなる。
【0006】
また、蓄電器の容量が温度や経年劣化等によって減少した場合も同様となる。
【0007】
こうなると、旋回エネルギーのオーバー分を回生抵抗で消費させなければならない等、エネルギーロスとなるとともに、旋回ブレーキ力が不足し、所望の停止位置を通過してしまう所謂旋回流れの状態となる。
【0008】
また、蓄電器が過充電となって性能、寿命に悪影響を与えることにもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2006/004080
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、旋回制動時の旋回エネルギーを無駄なく回生し、確実な旋回ブレーキ作用を得ることができるとともに、蓄電器の過充電を防止することができる旋回式作業機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、下部走行体上に上部旋回体が旋回自在に搭載され、蓄電器を電源とする旋回電動機によってこの上部旋回体を旋回駆動し、旋回制動時に上記旋回電動機に回生ブレーキ力と回生電力を発生させ、回生電力を上記蓄電器に充電することによって旋回エネルギーを回生するように構成された旋回式作業機械において、上記蓄電器が上記旋回エネルギーを回生する余裕を持った通常状態か余裕がない非常状態かを検出する蓄電器状態検出手段と、この蓄電器状態検出手段の検出結果に基づいて上記旋回電動機の速度を制御する制御手段とを備え、この制御手段は、上記蓄電器が非常状態であるときに、上記旋回電動機の最高速度を制限する速度制限制御を行うように構成したものである(請求項1)。
【0012】
この構成によれば、蓄電器が旋回制動時の旋回エネルギーを回生する余裕のない非常状態である場合に、旋回電動機の最高速度を制限するため、いいかえれば蓄電器の状態に対して旋回エネルギーが過剰となる状況で、発生する旋回エネルギーそのものを制限するため、エネルギーを無駄なく回生し、確実な旋回ブレーキ作用を得ることができるとともに、蓄電器の過充電を防止することができる。
【0013】
本発明においては、上記請求項1の構成を前提として、上記蓄電器状態検出手段として、上記蓄電器の充電量を検出する充電量検出手段を設け、上記制御手段は、上記充電量検出手段によって検出された充電量が充電量設定値以上のときに蓄電器が非常状態であるとして上記速度制限制御を行うように構成するのが望ましい(請求項2)。
【0014】
蓄電器の非常状態は、充電量が多くて回生電力を取り込む余裕が無い場合に発生するため、上記のように充電量が、回生不足を招く限界値として予め決めた充電量設定値以上であるときに旋回電動機の速度制限を行うことにより、回生不足の状態を確実に防止することができる。
【0015】
また本発明においては、請求項1または2の構成を前提として、上記蓄電器状態検出手段として、上記蓄電器の容量を検出する容量検出手段を設け、上記制御手段は、上記容量検出手段によって検出された蓄電器容量が容量設定値以下のときに蓄電器が非常状態であるとして上記旋回電動機の速度制限制御を行うように構成するのが望ましい(請求項3,4)。
【0016】
蓄電器の非常状態は、温度や経年劣化等による蓄電器の容量減少によっても発生するため、上記のように検出された蓄電器容量が、回生不足を招く限界値として予め決めた容量設定値以下のときに旋回電動機の速度制限を行うことにより、回生不足の状態を確実に防止することができる。
【0017】
この場合、蓄電器容量のみに基づいて速度制限を行ってもよいし、蓄電器の充電量が設定値以上であることをアンド条件として速度制限を行ってもよい。
【0018】
後者のアンド条件とする構成をとれば、蓄電器の非常状態をより正確に判定できるため、無駄な速度制限が実行されることを回避することができる。
【0019】
上記蓄電器容量を検出する場合、上記容量検出手段は上記蓄電器の温度を検出し、この温度から蓄電器の容量を求めるように構成するのが望ましい(請求項4)。
【0020】
蓄電器容量の減少の原因のうち、経年劣化によるものは保守管理によって無くすることが可能であるが、温度によるものは回避困難である。
【0021】
そこで、蓄電器の温度と容量の相関関係を予めマップ等によって設定しておき、検出された温度から蓄電器容量を求めるようにすれば、温度による容量減少に確実に対処することができる。
【0022】
一方、本発明においては、請求項1〜4のいずれかの構成を前提として、上記上部旋回体に装着された作業アタッチメントの慣性モーメントを検出する慣性モーメント検出手段を設け、上記制御手段は、上記蓄電器が非常状態であって、かつ、上記慣性モーメント検出手段によって検出された作業アタッチメントの慣性モーメントが設定値以上であるときに上記速度制限制御を行うように構成するのが望ましい(請求項5)。
【0023】
旋回エネルギー及びこれに対抗する制動エネルギーは作業アタッチメントの慣性モーメントによって変化するため、上記のように蓄電器が非常状態の場合に、慣性モーメントが設定値以上のときに速度制限を行うことにより、確実で無駄のない速度制限を行うことができる。
【0024】
さらに本発明においては、請求項1〜5のいずれかの構成を前提として、上記制御手段は、旋回操作が開始されてから一定時間の経過を待って上記速度制限制御を開始するように構成するのが望ましい(請求項6)。
【0025】
こうすれば、旋回開始直後の蓄電器の電圧降下等によって蓄電器状態が誤検出されることを防止し、正確な速度制限を行うことができる。
【0026】
また本発明においては、請求項1〜6のいずれかの構成を前提として、上記旋回電動機に対する速度指令を出す旋回操作手段を備え、上記制御手段は、旋回電動機の速度制限制御として、旋回電動機の速度が上記旋回操作手段の全操作量を通じて速度制限値まで連続的に変化するように操作量に対する速度のゲインを設定するように構成するのが望ましい(請求項7)。
【0027】
旋回電動機の最高速度を制限する場合、蓄電器が通常状態の場合と比較して、速度が制限による上限値に達した時点で頭切りし、後は旋回操作量の増加に関係なく速度一定(制限値)とすることが考えられる。
【0028】
しかし、こうすると操作半ばで速度が増加しなくなる頭打ち現象により、オペレータが通常状態の場合とのギャップを感じ、操作性が悪化する懸念がある。
【0029】
そこで、上記のように全操作量を通じて速度が制限値まで連続的に変化するように操作量に対する速度のゲインを設定することにより、通常状態の場合との操作のギャップを緩和し、操作性を良くすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、旋回制動時の旋回エネルギーを無駄なく回生し、確実な旋回ブレーキ作用を得ることができるとともに、蓄電器の過充電を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1実施形態を示すシステムのブロック構成図である。
図2】第1実施形態の作用を説明するためのフローチャートである。
図3】第1実施形態における蓄電器の充電量と旋回最高速度の関係を示す図である。
図4】第1実施形態における旋回操作量と旋回速度の関係を示す図である。
図5】第1実施形態における旋回操作時の時間と蓄電器電圧の関係を示す図である。
図6】作業アタッチメントの角度と慣性モーメントの関係を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態を示すシステム構成図である。
図8】第2実施形態の作用を説明するためのフローチャートである。
図9】蓄電器温度と蓄電器容量の関係を示す図である。
図10】本発明の第3実施形態の作用を説明するためのフローチャートである。
図11】本発明に関連する技術において通常状態での旋回速度、操作量、油圧モータトルク、電動機トルクの推移を示す図である。
図12】上記技術において非常状態での旋回速度、操作量、油圧モータトルク、電動機トルクの推移を示す図である。
図13】ショベルの概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の実施形態ではハイブリッドショベルを適用対象としている。
【0033】
第1実施形態(図1図6参照)
図1は第1実施形態のシステム構成を示す。
【0034】
図1において、動力系の回路を太い実線、信号系の回路を破線、油圧回路を普通の実線でそれぞれ示している。
【0035】
図示のようにエンジン11に発電機作用と電動機作用とを行う発電電動機12と油圧ポンプ13とがタンデム(パラレルでもよい)に接続され、これらがエンジン11によって駆動される。
【0036】
油圧ポンプ13には、制御弁(アクチュエータごとに設けられているが、ここでは複数の制御弁の集合体として示す)14を介して油圧アクチュエータ(図13の作業アタッチメントAを構成するブーム、アーム、バケット各シリンダ、それに走行用油圧モータ等。統括符号「15」で示す)が接続され、油圧ポンプ13から供給される圧油によって油圧アクチュエータ15が駆動される。
【0037】
なお、図1では油圧ポンプ13が一台のみ接続された場合を示しているが、複数台が直列または並列に接続される場合もある。
【0038】
発電電動機12には、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の電源としての蓄電器16が接続され、基本的作用として、制御手段17からの制御信号により蓄電器16の充電状態に応じた放電作用、発電電動機12の発電機作用と電動機作用の切換え等が行われる。
【0039】
すなわち、蓄電器16の充電量が低下すれば発電電動機12が発電機作用を行い、発生した電力が蓄電器16に送られて充電される一方、適時、この蓄電器16の電力により発電電動機12が電動機作用を行ってエンジン11をアシストする。
【0040】
また、発電電動機12及び蓄電器16に旋回駆動源としての旋回電動機18が接続され、発電電動機12が発生する電力及び蓄電器16の蓄電力によって旋回電動機18が回転駆動される。
【0041】
制御手段17は、旋回操作手段としての旋回操作レバー19の操作に基づいて制御弁14の作動を制御するメカトロコントローラ20と、発電電動機12の作動を制御するインバータ/コンバータ21と、蓄電器16の充放電を制御する蓄電器コントローラ22と、上記各コントローラに各種の指令信号を出力するメインコントローラとしてのハイブリッドコントローラ23とによって構成されている。
【0042】
蓄電器コントローラ22は、蓄電器16の充放電制御のための情報として充電量と容量を常時検出、監視しており、同コントローラ12で検出された充電量の情報がハイブリッドコントローラ23に送られる。すなわち、蓄電器コントローラ22は請求項1の蓄電器状態検出手段(請求項2の充電量検出手段)を兼ねている。
【0043】
また、図13の作業アタッチメントAを構成するブーム3、アーム4、バケット5の各角度を検出するアタッチメント角度センサ(統括符号「4」で示す)が設けられ、同センサ4で検出された各角度信号もハイブリッドコントローラ23に送られる。
【0044】
一方、旋回操作レバー19の操作量(旋回操作量)もメカトロコントローラ20を通じてハイブリッドコントローラ23に送られる。
【0045】
ハイブリッドコントローラ23は、これら旋回操作量、蓄電器16の充電量、アタッチメント角度に基づき、次のような旋回電動機18の速度制御を行う。
【0046】
(I) 通常状態での制御
蓄電器16の充電量が旋回エネルギーを回生する余裕を持った通常状態(充電量が図3中に示す充電量設定値Cs未満)のときは、充電量に応じて旋回最高速度を設定し、図4の二点鎖線イで示すように旋回速度を操作量に応じて、かつ、操作量0から最大操作量(フルストロークSmax)に対応する通常最高速度(Vmax)まで連続して直線的に変化させる。
【0047】
すなわち、通常状態では、旋回制動時に旋回エネルギーを回生電力と回生ブレーキ力としてすべて回生できるものとして、旋回電動機18に最高速度の制限は一切加えない。
【0048】
また、アタッチメント角度センサ24で検出されたブーム、アーム、バケット各角度からアタッチメント全体の慣性モーメントを演算で求める。
【0049】
但し、通常状態ではこの慣性モーメントによって最高速度の制限は加えない。
【0050】
なお、ブーム、アーム、バケットの全角度から求められる慣性モーメントではなく、うち二者(とくにブームとアーム)の角度から求められる慣性モーメントを用いてもよい。
【0051】
一方、旋回開始直後は蓄電器16の電圧降下があるため、これによって蓄電器状態(充電量)が誤検出されるおそれがある。
【0052】
そこで、図6に示すように、旋回操作が開始されてから一定時間T1の経過を待って制御を開始する。
【0053】
(II) 非常状態での制御
蓄電器充電量が図3中の充電量設定値Cs以上のときは、蓄電器16の充電量がすべての旋回エネルギーを回生する余裕がない非常状態であるとして、旋回最高速度(旋回電動機18の最高速度)を予め設定した制限値Vlに制限する。
【0054】
この場合、図4の太線ロで示すように、旋回操作量に応じて速度が制限による上限値Vlに達した時点で頭切りし、後は旋回操作量の増加に関係なく速度一定(制限値)としてもよい。
【0055】
但し、こうすると、操作半ばで速度が増加しなくなる頭打ち現象により、オペレータが通常状態の場合とのギャップを感じ、操作性が悪化する懸念がある。
【0056】
そこで、太線ハで示すように、全操作量を通じて速度が制限値まで連続的に変化するように操作量に対する速度のゲインを設定(通常状態に対して変更)するのが望ましい。
【0057】
こうすれば、通常状態の場合との操作のギャップを緩和し、操作性を良くすることができる。
【0058】
また、蓄電器充電量Cが充電量設定値Cs未満の通常状態では速度制限を一切加えないでもよいが、図3に示すように、通常状態でも蓄電器充電量Cが充電量第2設定値Cf以上で充電量設定値Cs未満の範囲で最高速度を制限値Vlに向けて漸減させるようにしてもよい。
【0059】
以上の作用を図2のフローチャートによってまとめて説明する。
【0060】
ステップS1で旋回操作信号の入力時間が予め定めた時間設定値を経過したか否かが判定され、YES(経過した)の場合にステップS2で蓄電器充電量が充電量設定値Cs以上か否かが判定される。
【0061】
ここでYESとなると、ステップS3で作業アタッチメントの慣性モーメントが予め定めたモーメント設定値以上か否かが判定され、ここでもYESの場合に、非常状態であるとしてステップS4で旋回電動機18の最高速度を制限する速度制限制御が実行される。
【0062】
なお、制限値は、蓄電器充電量が充電量設定値Cs以上の状態でも旋回エネルギーをほぼすべて回生し得る旋回速度として設定される。
【0063】
一方、ステップS1〜S3でNOの場合は、そのままでも旋回エネルギーを十分回生できる通常状態であるとしてステップS5に移行し、旋回電動機18の速度制限制御を実行しない。つまり、旋回操作量に応じて電動機速度を最大操作量Smaxに対応する最高速度Vmaxまで連続して変化させる通常制御が行われる。
【0064】
このように、蓄電器16の充電量に対して回生される旋回エネルギーが過剰となる状況で、旋回最高速度を制限して、発生する旋回エネルギーそのものを制限するため、エネルギーを無駄なく回生し、確実な旋回ブレーキ作用を得ることができるとともに、蓄電器16の過充電を防止することができる。
【0065】
また、旋回エネルギー及びこれに対抗する制動エネルギーは、図13に示す作業アタッチメントAの慣性モーメントによって変化するため、上記のように蓄電器16が非常状態の場合に、慣性モーメントが設定値以上のときに速度制限を行うことにより、確実で無駄のない速度制限を行うことができる。
【0066】
第2実施形態(図7,8参照)
以下の第2及び第3両実施形態では第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0067】
蓄電器16の非常状態は、蓄電器16の温度や経年劣化による容量減少によっても発生する。
【0068】
また、蓄電器容量の減少の原因のうち、経年劣化によるものは保守管理によって無くすることができるが、温度によるものは回避困難である。
【0069】
図9はこの蓄電器温度と蓄電器容量の関係を示し、低温側と高温側の双方で蓄電器容量が減少する。
【0070】
そこで第2実施形態では、図7に示すように蓄電器温度を検出する温度センサ25を設けるとともに、図9に示す蓄電器温度と蓄電器容量の関係(マップ)を予め蓄電器コントローラ22またはハイブリッドコントローラ23に記憶させておく。
【0071】
このマップには、旋回制動時に回生不足となる蓄電器容量の限界値としての容量設定値を定めておき、蓄電器容量がこの容量設定値以下に減少したときに非常状態として旋回電動機18の速度制限制御を実行するように構成している。
【0072】
図8のフローチャートによって説明すると、ステップS11及びS13は第1実施形態(図2)のステップS1及びS3と同じである。
【0073】
ステップS12で、上記のように蓄電器温度から求めた蓄電器容量が容量設定値以下か否かが判定され、ここでYESで、かつ、ステップS13で慣性モーメントがモーメント設定値以上である場合にステップS14で速度制限制御を実行し、ステップS11〜S13でNOの場合は実行しない(ステップS15)。
【0074】
この第2実施形態によると、温度低下または上昇によって蓄電器容量が減少したことによる回生不足を回避し、エネルギーを無駄なく回生し、確実な旋回ブレーキ作用を得ることができるとともに、蓄電器16の過充電を防止することができる。
【0075】
なお、蓄電器16の電圧等の電気量から蓄電器容量を求めるようにしてもよい。
【0076】
但し、上記のように蓄電器温度から蓄電器容量を求める構成をとることにより、容量検出をより正確に行うことができる。
【0077】
第3実施形態(図10参照)
第3実施形態のシステム構成は第2実施形態(図7)と同じであるため、図7を援用する。
【0078】
第3実施形態は、第1、第2両実施形態を合わせた形態として、蓄電器16の充電量と容量を検出し、これらのアンド条件によって旋回電動機18の速度制限制御を実行する構成をとっている。
【0079】
図10のフローチャートによって説明すると、ステップS21で旋回操作信号の入力時間が時間設定値以上か否か、ステップS22で蓄電器充電量が充電量設定値以上か否か、ステップS23で蓄電器容量が容量設定値以下か否か、ステップS24で作業アタッチメントの慣性モーメントがモーメント設定値以上か否かがそれぞれ判定され、いずれもYESのときに非常状態であるとしてステップS25で旋回電動機18の最高速度を制限する制御を実行する。
【0080】
ステップS21〜S24でNOの場合は通常状態であるとして同制御を実行しない(ステップS26)。
【0081】
この第3実施形態によると、蓄電器16の非常状態をより正確に判定できるため、無駄な速度制限が実行されることを回避することができる。
【0082】
ところで、本発明に関連して、蓄電器16の充電量そのものを抑制する技術として、油圧モータと電動機を旋回駆動源とするショベルにおいて、蓄電器充電量が多い場合に電動機の稼動比率をアップさせる技術が考えられる。
【0083】
図11,12によって説明する。
【0084】
図11は蓄電器充電量がある値以下で充電の余地が十分ある状況での旋回速度、旋回操作量、油圧モータトルク、電動機トルクの旋回開始からの推移を示す。
【0085】
この場合は油圧モータのみにによって旋回駆動し、旋回制動時に電動機に回生作用を行わせて回生ブレーキ力と回生電力を発生させる。
【0086】
図12は蓄電器充電量がある値を超え、充電量の余地が少なくなった状況での旋回速度、旋回操作量、油圧モータトルク、電動機トルクの旋回開始からの推移を示す。
【0087】
この場合は、旋回開始時点から油圧モータと電動機の双方で旋回駆動することにより、蓄電器の放電量を増やして充電量を下げる。すなわち、電動機の稼動比率をアップさせる。
【0088】
旋回制動時に電動機に回生作用を行わせる点は図11の場合と同じである。
【0089】
こうすることにより、蓄電器充電量そのものを下げ、電動機の速度制限制御が実行される頻度を下げることができるととともに、電動機稼動によって油圧消費動力を低下させ、省エネ効果を得ることができる。
【0090】
なお、油圧モータと電動機を併用して旋回駆動し、蓄電器充電量がある値を超えると電動機の稼働率をアップさせることも考えられる。
【0091】
ところで、本発明ショベルに限らず、ショベルを母体として作業アタッチメントの一部または全部を交換して構成される解体機や破砕機等、他の旋回式作業機械にも適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 下部走行体
2 上部旋回体
A 作業アタッチメント
3 作業アタッチメントを構成するブーム
4 同、アーム
5 同、バケット
11 エンジン
12 発電電動機
13 油圧ポンプ
14 制御弁
15 油圧アクチュエータ
16 蓄電器
17 制御手段
18 旋回電動機
19 旋回操作レバー(旋回操作手段)
20 メカトロコントローラ
21 コンバータ
22 蓄電器状態検出手段(充電量検出手段)を兼ねる蓄電器コントローラ
23 ハイブリッドコントローラ
24 慣性モーメント検出手段としてのアタッチメント角度センサ
25 蓄電器容量を検出するための温度センサ
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