(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高分子エマルションがポリウレタン、ポリエチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、酸変性スチレン−ブタジエン共重合体、またはポリプロピレンから選択される少なくとも1種の高分子から形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細繊維状セルロースコンポジットシートの製造方法。
前記調製工程において、混合する微細繊維状セルロースの繊維幅が2〜1000nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースコンポジットシートの製造方法。
微細繊維状セルロースコンポジットシート積層体の製造方法であって、請求項1〜5のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースコンポジットシートの製造方法により得た微細繊維状セルロースコンポジットシートを2枚以上重ね合わせる工程、及び前記重ね合わせた微細繊維状セルロースコンポジットシートを熱圧着する工程を有する微細繊維状セルロースコンポジットシート積層体の製造方法。
更に前記微細繊維状セルロースコンポジットシートの少なくとも1枚の少なくとも片面に高分子層を設ける工程を有する請求項6に記載の微細繊維状セルロースコンポジットシート積層体の製造方法。
前記微細繊維状セルロースコンポジットシートの少なくとも1枚が、少なくとも片面に高分子層が設けられた微細繊維状セルロースコンポジットシートである請求項6に記載の微細繊維状セルロースコンポジットシート積層体の製造方法。
前記高分子層が前記微細繊維状セルロースコンポジットシートに含有させた高分子エマルションと同じ組成であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の微細繊維状セルロースコンポジットシート積層体の製造方法。
前記高分子層が前記高分子エマルションを塗布、及び加熱乾燥して得られる請求項7〜9のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースコンポジットシート積層体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における微細繊維状セルロースは通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに幅の狭いセルロース繊維あるいは棒状粒子である。微細繊維状セルロースは結晶状態のセルロース分子の集合体であり、その結晶構造はI型(平行鎖)である。微細繊維状セルロースの幅は電子顕微鏡で観察して2nm〜1000nmが好ましく、より好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは4nm〜100nmである。繊維の幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなる。1000nmを超えると微細繊維とは言えず、通常のパルプに含まれる繊維にすぎないため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が得られない。また、微細繊維状セルロースのコンポジットに透明性が求められる用途であると、微細繊維の幅は50nm以下が好ましい。
【0024】
ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=0.15418nm)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。また、微細繊維状セルロースの繊維幅の測定は電子顕微鏡観察により以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、前記懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。この際、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定した場合に少なくとも軸に対し、20本以上の繊維が軸と交差するような試料および観察条件(倍率等)とする。この条件を満足する観察画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維幅を目視で読み取っていく。こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で観察し、各々2つの軸の交錯する繊維の繊維幅の値を読み取る(最低20本×2×3=120本の繊維幅)。
【0025】
微細繊維状セルロースの製造方法には特に制限はないが、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーなどの機械的作用を利用する湿式粉砕でセルロース系繊維を細くする方法が好ましい。また、TEMPO酸化、オゾン処理、酵素処理などの化学処理を施してから微細化してもかまわない。微細化するセルロース系繊維としては、植物由来のセルロース、動物由来のセルロース、バクテリア由来のセルロースなどが挙げられる。より具体的には、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等の木材系製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻や麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられる。これらの中でも木材系製紙用パルプや非木材系パルプが入手のし易さという点で好ましい。
【0026】
本発明においては、上記微細繊維状セルロースを水に懸濁させた水系懸濁液に高分子エマルションを混合して使用される。
ここで、高分子エマルションとは、天然あるいは合成高分子を分散質とするエマルションであり、粒子径が0.001〜10μm程度の微細な高分子粒子を水中に分散した乳白色の液体である。これらの高分子エマルションは、通常乳化重合により製造されるが、高分子ラテックスと称されることもある。乳化重合は、ラジカル重合の一種で、基本的には水系媒体中で媒体に難溶な単量体と乳化剤を混合し、媒体に溶解可能な重合開始剤を加えて行う重合法である。
【0027】
このような高分子エマルションとしては特に限定されないが、エマルションの分散質としてポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリエステル、ポリウレタン等の樹脂エマルション;天然ゴム;スチレン−ブタジエン共重合体;分子鎖末端が−SH、−CSSH、−SO
3H、−(COO)
x M、−(SO
3)
x Mおよび−CO−R(なお、前記官能基において、Mはカチオン、xはMの価数に依存する1〜3の整数であり、Rはアルキル基である)の群から選ばれる少なくとも1つの官能基で変性されたスチレン−ブタジエン共重合体;酸変性、アミン変性、アミド変性、アクリル変性等の変性スチレン−ブタジエン共重合体;(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体;ポリイソプレン;ポリクロロプレン;スチレン−ブタジエン−メチルメタクリレート共重合体;スチレン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体等が挙げられる。
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のような高分子樹脂の分散質は後乳化法によってエマルション化し、本発明の高分子エマルションとしてもよい。
本発明の高分子エマルションを形成する分散質としては、ポリウレタン、ポリエチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、酸変性スチレン−ブタジエン共重合体、およびポリプロピレンが好ましい。
【0028】
上記高分子エマルションの製造方法について説明する。
まず、本発明において使用する高分子エマルションは、ラジカル重合性単量体を乳化剤の使用により水中に乳化させ、かつこれらの単量体が重合して生成するエマルション粒子を水中で安定化させる能力を十分に有する高分子を分散質とする。
前記高分子エマルションの製造方法は、従来の伝統的な乳化重合法によるものである。すなわち、適当な水性媒体中で、過酸化物、アゾ化合物等の重合開始剤、チオール化合物、ジスルフィド化合物等の連鎖移動剤の存在下で、ラジカル重合性単量体(乳化物)をラジカル重合するものである。
【0029】
上記の高分子エマルションには、乳化剤は全単量体に対して0.1〜6質量%の範囲で配合させる。配合量が0.1質量%未満であると重合安定性が不十分となり、反応中に凝集物が発生してしまうおそれがある。また、6質量%を越えると、高分子エマルションの粒子径が小さくなり過ぎ、粘度が高くなるため好ましくない。
【0030】
本発明に用いる乳化剤としては、例えば、オレイン酸カリウム、ラウリル酸ナトリウム、トデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンジアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル等のアニオン系乳化剤、さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)ブロックコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系乳化剤を例示できる。また、例えばアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、アルキルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルピリジニウム硫酸塩、ステアラミドメチルピリジニウム塩、アルキルキノリニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、脂肪酸ポリエチレンポリアミド、アシルアミノエチルピリジニウム塩、アシルコラミノホルミルメチルピリジニウム塩などの第4級アンモニウム塩、ステアロオキシメチルピリジニウム塩、脂肪酸トリエタノールアミン、脂肪酸トリエタノールアミンギ酸塩、トリオキシエチレン脂肪酸トリエタノールアミン、セチルオキシメチルピリジニウム塩、p−イソオクチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩などのエステル結合アミンやエーテル結合第4級アンモニウム塩、アルキルイミダゾリン、1−ヒドロキシエチル−2−アルキルイミダゾリン、1−アセチルアミノエチル−2−アルキルイミダゾリン、2−アルキル−4−メチル−4−ヒドロキシメチルオキサゾリンなどの複素環アミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、N−アルキルプロピレンジアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミンジメチル硫酸塩、アルキルビグアニド、長鎖アミンオキシドなどのアミン誘導体等のカチオン系乳化剤を例示できる。
【0031】
また、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、レシチン等の両性乳化剤を例示できる。さらに、乳化分散能力を有する比較的低分子量の高分子化合物、例えばポリビニルアルコール、およびその変性物、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール誘導体、ポリカルボン酸共重合体の中和物、カゼイン等を単独あるいは上記の乳化剤と併用して使用できる。
【0032】
重合時の単量体の濃度は、通常30〜70質量%程度、好ましくは40〜60質量%程度が適当である。また、重合の際に用いる重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などのパーオキサイド化合物、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2´−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1´−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4´−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2´−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2´−アゾビス{2−メチル−N−[1,1´−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2´−アゾビス{2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2´−アゾビス{2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2´−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2´−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2´−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート等のアゾ化合物を用いることができる。
【0033】
前記高分子を重合する際の水性媒体としては、水または水にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン類、トルエン、ベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族類、ジクロロメタン、1,1,2−トリクロロエタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、イソプロパノール、エタノール、メタノール、メトキシエタノール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類を配合したものを適宜選択できる。
【0034】
本発明に用いられる、前記高分子エマルションを構成する単量体として具体的に挙げると、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、モノアルキルマレイン酸、モノアルキルフマル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸含有単量体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、これらの少なくとも一種を使用することができる。
【0035】
連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸等のメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド等のスルフィド類、ヨードホルム等のハロゲン化炭化水素、ジフェニルエチレン、p−クロロジフェニルエチレン、p−シアノジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー、イオウ等を用いることができる。
【0036】
重合禁止剤としては、フェノチアジン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、4,4´−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−フェニル−1−ナフチルアミン、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−メルカプトベンズイミダゾール、ハイドロキノン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン等を用いることができる。
【0037】
重合反応は、通常40〜95℃、好ましくは60〜90℃程度の反応温度で、1〜10時間、好ましくは4〜8時間程度行えばよい。単量体の添加方法としては、一括添加法、分割添加法、連続添加法等で、単量体タップ法、単量体プレ乳化タップ法等の方法で行うことができる。好ましくは連続添加法で単量体プレ乳化タップ法である。
このようにして得られた高分子エマルションの濃度は20〜65質量%が好ましく、より好ましくは30〜60質量%程度に調節される。
【0038】
前記高分子エマルション(ラテックス)のうち、共重合体中にカルボキシル基、スルホ基等を含有する単量体が共重合されている場合、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種の第1級、第2級、第3級アミン等の適当なアルカリ性物質で中和することによって安定化してもよい。
【0039】
次に、後乳化法によって高分子樹脂をエマルション化する方法について説明する。
ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂等の熱可塑性樹脂を乳化剤や保護コロイド剤等の分散剤を用いて水に分散させた分散液、いわゆるエマルションを製造する方法は、種々知られている。
【0040】
例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体の場合は、特開昭57−61035号公報に記載のように、先ずエチレン−酢酸ビニル共重合体を加熱溶融し、次いで、前記のようなアニオン系やノニオン系の乳化剤を添加撹拌し、その後、熱水を添加して、ホモミキサー等の機械剪断力を用いて乳化することにより得られる。
【0041】
また、水溶性又は水分散性のポリウレタンエマルションも多数知られている。その一つとしては、ブロック化イソシアネート基を利用した比較的低〜中分子量域の熱反応型ポリウレタンエマルションが挙げられる。もう一つとしては、直鎖状構造を主体とする比較的高分子量域の熱可塑性ポリウレタンエマルションが挙げられる。これらはポリウレタン骨格中にアニオン系、カチオン系、ノニオン系の親水基を導入して自己乳化若しくは分散するか、又は疎水性樹脂に上記のような乳化剤を添加して強制的に水中に分散するものである。
【0042】
本発明において、微細繊維状セルロースの水系懸濁液と高分子エマルションとを混合し、シート化する際の歩留りや脱水性を考慮すると、高分子エマルションの粒子径は大きいほうがよく、また、大き過ぎるとシートの均一性、光学物性が低下するおそれがあるため、目的に合った適度な大きさである0.001〜10μmが好ましい。なかでも、前記高分子エマルションは表面電荷がカチオン性であることが分散安定性、歩留りなどにおいて有利である。
前記高分子エマルションにカチオン性を付与する方法としてはカチオン性単量体を共重合する方法や、カチオン性乳化剤を用いてエマルションの分散質を重合する方法等が挙げられる。
【0043】
エマルションの分散質としてポリウレタンを例にしてカチオン性を付与する方法を具体的に説明する。ウレタンプレポリマーにカチオン性を付与する一つの方法として、ウレタンプレポリマーに、3級アミノ基を有する活性水素化合物を反応させることによって、3級アミノ基を導入する方法が挙げられる。3級アミノ基を有する活性水素化合物としては、任意のものが使用できる。好ましい活性水素化合物としては、ヒドロキシル基または1級アミノ基のような活性水素含有基と3級アミノ基を有する脂肪族化合物、例えばN,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミンなどが挙げられる。また、3級アミンを有するN,N,N−トリメチロールアミン、N,N,N−トリエタノールアミンを使用することもできる。なかでも、3級アミノ基を有し、かつイソシアネート基と反応性のある活性水素を2個以上含有するポリヒドロキシ化合物が好ましい。
【0044】
これら3級アミノ基を導入したウレタンプレポリマーのアミン当量値は、10mgKOH/g以上が好ましい。前記アミン当量値(1,2,3級アミンの総量を示すもので、サンプル1gを中和するのに要する塩酸と当量のKOHのmg数)が10mgKOH/g以上であれば、ウレタンプレポリマーに十分な親水性を付与することができる。
前記3級アミノ基を有する活性水素化合物の活性水素含有基と、ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基とを反応させることによって、3級アミノ基を有する活性水素化合物をウレタンプレポリマーに結合させる。その後、4級化剤によって、3級アミノ基を4級化すると、水溶性のカチオン性ウレタンプレポリマーを得ることができる。
【0045】
4級化剤としては、非塩素系という観点から、硫酸ジメチルや硫酸ジエチルの使用が好ましい。
また4級化を行わず、3級アミノ基を酸で中和し、塩にすることによって水溶化することもできる。中和酸としては、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、グルタール酸、アジピン酸、マレイン酸などの有機酸かリン酸や硝酸など無機酸が好ましい。
【0046】
ウレタンプレポリマーにカチオン性を付与する二つ目の方法として、ウレタンプレポリマーに、カチオン性化合物を配合し、ウレタンプレポリマーをカチオン性に帯電させる方法が挙げられる。この場合、ウレタンプレポリマーのアミン当量値は10mgKOH/g以下が好ましく、0mgKOH/gでも構わない。
カチオン性化合物としては、例えば、第4級アンモニウム塩を有するカチオン性乳化剤が挙げられる。具体的には、アルキルトリメチルアンモニム塩やアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン縮合物などのジシアンジアミド系化合物などが挙げられる。
カチオン性化合物を含む乳化剤を用いてウレタンプレポリマーを水に乳化することによって、ウレタンプレポリマーにカチオン性を付与することができる。
【0047】
また、3級アミノ基を有しかつイソシアネート基と反応性のある活性水素を少なくとも2個以上含有するポリヒドロキシ化合物を、ウレタンプレポリマーと反応させ、さらにカチオン性化合物を含む乳化剤を用いて水に乳化することによってもウレタンプレポリマーにカチオン性を付与することができる。
【0048】
このようにして、ウレタンプレポリマーにカチオン性を付与した後、前記ウレタンプレポリマーに水を添加して、ウレタンプレポリマーを水系化(水に溶解あるいは分散させること)しながら、イソシアネート基を架橋(ウレア結合を形成)させる。ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基の含有量は、1〜5質量%の範囲内であることが好ましい。イソシアネート基がこの範囲であれば、ウレタンプレポリマーの調製が容易でかつ、得られるポリウレタンの凝集力が高くなり過ぎることがなく、得られるコンポジットシートに優れた風合いを付与することができる。
【0049】
水のかわりに、1分子中に二個以上の活性水素を持つ多価アミンを添加し、ウレタンプレポリマーを水に乳化しながらイソシアネート基をアミン架橋させても良い。
1分子中に二個以上の活性水素を持つ多価アミンとして、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヘキシレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジドなどが挙げられる。
【0050】
このようにカチオン性ウレタンプレポリマーに水あるいは多価アミンを添加して、乳化しながらカチオン性ウレタンプレポリマーの鎖伸張反応を行い、ついで溶剤を除去すると、ポリウレタンのエマルションが得られる。
【0051】
本発明において用いる高分子エマルションの濃度は20〜65質量%程度の範囲で任意に変えられるが、セルロースシートの坪量が低くなると繊維による捕捉がなくなり、歩留りが極端に低下するおそれがある。
【0052】
本発明において使用する微細繊維状セルロースを含む混合液は、微細繊維状セルロース水系懸濁液に上記高分子エマルションを攪拌しながら投入して調製する。攪拌装置としてはアジテータ、ホモミキサ、パイプラインミキサなどの装置を用いて均一に混合攪拌する。
【0053】
本発明においては、調製工程で混合液にセルロース凝結剤を配合することが好ましい。前記セルロース凝結剤としては、水溶性無機塩やカチオン性官能基を含む水溶性有機化合物が挙げられる。水溶性無機塩としては塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0054】
カチオン性官能基を含む水溶性有機化合物としてはポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、尿素樹脂、メラミン樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、第4級アンモニウム塩を含有する単量体を重合あるいは共重合した高分子などが挙げられる。
【0055】
セルロース凝結剤の配合量は、水系懸濁液がゲル化する量以上である必要がある。具体的には、微細繊維状セルロース100質量部に対して、セルロース凝結剤を0.5〜10質量部添加するのが好ましい。セルロース凝結剤の配合量が0.5質量部未満であると、水系懸濁液のゲル化が不充分となり、濾水性向上効果が乏しくなるおそれがある。配合量が10質量部を超えると、ゲル化が進み過ぎ、水系懸濁液の取扱が困難となるおそれがある。セルロース凝結剤の配合量は、より好ましくは1〜8質量部の範囲である。ここで、本発明によるゲル化とは水系懸濁液の粘度が急激かつ大幅に上昇し、流動性を失う状態変化である。ただし、ここで得られるゲルはゼリー状であり、攪拌によって容易に破壊される。ゲル化の判断は、水系懸濁液が急激に流動性を失う状態であるので、目視で判断可能であるが、本発明のセルロース凝結剤を含む微細繊維状セルロースの水系懸濁液については、濃度0.5質量%、温度25℃でのB型粘度(ロータNo.4、回転数60rpm)で判断する。前記粘度が1000mPa・秒以上であることが好ましく、2000mPa・秒以上であることがより好ましく、3000mPa・秒以上であることが特に好ましい。B型粘度が1000mPa・秒未満であると水系懸濁液のゲル化が不充分となり、濾水性向上効果が乏しくなるおそれがある。
【0056】
また、透明性が求められる用途にはカチオン性が弱い化合物をセルロース凝結剤として使用することが好ましい。カチオン性が弱い化合物として炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどの炭酸アンモニウム系化合物やギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウムなどの有機カルボン酸アンモニウム系化合物が挙げられる。これらの中でも60℃以上の加熱で、分解、気化してシート中から放出される炭酸アンモニウムや炭酸水素アンモニウムが好ましい。
さらに、コロイド滴定法により測定されるカチオン化度が1.0〜3.0meq/gである微カチオン樹脂、例えばポリアミド化合物、ポリアミドポリ尿素化合物、ポリアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミンポリ尿素化合物及びポリアミドアミン化合物などの有機高分子も使用できる。市販品としては、SPI−203(変性アミン系樹脂、田岡化学工業社製)、SPI−106N(変性ポリアミド系樹脂、田岡化学工業社製)、SPI−102A(変性ポリアミド系樹脂、田岡化学工業社製)等が挙げられる。
【0057】
(コロイド滴定法)
カチオン化度の測定に使用されるコロイド滴定法は寺山宏・東京大学理学部教授により提案された高分子電解質の滴定法であり、その原理はポリカチオンとポリアニオンがイオン会合し、瞬時に複合体を形成することに基づくものである。また、滴定の終点検出には色素のメタクロマジー現象が利用されている。コロイド滴定法を用いたカチオン化度の測定には「コロイド滴定セット」(株式会社同仁化学研究所製)を使用することができる。
【0058】
前記カチオン性が弱い化合物については、セルロース凝結剤の配合量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、セルロース凝結剤を10〜200質量部配合するのが好ましく、より好ましくは20〜150質量部、さらに好ましくは30〜100質量部の範囲である。カチオン性の弱いセルロース凝結剤の配合量が10質量部未満であると、濾水性が悪化するおそれがある。逆に、配合量が200質量部を超えると透明性が悪化するおそれがある。
【0059】
本発明の微細繊維状セルロースコンポジットシートの製造方法においては、例えば特願2009−173136に記載の微細繊維を含む分散液を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された前記分散液から分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、前記ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備え、前記搾水セクションから前記乾燥セクションにかけて前記無端ベルトが配設され、前記搾水セクションで生成された前記ウェブが前記無端ベルトに載置されたまま前記乾燥セクションに搬送される製造装置を用いることも可能である。
【0060】
本発明で使用できる脱水方法としては紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。なお、乾燥温度としては70〜130℃程度が好ましい。
【0061】
なお、脱水時のワイヤーとして使用できる多孔性の基材としては、一般の抄紙に使用するワイヤーが挙げられる。例えば、ステンレス、ブロンズなどの金属ワイヤーやポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンなどのプラスチックワイヤーが好ましい。また、セルロースアセテート基材などのメンブレンフィルターをワイヤーとして使用してもかまわない。ワイヤーの目開きとしては0.2μm〜200μmが好ましく、0.4μm〜100μmがさらに好ましい。目開きが0.2μm未満であると脱水速度が極端に遅くなり好ましくない。200μmを超えて大きいと微細繊維状セルロースの歩留りが低下して好ましくない。
【0062】
この場合の混合液の濃度としては3質量%以下であることが好ましく、0.1〜1質量%であることがより好ましく、0.2〜0.8質量%であることが特に好ましい。混合液の濃度が3質量%を超えると粘度が高過ぎて取り扱いが困難となるおそれがある。前記混合液の粘度は、B型の粘度で100〜5000mPa・秒程度が好適である。
【0063】
本発明で得られる微細繊維状セルロースコンポジットシートの坪量は0.1〜1000g/m
2が好ましく、1〜500g/m
2がさらに好ましく、5〜100g/m
2が特に好ましい。坪量が0.1g/m
2未満になるとシート強度が極端に弱くなり、連続生産が困難となる。1000g/m
2より超えると脱水に非常に時間がかかり、生産性が極端に低下して好ましくない。
【0064】
本発明で得られる微細繊維状セルロースコンポジットシートの厚さは0.1〜1000μmが好ましく、1〜500μmがさらに好ましく、5〜100μmが特に好ましい。厚さが0.1μm未満になるとシート強度が極端に弱くなり、連続生産が困難となる。1000μmより超えると脱水速度に非常に時間がかかり、生産性が極端に低下して好ましくない。
【0065】
本発明において、コンポジットシートの積層体を得るためにコンポジットシートどうしを熱圧着して積層することが考えられる。熱圧着により積層体を形成する場合、コンポジットシート中に配合されている高分子の割合が高く、微細繊維状セルロースの繊維幅が小さい方がシート間の接着力が強くなる。前記高分子の配合量は30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、40質量%以上が特に好ましい。前記高分子の配合量が30質量%未満であると高分子の融着による接着力が低下するおそれがある。また、微細繊維状セルロースの繊維幅は200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースの繊維幅が200nmを超えると、微細繊維状セルロースのシートの表面凹凸が大きくなり、シート間の接着力が低下するおそれがある。
【0066】
また、コンポジットシートの少なくとも片面に高分子エマルションあるいは微細繊維状セルロースを含有する高分子エマルションを塗布して圧着する方法を検討した。塗布する高分子の種類は特に限定されないが、前記コンポジットシート中に含有させた高分子と同種の高分子を塗布することがシートの接着性の点で好ましい。高分子エマルションを塗布することで、前記コンポジットシート中に高分子が30質量%以上配合されていない場合や微細繊維状セルロースの繊維幅が200nmを超える場合でも所望のシート間の接着力を確保することができる。
コンポジットシートの少なくとも片面に高分子エマルションあるいは微細繊維状セルロースを含有する高分子エマルションを塗布して、未乾燥のまま貼合して加熱乾燥したところ積層は可能であったが、シワが発生し易かった。特に、コンポジットシートの積層枚数が増えるとシワが大きくなる。
そこで、コンポジットシートの少なくとも片面に高分子エマルションあるいは微細繊維状セルロースを含有する高分子エマルションを塗布して、加熱乾燥することにより高分子層が設けられたコンポジットシートどうしを熱圧着して積層体を製造することでシワのない外観に優れた積層体が得られた。
本発明においては高分子エマルションを塗布した面どうしを熱圧着してもかまわないし、高分子エマルションを塗布した面とコンポジットシートの未塗布面とを熱圧着してもよい。また、2枚以上同時に熱圧着しても良い。
【0067】
本発明において高分子エマルションの塗布方法は特に限定されないが、バー塗工、ダイ塗工、カーテン塗工、エアナイフ塗工、ブレード塗工、ロッド塗工、グラビア塗工、スプレー塗工、サイズプレス塗工、ゲートロール塗工など通常の方法が使用される。高分子エマルションの塗布量は特に限定されないが、塗布量は0.1g/m
2〜10g/m
2が好ましく、0.2g/m
2〜5g/m
2がより好ましく、0.5g/m
2〜3g/m
2が特に好ましい。塗布量が0.1g/m
2未満であると熱圧着性が不十分となるおそれがあり、好ましくない。塗布量が10g/m
2を超えると微細繊維状セルロースの含有量が少なくなり、寸法安定性などが低下するため、好ましくない。ここで、加熱乾燥は前記公知の方法を用いて、温度70〜130℃で行うのが好ましい。
熱圧着の温度は高分子エマルションの高分子の融点や軟化点に依存するため、融点あるいは軟化点以上の温度が好ましい。また、セルロースは250℃を超えると劣化したり、変色し易くなるので250℃以下が好ましい。より具体的には100℃〜250℃が好ましい。
熱圧着の圧力に特に制限はないが、1kg/cm
2〜100kg/cm
2が好ましく、3kg/cm
2〜50kg/cm
2がより好ましく、5kg/cm
2〜30kg/cm
2がさらに好ましい。1kg/cm
2未満であると圧着性が不十分となるおそれがあり、100kg/cm
2を超えるとコンポジットの構造が破壊され、強度低下を招くおそれがある。
熱圧着の方法には特に制限はないが、平判どうしの圧着であるホットプレス法やロールとロールのニップで熱圧着するロール法が好ましい。特にロール法は連続で処理できるため、好ましい実施態様である。
【0068】
本発明で得られる微細繊維状セルロースコンポジットシートおよび微細繊維状セルロースコンポジットシートの積層体は目的の物性を得るために後工程でのサイズプレス、塗工などによって処理されてもよい。
【0069】
本発明によって作製されるコンポジットシートはセルロース由来の高弾性率を保持し、かつシワのない高密度シートである。また、本来、水に弱いあるいは湿度に対する寸法変化が大きいセルロースシートに耐水性あるいは耐湿寸法安定性の向上といった高分子樹脂の持つ機能を付与することが可能となる。
また、本発明によって作製されるコンポジットシートの積層体はセルロース由来の高弾性率を持ち、かつシワのない高密度シートである。また、本来水に弱いセルロースシートに耐水性といった高分子のもつ機能を付与することが可能となる。さらに、熱圧着によって易成形可能であるため、各種容器、パソコン、テレビ、携帯電話などの電化製品の筐体や自動車、電車、自転車などの構造部材に使用可能である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を更に詳しく説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、例中の部および%は特に断らない限り、それぞれ質量部および質量%を示す。
【0071】
<セルロース水系懸濁液Aの作製方法>
LBKPパルプ(王子製紙社製:水分53.0%、フリーネス600mLcsf)をパルプ濃度が1%になるように水を加えてディスインテグレーターで解繊した。
得られたパルプ懸濁液に対して石臼型分散機(商品名:「スーパーマスコロイダー」、増幸産業社製)を用いて1回処理を行った。さらにこれを高圧衝突型分散機(商品名:「アルティマイザー」、スギノマシン社製)で10回処理し、セルロース水系懸濁液を得た。このセルロース繊維の繊維幅は250nmであった。最後に水系懸濁液のパルプ濃度を0.5%に調整した。
【0072】
<セルロース水系懸濁液Bの作製方法>
LBKPパルプ(王子製紙社製:水分53.0%、フリーネス600mLcsf)をパルプ濃度が1%になるように水を加えてディスインテグレーターで解繊した。
得られたパルプ懸濁液に対して石臼型分散機(商品名:「スーパーマスコロイダー」、増幸産業社製)を用いて4回処理を行った。さらにこれを高圧衝突型分散機(商品名:「アルティマイザー」、スギノマシン社製)で20回処理し、セルロース水系懸濁液を得た。最後に水系懸濁液のパルプ濃度を0.5%に調整し、20kHz超音波処理を行った。得られたセルロース繊維の繊維幅は30nmであった。
【0073】
<実施例1>
上記のセルロース水系懸濁液Aを濃度0.5%に希釈したカチオン性ポリウレタン樹脂エマルション(商品名:「スーパーフレックス650」(平均粒子径:0.01μm)、第一工業製薬社製)と表1に示した比率で混合した後、濃度0.3%の硫酸アルミニウム水溶液を1.58部加えて1分間攪拌した。得られた混合液を508メッシュナイロンシート上で吸引脱水した後に90℃のシリンダードライヤーで0.2MPaに加圧しながら乾燥し、微細繊維状セルロースコンポジットシートを得た。
【0074】
上記カチオン性ポリウレタン樹脂エマルションを10〜30部添加することで、セルロースのみの場合と比べて比引張強さはほぼ同等かそれ以上になり、加えて湿度に対する寸法安定性、防湿性能を向上させることができた。
【0075】
【表1】
【0076】
<実施例2>
上記のセルロース水系懸濁液Bを濃度0.5%に希釈したアニオン性ポリエチレンエマルション(商品名:「E−2213」(平均粒子径:0.07μm)、東邦化学工業社製)と表2に示した比率で混合した後、濃度0.3%の硫酸アルミニウム水溶液を1.58部加えて1分間攪拌した。得られた混合液を508メッシュナイロンシート上で吸引脱水した後に90℃のシリンダードライヤーで0.2MPaに加圧しながら乾燥し、微細繊維状セルロースコンポジットシートを得た。
【0077】
上記アニオン性ポリエチレンエマルションを10〜30部添加することで、セルロースのみの場合と比べて比引張強さはほぼ同等かそれ以上になり、加えて湿度に対する寸法安定性、防湿性能を向上させることができた。
【0078】
【表2】
【0079】
<実施例3>
上記のセルロース水系懸濁液Bと濃度0.5%に希釈した酸変性スチレン−ブタジエン(SBR)共重合体ラテックス(商品名:「ピラテックス J9049」、日本エイアンドエル社製、固形分49%、Tg:−40℃、粒子径220nm)とを表3に示した比率で混合した後、濃度0.3%の硫酸アルミニウム水溶液を1.58部加えて1分間攪拌した。得られた混合液を508メッシュナイロンシート上で吸引脱水した後に90℃のシリンダードライヤーで0.2MPaに加圧しながら乾燥し、微細繊維状セルロースコンポジットシートを得た。
【0080】
上記酸変性スチレン−ブタジエン(SBR)共重合体エマルションを20部添加することで、セルロースのみの場合と比べて比引張強さはほぼ同等になり、加えて湿度に対する寸法安定性、防湿性能を向上させることができた。また、スチレン−ブタジエン(SBR)共重合体エマルションの配合部数が40〜60部のところでは、セルロースのみの場合と比べ引張強度は低いものの湿度に対する寸法安定性、防湿性能を向上させることができた。
【0081】
【表3】
【0082】
<実施例4>
上記のセルロース水系懸濁液Bと濃度0.5%に希釈したアニオン性アクリル系エマルション(商品名:「VONCOAT CP−6190」、DIC社製、固形分40%、Tg:43℃、粒子径100nm)とを表4に示した比率で混合した後、濃度0.3%の硫酸アルミニウム水溶液を1.58部加えて1分間攪拌した。得られた混合液を508メッシュナイロンシート上で吸引脱水した後に90℃のシリンダードライヤーで0.2MPaに加圧しながら乾燥し、微細繊維状セルロースコンポジットシートを得た。
【0083】
上記アニオン性アクリル系エマルションを20部添加することで、セルロースのみの場合と比べて比引張強さはほぼ同等になり、加えて湿度に対する寸法安定性、防湿性能を向上させることができた。また、アニオン性アクリル系エマルションの配合部数が40〜60部のところでは、セルロースのみの場合と比べ引張強度は低いものの湿度に対する寸法安定性、防湿性能を向上させることができた。
【0084】
【表4】
【0085】
<実施例5>
上記のセルロース水系懸濁液Bと濃度0.5%に希釈したアニオン性ポリプロピレン系エマルション(商品名:「HYTEC E−8045」、東邦化学工業社製、固形分25%、融点:156℃、粒子径150nm)とを表5に示した比率で混合した後、濃度0.3%の硫酸アルミニウム水溶液を1.58部加えて1分間攪拌した。得られた混合液を508メッシュナイロンシート上で吸引脱水した後に90℃のシリンダードライヤーで0.2MPaに加圧しながら乾燥し、微細繊維状セルロースコンポジットシートを得た。
【0086】
上記アニオン性ポリプロピレン系エマルションを20部添加することで、セルロースのみの場合と比べて比引張強さはほぼ同等になり、加えて湿度に対する寸法安定性、防湿性能を向上させることができた。また、アニオン性ポリプロピレン系エマルションの配合部数が40〜60部のところでは、セルロースのみの場合と比べ引張強度は低いものの湿度に対する寸法安定性、防湿性能を向上させることができた。
【0087】
【表5】
【0088】
<実施例6>
上記のセルロース水系懸濁液Bと濃度0.5%に希釈したカチオンポリウレタンエマルション(商品名:「スーパーフレックス650」(平均粒子径:0.01μm)、第一工業製薬社製)とをセルロース:ポリウレタン=50:50(固形分比率)となるように混合した後、濃度0.3%の硫酸アルミニウム水溶液を1.58部添加して1分間攪拌した。得られた混合液を508メッシュナイロンシート上で吸引脱水した後に90℃のシリンダードライヤーで乾燥し、坪量80g/m
2の微細繊維状セルロースコンポジットシート(I)を得た。
上記コンポジットシート(I)を2枚重ね合わせて170℃、2分間熱圧着(圧力10kg/cm
2)して坪量161g/m
2の微細繊維状セルロースコンポジットシートの積層体を得た。
【0089】
<実施例7>
上記のセルロース水系懸濁液Aと濃度0.5%に希釈したカチオン性ポリウレタンエマルション(商品名:「スーパーフレックス650」(平均粒子径:0.01μm)、第一工業製薬社製)とをセルロース:ポリウレタン=90:10(固形分比率)になるように混合した後、濃度0.3%の硫酸アルミニウム水溶液を1.58部加えて1分間攪拌した。得られた混合液を508メッシュナイロンシート上で吸引脱水した後に90℃のシリンダードライヤーで乾燥し、坪量80g/m
2の微細繊維状セルロースコンポジットシート(II)を得た。
上記コンポジットシート(II)の片面に10%に希釈したカチオン性ポリウレタンエマルション(商品名:「スーパーフレックス650」(平均粒子径:0.01μm)、第一工業製薬社製)をバーコーターで塗布、105℃で乾燥して、塗布量1g/m
2のポリウレタン層を形成した(これをコンポジットシート(III)とする。)。別途用意したコンポジットシート(II)の片面と前記ポリウレタン層の面を重ね合わせて170℃、2分間熱圧着(圧力10kg/cm
2)して坪量161g/m
2の微細繊維状セルロースコンポジットシートの積層体を得た。
【0090】
<実施例8>
実施例7のコンポジットシート(III)をポリウレタン層面とポリウレタン層が形成されていない面が接するように5枚重ね合わせて170℃、5分間熱圧着(圧力10kg/cm
2)して坪量404g/m
2の微細繊維状セルロースコンポジットシートの積層体を得た。
【0091】
<実施例9>
ポリエチレンエマルション(商品名:「E−2213」、東邦化学工業社製)を用いたこと以外は実施例7と同様にして坪量80g/m
2の微細繊維状コンポジットシート(IV)を得た。
上記コンポジットシート(IV)の片面に10%に希釈したポリエチレンエマルション(商品名:「E−2213」、東邦化学社製)をバーコーターで塗布、105℃で乾燥して、塗布量1g/m
2のポリエチレン層を形成した(これをコンポジットシート(V)とする。)。コンポジットシート(V)をポリエチレン層面とポリエチレン層が形成されていない面が接するように15枚重ね合わせて170℃、15分間熱圧着(圧力10kg/cm
2)して坪量1214g/m
2の微細繊維状セルロースコンポジットシートの積層体を得た。
【0092】
【表6】
【0093】
<評価方法>
1.引張試験
引張試験はJIS P 8113:1998に準じて行った。スパン長は100mm、引張速度は10mm/minで試験を行った。
【0094】
2.湿度伸縮測定
湿度伸縮試験は佐川製作所製の湿度伸縮測定装置を用いて行った。20gのおもりで荷重をかけながら、チャンバー内の湿度を(a)50%RH、(b)85%RH、(c)25%RH、(d)85%RH、(e)25%RHの湿度履歴を与えた後に、更に80%RH、25%RHの順に変更し、両者の伸縮量を測定し、下式により湿度伸縮率を計算した。
湿度伸縮率(%)=(湿度80%RH時伸縮量−湿度25%RH時伸縮量)/スパン長×100
【0095】
3.透湿度
JIS Z 0208:1976防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)条件Bに準拠して行った。各シートの坪量が異なったため、透湿度が坪量と比例すると仮定し、実測値を30g/m
2シート時の値に換算して透湿度を求めた。
【0096】
表1〜5から明らかなように本発明の微細繊維状セルロースコンポジットシートの製造方法によればコンポジットシートが抄紙装置によって容易に作製でき、湿度寸法安定性および防湿性能を向上させた、しかもシートの比引張強さの強いものが得られる。
また、表6から明らかなように、本発明の微細繊維状セルロースコンポジットシート積層体の製造方法によれば、コンポジットシート積層体が容易に作製でき、コンポジットシート積層体の引張破断強度が強く、引張弾性率が高いコンポジットシート積層体が得られる。