特許第5747861号(P5747861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747861
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】グリルシャッタ装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 11/04 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
   B60K11/04 J
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-100087(P2012-100087)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-226924(P2013-226924A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】北芝 真之
【審査官】 田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−109020(JP,U)
【文献】 米国特許第7717208(US,B2)
【文献】 特開2012−035829(JP,A)
【文献】 特開2010−149691(JP,A)
【文献】 米国特許第7498926(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/00−15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のラジエータよりも前側に配置され、前記ラジエータの前方に導入される空気の量を調整するグリルシャッタ装置であって、
前後方向に貫通する開口部を有するアウタグリルと、
前記アウタグリルに後側から取付けられるインナグリルと、
前記アウタグリルと前記インナグリルの間に配置され、かつ前記アウタグリル及び前記インナグリルの少なくとも一方に設けられた支持部により前後動可能に支持されるシャッタと、
前記アウタグリルと前記インナグリルの間に配置され、かつ前記シャッタを前記支持部に沿って前後動させて、前記開口部を開閉させるアクチュエータと
を備えることを特徴とするグリルシャッタ装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記アウタグリルと前記インナグリルの間において前後方向に延びる棒状をなし、前記シャッタに挿通されている請求項1に記載のグリルシャッタ装置。
【請求項3】
前記支持部は前記アウタグリルから後方へ延びており、
前記インナグリルは、締結部材により前記支持部に締結されることで、前記アウタグリルに後側から取付けられている請求項1又は2に記載のグリルシャッタ装置。
【請求項4】
前記インナグリルは前記アウタグリルとともに、前記シャッタ、前記支持部及び前記アクチュエータを包み込んでいる請求項1〜3のいずれか1つに記載のグリルシャッタ装置。
【請求項5】
前記インナグリルにおいて、前記開口部の後方となる箇所とは異なる箇所にはインナ開口部が設けられている請求項4に記載のグリルシャッタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のラジエータよりも前側に配置され、そのラジエータの前方に導入される空気の量を調整するグリルシャッタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の前端部には、エンジンルーム内に配置されたラジエータの前方に空気を導入するフロントグリル(ラジエータグリルとも呼ばれる)が配置されている。そして、フロントグリルを通過し、ラジエータの前方へ導入された空気との熱交換によって、ラジエータ内のエンジン冷却水が冷却され、エンジンのオーバーヒートが抑制される。また、フロントグリルは、車両の意匠性を高める機能も有している。
【0003】
しかしながら、例えば、冬期におけるエンジン始動直後の暖機運転時には、温度の低い空気がフロントグリルを通過してラジエータに触れるため、暖機の効率が低い。また、車両の高速走行時には、ラジエータ内のエンジン冷却水が、エンジンルーム内を速く流れる空気によって過冷却されたり、エンジンルーム内で空気の乱流が発生し、車両の空力が低下したりするおそれがある。
【0004】
そこで、上記フロントグリルに代え、ラジエータの前方に導入される空気の量を調整するグリルシャッタ装置を、ラジエータよりも前側に配置することが考えられている。
例えば、特許文献1に記載されたグリルシャッタ装置では、車両の前後方向に延びるレールが車体側の部材に設けられ、このレールにより、スライダが前後方向への移動可能に支持されている。シャッタは板状をなし、上記スライダの前端部から垂下している。また、車体側の部材にはモータが取付けられており、このモータの出力軸に取付けられたギヤが上記スライダに噛み合わされている。そして、モータの出力軸の回転がギヤを通じてスライダに伝達され、同スライダがレールに沿って前後方向へ移動させられる。この移動に伴いシャッタがラジエータよりも前側において前後方向へ移動し、車両の前端部のグリル開口部が開閉される。グリル開口部がシャッタによって閉鎖される、又はそれに近い状態にされると、グリル開口部を通じてラジエータの前方に導入される空気の量が少なくなり、上記暖機の効率低下や過冷却が抑制されるとともに、車両の受ける空力的損失が少なくなる。また、グリル開口部の周りの外観がシャッタの前後位置に応じて変化し、意匠性も向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−518221号公報(図5図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1に記載された技術では、スライダを支持するレールや、スライダをレールに沿って前後方向へ移動させるモータが、車体側の部材に取付けられる構成のため、グリルシャッタ装置の周辺部分の構造が複雑になる。また、そうしたレールやモータを配置するためのスペースがグリルシャッタ装置の外部に必要となる。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、周辺部分の構造を簡単にすることができ、主要な構成部材を配置するためのスペースを外部に確保しなくてもすむグリルシャッタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車両のラジエータよりも前側に配置され、前記ラジエータの前方に導入される空気の量を調整するグリルシャッタ装置であって、前後方向に貫通する開口部を有するアウタグリルと、前記アウタグリルに後側から取付けられるインナグリルと、前記アウタグリルと前記インナグリルの間に配置され、かつ前記アウタグリル及び前記インナグリルの少なくとも一方に設けられた支持部により前後動可能に支持されるシャッタと、前記アウタグリルと前記インナグリルの間に配置され、かつ前記シャッタを前記支持部に沿って前後動させて前記開口部を開閉させるアクチュエータとを備えることを要旨とする。
【0009】
上記の構成によれば、グリルシャッタ装置よりも前方の空気は、アウタグリルの開口部を通ってアウタグリルとインナグリルの間へ流入することが可能である。
一方、アクチュエータによってシャッタが支持部に沿って前後動させられると、同シャッタはアウタグリルの開口部に対し接近及び離間する。このシャッタは、開口部を通過しようとする空気の抵抗となる。シャッタが開口部に近いほど、同シャッタによる空気の通過に対する抵抗が大きくなる。この抵抗は、シャッタが開口部に入り込んで、同開口部が閉鎖されたときに最大となる。そして、シャッタによる抵抗が大きくなるに従い、開口部を通過する空気の量が少なくなる。
【0010】
上記アウタグリルの開口部に接近及び離間するシャッタ、同シャッタを支持する支持部、シャッタを前後動させるアクチュエータは、アウタグリルとこれに後側から取付けられたインナグリルとの間に設けられている。すなわち、グリルシャッタ装置では、その前端がアウタグリルによって構成され、後端がインナグリルによって構成され、シャッタ、支持部及びアクチュエータが、アウタグリルとインナグリルの間に配置された構成となっている。そのため、シャッタ、支持部及びアクチュエータを、アウタグリル及びインナグリルの外部に配置しなくてもすみ、グリルシャッタ装置として、まとめて車両に組付けることができるため、組付け作業が簡単である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記支持部は、前記アウタグリルと前記インナグリルの間において前後方向に延びる棒状をなし、前記シャッタに挿通されていることを要旨とする。
【0012】
上記の構成によれば、アウタグリルとインナグリルの間に配置されたシャッタは、アクチュエータによって、アウタグリルとインナグリルの間で前後方向に延びる棒状の支持部に沿って前後動させられることで、アウタグリルの開口部に接近及び離間して同開口部を開閉する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記支持部は前記アウタグリルから後方へ延びており、前記インナグリルは、締結部材により前記支持部に締結されることで、前記アウタグリルに後側から取付けられていることを要旨とする。
【0014】
上記の構成によれば、アウタグリルから後方へ延びる支持部に対し、インナグリルが締結部材により締結されることで、インナグリルのアウタグリルに対する後側からの取付けが行なわれる。
【0015】
このように、上記支持部は、シャッタを支持する機能、及びシャッタの前後動をガイドする機能を発揮するほか、インナグリルが締結される箇所、すなわち被締結部としても機能する。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記インナグリルは前記アウタグリルとともに、前記シャッタ、前記支持部及び前記アクチュエータを包み込んでいることを要旨とする。
【0017】
上記の構成によれば、グリルシャッタ装置では、アウタグリル及びインナグリルが、シャッタ、支持部及びアクチュエータを包み込んで保護する。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記インナグリルにおいて、前記開口部の後方となる箇所とは異なる箇所にはインナ開口部が設けられていることを要旨とする。
【0018】
上記の構成によれば、シャッタがアウタグリルの開口部よりも後方へ移動して、同開口部が開放された状態では、グリルシャッタ装置よりも前方の空気が、開口部を通ってアウタグリルとインナグリルの間へ流入する。この空気は、インナグリルにおいて、上記開口部の後方となる箇所とは異なる箇所に設けられたインナ開口部を通って、インナグリルよりも後方へ流れ、ラジエータの前方に導かれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のグリルシャッタ装置によれば、アウタグリルとインナグリルの間に、シャッタ、支持部及びアクチュエータを設ける構成を採用したため、周辺部分の構造を簡単にすることができ、主要な構成部材であるシャッタ、支持部及びアクチュエータを配置するためのスペースを外部に確保しなくてもすむ。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を具体化した一実施形態を示す図であり、グリルシャッタ装置の一部(車幅方向についての半分)の分解斜視図。
図2】一実施形態におけるグリルシャッタ装置の正面図。
図3図2の3−3線に沿ったグリルシャッタ装置の断面構造を示す断面図。
図4図2の4−4線に沿ったグリルシャッタ装置の断面構造を示す断面図。
図5】アクチュエータ及び伝達機構の変更例を示す図であり、(A)はシャッタを前進させてアウタグリルの開口部を閉鎖した状態を示す部分断面図、(B)はシャッタを後退させて開口部を開放した状態を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図1図4を参照して説明する。
なお、以下の説明では、車両の前進方向を前方と記載し、それを基準に前、後、上、下、左、右を規定している。また、各図において、「前」は車両前側を、「後」は車両後側をそれぞれ示している。さらに、図1では、図示の関係上、アウタグリル10、インナグリル20及びシャッタ30における各部が厚みのない状態で描かれている。
【0022】
図1及び図2に示すように、車両の前端部であって、エンジンルーム内に配置されたラジエータ9(図3図4参照)の前側には、同ラジエータ9の前方に空気を導入するとともに、その空気の量を調整するグリルシャッタ装置が設けられている。なお、図3及び図4中のラジエータ9は、グリルシャッタ装置との関係において前後位置を示しているにすぎず、形状や大きさは示していない。グリルシャッタ装置はアウタグリル10、インナグリル20、シャッタ30、支持部13、アクチュエータ40及び伝達機構50を備えている。グリルシャッタ装置における上記構成部材のうち、アウタグリル10、インナグリル20及びシャッタ30はいずれも、硬質の合成樹脂によって、車幅方向に延びる横長の形状に形成されている。
【0023】
アウタグリル10の車幅方向及び上下方向についての中央部分には、略楕円形をなす取付孔11が設けられている。また、アウタグリル10において、上記取付孔11の周りの複数箇所には、前後方向に貫通する開口部12が設けられている。これらの開口部12は、互いに上下方向に離間した状態で、それぞれ車幅方向へ延びている。
【0024】
図1図3及び図4に示すように、インナグリル20は、上記アウタグリル10の後側に配置されている。インナグリル20は、その後部を占める基部21と、基部21の周縁部に設けられた周壁部23とを備えている。基部21の車幅方向及び上下方向についての中央部分には、略楕円形をなす取付孔22が設けられている。周壁部23の一部は取付孔22の周りにも設けられている。インナグリル20は、周壁部23の前端においてアウタグリル10の後面に当接されている。基部21は、周壁部23の分、アウタグリル10から後方へ一定距離離れている。
【0025】
インナグリル20をアウタグリル10に後側から取付けるために、次の構成が採用されている。図2及び図4に示すように、アウタグリル10の複数箇所には、それぞれ後方へ延びる棒状の支持部13が形成されている。各支持部13の後端面は、上記インナグリル20の基部21の前面に当接されている。各支持部13には、その後端面から前方へ延びるねじ孔14が形成されている。また、インナグリル20においてねじ孔14の後方となる箇所にはねじ挿通孔24があけられている。そして、インナグリル20の後方から締結部材としてのねじ25が、ねじ挿通孔24に挿通され、ねじ孔14に螺入されている。これらのねじ25によってインナグリル20が各支持部13に締結されることで、インナグリル20がアウタグリル10に対し後側から取付けられている。このように、支持部13はインナグリル20が締結される箇所、すなわち被締結部としても機能する。
【0026】
図1図3及び図4に示すように、シャッタ30は、上記アウタグリル10及びインナグリル20によって前後から挟まれた空間に配置されている。シャッタ30の車幅方向及び上下方向についての中央部分には、略楕円形をなす取付孔31が設けられている。この取付孔31を含め、上述した両取付孔11,22は、エンブレム、ミリ波レーダ等を配置及び取付けるための孔である。シャッタ30は、それぞれ車幅方向に細長い複数のシャッタ片32を備えている。各シャッタ片32は、アウタグリル10の上記開口部12に対応した大きさ及び形状に形成されており、互いに上下方向に離間している。
【0027】
上記複数のシャッタ片32は、連結部33によって相互に連結されている。これらの連結部33において、アウタグリル10の上記支持部13に対応する複数箇所には支持孔34があけられている。そして、複数の支持部13が、対応する支持孔34に挿通されている。そのため、シャッタ30は、各シャッタ片32が開口部12内に入り込んで同開口部12を閉鎖する位置と、各シャッタ片32がアウタグリル10から後方へ遠ざかって開口部12を開放する位置との間で、支持部13に沿って前後方向へ移動可能である。この際、各支持部13は、シャッタ30を支持する機能と、シャッタ30の前後動をガイドする機能と、シャッタ30の回転を規制する機能とを発揮する。
【0028】
各支持部13の周囲であって、アウタグリル10とシャッタ30の連結部33との間には、コイルばね35が圧縮状態で配置されている。これらのコイルばね35は、シャッタ30の連結部33を後方へ弾性付勢し、前後方向に対し直交する姿勢に保つことを目的として用いられている。
【0029】
インナグリル20において、取付孔22から車幅方向について互いに反対方向へ離間した2箇所には、取付凹部26がそれぞれ形成されている。各取付凹部26は前面において開口している。
【0030】
アクチュエータ40は、シャッタ30を支持部13に沿って前後方向へ移動させるためのものであり、正逆回転可能なモータ、ギヤ機構等を内蔵している。各アクチュエータ40は、上記取付凹部26と同数(この場合、2つ)設けられており、同取付凹部26内に収容されている。そして、各アクチュエータ40は、取付凹部26の内底面等における複数箇所に対し、ねじ41によって締結されている。
【0031】
伝達機構50は、アクチュエータ40の出力をシャッタ30に伝達して、これを支持部13に沿って前後動させるためのものであり、アクチュエータ40毎に設けられている。各伝達機構50の一部は、アクチュエータ40の出力軸(図示略)に一体回転可能に連結された送りねじ51によって構成されている。送りねじ51は前後方向に延び、外周に雄ねじ(図示略)を有している。
【0032】
シャッタ30において、送りねじ51の前方となる箇所には、円筒部52が後方へ向けて延びている。円筒部52の内周面には雌ねじ52Aが形成されており、この雌ねじ52Aに上記送りねじ51が螺入されている。この雌ねじ52Aを有する円筒部52は、上記送りねじ51とともに伝達機構50を構成している。
【0033】
さらに、インナグリル20において、次の条件を満たす複数箇所には、前後方向に貫通して、空気の流通を許容するインナ開口部27が設けられている。
・取付凹部26とは異なる箇所であること。
【0034】
・アウタグリル10の開口部12の後方となる箇所とは異なる箇所であること。表現を変えると、グリルシャッタ装置を正面から見た場合に、開口部12と重ならない箇所であること。
【0035】
本実施形態では、基部21において、上記条件を満たす複数箇所にインナ開口部27が設けられている。
上記の構成を有するグリルシャッタ装置では、インナグリル20がアウタグリル10とともに、シャッタ30、支持部13、各アクチュエータ40及び各伝達機構50を包み込んでいる。また、図示はしないが、インナグリル20の周壁部23の複数箇所には取付部が設けられており、グリルシャッタ装置は、これらの取付部において、ねじ等の締結部材により、ラジエータ9の付近の車体側の部材に締結されている。すなわち、グリルシャッタ装置は、アウタグリル10よりもラジエータ9に近い箇所に位置するインナグリル20において、車体側の部材に取付けられている。
【0036】
次に、本実施形態のグリルシャッタ装置の作用について説明する。
グリルシャッタ装置では、アウタグリル10の開口部12、アウタグリル10とインナグリル20とによって挟まれた空間、シャッタ30において隣り合うシャッタ片32間、インナグリル20のインナ開口部27等が、空気の流路となり得る。グリルシャッタ装置よりも前方の空気は、この流路を流れようとする。
【0037】
一方、アウタグリル10とインナグリル20の間に配置されたアクチュエータ40が作動して送りねじ51が回転駆動させられると、その回転が円筒部52の雌ねじ52Aに伝達される。この際、シャッタ30では、連結部33の複数箇所に設けられた支持孔34に対し、アウタグリル10とインナグリル20の間で前後方向に延びる棒状の支持部13が挿通されている。これらの支持部13は、シャッタ30の動きのうち、前後方向の動きのみを許容する。各支持部13がシャッタ30の動きを規制するものの中には、シャッタ30の回転が含まれる。
【0038】
そのため、シャッタ30は送りねじ51の回転に伴い、各支持部13に沿って前後動させられる。シャッタ30の各シャッタ片32は、アウタグリル10の各開口部12に対し、接近及び離間する。この際、複数箇所に配置されたコイルばね35は、連結部33を後方へ弾性付勢し、前後方向に対し直交する姿勢に保つ。そのため、連結部33が送りねじ51と円筒部52との螺合部分を支点として、傾くことが起こりにくい。
【0039】
上記各シャッタ片32は、対応する開口部12を通じてグリルシャッタ装置内(アウタグリル10とインナグリル20の間)へ流入しようとする空気の抵抗となる。この抵抗は、図3において実線で示し、図4において二点鎖線で示すように、シャッタ30が可動範囲の前端まで移動して開口部12に入り込み、同開口部12を閉鎖したときに最大となる。
【0040】
なお、シャッタ30は、例えば、冬期におけるエンジン始動直後の暖機運転時や車両の高速走行時に、アクチュエータ40により可動範囲の前端まで移動させられる。全部の開口部12がシャッタ片32によって閉鎖されると、シャッタ片32による空気の流入に対する抵抗が最大となり、各開口部12を通じてグリルシャッタ装置内に流入する空気の量、ひいてはラジエータ9の前方へ導かれる空気の量が最小となる。温度の低い空気が各開口部12を通過してラジエータ9に触れることが起こりにくくなり、暖機の効率が向上する。特に、冬期には空気の温度が低いため、この空気がエンジン始動時等にラジエータ9に触れると、エンジン冷却水が冷却されてエンジンの暖機時間(暖機状態になるまでの時間)が長くなる。しかし、本実施形態では、アウタグリル10の各開口部12がシャッタ片32によって閉鎖されるため、グリルシャッタ装置を通過した空気がラジエータ9に触れてエンジン冷却水が冷却されることが抑制され、上記暖機時間の短縮が図られる。
【0041】
また、車両の高速走行時にラジエータ9内のエンジン冷却水が、エンジンルーム内を速く流れる空気によって過冷却されることが抑制される。さらに、車両の高速走行時にエンジンルーム内で空気の乱流が発生して、車両の空力が低下する現象が抑制される。すなわち、高速走行時に車両の受ける空力的損失が少なくなる。
【0042】
これに対し、シャッタ30による空気に対する上記抵抗は、各シャッタ片32が各開口部12から後方へ遠ざかるほど小さくなる。そして、上記抵抗は、図3において二点鎖線で示し、図4において実線で示すように、シャッタ30が可動範囲の後端まで移動し、開口部12から後方へ大きく遠ざかったときに最小となる。
【0043】
こうしたシャッタ30の動きは、例えば、エンジンのオーバーヒートを抑制するためにラジエータ9の冷却が必要なときに行なわれる。シャッタ片32による抵抗が最小となり、多くの空気が開口部12を通じてグリルシャッタ装置内に流入する。この空気は、インナグリル20において、開口部12の後方となる箇所とは異なる箇所に設けられたインナ開口部27を通って、インナグリル20よりも後方、すなわちラジエータ9の前方へ導かれる。この空気はラジエータ9に触れ、ラジエータ9内のエンジン冷却水を冷却する。
【0044】
ところで、上記アウタグリル10の各開口部12に接近及び離間するシャッタ片32を有するシャッタ30、同シャッタ30を支持する支持部13、シャッタ30を前後動させるアクチュエータ40は、アウタグリル10とこれに後側から取付けられたインナグリル20との間に設けられている。すなわち、グリルシャッタ装置では、その前端がアウタグリル10によって構成され、後端がインナグリル20によって構成され、それ以外の主要な構成部材であるシャッタ30、支持部13及びアクチュエータ40が、アウタグリル10とインナグリル20の間に配置された構成となっている。そのため、シャッタ30、支持部13及びアクチュエータ40を、アウタグリル10及びインナグリル20の外部に配置する必要がない。
【0045】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)開口部12を有するアウタグリル10と、そのアウタグリル10に後側から取付けられたインナグリル20との間に、シャッタ30と、同シャッタ30を前後動可能に支持する支持部13と、シャッタ30を支持部13に沿って前後動させるアクチュエータ40とを配置する構成を採用している(図1)。
【0046】
そのため、スライダを支持するレールや、スライダをレールに沿って前後方向へ移動させるモータが、車体側の部材に取付けられる特許文献1とは異なり、グリルシャッタ装置の周辺部分の構造を簡単にすることができる。また、グリルシャッタ装置の主要な構成部材であるシャッタ30、支持部13及びアクチュエータ40を配置するためのスペースを、アウタグリル10及びインナグリル20の外部に確保しなくてもすむ。
【0047】
また、グリルシャッタ装置(インナグリル20)を車体側の部材に取付けるだけで、同グリルシャッタ装置の構成部材を、まとめてラジエータ9の前方の所望の箇所に配置することができる。支持部13、アクチュエータ40等を車体側の部材に取付ける作業を行なわなくてもすみ、取付け作業性に優れる。
【0048】
(2)支持部13を、アウタグリル10とインナグリル20の間において前後方向に延びる棒状に形成し、シャッタ30の支持孔34に挿通している(図4)。
そのため、シャッタ30を、アクチュエータ40によって、支持部13に沿って前後動させることで、シャッタ片32をアウタグリル10の開口部12に接近及び離間させて同開口部12を開閉することができる。
【0049】
(3)支持部13をアウタグリル10から後方へ延ばす。そして、インナグリル20を、ねじ25により支持部13に締結することで、アウタグリル10に後側から取付けている(図4)。
【0050】
そのため、支持部13に、シャッタ30を支持する機能、シャッタ30の前後動をガイドする機能を発揮させるほか、インナグリル20が締結される箇所、すなわち被締結部としても機能させることができる。これらの機能を別々の部材によって発揮させる場合に比べ、グリルシャッタ装置の部品点数を少なくすることができる。
【0051】
(4)アウタグリル10及びインナグリル20により、シャッタ30、支持部13、アクチュエータ40及び伝達機構50を包み込むようにしている。
そのため、アウタグリル10及びインナグリル20をグリルシャッタ装置の外殻部材として機能させることができる。シャッタ30、支持部13、アクチュエータ40及び伝達機構50をアウタグリル10及びインナグリル20によって保護することができる。また、シャッタ30、支持部13、アクチュエータ40及び伝達機構50が露出するのを抑制することもできる。
【0052】
(5)アウタグリル10とともにシャッタ30、支持部13、アクチュエータ40及び伝達機構50を包み込むインナグリル20にあって、開口部12の後方となる箇所とは異なる箇所にインナ開口部27を設けている(図1)。
【0053】
そのため、アウタグリル10の開口部12を通ってグリルシャッタ装置内へ流入した空気を、インナ開口部27を通じインナグリル20よりも後方へ流れさせ、ラジエータ9の前方へ導くことができる。
【0054】
(6)伝達機構50として、送りねじ51と、雌ねじ52Aを有する円筒部52とを用いている(図1図3)。
そのため、モータによる送りねじ51の回転量を調整することで、シャッタ30を可動範囲の途中で停止させることができる。
【0055】
(7)インナグリル20に取付部を設け、グリルシャッタ装置を、この取付部において、ラジエータ9の付近の車体側の部材に締結している。すなわち、グリルシャッタ装置を、アウタグリル10よりもラジエータ9に近い箇所に位置するインナグリル20において、車体側の部材に取付けている。
【0056】
そのため、取付部を、アウタグリル10に設けられる場合よりも短くすることができる。
(8)シャッタ30を前後動させることでアウタグリル10の開口部12を開閉するようにしている(図3図4)。
【0057】
そのため、シャッタ30が前進して開口部12を閉じたときと、シャッタ30が後退して開口部12を開放したときとでグリルシャッタ装置の外観を異ならせ、意匠性を高めることができる。
【0058】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<支持部13について>
・支持部13は、アウタグリル10に代えてインナグリル20に設けられてもよいし、アウタグリル10及びインナグリル20の両方に設けられてもよい。
【0059】
前者の場合、支持部13はインナグリル20から前方へ延出されてもよい。
後者の場合、支持部13はアウタグリル10から後方へ延びるものと、インナグリル20から前方へ延びるものとの組合わせによって構成されてもよい。
【0060】
・支持部13は、次の事項を満たすことを条件として、上記実施形態とは異なる態様に変更されてもよい。
事項1:アウタグリル10及び前記インナグリル20の少なくとも一方に設けられること。
【0061】
事項2:シャッタ30を前後動可能に支持すること
例えば、インナグリル20では、その周壁部23が、シャッタ30の移動方向と同じ方向である前後方向へ延びている。このことを利用して、インナグリル20の周壁部23が支持部13として利用されてもよい。この場合、シャッタ30は周壁部23に沿って前後動させられる。
【0062】
<インナグリル20について>
・上記実施形態では、インナグリル20として、アウタグリル10とともにシャッタ30、支持部13、アクチュエータ40及び伝達機構50を包み込む形状及び大きさを有するもの、特に車幅方向に細長いものが採用されたが、次の事項を満たすことを条件に、上記実施形態よりも小型のものが採用されてもよい。
【0063】
事項3:アウタグリル10との間にシャッタ30の可動空間を形成すること。
事項4:アウタグリル10に後側から取付けられること。
この場合には、インナグリル20の小型化に伴い、インナ開口部27を割愛することも可能となる。
【0064】
・インナグリル20は、ねじ25とは異なる締結部材によって支持部13に締結されてもよい。
・インナグリル20は、支持部13とは異なる箇所においてアウタグリル10に取付けられてもよい。
【0065】
・インナ開口部27は、基部21に代えて、又は加えて周壁部23に設けられてもよい。
<シャッタ30の停止位置について>
・シャッタは、可動範囲の前端及び後端の2位置で停止されてもよいし、それに加え、可動範囲の中間位置で停止されてもよい。
【0066】
<アクチュエータ40及び伝達機構50について>
・上記実施形態において、アクチュエータ40の数が1又は3以上に変更されてもよい。1つの場合、アクチュエータ40は、アウタグリル10とインナグリル20の間であって、車幅方向についての中央部、例えば、取付孔11,22,31の直下に配置されてもよい。
【0067】
・アクチュエータ40は、インナグリル20に代えて又は加えてアウタグリル10に取付けられてもよい。
・シャッタ30は、伝達機構50を介することなくアクチュエータ40によって直接前後動させられてもよい。
【0068】
・アクチュエータ40及び伝達機構50として、上記実施形態とは異なるものが用いられてもよい。図5(A),(B)はその一例を示している。
この変更例では、アクチュエータ40としてモータ61が用いられている。モータ61の出力をシャッタ30に伝達して前後動させるための伝達機構50として、ギヤ63、ラックギヤ64及びピニオンギヤ65が用いられている。
【0069】
ギヤ63は、モータ61の出力軸62に一体回転可能に取付けられている。ラックギヤ64は、シャッタ30に設けられて、後方へ延びている。ピニオンギヤ65は、ギヤ63とラックギヤ64との間に配置され、それらのギヤ63及びラックギヤ64の両者に噛み合わされている。
【0070】
この変更例の場合、モータ61の出力軸62がギヤ63を伴って回転すると、その回転方向とは逆方向にピニオンギヤ65が回転する。そのピニオンギヤ65の回転に伴いラックギヤ64が前後方向へ移動する。シャッタ30は、図5(A)に示すように、シャッタ片32がアウタグリル10に接近して開口部12を閉鎖する位置と、図5(B)に示すように、シャッタ片32がアウタグリル10から後方へ遠ざかって開口部12を開放する位置との間で前後動する。
【0071】
また、この場合、次のように構成することで、単一のモータ61で複数のラックギヤ64を前後動させることができる。シャッタ30の複数箇所には、それぞれ後方へ延びるラックギヤ64が設けられる。ラックギヤ64毎に、同ラックギヤ64に噛み合うピニオンギヤ65が設けられる。複数のピニオンギヤ65は共通のシャフト66によって一体回転可能に連結される。そして、いずれかのピニオンギヤ65に上記ギヤ63が噛み合わされる。
【0072】
この変更例では、モータ61の回転に伴いギヤ63が回転し、同ギヤ63に噛み合ったピニオンギヤ65が回転駆動されると、そのピニオンギヤ65の回転がシャフト66を通じて他のピニオンギヤ65に伝達される。その結果、複数のラックギヤ64が同時に前後動させられる。
【0073】
なお、上記変更例において、ラックギヤ64と同数のモータ61が用いられてもよい。この場合には、ピニオンギヤ65を介することなくモータ61毎のギヤ63がラックギヤ64に直接噛み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0074】
9…ラジエータ、10…アウタグリル、12…開口部、13…支持部、20…インナグリル、25…ねじ(締結部材)、27…インナ開口部、30…シャッタ、40…アクチュエータ。
図1
図2
図3
図4
図5