特許第5747872号(P5747872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5747872-硝酸の回収方法 図000015
  • 特許5747872-硝酸の回収方法 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747872
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】硝酸の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/40 20060101AFI20150625BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20150625BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C01B21/40 Z
   C02F1/20 Z
   C02F1/70 Z
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-142826(P2012-142826)
(22)【出願日】2012年6月26日
(65)【公開番号】特開2014-5178(P2014-5178A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】592176815
【氏名又は名称】ミヤマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(72)【発明者】
【氏名】田野 正治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智行
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 一
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−001603(JP,A)
【文献】 特開2011−093786(JP,A)
【文献】 特開2004−250294(JP,A)
【文献】 特開平04−092805(JP,A)
【文献】 特開平09−075680(JP,A)
【文献】 特開2003−175315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/24−21/46
C02F 1/20
G21F 9/00−9/36,541
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸廃液から揮発する気体を第1鉄塩を含む酸溶液に吹き込むとともに、前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体を前記硝酸廃液に吹き込んで、前記硝酸廃液と前記第1鉄塩を含む酸溶液の間で気体を循環させ、前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体に含まれる窒素酸化物を取り出し硝酸に変換して回収することを特徴とする硝酸の回収方法。
【請求項2】
前記第1鉄塩を含む酸溶液は予め鉄(T−Fe)と硫酸(T−SO)のモル比が1.0<(T−SO/T−Fe)<1.5に調整された硫酸第1鉄を含む溶液であって、前記硝酸廃液と前記硫酸第1鉄を含む溶液の間で気体を循環させることにより、前記硫酸第1鉄を含む溶液から揮発する気体に含まれる窒素酸化物を取り出し硝酸に変換して回収すると共に前記硫酸第1鉄を含む溶液中の硫酸第1鉄をポリ硫酸第2鉄に変換してポリ硫酸第2鉄を製造することを特徴とする請求項1記載の硝酸の回収方法。
【請求項3】
前記硝酸廃液は、硝酸又は硝酸塩を含む酸性溶液であることを特徴とする請求項1又は2記載の硝酸の回収方法。
【請求項4】
前記硝酸廃液は、予め硫酸が添加されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の硝酸の回収方法。
【請求項5】
前記第1鉄塩を含む酸溶液は、予め硝酸又は硝酸塩が添加されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の硝酸の回収方法。
【請求項6】
前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体の一部を取り出すことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の硝酸の回収方法。
【請求項7】
前記硝酸廃液と前記第1鉄塩を含む酸溶液の間の気体の循環を密閉系において行い、前記密閉系の内部が所定の圧力を超えたときに、前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体の一部を前記密閉系の外部へ取り出すことを特徴とする請求項6記載の硝酸の回収方法。
【請求項8】
前記硝酸廃液と前記第1鉄塩を含む酸溶液のpHと酸化還元電位を監視することにより、前記硝酸廃液の窒素酸化物への変換反応と前記第1鉄塩を含む酸溶液に含まれる第1鉄塩の第2鉄塩への変換反応を制御することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の硝酸の回収方法。
【請求項9】
前記第1鉄塩を含む酸溶液に含まれる第1鉄塩の第2鉄塩への変換反応の終点において、前記硝酸廃液との間の気体の循環を停止させ、前記硝酸廃液又は前記第1鉄塩を含む酸溶液にパージガスを吹き込んで前記密閉系内に残留する硝酸性窒素ガスを取り出し、この硝酸性窒素ガスを硝酸に変換して回収することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の硝酸の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸廃液から硝酸成分を窒素酸化物の気体として分離して硝酸溶液として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硝酸廃液から硝酸を回収する方法としては、電気透析や電気分解を利用した方法が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。しかし、分離膜が高価であったり、大電力を使用する必要があったりするため、多額の費用がかかるという問題があった。
【0003】
一方、硝酸廃液から、蒸留により硝酸を分離回収する方法が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3を参照。)。しかし、硝酸廃液から硝酸を蒸留により分離回収するためには、加熱や減圧など硝酸を蒸留分離するために多量のエネルギーを投入しなければならない問題があった。また、蒸留により硝酸を分離回収するための特別の設備が必要であり、蒸留分離回収するための装置に腐食防止の措置を施す必要があるなど、装置の構成が複雑になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−185790号公報
【特許文献2】特開2001−54988号公報
【特許文献3】特開平6−57466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、簡単な構成の装置を用いて、低コストで、硝酸や硝酸塩を含む廃液から硝酸を回収し、純度の高い硝酸溶液を得ることができる、新規の硝酸の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の硝酸の回収方法は、硝酸廃液から揮発する気体を第1鉄塩を含む酸溶液に吹き込むとともに、前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体を前記硝酸廃液に吹き込んで、前記硝酸廃液と前記第1鉄塩を含む酸溶液の間で気体を循環させ、前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体に含まれる窒素酸化物を取り出し硝酸に変換して回収することを特徴とする。
【0007】
また、前記第1鉄塩を含む酸溶液は予め鉄(T−Fe)と硫酸(T−SO)のモル比が1.0<(T−SO/T−Fe)<1.5に調整された硫酸第1鉄を含む溶液であって、前記硝酸廃液と前記硫酸第1鉄を含む溶液の間で気体を循環させることにより、前記硫酸第1鉄を含む溶液から揮発する気体に含まれる窒素酸化物を取り出し硝酸に変換して回収すると共に前記硫酸第1鉄を含む溶液中の硫酸第1鉄をポリ硫酸第2鉄に変換してポリ硫酸第2鉄を製造することを特徴とする。
【0008】
また、前記硝酸廃液は、硝酸又は硝酸塩を含む酸性溶液であることを特徴とする。
【0009】
また、前記硝酸廃液は、予め硫酸が添加されたものであることを特徴とする。
【0010】
また、前記第1鉄塩を含む酸溶液は、予め硝酸又は硝酸塩が添加されたものであることを特徴とする。
【0011】
また、前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体の一部を取り出すことを特徴とする。
【0012】
また、前記硝酸廃液と前記第1鉄塩を含む酸溶液の間の気体の循環を密閉系において行い、前記密閉系の内部が所定の圧力を超えたときに、前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体の一部を前記密閉系の外部へ取り出すことを特徴とする。
【0013】
また、前記硝酸廃液と前記第1鉄塩を含む酸溶液のpHと酸化還元電位を監視することにより、前記硝酸廃液の窒素酸化物への変換反応と前記第1鉄塩を含む酸溶液に含まれる第1鉄塩の第2鉄塩への変換反応を制御することを特徴とする。
【0014】
さらに、前記第1鉄塩を含む酸溶液に含まれる第1鉄塩の第2鉄塩への変換反応の終点において、前記硝酸廃液との間の気体の循環を停止させ、前記硝酸廃液又は前記第1鉄塩を含む酸溶液にパージガスを吹き込んで前記密閉系内に残留する硝酸性窒素ガスを取り出し、この硝酸性窒素ガスを硝酸に変換して回収する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硝酸の回収方法によれば、簡単な構成の装置を用いて、低コストで、硝酸や硝酸塩を含む硝酸廃液中から硝酸成分を窒素酸化物として取り出し硝酸を回収し、純度の高い硝酸溶液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の硝酸の回収方法に用いられる装置の一例を示す概略図である。
図2】本発明の硝酸の回収方法の実施例1における第1鉄塩を含む酸溶液中のpH、酸化還元電位、温度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の硝酸の回収方法について説明する。
【0018】
本発明の硝酸の回収方法は、硝酸廃液から揮発する気体を第1鉄塩を含む酸溶液に吹き込むとともに、前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体を前記硝酸廃液に吹き込んで、前記硝酸廃液と前記第1鉄塩を含む酸溶液の間で気体を循環させ、前記第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体に含まれる窒素酸化物を硝酸に変換して回収するものである。
【0019】
すなわち、硝酸廃液から揮発する気体を第1鉄塩を含む酸溶液に吹き込むと、第1鉄塩を含む酸溶液において、第1鉄塩が硫酸第1鉄で酸が硫酸である場合を例にとると、硫酸第1鉄を酸化する以下の反応が開始する。なお、硝酸廃液から揮発する気体は硝酸であり、これが反応開始剤として働く。そして、第1鉄塩を含む酸溶液から、還元形態の窒素酸化物が揮発する。
【0020】
【化1】
【0021】
一方、第1鉄を含む酸溶液から揮発する気体を硝酸廃液に吹き込むと、硝酸廃液において、第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体に含まれる窒素酸化物を酸化する以下の反応が進む。そして、硝酸廃液から、酸化形態の窒素酸化物が揮発する。
【0022】
【化2】
【0023】
その後、硝酸廃液から揮発する気体を第1鉄塩を含む酸溶液に吹き込むと、第1鉄塩を含む酸溶液において、第1鉄塩が硫酸第1鉄で酸が硫酸である場合を例にとると、硫酸第1鉄を酸化する以下の反応が定常的に進む。そして、第1鉄塩を含む酸溶液から、還元形態の窒素酸化物が揮発する。
【0024】
【化3】
【0025】
硝酸廃液と第1鉄塩を含む酸溶液の間で気体を循環させたときの循環ループ内の総合反応式は、第1鉄塩が硫酸第1鉄で酸が硫酸である場合を例にとると、以下のとおりとなる。
【0026】
【化4】
【0027】
以上により、硝酸廃液に溶解していた硝酸成分を、窒素酸化物の気体として分離することができる。この窒素酸化物を硝酸溶液製造の原料ガスとして取り出して、既知の方法により空気と水に接触させ、以下の反応により硝酸に変換する。なお、本発明によれば、硝酸廃液中の硝酸成分を濃度50%以上の硝酸溶液として回収することが可能である。
【0028】
【化5】
【0029】
本発明において、硝酸廃液としては、硝酸ガスが揮発する溶液であればよく、廃棄物を原料にして調整した硝酸又は硝酸塩を含む酸性溶液を用いることができる。ただし、酸性条件下において、硝酸と窒素酸化物以外の気体を揮発するものは、得られる硝酸溶液の純度が低くなるので好ましくない。また、硝酸廃液としては、常温で揮発しない硫酸などの酸を加えたものであってもよい。硝酸廃液に含まれる硝酸塩などの塩に見合う酸を加えることにより硝酸塩から硝酸を遊離することができ、さらに酸を過剰に加えることにより窒素酸化物の揮発に伴って硝酸廃液の酸濃度が低下しても、例示した化1から化4の化学反応速度が低下することを防止することができ、その結果、硝酸の回収率を向上させることができる。なお、塩酸などのハロゲン化水素は安価であるが、揮発しやすいため用いることができない。ただし、含有量が極微量であれば、ハロゲン化水素は不純物として許容される。
【0030】
硝酸廃液の原料として、硝酸又は硝酸塩を含む廃棄物を、液体と固体にかかわらず用いることができる。例えば、金属の硝酸剥離や硝酸パシベート廃液、硝酸塩廃棄物などを利用することができる。硝酸塩廃棄物を利用する場合は、硝酸塩廃棄物を硫酸溶液に所定の酸濃度で溶解すればよい。
【0031】
本発明において、第1鉄塩を含む酸溶液としては、第1鉄塩を含み、酸性であればよく、廃棄物を原料にして調整したものを用いることができる。ただし、硝酸と窒素酸化物以外の気体を揮発するものは、得られる硝酸溶液の純度が低くなるので好ましくない。第1鉄塩を含む酸溶液としては、例えば、銅メッキで使用された硫酸銅廃液や金属銅のエッチングに使用された硫酸銅廃液に金属鉄を加えて銅の鉄置換を行い、得られた硫酸第1鉄溶液に所定量の硫酸薬液や廃硫酸を加えたものを用いてもよく、得られた硫酸第1鉄溶液から硫酸第1鉄7水塩を晶析分離してから、所定量の水と所定量の硫酸薬液や廃硫酸を加えたものを用いてもよく、又は金属鉄の硫酸洗い廃液に所定量の硫酸薬液や廃硫酸を加えたものを用いることができる。なお、第1鉄塩と化3反応式に見合う酸の含有量が多いほど、回収される硝酸の量が多くなる。
【0032】
また、本発明において、第1鉄塩を含む酸溶液は、予め硝酸又は硝酸塩が添加されたものであってもよい。第1鉄塩を含む酸溶液に硝酸又は硝酸塩を加えなくとも反応は開始するが、予め硝酸又は硝酸塩を加えることにより、反応開始時のラグタイムが削減される。すなわち、反応開始物質の硝酸が、第1鉄塩を含む酸溶液へ吸収されて第1鉄塩と反応し、還元形態の窒素酸化物として揮発するまでのラグタイムが短縮される。
【0033】
また、本発明において、第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体の一部を取り出してもよい。還元形態の窒素酸化物を硝酸廃液に吹き込むと、還元形態の窒素酸化物が硝酸廃液中の硝酸により酸化されると同時に、硝酸廃液中の硝酸が還元分解された窒素酸化物が生成する。このため、硝酸廃液と第1鉄塩を含む酸溶液の間で循環する気体の量が反応の進行に伴って増加する。この増加した気体の一部を取り出し、この気体に含まれる窒素酸化物を硝酸に変換して回収することができる。
【0034】
なお、硝酸廃液と第1鉄塩を含む酸溶液の間の気体の循環を密閉系において行い、密閉系の内部が所定の圧力を超えたときに、第1鉄塩を含む酸溶液から揮発する気体の一部を密閉系の外部へ取り出すようにしてもよい。あるいは、溶液の色相、pH、酸化還元電位、反応経過時間などに基づいて、気体の一部を取り出すようにしてもよく、気体の循環開始から反応の終点まで、自動制御により、気体の一部を取り出すようにしてもよい。
【0035】
また、本発明において、硝酸廃液と第1鉄塩を含む酸溶液のpHと酸化還元電位を監視することにより、第1鉄塩を含む酸溶液に含まれる第1鉄塩の第2鉄塩への変換反応を制御するようにしてもよい。このほか、pHと酸化還元電位を監視することにより、変換反応の進行の監視、硝酸回収過程の異常判断、変換反応の終点の判断なども行うことができる。
【0036】
また、本発明において、第1鉄塩を含む酸溶液に含まれる第1鉄塩の第2鉄塩への変換反応の終点において、硝酸廃液との間の気体の循環を停止させ、硝酸廃液又は第1鉄塩を含む酸溶液にパージガスを吹き込んで残留する硝酸性窒素を取り出し、この硝酸性窒素を硝酸に変換して回収してもよい。
【0037】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
図1は、本発明の硝酸の回収方法に用いられる装置の一例を示す概略図である。なお、本発明の硝酸の回収方法に用いられる装置の構成は、本実施形態に限定されず、種々変更可能である。
【0039】
図1において、1は、撹拌機2と、pH計、酸化還元電位計、温度計を備えた計装3と、圧力計11とを備え、第1鉄塩を含む酸溶液が収容されたPVC製円筒形状の反応槽(近似内径150mm、高さ140mm)である。4は、撹拌機5と、pH計、酸化還元電位計、温度計を備えた計装6と、圧力計12とを備え、硝酸廃液が収容されたPVC製円筒形状の反応槽(近似内径150mm、高さ140mm)である。16は、硝酸性窒素ガスを硝酸として回収するための硝酸回収装置である。反応槽1と反応槽4は、密閉構造になっている。反応槽1と反応槽4の間には、反応槽4のヘッドスペースのガスを反応槽1に収容された溶液中に導入するための配管7と、反応槽1のヘッドスペースのガスを反応槽4に収容された溶液中に導入するためにエアーポンプ8を介して配管9と配管10が設けられている。なお、配管7と配管10のガス出口側の先端には、それぞれ反応槽1と反応槽4に収容された溶液と循環導入されるガスとの接触を効率よく行うための図示しないガス散気装置が設けられている。また、反応槽1には、反応槽1のヘッドスペースのガスを硝酸回収装置16に導入するための配管13、15が弁14を介して設けられている。配管9のガス入口側には弁17が設けられており、弁17とポンプ8の間において、配管9には空気を取り入れるための弁20を設けた配管22が設けられている。配管10のガス出口側には弁18が、配管7のガス入口側には弁19が設けられており、配管10と配管7の間には、反応槽4をバイパスする経路を形成するための弁21を設けた配管23が設けられている。反応終了後に弁18と弁19を閉じると配管9、エアーポンプ8、配管10、配管7、反応槽1内に残留する硝酸性窒素ガスをパージできる構造となっている。
【0040】
上記の装置を用いて硝酸を回収する場合には、反応槽1に第1鉄塩を含む酸溶液を密閉収容し、反応槽4には硝酸廃液を密閉収容し、弁14、20、21を閉じて、弁17、18、19を開け、計装3、6、圧力計11、12、撹拌器2、5、エアーポンプ8を作動させる。反応槽1と反応槽4からなる密閉系において、反応槽4に収容された硝酸廃液から揮発した気体は、配管7を経由して反応槽1に収容された第1鉄塩を含む酸溶液に吹き込まれ、同時に、反応槽1に収容された第1鉄塩を含む酸溶液から揮発した気体は、反応槽4に収容された硝酸廃液に吹き込まれ、反応槽4に収容された硝酸廃液と反応槽1に収容された第1鉄塩を含む酸溶液の間で気体が循環する。
【0041】
そして、例えば、圧力計11による圧力値が所定の圧力を超えたときに弁14を開けて第1鉄塩を含む酸溶液から揮発した気体を配管13、15を経由して取り出す。その後、取り出した気体に含まれる窒素酸化物を硝酸回収装置16に導入し、窒素酸化物から硝酸を製造するための既知の方法により硝酸に変換して回収する。
【0042】
(実施例1)
上記のように構成した反応槽1に水900mLと硫酸第1鉄7水塩1260g(和光純薬製試薬)と95%硫酸120mL(純正化学製試薬)で構成された硫酸第1鉄を含む硫酸溶液1690mLを第1鉄塩を含む酸溶液として収容し、反応槽4に水300mLと60%硝酸水溶液300mL(和光純薬製試薬)で構成された約600mLの硝酸水溶液を硝酸廃液として収容した。そして、弁14、20、21を閉じ、弁17、18、19を開け、撹拌機2と撹拌器5とエアーポンプ8を作動させてガス吐出量約50L/分で密閉系内の気体を循環させることにより反応を開始させた。なお、反応槽1に収容した硫酸第1鉄7水塩は、溶解度の関係で常温ではほとんど溶解しないため、反応開始時において、反応槽1はスラリー状態で撹拌を行った。
【0043】
反応槽1と反応槽4での反応の進行監視や異常の有無を反応槽1と反応槽4に取り付けられた計装3、6、圧力計11、12で行い、反応槽1と反応槽4の間で循環する気体の量を圧力計11、12で監視した。
【0044】
圧力計11によるゲージ圧力値が0.15kg/cmを示した時点でエアーポンプ8を停止し、弁14を開放し、配管13、配管15から密閉反応系内の気体を取り出した。圧力計11のゲージ圧力値が0.00kg/cmを示した時点で弁14を閉じ、エアーポンプ8(ガス吐出量約50L/分)を作動させて反応を再開させた。
【0045】
この一連の密閉反応系内の気体取り出しの操作と反応再開の操作を繰り返し行なった。反応槽1のpHの変化、酸化還元電位の変化、温度の変化から反応が終点に達したと判断された段階で密閉反応系内の気体取り出し操作を行い、反応再開の操作後1分経過しても圧力計11のゲージ圧力値が0.00kg/cmを示したまま上昇しなくなったことを確認し、弁20、21を開け、弁17、18、19を閉じ、空気で1時間パージし、パージした気体を配管13、15を経由して取り出した。
【0046】
表1に実施例1の開始から終点までの反応時間、反応槽4に収容した硝酸廃液中の硝酸性窒素の濃度と量の変化、反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の第1鉄塩と反応に伴って生成された第2鉄塩の濃度と量の変化、回収された硝酸性窒素の量と回収率を示す。なお、溶液中の硝酸性窒素濃度は触媒燃焼化学発光法(島津製TNM−1)、溶液中の全鉄濃度はICP発光法(SII製SPS−3100)、溶液中の第1鉄イオンは、o−フェナントロリン吸光光度法で測定した。
【0047】
反応開始から約190分で反応終点まで達し、反応槽1に収容した硫酸第1鉄溶液中の第1鉄が全て第2鉄に酸化されてポリ硫酸第2鉄溶液が製造されたことが確認された。また、反応終点において、反応開始時において溶解していなかった硫酸第1鉄7水塩はすべて溶解していた。また、反応槽4に収容した硝酸廃液から化4に示す化学反応のほぼ式量通りの硝酸性窒素ガスを取り出せた。
【0048】
【表1】
【0049】
また、図2に、実施例1の開始から終点までの反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中のpH、酸化還元電位、温度を示す。ここで、横軸が開始から終点までの反応時間であり、縦軸がpH(単位:−)、酸化還元電位(単位;mV)、温度(単位;℃)である。
【0050】
図2において、反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の第1鉄塩が第2鉄塩に変換される反応の終点付近で酸化還元電位が急激に上昇し第1鉄塩が消失する変曲点が存在することが確認された。また、pHは、化4に示す化学反応式のとおり反応開始とともに酸が消費され、反応の終点付近において上昇した。なお、図2において、0分から50分過ぎまでのpHは、マイナスの数値となっている。したがって、pHと酸化還元電位を監視することによって、反応の進行を監視できるとともに、反応の終点を判断することができることが確認された。
【0051】
(実施例2)
反応槽4に水400mLと60%硝酸水溶液200mL(和光純薬製試薬)で構成された約600mLの硝酸水溶液を硝酸廃液として収容した以外は全て実施例1と同様の操作を行い、配管13、15を経由して気体を取り出した。
【0052】
表2に実施例2の開始から終点までの反応時間、反応槽4に収容した硝酸廃液中の硝酸性窒素濃度と量の変化、反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の第1鉄塩と反応に伴って生成された第2鉄塩の濃度と量の変化、回収された硝酸性窒素の量と回収率を示す。
【0053】
実施例1の硝酸廃液の液量をそのままに硝酸濃度を2/3の濃度で硝酸回収を行った結果、反応終点に達するまでの時間が630分と実施例1と比較し約3.3倍長くなったが、反応槽1に収容した硫酸第1鉄溶液中の第1鉄が全て第2鉄に酸化されてポリ硫酸第2鉄溶液が製造され、反応槽4に収容した硝酸廃液から化4に示す化学反応のほぼ式量通りの硝酸性窒素ガスを取り出せた。
【0054】
【表2】
【0055】
(実施例3)
反応槽4に60%硝酸水溶液600mL(和光純薬製試薬)を硝酸廃液として収容した以外は全て実施例1と同様の操作を行い、配管13、15を経由して気体を取り出した。
【0056】
表3に実施例3の開始から終点までの反応時間、反応槽4に収容した硝酸廃液中の硝酸性窒素濃度と量の変化、反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の第1鉄塩と反応に伴って生成された第2鉄塩の濃度と量の変化、回収された硝酸性窒素の量と回収率を示す。
【0057】
実施例1の硝酸廃液の液量をそのままに硝酸濃度を2倍の濃度で硝酸回収を行った結果、反応終点に達するまでの時間が16分と実施例1と比較し約1/12の時間まで短縮されたが、反応槽1に収容した硫酸第1鉄溶液中の第1鉄が全て第2鉄に酸化されてポリ硫酸第2鉄溶液が製造され、反応槽4に収容した硝酸廃液から化4に示す化学反応式量の87%の硝酸性窒素ガスを取り出せた。
【0058】
【表3】
【0059】
(実施例4)
反応槽4に60%硝酸水溶液300mL(和光純薬製試薬)を硝酸廃液として収容した以外は全て実施例1と同様の操作を行い、配管13、15を経由して気体を取り出した。
【0060】
表4に実施例4の開始から終点までの反応時間、反応槽4に収容した硝酸廃液中の硝酸性窒素の濃度と量の変化、反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の第1鉄塩と反応に伴って生成された第2鉄塩の濃度と量の変化、回収された硝酸性窒素の量と回収率を示す。
【0061】
実施例3の硝酸廃液の濃度を変えず1/2の液量で硝酸回収を行った結果、実施例3と比較し、反応終点に達するまでの時間が47分と約3倍長くなったが、反応槽1に収容した硫酸第1鉄溶液中の第1鉄が全て第2鉄に酸化されてポリ硫酸第2鉄溶液が製造され、実施例3と同様に反応槽4に収容した硝酸廃液から化4に示す化学反応式量の86%の硝酸性窒素ガスを取り出せた。
【0062】
【表4】
【0063】
(実施例5)
反応槽4に実施例4の硝酸回収後に反応槽4に残留した約300mLの硝酸水溶液を硝酸廃液としてそのまま収容した以外は全て実施例1と同様の操作を行い、配管13、15を経由して気体を取り出した。
【0064】
表5に実施例5の開始から終点までの反応時間、反応槽4に収容した硝酸廃液中の硝酸性窒素濃度と量の変化、反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の第1鉄塩と反応に伴って生成された第2鉄塩の濃度と量の変化、回収された硝酸性窒素の量と回収率を示す。
【0065】
実施例4で反応槽4に残留し硝酸濃度の低下した硝酸水溶液を硝酸廃液として更に硝酸回収を行った結果、反応終点に達するまでの時間が140分と実施例4と比較し約3倍長くなったが、反応槽1に収容した硫酸第1鉄溶液中の第1鉄が全て第2鉄に酸化されてポリ硫酸第2鉄溶液が製造され、反応槽4に収容した硝酸廃液から化4に示す化学反応のほぼ式量通りの硝酸性窒素ガスを取り出せた。
【0066】
また、実施例4で回収された硝酸性窒素の量と実施例4の硝酸回収後に反応槽4に残留した硝酸廃液から実施例5で回収された硝酸性窒素の量を合計すると実施例4の反応槽4に収容された硝酸廃液中の硝酸性窒素が98%回収された。
【0067】
【表5】
【0068】
(実施例6)
反応槽4に硝酸ナトリウム335g(和光純薬製試薬)と95%硫酸110mL(純正化学製試薬)で構成された硝酸ナトリウム硫酸水溶液600mLを硝酸廃液として収容した以外は全て実施例1と同様の操作を行い、配管13、15を経由して気体を取り出した。
【0069】
表6に実施例6の開始から終点までの反応時間、反応槽4に収容した硝酸廃液中の硝酸性窒素濃度と量の変化、反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の第1鉄塩と反応に伴って生成された第2鉄塩の濃度と量の変化、回収された硝酸性窒素の量と回収率を示す。
【0070】
反応槽4に収容する液量と硝酸性窒素の濃度と酸の濃度が実施例1とほぼ同じ条件となるように水に硝酸塩と硫酸を加えて硝酸廃液として硝酸回収を行った結果、反応終点に達するまでの時間が750分で実施例1と比較し約3.9倍長くなったが、反応槽1に収容した硫酸第1鉄溶液中の第1鉄が全て第2鉄に酸化されてポリ硫酸第2鉄溶液が製造され、反応槽4に収容した硝酸廃液から化4に示す化学反応のほぼ式量通りの硝酸性窒素ガスを取り出せ、実施例1とほぼ同様の結果を得た。
【0071】
【表6】
【0072】
(実施例7)
実施例1の反応槽1に収容した硫酸第1鉄溶液1690mLに硝酸ナトリウム50g(和光純薬製試薬)を収容した以外は全て実施例1と同様の操作を行い、配管13、15を経由して気体を取り出した。
【0073】
表7に実施例7の開始から終点までの反応時間、反応槽1と反応槽4に収容した硝酸性窒素の濃度と量の変化、反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の第1鉄塩と反応に伴って生成された第2鉄塩の濃度と量の変化、回収された硝酸性窒素の量と回収率を示す。
【0074】
反応槽1に反応開始剤として硝酸ナトリウムを加えた以外は実施例1と同条件で硝酸回収を行った結果、反応終点に達するまでの時間が130分と実施例1と比較し約32%短くなり、反応槽1に反応開始剤を加えた効果が認められた。また、反応槽1に収容した硫酸第1鉄溶液中の第1鉄が全て第2鉄に酸化されてポリ硫酸第2鉄溶液が製造され、反応槽1に収容した硝酸水溶液と反応槽4に収容した硝酸廃液から化4に示す化学反応式量の90%の硝酸性窒素ガスを取り出せた。
【0075】
【表7】
【0076】
(比較例1)
反応槽1に水300mL、硫酸第1鉄7水塩1260g(和光純薬製試薬)、95%硫酸120mL(純正化学製試薬)で構成された第1鉄塩を含む酸溶液1130mLを収容した以外は全て実施例3と同様の操作を行い、配管13、15を経由して気体を取り出した。
【0077】
表8に比較例1の開始から終点までの反応時間、反応槽4に収容した硝酸廃液中の硝酸性窒素濃度と量の変化、反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の第1鉄塩と反応に伴って生成された第2鉄塩の濃度と量の変化、回収された硝酸性窒素の量と回収率を示す。
【0078】
実施例3の反応槽1に収容した第1鉄塩を含む酸溶液中の水の量を1/3に減らして硝酸回収を行った結果、反応開始から180分で反応終点まで達し、反応槽1に収容した硫酸第1鉄溶液中の第1鉄が全て第2鉄に酸化されてポリ硫酸第2鉄溶液が製造されたが、反応槽4に収容した硝酸廃液から揮発した気体が反応槽1内に残留し、製造されたポリ硫酸第2鉄溶液中に取り込まれ、化4に示す化学反応式量の15%の硝酸性窒素ガスしか取り出せなかった。
【0079】
【表8】
図1
図2