【文献】
露本伊佐男,X線吸収微細構造によるセメント中微量重金属の化学状態分析,第57回セメント技術大会講演要旨,日本,社団法人セメント協会,2003年 4月25日,第2,3頁
【文献】
コンクリートライブラリー111 コンクリートからの微量成分溶出に関する現状と課題,日本,社団法人土木学会,2003年 5月30日,第1版,第25頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
石灰石、珪石、粘土質原料及び鉄原料を含む原料を使用してセメントクリンカーを焼成した後、石膏を添加して粉砕する水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法であって、
粘土質原料が、K2O量が1.6質量%未満の低K粘土質原料と、K2O量が1.6質量%以上の高K粘土質原料とに分けて使用され、
セメントクリンカーの原料原単位が、石灰石900〜1500kg/t−クリンカー、珪石0〜120kg/t−クリンカー、高K粘土質原料0〜80kg/t−クリンカー、低K粘土質原料120〜300kg/t−クリンカー、及び鉄原料0〜80kg/t−クリンカーであり、
セメント組成物中のC3S量が30〜75質量%、C2S量が7〜50質量%、C3A量が10〜20質量%、C4AF量が9〜20質量%であり、
セメントクリンカー中のK2O量(質量%)と全Cr量(質量%)とが、全Cr量x104≦−222×K2O量+225の関係を満たすように、原料中の低K粘土質原料、高K粘土質原料及び鉄原料の配合割合を調整する工程を含む、ことを特徴とする水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法。
高K粘土質原料が、粘土及び建設発生土からなる群から選ばれる1種以上であり、低K粘土質原料が、石炭灰及び高炉スラグからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1記載の水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法。
鉄原料が高Cr鉄原料及び/又は低Cr鉄原料を含み、高Cr鉄原料が脱スラグ及び鉄精鉱からなる群から選ばれる1種以上であり、低Cr鉄原料が銅からみである、請求項1〜3のいずれか1項記載の水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカーは、石灰石、粘土、珪石、鉄原料等の各種原料をロータリーキルン中で高温焼成して製造される。しかしながら、このような高温条件下で製造されたセメントクリンカー中には、原料に含まれる微量成分としてのクロムが、有害な水溶性Cr(VI)の形態で、有意な量存在する場合がある。
【0003】
近年、環境への配慮の高まりから、セメントを、有害金属を固定する土質改良剤用途として使用する場合において、固化した改良土からの水溶性Cr(VI)溶出量が土壌環境基準値(0.05mg/L以下)を満足することを目的に、セメント業界では、1998年9月にセメント中の水溶性Cr(VI)含有量を20mg/kg(20x10
−4質量%)以下とするガイドラインを設定し、以降これに基づいて管理している。
【0004】
また、セメントクリンカー中の水溶性Cr(VI)は、非特許文献1に記されるように、溶解度の高いクロム酸塩、例えばクロム酸ナトリウム、クロム酸カリウム等のアルカリ金属塩の形態で存在すると言われている。しかしながら、非特許文献1には、水溶性Cr(VI)を制御・低減する方法は開示されていない。
【0005】
これまで、水溶性Cr(VI)溶出防止方法に関してはいくつかの方法が開示されている。例えば、特許文献1では、セメントを用いた固化物からの水溶性Cr(VI)溶出防止について、セメント中のC
3SとC
3A量の総量を規定したセメントに所定量のスラグを添加することにより、火山灰質粘性土などを処理対象土とした場合でも、高い固化強度が得られる溶出防止方法が開示されている。しかしながら、この方法では、セメントにスラグを新たに添加する必要があり、製造工程が煩雑であるとともに、反応性の低いスラグを混合することにより強度発現性に劣る場合があった。
【0006】
一方、特許文献2では、セメントクリンカー焼成時にプラスチック等の可燃性樹脂をキルンに投入することにより、キルン内を還元雰囲気としてセメントクリンカー中の水溶性Cr(VI)の生成を防ぎ、それによりセメントクリンカー中の水溶性Cr(VI)を低減する方法が開示されている。しかしながら、可燃性樹脂をキルンに投入する方法では、キルン内の雰囲気を均一化することが難しく、焼成状態の変動が生じるため、生成したセメントクリンカー中の水溶性Cr(VI)量やf.CaO量等の品質変動が大きいといった問題があった。さらに、特許文献3では、速効性の6価クロムの還元物質と遅効性の6価クロムの還元物質とを併せて含む水硬性物質用6価クロム溶出低減剤が開示されている。しかしながら、この6価クロム溶出低減剤は、高価であり実用的ではない上に、添加量が増大すると強度発現性の低下がみられる場合もあるという問題があった。
【非特許文献1】高橋茂,セメント・コンクリート,No.640,pp.20−29(Jun. 2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水溶性Cr(VI)量を低減し、品質が良好なセメント組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、セメント中の水溶性Cr(VI)の生成には、数多くのアルカリ金属酸化物の中で、K
2Oのみが選択的にCrと結合することによって水溶性Cr(VI)を生成すること、及びK
2O量を減少することにより水溶性Cr(VI)を低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本
記載は、セメントクリンカーと石膏とを含み、セメントクリンカー中のK
2O量(質量%)と全Cr量(質量%)とが、全Cr量x10
4≦−222×K
2O量+225の関係を満たす水溶性Cr(VI)低減セメント組成物に
関する。すなわち、本発明においては、上記式を満たす限り、K
2O量が少ない場合には全Cr量が多くても、水溶性Cr(VI)を所定量以下(例えば20x10
−4質量%)にすることができる。
本
記載は、全Cr量が100x10
−4質量%以下、K
2O量が0.43質量%以下である、本発明の水溶性六価クロム低減セメント組成物に関する。
本発
明は、石灰石、珪石、粘土質原料及び鉄原料を含む原料を使用してセメントクリンカーを焼成した後、石膏を添加して粉砕する水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法であって、セメントクリンカー中のK
2O量(質量%)と全Cr量(質量%)とが、全Cr量x10
4≦−222×K
2O量+225の関係を満たすように、原料中の
高K粘土質原料、低K粘土質原料及び鉄原料の配合割合を調整する工程を含む、ことを特徴とする水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法に関する。
本発
明は、全Cr量が100x10
−4質量%以下、K
2O量が0.43質量%以下となるように、原料中の
高K粘土質原料、低K粘土質原料及び鉄原料の配合割合を調整する工程をさらに含む
、水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法に関する。
本発
明は、粘土質原料として、K
2O量が1.6質量%以上の高K粘土質原料及び/又はK
2O量が1.6質量%未満の低K粘土質原料を使用する
、水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法に関する。
本発
明は、高K粘土質原料が、粘土及び建設発生土からなる群から選ばれる1種以上であり、低K粘土質原料が、石炭灰及び高炉スラグからなる群から選ばれる1種以上である
、水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法に関する。
本発
明は、セメントクリンカーの原料原単位が、石灰石900〜1500kg/t−クリンカー、
珪石0〜120kg/t−クリンカー、
高K粘土質原料0〜80kg/t−クリンカー、低K粘土質原料120〜300kg/t−クリンカー、鉄原料0〜80kg/t−クリンカーであり、K
2Oを1.6質量%以上含む高K粘土質原料の原単位が80kg/t−クリンカー以下である
、水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセメント組成物及びその製造方法によれば、セメント組成物中に存在する水溶性Cr(VI)量を、業界のガイドライン値(20mg/kg)以下に低減することができるセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセメント組成物は、セメントクリンカーと石膏からなる。セメントクリンカーは、普通ポルトランドセメント用クリンカー、早強セメント用クリンカー、中庸熱セメント用クリンカー、低熱セメント用クリンカー等が用いられる。
【0014】
石膏としては、天然石膏、排脱石膏、フッ酸石膏、燐酸石膏等が挙げられ、それらの形態は、二水石膏、半水石膏、無水石膏等の何れの形態であっても良い。
【0015】
セメントクリンカーに石膏を添加しボールミルなどで粉砕して得られたセメント組成物の化学組成は、C
3Sが20〜80質量%、好ましくは30〜75質量%、更に好ましくは50〜70質量%である。C
2Sは、5〜70質量%、好ましくは7〜50質量%、更に好ましくは7〜20質量%である。C
3Aは、0〜20質量%、好ましくは0〜15質量%、更に好ましくは0〜12質量%である。C
4AFは、0〜20質量%、好ましくは5〜15質量%、更に好ましくは7〜12質量%である。
【0016】
ここで、セメント中のCaO、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、Na
2O、K
2O含有量(質量%)は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定される。また、C
3S量、C
2S量、C
3A量及びC
4AF量は、下記の式(1)、(2)、(3)及び(4)によって算出する値である。
【0017】
C
3S量(質量%)=4.07×CaO(質量%)−7.60×SiO
2(質量%)−6.72×Al
2O
3(質量%)−1.43×Fe
2O
3(質量%)−2.85×SO
3(質量%) (1)
C
2S量(質量%)=2.87×SiO
2(質量%)−0.754×C
3S(質量%) (2)
C
3A量(質量%)=2.65×Al
2O
3(質量%)−1.69×Fe
2O
3(質量%) (3)
C
4AF量(質量%)=3.04×Fe
2O
3(質量%) (4)
【0018】
粉末度は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」で規定されるブレーン比表面積で2500〜5000cm
2/g、好ましくは2800〜4200cm
2/g、更に好ましくは3000〜3900cm
2/gである。
【0019】
セメント組成物を製造するにあたっては、セメントクリンカー中のK
2O量(質量%)と全Cr量(質量%)とが、全Cr量x10
4≦−222×K
2O量+228の関係を満たすように、K
2O量と全Cr量を調整する。これにより、全Cr量が多い場合にはK
2O量を低減する、あるいはK
2O量が多い場合には全Cr量を少なくすることにより、セメント組成物中に存在する水溶性Cr(VI)量を20mg/kg以下に低減することができる。更に安全な管理値として水溶性Cr(VI)量を15mg/kg以下とする場合は、全Cr量x10
4≦−222×K
2O量+200、水溶性Cr(VI)量を10mg/kg以下とする場合は、全Cr量x10
4≦−222×K
2O量+172を満たすようにK
2O量と全Cr量を調整する。
【0020】
なお、全Cr量及び水溶性Cr(VI)量は、JCAS I−51:1981「セメント及びセメント原料中の微量成分の定量方法」に準じて測定される。また、Na
2O量及びK
2O量はJIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定され、全アルカリ量は、全アルカリ量-=Na
2O+0.658K
2Oとして算出される。
【0021】
セメント組成物中のK
2O量を制御することにより水溶性Cr(VI)量を低減できることの理由は明確ではないが、以下のことが推察される。
【0022】
CrはNa
2OやK
2Oと結合し、溶解度の高いクロム酸ナトリウムあるいはクロム酸カリウムを生成し水溶性Cr(VI)となると言われ(非特許文献1)、本来は全アルカリ量の増加が水溶性Cr(VI)の増加に繋がると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、セメントクリンカー中ではNa
2Oがエーライトあるいはビーライトといったクリンカー鉱物に固溶して存在する割合が高いために、Na
2OとCrとが結合してクロム酸ナトリウムを生成する可能性は低いと考えている。その一方、K
2Oはクリンカー中でエーライト及びビーライトへの固溶割合が小さいために、Crと結合してクロム酸カリウムを生成し易く、K
2O量がある一定以上の含有量となると溶解度の高いクロム酸カリウムを生成して水溶性Cr(VI)量が増加するのではないかと考えている。
【0023】
セメントクリンカー中のK
2O量は、上記式を満足する範囲であれば何れの値であってもよいが、好ましくは0.20〜0.65質量%、更に好ましくは0.25〜0.50質量%である。K
2O量が0.20質量%以上であると、硫酸カリウム量が極端に減少してC
3Aの水和を抑制するのに十分な硫酸イオンを供給できず流動性が低下するという問題を回避できる。一方、K
2O量が0.65質量%以下であると、K
2Oが固溶したアルミネートは反応性が極端に高い斜方晶の多形をとり、初期の流動性低下を引き起こすという問題を回避できる。
【0024】
また、全Cr量も上記式を満足する範囲であれば何れの値であってもよいが、好ましくは200mg/kg(200x10
−4質量%)以下、更に好ましくは160mg/kg(160x10
−4質量%)以下、特に好ましくは150mg/kg(150x10
−4質量%)以下であると、上記の全Cr量とK
2O量との関係式が適用できる。しかし、全Cr量が例えば200mg/kgを超えて増加すると、クロムはクロム酸カリウム以外の形態をとる水溶性Cr(VI)となるため、K
2O量の低減のみでは対応できない可能性がある。
【0025】
また、全Cr量が100mg/kg以下であり、かつ、K
2O量が0.43質量%以下であるようにすることがより好ましい。
【0026】
セメント組成物のK
2O量(質量%)と全Cr量が上記式を満足するようにするには、セメントクリンカー製造用原料中のK
2O量と全Cr量を調整する。
【0027】
K
2O量は、粘土質原料の使用方法により調整する。具体的には、粘土質原料をK
2O量が1.6質量%以上の高K粘土質原料と、K
2O量が1.6質量%未満の低K粘土質原料とに分けて使用し、その使用比率を変えることで調整すると運用が容易である。具体的には、例えばK
2O含有量が多くなった場合には、低K粘土質原料の使用比率を高めてK
2O含有量を低減する。これには、低K粘土質原料のみを使用する場合も含まれる。
【0028】
粘土質原料としては、粘土及び建設発生土からなる群から選択される高K粘土質原料と、石炭灰及び高炉スラグからなる群から選択される低K粘土質原料がある。
【0029】
また、全Cr量は、鉄原料中の高Cr鉄原料と低Cr鉄原料との使用比率により調整する。具体的には全Cr量が多くなった場合には、低Cr鉄原料の使用比率を高め、高Cr鉄原料の使用比率を低くすることで全Cr量を低減する。Cr鉄原料としては、鉄精鉱、転炉滓、鉄含有汚泥等の高Cr鉄原料、銅からみ等の低Cr鉄原料がある。
【0030】
セメントクリンカーを製造する際には、CaO源としての石灰石、SiO
2源としての珪石、Al
2O
3・SiO
2源としての粘土質原料、Fe
2O
3源としての鉄原料及びその他の原料をクリンカーの目的とする組成に応じて配合する。
【0031】
各原料の原単位は、石灰石が900〜1500kg/t−クリンカー、好ましくは1000〜1400kg/t−クリンカー、珪石が0〜120kg/t−クリンカー、好ましくは5〜100kg/t−クリンカー、粘土質原料が100〜500kg/t−クリンカー、好ましくは100〜400kg/t−クリンカー、鉄原料が5〜80kg/t−クリンカー、好ましくは30〜70kg/t−クリンカー、その他原料が0〜300kg/t−クリンカー、好ましくは10〜200kg/t−クリンカーである。
【0032】
なお、その他原料としては、含水率が50質量%以上と高い下水汚泥等があげられる。
【0033】
上記粘土質原料に関しては、高K粘土質原料が0〜80kg/t−クリンカー、好ましくは5〜60kg/t−クリンカー、低K粘土質原料が20〜500kg/t−クリンカー、好ましくは120〜300kg/t−クリンカーであることが更に好ましい。
【0034】
また、上記鉄原料は、高Cr鉄原料が0〜40kg/t−クリンカー、好ましくは5〜25kg/t−クリンカー、低Cr鉄原料が0〜80kg/t−クリンカー、好ましくは30〜70kg/t−クリンカーであることが更に好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(1)セメント組成物の原料
(i)セメントクリンカー製造に使用した原燃料
使用した主要なクリンカー原燃料の種類及び化学組成を表1に示す。また、表1に示すもの以外にも、少量の原料を一部使用した。
【0037】
【表1】
【0038】
(ii)石膏
セメント組成物に使用した石膏は排脱二水石膏を使用した。また、セメント組成物粉砕時には、二水石膏は脱水し、添加した排脱二水石膏のうち30〜95質量%が半水石膏として存在した。
【0039】
(2)セメント組成物の製造
表1のセメントクリンカーの原料を特定の配合割合で混合し、セメントキルンで焼成した。配合割合の一例を表2に示す。
【0040】
また、得られたセメントクリンカーに石膏を添加し、ボールミルで粉砕してセメント組成物を製造した。
【0041】
【表2】
【0042】
(3)評価試験
次に、各種セメント組成物の水溶性Cr(VI)含有量とK
2O含有量を定量した。測定結果の一例を表3に示すが、本発明に関するデータはこれらに限らない。本発明は、
図1〜5に示す全ての実験データに基づく知見である。なお、表3中のセメント組成物の番号(No.)は表2のセメントクリンカーの番号(No.)と対応している。具体的には、表2のNo.1の条件で製造したセメントクリンカーを用いて製造したセメント組成物の評価試験結果は表3のNo.1に相当する。
【0043】
【表3】
【0044】
表3のデータを含む実験データ全てについて、全アルカリ量と水溶性Cr(VI)量との関係を
図1に示す。セメント組成物中のCrがアルカリ金属と結合してクロム酸ナトリウム及びクロム酸カリウムとして存在するのであれば両者の間に有意な関係が認められるはずである。しかしながら、実際にテスト製造したセメントクリンカー及びセメント組成物においては、両者の相関係数はR
2=0.5235(R=0.7235)と余り高くなく、予測線(
図1中の実線)と実測値の最大値を外挿した線(
図1中の点線)とでは、最大で17mg/kgの差異がある。したがって、アルカリ金属類の全てが水溶性Cr(VI)生成に必ずしも影響するものではないことを示している。
【0045】
そこで、本発明者らは、水溶性Cr(VI)の生成に起因する要因を特定するため、アルカリ金属の種類ごとに水溶性Cr(VI)量に及ぼす影響を明確にすべく調査を行った。
図2にNa
2Oと水溶性Cr(VI)との関係、
図3にK
2Oと水溶性Cr(VI)との関係を示す。
【0046】
図2から、Na
2O量と水溶性Cr(VI)量との間には相関関係は認められず、Na
2Oはクロム酸塩としては存在しないことが判明した。
【0047】
一方、
図3から、K
2O量と水溶性Cr(VI)量との間には有意な相関関係が認められ、アルカリ金属のうちK
2O量のみがクロム酸塩として存在することが知見できた。したがって、K
2O量によって水溶性Cr(VI)量を制御することが可能であり、すなわちK
2O量を0.43質量%以下にすれば、水溶性Cr(VI)量を20mg/kg(20x10
−4質量%)以下に低減できることがわかる。
【0048】
また、
図4に示すように、全Cr量も水溶性Cr(VI)量に関係する。このため、さらに好ましい水溶性Cr(VI)の低減方法を検討するため、
図5に示すように、水溶性Cr(VI)の予測式:水溶性Cr(VI)=39×K
2O+0.18×全Cr−20.5を作成し、その予測精度を確認した。
【0049】
その結果、
図3に示すK
2O量のみで水溶性Cr(VI)量を制御する場合、水溶性Cr(VI)量の予測線(
図3中の実線)と実測値との差は、K
2O量が0.3質量%程度で5mg/kg程度であるものの、K
2O量が0.5質量%程度では10mg/kg程度に大きくなり、予測精度が低下する。しかしながら、
図5に示したCr(VI)の計算値、実測値の比較からわかるように、K
2O量と全Cr量とを用いた予測式は全てのデータの予測値と実測値との差異を5mg/kg以下に収めることができるので、予測精度が高い。これにより、より精度良く水溶性Cr(VI)量の低減を図ることが可能となった。
【0050】
図6は、K
2O量と全Cr量の関係を示したものである。
図2の○印は水溶性Cr(VI)量が10mg/kg以下であった試料、△印は10mg/kgを超えて15mg/kg以下であった試料、□印は15mg/kgを超えて20mg/kg以下であった試料、×印は20mg/kgを超えた試料を示す。この図から、水溶性Cr(VI)量を20mg/kg(20x10
−4質量%)以下とするためには、K
2O量(質量%)と全Cr量(質量%)とが、全Cr量x10
4≦−222×K
2O量+228の関係を満たすようにしてセメントを製造すればよいことがわかる。すなわち、この式を満たす限り、全Cr量が多い場合にはK
2O量を低減する、あるいはまたK
2O量が多い場合は全Cr量を低減することで、水溶性Cr(VI)量を20x10
−4質量%以下の所定量に低減することができる。更に安全な管理値として水溶性Cr(VI)量を15mg/kg以下とする場合は、全Cr量x10
4≦−222×K
2O量+200を満たせばよく、水溶性Cr(VI)量を10mg/kg以下とする場合は、全Cr量x10
4≦−222×K
2O量+172を満たせばよいことがわかる。
【0051】
なお、このK
2O量と全Cr量の制御方法として、表2及び表3をみてわかるように、K
2O量は高K粘土質原料と低K粘土質原料の使用量を調整することで、全Cr量は高Cr鉄原料と低Cr鉄原料の使用量を調整することで、いずれも制御することができる。
【0052】
具体的には、K
2O量を減じようとすれば、粘土や建設発生土といった高K粘土質原料を低減して、石炭灰や高炉スラグ等の低K粘土質原料を使用する。また、全Cr量を減じようとすれば、脱鉄スラグや鉄精鉱のような高Cr鉄原料を低減して、銅からみのような低Cr鉄原料を使用する。
【0053】
さらに、原料事情によって、高Cr鉄原料を使用せざるを得ない場合には、高K粘土源を減じて全Cr量x10
4≦−222×K
2O量+225を満たすようにすればよい。