【文献】
ZIELSKE,A.G.,(Tosyloxy)anthraquinones. Versatile synthons for the preparation of various aminoanthraquinones,Journal of Organic Chemistry,1987年,Vol.52, No.7,p.1305-9
【文献】
TERAMURA,K. et al,Dyeing polypropylene fibers. VII. Dyeing polypropylene fibers modified with nickel salts by means of,Sen'i Gakkaishi,1965年,Vol.21, No.5,p.277-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アントラキノン系色素が、該色素をn−デカンに溶解させたとき、350〜750nm波長域における吸収極大波長が600〜720nmの範囲内にあり、吸収極大波長におけるモル吸光係数ε(Lmol−1cm−1)と室温(25℃)における同溶媒での飽和溶液の濃度C(molL−1)との積εCが500(cm−1)以上である、請求項1又は2に記載のインク。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、特許文献1に具体的に記載された色素は低極性溶媒への溶解性、吸光係数、耐光性等の点で更なる改善が必要であることが判明した。また、特許文献2には、色素のディスプレイ材料への適用は記載されていない。
本発明は、低極性溶媒への溶解性に優れ、高い吸光係数、高い耐光性を有するアントラキノン系色素、及びこれを含むインクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ある種の化学構造を有するアントラキノン系色素が、炭化水素系溶媒等の低極性溶媒への溶解性に優れ、しかも高いモル吸光係数、高い耐光性を有することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
<1> 下記一般式(I)で表されるアントラキノン系色素と低極性溶媒とを含むインク。
【0009】
【化1】
【0010】
[一般式(I)中、Xは、水素原子又はCOOR
3基を示し、R
1〜R
3は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基を示すが、R
1〜R
3の少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭素数4〜20の分岐鎖状アルキル基であり、アントラキノン環は、X、NHR
1およびNHR
2以外に任意の置換基を有していてもよい。]
<2> 低極性溶媒が、比誘電率2.2以下の溶媒である、上記<1>に記載のインク。
<3> 低極性溶媒が、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、及びシリコーンオイルからなる群より選択される1以上を含む、上記<1>又は<2>に記載のインク。
<4> アントラキノン系色素が、下記一般式(II)で表される色素である、上記<1>〜<3>のいずれか一に記載のインク。
【0011】
【化2】
【0012】
[一般式(II)中、X
2は、水素原子又はCOOR
23を示し、R
21およびR
22は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数4〜20の分岐鎖状アルキル基を示し、R
23は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基を示す。]
<5> アントラキノン系色素が、該色素をn−デカンに溶解させたとき、350〜750nm波長域における吸収極大波長が600〜720nmの範囲内にあり、吸収極大波長におけるモル吸光係数ε(Lmol
−1cm
−1)と室温(25℃)における同溶媒での飽和溶液の濃度C(molL
−1)との積εCが500(cm
−1)以上である、上記<1>〜<4>のいずれか一に記載のインク。
<6> ディスプレイ用又は光シャッター用である、上記<1>〜<5>のいずれか一に記載のインク。
<7> 上記<1>〜<6>のいずれか一に記載のインクを含む表示部位を有し、表示部位の電圧印加を制御することで画像を表示する、ディスプレイ。
<8> 該表示部位が、電気泳動粒子又は水性媒体を含む、上記<7>に記載のディスプレイ。
<9> 該電圧印加によって着色状態を変化させることにより画像を表示する上記<7>又は<8>に記載のディスプレイ。
<10> エレクトロウェッティング方式又は電気泳動方式により画像を表示する、上記<7>〜<9>のいずれか一に記載のディスプレイ。
<11> 上記<7>〜<10>のいずれか一に記載のディスプレイを有する電子ペーパー。
<12> 低極性溶媒に溶解させてインクとして用いられる色素であって、下記一般式(I)で表されるアントラキノン系色素。
【0013】
【化3】
【0014】
[一般式(I)中、Xは、水素原子又はCOOR
3基を示し、R
1〜R
3は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基を示すが、R
1〜R
3の少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭素数4〜20の分岐鎖状アルキル基であり、アントラキノン環は、X、NHR
1およびNHR
2以外に任意の置換基を有していてもよい。]
<13> 低極性溶媒が、比誘電率2.2以下の溶媒である、上記<12>に記載のアントラキノン系色素。
<14> 低極性溶媒が、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、及びシリコーンオイルからなる群より選択される1以上を含む、上記<12>又は<13>に記載のアントラキノン系色素。
<15> 下記一般式(II)で表される色素である、上記<12>〜<14>のいずれか一に記載のアントラキノン系色素。
【0015】
【化4】
【0016】
[一般式(II)中、X
2は、水素原子又はCOOR
23を示し、R
21およびR
22は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数4〜20の分岐鎖状アルキル基を示し、R
23は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基を示す。]
<16> 該アントラキノン系色素をn−デカンに溶解させたとき、350〜750nm波長域における吸収極大波長が600〜720nmの範囲内にあり、吸収極大波長におけるモル吸光係数ε(Lmol
−1cm
−1)と室温(25℃)における同溶媒での飽和溶液の濃度C(molL
−1)との積εCが500(cm
−1)以上である、上記<12>〜<15>のいずれか一に記載のアントラキノン系色素。
<17> 該インクがディスプレイ用又は光シャッター用である、上記<12>〜<16>のいずれか一に記載のアントラキノン系色素。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアントラキノン系色素は、低極性溶媒への高い溶解性と高いモル吸光係数及び高い耐光性を併せもつため、これを低極性溶媒に溶解させたインクは視認性や耐久性が求められる用途に有用である。特に電気光学的に表示を行うディスプレイ、なかでもエレクトロウェッティングディスプレイに用いると、高い視認性と耐久性を実現できる利点がある。
【0018】
また、本発明のアントラキノン色素を他の特定の色素と組み合わせたインクは、黒色の色相に優れた良好な黒色インクとしうる利点があり、光シャッターとして機能する部材としても特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
また、本願において、“質量%”、“質量ppm”及び“質量部”は、それぞれ“重量%”、“重量ppm”及び“重量部”と同義である。
【0020】
(アントラキノン系色素)
本発明のアントラキノン系色素としては、下記一般式(I)で表される化学構造を有するものを用いる。
【0022】
上記一般式(I)中、Xは、水素原子又はCOOR
3基(ここでR
3は次に示すとおりである。)を示す。Xは好ましくはCOOR
3基である。XをCOOR
3基とすることにより、Xを水素原子とした場合に比べて、極大吸収波長を長波長化することができる。このような構造とすることにより、可視光の長波長領域の光を効率よく吸収することができるため、赤色、黄色の色素を混合して黒色組成物を作製した場合に、黒色の色相に優れた良好な黒色インクを得ることができる。
【0023】
また、R
1〜R
3は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜20(以下「C1〜C20」とも記載する。)のアルキル基を示し、R
1〜R
3の少なくとも1つは、置換基を有していてもよいC4〜C20の分岐鎖状アルキル基である。さらに、アントラキノン環は、X、NHR
1およびNHR
2以外に任意の置換基を有していてもよい。
【0024】
上記一般式(I)の置換基の定義において、C1〜C20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のC1〜C20、好ましくはC1〜C10の、直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソオクチル基等のC3〜C20、好ましくはC3〜C10の、分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルメチル基、4−ブチルメチルシクロヘキシル基等のC3〜C20、好ましくC3〜C10の、環状アルキル基等が挙げられる。
【0025】
C4〜C20の分岐鎖状アルキル基としては、上記した分岐鎖状アルキル基から選ばれるもの、好ましくはsec−ブチル基、tert−ブチル基、イソオクチル基等のC4〜C10の分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0026】
C1〜C20のアルキル基およびC4〜C20の分岐鎖状アルキル基は、更に置換基を有していてもよい。このような置換基としては、低極性溶媒への溶解性の観点から低極性の置換基が好ましく、より具体的には、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等のC1〜C10のアルコキシ基等が挙げられる。
【0027】
ここで、上記した基に具体的に示されていない基は、上記した原子および基から任意に組合せて或いは一般的に知られた常識に従って選択される。
【0028】
さらに、一般式(I)におけるアントラキノン環は、X、NHR
1およびNHR
2以外に任意の置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のC1〜C10のアルキル基等が挙げられる。
【0029】
上記一般式(I)で表される化学構造を有するアントラキノン系色素の中で、好ましいものとしては、下記一般式(II)で表される化学構造を有する化合物が挙げられる。
【0031】
上記一般式(II)中、X
2は、水素原子又はCOOR
23基(ここでR
23は次に示すとおりである。)を示す。X
2は好ましくはCOOR
23基である。X
2をCOOR
23基とすることにより、X
2を水素原子とした場合に比べて、極大吸収波長を長波長化することができる。このような構造とすることにより、可視光の長波長領域の光を効率よく吸収することができるため、赤色、黄色の色素を混合して黒色組成物を作製した場合に、黒色の色相に優れた良好な黒色インクを得ることができる。
【0032】
上記一般式(II)中、R
21およびR
22は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいC4〜C20の分岐鎖状アルキル基を示す。R
23は置換基を有していてもよいC1〜C20のアルキル基を示す。
【0033】
一般式(II)のR
21およびR
22におけるC4〜C20の分岐鎖状アルキル基、R
23におけるC1〜C20のアルキル基の具体的な基や好ましい基は、一般式(I)におけるR
1〜R
3における、C4〜C20の分岐鎖状アルキル基、C1〜C20のアルキル基と同義である。また、これらの置換基が有していてもよい置換基の具体的な基や好ましい基も、上記一般式(I)におけるものと同義である。
【0034】
上記一般式(I)、(II)で表されるアントラキノン系色素の具体例を以下の式(1)〜(8)に例示する(以下、それぞれの具体例を例示化合物1〜8とも記載する。)。ただし、本発明はその要旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。
【0037】
上記一般式(I)、好ましくは一般式(II)で表される化学構造を有する化合物は、例えば、日本国特開2000−313174号公報に記載の方法に準じて合成することができる。
【0038】
本発明のインクは上記アントラキノン系色素のいずれか1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を任意の組合せ及び比率で含んでいてもよい。
【0039】
以上に説明した本発明のアントラキノン系色素は、グラム吸光係数の点から、置換基を有する場合は置換基も含めて、その分子量が、通常2000以下、好ましくは1000以下であり、また、通常300以上、好ましくは400以上である。
【0040】
本発明のアントラキノン系色素は、低極性溶媒への溶解性、特に炭化水素系溶媒への溶解性に優れることが好ましい。
【0041】
本発明のアントラキノン系色素は、室温(25℃)におけるn−デカンに対する溶解度が、通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、最も好ましくは4.5質量%以上である。溶解度は高ければ高いほど好ましいが、通常80質量%以下程度である。
【0042】
本発明のアントラキノン系色素は、室温(25℃)におけるテトラデカンに対する溶解度が、通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、最も好ましくは4.5質量%以上である。溶解度は高ければ高いほど好ましいが、通常80質量%以下程度である。
【0043】
本発明のアントラキノン系色素は、室温(25℃)におけるアイソパーMに対する溶解度が、通常1質量%以上、好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、最も好ましくは4質量%以上である。溶解度は高ければ高いほど好ましいが、通常80質量%以下程度である。
【0044】
本発明のアントラキノン系色素は、室温(25℃)におけるアイソパーGに対する溶解度が、通常1質量%以上、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5質量%以上である。溶解度は高ければ高いほど好ましいが、通常80質量%以下程度である。
【0045】
本発明のアントラキノン系色素は、室温(25℃)におけるデカリンに対する溶解度が、通常1質量%以上、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、最も好ましくは7重量%以上である。溶解度は高ければ高いほど好ましいが、通常80質量%以下程度である。
【0046】
低極性溶媒に対する色素の溶解度が高いことにより、低極性溶媒に色素を溶解させたインクをディスプレイ等に適用すると高い視認性が得られる。
【0047】
なお、本発明のアントラキノン系色素は、エレクトロウェッティングディスプレイに用いる場合、その原理から言って水不溶性であることが望ましい。ここで「水不溶性」とは、25℃、1気圧の条件下における水に対する溶解度が、0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下であることを言う。
【0048】
また、本発明のアントラキノン系色素は通常、青色系の色調を呈する。すなわち、色素を低極性溶媒に溶解した場合に、350〜750nm波長域における吸収極大波長が600〜720nmの範囲内にあることが好ましく、640〜700nmの範囲内にあることがより好ましく、655〜700nmの範囲内にあることがさらに好ましく、660〜700nmの範囲内にあることが最も好ましい。具体的には色素をn−デカンに溶解した場合に、350〜750nm波長域における吸収極大波長が600〜720nmの範囲内にあることが好ましく、655〜700nmの範囲内にあることがより好ましく、655〜700nmの範囲内にあることがさらに好ましく、660〜700nmの範囲内にあることが最も好ましい。
【0049】
さらに、本発明のアントラキノン系色素は、n−デカンに溶解したときに、該溶液での吸収極大波長におけるモル吸光係数ε(Lmol
−1cm
−1)と、室温(25℃)における同溶媒での飽和溶液の濃度C(molL
−1)の積εCの値が、通常500(cm
−1)以上、好ましくは800(cm
−1)以上、より好ましくは1000(cm
−1)以上、さらに好ましくは1200以上である。εC値は高いほど好ましく、上限は特にないが、通常40000(cm
−1)以下程度である。
【0050】
モル吸光係数、及びεC値が高いことにより、低極性溶媒に色素を溶解させたインクをディスプレイ等に適用すると高い視認性が得られる。
【0051】
本発明のインクにおけるアントラキノン系色素の濃度については、その目的に応じて任意の濃度で調製されるが、通常1重量%以上であり、また通常80重量%以下である。例えば、ディスプレイ用または光フィルター用の青色色素として用いる場合、必要とされるεC値に応じて低極性溶媒に溶解又は分散して用いられるが、通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上である。濃度は高いほど好ましいが、通常80重量%以下程度である。
【0052】
本発明のアントラキノン系色素は、低極性溶媒への溶解性に優れ、高い吸光係数、高い耐光性を有することから、低極性溶媒に溶解又は分散させたインクとして、ディスプレイ材料、特にエレクトロウェッティングディスプレイ材料に好ましく適用できる。また他の色素と組みあわせたインクは光シャッター材料にも好ましく適用できる。
【0053】
(低極性溶媒)
本発明で用いる低極性溶媒は、極性が低いものであれば特に限定はないが、例えば比誘電率が好ましくは2.2以下、より好ましくは2.1以下、さらに好ましくは2.0以下である。比誘電率の下限は特に制限されないが、通常1.5以上、好ましくは1.8以上が適当である。
【0054】
低極性溶媒の具体例としては、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、シリコーンオイル、高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0055】
炭化水素系溶媒としては、直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、石油ナフサなどが挙げられる。このうち、脂肪族炭化水素系溶媒は、密度、融点、沸点、粘度、表面張力、比誘電率、光学特性等の物性値や、エレクトロウェッティングの挙動から、溶媒として特に好ましい。脂肪族炭化水素系溶媒としては、例えば、n−デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、イソアルカン類等の脂肪族炭化水素系溶媒が挙げられ、市販品としては、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM(エクソン・モービル株式会社製)、IPソルベント(出光石油化学株式会社製)、ソルトール(フィリップス石油株式会社製)などが挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばハイソゾール(日本石油株式会社製)などが挙げられ、石油ナフサ系溶媒としては、シェルS.B.R.、シェルゾール70、シェルゾール71(シェル石油化学株式会社製)、ペガゾール(エクソン・モービル社製)などが挙げられる。
【0056】
フルオロカーボン系溶媒は、主にフッ素置換された炭化水素であり、例えば、C
7F
16、C
8F
18などのC
nF
2n+2で表されるパーフルオロアルカン類(住友3M社製「フロリナートPF5080」、「フロリナートPF5070」(商品名)等)、フッ素系不活性液体(住友3M社製「フロリナートFCシリーズ」(商品名)等)、フルオロカーボン類(デュポンジャパンリミテッド社製「クライトックスGPLシリーズ」(商品名)等)、フロン類(ダイキン工業株式会社製「HCFC−141b」(商品名)等)、[F(CF
2)
4CH
2CH
2I]、[F(CF
2)
6I]等のヨウ素化フルオロカーボン類(ダイキンファインケミカル研究所製「I−1420」、「I−1600」(商品名)等)等が挙げられる。
【0057】
シリコーンオイルとしては、例えば、低粘度の合成ジメチルポリシロキサンが挙げられ、市販品としては、信越シリコーン製のKF96L(商品名)、東レ・ダウコーニング・シリコーン製のSH200(商品名)等が挙げられる。
【0058】
これら低極性溶媒は、単独あるいは混合して用いることができる。
【0059】
本発明において低極性溶媒は、好ましくは、炭化水素系溶媒、フルオロカーボン系溶媒、及びシリコーンオイルからなる群より選ばれる1以上を含む。これらの含有量は通常、低極性溶媒の50%以上であり、好ましくは70%以上であり、より好ましくは90%以上である。
なかでも好ましくは低極性溶媒が炭化水素系溶媒を含み、特に好ましくは脂肪族炭化水素系溶媒を含む。
【0060】
本発明の低極性溶媒の粘度は、特に限定はないが、30℃において、通常1.0cP以上、好ましくは1.2cP以上である。また上限は通常10.00cPである。
【0061】
本発明の低極性溶媒の表面張力は、通常5mN・m
−1以上、好ましくは10mN・m
−1以上、より好ましくは15mN・m
−1以上である。また上限は通常50mN・m
−1である。
【0062】
本発明において、低極性溶媒は、溶媒中に水や極性溶媒を含有しないことが効果の観点から好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲においては、他の極性溶媒などを混合して用いてもよい。
【0063】
本発明のインクは、低極性溶媒とアントラキノン系色素とを含み、アントラキノン系色素および必要に応じてその他の色素や添加剤等を、低極性溶媒に溶解することにより得られる。
【0064】
ここで、「溶解」とは、アントラキノン系色素が低極性溶媒に完全に溶解している必要はなく、低極性溶媒に溶解させた溶液が0.1ミクロン程度のフィルターを通過し、かつ吸光係数が測定可能な程度の状態であればよく、色素の微粒子が分散している状態であってもよい。
【0065】
(他の色素)
本発明のインクは、上記アントラキノン系色素の他に、所望の色調とするために他の色素を含んでいてもよい。例えば、本発明のアントラキノン系色素に、赤色、黄色の色素を混合して黒色とすることもできる。
【0066】
本発明のインクが含んでいてもよい他の色素としては、使用する媒体に対して溶解性・分散性を有する色素の中から、本発明の効果を損なわない範囲で任意に選択することが可能である。
【0067】
本発明のインクをディスプレイ材料や光シャッター材料として用いる場合、他の色素としては、脂肪族炭化水素系溶媒等の低極性溶媒に溶解するものの中から、任意の色素を選択して用いることができる。具体的には、例えば、Oil Blue N(アルキルアミン置換アントラキノン)、Solvent Green、Solvent Blue、Sudan Blue、Sudan Red、Sudan Yellow、Sudan Black等が挙げられる。これらの色素は、それ自体既知のものであり、市販品として入手できる。
【0068】
また、本発明のインクが含んでいてもよい他の色素としてはピラゾールジスアゾ系色素、アルキルアミン置換アントラキノン系色素、ヘテロ環アゾ系色素が好ましく、これらを任意に組み合わせることにより、好ましい黒色インクを実現することができる。
【0069】
さらに、本発明のインクは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、また各用途に適した任意の添加剤を含んでいてもよい。
【0070】
(インクの物性)
低極性溶媒に色素を溶解した本発明のインクの粘度(Vi)に対する、該低極性溶媒の粘度(Vs)と該インクの粘度との変化率の絶対値(|{Vi−Vs}/Vi×100|)は、30℃において、通常40%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは9%以下である。本発明のインクの粘度は低極性溶媒の粘度と大きく異ならないため、色素の濃度がばらついても粘度の変化が小さく、駆動特性に対する影響は小さいという利点がある。なお、粘度は、公知の方法で測定すれば特に制限はないが、例えば、デジタル粘度計で測定することができる。
【0071】
低極性溶媒に色素を溶解した本発明のインクの表面張力(Ti)に対する、該低極性溶媒の表面張力(Ts)と該インクの表面張力との変化率の絶対値(|{Ti−Ts}/Ti×100|)は、通常7.0%以下、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下である。本発明のインクの表面張力は低極性溶媒の表面張力と大きく異ならないため、色素の濃度がばらついても表面張力の変化が小さく、駆動特性に対する影響は小さいという利点がある。なお、表面張力は、公知の方法で測定すれば特に制限はないが、例えば、温度20℃、気泡発生周期1Hzでバブルプレッシャー動的表面張力計で測定することができる。
【0072】
低極性溶媒に色素を溶解した本発明のインクの比誘電率(Pi)に対する、該低極性溶媒の比誘電率(Ps)と該インクの比誘電率との変化率の絶対値(|{Pi−Ps}/Pi×100|)は、通常19%以下、好ましくは17%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、最も好ましくは5.0%以下である。本発明のインクの比誘電率は低極性溶媒の比誘電率と大きく異ならないため、色素の濃度がばらついても比誘電率の変化が小さく、駆動特性に対する影響は小さいという利点がある。なお、比誘電率は、公知の方法で測定すれば特に制限はないが、例えば、測定対象を、電極間隔30μmに対向した並行平板のITO電極付きガラス基板で挟持した後、測定周波数1kHz、テスト信号電圧0.1V印加時の等価並列容量を測定し、下式による計算で決定することができる。
比誘電率=等価並列容量×電極間隔/電極面積/真空の誘電率(ε
0 )
【0073】
(用途)
本発明のインクの用途は特に限定はないが、ディスプレイ用インクとして用いることが好ましい。
本発明のディスプレイは、本発明のインクを含む表示部位を有し、この表示部位の電圧印加を制御することで画像を表示する。また、表示部位はピクセル単位に分かれていてもよい。好ましくは、電圧印加によって表示部位の着色状態を変化させることにより画像を表示する。好ましくは、エレクトロウェッティング方式、電気泳動方式のディスプレイである。
【0074】
エレクトロウェッティング方式の場合には、本発明のインクは水性媒体と分離・共存した状態で用いることができ、該表示部位が水性媒体を含むものとすることができる。エレクトロウェッティング方式は、基板上に水性媒体と油性着色インクの2相で満たされた複数のピクセルを配し、ピクセルごとに電圧印加のon−offによって水性媒体/油性着色インクの界面の親和性を制御し、油性着色インクを基板上に展開/凝集させることによって画像を表示する方式である。本発明のインクは油性着色インクとして特に好適に用いることができる。
【0075】
電気泳動方式の場合には、本発明のインク中に電気泳動粒子を分散させた状態で用いることができ、該表示部位に電気泳動粒子を含むものとすることができる。電気泳動方式は、油性溶媒と着色電気泳動粒子とを内蔵する複数のマイクロカプセルをバインダ中に分散して薄く塗布した層に、電界を印加し着色電気泳動粒子を移動させることで、画像を表示する方式である。本発明のインクは油性溶媒として好適に用いることができる。
【0076】
本発明のディスプレイの用途としては、コンピューター用、電子ペーパー用、電子インク用、など様々なものが挙げられ、既存の液晶表示ディスプレイの用途のほとんどを代替することができる可能性がある。本発明のインクは、中でも、エレクトロウェッティングディスプレイ用のインクとして特に好ましい。
【0077】
また、本発明のインクは、黒色の色相に優れた良好な黒色インクとし得る利点があり、光シャッターとして機能する部材としても特に有用である。
【実施例】
【0078】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
<色素>
日本国特開2000−313174号公報の製造例1に記載の方法に準じて、上記式(1)〜(4)に示した例示化合物1〜4を合成した。
比較として、下記式(i)で表わされる比較例化合物1(C.I.ソルベント・ブルー11)は東京化成工業株式会社製品を使用した。また下記式(ii)で表わされる比較例化合物2は日本国特許第3719298号公報に記載の化合物No.4であり、同公報に記載の方法で合成した。下記式(iii)で表わされる比較例化合物3は日本国特開平02−241784号公報の化合物No.28であり、同公報に記載の方法で合成した。下記式(iv)で表わされる比較例化合物4は日本国特開平01−136787号公報の化合物M−2であり、同公報に記載の方法で合成した。
【0080】
(比較例化合物1〜4)
【0081】
【化8】
【0082】
<溶媒>
n−デカン及びテトラデカンは東京化成工業株式会社製品を使用した。アイソパーM及びアイソパーGはエクソン・モービル社製品を使用した。デカリンは関東化学株式会社製品を使用した。キシレンは純正化学株式会社製品を使用した。
【0083】
<インクの調製と溶解性評価>
例示化合物1〜4及び比較例化合物1、2、4を、n−デカン、テトラデカン、アイソパーM、及びアイソパーGの各溶媒に溶解し、インクの調製を行った。その際、各化合物の各溶媒に対する溶解性を次のとおり測定した。
各溶媒に各化合物(色素)を溶解残存分が生じるまで添加し、水温30度で30分間超音波処理をした。室温で12時間放置後、超小型遠心機を用い、0.1μmのフィルターで遠心濾過した(遠心力5200xg)。得られた各飽和溶液を適当な濃度に希釈し、あらかじめ測定した吸光係数との関係から各色素の溶解度を計算し、また、吸収極大波長におけるモル吸光係数ε(Lmol
−1cm
−1)と飽和溶液の濃度C(molL
−1)の積εC(cm
−1)の値を求めた。測定結果を表1〜5に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
本発明の例示化合物(色素)は、比較例化合物に比べて、n―デカン、テトラデカン、アイソパーG、アイソパーMの各溶媒に対し、高い溶解性を示すとともに、高いεC値を示した。
【0090】
このことから、本発明のアントラキノン系色素は低極性溶媒への高い溶解性と高いモル吸光係数、高いεCを有するため、これを低極性溶媒に溶解させたインクをディスプレイ等に適用すると高い視認性が得られることが裏付けられた。
【0091】
なお、例示化合物2〜4においては、例示化合物1と比較して、極大吸収波長の長波長化が実現している。例示化合物2〜4は、分子内と特定の位置にエステル構造を有することにより、可視光の長波長領域の光を効率よく吸収することができるため、赤色、黄色の色素を混合して黒色組成物を作製した場合に、黒色の色相に優れた良好な黒色インクを得ることができるのでより好ましい。このようなインクをディスプレイや光シャッターとして機能する部材に適用すると、高い遮光性が得られるのでより好ましい。
【0092】
<耐光性試験>
各化合物(色素)の耐光性を次のとおり測定した。
1mgの各化合物(色素)を、容器内で200mlの各低極性溶媒に溶解し、インクの調製を行った。このインクに対し、理工科学産業株式会社製の光反応装置UVL−400HA(400W高圧水銀ランプ)を用いて2時間光照射した。この間、容器を冷媒で冷却して内部温度を10〜30℃に保った。下式による計算で色素の残存率を決定し、耐光性を評価した。結果を表6に示す。
*色素の残存率 = (照射後の最大吸収波長における吸光度)/(照射前の最大吸収波長における吸光度)
【0093】
【表6】
【0094】
表6より、例示化合物3、4と各低極性溶媒を用いた場合に高い耐光性を有することがわかる。
このことから、本発明のアントラキノン系色素は、高い耐光性をも併せもつため、これを低極性溶媒に溶解させたインクをディスプレイ等に適用すると高い視認性や耐久性が得られることが裏付けられた。
【0095】
<オイルインクの調製>
表7に示した組成で色素を低極性溶媒に溶解し、オイルインク1〜5及び比較例オイルインク1を調製した。いずれの組成でも色素は低極性溶媒に完全に溶解した。
【0096】
【表7】
【0097】
<粘度測定>
オイルインク2〜5の粘度を、BROOKFIELD社製のデジタル粘度計 DV−I+を用いて測定した。この間YAMATO−KOMATSU社製クールニクスサーキュレータCTE42Aを用いて一定温度を保持した。結果を表8に示す。
【0098】
【表8】
【0099】
表8より、オイルインク2〜5の場合、すなわち本発明の低極性溶媒を用いて調製したオイルインクでは、各溶媒のみの場合と比べて粘度の変化は小さく、駆動特性に対する悪影響は小さいことが裏付けられた。なお、比較例オイルインク1は、粘度が低すぎるため、測定機器の測定限界を超えていた。
【0100】
<表面張力測定>
オイルインク1〜5の表面張力を、KRUSS社製のバブルプレッシャー動的表面張力計 BP−2を用いて、温度20℃,気泡発生周期が1Hz時の表面張力を測定した。結果を表9に示す。
【0101】
【表9】
【0102】
表9より、オイルインク1〜5の場合、すなわち本発明の低極性溶媒を用いて調製したオイルインクでは、各溶媒のみの場合と比べて表面張力の変化は小さく、駆動特性に対する悪影響は小さいことが裏付けられた。
【0103】
<比誘電率測定>
オイルインク1〜5及び比較例オイルインク1の比誘電率を、アジレント・テクノロジー株式会社製のプレシジョンLCRメータ 4284Aを用いてインピーダンスメーター法により測定した。オイルインクそれぞれを、電極間隔30μmに対向した並行平板のITO電極付きガラス基板で挟持した後、測定周波数1kHz、テスト信号電圧0.1V印加時の等価並列容量を測定し、下式による計算で比誘電率を決定し、評価した。結果を表10に示す。
比誘電率=等価並列容量×電極間隔/電極面積/真空の誘電率(ε
0)
【0104】
【表10】
【0105】
表10より、オイルインク1〜5の場合、すなわち本発明の各低極性溶媒を用いて調製したオイルインクでは、比誘電率の変化は小さく、駆動特性に対する悪影響は小さいことが裏付けられた。
なお、比較例オイルインク1の場合、すなわち、溶媒にキシレン(比誘電率2.3)を用いて本発明のアントラキノン色素を溶解して調製したオイルインクでは、キシレンのみの場合と比べて比誘電率が20%程度大きく変化し、駆動特性に悪影響を与える場合がある。
【0106】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2010年3月9日出願の日本特許出願(特願2010−051815)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。