(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、二つの物質を重ね合わせると重ね合わせ対向面間にギャップ(隙間)ができる。ギャップがあると良好に接合されない。そこで、上記従来の接合方法では、加圧機器の加圧板で重ね合された二つの物質を狭持して加圧することでギャップをなくそうとしている。
【0006】
しかし、加圧しても必ずギャップがなくなるとは限らず、僅かなギャップが残る恐れがある。また、加圧板で狭持して加圧する方法は、加圧機器を必要とし、接合するのに長時間を要する。さらに、加圧板で狭持して加圧する方法を精密部品や脆性材に適用することは困難である。
【0007】
そこで、発明者は、
図12に示すように2枚のガラス板51、52を重ね合わせた対向面51a、52a間のギャップ(例えば、5μmの隙間)に(例えば、5μmの厚さの)リボンガラス53を介在させ(すなわち、ギャップをなくして)、ガラス板51を透過する波長の高エネルギ短パルスレーザLをレンズ50で集光照射する方法を考案した。レンズ50の焦点がギャップの中間に合わされ、ビームウエストのレーリーレンジZrがリボンガラス53の厚さより大きくなるように設定される。レーリーレンジZrの範囲はエネルギ密度が高いので、その範囲では多光子吸収とその後の蓄熱による溶融が起こり、ガラス板51、52が接合される。
【0008】
しかし、上記の方法では、リボンガラスのような別の物質がギャップに介在させられなければならない。したがって、この方法は接合に時間が掛かるといった問題を有している。また、ガラス板51、52を重ね合わせたときにできるギャップの大きさは様々であり、重ね合わせたときのギャップの大きさ測定してそのギャップの大きさと同じ厚さのリボンガラスを挿入することは難しい。ギャップの大きさに近い厚さのリボンガラスを挿入することができたとしても、リボンガラス53とガラス板51、52間に新たにギャップができる可能性もある。
【0009】
そこで、本発明は、二つの物質を重ね合わせたときにできる対向面間のギャップをなくすことなく接合できるレーザによる二つの物質の重ね合わせ接合法方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するためになされた本発明に係るレーザによる二つの物質の重ね合わせ接合方法は、二つの物質を重ね合わせた重ね合わせ対向面間のギャップ近傍に
互いに異なる2種類の高エネルギ短パルスレーザを集光レンズで集光照射し多光子吸収を起こして接合する接合方法であって、前記二つの物質の一方を透過する波長の第1高エネルギ短パルスレーザを前記対向面間のギャップ近傍に集光照射し前記ギャップを減少させるギャップ減少ステップと、前記ギャップ減少ステップで減少したギャップ近傍に前記一方の物質を透過する波長の第2高エネルギ短パルスレーザを集光照射して前記二つの物質を接合する接合ステップ
とを有
し、前記第2高エネルギ短パルスレーザは、多光子吸収を起こす高エネルギ短パルス列と溶融を起こすパルス列とからなることを特徴とする。
【0011】
ギャップ減少ステップで多光子吸収が誘起され、ギャップが減少或いは無しにされる。接合ステップでは、そのギャップが減少或いは無しにされた部分に第2高エネルギ短パルスレーザが集光照射されるので二つの物質を接合することができる。
【0013】
接合ステップで二つの物質を溶融接合することができる。
【0014】
また、前記ギャップ減少ステップは、多光子吸収の後にアブレーションを起こしてデブリを発生させ前記デブリで前記ギャップを減少させるとよい。
【0015】
デブリは集光照射領域の周辺に比較的広く発生するので、ギャップが減少する或いは無くなる領域が広くなる。その結果、接合ステップで第2高エネルギ短パルスレーザを集光照射する際、集光スポットの位置決めが容易になる。
【0016】
また、前記第1高エネルギ短パルスレーザは、多光子吸収を起こす高エネルギ短パルス列と熱膨張を起こすパルス列とからなるとよい。
【0017】
二つの物質の対向面における集光照射領域近傍が熱膨張するので、ギャップが確実に減少或いはなくなる。
【0018】
課題を解決するためになされた本発明に係るレーザによる二つの物質の重ね合わせ接合装置は、二つの物質を重ね合わせた重ね合わせ対向面間のギャップ近傍に
互いに異なる2種類の高エネルギ短パルスレーザを集光レンズで集光照射し多光子吸収を起こして接合する接合装置であって、前記物質の一方を透過する波長の第1高エネルギ短パルスレーザを前記対向面間のギャップ近傍に集光して第1集光スポットを形成し、前記第1集光スポットの近傍に前記一方の物質を透過する波長の第2高エネルギ短パルスレーザを集光して第2集光スポットを形成する光学系を備え
、前記第2高エネルギ短パルスレーザは、多光子吸収を起こす高エネルギ短パルス列と溶融を起こすパルス列とからなることを特徴とする。
【0020】
また、前記光学系は、前記第1集光スポットと前記第2集光スポットとを重ね合わせ方向と交差する方向に沿って形成するとよい。
【0021】
第1集光スポットによるデブリ領域に第2集光スポットが形成されるので、ギャップ減少ステップと接合ステップとを同時に行うことができる。
【0022】
また、前記第1高エネルギ短パルスレーザは、多光子吸収を起こす高エネルギ短パルス列と熱膨張を起こすパルス列とからなるとよい。
【0023】
また、前記第1高エネルギ短パルスレーザは、多光子吸収を起こす高エネルギ短パルス列と熱膨張を起こすパルス列とからなるとよい。
【0024】
また、前記光学系は、前記第1集光スポットと前記第2集光スポットとを重ね合わせ方向に沿って形成するとよい。
【0025】
第1集光スポットによる熱膨張領域に第2集光スポットが形成されるので、ギャップ減少ステップと接合ステップとを同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
ギャップ減少ステップで多光子吸収を起こし、ギャップを減少させる或いはなくすことができる。接合ステップは、そのギャップが減少した或いはなくなった部分に第2高エネルギ短パルスレーザを集光照射するので二つの物質を接合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態が図面に基づいて以下に詳しく説明される。
(実施形態1)
本実施形態のレーザによる二つの物質の重ね合わせ接合装置は、
図1に示すように、レーザユニット1から出力される第1高エネルギ短パルスレーザL1をレンズ4で例えば2枚のガラス板6、7の重ね合わせ部に集光照射するように構成されている。2枚のガラス板6、7は、重ね合わせたときの対向する面6aと7aとの間にギャップGをもち、XYZ移動ステージ5の上にセットされている。
【0029】
第1高エネルギ短パルスレーザL1の波長は、例えば1.5μmである。レーザL1は、
図2aに示すように、パルス(時間)幅が300fs、繰り返し周波数が1MHz、パルスエネルギが10μJ(ピークパワー3.3MW)のパルス列である。
【0030】
集光レンズ4として、例えば、倍率50倍の対物レンズを用いると、レーザを回折限界近く(波長オーダ)まで集光することができる。
【0031】
上記のような高エネルギ短パルスレーザL1を集光レンズ4で集光すると、透明なガラスでも最初のパルスu11で多光子吸収を起こし、屈折率が変化して波長1.5μmのレーザを吸収できるようになる。吸収できるところに次々とパルスu12、u13・・・が照射されると、アブレーションを起こし、デブリを発生する。
【0032】
<ギャップ減少ステップ>
図3は、第1高エネルギ短パルスレーザL1を集光レンズ4で集光照射しながらXYZ移動ステージ5をY方向に走査した後の
図1におけるA1−A1線断面図である。
図4は、
図3のA2−A2線断面図であるが、第1集光スポットP1が通過した領域7bは凹溝になり、凹溝7bの両側にデブリ7cが堆積する。デブリ7cの厚さhがギャップGに等しくなるように、例えば、Y方向の走査速度を調整すれば、デブリ7cが堆積した部分のギャップはゼロになる。
【0033】
<接合ステップ>
次に、XYZ移動ステージ5で2枚のガラス板6、7がX方向に所定ピッチ(数μm)移動させられる。次に、跳ね上げられていた可動ミラー2が点線で示す位置に下ろされて第2高エネルギ短パルスレーザL2がレンズ4に入射され、XYZ移動ステージ5でガラス板6、7がY方向に走査される。すると、第2集光スポットP2はデブリ7cが堆積したガラス7の対向面7a上をY方向に移動する。
【0034】
このとき、第2高エネルギ短パルスレーザL2が、
図2aに示すように、多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギ短パルス列L01(u011、u012、u013・・・)と、溶融を起こす高繰り返しパルス列L02(u021、u022、u023・・・)とからなると、ガラス板6、7は次のように接合される。すなわち、u011が照射されるとガラス板6、7のギャップ近傍は多光子吸収を起こし、その屈折率が変化して波長1.5μmのレーザを吸収できるようになる。吸収できるようになったところに次々とパルスu021、u022・・・u028が照射されると、8個のパルスによる熱がギャップ近傍に蓄積されてその部分の温度が上昇しその部分が溶融する。すなわち、ガラス板6とガラス板7とが接合される。
【0035】
多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギパルス列L01は、例えば、パルス(時間)幅が300fs、繰り返し周波数が100kHz、パルスエネルギが10μJ(ピークパワー3.3MW)のパルス列である。また、多数のパルスによる蓄熱効果でガラスを溶融させる高繰り返し中エネルギパルス列L02は、例えば、パルス幅が50ps、繰り返し周波数が1MHz、パルスエネルギが1μJ(ピークパワー20kW)のパルス列である。
【0036】
ここで、
図2に示すようなパルス列L1からパルス列L2を生成するパルス列生成手段3が説明される。
【0037】
パルス列生成手段3は、例えば
図5に示すように、パルス列L1をパルス列L10、L20に分波する分波器3aと、パルス列L10からパルス列L01を生成する第1パルス列生成手段3bと、パルス列L20からパルス列L02を生成する第2パルス列生成手段3cと、合波器3dとを有している。
【0038】
第1パルス列生成手段3bは、パルス列L10の繰り返し周波数より小さい周波数に変更する第1光変調器と、パルス列L10のピークパワーより大きいピークパワーに増幅する第1光増幅器を備えている。
【0039】
第2パルス列生成手段3cは、パルス列L20の繰り返し周波数より小さい周波数に変更する第2光変調器と、パルス列L20のピークパワーより大きいピークパワーに増幅する第2光増幅器を備えている。
【0040】
次に、パルス列生成手段3の動作が説明される。レーザユニット1から出力されるパルス列L1は、分波器3aでパルス列L10とパルス列L20とに分波される。
【0041】
パルス列L10は、第1光変調器でパルスが間引かれて低繰り返し周波数のパルス列になる。低繰り返し周波数のパルス列は、第1光増幅器で増幅され、ピークパワーの大きなパルス列L01になる。
【0042】
パルス列L20は、第2光変調器でパルスが間引かれて中繰り返し周波数のパルス列になる。中繰り返し周波数のパルス列は、第2光増幅手段で増幅され、ピークパワーが所定の大きさのパルス列L02になる。
【0043】
パルス列L01とパルス列L02とは、合波器3dで合波されてパルス列L01にパルスL02が重畳したパルス列L2になる。
【0044】
本実施形態では、第2高エネルギ短パルスレーザL2が、
図2aに示すように、多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギ短パルス列L01(u011、u012、u013・・・)と、溶融を起こす高繰り返しパルス列L02(u021、u022、u023・・・)とからなる。しかし、第2高エネルギ短パルスレーザL2を
図2bに示すように、多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギ短パルス列L01(u011、u012、u013・・・)と、溶融を起こす低繰り返し長パルス列L’02(u’021、u’022、u’023・・・)とからなるようにしても良い。溶融を起こす低繰り返しパルス列L’02は、例えば、パルス幅が50ns、繰り返し周波数が100kHz、パルスエネルギ1μJ(ピークパワー20W)のパルス列である。
【0045】
第2パルス列生成手段3cがパルス時間幅を広げる伸張手段を備えていると、上記のような低繰り返し長パルス列L’02(u’021、u’022、u’023・・・)が生成される。
(実施形態2)
実施形態1の接合装置では、ガラス板7の対向面7aに形成した第1集光スポットP1がY方向に走査されアブレーションが起こされ、その後跳ね上げミラー2を下ろされ、集光スポットP1の近傍に第2集光スポットP2が形成され、Y方向に走査されてガラス板6とガラス板7とが接合された。
【0046】
一方、本実施形態の接合装置では、
図6に示すように第1集光スポットP1と第2集光スポットP2とが対向面7a上に同時に形成され、ガラス板6とガラス板7とがY方向に走査される。
【0047】
したがって、第1集光スポットP1と第2集光スポットP2が対向面7a上に同時に形成されるようにするため、本実施形態の接合装置は実施形態1の接合装置と以下の点が相違する。
【0048】
すなわち、
図1中の跳ね上げミラー2が
図6に示すようにビームスプリッタ2Aに変更され、第1高エネルギ短パルスレーザL1と第2高エネルギ短パルスレーザL2とが同時に集光レンズ4に入射される。また、第2高エネルギ短パルスレーザL2が光軸0に対して角度θをなす方向から集光レンズ4に入射されるようにするために、
図1のビームスプリッタ8が
図6に示すようにミラー8Aに変更された。集光レンズ4の焦点距離をf、第1集光スポットP1と第2集光スポットP2との間隔をX1とすると、X1=ftanθの関係があるので、第2集光スポットP2を第1集光スポットP1からマイナスX方向にX1だけ離すことができる。
【0049】
本実施形態の接合装置は、ギャップ減少ステップと接合ステップを同時に行うことができるので、接合時間が短縮される。
【0050】
集光スポットP1、P2をX方向に同時に形成する光学系としては、
図6の他に、
図7に示すような光学系でもよい。例えば、DOE(Diffractive Optical Element)9が集光レンズ4の前に入れられると、第1集光スポットP1の両側に第2集光スポットP2が同時に形成される。
(実施形態3)
図8に示す本実施形態の接合装置は、多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギパルス列と熱膨張を起こす高繰り返し低エネルギパルス列とからなる第1高エネルギ短パルスレーザL1Aを下側のガラス板7の対向面7aから僅かに下がった位置に集光して第1集光スポットP1を形成し、多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギパルス列と溶融を起こす高繰り返し中エネルギパルス列とからなる第2高エネルギ短パルスレーザL2をギャップGの中間付近に集光して第2集光スポットP2を同時に形成するようにしたものである。
【0051】
レーザユニット1から出力された高繰り返し短パルスレーザL0は、ビームスプリッタ2Aで二つのレーザL31、L32に分割される。レーザL31は、パルス列生成手段3Aに入射されて変調及び増幅され、高繰り返し低エネルギパルス列L03に変換される。レーザL32は、ビームスプリッタ11で二つのレーザL41、L42に分割される。レーザL41は、パルス列生成手段3Bに入射されて変調及び増幅され、低繰り返し高エネルギ短パルスレーザL04に変換される。低繰り返し高エネルギ短パルスレーザL04は、ビームスプリッタ12で二つのレーザL05に分割され、分割された一方のレーザL05は、ビームスプリッタ13で高繰り返し低エネルギパルス列L03と合波され、
図9に模式的に示す第1高エネルギ短パルスレーザL1Aとなる。
【0052】
ビームスプリッタ11で分割されたレーザL42は、パルス列生成手段3Cに入射されて変調及び増幅され高繰り返し中エネルギパルス列L06に変換される。高繰り返し中エネルギパルス列L06はビームスプリッタ14で低繰り返し高エネルギ短パルスレーザL05と合波され、
図9に示す第2高エネルギ短パルスレーザL2となる。
【0053】
多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギパルス列L03(u031、u032、u033、・・・)と熱膨張を起こす高繰り返し低エネルギパルス列L05(u051、u052、u053、・・・)とからなる第1高エネルギ短パルスレーザL1A(=L03+L05)は、リレー光学系8で拡がり角αのレーザ光に変換され、その後ビームスプリッタ15で反射されて集光レンズ4に入射される。
【0054】
焦点距離fの集光レンズ4の焦点がギャップGの中間に合わせられると、多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギパルス列L06(u061、u062、u063、・・・)と溶融を起こす高繰り返し中エネルギパルス列L05(u051、u052、u053、・・・)とからなる第2高エネルギ短パルスレーザL2(=L06+L05)は、ビームスプリッタ15を透過して集光レンズ4に入射し、第2集光スポットP2を形成する。
【0055】
レーザL1Aの集光レンズ4でのビーム半径をrとすると、第1集光スポットP1がZ1={rf/(r−ftanα)}だけ第2集光スポットP2より下に形成される。
【0056】
下側のガラス板7の対向面7aから僅かに下がった位置に第1集光スポットP1が形成されると、u031パルスにより多光子吸収が起こり、u051、u052、・・・パルスの蓄熱で熱膨張が起こり、点線Bで示す膨張ガラスでギャップGが埋められる。
【0057】
点線Bで示す膨張ガラスに第2集光スポットP2が形成されると、u061パルスにより多光子吸収が起こり、u051、u052、・・・パルスの蓄熱で溶融が起こり、ガラス板6とガラス板7とが接合される。
【0058】
多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギパルス列L05は、例えば、パルス(時間)幅が300fs、繰り返し周波数が100kHz、パルスエネルギが10μJ(ピークパワー3.3MW)のパルス列である。また、多数のパルスによる蓄熱効果でガラスを熱膨張させる高繰り返し低エネルギパルス列L03は、例えば、パルス幅が50ps、繰り返し周波数が1MHz、パルスエネルギが0.2μJ(ピークパワー4kW)のパルス列である。
【0059】
また、多数のパルスによる蓄熱効果でガラスを溶融させる高繰り返し低エネルギパルス列L06は、例えば、パルス幅が50ps、繰り返し周波数が1MHz、パルスエネルギ0.2μJ(ピークパワー4kW)のパルス列である。
【0060】
XYZ移動ステージ5でガラス板6、7をY方向に走査することで、ガラス板6、7をY方向に連続して接合することができる。
【0061】
集光スポットP1、P2をZ方向に同時に形成する光学系としては、
図8の他に例えば、
図10に示すようなフレネルレンズ4Aを用いてもよい。上下二つの第1集光スポットP1で上下方向から熱膨張を起こし第2集光スポットP2で溶融させて接合することができる。
【0062】
本実施形態では、第1高エネルギ短パルスレーザL1Aが、
図9aに示すように、多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギ短パルス列L03(u031、u032、u033・・・)と、熱膨張を起こす高繰り返し低エネルギパルス列L05(u051、u052、u053、・・・)とからなる。しかし、第1高エネルギ短パルスレーザL1Aを、
図9bに示すように多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギ短パルス列L03(u031、u032、u033・・・)と、熱膨張を起こす低繰り返し長パルス列L07(u071、u072、u073・・・)とからなるようにしても良い。熱膨張を起こす低繰り返しパルス列L07は、例えば、パルス幅が80ns、繰り返し周波数が100kHz、パルスエネルギ0.5μJ(ピークパワー6.3W)のパルス列である。
【0063】
本実施形態では、第2高エネルギ短パルスレーザL2が、
図9aに示すように、多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギ短パルス列L06(u061、u062、u063・・・)と、溶融を起こす高繰り返しパルス列L05(u051、u052、u053・・・)とからなる。しかし、第2高エネルギ短パルスレーザL2を、多光子吸収を起こす低繰り返し高エネルギ短パルス列L06(u061、u062、u063・・・)と、溶融を起こす低繰り返し長パルス列L’05(u’051、u’052、u’053・・・)とからなるようにしても良い。溶融を起こす低繰り返し長パルス列L’05は、例えば、パルス幅が50ns、繰り返し周波数が100kHz、パルスエネルギ1μJ(ピークパワー20W)のパルス列である。
【実施例】
【0064】
本実施例は、
図1に示す実施形態1の接合装置を用いて行われた本接合法の検証実験例である。
【0065】
実験の都合で、高エネルギ短パルスレーザL1とL2は、同じパルス列からなる。すなわち、パルスエネルギは3μJ、波長は1045nm、繰り返し周波数は100kHzである。厚さ2mmの石英ガラス板6、7がギャップGが5μmになるように重ね合わされた。高エネルギ短パルスレーザL1が倍率50倍の顕微鏡対物レンズ4で集光され、第1集光スポットP1がギャップG付近に形成された。XYZ移動ステージ5のY方向への走査速度は1mm/secである。
【0066】
図11は、第1集光スポットP1でギャップG付近を走査した後に、上のガラス板6の上方から観察した顕微鏡写真である。真ん中の黒く見える部分がアブレーションにより溝加工された部分である。その両側に薄黒く見える部分がデブリでギャップが埋まった部分である。
【0067】
次に、デブリでギャップが埋まった薄黒く見える部分に第2集光スポットP2が形成された。第2集光スポットP2をY方向に1mm/secで走査した結果、ガラス板6と7を接合することができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本願発明を薄膜太陽電池の封止へ利用することが可能である。薄膜太陽電池の場合、吸収層がおよそ1−5μm程度ある。従来技術では、封止にUV硬化等の接着剤が使用されていたが、これでは10年程度の寿命しかない。吸収層の周囲を囲むようにガラス同士を溶接することにより接着剤を用いない封止が可能になる。又有機物を用いる太陽電池は水に弱い。樹脂による封止では水を透過させてしまうために有機層がダメージを受ける可能性があった。しかし、本願発明を用いることにより非浸水性のシールが可能となる。
【0069】
本願発明を有機ELの封止へ利用することも可能である。太陽電池と同じように、ガラス同士の溶接を行うことで、非浸水性のシールを行うことができる。一般に有機ELの発光層の厚みは1−2μm程度であり、本願発明の方法を利用することに適している。
【0070】
このほか、ガラスもしくは透明樹脂等を用いる必要のあるデバイスを安価に封止、もしくは固定するのに本願発明を利用することができる。例えば、顕微鏡やカメラのレンズなどには、曲率の異なる複数のレンズが組み合わされて使用される。この場合、二つのレンズは曲率が異なるために、重ねたときに接触する面積が非常に小さい(他の部分は接触しないで隙間があいている)。したがって、従来方法では溶接される面積が非常に小さく、十分な強度が得られない。本発明の方法を利用することにより隙間(ギャップ)のある部分も溶接できるので溶接強度が高い。
【0071】
3枚以上の組み合わせレンズでも、レンズは透明であるので一番上のレンズを透過させてレーザを照射することにより、2番目と3番目のレンズの界面を先に溶接し、その後、1番目と2番目のレンズの界面を溶接することも可能である。これは、レンズに限らず、透明材料を重ね合わせたものに対しても適用可能である。