特許第5748019号(P5748019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5748019
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】ピン端子及び端子材料
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20150625BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20150625BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20150625BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C25D7/00 H
   H01R13/03 D
   C22C9/00
   C22C38/00 302Z
   H01R13/03 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-172569(P2014-172569)
(22)【出願日】2014年8月27日
【審査請求日】2014年9月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 欣吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹朗
(72)【発明者】
【氏名】澤田 滋
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−222659(JP,A)
【文献】 特開2003−151668(JP,A)
【文献】 特開2001−107290(JP,A)
【文献】 特開2010−196084(JP,A)
【文献】 特開2013−049909(JP,A)
【文献】 特開2008−269999(JP,A)
【文献】 特開2012−237055(JP,A)
【文献】 特開平02−145794(JP,A)
【文献】 特開昭59−001666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/00− 7/12
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜70質量%のFeを含有し、残部がCu及び不可避的不純物よりなる化学成分を有し、Feを主成分とするFeリッチ相がCuを主成分とするCuリッチ相の中に分布している金属組織を有すると共に表面に上記Feリッチ相及び上記Cuリッチ相の両方が存在しているCu−Fe系合金からなる芯材と、
該芯材上に存在するNiめっき膜と、
該Niめっき膜上に存在するCuめっき膜と、
該Cuめっき膜上に存在するCuSn合金層と、
該CuSn合金層上に存在するSnめっき膜とを有しており、
上記Niめっき膜の厚みは0.01〜0.3μmであることを特徴とするピン端子。
【請求項2】
上記CuSn合金層の厚みは0.2μm以上であることを特徴とする請求項1に記載のピン端子。
【請求項3】
上記CuSn合金層にはCu6Sn5金属間化合物が含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載のピン端子。
【請求項4】
上記Cuめっき膜の厚みは0.5〜1.5μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のピン端子。
【請求項5】
上記Snめっき膜の厚みは0.6〜5μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のピン端子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のピン端子を作製するための端子材料であって、
10〜70質量%のFeを含有し、残部がCu及び不可避的不純物よりなる化学成分を有し、Feを主成分とするFeリッチ相がCuを主成分とするCuリッチ相の中に分布している金属組織を有すると共に表面に上記Feリッチ相及び上記Cuリッチ相の両方が存在しているCu−Fe系合金からなる芯材と、
該芯材上に存在するNiめっき膜と、
該Niめっき膜上に存在するCuめっき膜と、
該Cuめっき膜上に存在するSnめっき膜とを有しており、
上記Niめっき膜の厚みは0.01〜0.3μmであることを特徴とする端子材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピン端子及び端子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用PCB(Printed Circuit Board)コネクタ等の基板用コネクタには、例えば黄銅などの、銅に数質量%程度の金属を添加した銅合金を芯材とするピン端子が用いられている。
【0003】
近年では、コネクタ全体の軽量化、小型化及び低コスト化のために、より高い剛性を有すると共に、材料コストを低減できるピン端子が望まれている。そこで、材料の強度が高く、材料コストの低い銅合金として、Cu(銅)にFe(鉄)を添加したCu−Fe系合金をピン端子の芯材として用いることが検討されている。
【0004】
例えば特許文献1には、0.05〜5質量%の炭素が固溶した10〜70質量%のFeと、残部がCu及び不可避不純物との合金からなるばね部材の例が開示されている。かかる化学成分を有するCu−Fe系合金は、従来の銅合金よりも高い強度を有するものとなりやすい。また、Cu−Fe系合金は、Cuよりも地金代の安価なFeを含有しているため、Feの含有量を多くすることにより材料コストを容易に低減することができる。
【0005】
このように、Cu−Fe系合金は、ピン端子の芯材として十分な強度と、材料コストとを両立する可能性を有する材料である。
【0006】
一方、Feを10〜70質量%含有するCu−Fe系合金は、Cuを主成分とするCuリッチ相と、Feを主成分とするFeリッチ相とが混在した金属組織を有しており、芯材の表面にCuリッチ相及びFeリッチ相の両方が存在している。Feリッチ相は黄銅等の銅合金に比べて腐食しやすいため、このようなCu−Fe系合金よりなる芯材は、耐食性が低いという問題がある。
【0007】
ピン端子の耐食性を高めるためには、耐食性の高い金属層により芯材の表面を覆い、腐食しやすいFeリッチ相の露出を抑制することが有効である。そこで、Cu−Fe系合金よりなる芯材の表面にSnめっき膜を設けた後、Snめっき膜を加熱してリフロー処理を施し、芯材とSnめっき膜との間に耐食性の高いCuSn合金層を形成する方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−125468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の方法では、Cuリッチ相とSnめっき膜とが接触している部分にはリフロー処理によりCuSn合金層が形成されるが、Feリッチ相とSnめっき膜とが接触している部分にはCuSn合金層が形成されない。それ故、何らかの原因によりSnめっき膜が消失した場合にFeリッチ相の露出を抑制することが困難であり、耐食性の向上には限界がある。
【0010】
一方、従来の銅合金よりなるピン端子においては、芯材上にCuめっき膜及びSnめっき膜を積層させた状態でリフロー処理を行うことにより、Cuめっき膜とSnめっき膜との間にCuSn合金層を形成する技術が知られている。しかし、上記の技術をCu−Fe系合金よりなる芯材にそのまま適用するためには、以下の問題がある。即ち、Cu−Fe系合金よりなる芯材をCuめっき浴に浸漬すると、表面に露出したFeとめっき液中のCuイオンとの間で置換反応が起き、Cuが析出する。この置換反応により析出したCuは、電気めっきにより形成したCuに比べて芯材との密着性が低いため、ピン端子の表面に形成されるSnめっき膜がCuごと剥離しやすくなる。また、Snめっき膜が剥離すると芯材の表面が露出するため、CuSn合金層による耐食性向上の効果を十分に得ることが困難である。
【0011】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、低コストであり、かつ、優れた耐食性を有するピン端子及び該ピン端子を作製するための端子材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、10〜70質量%のFeを含有し、残部がCu及び不可避的不純物よりなる化学成分を有し、Feを主成分とするFeリッチ相がCuを主成分とするCuリッチ相の中に分布している金属組織を有すると共に表面に上記Feリッチ相及び上記Cuリッチ相の両方が存在しているCu−Fe系合金からなる芯材と、
該芯材上に存在するNiめっき膜と、
該Niめっき膜上に存在するCuめっき膜と、
該Cuめっき膜上に存在するCuSn合金層と、
該CuSn合金層上に存在するSnめっき膜とを有しており、
上記Niめっき膜の厚みは0.01〜0.3μmであることを特徴とするピン端子にある。
【0013】
本発明の他の態様は、上記の態様のピン端子を作製するための端子材料であって、
10〜70質量%のFeを含有し、残部がCu及び不可避的不純物よりなる化学成分を有し、Feを主成分とするFeリッチ相がCuを主成分とするCuリッチ相の中に分布している金属組織を有すると共に表面に上記Feリッチ相及び上記Cuリッチ相の両方が存在しているCu−Fe系合金からなる芯材と、
該芯材上に存在するNiめっき膜と、
該Niめっき膜上に存在するCuめっき膜と、
該Cuめっき膜上に存在するSnめっき膜とを有しており、
上記Niめっき膜の厚みは0.01〜0.3μmであることを特徴とする端子材料にある。
【発明の効果】
【0014】
上記ピン端子は、上記特定の化学成分を有する芯材を用いて作製されている。そのため、上記ピン端子は、十分に高い強度と、低い材料コストとを容易に両立することができる。また、上記ピン端子は、上記芯材中に導電率の高いCuリッチ相が含まれているため、従来の銅合金と同等以上の導電率を容易に確保することができる。
【0015】
また、上記ピン端子は、上記芯材と上記Cuめっき膜との間に上記Niめっき膜を有している。このように、上記芯材上に上記Niめっき膜を形成することにより、その後の上記Cuめっき膜を形成する工程においてCuめっき浴が上記芯材に直接接触することを抑制できる。その結果、置換反応によるCuの析出を抑制し、上記Cuめっき膜及び上記Snめっき膜と上記芯材との密着性を向上させることができる。
【0016】
また、上記ピン端子は、上記Cuめっき膜と上記Snめっき膜との間に上記CuSn合金層を有している。上記ピン端子は、上記CuSn合金層の存在により上記芯材の露出を抑制できるため、優れた耐食性を有する。
【0017】
以上のように、上記ピン端子は、低コストかつ優れた耐食性を有する。
【0018】
また、上記端子材料は、上記芯材上に上記特定の順序で積層されためっき膜を有している。そのため、上記端子材料を加熱してリフロー処理を施すことにより、CuとSnとを合金化させ、上記Cuめっき膜と上記Snめっき膜との間に緻密な上記CuSn合金層を形成することができる。このように、上記端子材料は、リフロー処理という単純な処理を施すことにより、上記ピン端子を容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例における、ピン端子の斜視図。
図2】実施例における、ピン端子の表面近傍の一部断面図。
図3】実施例における、ピン端子を組み込んだ基板コネクタの正面図。
図4図3のIV−IV線矢視断面図。
図5】実施例における、Snめっき膜を除去した状態のピン端子表面のSEM像。
図6】比較例における、芯材上にSnめっき膜を形成した後にリフロー処理を行ったピン端子の一部断面図。
図7】比較例における、塩化ナトリウム溶液を噴霧した後のピン端子表面のSEM像。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記ピン端子において、上記CuSn合金層は、上述したように、上記端子材料にリフロー処理を行うことにより形成することができる。この場合には、上記CuSn合金層中にCu6Sn5金属間化合物が含まれていることが好ましい。該金属間化合物は、優れた耐食性を有するため、上記ピン端子全体の耐食性をより向上させることができる。また、上記金属間化合物は、比較的硬く、かつ、高い導電性を有するため、上記ピン端子を相手方端子に接続する際の接続信頼性を向上させることができ、接触抵抗及び端子挿入力が低い状態を長期間に亘って維持することができる。
【0021】
また、上記CuSn合金層は、例えばCuSn合金のめっき処理等を行うことにより形成することも可能である。即ち、上記ピン端子は、例えば、Niめっき膜、Cuめっき膜、CuSnめっき膜及びSnめっき膜を上記芯材上に順次積層して作製することも可能である。この場合には、スペキュラム合金よりなるCuSnめっき膜をCuめっき膜上に形成することが好ましい。スペキュラム合金は、Cuの含有量が30〜50質量%と比較的多いため、耐食性の高いCu6Sn5金属間化合物を多く含んでいる。それ故、上述と同様に、上記ピン端子の耐食性及び接触信頼性をより向上させることができる。
【0022】
上記CuSn合金層の厚みは0.2μm以上であることが好ましい。この場合には、上記CuSn合金層の存在により、芯材の露出をより効果的に抑制することができる。その結果、上記ピン端子の耐食性をより向上させることができる。上記CuSn合金層の厚みが0.2μm未満の場合には、CuSn合金層による耐食性向上の効果が不十分となるおそれがある。
【0023】
上記ピン端子は、上記CuSn合金層が厚いほど優れた耐食性を有するが、CuSn合金層の厚みが1μmを超える場合には、生産性が低下する一方で耐食性を向上させる効果が飽和し始め、厚みに見合った効果を得ることが難しい。それ故、優れた耐食性と高い生産性とを両立させる観点からは、上記CuSn合金層の厚みは0.2〜1μmであることがより好ましい。
【0024】
上記Niめっき膜の厚みは0.01〜0.3μmである。上記Niめっき膜は、上述したように、Cuめっき膜を形成する工程においてCuめっき浴が上記芯材と直接接触することを抑制し、Cuめっき膜及びSnめっき膜と芯材との密着性を向上させる作用を有する。上記Niめっき膜の厚みを0.01μm以上にすることにより、上記の効果を十分に得ることができる。
【0025】
上記Niめっき膜の厚みが0.01μm未満の場合には、ピンホールやピット等の欠陥が上記Niめっき膜に過度に多く発生するため、Cuめっき浴と芯材とが接触しやすくなる。その結果、置換反応によるCuの析出が起こりやすくなり、Snめっき膜及びCuめっき膜と芯材との間の密着性が低下するおそれがある。
【0026】
上記Niめっき膜は、欠陥を低減してSnめっき膜及びCuめっき膜と芯材との間の密着性を向上させる観点からは、膜厚を厚くすることが好ましい。しかし、Niめっき膜は、電気めっき処理における電流密度をCuめっきよりも高くすることが難しく、上記芯材上への製膜速度を速くすることには限界がある。それ故、Niめっき膜の膜厚を厚くしようとするとめっき処理に要する時間が長くなり、製造コストの増大を招くという問題がある。製造コストの増大を抑制しつつSnめっき膜等との優れた密着性及び耐食性を得るためには、上記Niめっき膜の膜厚を0.01〜0.5μmにすることが好ましく、0.01〜0.3μmにすることがより好ましい。
【0027】
上記Cuめっき膜の厚みは0.5〜1.5μmであることが好ましい。この場合には、Snめっき膜の密着性をより高めることができる。上記Cuめっき膜の厚みが0.5μm未満の場合には、Snめっき膜の密着性が不十分となり、芯材から剥離しやすくなるおそれがある。また、上記CuSn合金層をリフロー処理により形成する場合には、Snとの合金化反応に費やされるCu量が不足し、CuSn合金層の厚みが不十分となるおそれがある。従って、上記の効果を十分に得るために、Cuめっき膜の厚みを0.5μm以上とすることが好ましい。
【0028】
なお、上記Cuめっき膜の厚みの上限は特にないが、生産性及び材料コスト低減の観点からは1.5μm以下とすることが好ましく、1.0μm以下とすることがより好ましい。
【0029】
上記Snめっき膜の厚みは0.6〜5μmであることが好ましい。Snめっき膜は比較的軟らかいため、厚みを上記特定の範囲にすることにより、相手方端子との接触抵抗を十分に低くすることができ、優れた接続信頼性を得ることができる。
【0030】
上記Snめっき膜の厚みが0.6μm未満の場合には、Snめっき膜による接続信頼性向上の効果が不十分となり、接触抵抗の上昇等を招くおそれがある。一方、上記Snめっき膜の厚みが5μmを超える場合には、相手方端子との嵌合の際にSnめっき膜が相手方端子に掘り起こされる、あるいは相手方端子の表面に存在するSnめっき膜との凝着が生じる等の問題が発生しやすくなり、端子挿入力の上昇を招くおそれがある。従って、優れた接続信頼性と低い端子挿入力とを両立させる観点から、上記Snめっき膜の厚みは0.6〜5μmであることが好ましい。同じ観点から、上記Snめっき膜の厚みは0.6〜3μmがより好ましく、0.6〜2μmが更に好ましい。
【0031】
上記芯材を構成するCu−Fe系合金は、10〜70質量%以上のFeを含有し、残部がCu及び不可避不純物よりなる化学成分を有している。かかる化学成分を有するCu−Fe系合金は、Feを主成分とするFeリッチ相がCuを主成分とするCuリッチ相の中に分布している金属組織を有する。ここで、上述した「主成分」とは、最も含有量の多い元素であることを意味している。即ち、上記Cuリッチ相は主成分のCuの他に微量のFeあるいは不純物を含有する場合がある。また、Feリッチ相は主成分のFeの他に微量のCuあるいは不純物を含有する場合がある。
【0032】
上記Cu−Fe系合金は、Feの含有量が多くなるほど強度が高くなる傾向がある。そのため、上記芯材は、Feの含有量を10質量%以上とすることにより、ピン端子に要求される強度を十分に満足することができる。また、上記芯材のFeの含有量を10質量%以上とすることにより、従来の銅合金よりも材料コストを低減することができる。それ故、強度をより高くし、材料コストをより低減する観点から、Feの含有量は10質量%以上とする。同じ観点から、Feの含有量は20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0033】
一方、Cu−Fe系合金は、Feの含有量が過度に多くなると、曲げ加工を施す際の加工性が悪化するため、ピン端子に曲げ加工を施す際に割れ等が生じ易くなる。また、芯材に含まれるFeリッチ相はCuリッチ相に比べて導電率が低いため、Feの含有量が過度に多い場合には、上記芯材の導電率が低くなりやすい。それ故、Feの含有量が過度に多い場合には、ピン端子に要求される導電率を満足することが困難となるおそれがある。これらの問題は、Feの含有量を70質量%以下に規制することにより回避することができる。同様の観点から、Feの含有量を60質量%以下に規制することが好ましい。
【0034】
以上のように、上記芯材は、Feの含有量を10〜70質量%とすることにより、ピン端子に要求される強度、加工性、導電性等の諸特性を満足でき、かつ、従来よりも材料コストを低減できる。
【0035】
上記端子材料は、例えば、上記特定の範囲の化学成分を有するCu−Fe系合金の線材にめっき処理を施すことにより作製することができる。即ち、上記端子材料は、所望の断面形状を有する線材に、Niめっき処理、Cuめっき処理及びSnめっき処理を順次施すことにより作製できる。また、上記端子材料は、Cu−Fe系合金の板材に打ち抜き加工を施して得られる打ち抜き材に、上記のめっき処理を順次施して作製してもよい。上述のようにして得られた端子材料は、リフロー処理を行ってCuSn合金層を形成した後、プレス加工による成形及び端子の切り離しを経てピン端子となる。なお、上述した線材や板材は、Cu−Fe系合金の鋳塊に熱間加工、冷間加工及び熱処理等の公知の工程を適宜組み合わせることにより作製できる。
【実施例】
【0036】
(実施例)
上記ピン端子の実施例について、図を用いて説明する。図1及び図2に示すように、ピン端子1は、10〜70質量%のFeを含有し、残部がCu及び不可避的不純物よりなる化学成分を有するCu−Fe系合金からなる芯材2を有している。また、ピン端子1は、芯材2上に存在するNiめっき膜3と、Niめっき膜3上に存在するCuめっき膜4と、Cuめっき膜4上に存在するCuSn合金層5と、CuSn合金層5上に存在するSnめっき膜6とを有している。
【0037】
以下、ピン端子1のより詳細な構成を、作製方法の一例と共に説明する。本例においては、まず、一辺が0.64mmの正方形断面を有し、Feを50質量%含有するCu−Fe系合金からなる角線材を準備した。かかる組成を有するCu−Fe系合金は、Feの含有量が固溶限を超えているため、Cuリッチ相20中にFeリッチ相21が分布した金属組織(図2参照)を有している。
【0038】
次に、上記角線材の表面に電気めっき処理を順次施すことにより、Niめっき膜3、Cuめっき膜4及びSnめっき膜6を積層させ、端子材料を作製した。電気めっき処理の条件は、従来公知の条件から適宜選択することができる。本例においては、Niめっき膜3の膜厚が0.3μm、Cuめっき膜4の膜厚が1.0μm、Snめっき膜6の膜厚が1.0μmとなるように電気めっき処理を行った。
【0039】
次いで、Niめっき膜3、Cuめっき膜4及びSnめっき膜6が形成された端子材料を加熱してリフロー処理を行い、Cuめっき膜4とSnめっき膜6との間にCuSn合金層5を形成した。リフロー処理における加熱温度は、Snの融点をTmとしたときに、Tm〜Tm+50℃の範囲内であることが好ましい。上記リフロー処理の加熱温度を上記特定の温度範囲とすることにより、SnとCuとを合金化させ、CuSn合金層5を確実に形成することができる。また、上記特定の温度範囲で上記リフロー処理を行う場合には、加熱時間を10〜120秒の範囲に制御することが好ましい。加熱温度及び加熱時間を上記の範囲内で設定することにより、緻密なCuSn合金層5を容易に形成することができる。
【0040】
本例においては、リフロー処理における加熱温度を280℃とし、加熱時間を20秒とした。その結果、0.3μmの厚みを有し、Cu6Sn5金属間化合物が含まれているCuSn合金層5を形成することができた。また、図には示さないが、本例においては、上記のリフロー処理を行うことによりNiめっき膜3のNiと芯材2及びCuめっき膜4のCuとが合金化し、芯材2とNiめっき膜3との間及びNiめっき膜3とCuめっき膜4との間にCuNi合金層が形成された。
【0041】
リフロー処理の後、端子材料にプレス加工を施し、所望の長さに切り離すと同時に切り離した端末部100をテーパ状に成形した。以上により、図1に示すピン端子1を得た。なお、本例のピン端子1は、プレス加工による切り離しの際に、切り離された端末部100に芯材2が不可避的に露出する。しかしながら、端末部100は相手方端子と直接接触せず通電経路とはならないこと、及び、CuSn合金層5により覆われた側周面101に比べて端末部100の面積比率が極めて小さいことから、端末部100における芯材2の露出がピン端子1全体の耐食性の低下を招くことはない。
【0042】
本例のピン端子1は、例えば、図3及び図4に示すPCBコネクタ10等の基板用コネクタに組み込んで用いることができる。コネクタ10は、凹部71を備えたハウジング7と、ハウジング7を貫通して配置された複数のピン端子1とを有している。
【0043】
ハウジング7は、図3及び図4に示すように略直方体状を呈しており、ピン端子1が貫通する底壁部72と、底壁部72の外周縁部から立設された側壁部73とを有している。そして、底壁部72及び側壁部73により囲まれた空間が凹部71を構成している。
【0044】
図4に示すように、ピン端子1は底壁部72を貫通して配置されており、凹部71内に相手方端子と直接接触する端子接続部102を有している。また、ピン端子1は、端子接続部102と反対側の端部にはんだ付け部103を有している。はんだ付け部103は、コネクタ10をPCB基板Pに実装する作業において、PCB基板Pのスルーホール(図示略)に挿入された状態ではんだ付けが施される。また、本例のピン端子1は、コネクタ10に配設された状態において、端子接続部102とはんだ付け部103とが互いに直角方向となるように屈曲されている。
【0045】
次に、本例の作用効果を説明する。図5に、Snめっき膜6をエッチングにより除去し、CuSn合金層5を露出させた状態のピン端子1の表面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を示す。図5より、上記の方法により作製したピン端子1は、ピットやピンホール等が少なく、CuSn合金の結晶50が緻密かつ均一に形成されたCuSn合金層5を有していることが理解できる。本例のピン端子1は、このようなCuSn合金層5を有していることにより、芯材2の露出を抑制でき、優れた耐食性を有すると考えられる。
【0046】
(比較例)
本例は、Cu−Fe系合金よりなる芯材2の表面に直接Snめっき膜6を形成し、リフロー処理を行ったピン端子8(図6参照)の例である。本例のピン端子8は、芯材2の表面に電気めっきにより膜厚1.5μmのSnめっき膜6を形成した後、温度280℃、20秒間の加熱条件でリフロー処理を行うことにより作製した。なお、図6及び図7において用いた符号のうち、実施例において用いた符号と同一のものは、特に説明のない限り実施例と同様の構成要素等を示す。
【0047】
本例においては、ピン端子8に中性の塩化ナトリウム溶液を連続的に噴霧して耐食性の評価を行った。なお、耐食性の評価は、JIS H 8502:1999に規定する中性塩水噴霧試験方法に準じた条件により行った。
【0048】
図7に、塩化ナトリウム溶液の噴霧を96時間行った後のピン端子8の表面のSEM像を示す。図7に示すように、試験後のピン端子8の表面からは腐食によりSnめっき膜6が消失しており、粒状の微細な結晶が集まっている領域Aと、比較的平坦な領域Bとが混在していた。また、図7と同一の視野について元素マッピング像を取得したところ、領域Aに存在する粒状の微細な結晶はCuSn合金の結晶50であり、領域Bは表面に露出したFeリッチ相21であることが確認できた。
【0049】
以上の結果から、本例のように芯材2の表面に直接Snめっき膜6を形成した後にリフロー処理を行う場合、図6に示すように、Feリッチ相21とSnめっき膜6とが接触している部分にはCuSn合金層5が形成されないことが理解できる。本例のピン端子8は、Snめっき膜6が腐食等により消失した後は、表面に露出したFeリッチ相21から芯材2の深部に向けて腐食が進行するおそれがある。以上より、本例のピン端子8は実施例のピン端子1に比べて耐食性が低いことが理解できる。
【符号の説明】
【0050】
1 ピン端子
2 芯材
3 Niめっき膜
4 Cuめっき膜
5 CnSn合金層
6 Snめっき膜
【要約】
【課題】低コストであり、かつ、優れた耐食性を有するピン端子及び該ピン端子を作製するための端子材料を提供する。
【解決手段】ピン端子1は、10〜70質量%のFeを含有し、残部がCu及び不可避的不純物よりなる化学成分を有するCu−Fe系合金からなる芯材2を有している。また、ピン端子1は、芯材2上に存在するNiめっき膜3と、Niめっき膜3上に存在するCuめっき膜4と、Cuめっき膜4上に存在するCuSn合金層5と、CuSn合金層5上に存在するSnめっき膜6とを有している。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図6
図5
図7