【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の一般式で表されるクロロプロパン化合物又はクロロプロペン化合物を原料として用い、これを気相中でクロム原子を含有するフッ素化触媒の存在下において、フッ化水素と加熱下で反応させて2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造する方法において、分子状塩素の存在下で反応を行うか、或いは反応系中に含まれる水分量を非常に低濃度に制御して反応を行う場合には、触媒活性の低下を抑制することが可能となることを見出した。特に、分子状塩素の存在下において、反応系中に含まれる水分量を低濃度に制御して反応を行う場合には、触媒活性の低下を長期間に亘って抑制することができ、長期間連続して高収率で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造することが可能となることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法を提供するものである。
項1. 一般式(1):CXYZCHClCH
2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH
2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH
2A(式中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物と無水フッ化水素とを、クロム原子を含むフッ素化触媒の存在下において気相状態で加熱下で反応させることを含む2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、
分子状塩素の存在下に反応を行う方法。
項2. 一般式(1):CXYZCHClCH
2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH
2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH
2A(式中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物と無水フッ化水素とを、クロム原子を含むフッ素化触媒の存在下において気相状態で加熱下で反応させることを含む2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、
原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として反応系に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行う方法。
項3. 一般式(1):CXYZCHClCH
2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH
2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH
2A(式中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物と無水フッ化水素とを、クロム原子を含むフッ素化触媒の存在下において気相状態で加熱下で反応させることを含む2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、
分子状塩素の存在下において、原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として反応系に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行う方法。
項4. 分子状塩素の供給量が、原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.3モルである上記項1又は3に記載の方法。
項5. 原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物が、一般式(2):CXYZCCl=CH
2(式中、X、Y及びZは上記に同じ)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH
2A(式中、X、Y及びAは上記に同じ)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれたものであり、分子状塩素の供給量が、該少なくとも一種の含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.2モルである上記項4に記載の方法。
項6. 原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として、反応系中に含まれる水分量を100ppm以下として反応を行う上記項2又は3に記載の方法。
項7. クロム原子を含むフッ素化触媒が、酸化クロム及びフッ素化された酸化クロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒である上記項1〜6のいずれかに記載の方法。
項8. フッ素化触媒が、組成式:CrO
m(1.5<m<3)で表される酸化クロム及び該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒である上記項7に記載の方法。
項9. 200〜380℃で反応を行う上記項1〜8のいずれかに記載の方法。
項10. 原料として用いる上記少なくとも一種の含塩素化合物1モルに対して、無水フッ化水素を3モル以上使用して反応を行う上記項1〜9のいずれかに記載の方法。
項11. 原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物が、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン及び1,1,2,3-テトラクロロプロペンからなる群から選ばれたものである上記項1〜10のいずれかに記載の方法。
【0014】
以下、本発明の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法について具体的に説明する。
【0015】
(I)原料化合物
本発明では、原料としては、一般式(1):CXYZCHClCH
2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH
2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH
2A(式中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物を用いる。尚、上記一般式(1)及び(3)において、Aで表されるハロゲン原子としては、F,Cl,Br,I等を例示できる。
【0016】
これらの含塩素化合物を原料として、後述する条件に従って無水フッ化水素との反応を行うことによって、一段階の反応工程で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を長期間連続して高収率で製造できる。
【0017】
上記した原料化合物の内で、一般式(1):CXYZCHClCH
2Aで表されるクロロプロパンの具体例としては、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン (CCl
3CHClCH
2Cl) (HCC-240db)、1-フルオロ-1,1,2,3-テトラクロロプロパン (CFCl
2CHClCH
2Cl) (HCFC-241db)、1,1-ジフルオロ-1,2,3-トリクロロプロパン (CF
2ClCHClCH
2Cl) (HCFC-242dc)、 2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン (CF
3CHClCH
2Cl) (HCFC-243db)等を例示でき、一般式(2):CXYZCCl=CH
2で表されるクロロプロペンの具体例としては、2,3,3,3-テトラクロロプロペン(CCl
3CCl=CH
2) (HCO-1230xf)、2,3-ジクロロ-3,3-ジフルオロプロペン (CF
2ClCCl=CH
2) (HCFO-1232xf)等を例示でき、一般式(3):CXY=CClCH
2A で表されるクロロプロペンの具体例としては、1,1,2,3-テトラクロロプロペン (CCl
2=CClCH
2Cl) (HCO-1230xa) 等を例示できる。これらの原料化合物は、いずれも容易に入手できる公知化合物である。
【0018】
本発明では、上記した原料化合物を一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0019】
(II)反応方法
本発明の製造方法は、クロム原子を含むフッ素化触媒の存在下において、加熱下に上記した原料化合物を気相状態で無水フッ化水素と反応させる方法であって、分子状塩素の存在下に反応を行うか、或いは、原料として用いる上記少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として反応系中に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行うことを特徴とする方法である。
【0020】
この様な条件下において、上記原料化合物を無水フッ化水素と反応させることによって、一段階の反応工程によって、高い選択率で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができる。しかも、触媒活性の低下が抑制されて、長期間連続して、高い選択率で高収率でHCFO-1233xfを得ることができる。従って、本発明の製造方法は、HCFO-1233xfの工業的スケールでの製造方法として非常に有用性が高い方法である。
【0021】
以下、分子状塩素の存在下に反応を行う方法と、水分量を制御して反応を行う方法について具体的に説明する。
【0022】
(i)分子状塩素の存在下に反応を行う方法:
本発明の第一の態様は、分子状塩素の存在下に反応を行う方法であり、触媒としてクロム原子を含有するフッ素化触媒を用いて、上記した原料化合物とフッ化水素とを気相状態で反応させる際に、分子状塩素の存在下で反応を行えばよい。
【0023】
この場合、気相状態で反応させる方法としては、後述する反応温度領域において、無水フッ化水素と接触する際に、原料化合物が気体状態であればよく、原料化合物の供給時には、原料化合物が液体状態であってもよい。例えば、原料化合物が常温、常圧で液状である場合には、原料化合物を気化器を用いて気化(気化領域)させてから予熱領域を通過させ、無水フッ化水素と接触させる混合領域に供給すればよい。これによって、気相状態で反応を行うことができる。また、原料化合物を液体状態で反応装置に供給し、反応器に充填した触媒層を原料化合物の気化温度以上に加熱しておいて、反応領域に達した時に原料化合物を気化させてフッ化水素と反応させても良い。
【0024】
反応は、通常、原料化合物と共に、無水フッ化水素を気相状態で反応器に供給することによって行うことができる。無水フッ化水素の使用量については、特に限定的ではないが、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の選択率を高い値とするためには、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、3モル程度以上とすることが好ましく、8モル程度以上とすることがより好ましい。無水フッ化水素の存在量がこの範囲を下回ると、HCFO-1233xf選択率の低下や触媒活性の低下が生じ易いので好ましくない。
【0025】
無水フッ化水素量の上限については特に限定的ではなく、フッ化水素量が多すぎても選択性、転化率にはあまり影響はないが、精製時にフッ化水素の分離量が増加することによって生産性が低下する。このため、通常、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、無水フッ化水素の量を100モル程度以下とすることが好ましく、50モル程度以下とすることがより好ましい。
【0026】
本発明の製造方法では、触媒として、クロム原子を含有するフッ素化触媒を用い、後述する条件に従って、分子状塩素の存在下に、原料として用いる含塩素化合物と無水フッ化水素とを反応させる。これによって、触媒活性の低下を抑制して、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の選択率を高い値に維持することができる。
【0027】
クロム原子を含有するフッ素化触媒としては、ハロゲン化物、酸化物などを用いることができる。これらの内で、好ましい触媒の一例としては、CrCl
3、CrF
3、Cr
2O
3、CrO
2、CrO
3等を挙げることができる。これらの触媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、特に限定的ではないが、例えば、ゼオライトに代表される多孔性アルミナシリケート、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、活性炭、酸化チタン、酸化ジルコニア、酸化亜鉛、フッ化アルミニウム等が挙げられる。
【0028】
本発明では、特に、酸化クロム及びフッ素化された酸化クロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒を用いることが好ましい。この様な酸化クロム触媒、フッ素化された酸化クロムとしては、結晶質酸化クロム、アモルファス酸化クロム、これらのフッ素化物などを用いることができる。
【0029】
酸化クロムの組成としては、特に限定的ではないが、例えば、組成式:CrO
mにおいて、好ましくは、mが1.5<m<3の範囲、より好ましくは2<m<2.75の範囲にある酸化物である。酸化クロム触媒の形状は粉末状、ペレット状など反応に適していればいかなる形状のものも使用できる。なかでもペレット状のものが好ましい。上記した酸化クロム触媒は、例えば、特開平5-146680号公報に記載された方法によって調製することができる。
【0030】
また、フッ素化された酸化クロムについては、例えば、上記した方法で得られる酸化クロムをフッ化水素によりフッ素化(HF処理)することによって得ることができる。フッ素化の温度は、例えば100〜460℃程度とすればよい。例えば、酸化クロムを充填した反応器に無水フッ化水素を供給することによって、酸化クロムのフッ素化を行うことができる。この方法で酸化クロムをフッ素化した後、原料を反応器に供給することによって、目的物の生成反応を効率良く進行させることができる。
【0031】
尚、本発明方法は、フッ化水素の存在下に反応を行うので、予めフッ素化処理を行わない場合にも、反応中に触媒のフッ素化が進行するであろう。
【0032】
フッ素化の程度については、特に限定的ではないが、例えば、フッ素含有量が5〜30wt %程度の酸化クロムを好適に用いることができる。
【0033】
フッ素化処理により触媒の表面積は変化するが、一般に高比表面積である程活性が高くなる。フッ素化された段階での比表面積は、25〜130 m
2/g程度であることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0034】
更に、特開平11-171806号公報に記載されている、インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素が添加されたクロム化合物を主成分とする触媒についても、酸化クロム触媒又はフッ素化された酸化クロム触媒として用いることができる。
【0035】
触媒を使用する方法については特に限定的でなく、原料ガスが触媒に充分に接触する状態で使用すればよい。例えば、反応器内に触媒を固定して触媒層を形成する方法、流動層中に触媒を分散させる方法などを適用できる。
【0036】
本発明の製造方法では、上記した触媒を用いて含塩素化合物と無水フッ化水素とを反応
させる際に、分子状塩素の存在下において反応を行うことが必要である。分子状塩素の存在下に反応を行うことによって、触媒活性の低下を抑制して、長期間継続して高い選択率で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることが可能となる。
【0037】
分子状塩素の存在下に反応を行う方法については特に限定はないが、通常は、分子状塩素を、原料として用いる含塩素化合物と共に反応器に供給すればよいが、含塩素化合物に分子状塩素を溶解させて反応器に供給してもよい。
【0038】
分子状塩素の供給量は、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.3モル程度とすればよく、0.001〜0.05モル程度とすることが好ましく、0.002〜0.03程度とすることがより好ましい。尚、原料として、一般式(2):CXYZCCl=CH
2で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH
2Aで表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物を用いる場合には、触媒活性の低下をより効果的に抑制するために、分子状塩素の供給量を、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.2モル程度とすることが好ましく、0.001〜0.1モル程度とすることがより好ましい。
【0039】
分子状塩素の供給量が少なすぎる場合には触媒活性を抑制する効果を十分に発揮することができず、一方、分子状塩素の供給量が多すぎると、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンなどの多塩素化生成物が増加して、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFC-1233xf)の選択率が低下する。よって、分子状塩素の量が少なすぎても、多すぎても好ましくない。
【0040】
本発明方法の具体的な実施態様の一例としては、管型の流通型反応器を用い、該反応器にフッ素化触媒を充填し、原料として用いる含塩素化合物、無水フッ化水素、及び分子状塩素を反応器に導入する方法を挙げることができる。
【0041】
反応器としては、ハステロイ(HASTELLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0042】
上記した原料は、反応器にそのまま供給してもよく、或いは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の原料や触媒に対して不活性なガスを共存させてもよい。不活性ガスの濃度は、反応器に導入される気体成分、即ち、含塩素化合物、無水フッ化水素及び塩素ガスに、不活性ガスを加えた量の0〜80 mol%程度とすることができる。
【0043】
また、本発明方法では、塩素の供給の下で、酸素も同時に供給してもよい。これにより、触媒活性の低下をより抑制することができる。供給する酸素の量は、特に限定的でないが、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.5モル程度とすることが好ましい。
【0044】
反応温度については、温度が低いと原料や生成物の分解が少なくなる点で有利であることから下限値は特に限定的ではないが、温度が低すぎると含塩素化合物の転化率が低下する傾向にあることから、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましい。
【0045】
反応温度の上限については、反応温度が高すぎると、原料の分解により触媒活性の低下が著しくなることや、C
1、C
2化合物の生成やCF
3CH=CHF、CF
3CH=CHCl等の異性体を副生し易くなるので好ましくない。このため、反応温度は、380℃以下とすることが好ましく、350℃以下とすることがより好ましい。
【0046】
尚、塩素を用いることなく、酸素のみを触媒の活性化に使用した場合には、反応温度が300℃より低いと活性化の効果が得られ難くなるので、反応温度を高くすることが必要であり、また、反応温度を350℃程度まで上げた場合でも、活性化に使用する酸素の供給量が多くなり、可燃ガスへの対応が必要になる等の弊害がある。
【0047】
反応時の圧力については、特に限定されるものではなく、減圧、常圧又は加圧下に反応を行うことができる。通常は、大気圧 (0.1 MPa)近傍の圧力下で実施すればよいが、0.1 MPa未満の減圧下においても円滑に反応を進行させることができる。更に、原料が液化しない程度の加圧下で反応を行っても良い。
【0048】
接触時間については限定的ではないが、例えば、W/F
0で表される接触時間を0.5〜70 g・sec/mL程度とすることが好ましく、1〜50 g・sec/mL程度とすることが好ましい。尚、W/F
0は、反応系に流す原料ガスの全流量F
0 (0℃、0.1 MPaでの流量:mL/sec)に対する触媒の充填量W (g)の比率である。この場合、原料ガスの全流量とは、含塩素化合物、無水フッ化水素、及び塩素の合計流量であり、不活性ガス、酸素、その他のガスなどを用いる場合には、含塩素化合物、無水フッ化水素及び塩素に、不活性ガス、酸素、その他のガス等の流量を加えた合計流量である。
【0049】
本発明の製造方法では、上記した条件を満足する範囲内において、本発明の効果に悪影響が無い限り、反応系内にその他の化合物が存在してもよい。
【0050】
例えば、上記した特許文献4(USP7795480)に記載されている公知の安定剤、例えば、アミン系安定剤、ヒドロキノン系安定剤などが反応系内に存在してもよい。
【0051】
(ii)反応系の水分量を制御する方法:
本発明の第二の態様は、反応系の水分量を制御する方法であり、触媒としてクロム原子を含有するフッ素化触媒を用いて、上記した原料として用いる含塩素化合とフッ化水素とを気相状態で反応させる際に、反応系に含まれる水分量を少量に制御する。
【0052】
使用する触媒の種類、具体的な反応方法、反応条件などについては、上記した分子状塩素の存在下に反応を行う場合と同様とすればよい。酸素、不活性ガス、安定剤などの各成分も、分子状塩素の存在下に反応を行う場合と同様の条件で使用することが可能である。反応温度についても、反応系に含まれる水分量を少量に制御することによって、分子状塩素の存在下に反応を行う場合と同様の温度範囲において、触媒活性の低下を抑制することができる。
【0053】
反応系の水分量を制御する方法では、上記記した原料化合物とフッ化水素とを気相状態で反応させる際に、反応系中に含まれる水分量を、原料として用いる含塩素化合物の重量を基準として300ppm以下とすることが必要であり、100ppm以下とすることが好ましい。水分量がこの範囲を上回ると、触媒が失活して中間生成物のHCFO-1232xfやHCO-1230xaが増加していくので、連続的な生産には好ましくない。
【0054】
尚、反応系に含まれる水分量とは、含塩素化合物と無水フッ化水素が触媒に接触して反応が行われる際に存在する水分量であり、原料として用いる含塩素化合物と無水フッ化水素に含まれる水分の他に、必要に応じて添加する成分である、酸素、不活性ガス、安定剤等に含まれる水分を加えた量である。
【0055】
反応系に含まれる水分量を低下させる方法については特に限定はなく、原料として用いる含塩素化合物、フッ化水素、その他の添加成分について、反応に使用する前に公知の方法で脱水処理を行えばよく、予め脱水処理をしたものを反応に供給する方法や、原料、フッ化水素及びその他の添加成分に脱水処理を施した後、引き続き反応系に供給する方法等を適宜適用できる。
【0056】
原料として用いる含塩素化合物を脱水処理する方法としては、例えば、蒸留による方法や脱水剤による方法が適用でき、効率の面から脱水剤による水分除去方法が好ましい。脱水剤による水分除去方法としては、例えば、ゼオライトを用いて水分を吸着処理する方法が好ましい。ゼオライトの形状としては、特に限定的でないが、粉状、顆粒状、ペレット状等の物を使用することができる。ゼオライトの細孔系としては、2.0〜6.0Å程度の物を使用することができる。含塩素化合物とゼオライトとの接触方法については特に限定的ではないが、通常はゼオライトを充填した容器に含塩素化合物をガス状または液状で流通させるのが効率的に好ましい。
【0057】
また、脱水剤を充填した容器を別個に設けることなく、反応装置(反応管)内の触媒充填層の前に脱水剤の充填層を設けて、反応装置(反応管)に供給した原料を、脱水剤の充填層を通過させた後、触媒層を通過させる方法によっても、反応系に含まれる水分量を低下させることができる。脱水剤の充填層の設置位置については特に限定的でないが、100℃を超えると脱水剤から吸着した水分の脱離が起こることから、触媒層前の100℃以下の部分に設置することが好ましい。
【0058】
また、フッ化水素の脱水処理方法としては、例えば、蒸留法等を適用できる。
【0059】
具体的な脱水処理の処理条件については、例えば、使用する原料、添加成分等に含まれる水分量や使用する装置の種類、構成等に応じて、予備的に実験を行うことによって、反応系における水分含有量が所望する値となるように決めればよい。
【0060】
(iii)分子状塩素の存在下において、水分量を制御する方法:
本発明の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法では、特に、分子状塩素の存在下において、原料として用いる含塩素化合物の重量を基準として反応系中に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行うことが好ましい。この場合の反応条件については、上記(i)及び(ii)項に記載した条件と同様とすればよい。
【0061】
この様な条件下で原料として用いる含塩素化合とフッ化水素とを反応させることによって、特に、触媒活性の低下を大きく抑制することができ、長期間に亘って高い選択率で高収率でHCFO-1233xfを得ることが可能となる。
【0062】
(III)反応生成物
上記した本発明方法によれば、原料として用いる一般式(1)〜(3)で表される少なくとも一種の含塩素化合物から、一段階の反応によって高い選択率で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができ、反応を継続した場合にも、触媒活性の低下が少なく、高い選択率を長期間維持できる。
【0063】
本発明の方法では、反応器出口から得られた生成物を蒸留などの方法で分離回収することによって、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができる。
【0064】
尚、生成物中に含まれる副生物の主要成分である1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)は、脱フッ化水素反応によって2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)に容易に変換できるため、生成物中に含まれる1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)や最終目的物と考えられる2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)も、有用な化合物として有効に利用することができる。