特許第5748027号(P5748027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許57480272−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748027
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20150625BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20150625BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150625BHJP
【FI】
   C07C17/25
   C07C21/18
   !C07B61/00 300
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-535344(P2014-535344)
(86)(22)【出願日】2012年10月23日
(65)【公表番号】特表2014-530233(P2014-530233A)
(43)【公表日】2014年11月17日
(86)【国際出願番号】JP2012077821
(87)【国際公開番号】WO2013065617
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2014年4月15日
(31)【優先権主張番号】61/553,523
(32)【優先日】2011年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/570,927
(32)【優先日】2011年12月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/605,841
(32)【優先日】2012年3月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄三
(72)【発明者】
【氏名】岸本 誠之
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0155942(US,A1)
【文献】 特表2009−522365(JP,A)
【文献】 特表2005−500150(JP,A)
【文献】 国際公開第93/025507(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/00
C07C 21/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):CXYZCHClCH2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2A(式 中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種 の含塩素化合物と無水フッ化水素とを、ハロゲン化クロム、酸化クロム及びフッ素化された酸化クロムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化触媒の存在下において気相状態で加熱下で反応させることを含む2-クロロ-3,3,3-ト リフルオロプロペンの製造方法であって、
分子状塩素の存在下に反応を行う方法。
【請求項2】
一般式(1):CXYZCHClCH2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2A(式 中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種 の含塩素化合物と無水フッ化水素とを、ハロゲン化クロム、酸化クロム及びフッ素化された酸化クロムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化触媒の存在下において気相状態で加熱下で反応させることを含む2-クロロ-3,3,3-ト リフルオロプロペンの製造方法であって、
原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として反応系に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行う方法。
【請求項3】
一般式(1):CXYZCHClCH2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2A(式 中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種 の含塩素化合物と無水フッ化水素とを、ハロゲン化クロム、酸化クロム及びフッ素化された酸化クロムからなる群より選択される少なくとも一種のフッ素化触媒の存在下において気相状態で加熱下で反応させることを含む2-クロロ-3,3,3-ト リフルオロプロペンの製造方法であって、
分子状塩素の存在下において、原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として反応系に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行う方法。
【請求項4】
分子状塩素の供給量が、原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.3モルである請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物が、一般式(2):CXYZCCl=CH2(式中、X、Y及びZは上記に同じ)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2A(式中、X、Y及びAは上記に同じ)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれたものであり、分子状塩素の供給量が、該少なくとも一種の含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.2モルである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として、反応系中に含まれる水分量を100ppm以下として反応を行う請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記フッ素化触媒が、酸化クロム及びフッ素化された酸化クロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
フッ素化触媒が、組成式:CrOm(1.5<m<3)で表される酸化クロム及び該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
200〜380℃で反応を行う請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、無水フッ化水素を3モル以上使用して反応を行う請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物が、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン及び1,1,2,3-テトラクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学式:CF3CCl=CH2で表される2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)は、各種フルオロカーボンを製造するための中間体として有用な化合物であり、また、各種の重合体におけるモノマー成分としても有用である。
【0003】
2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の製造方法としては、触媒の存在下に気相で無水フッ化水素(HF)と反応させる方法が知られている。例えば、下記特許文献1には、クロム系触媒の存在下に、1,1,2,3-テトラクロロプロペン(HCO-1230xa)を気相フッ素化する方法が開示されており、下記特許文献2にも、クロム系触媒を用いてHCO-1230xaを気相フッ素化する方法が報告されている。
【0004】
しかしながら、これらの文献に記載されている方法では、反応の進行に伴って触媒活性が劣化し易く、長期間反応を継続すると、触媒活性の低下により、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の選択率が低下するという問題点がある。
【0005】
例えば、下記特許文献3には、1,1,2,3-テトラクロロプロペン(HCO-1230xa)、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)等を原料として、HFによるフッ素化によって2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得た後、これにHFを付加させて2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC-244bb)とし、更に脱塩酸反応によって2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を得る方法が記載されている。この方法は、第一工程として、フッ化クロム酸化物などのフッ素化触媒の存在下に、HCO-1230xa、HCC-240db等をHFによりフッ素化してHCFO-1233xfとする工程を含むが、この工程においても反応の進行に伴って触媒の活性が低下することが避けられない。例えば、特許文献3の実施例1には、HCO-1230xaを原料として、フッ素化されたCr2O3の存在下でHFと反応させてHCFO-1233xfを得る工程が記載されているが、反応時間が650時間を経過するとHCFO-1233xfの選択率が約83%まで低下し、触媒の失活を理由として反応を停止している。
【0006】
一方、下記特許文献4には、フッ素化触媒の存在下に、1,1,2,3-テトラクロロプロペン(HCO-1230xa)、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db)、2,3,3,3-テトラクロロプロペン(HCO-1230xf)等をフッ素化する方法において、アミン系安定剤、ヒドロキノン系安定剤等を添加することによって触媒の劣化を抑制する方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、この方法は、選択率が低くなり、触媒活性を抑制する効果が十分ではなく、定期的な触媒の活性化処理が避けられない。
【0008】
また、下記特許文献5には、液相でハロゲン化アンチモン触媒の存在下に1,1,2,3-テトラクロロプロペン(HCO-1230xa)をHFと反応させる方法が開示されている。しかしながら、この方法は、触媒の取り扱いが困難な上、反応器腐食の発生や廃棄物の処理の必要性等により不経済であり、工業的な製法としては適さない。更に、下記特許文献6では、液相において無触媒条件下でHCO-1230xaとHFとを反応させることにより、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を製造できることが報告されている。しかしながら、この方法は、反応速度が遅く長い反応時間を要し、大過剰のHFが必要であり、高圧下での厳しい反応条件を強いる必要があること等から工業スケールの製法としては不向きである。
【0009】
以上の通り、簡便かつ経済的に高収率で連続して2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を製造できる方法が確立するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 2007/079431
【特許文献2】WO 2008/054781
【特許文献3】特開2009−227675号公報
【特許文献4】USP7795480
【特許文献5】US 2009/0030247 A1
【特許文献6】WO 2009/003084 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされてものであり、その主な目的は、工業的スケールにおいて、簡便且つ経済的に有利な方法で、効率よく2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の一般式で表されるクロロプロパン化合物又はクロロプロペン化合物を原料として用い、これを気相中でクロム原子を含有するフッ素化触媒の存在下において、フッ化水素と加熱下で反応させて2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造する方法において、分子状塩素の存在下で反応を行うか、或いは反応系中に含まれる水分量を非常に低濃度に制御して反応を行う場合には、触媒活性の低下を抑制することが可能となることを見出した。特に、分子状塩素の存在下において、反応系中に含まれる水分量を低濃度に制御して反応を行う場合には、触媒活性の低下を長期間に亘って抑制することができ、長期間連続して高収率で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを製造することが可能となることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法を提供するものである。
項1. 一般式(1):CXYZCHClCH2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2A(式中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物と無水フッ化水素とを、クロム原子を含むフッ素化触媒の存在下において気相状態で加熱下で反応させることを含む2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、
分子状塩素の存在下に反応を行う方法。
項2. 一般式(1):CXYZCHClCH2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2A(式中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物と無水フッ化水素とを、クロム原子を含むフッ素化触媒の存在下において気相状態で加熱下で反応させることを含む2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、
原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として反応系に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行う方法。
項3. 一般式(1):CXYZCHClCH2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2A(式中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物と無水フッ化水素とを、クロム原子を含むフッ素化触媒の存在下において気相状態で加熱下で反応させることを含む2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法であって、
分子状塩素の存在下において、原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として反応系に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行う方法。
項4. 分子状塩素の供給量が、原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.3モルである上記項1又は3に記載の方法。
項5. 原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物が、一般式(2):CXYZCCl=CH2(式中、X、Y及びZは上記に同じ)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2A(式中、X、Y及びAは上記に同じ)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれたものであり、分子状塩素の供給量が、該少なくとも一種の含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.2モルである上記項4に記載の方法。
項6. 原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として、反応系中に含まれる水分量を100ppm以下として反応を行う上記項2又は3に記載の方法。
項7. クロム原子を含むフッ素化触媒が、酸化クロム及びフッ素化された酸化クロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒である上記項1〜6のいずれかに記載の方法。
項8. フッ素化触媒が、組成式:CrOm(1.5<m<3)で表される酸化クロム及び該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒である上記項7に記載の方法。
項9. 200〜380℃で反応を行う上記項1〜8のいずれかに記載の方法。
項10. 原料として用いる上記少なくとも一種の含塩素化合物1モルに対して、無水フッ化水素を3モル以上使用して反応を行う上記項1〜9のいずれかに記載の方法。
項11. 原料として用いる該少なくとも一種の含塩素化合物が、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン及び1,1,2,3-テトラクロロプロペンからなる群から選ばれたものである上記項1〜10のいずれかに記載の方法。
【0014】
以下、本発明の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法について具体的に説明する。
【0015】
(I)原料化合物
本発明では、原料としては、一般式(1):CXYZCHClCH2A(式中、X、Y及びZは、同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロパン、一般式(2):CXYZCCl=CH2(式中、X、Y及びZは同一又は異なって、それぞれF又はClである。)で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2A(式中、X及びYは同一又は異なって、それぞれF又はClであり、Aはハロゲン原子である。)で表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物を用いる。尚、上記一般式(1)及び(3)において、Aで表されるハロゲン原子としては、F,Cl,Br,I等を例示できる。
【0016】
これらの含塩素化合物を原料として、後述する条件に従って無水フッ化水素との反応を行うことによって、一段階の反応工程で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を長期間連続して高収率で製造できる。
【0017】
上記した原料化合物の内で、一般式(1):CXYZCHClCH2Aで表されるクロロプロパンの具体例としては、1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン (CCl3CHClCH2Cl) (HCC-240db)、1-フルオロ-1,1,2,3-テトラクロロプロパン (CFCl2CHClCH2Cl) (HCFC-241db)、1,1-ジフルオロ-1,2,3-トリクロロプロパン (CF2ClCHClCH2Cl) (HCFC-242dc)、 2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン (CF3CHClCH2Cl) (HCFC-243db)等を例示でき、一般式(2):CXYZCCl=CH2で表されるクロロプロペンの具体例としては、2,3,3,3-テトラクロロプロペン(CCl3CCl=CH2) (HCO-1230xf)、2,3-ジクロロ-3,3-ジフルオロプロペン (CF2ClCCl=CH2) (HCFO-1232xf)等を例示でき、一般式(3):CXY=CClCH2A で表されるクロロプロペンの具体例としては、1,1,2,3-テトラクロロプロペン (CCl2=CClCH2Cl) (HCO-1230xa) 等を例示できる。これらの原料化合物は、いずれも容易に入手できる公知化合物である。
【0018】
本発明では、上記した原料化合物を一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0019】
(II)反応方法
本発明の製造方法は、クロム原子を含むフッ素化触媒の存在下において、加熱下に上記した原料化合物を気相状態で無水フッ化水素と反応させる方法であって、分子状塩素の存在下に反応を行うか、或いは、原料として用いる上記少なくとも一種の含塩素化合物の総重量を基準として反応系中に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行うことを特徴とする方法である。
【0020】
この様な条件下において、上記原料化合物を無水フッ化水素と反応させることによって、一段階の反応工程によって、高い選択率で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができる。しかも、触媒活性の低下が抑制されて、長期間連続して、高い選択率で高収率でHCFO-1233xfを得ることができる。従って、本発明の製造方法は、HCFO-1233xfの工業的スケールでの製造方法として非常に有用性が高い方法である。
【0021】
以下、分子状塩素の存在下に反応を行う方法と、水分量を制御して反応を行う方法について具体的に説明する。
【0022】
(i)分子状塩素の存在下に反応を行う方法:
本発明の第一の態様は、分子状塩素の存在下に反応を行う方法であり、触媒としてクロム原子を含有するフッ素化触媒を用いて、上記した原料化合物とフッ化水素とを気相状態で反応させる際に、分子状塩素の存在下で反応を行えばよい。
【0023】
この場合、気相状態で反応させる方法としては、後述する反応温度領域において、無水フッ化水素と接触する際に、原料化合物が気体状態であればよく、原料化合物の供給時には、原料化合物が液体状態であってもよい。例えば、原料化合物が常温、常圧で液状である場合には、原料化合物を気化器を用いて気化(気化領域)させてから予熱領域を通過させ、無水フッ化水素と接触させる混合領域に供給すればよい。これによって、気相状態で反応を行うことができる。また、原料化合物を液体状態で反応装置に供給し、反応器に充填した触媒層を原料化合物の気化温度以上に加熱しておいて、反応領域に達した時に原料化合物を気化させてフッ化水素と反応させても良い。
【0024】
反応は、通常、原料化合物と共に、無水フッ化水素を気相状態で反応器に供給することによって行うことができる。無水フッ化水素の使用量については、特に限定的ではないが、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の選択率を高い値とするためには、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、3モル程度以上とすることが好ましく、8モル程度以上とすることがより好ましい。無水フッ化水素の存在量がこの範囲を下回ると、HCFO-1233xf選択率の低下や触媒活性の低下が生じ易いので好ましくない。
【0025】
無水フッ化水素量の上限については特に限定的ではなく、フッ化水素量が多すぎても選択性、転化率にはあまり影響はないが、精製時にフッ化水素の分離量が増加することによって生産性が低下する。このため、通常、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、無水フッ化水素の量を100モル程度以下とすることが好ましく、50モル程度以下とすることがより好ましい。
【0026】
本発明の製造方法では、触媒として、クロム原子を含有するフッ素化触媒を用い、後述する条件に従って、分子状塩素の存在下に、原料として用いる含塩素化合物と無水フッ化水素とを反応させる。これによって、触媒活性の低下を抑制して、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)の選択率を高い値に維持することができる。
【0027】
クロム原子を含有するフッ素化触媒としては、ハロゲン化物、酸化物などを用いることができる。これらの内で、好ましい触媒の一例としては、CrCl3、CrF3、Cr2O3、CrO2、CrO3等を挙げることができる。これらの触媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、特に限定的ではないが、例えば、ゼオライトに代表される多孔性アルミナシリケート、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、活性炭、酸化チタン、酸化ジルコニア、酸化亜鉛、フッ化アルミニウム等が挙げられる。
【0028】
本発明では、特に、酸化クロム及びフッ素化された酸化クロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の触媒を用いることが好ましい。この様な酸化クロム触媒、フッ素化された酸化クロムとしては、結晶質酸化クロム、アモルファス酸化クロム、これらのフッ素化物などを用いることができる。
【0029】
酸化クロムの組成としては、特に限定的ではないが、例えば、組成式:CrOmにおいて、好ましくは、mが1.5<m<3の範囲、より好ましくは2<m<2.75の範囲にある酸化物である。酸化クロム触媒の形状は粉末状、ペレット状など反応に適していればいかなる形状のものも使用できる。なかでもペレット状のものが好ましい。上記した酸化クロム触媒は、例えば、特開平5-146680号公報に記載された方法によって調製することができる。
【0030】
また、フッ素化された酸化クロムについては、例えば、上記した方法で得られる酸化クロムをフッ化水素によりフッ素化(HF処理)することによって得ることができる。フッ素化の温度は、例えば100〜460℃程度とすればよい。例えば、酸化クロムを充填した反応器に無水フッ化水素を供給することによって、酸化クロムのフッ素化を行うことができる。この方法で酸化クロムをフッ素化した後、原料を反応器に供給することによって、目的物の生成反応を効率良く進行させることができる。
【0031】
尚、本発明方法は、フッ化水素の存在下に反応を行うので、予めフッ素化処理を行わない場合にも、反応中に触媒のフッ素化が進行するであろう。
【0032】
フッ素化の程度については、特に限定的ではないが、例えば、フッ素含有量が5〜30wt %程度の酸化クロムを好適に用いることができる。
【0033】
フッ素化処理により触媒の表面積は変化するが、一般に高比表面積である程活性が高くなる。フッ素化された段階での比表面積は、25〜130 m2/g程度であることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0034】
更に、特開平11-171806号公報に記載されている、インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素が添加されたクロム化合物を主成分とする触媒についても、酸化クロム触媒又はフッ素化された酸化クロム触媒として用いることができる。
【0035】
触媒を使用する方法については特に限定的でなく、原料ガスが触媒に充分に接触する状態で使用すればよい。例えば、反応器内に触媒を固定して触媒層を形成する方法、流動層中に触媒を分散させる方法などを適用できる。
【0036】
本発明の製造方法では、上記した触媒を用いて含塩素化合物と無水フッ化水素とを反応
させる際に、分子状塩素の存在下において反応を行うことが必要である。分子状塩素の存在下に反応を行うことによって、触媒活性の低下を抑制して、長期間継続して高い選択率で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることが可能となる。
【0037】
分子状塩素の存在下に反応を行う方法については特に限定はないが、通常は、分子状塩素を、原料として用いる含塩素化合物と共に反応器に供給すればよいが、含塩素化合物に分子状塩素を溶解させて反応器に供給してもよい。
【0038】
分子状塩素の供給量は、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.3モル程度とすればよく、0.001〜0.05モル程度とすることが好ましく、0.002〜0.03程度とすることがより好ましい。尚、原料として、一般式(2):CXYZCCl=CH2で表されるクロロプロペン、及び一般式(3):CXY=CClCH2Aで表されるクロロプロペンからなる群から選ばれた少なくとも一種の含塩素化合物を用いる場合には、触媒活性の低下をより効果的に抑制するために、分子状塩素の供給量を、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.2モル程度とすることが好ましく、0.001〜0.1モル程度とすることがより好ましい。
【0039】
分子状塩素の供給量が少なすぎる場合には触媒活性を抑制する効果を十分に発揮することができず、一方、分子状塩素の供給量が多すぎると、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンなどの多塩素化生成物が増加して、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFC-1233xf)の選択率が低下する。よって、分子状塩素の量が少なすぎても、多すぎても好ましくない。
【0040】
本発明方法の具体的な実施態様の一例としては、管型の流通型反応器を用い、該反応器にフッ素化触媒を充填し、原料として用いる含塩素化合物、無水フッ化水素、及び分子状塩素を反応器に導入する方法を挙げることができる。
【0041】
反応器としては、ハステロイ(HASTELLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0042】
上記した原料は、反応器にそのまま供給してもよく、或いは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の原料や触媒に対して不活性なガスを共存させてもよい。不活性ガスの濃度は、反応器に導入される気体成分、即ち、含塩素化合物、無水フッ化水素及び塩素ガスに、不活性ガスを加えた量の0〜80 mol%程度とすることができる。
【0043】
また、本発明方法では、塩素の供給の下で、酸素も同時に供給してもよい。これにより、触媒活性の低下をより抑制することができる。供給する酸素の量は、特に限定的でないが、原料として用いる含塩素化合物1モルに対して、0.001〜0.5モル程度とすることが好ましい。
【0044】
反応温度については、温度が低いと原料や生成物の分解が少なくなる点で有利であることから下限値は特に限定的ではないが、温度が低すぎると含塩素化合物の転化率が低下する傾向にあることから、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましい。
【0045】
反応温度の上限については、反応温度が高すぎると、原料の分解により触媒活性の低下が著しくなることや、C1、C2化合物の生成やCF3CH=CHF、CF3CH=CHCl等の異性体を副生し易くなるので好ましくない。このため、反応温度は、380℃以下とすることが好ましく、350℃以下とすることがより好ましい。
【0046】
尚、塩素を用いることなく、酸素のみを触媒の活性化に使用した場合には、反応温度が300℃より低いと活性化の効果が得られ難くなるので、反応温度を高くすることが必要であり、また、反応温度を350℃程度まで上げた場合でも、活性化に使用する酸素の供給量が多くなり、可燃ガスへの対応が必要になる等の弊害がある。
【0047】
反応時の圧力については、特に限定されるものではなく、減圧、常圧又は加圧下に反応を行うことができる。通常は、大気圧 (0.1 MPa)近傍の圧力下で実施すればよいが、0.1 MPa未満の減圧下においても円滑に反応を進行させることができる。更に、原料が液化しない程度の加圧下で反応を行っても良い。
【0048】
接触時間については限定的ではないが、例えば、W/F0で表される接触時間を0.5〜70 g・sec/mL程度とすることが好ましく、1〜50 g・sec/mL程度とすることが好ましい。尚、W/F0は、反応系に流す原料ガスの全流量F0 (0℃、0.1 MPaでの流量:mL/sec)に対する触媒の充填量W (g)の比率である。この場合、原料ガスの全流量とは、含塩素化合物、無水フッ化水素、及び塩素の合計流量であり、不活性ガス、酸素、その他のガスなどを用いる場合には、含塩素化合物、無水フッ化水素及び塩素に、不活性ガス、酸素、その他のガス等の流量を加えた合計流量である。
【0049】
本発明の製造方法では、上記した条件を満足する範囲内において、本発明の効果に悪影響が無い限り、反応系内にその他の化合物が存在してもよい。
【0050】
例えば、上記した特許文献4(USP7795480)に記載されている公知の安定剤、例えば、アミン系安定剤、ヒドロキノン系安定剤などが反応系内に存在してもよい。
【0051】
(ii)反応系の水分量を制御する方法:
本発明の第二の態様は、反応系の水分量を制御する方法であり、触媒としてクロム原子を含有するフッ素化触媒を用いて、上記した原料として用いる含塩素化合とフッ化水素とを気相状態で反応させる際に、反応系に含まれる水分量を少量に制御する。
【0052】
使用する触媒の種類、具体的な反応方法、反応条件などについては、上記した分子状塩素の存在下に反応を行う場合と同様とすればよい。酸素、不活性ガス、安定剤などの各成分も、分子状塩素の存在下に反応を行う場合と同様の条件で使用することが可能である。反応温度についても、反応系に含まれる水分量を少量に制御することによって、分子状塩素の存在下に反応を行う場合と同様の温度範囲において、触媒活性の低下を抑制することができる。
【0053】
反応系の水分量を制御する方法では、上記記した原料化合物とフッ化水素とを気相状態で反応させる際に、反応系中に含まれる水分量を、原料として用いる含塩素化合物の重量を基準として300ppm以下とすることが必要であり、100ppm以下とすることが好ましい。水分量がこの範囲を上回ると、触媒が失活して中間生成物のHCFO-1232xfやHCO-1230xaが増加していくので、連続的な生産には好ましくない。
【0054】
尚、反応系に含まれる水分量とは、含塩素化合物と無水フッ化水素が触媒に接触して反応が行われる際に存在する水分量であり、原料として用いる含塩素化合物と無水フッ化水素に含まれる水分の他に、必要に応じて添加する成分である、酸素、不活性ガス、安定剤等に含まれる水分を加えた量である。
【0055】
反応系に含まれる水分量を低下させる方法については特に限定はなく、原料として用いる含塩素化合物、フッ化水素、その他の添加成分について、反応に使用する前に公知の方法で脱水処理を行えばよく、予め脱水処理をしたものを反応に供給する方法や、原料、フッ化水素及びその他の添加成分に脱水処理を施した後、引き続き反応系に供給する方法等を適宜適用できる。
【0056】
原料として用いる含塩素化合物を脱水処理する方法としては、例えば、蒸留による方法や脱水剤による方法が適用でき、効率の面から脱水剤による水分除去方法が好ましい。脱水剤による水分除去方法としては、例えば、ゼオライトを用いて水分を吸着処理する方法が好ましい。ゼオライトの形状としては、特に限定的でないが、粉状、顆粒状、ペレット状等の物を使用することができる。ゼオライトの細孔系としては、2.0〜6.0Å程度の物を使用することができる。含塩素化合物とゼオライトとの接触方法については特に限定的ではないが、通常はゼオライトを充填した容器に含塩素化合物をガス状または液状で流通させるのが効率的に好ましい。
【0057】
また、脱水剤を充填した容器を別個に設けることなく、反応装置(反応管)内の触媒充填層の前に脱水剤の充填層を設けて、反応装置(反応管)に供給した原料を、脱水剤の充填層を通過させた後、触媒層を通過させる方法によっても、反応系に含まれる水分量を低下させることができる。脱水剤の充填層の設置位置については特に限定的でないが、100℃を超えると脱水剤から吸着した水分の脱離が起こることから、触媒層前の100℃以下の部分に設置することが好ましい。
【0058】
また、フッ化水素の脱水処理方法としては、例えば、蒸留法等を適用できる。
【0059】
具体的な脱水処理の処理条件については、例えば、使用する原料、添加成分等に含まれる水分量や使用する装置の種類、構成等に応じて、予備的に実験を行うことによって、反応系における水分含有量が所望する値となるように決めればよい。
【0060】
(iii)分子状塩素の存在下において、水分量を制御する方法:
本発明の2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの製造方法では、特に、分子状塩素の存在下において、原料として用いる含塩素化合物の重量を基準として反応系中に含まれる水分量を300ppm以下として反応を行うことが好ましい。この場合の反応条件については、上記(i)及び(ii)項に記載した条件と同様とすればよい。
【0061】
この様な条件下で原料として用いる含塩素化合とフッ化水素とを反応させることによって、特に、触媒活性の低下を大きく抑制することができ、長期間に亘って高い選択率で高収率でHCFO-1233xfを得ることが可能となる。
【0062】
(III)反応生成物
上記した本発明方法によれば、原料として用いる一般式(1)〜(3)で表される少なくとも一種の含塩素化合物から、一段階の反応によって高い選択率で目的とする2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができ、反応を継続した場合にも、触媒活性の低下が少なく、高い選択率を長期間維持できる。
【0063】
本発明の方法では、反応器出口から得られた生成物を蒸留などの方法で分離回収することによって、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)を得ることができる。
【0064】
尚、生成物中に含まれる副生物の主要成分である1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)は、脱フッ化水素反応によって2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)に容易に変換できるため、生成物中に含まれる1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb)や最終目的物と考えられる2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)も、有用な化合物として有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0065】
本発明方法によれば、特定の一般式で表される含塩素化合物を原料として、一段階の反応操作によって、高収率で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFC-1233xf)を製造することができ、反応を継続した場合にも触媒活性の低下が少なく、高い選択率を長期間維持できる。
【0066】
特に、分子状塩素の存在下において、水分量を少量に制御して反応を行う場合には、長期間に亘って触媒活性の低下を抑制でき、高い選択率で高収率でHCFO-1233xfを得ることが可能となる。
【0067】
このため、本発明方法によれば、触媒の交換や再生処理などの煩雑な処理を要することなく、長期間継続して、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFC-1233xf)を高収率で製造することができる。
【0068】
従って、本発明の方法は、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFC-1233xf)の製造方法として工業的に非常に有利な方法といえる。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0070】
実施例1
組成式:CrO2で表される酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒10 g (フッ素含有量約15.0重量%)を、内径15 mm、長さ1 mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧 (0.1 MPa)下で250℃に維持し、水分含有量50 ppmの無水フッ化水素(HF)ガスを114 mL/min (0℃、0.1 MPaでの流量)の流速で反応器に供給して1時間維持した。その後、水分含有量40 ppmのCCl3CHClCH2Cl (HCC-240db)を5.6 mL/min (0℃、0.1 MPaでのガス流量)の流速で供給した。この時の反応系のHCC-240dbの重量を基準とした水分量は134 ppmであった。また、HF:HCC-240dbモル比は20:1 、接触時間W/F0は5.0 g・sec/ccであった。
【0071】
20時間後、100時間後、及び200時間後の反応器からの流出ガスを、ガスクロマトグラフを使用して分析した。分析結果を表1に示す。
【0072】
この条件下では、HCFO-1233xf選択率は、20時間後に96.7%、200時間後に93.9%であり、高い値に維持された。また、HCFO-1233xfとHFC-245cbとHFO-1234yfを合わせた有用化合物の合計選択率の低下速度は0.37 %/dayであり、選択率の低下が抑制されていた。
【0073】
【表1】
【0074】
比較例1
水分含有量250 ppmのCCl3CHClCH2Cl (HCC-240db)を供給した他は、実施例1と同様の条件で反応を行った。この時の反応系中のHCC-240dbの重量を基準とした水分量は340 ppmであった。流出ガスの分析結果を表2に示す。
【0075】
この条件下では、HCFO-1233xf選択率は、20時間後に95.6%であったものが、200時間後には89.8%まで低下した。また、HCFO-1233xfとHFC-245cbとHFO-1234yfを合わせた有用化合物の合計選択率は、0.77 %/dayで低下した。
【0076】
【表2】
【0077】
実施例2
CCl3CHClCH2Cl (HCC-240db)1モルに対して分子状塩素を0.008モル溶解させたHCC-240dbを供給した他は、実施例1と同様の条件で反応を行った。この時の反応系中のHCC-240dbの重量を基準とした水分量は134 ppmであった。流出ガスの分析結果を表3に示す。
【0078】
この条件下では、HCFO-1233xf選択率は、20時間後に96.1%であったものが、200時間後には96.3%であり、高い値に維持された。また、HCFO-1233xfとHFC-245cbとHFO-1234yfを合わせた有用化合物の合計の選択率については、0.03 %/dayの低下速度であり、ほぼ一定の値を維持した。
【0079】
【表3】
【0080】
実施例3
実施例1で用いた水分含有量40 ppmのCCl3CHClCH2Cl (HCC-240db) (1 kg)にモレキュラーシーブス4A (100 g)を添加して、密栓をして24時間静置することにより、水分含有量15ppmのHCC-240dbを調製した。
【0081】
また、実施例1で用いた水分含有量50 ppmの無水フッ化水素(HF) (800 g)を、還流冷却器および蒸留管をつけた1Lポリテトラフルオロエチレン製容器に入れ、容器を加熱してHFを捕集することによって水分含有量10 ppmの無水フッ化水素(HF)を調製した。
【0082】
この様にして得られた水分含有量15 ppmのCCl3CHClCH2Cl (HCC-240db)と水分含有量10 ppmの無水フッ化水素(HF)ガスを供給した他は、実施例1と同様の条件で反応を行った。この時の反応系中のHCC-240dbの重量を基準とした水分量は34 ppmであった。流出ガスの分析結果を表4に示す。
【0083】
この条件下では、HCFO-1233xf選択率は、20時間後に96.8%であったものが、200時間後には95.6%であり、高い値に維持された。また、HCFO-1233xfとHFC-245cbとHFO-1234yfを合わせた有用化合物の合計選択率の低下速度は0.24 %/dayであり、選択率の低下が抑制されていた。
【0084】
【表4】
【0085】
実施例4
CCl3CHClCH2Cl (HCC-240db)の供給と同時に、塩素ガスを0.14mL/min (0℃、0.1 MPaでのガス流量)で供給した他は、比較例1と同様の条件で反応を行った。この時の反応系中のHCC-240dbの重量を基準とした水分量は340 ppmであった。流出ガスの分析結果を表5に示す。
【0086】
この条件下では、HCFO-1233xf選択率は、20時間後に96.2%であったものが、200時間後には95.3%であり、高い値に維持された。また、HCFO-1233xfとHFC-245cbとHFO-1234yfを合わせた有用化合物の合計の選択率については、0.11 %/dayの低下速度であり、選択率の低下が抑制されていた。
【0087】
【表5】
【0088】
実施例5
CCl3CHClCH2Cl (HCC-240db)の供給と同時に、塩素ガスを0.14mL/min (0℃、0.1 MPaでのガス流量)で供給した他は、実施例1と同様の条件で反応を行った。この時のCl2:HCC-240dbモル比は0.025:1であり、反応系中のHCC-240dbの重量を基準とした水分量は134 ppmであった。流出ガスの分析結果を表6に示す。
【0089】
この条件下では、HCFO-1233xf選択率は、20時間後に94.8%であったものが、200時間後には94.0%であり、高い値に維持された。また、HCFO-1233xfとHFC-245cbとHFO-1234yfを合わせた有用化合物の合計の選択率については、0.09 %/dayの低下速度であり、ほぼ一定の値が維持された。
【0090】
【表6】
【0091】
比較例2
組成式:CrO2で表される酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒20 g (フッ素含有量約15.0重量%)を、内径15 mm、長さ1 mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧 (0.1 MPa)下で250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)ガスを114 mL/min (0℃、0.1 MPaでの流量)の流速で反応器に供給して1時間維持した。その後、HFの流量を76 mL/minにした後、水分含有量 240 ppmのCCl2=CClCH2Cl (HCO-1230xa)を3.8 mL/min (0℃、0.1 MPaでのガス流量)の流速で供給した。この時の反応系の HCO-1230xaの重量を基準とした水分量は330ppmであった。また、HF: HCO-1230xaモル比は20:1 、接触時間W/F0は15.0 g・sec/ccであった。
【0092】
40時間後、70時間後、及び110時間後の反応器からの流出ガスを、ガスクロマトグラフを使用して分析した。分析結果を表7に示す。
【0093】
この条件下では、HCO-1230xaの転化率は、40時間後に85.2%であったものが、110時間後には50.0 %まで低下した。また、HCFO-1233xfの収率(転化率×選択率)は、40時間後に75.5 %であったものが、110時間後には23.0 %まで低下した。また、HCFO-1233xfとHFC-245cbとHFO-1234yfを合わせた有用化合物の合計の収率は、18.0 %/dayで低下した。
【0094】
【表7】
【0095】
実施例6
CCl2=CClCH2Cl (HCO-1230xa)の供給と同時に、塩素ガスを0.12 mL/min (0℃、0.1 MPaでのガス流量)で供給した他は、比較例2と同様の条件で反応を行った。この時の反応系のHCO-1230xaの重量を基準とした水分量は340ppmであり、Cl2: HCO-1230xaモル比は0.032:1であった。流出ガスの分析結果を表8に示す。
【0096】
この条件下では、HCO-1230xaの転化率は、25時間後に92.9%であったものが、100時間後には84.3 %であり、高い値に維持され、また、HCFO-1233xfの収率は、25時間後に88.4%であったものが、100時間後には78.0%であり、高い値に維持された。また、HCFO-1233xfとHFC-245cbとHFO-1234yfを合わせた有用化合物の合計の収率については、3.4 %/dayの低下速度であり、塩素ガスの供給により触媒活性の劣化が軽減された。
【0097】
【表8】