特許第5748070号(P5748070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5748070ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748070
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/22 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
   C08G75/22
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-517236(P2012-517236)
(86)(22)【出願日】2011年5月13日
(86)【国際出願番号】JP2011061605
(87)【国際公開番号】WO2011148862
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2013年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2010-120146(P2010-120146)
(32)【優先日】2010年5月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080850
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 静男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】福島 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中田 泰仁
【審査官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−204597(JP,A)
【文献】 特開2004−115675(JP,A)
【文献】 特開2007−246838(JP,A)
【文献】 特開2008−038077(JP,A)
【文献】 特開2007−204599(JP,A)
【文献】 特開2007−204507(JP,A)
【文献】 特開2005−002196(JP,A)
【文献】 特開2006−045363(JP,A)
【文献】 特公昭45−000343(JP,B1)
【文献】 特開2004−104360(JP,A)
【文献】 特開2006−063228(JP,A)
【文献】 特開2005−060491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/22
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(但し、不飽和スルホン酸および不飽和カルボン酸を除く)及びラジカル重合開始剤の存在下、極性溶媒中で、下記一般式(I)
[化1]

(ただし、R、Rは独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xa−はカウンターイオンを示し、aは該カウンターイオンの価数を示す)で表されるジアリルアミン類と二酸化硫黄とからなる単量体、前記酸の量を全単量体の合計モルに対し、4〜48mol%として共重合させて、分子量が2,800〜200,000であるジアリルアミン類(I)と二酸化硫黄との共重合体を製造することを特徴とする、ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の製造方法。
【請求項2】
極性溶媒中でジアリルアミン類(I)と酸とを混合し、次いで、得られたジアリルアミン類(I)の酸性溶液を二酸化硫黄と混合し、得られた混合液中において、ラジカル重合開始剤の存在下で、ジアリルアミン類(I)と二酸化硫黄とを共重合させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸が、pKa4.0以下の酸である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ジアリルアミン類(I)が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェイト、ジアリルメチルアミン塩酸塩及びジアリルアミン塩酸塩からなる群から選ばれるジアリルアミン類である請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の製造方法に関し、詳しくは、従来法よりも高分子量の共重合体を製造することができる、ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体は、ジアリルアミン類と二酸化硫黄とをラジカル重合開始剤の存在下で極性溶媒中において共重合させることにより高収率に製造可能である(例えば、特許文献1又は2参照)。この製造方法で得られるジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体は水溶性であり、水溶性塗料や染色物の染色堅牢度向上剤等、多様な分野で使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭45−343号公報
【特許文献2】特開2006−45363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載される従来の製造方法では、一般に低分子量の共重合体しか得られず、高分子量のジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体を製造することは困難であった。また、単量体濃度や添加するラジカル重合開始剤の量等によっては、製造される共重合体の分子量を制御することが容易ではなかった。
【0005】
この実状に鑑み、本発明の課題は、従来法よりも高分子量の共重合体、とりわけ高分子量でありかつ水溶性である共重合体を製造することができ、また製造される共重合体の分子量を制御可能である、ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記した課題を解決するために鋭意検討した結果、過剰の塩酸の存在下ではモノアリルアミン塩酸塩の低分子量重合体が製造されるという知見(特公平6−2780号公報参照)があるにもかかわらず、驚くべきことに、塩酸をはじめとした酸の存在下で共重合反応を進行させることで、酸が存在しない場合と比較して、得られるジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の分子量が上昇することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
従って、本発明は、従来法よりも高分子量でありかつ水溶性である共重合体を製造することができるジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の製造方法を提供するものであり、本発明は下記の[1]〜[5]からなるものである。
[1].酸(但し、不飽和スルホン酸および不飽和カルボン酸を除く)及びラジカル重合開始剤の存在下、極性溶媒中で、下記一般式(I)
[化1]

(ただし、R、Rは独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xa−はカウンターイオンを示し、aは該カウンターイオンの価数を示す)で表されるジアリルアミン類と二酸化硫黄とからなる単量体、前記酸の量を全単量体の合計モルに対し、4〜48mol%として共重合させて、分子量が2,800〜200,000であるジアリルアミン類(I)と二酸化硫黄との共重合体を製造することを特徴とする、ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の製造方法。
[2].極性溶媒中でジアリルアミン類(I)と酸とを混合し、次いで、得られたジアリルアミン類(I)の酸性溶液を二酸化硫黄と混合し、得られた混合液中において、ラジカル重合開始剤の存在下で、ジアリルアミン類(I)と二酸化硫黄とを共重合させることを特徴とする[1]に記載の方法。
[3].前記酸が、pKa4.0以下の酸である[1]又は[2]に記載の方法。
[4].前記ジアリルアミン類(I)が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェイト、ジアリルメチルアミン塩酸塩及びジアリルアミン塩酸塩からなる群から選ばれるジアリルアミン類である[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、従来の方法よりも高分子量であり、かつ水溶性であるジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体を高収率に製造することが可能である。また、本発明の方法で用いる酸の種類・量を選択することにより、得られる共重合体の分子量を制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1により得られたジアリルジメチルアンモニウムクロライドと二酸化硫黄との共重合体のIRスペクトルを示した図である。
図2】実施例1により得られたジアリルジメチルアンモニウムクロライドと二酸化硫黄との共重合体のGPCチャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のジアリルアミン類と二酸化硫黄(以下、本明細書においてSOと記載することもある)との共重合体の製造方法において原料の単量体として用いるジアリルアミン類は、下記一般式(I)
【化2】
で表される。
【0011】
一般式(I)において、R・Rは独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を例示でき、プロビル基、プチル基は直鎖状または分枝状のいずれでもよい。また、Xa−はカウンターイオンを示し、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸イオン、カルボン酸イオン、ジカルボン酸イオン、リン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、スルファミン酸イオン、水酸化物イオンを例示できる。なお、aはカウンターイオンの価数を示す。ここで、R及び/又はRが水素原子であって、Xa−が水酸化物イオンである場合、一般式(I)で表されるジアリルアミン類は、イオンのないフリー型となる。
【0012】
本発明の方法において用いるジアリルアミン類としては、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、ジアリルアルキルアミン塩、ジアリルアミン塩等を例示できる。
ジアリルジアルキルアンモニウム塩としては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムブロミド、ジアリルジメチルアンモニウムヨージド、ジアリルジメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジアリルジメチルアンモニウムエチルサルフェート、ジアリルエチルメチルアンモニウムクロライド、ジアリルエチルメチルアンモニウムブロミド、ジアリルエチルメチルアンモニウムヨージド、ジアリルエチルメチルアンモニウムメチルサルフェート、ジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェート、ジアリルジエチルアンモニウムクロライド、ジアリルジエチルアンモニウムブロミド、ジアリルジエチルアンモニウムヨージド、ジアリルジエチルアンモニウムメチルサルフェート、ジアリルジエチルアンモニウムエチルサルフェート、ジアリルメチルプロピルアンモニウムクロライド、ジアリルメチルプロピルアンモニウムブロミド、ジアリルメチルプロピルアンモニウムヨージド、ジアリルメチルプロピルアンモニウムメチルサルフェート、ジアリルメチルプロピルアンモニウムエチルサルフェートを挙げることができる。
ジアリルアルキルアミン塩としては、例えば、ジアリルメチルアミン塩酸塩、ジアリルメチルアミン臭化水素酸塩、ジアリルメチルアミンヨウ化水素酸塩、ジアリルメチルアミン硫酸塩、ジアリルメチルアミンメタンスルホン酸塩、ジアリルエチルアミン塩酸塩、ジアリルエチルアミン臭化水素酸塩、ジアリルエチルアミンヨウ化水素酸塩、ジアリルエチルアミン硫酸塩、ジアリルエチルアミンメタンスルホン酸塩、ジアリルプロピルアミン塩酸塩、ジアリルプロピルアミン臭化水素酸塩、ジアリルプロピルアミンヨウ化水素酸塩、ジアリルプロピルアミン硫酸塩、ジアリルプロピルアミンメタンスルホン酸塩、を挙げることができる。
ジアリルアミン塩としては、ジアリルアミン塩酸塩、ジアリルアミン臭化水素酸塩、ジアリルアミンヨウ化水素酸塩、ジアリルアミン硫酸塩、ジアリルアミンメタンスルホン酸塩を挙げることができる。
これらの中でも、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(以下、本明細書において、DADMACと記載することもある)、ジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェート(以下、本明細書において、DAEMAESと記載することもある)、ジアリルメチルアミン塩酸塩(以下、本明細書において、DAMA−HClと記載することもある)又はジアリルアミン塩酸塩(以下、本明細書において、DAA−HClと記載することもある)が、その用途が広く、製造も容易なため好ましい。
なお、これら1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明の方法において、ジアリルアミン類の量と二酸化硫黄の量を合わせた全単量体の反応液中の濃度は、40.00〜80.00質量%が好適であり、45.00〜78.00質量%が好ましく、50.00〜76.00質量%がより好ましく、55.00〜74.00質量%がさらに好ましく、60.00〜72.00質量%が特に好ましい。
【0014】
本発明の方法において、ジアリルアミン類/二酸化硫黄の仕込み単量体モル比は、得られる共重合体の安定性の観点から、通常、0.5/0.5以上であり、好ましくは0.5/0.5〜0.95/0.05であり、より好ましくは0.5/0.5〜0.8/0.2であり、さらに好ましくは0.5/0.5〜0.6/0.4、特に好ましくは0.5/0.5である。
【0015】
本発明の方法において用いる酸は、有機酸でも無機酸でもよいが、例えば、pKaが4.0以下の酸であり、好ましくはpKaが2.0以下の酸であり、より好ましくはpKaが1.0以下の酸であり、さらに好ましくはpKaが−0.5以下の酸であり、特に好ましくはpKaが−2.5以下の酸である。ここで、用いる酸のpKaの値が小さい程、本発明の方法において得られるジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の分子量が上昇する傾向がある。
【0016】
ここで、pKaは酸の電離指数を示し、温度およびイオン強度によって異なる平衡定数である。
本発明の方法において用いる酸のpKa値として、化学便覧基礎編改訂5版(丸善株式会社)に記載のpKa値を用いることができる。化学便覧基礎編改訂5版に溶媒又は液温に応じて複数の数値が記載されている場合には、酸のpKa値は、25℃の水中でのpKa値を意味するものとする。溶媒や液温に加えて、イオン強度よっても異なる数値が記載されている場合には、酸のpKa値は、イオン強度が0.1mol/lである水溶液の25℃でのpKa値を意味するものとする。
また、化学便覧基礎編改訂5版にpKa値が記載されない場合には、酸のpKa値は、25℃において窒素置換された超純水を使用してイオン強度を0.1mol/lに調整した水溶液を用意し、この水溶液のpKa値を電位差滴定装置、例えば、京都電子工業株式会社製 AT−510、により測定することで決定することができる。
なお、多価の酸の場合には、本発明の方法において用いる酸のpKaは、1段階目の解離反応におけるpKa(pKa1)を意味するものとする。
【0017】
本発明の方法において用いる酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸、硫酸、リン酸、過塩素酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ヒドロキシ酢酸を挙げることができる。その中でも、塩酸又は硫酸が、高分子量のジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体を得ることが可能なため好ましい。
【0018】
本発明の方法において用いる酸の量は、例えば、全単量体の合計モルに対し、4〜48mol%であり、5〜40mol%であることが好ましく、6〜35mol%であることがより好ましく、7〜33mol%であることがさらに好ましく、8〜32mol%であることが特に好ましい。
【0019】
本発明の方法において、酸と反応液とを混合するには、二酸化硫黄を混合する前に、極性溶媒中でジアリルアミン類を酸と混合してもよく、極性溶媒中でジアリルアミン類を二酸化硫黄と混合した後に反応液と酸を混合してもよいが、製造操作の容易性の観点からは、極性溶媒中でジアリルアミン類塩を酸と混合した後、反応液を二酸化硫黄と混合するのが好ましい。
【0020】
本発明の方法において、極性溶媒中でジアリルアミン類と酸とを混合して得られるジアリルアミン類の酸性溶液は、例えば、pHが3.30以下であり、pHが2.00以下であることが好ましく、pHが1.35以下であることがより好ましく、pHが0.80以下であることがさらに好ましく、pHが0.40以下であることが特に好ましい。特に、ジアリルアミン類と酸とを混合する前のジアリルアミン類溶液のpHが4.00以下である場合には、ジアリルアミン類の酸性溶液のpHは、1.35以下であることが好ましく、1.00以下であることがより好ましく、0.80以下であることがさらに好ましく、0.40以下であることが特に好ましい。
【0021】
なお、本発明におけるpHの値は、25℃の条件下においてpHメーター、例えば、HORIBA社製 pH METER F−22、によって測定された値である。
【0022】
本発明の方法において用いるラジカル重合開始剤としては、第三−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドのような有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルのような脂肪族アゾ化合物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムのような無機過酸化物、硝酸アンモニウム、硝酸カリウムのような硝酸塩等が挙げられる。また、空気等の酸素を含む気体、放射線、紫外線、可視光線も挙げられる。
【0023】
本発明の方法において、ラジカル重合開始剤の量及び利用方法は特に限定されないが、例えば、全単量体の質量に対して1〜3質量%、又は、全単量体の合計モルに対して0.1〜0.3mol%のラジカル重合開始剤を反応液に添加することができる。
【0024】
本発明の方法に用いる極性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)を挙げることができる。重合反応の溶媒としては水が重合反応性と安全性の面から特に好ましい。
【0025】
本発明の方法においては、通常、ジアリルアミン類と二酸化硫黄と酸とを含む極性溶媒に、ラジカル重合開始剤を加え、室温下または加熱条件下、適宜撹拌操作を加えることにより共重合が行われ、ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体溶液が得られる。重合温度は−100℃〜80℃が好ましく、5℃〜50℃がより好ましい。また、重合時間は1〜100時間が好ましい。
【0026】
反応終了後にジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体溶液中に残留する酸は、中和処理及び中和処理によって生じた塩の遠心分離による除去、又はイオン交換膜電気透析処理等を通じて、除去することが可能である。
【0027】
反応終了後、アルコールやアセトン等の共重合体を溶解させない溶媒を加えることにより、ジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体を再沈させ、濾取することもできる。
【0028】
本発明の方法によって得られるジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体は、下記一般式(II)又は(III)
【0029】
【化3】
【化4】
【0030】
(ただし、R・Rは独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xa−はカウンターイオンを示し、aは該カウンターイオンの価数を示す)で表されるジアリルアミン類構成単位と下記式(IV)
【0031】
【化4】
【0032】
で表される二酸化硫黄構成単位とを含む共重合体である。ジアリルアミン類/二酸化硫黄の単量体モル比が、0.5/0.5である場合には、前記した2種類の構成単位を交互に含む共重合体となると考えられる。
【0033】
本発明の方法によって得られるジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量で、2,800〜200,000の範囲内にあり、好ましくは3,500〜100,000の範囲内にあり、より好ましくは4,000〜80,000の範囲内にあり、さらに好ましくは6,000〜60,000の範囲内にあり、特に好ましくは、6,500〜50,000の範囲内にある。
【0034】
本発明の方法によって得られるジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体におけるジアリルアミン類構成単位と二酸化硫黄構成単位との共重合比(ジアリルアミン類構成単位:二酸化硫黄構成単位)は、(0.05〜20):1であり、好ましくは、(0.1〜10):1であり、より好ましくは、(0.2〜5):1であり、さらに好ましくは、(0.4〜2.5):1であり、特に好ましくは(0.6〜1.5):1である。
特に、本発明の方法によって得られるジアリルアミン類塩酸塩(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルメチルアミン塩酸塩、ジアリルアミン塩酸塩等)と二酸化硫黄との共重合体におけるジアリルアミン類塩酸塩と二酸化硫黄との共重合比(ジアリルアミン類塩酸塩構成単位:二酸化硫黄構成単位)は、共重合体中の塩素イオンと硫黄イオンとの濃度比から算出して、好ましくは(0.65〜1.2):1であり、より好ましくは(0.7〜1.1):1である。
【実施例】
【0035】
先ず、実施例及び比較例で得られた共重合体の重量平均分子量及び重合収率、DADMACとSOとの共重合体の共重合比、並びにpHの測定方法を以下に示す。
【0036】
(i)共重合体の重量平均分子量
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、日立L−6000型高速液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)によって測定した。溶離液流路ポンプは日立L−6000、検出器はショーデックスRI−101示差屈折率検出器、カラムはショーデックスアサヒパックの水系ゲル濾過タイプのGS−220HQ(排除限界分子量3,000)とGS−620HQ(排除限界分子量200万)とを直列に接続したものを用いた。サンプルは溶離液で0.5g/100mlの濃度に調製し、20μlを用いた。溶離液には、0.4モル/リットルの塩化ナトリウム水溶液を使用した。カラム温度は30℃で、流速は1.0ml/分で実施した。標準物質として、分子量106、194、440、600、1470、4100、7100、10300、12600、23000などのポリエチレングリコールを用いて較正曲線を求め、その較正曲線を基に共重合体の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0037】
(ii)共重合体の重合収率
GPC法により得られたピーク面積比により求めた。
【0038】
(iii)DADMACとSOとの共重合体の共重合比
DADMACとSOとの共重合体溶液をメタノールにて再沈精製し、得られた再沈物をガラスフィルターにて濾過し、次いで、減圧乾燥機にて1時間乾燥させて、白色結晶を得た。得られた結晶を水に溶かして1%溶液とし、燃焼型前処理装置付イオンクロマトグラフィーにより塩素イオン濃度及び硫黄イオン濃度の測定を行った。測定された塩素イオン濃度と硫黄イオン濃度との比より共重合比を求めた。
【0039】
(iv)pHの測定方法
室温条件下(23±5℃)でpHメーター(HORIBA社製)により測定した。
【0040】
次に、実施例1から7及び比較例1として、DADMAC(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)とSOとの共重合体の合成方法を示す。
なお、実施例1から7で用いた酸は、そのpKaが4.0以下の酸である。
【0041】
[実施例1]
攪拌機、温度計及び冷却管を備えた300mlセパラブルフラスコ中に65wt%DADMAC溶液198.99g(DADMAC0.80モル相当分)及び35wt%塩酸16.67g(塩酸0.16モル相当分;全単量体の合計モルに対して10mol%)を仕込み、均一攪拌させた。
次いで、20℃以下に冷却した後、SO51.25g(SO0.80モル相当分)を添加して均一溶液とした。
次いで、28.5%APS(過硫酸アンモニウム)水溶液7.60g(全単量体の合計質量対して1.2wt%相当分APS)を加えて共重合させ、DADMACとSOとの共重合体を水溶液として得た。
なお塩酸のpKaは、−3.7(化学便覧基礎編 改訂5版 丸善株式会社)である。
【0042】
[実施例2]
35wt%塩酸16.67gに代えて、35wt%塩酸33.33g(塩酸0.32モル相当分;全単量体の合計モルに対して20mol%)を用いた以外は実施例1と同様にして、DADMACとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0043】
[実施例3]
35wt%塩酸16.67gに代えて、35wt%塩酸50.00g(塩酸0.48モル相当分;全単量体の合計モルに対して30mol%)を用いた以外は実施例1と同様にして、DADMACとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0044】
[実施例4]
35wt%塩酸16.67gに代えて、95wt%硫酸16.52g(硫酸0.16モル相当分;全単量体の合計モルに対して10mol%)を用いた以外は実施例1と同様にして、DADMACとSOとの共重合体を水溶液として得た。
なお硫酸のpKaは、−3.0(Kolthoff,Treatise on Analytical Chemistry,New York,Interscience Encyclopedia,Inc.,1959)である。
【0045】
[実施例5]
35wt%塩酸16.67gに代えて、99wt%メタンスルホン酸15.53g(メタンスルホン酸0.16モル相当分;全単量体の合計モルに対して10mol%)を用いた以外は実施例1と同様にして、DADMACとSOとの共重合体を水溶液として得た。
なおメタンスルホン酸のpKaは、−0.6(Brownstein,S.;Stillman,A.E.J.P.C.1959,63,2061)である。
【0046】
[実施例6]
35wt%塩酸16.67gに代えて、97wt%アミド硫酸16.18g(アミド硫酸0.16モル相当分;全単量体の合計モルに対して10mol%)を用いた以外は実施例1と同様にして、DADMACとSOとの共重合体を水溶液として得た。
なおアミド硫酸のpKaは、0.99(化学便覧基礎編 改訂5版 丸善株式会社)である。
【0047】
[実施例7]
35wt%塩酸16.67gに代えて、70wt%グリコール酸15.21g(グリコール酸0.16モル相当分;全単量体の合計モルに対して10mol%)を用いた以外は実施例1と同様にして、DADMACとSOとの共重合体を水溶液として得た。
なおグリコール酸のpKaは、3.65(化学便覧基礎編 改訂5版 丸善株式会社)である。
【0048】
[比較例1]
35wt%塩酸16.67gに代えて、水16.67gを用いた以外は実施例1と同様にして、DADMACとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0049】
実施例1により得られたDADMACとSOとの共重合体のIRスペクトルを図1にGPCチャートを図2に示す。なお、IRスペクトルについては、得られた溶液の一部をアセトンで再沈殿させ、得られた白色固体を濾別し、50℃で48時間真空乾燥して得られた白色粉末状の共重合体のIRスペクトルを測定した。
図1より1120cm−1と1300cm−1付近に−SO−に起因する吸収が見られることから、得られた共重合体がDADMACとSOとの共重合体であることを支持する。
【0050】
また、実施例1〜7及び比較例1により得られたDADMACとSOとの共重合体の製造条件、重量平均分子量、重合収率及び共重合比を表1に示す。なお、表1において酸混合後DADMAC溶液pHとは、DADMAC溶液と酸を混合した後であってSO導入前のDADMAC溶液のpHであり、比較例1においては酸が混合されていないDADMAC溶液のpHを意味する。
表1に示されるように、DADMAC溶液と酸とを混合させることによって、酸と混合させない場合と比較して、得られるDADMACとSOとの共重合体の分子量が上昇することが確認された。また、酸の量及び種類を選択することによって、得られる共重合体の分子量を制御可能なことが確認された。
また、得られた共重合体は、DADMACとSOとのモル比1:1の共重合体に近いものであることが確認された。
【0051】
【表1】
【0052】
次に、実施例8〜9及び比較例2として、DAEMAES(ジアリルエチルメチルアンモニウムエチルサルフェート)とSOとの共重合体の合成方法を示す。
なお、実施例8及び9で用いた酸は、そのpKaが4.0以下の酸である。
【0053】
[実施例8]
攪拌機、温度計及び冷却管を備えた300mlセパラブルフラスコ中に69.32wt%DAEMAES溶液191.42g(DAEMAES0.50モル相当分;特開2006−45363号公報の方法に従い合成)及び35wt%塩酸10.42g(塩酸0.10モル相当分;全単量体の合計モルに対して10mol%)を仕込み、均一攪拌させた。
次いで、20℃以下に冷却した後、SO32.03g(SO0.50モル相当分)を添加して均一溶液とした。
次いで、28.5%APS水溶液7.60g(全単量体の合計モルに対して1.2wt%相当分APS)を加えて共重合させ、DAEMAESとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0054】
[実施例9]
35wt%塩酸10.42gに代えて、95wt%硫酸10.33g(硫酸0.10モル相当分;全単量体の合計モルに対して10mol%)を用いた以外は実施例1と同様にして、DAEMAESとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0055】
[比較例2]
35wt%塩酸10.42gに代えて、水10.42gを用いた以外は実施例8と同様にして、DAEMAESとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0056】
実施例8〜9及び比較例2により得られたDAEMAESとSOとの共重合体の製造条件、重量平均分子量、重合収率及び共重合比を表2に示す。なお、表2において酸混合後DAEMAES溶液pHとは、DAEMAES溶液と酸を混合した後であってSO導入前のDAEMAES溶液のpHであり、比較例2においては酸が混合されていないDAEMAES溶液のpHを意味する。
表2に示されるように、DAEMAES溶液と酸とを混合させることによって、酸と混合させない場合と比較して、得られるDAEMAESとSOとの共重合体の分子量が上昇することが確認された。
【0057】
【表2】
【0058】
次に、実施例10及び比較例3として、DAMA−HCl(ジアリルメチルアミン塩酸塩)とSOとの共重合体の合成方法を示す。
なお、実施例10で用いた酸は、そのpKaが4.0以下の酸である。
【0059】
[実施例10]
攪拌機、温度計及び冷却管を備えた300mlセパラブルフラスコ中に68.15wt%DAMA−HCl溶液173.32g(DAMA−HCl0.80モル相当分)及び35wt%塩酸16.67g(塩酸0.16モル相当分;全単量体の合計モルに対して10mol%)、及び希釈水41.04gを仕込み、均一攪拌させた。
次いで、20℃以下に冷却した後、SO51.25g(SO0.80モル相当分)を添加して均一溶液とした。
次いで、28.5%APS水溶液1.92g(全単量体の合計モルに対して0.15mol%相当分APS)を加えて共重合させ、DAMA−HClとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0060】
[比較例3]
35wt%塩酸16.67gに代えて、水16.67gを用いた以外は実施例10と同様にして、DAMA−HClとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0061】
実施例10及び比較例3により得られたDAMA−HClとSOとの共重合体の製造条件、重量平均分子量、重合収率及び共重合比を表3に示す。なお、表3において酸混合後DAMA−HCl溶液pHとは、DAMA−HCl溶液と酸を混合した後であってSO導入前のDAMA−HCl溶液のpHであり、比較例3においては酸が混合されていないDAMA−HCl溶液のpHを意味する。
表3に示されるように、DAMA−HCl溶液と酸とを混合させることによって、酸と混合させない場合と比較して、得られるDAMA−HClとSOとの共重合体の分子量が上昇することが確認された。
【0062】
【表3】
【0063】
次に、実施例11及び比較例4として、DAA−HCl(ジアリルアミン塩酸塩)とSOとの共重合体の合成方法を示す。
なお、実施例11で用いた酸は、そのpKaが4.0以下の酸である。
【0064】
[実施例11]
攪拌機、温度計及び冷却管を備えた300mlセパラブルフラスコ中に66.76wt%DAA−HCl溶液130.10g(DAA−HCl0.65モル相当分)及び35wt%塩酸13.55g(塩酸0.13モル相当分;全単量体の合計モルに対して10mol%)、及び希釈水28.87gを仕込み、均一攪拌させた。
次いで、20℃以下に冷却した後、SO41.64g(SO0.65モル相当分)を添加して均一溶液とした。
次いで、28.5%APS水溶液2.08g(全単量体の合計モルに対して0.2mol%相当分APS)を加えて共重合させ、DAA−HClとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0065】
[比較例4]
35wt%塩酸13.55gに代えて、水13.55gを用いた以外は実施例11と同様にして、DAA−HClとSOとの共重合体を水溶液として得た。
【0066】
実施例11及び比較例4により得られたDAA−HClとSOとの共重合体の製造条件、重量平均分子量、重合収率及び共重合比を表4に示す。なお、表4において酸混合後DAA−HCl溶液pHとは、DAA−HCl溶液と酸を混合した後であってSO導入前のDAA−HCl溶液のpHであり、比較例4においては酸が混合されていないDAA−HCl溶液のpHを意味する。
表4に示されるように、DAA−HCl溶液と酸とを混合させることによって、酸と混合させない場合と比較して、得られるDAA−HClとSOとの共重合体の分子量が上昇することが確認された。
【0067】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、高分子量でありかつ水溶性であるジアリルアミン類と二酸化硫黄との共重合体が得られる。分子量が上昇することで共重合体の金属親和性や粘度が上昇するので、本発明で得られる共重合体はインクの定着剤としての用途が期待される。また、近年、高分子量の酸性インヒビターが種々の用途で求められており、本発明で得られる共重合体はこの需要に応えるものとなりうる。
図1
図2