特許第5748080号(P5748080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748080
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】試験用リチウムイオン電池の観察治具
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20150625BHJP
   H01M 10/44 20060101ALN20150625BHJP
【FI】
   H01M10/48 A
   !H01M10/44 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-258885(P2013-258885)
(22)【出願日】2013年12月16日
(62)【分割の表示】特願2012-109857(P2012-109857)の分割
【原出願日】2012年5月11日
(65)【公開番号】特開2014-89969(P2014-89969A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2014年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000115902
【氏名又は名称】レーザーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124280
【弁理士】
【氏名又は名称】大山 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】平川 琢己
(72)【発明者】
【氏名】米澤 良
【審査官】 田中 寛人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−54195(JP,A)
【文献】 特開2007−59387(JP,A)
【文献】 特開2008−192497(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/001502(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H61/00−61/08
H01M2/10
10/42−10/48
H02J7/00−7/12
7/34−7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験用リチウムイオン電池の製造に用いられ、正極板、負極板及びセパレータを含む電池構造体と電池構造体を包囲する絶縁フィルムとを挟み込んで固定する試験用リチウムイオン電池の観察治具であって、
互いに係合し、前記電池構造体を挟み込む第1及び第2の締結部材と、第1及び第2の締結部材を相互に固定する締結ネジとを有し、
前記第1及び第2の締結部材は、互いに係合して締結された際、前記電池構造体の延在方向と直交し、同一高さレベルの基準面を形成する平坦面をそれぞれ有し、
前記第1及び第2の締結部材の平坦面により形成される基準面は、電池構造体及び絶縁フィルムの顕微鏡観察されるエッジを位置決めする基準面として機能すると共に観察窓を構成する透明板が固定される接合面として機能することを特徴とする試験用リチウムイオン電池の観察治具。
【請求項2】
請求項1に記載の試験用リチウムイオン電池の観察治具において、前記電池構造体及び絶縁フィルムの顕微鏡観察されるエッジと観察窓を構成する透明板は、前記第1及び第2の締結部材の平坦面により形成される基準面を介して相互に位置決めされることを特徴とする試験用リチウムイオン電池の観察治具。
【請求項3】
請求項2に記載の試験用リチウムイオン電池の観察治具において、前記第1及び第2の締結部材の基準面を形成する平坦面には溝が形成され、
前記第1及び第2の締結部材が締結ネジにより締結された際、前記第1及び第2の締結部材に形成された溝は、一緒になって電池構造体及び絶縁フィルムの顕微鏡観察されるエッジの周囲を包囲する全周溝を形成することを特徴とする試験用リチウムイオン電池の観察治具。
【請求項4】
請求項3に記載の試験用リチウムイオン電池の観察治具において、前記全周溝に接着剤が導入され、前記透明板は、全周溝に導入された接着剤により第1及び第2の締結部材に密封固定されることを特徴とする試験用リチウムイオン電池の観察治具。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池構造体と電池構造体を包囲する絶縁フィルムとを挟み込んで固定する試験用リチウムイオン電池の観察治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や携帯端末等の電源装置としてリチウムイオン二次電池用いられている。リチウムイオン電池は、劣化するとリチウムイオンが金属リチウムに変成し、デンドライトが発生する。デンドライトは電池の充放電により成長する特性があり、デンドライトが成長すると正極と負極とを分離するセパレータを突き抜け、正極と負極とがショートする危険性がある。デンドライトの成長により正極と負極とがショートすると、過充電が生じ、熱暴走が発生する危険性がある。よって、電池の外部からデンドライトの生成状況が経時的に観測できれば、リチウムイオン電池の安全性を高める上で有益な情報を得ることが期待される。さらに、動作中のリチウムイオン電池の内部構造が外部から観察できれば、電池の劣化の進行状況を把握する上で有益な情報を得ることができる。さらに、リチウムイオンの濃度は活物質層の色彩と密接な関係があるため、動作中のリチウムイオン電池の内部状況を色彩情報と共に把握できれば、リチウムイオン電池の各種材料の開発についても有益な情報を得ることが期待される。
【0003】
リチウムイオン電池の内部構造を観察する方法として、ボタン型の簡易評価装置が既知である。この評価装置では、ステンレス製のポットの内部に正極板、セパレータ及び負極板を配置し、電解液を注入した後金属製の蓋を配置して試験用のリチウムイオン電池が形成されている。そして、充放電を繰り返した後、内部を開き電池材料の劣化の進行状況等のデータが取得されている。
【0004】
さらに、上述した簡易型評価装置を改良したものとして、金属製の蓋にガラス板を嵌め込み、ガラス板を介して負極板及び正極板と直交する方向から電池の内部を観察する方法も既知である。この簡易型の評価装置では、負極板及びセパレータに円形のくり抜き部分を形成することにより、動作中の正極板付近の進行状況が観察されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したボタン型の簡易評価装置は、試験用のリチウムイオン電池が形成されるので、充放電を繰り返した後分解して内部構造を観察することにより電池材料等の劣化の進行状況を把握することができる。しかしながら、簡易型の評価装置により形成される電池は、実際の製品とは構造的に大幅に相違するため、取得されるデータが実際の製品と大幅に相違する欠点があった。
【0006】
また、ガラス板が嵌め込まれた簡易型の評価装置では、負極板及び正極板と直交する方向から電池の内部を観察する構造であるため、正極板と負極板との間の領域を詳細に観察することができず、得られたデータの信頼性に欠ける問題点が指摘されている。特に、セパレータと負極板が局所的に除去されたエリアを介して内部が観察されるため、実際の製品とは構造的に相違する部位を観察することになり、取得されるデータの信頼性に問題があった。
【0007】
本発明の目的は、実際の製品とほぼ同様な構造を有するリチウムイオン電池の内部構造を正極板及び負極板の延在方向と平行な方向から観察できるリチウムイオン電池の観察方法を実現することにある。
本発明の別の目的は、動作中のリチウムイオン電池の内部構造を外部から撮像でき、活物質層等の体積及び色彩の経時変化を観測できるリチウムイオン電池の観察方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、実際の製品とほぼ同様な構造を有する試験用のリチウムイオン電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による試験用リチウムイオン電池の観察治具は、試験用のリチウムイオン電池の製造に用いられ、正極板、負極板及びセパレータを含む電池構造体と電池構造体を包囲する絶縁フィルムとを挟み込んで固定する試験用リチウムイオン電池の観察治具であって、
互いに係合し、前記電池構造体を挟み込む第1及び第2の締結部材と、第1及び第2の締結部材を相互に固定する締結ネジとを有し、
前記第1及び第2の締結部材は、互いに係合して締結された際、前記電池構造体の延在方向と直交し、同一高さレベルの基準面を形成する平坦面をそれぞれ有し、
前記第1及び第2の締結部材の平坦面により形成される基準面は、電池構造体及び絶縁フィルムの顕微鏡観察されるエッジを位置決めする基準面として機能すると共に観察窓を構成する透明板が固定される接合面として機能することを特徴とする。
【0009】
本発明では、試験用のリチウムイオン電池の製造に際し、正極板及び負極板を含む電池構造体を挟み込んで固定する観察治具(固定工具)を用いる。観察治具には、把持された電池構造体の延在方向と直交すると共に電池構造体のエッジを規定する基準面を設け、観察窓を構成する透明板を基準面に密封固定する。このような構造の観察治具を用いることにより、透明板は電池構造体と直交するように取り付けることができる。この結果、撮像装置に搭載されている対物レンズの光軸を正極板及び負極板の延在方向と平行な方向に設定することにより、正極板と負極板との間の領域をこれらと平行な方向から撮像した2次元画像を形成することができる。この結果、正極板から負極板に向かう方向における領域全体の2次元画像を撮像することができる。さらに、撮像装置として焦点位置を光軸方向にそって走査できる共焦点型撮像装置を用いれば、2次元画像と共に深さ方向成分(光軸方向成分)を含む3次元画像も撮像することができる。
【0010】
本発明による試験用のリチウムイオン電池は、リチウムイオン電池の性能試験に用いられる試験用のリチウムイオン電池であって、
正極活物質層が形成されている正極板、負極活物質層が形成されている負極板、及び正極板と負極板との間に配置されたセパレータを含むリチウムイオン電池構造体、並びに電解液を収納する絶縁ケースと、
前記正極板及び負極板にそれぞれ接続され、絶縁ケースの外部に位置する端子と、
前記絶縁ケース及び絶縁ケース内に収納されたリチウムイオン電池構造体を固定する固定治具と、
前記固定治具に結合され、観察窓を構成する透明板とを有し、
前記透明板は、前記正極板及び負極板と直交するように延在し、
前記絶縁ケース、固定治具、及び、透明板により前記電解液を含むリチウムイオン電池構造体が密封されることを特徴とする。
【0011】
本発明による試験用のリチウムイオン電池において、電解液を含むリチウムイオン電池構造体は、絶縁フィルム、固定治具及び透明板により密封されると共に、透明板は正極板及び負極板と直交するように固定治具に固定されているので、充放電が繰り返される動作中における内部構造の変化を正極板及び負極板の延在方向と平行な方向から観察することができる。この結果、実際に充放電させながら正極板と負極板との間の領域全体の2次元画像を撮像することができる。
【0012】
本発明による試験用リチウムイオン電池の製造方法は、リチウムイオン電池の性能試験に用いられる試験用リチウムイオン電池の製造方法であって、
正極活物質層が形成されている正極板と、負極活物質層が形成されている負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、前記正極板及び負極板にそれぞれ接続された接続端子とを含むリチウムイオン電池構造体を用意する工程と、
前記リチウムイオン電池構造体の周囲を絶縁フィルムにより包囲し、固定治具を用いてリチウムイオン電池構造体と絶縁フィルムとを相互に固定する工程と、
前記固定治具に、前記正極板及び負極板と直交する方向に延在する透明板を含む観察窓を設ける観察窓形成工程と、
前記絶縁フィルムの内部空間に電解液を封入し、観察窓が形成されると共に充放電可能な密封された状態のリチウムイオン電池を形成する電池形成工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明による試験用のリチウムイオン電池の製造方法の好適実施例は、前記固定治具は、透明板が固定される接合面を有し、前記観察窓形成工程は、前記接合面を基準切断面として利用して、基準切断面にそって絶縁フィルム及びリチウムイオン電池構造の固定端側のエッジ部分を切断する切断工程を含み、切断工程後に前記基準切断面に透明板を固定することを特徴とする。このように、透明板が固定される接合面を、切断基準面として利用してリチウムイオン電池構造体及び絶縁フィルムを切断することにより、リチウムイオン電池構造体及び絶縁フィルムのエッジを透明板に対して高精度に位置決めすることができるので、絶縁フィルムにより遮光されることなく、内部構造の2次元画像を撮像することが可能になる。さらに、正極板、負極板、セパレータ及び活物質層のエッジが透明板に対して位置決めされるため、透明な接着剤を用いて正極板、負極板及びセパレータのエッジを透明板の表面に接合することができる。また、透明板と正極活物質層及び負極活物質層との間に透明接着剤を充填してもよい。この場合、Liイオンが他極の活物質層に直接移行することが防止される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の試験用リチウムイオン電池の観察治具は、電池構造体の延在方向と直交する基準面が形成されるので、観察窓を構成する透明板は電池構造体と直交するように固定されると共に電池構造体の顕微鏡観察されるエッジと透明板とが相互に位置決めされる。この結果、正極板及び負極板の延在方向と平行な方向から動作中のリチウムイオン電池の内部構造を観察することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による試験用のリチウムイオン電池の一連の製造工程を示す図である。
図2】本発明による試験用のリチウムイオン電池の一連の製造工程を示す図である。
図3】試験用のリチウムイオン電池の観察エリアの状態を示す図である。
図4】共焦点顕微鏡の一例を示す図である。
【発明の実施するための形態】
【0016】
本発明によるリチウムイオン電池の観察方法は、市場において実際に製造及び販売されているリチウムイオン電池とほぼ同様な構造を有する試験用のリチウムイオン電池を作成し、充放電が繰り返される動作中における内部構造の変化を正極板及び負極板の延在方向と平行な方向から観察する。観察手段として、白色光源を有する共焦点顕微鏡を用い、電気化学反応が進行する動作中における正極板と負極板との間の観察エリアのカラー画像を時間的に連続して又は間断的に複数回撮像する。そして、撮像された複数のカラー画像から、活物質層層の色彩の変化や活物質の粒径の変化並びにデンドライトの生成及びその成長状態を経時的に観察する。
【0017】
初めに、リチウムイオン電池の性能評価に用いられる試験用のリチウムイオン電池の製造方法について説明する。図1及び図2は本発明による試験用のリチウムイオン電池の一連の製造工程を示す図である。図1(A)を参照するに、リチウムイオン電池の基本構成部材を有するリチウムイオン電池構造体1を用意する。リチウムイオン電池構造体1は、正極活物質層が形成されている正極板2と、負極活物質層が形成されている負極板3と、正極板と負極板との間に配置したセパレータ4と、正極板及び負極板に接続されている接続用の端子5a及び5bとを有する。正極板及び負極板は、正極活物質層及び負極活物質層がセパレータと直接対向するように配置する。
【0018】
正極板2として例えばアルミニウムの箔が用いられ、負極板3として銅箔が用いられる。正極活物質として、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、又はこれらの複合体が用いられる。負極活物質として、カーボン、チタン酸リチウム、Si化合物等が用いられる。また、セパレータ4として、ポリエチレン系化合物やポリプロピレン系化合物の多孔質体が用いられる。本発明はリチウムイオン電池の性能評価を行うための試験用のリチウムイオン電池であり、電池材料として上述した材料以外の種々の材料が用いられ、各種性能評価が行われる。
【0019】
図1(B)に示すように、リチウムイオン電池構造体1の周囲は絶縁ケースを構成する絶縁フィルム6により包囲する。絶縁フィルムは、例えば熱融着可能なラミネートフィルムで構成することができる。絶縁フィルム6の一方の側端6aは熱融着によりシールされ、他方の側端6bは2つの接続端子5a及び5bが外側に位置するようにシールする。よって、リチウムイオン電池構造体1は絶縁フィルムのケース内に、上端6c及び下端dが開放した状態で包囲される。
【0020】
図1(C)に示すように、絶縁フィルム6により包囲されたリチウムイオン電池構造体1の上側端部を絶縁フィルム6と共に固定治具(観察治具)10により固定する。固定治具10は、互いに係合する第1及び第2の締結部材11及び12と、これら締結部材11及び12を締結固定する2本の締結ネジ13a及び13bにより構成される。2つの締結部材11及び12には、係合した際、絶縁フィルムで覆われたリチウムイオン電池構造体1を挟み込むスペースを形成する。また、第1の締結部材11には貫通孔が形成され、第2の締結部材12にはネジ溝を形成する。2つの締結部材11と12との間にリチウムイオン電池構造体1及び絶縁フィルム6の一部を挟み込み、締結ネジ13a及び13bを貫通孔に差し込み、ネジ溝に螺合してリチウムイオン電池構造体の上側端部分を絶縁フィルムと共に固定する。この際、リチウムイオン電池1及び絶縁フィルム6の上側部分は上方に突出させる。
【0021】
2つの締結部材11及び12の上側面11a及び12aは、互いに係合した際、表面の高さレベルが同一レベルとなるように位置決めされ、これら上側面11a及び12aは一緒になって位置決め用の基準面14を形成する。この位置決め用の基準面14を用いて観察窓を形成するガラス板を固定すると共に、リチウムイオン電池構造体及び絶縁フィルムのエッジの表面高さ方向の位置を規定する。第1及び第2の締結部材の上側面11a及び12aには、ガラス板を接合するための接着剤を溜めるための溝11b及び12bをそれぞれ形成する。溝11b及び12bは、リチウムイオン電池の上側端部において全周を包囲するように形成する。尚、固定治具の2つの締結部材を係合固定した際、リチウムイオン電池構造体1と絶縁フィルム6との間に隙間が形成されないように密封固定する。
【0022】
2つの締結部材11及び12の上側面11a及び12aにより構成される基準面14を切断用の基準面として利用する。そして、例えばカミソリやミクロトームのような切断工具(図示せず)を用い、切断工具を基準面14にそって矢印a又はb方向に移動して、基準面14から上方に突出したリチウムイオン電池構造体及び絶縁フィルムの端部部分を切断除去する。このように、基準面14にそって切断することにより、リチウムイオン電池構造体及び絶縁フィルムのエッジ(端縁)は基準面14に対して同一のレベルに位置決めされる。尚、切断した後の状態を図1(D)に示す。
【0023】
リチウムイオン電池及び絶縁フィルムの上側部分を基準面14にそって切断した後、接着剤を溜める溝7b及び8b内に接着剤を導入する。接着剤として、透明な紫外線硬化性の接着剤を用いることができる。その後、ガラス板15を基準面14上に配置し、紫外線を照射して接着剤を硬化させ、固定治具10の基準面14に対してガラス板15を位置決め固定する。この状態を図1(E)に示す。尚、接着剤として、紫外線硬化性接着剤以外の種々の接着剤を用いることができ、例えば透明な熱可塑性樹脂や2液タイプの接着剤を用いることも可能である。
【0024】
本例では、リチウムイオン電池構造体1と絶縁フィルム6とを固定治具10により密封固定し、固定治具の基準面を切断用の基準面として用い、基準面にそってリチウムイオン電池構造体及び絶縁フィルムの上側部分を切断しているので、リチウムイオン電池構造体及び絶縁フィルムのエッジは固定治具の基準面に対して位置決めされる。同時に、観察窓を構成するガラス板15は固定治具の基準面に固定されるので、ガラス板も基準面に対して位置決め固定される。この結果、固定治具10の基準面を介して、リチウムイオン電池構造体及び絶縁フィルムのエッジとガラス板15とが相互に位置決めされることになる。また、絶縁フィルム6に対して固定治具10が密封するように固定され、固定治具10に対してガラス板が密封固定されるので、リチウムイオン電池構造体の下端6dを除き、リチウムイオン電池の周囲が密封されることになる。また、リチウムイオン電池及び絶縁フィルムに対して、これらの延在方向と直交する方向に延在するガラス板を有する観察窓が形成されることになる。
【0025】
固定治具に対するガラス板の別の接合方法として、ガラス板のほぼ全面に光学的に透明な接着剤層を形成し、当該接着剤層によりガラス板を固定治具に接合すると共に、正極板、負極板、セパレータ及び絶縁フィルムの各エッジとガラス板とを接合することも可能である。この場合、活物質層とガラス板との間に透明接着剤が充填されるので、Liイオンが他極に直接移行する不具合が解消される。この結果、観察中に負極と正極とがショートしたり、負極板と正極板との間の距離が変化して電位異常が発生する不具合が解消される利点が達成される。本例の場合、正極板、負極板、セパレータ及び絶縁フィルムの各エッジに接着剤層を形成して、各エッジとガラス板とを接合することも可能である。
【0026】
図2(A)及び(B)は、観察窓が形成された後の製造工程を示す。観察窓が形成された後、必要に応じて乾燥工程を実施する。図2(A)は、リチウムイオン電池構造体1及び絶縁フィルムに対して固定治具10が密封固定され、固定治具にガラス板15が接合された後に、当該構造体を上下反対向きに配置した状態を示す。この状態において、絶縁フィルム6の両側端6a及び6bはシールされており、上側端6cは固定治具10及びガラス板15によりシールされており、下端6dだけが開放された状態になる。この構造体をパスボックス内に配置し、真空乾燥が行われる。この真空乾燥により、リチウムイオン電池構造体中に含まれる水分は下端6dの開放部を介して絶縁フィルムの外部に放出される。
【0027】
真空乾燥処理が終了した後、パスボックスの内部に例えばアルゴンガスのような否活性ガスを封入して否活性雰囲気に設定する。この状態において、ディスペンサを用いて絶縁フィルムの内部に電解液を封入する。
【0028】
電解液を封入した後、必要に応じて1回充放電を行い、脱泡処理を行う。脱泡処理として、例えばパスボックスの内部空間を真空雰囲気に設定し、真空雰囲気下で発生したガスを除去することができる。尚、脱泡処理は、必要に応じて行われる。
【0029】
脱泡処理が終了した後、絶縁フィルムの下端6dについて熱融着処理を行い、密封シールする。この状態を図2(B)に示す。このようにして、観察窓を構成するガラス板と、固定治具と、絶縁フィルムにより構成される絶縁ケースとにより密封され、接続端子が絶縁ケースの外部に位置する試験用のリチウムイオン電池が完成する。尚、上述した一連の製造工程は、実際のリチウムイオン電池の製造工程とほぼ同様であるので、市販される実際の製品とほぼ同様な構造の試験用のリチウムイオン電池が得られる。
【0030】
図3は試験用のリチウムイオン電池における観察エリアの状態を示し、図3(A)は図2(B)のII−II線 断面図であり、図3(B)は撮像装置の光軸方向から観察エリアを見た線図的平面図である。尚、図1及び図2で用いた構成要素と同一の構成要素には同一符号を付し、その説明は省略する。本発明では、リチウムイオン電池構造体及び絶縁フィルムのエッジは固定治具の基準面14と一致させているので、図3(A)に示すように、絶縁フィルム及びリチウムイオン電池構造体のエッジはガラス板15の表面と一致する。従って、ガラス板15を介して正極板と負極板との間の内部構造を正極板及び負極板の延在方向と平行な方向から撮像することが可能であり、正極活物質層20及び負極活物質層21の活物質の動作中の経時変化を観察することができる。尚、ガラス板を含む観察窓を形成しても、撮像装置において板厚補正された対物レンズを用いることによりリチウムイオン電池の内部構造の鮮明な画像を撮像することができる。
【0031】
ガラス板15の表面は固定治具に位置決め固定されると共に、正極板2、負極板3、セパレータ4、正極活物質層20、負極活物質層21及び絶縁フィルム6のエッジも固定治具に対して位置決め固定されるため、ガラス板15の表面に透明な接着剤を形成することにより、正極板、負極板、セパレータ及び絶縁フィルムの各エッジはガラス体の表面に接合される。この場合、活物質層とガラス板との間に透明な接着剤が充填されるので、活物質がフリーな状態に維持されつつLiイオンが他極の活物質層へ直接移行する不具合が解消される。
【0032】
図3(B)は、撮像装置の光軸方向からガラス板を介して試験用のリチウムイオン電池の端部を見た図である。本発明では、撮像装置の光軸は絶縁フィルム6、正極板2、負極板3及びセパレータ4の延在方向と平行な方向に設定して撮像するため、正極板2から負極板3にいたる間の内部構造を撮像することができる。
【0033】
図4は本発明によるリチウムイオン電池の観察方法に用いられる撮像装置の一例を示す図である。本例では、撮像装置として共焦点顕微鏡を用いる。共焦点顕微鏡は、1000倍程度の高倍率の対物レンズを用いることにより、個々の活物質の全周の構造や状態を独立して観察することができる。さらに、共焦点顕微鏡は、光軸方向に沿って焦点をスキャンすることができるので、封入されている個々の活物質全体にわたって焦点が合った画像を撮像することができ、活物質の3次元画像を撮像することができる。さらに、本発明の共焦点顕微鏡は照明光源として白色光源を用いるので、正極板と負極板との間の領域の色彩の変化を経時変化として観察することができる。さらに、共焦点顕微鏡により撮像された画像をモニタ上に表示し、表示された画像中の活物質等の寸法を計測することにより、活物質等の実際の粒径の変化を経時変化として計測することも可能である。
【0034】
照明光源30として、水銀ランプやキセノンランプ等の白色光を放出する白色光源を用いる。照明光源30から出射した白色光は、複数の光ファイバが円形に積層された光ファイババンドル31に入射し、光ファイババンドルを伝搬して、断面がほぼ円形の発散性ビームとして出射する。当該照明ビームは、光源から出射した照明ビームをライン状の照明ビームに変換するビーム整形光学系に入射する。ビーム整形光学系は、集束性レンズ32とスリット33を含み、光ファイババンドル31から出射した照明ビームは、集束性レンズ32により平行な照明ビームに変換されてスリット33に入射する。スリット33は、集束性レンズ32の瞳位置に配置され、第1の方向(紙面と直交する方向)に延在する開口部を有する。スリット状の開口部の幅は、例えば10〜20μmに設定する。従って、スリット33から第1の方向に延在するライン状の照明ビームが出射する。スリット33から出射したライン状の照明ビームは、ビームスプリッタとして機能するハーフミラー34で反射し、リレーレンズ35を経て振動ミラー36に入射する。
【0035】
振動ミラー36は、後述する信号処理から供給される駆動信号に基づき、入射するライン状の照明ビームを第1の方向と直交する第2の方向に周期的に偏向する。振動ミラーから出射したビームはリレーレンズ37及び38を経て対物レンズ39に入射する。対物レンズ39として、試験用リチウムイオン電池のガラス板の光路長を考慮し、板厚補正付きの対物レンズを用いる。対物レンズ39は、入射したライン状照明ビームを集束して試験用のリチウムイオン電池40のガラス板40aに向けて投射する。照明ビームはガラス板40aを透過し、正極板と負極板との間の観察エリアに入射する。従って、試験用のリチウムイオン電池40の内部構造は、照明ビームにより2次元的に走査される。尚、対物レンズ39は、倍率の異なる複数の対物レンズがレボルバーに搭載され、レボルバーを回動することにより、所望の倍率の対物レンズを用いて観察することが可能である。例えば、活物質層内の個々の活物質の状態を観察することを希望する場合、倍率が1000倍の対物レンズを使用することにより、個々の活物質の全体の状態を個々の活物質ごとに明瞭に観察することが可能である。
【0036】
試験用のリチウムイオン電池40の絶縁フィルムの外部に位置する2つの接続端子40b及び40cは充放電試験装置41に接続する。そして、充電中又は放電中の試験用リチウムイオン電池40の内部構造の2次元画像及び/又は3次元画像を撮像する。すなわち、本発明による試験用リチウムイオン電池は、接続端子だけが絶縁フィルムの外部に位置し、正極板及び負極板を含むリチウムイオン電池構造体は絶縁フィルム内に密封状態に維持されているため、実際に充放電が行われている状態におけるリチウムイオン電池の内部構造の2次元画像及び3次元画像を撮像することができる。充放電試験装置41は、充電と放電とを交互に繰り返す耐久試験装置とすることもできる。この場合、耐久試験中における電池の内部構造の2次元画像が撮像される。
【0037】
試験用のリチウムイオン電池40は、支持ステージ42に固定され、支持ステージを顕微鏡ステージ43上に配置する。顕微鏡ステージ43は、XYステージにより構成され、顕微鏡ステージ43をXY方向に駆動することにより所望の部位の画像を撮像することが可能である。
【0038】
照明ビームは、試験用のリチウムイオン電池40の内部構造、例えば活物質層で反射し、再びガラス板40aを透過し、対物レンズ39により集光される。対物レンズ39から出射した反射ビームは、元の光路を反対方向に伝搬し、リレーレンズ38及び37を経て振動ミラー36に入射し、振動ミラーによりデスキャンされる。振動ミラー36から出射した反射ビームは、レンズ35を通過し、ハーフミラー34により照明ビームから分離される。尚、レンズ35は、光源から試料に向かう照明ビームに対してはリレーレンズとして作用し、試料から光検出器に向かう反射ビームに対しては結像レンズとして作用する。
【0039】
ハーフミラー34を透過した反射ビームは、ポジショナ44に入射する。このポジショナ44は平行平面板で構成され、光軸に対する角度を調整することにより、反射ビームの光軸からの変位量が調整され、後述するラインセンサに入射する位置を調整することができる。ポジショナから出射したライン状の反射ビームは、色分解光学系として機能する分光プリズム45に入射し、RGBの3つのカラー光に色分解される。尚、色分解光学系として3個のプリズムとダイクロイック膜とを組み合わせた分光プリズムを用いることができる。
【0040】
色分解されたRGBの各カラー光は、ラインセンサ46〜48にそれぞれ入射する。各ラインセンサ46〜48は複数の受光素子を有し、これら受光素子は、ライン状照明ビームの延在方向である第1の方向と対応する方向に配列される。従って、入射するライン状反射ビームの延在方向と各ラインセンサの受光素子の配列方向とが一致し、試料からの反射ビームは、各ラインセンサに対して静止した状態で入射する。
【0041】
ラインセンサ46〜48に蓄積された電荷は、信号処理装置49から供給される読出駆動信号により順次読み出され、増幅器50〜52によりそれぞれ増幅されて信号処理装置49に出力される。信号処理装置49は、入力するRGBのビデオ入力について信号処理を行い、RGBのビデオ信号を合成してカラー画像信号を出力する。従って、信号処理装置49から充放電の動作中のリチウムイオン電池の内部構造の2次元カラー画像が出力される。
【0042】
信号処理装置49は多数の2次元カラー画像を記録するメモリ装置を有する。本発明では、実際に動作中のリチウムイオン電池の内部構造を時間的に連続して、又は1分に1枚又は1時間に1枚のように時間的に間断して複数の2次元カラー画像を撮像し、メモリに記録することができる。従って、実際に動作中のリチウムイオン電池の正極板と負極板との間の領域の内部構造を経時的に撮像することができる。
【0043】
本発明による共焦点顕微鏡は、白色光源を有するので、正極板と負極板との間の2次元カラー画像を撮像することができ、活物質や電解液の色彩の経時的変化を観察することができる。一方、リチウムイオン電池においては、電池中に生成されるリチウムイオンのイオン濃度は色彩と密接な関係にある。従って、2次元カラー画像を撮像することにより、色彩の変化に基づいてリチウムイオンのイオン濃度及びその経時変化を把握することができる。例えば、試験評価の対象となる活物質や電解液の材料について、生成されるイオン濃度を評価することができる。さらに、カラー画像を経時的に撮像することにより、各種材料について充電時間や放電時間とイオン濃度との関係を示す有益な情報を取得することも可能である。
【0044】
次に、試験用リチウムイオン電池の内部構造の共焦点画像及び3次元画像を撮像するシステムについて説明する。対物レンズ39にはモータ53が連結され、信号処理装置49から供給される駆動制御信号により光軸方向に沿って移動することができる。対物レンズの光軸方向の位置は位置センサ54により検出され、信号処理装置49に供給される。モータ53を駆動して対物レンズを光軸方向に沿って移動させることにより、対物レンズの焦点位置が光軸方向に変位する。尚、対物レンズは、例えば10nmの分解能で光軸方向に移動することができる。
【0045】
共焦点走査装置の特性より、対物レンズを光軸方向に移動させながら振動ミラーを駆動してリチウムイオン電池40の表面の2次元共焦点画像を複数回撮像し、各画素毎に最大輝度値を発生する光軸方向の位置を検出することにより、リチウムイオン電池の表面の3次元形状情報(3次元画像)を取得することができる。また、取得した3次元形状情報に基づき、リチウムイオン電池の表面形状を断面として示す表面輪郭形状(断面形状情報)も取得することができる。さらに、対物レンズのスキャン中における各画素の最大輝度値により構成される2次元画像を形成することにより、リチウムイオン電池の表面全体にわたって合焦した2次元カラー共焦点画像を撮像することも可能である。従って、表面側に位置する活物質の全体にわたって焦点が合った2次元画像を撮像することができる。
【0046】
次に、デンドライトの発生及びその成長観察について説明する。リチウムイオン電池の課題として、デンドライトの生成が挙げられる。このデンドライトは、電池の内部に含まれるリチウムイオンが金属リチウムに変成することにより生成される。そして、生成されたデンドライトは充放電が繰り返されることにより経時的に成長し、セパレータを破壊しショートする危険性がある。本発明では、実際の動作中における正極板と負極板との間の内部構造をカラー画像として撮像することができ、デンドライトは特有の色彩を有するため、経時的に撮像される2次元カラー画像からデンドライトの発生が検出されると共にデンドライトの成長状態もカラー画像として撮像することが可能である。
【0047】
次に、活物質等の寸法計測について説明する。撮像された2次元カラー画像はモニタ上に表示することができる。共焦点光学系の基本原理より、モニタ上に表示される画像の寸法と試料の寸法とは正確に対応する。例えば、直径が10μmの活物質を1000倍の対物レンズで撮像した場合、モニタ上には直径が10mmの画像として表示される。従って、撮像された2次元画像をモニタ上に表示し、表示された画像の寸法を計測することにより活物質の実際のサイズを測定することができる。さらに、試験用リチウムイオン電池の同一の部位を継続的に撮像することにより、活物質のサイズの経時的な変化を計測することを可能である。特に、リチウムイオン電池の活物質は、経時的に変化する場合が多く、充放電を繰り返すことにより例えば活物質の直径が10倍程度増加する場合もある。従って、実際に動作中の活物質の寸法を計測できることは、リチウムイオン電池の開発に有益な情報を取得することができる。
【0048】
本発明は上述した実施例だけに限定されず種々の変形や変更が可能である。例えば上述した実施例では、ラミネート型のリチウムイオン電池について説明したが、本発明は、平巻き型のリチウムイオン電池や円筒巻き型のリチウムイオン電池についても適用される。これらの形式のリチウムイオン電池を観察する場合、負極板及び正極板と直交する透明板を含む観察窓を形成することにより、試験用のリチウムイオン電池を形成することができる。
【0049】
また、撮像装置として共焦点顕微鏡装置を用いたが、共焦点顕微鏡以外の2次元撮像装置を用いて観察することも可能である。
【0050】
本発明による試験用のリチウムイオン電池は透明板を含む観察窓が形成されているので、各種解析装置や分析装置における解析に利用され、例えばラマン分光分析装置による構造解析にも利用することができ。この場合にも、分光分析装置の試料ステージ上に試験用のリチウムイオン電池を配置するだけで分光分析することができる。
【0051】
試験用のリチウムイオン電池の作成に当たって、電解液を封入した際気泡が発生する場合がある。気泡が発生すると良好な画像が撮像できないおそれがある。そのため、電解液を溜める液溜め部分と電解液を利用して気泡を移動させる流路を絶縁フィルムの内部に形成することも可能である。
【0052】
ガラス板に関して、表面に非粘着処理が施されたガラス板を用いれば、サンプルについて観察処理した後、接着剤を除去することができるので、ガラス板を繰り返し使用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 リチウムイオン電池構造体
2 正極板
3 負極板
4 セパレータ
5a,5b,40b,40c 端子
6 絶縁フィルム
10 固定治具(観察治具)
11 第1の締結部材
12 第2の締結部材
13a,13b 締結ネジ
14 基準面
15 ガラス板
20 正極活物質層
21 負極活物質層

図1
図2
図3
図4