(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、CSP等の用途の場合、ガラス基板とSiチップが直接貼り付けられる。しかし、無アルカリガラスとSiの熱膨張係数が不整合であると、両者の熱膨張係数差によって、ガラス基板に反りが発生してしまう。特に、ガラス基板の板厚が小さい程、ガラス基板に反りが発生しやすくなる。
【0007】
この問題を解決するためには、無アルカリガラスとSiの熱膨張係数を厳密に整合させる必要がある。しかし、Siの熱膨張係数は32〜34×10
−7/℃と非常に低く、Siの熱膨張係数に整合するように、無アルカリガラスの熱膨張係数を低下させると、高品位のガラス基板を作製し難くなる。すなわち、無アルカリガラスにおいて、熱膨張係数を低下させる場合、ガラスの粘性が高くなるため、泡品位を向上させることが困難になり、結果として、高品位のガラス基板を得ることが困難になる。
【0008】
また、CSP等のイメージセンサーは、約2mm程度のSiチップの中に数百万画素分の情報が盛り込まれるため、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の画素とは比較にならない程、極微小な欠点が問題となり得る。さらに、イメージセンサーとガラス基板を貼り合わせる工程は、略最終工程であるため、ガラス基板の欠点によりデバイスの歩留まりが低下すると、デバイスの生産性が著しく低下してしまう。
【0009】
さらに、無アルカリガラスにおいて、泡品位を向上させるためには、清澄剤を用いる必要があり、従来、清澄剤として、As
2O
3、Sb
2O
3が使用されていた。しかし、As
2O
3、Sb
2O
3は、環境負荷物質であり、環境的観点から、これらの使用量をできるだけ低減することが好ましい。
【0010】
したがって、この用途に使用される無アルカリガラスは、特に(1)Siと整合する熱膨張係数を有すること、(2)泡品位に優れていること、(3)環境負荷物質(特にAs
2O
3、Sb
2O
3)を含まないことが要求され、その他にも(4)軽量であること、(5)低コストで薄板の成形が可能であること、(6)表面品位に優れていること、(7)ガラスと樹脂の貼り合わせ時にガラス品位を維持し得る耐熱性を有すること等が要求される。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、CSP等の用途に要求される種々の特性を満足する無アルカリガラス、特にSiと整合する熱膨張係数を有し、またAs
2O
3、Sb
2O
3を用いなくても泡品位に優れており、しかも低コストで薄板の成形が可能である無アルカリガラスを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、種々の実験を繰り返した結果、無アルカリガラスのガラス組成範囲を所定範囲に規制するとともに、ガラス特性を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO
2 45〜70%、Al
2O
3 10〜30%、B
2O
3 13〜20%、SrO 0〜2%、BaO 0〜1%を含有し(但し、TiO
2の含有量が0.8質量%以上の場合を除く)、
質量比MgO/B2O3が0.08未満、As
2O
3の含有量が0.1%未満、Sb
2O
3の含有量が0.05%未満、アルカリ金属酸化物の含有量が1%未満であり、且つ熱膨張係数(30〜380℃)が30〜35×10
−7/℃であることを特徴とする。ここで、「熱膨張係数(30〜380℃)」は、ディラトメーターで測定した値を指し、30〜380℃の温度範囲における平均値を指す。
【0013】
本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO
2 50〜70%、Al
2O
3 11〜23%、B
2O
3 13〜20%、MgO 0〜8%、CaO 1〜10%、SrO 0〜2%、BaO 0〜1%、MgO+CaO+SrO+BaO 5〜12%、SnO
2 0.001〜1%を含有し(但し、TiO
2の含有量が0.8質量%以上の場合を除く)、
質量比MgO/B2O3が0.08未満、As
2O
3の含有量が0.05%未満、Sb
2O
3の含有量が0.05%未満、Fの含有量が0.1%未満、Clの含有量が0.1%未満、アルカリ金属酸化物の含有量が1%未満であり、且つ熱膨張係数(30〜380℃)が30〜35×10
−7/℃であることが好ましい。
【0014】
本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO
2 50〜70%、Al
2O
3 11〜16%、B
2O
3 13〜19%、MgO 0〜6%、CaO 1〜9%、SrO 0〜1%、BaO 0〜1%、MgO+CaO+SrO+BaO 7〜10%、SnO
2 0.01〜0.5%を含有し(但し、TiO
2の含有量が0.8質量%以上の場合を除く)、
質量比MgO/B2O3が0.08未満、As
2O
3の含有量が0.05%未満、Sb
2O
3の含有量が0.05%未満、Fの含有量が0.1%未満、Clの含有量が0.1%未満、アルカリ金属酸化物の含有量が1%未満であり、且つ熱膨張係数(30〜380℃)が30〜35×10
−7/℃であることが好ましい。
【0015】
本発明の無アルカリガラスは、オーバーフローダウンドロー法またはスロットダウンドロー法で成形されてなること、特にオーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。このようにすれば、ガラスの表面品位を高めることができる。
【0016】
本発明の無アルカリガラスは、平板形状であることが好ましい。
【0017】
本発明の無アルカリガラスは、板厚が0.6mm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の無アルカリガラスは、CSPに用いることが好ましい。
【0019】
本発明の無アルカリガラスは、有機ELディスプレイに用いることが好ましい。本発明の無アルカリガラスは、耐熱性に優れるため、p−Si・TFTの製造工程等で熱収縮し難く、本用途にも好適である。
【0020】
本発明の無アルカリガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO
2 45〜70%、Al
2O
3 10〜30%、B
2O
3 13〜20%、CaO 3〜12%を含有し(但し、TiO
2の含有量が0.8質量%以上の場合を除く)、SrOの含有量が2%以下、BaOの含有量が0.5%未満、
質量比MgO/B2O3が0.08未満、As
2O
3の含有量が0.01%未満、Sb
2O
3の含有量が0.05%未満、Fの含有量が0.05%未満、Clの含有量が0.05%未満、アルカリ金属酸化物の含有量が1%未満であり、且つ熱膨張係数(30〜380℃)が33〜35×10
−7/℃、波長300〜800nmにおける分光透過率が85%以上、α線放出量が5000×10
−4C/cm
2/h以下であることを特徴とする。ここで、「波長300〜800nmにおける分光透過率」は、板厚0.1〜0.5mmのいずれか(好ましくは板厚0.5mm)で測定した値を指す。また、「α線放出量」は、ガスフロー比例計数管測定装置等で測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の無アルカリガラスにおいて、ガラス組成中の各成分の含有量を上記のように限定した理由を以下に示す。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を指す。
【0022】
SiO
2の含有量は45〜70%、好ましくは50〜70%、より好ましくは55〜65%、更に好ましくは57〜63%、最も好ましくは58〜62%である。SiO
2の含有量が45%より少ないと、ガラスの低密度化を図り難くなる。一方、SiO
2の含有量が75%より多いと、高温粘度が高くなり、溶融性が低下することに加えて、ガラス中に失透結晶(クリストバライト)等の欠陥が生じやすくなる。
【0023】
Al
2O
3の含有量は10〜30%である。Al
2O
3の含有量が10%より少ないと、耐熱性を高め難くなったり、高温粘性が高くなり、溶融性が低下しやすくなる。また、Al
2O
3にはヤング率を向上させ、比ヤング率を高める働きがあるが、Al
2O
3の含有量が10%より少ないと、ヤング率が低下しやすくなる。Al
2O
3の好適な下限範囲は10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、14.5%以上、15%以上、特に15.5%以上である。一方、Al
2O
3の含有量が30%より多いと、液相温度が高くなり、耐失透性が低下しやすくなる。Al
2O
3の好適な上限範囲は23%以下、20%以下、19%以下、18%以下、17%以下、特に16%以下である。
【0024】
B
2O
3は、融剤として働き、高温粘性を下げ、溶融性を高める成分であり、その含有量は
13〜20%である。B
2O
3の含有量が
13%より少ないと、融剤としての働きが不十分となり、高温粘性が高くなり、ガラスの泡品位が低下しやすくなる。またガラスの低密度化を図り難くなる。B
2O
3の好適な下限範囲
は14%以上、15%以上、特に15.5%以上である。一方、B
2O
3の含有量が20%より多いと、耐熱性やヤング率が低下しやすくなる。B
2O
3の好適な上限範囲は20%以下、19%以下、18%以下、特に17%以下である。
【0025】
本発明の無アルカリガラスは、上記成分以外にも、他の成分を25%まで、好ましくは15%までガラス組成中に添加することができる。
【0026】
MgO+CaO+SrO+BaOは、液相温度を下げ、ガラス中に結晶異物を発生させ難くする成分であり、また溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は5〜12%、7〜10%、7.5〜9.5%、特に8〜9%が好ましい。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少ないと、融剤としての働きを十分に発揮できず、溶融性が低下することに加えて、熱膨張係数が低くなり過ぎ、Siの熱膨張係数に整合し難くなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多いと、密度が上昇し、ガラスの軽量化を図り難くなり、また比ヤング率が低下するとともに、熱膨張係数が高くなり過ぎる。
【0027】
MgOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げ、溶融性を高める成分であり、またアルカリ土類金属酸化物の中では最も密度を下げる効果がある成分であり、その含有量は0〜8%、0〜6%、0〜2%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%が好ましい。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、液相温度が上昇し、耐失透性が低下しやすくなる。なお、質量比MgO/B
2O
3の値が
0.08以上となると、分相が起こりやすくなる。よって、質量比MgO/B
2O
3の値
は0.08未満、特に0.05未満であることが好ましい。
【0028】
CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げ、溶融性を顕著に高める成分であるとともに、本発明のガラス組成系において、ガラスの失透を抑制する効果が高い成分であり、且つアルカリ土類金属酸化物の中でその含有量を相対的に増加させると、ガラスの低密度化を図りやすくなる。CaOの好適な下限範囲は1%以上、2%以上、3%以上、5%以上、特に7%以上である。一方、CaOの含有量が10%より多いと、熱膨張係数や密度が高くなり過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを損なわれて、耐失透性が低下しやすくなる。CaOの好適な上限範囲は10%以下、9.5%以下、特に9%以下である。
【0029】
SrOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げ、溶融性を高める成分であるが、SrOの含有量が多くなると、密度や熱膨張係数が上昇しやすくなる。また、SrOの含有量が多くなると、Siの熱膨張係数に整合させるために、相対的にCaOやMgOの含有量が少なくなり、結果として、耐失透性が低下したり、高温粘性が高くなりやすい。SrOの含有量は0〜2%であり、好ましくは0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
【0030】
BaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げ、溶融性を高める成分であるが、BaOの含有量が多くなると、密度や熱膨張係数が上昇しやすくなる。また、BaOの含有量が多くなると、Siの熱膨張係数に整合させるために、相対的にCaOやMgOの含有量が少なくなり、結果として、耐失透性が低下したり、高温粘性が高くなりやすい。BaOの含有量は0〜1%であり、好ましくは0〜0.5%、0〜0.5%未満、特に0〜0.1%未満である。
【0031】
SnO
2は、高温域で良好な清澄作用を有する成分であるとともに、高温粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜1%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、0.01〜0.6%、特に0.05〜0.3%が好ましい。SnO
2の含有量が1%より多いと、SnO
2の失透結晶がガラス中に析出しやすくなる。なお、SnO
2の含有量が0.001%より少ないと、上記の効果を享受し難くなる。
【0032】
ZnOは、溶融性を高める成分であるが、ガラス組成中に多量に含有させると、ガラスが失透しやすくなり、歪点が低下する上、密度も上昇しやすくなる。よって、ZnOの含有量は0〜5%、0〜3%、0〜0.5%、特に0〜0.3%が好ましく、理想的には実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にZnOを含有しない」とは、ガラス組成中のZnOの含有量が0.1%以下の場合を指す。
【0033】
ZrO
2は、ヤング率を高める成分であり、その含有量は0〜5%、0〜3%、0〜0.5%、特に0.01〜0.2%が好ましい。ZrO
2の含有量が5%より多いと、液相温度が上昇し、ジルコンの失透結晶が析出しやすくなる。また、ZrO
2の含有量が多過ぎると、α線のカウント値が上昇しやすくなるため、CSP等のデバイスに適用し難くなる。よって、他の成分により所望の特性が得られるのであれば、理想的には実質的にZrO
2を含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にZrO
2を含有しない」とは、ガラス組成中のZrO
2の含有量が0.01%以下の場合を指す。
【0034】
TiO
2は、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であるとともに、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、ガラス組成中に多く含有させると、ガラスが着色し、透過率が低下しやすくなる。よって、TiO
2の含有量は0〜0.8%未満、特に0〜0.02%が好ましい。
【0035】
P
2O
5は、耐失透性を高める成分であるが、ガラス組成中に多く含有させると、ガラス中に分相、乳白が生じることに加えて、耐水性が顕著に低下する。よって、P
2O
5の含有量は0〜5%、0〜1%、特に0〜0.5%が好ましい。
【0036】
Y
2O
3は、歪点、ヤング率等を高める働きがある。しかし、Y
2O
3の含有量が5%より多いと、密度が増加しやすくなる。Nb
2O
5は、歪点、ヤング率等を高める働きがある。しかし、Nb
2O
5の成分の含有量が5%より多いと、密度が増加しやすくなる。La
2O
3は、歪点、ヤング率等を高める働きがある。しかし、La
2O
3の含有量が5%より多いと、密度が増加しやすくなる。
【0037】
上記の通り、本発明の無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物の含有量は1%未満である。但し、アルカリ金属酸化物の含有がある程度許容される場合、アルカリ金属酸化物を0.01〜1%未満の範囲で添加することができる。
【0038】
上記の通り、本発明の無アルカリガラスは、清澄剤として、SnO
2の添加が好適であるが、ガラス特性が損なわれない限り、SnO
2に代えて、或いはSnO
2と併用して、清澄剤として、CeO
2、SO
3、C、金属粉末(例えばAl、Si等)を5%まで添加することができる。
【0039】
As
2O
3、Sb
2O
3も清澄剤として有効に作用し、本発明の無アルカリガラスは、これらの成分の含有を完全に排除するものではないが、上記の通り、環境的観点から、As
2O
3の含有量は0.1%未満、好ましくは0.05%未満に規制すべきである。Sb
2O
3の含有量は0.05%未満に規制すべきである。また、F、Cl等のハロゲンは、溶融温度を低温化するとともに、清澄剤の作用を促進させる効果があり、結果として、ガラスの溶融コストを低廉化しつつ、ガラス製造窯の長寿命化を図ることができる。しかし、F、Clの含有量が多過ぎると、CSP等の用途において、ガラス基板上に形成される金属の配線パターンが腐食する場合がある。よって、F、Clの含有量は、それぞれ1%以下、0.5%以下、0.1%未満、0.05%以下、0.05%未満、特に0.01%以下が好ましい。
【0040】
本発明の無アルカリガラスにおいて、各成分を以下のように規定すれば、Siの熱膨張係数に整合しやすくなり、また高温粘度が低下し、しかも液相粘度が高くなりやすい。(1)ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO
2 50〜70%、Al
2O
3 11〜16%、B
2O
3 13〜19%、MgO+CaO+SrO+BaO 7〜10%、MgO 0〜6%、CaO 3〜9%、SrO 0〜1%、BaO 0〜1%、TiO
2 0〜0.8%未満を含有し、
質量比MgO/B2O3が0.08未満、As
2O
3の含有量が0.05%未満、Sb
2O
3の含有量が0.05%未満、Fの含有量が0.1%未満、Clの含有量が0.1%未満、アルカリ金属酸化物の含有量が1%未満である。
(2)ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO
2 50〜70%、Al
2O
3 13〜16%、B
2O
3 13〜18%、MgO+CaO+SrO+BaO 7〜9%、MgO 0〜2%、CaO 5〜9%、SrO 0〜0.5%、BaO 0〜0.5%、SnO
2 0.01〜0.6%、TiO
2 0〜0.8%未満を含有し、
質量比MgO/B2O3が0.08未満、As
2O
3の含有量が0.05%未満、Sb
2O
3の含有量が0.05%未満、Fの含有量が0.1%未満、Clの含有量が0.1%未満、アルカリ金属酸化物の含有量が1%未満である。
(3)ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO
2 50〜70%、Al
2O
3 13〜16%、B
2O
3 14〜18%、MgO+CaO+SrO+BaO 7〜9%、MgO 0〜1%、CaO 7〜9%、SrO 0〜0.1%、BaO 0〜0.1%、SnO
2 0.01〜0.6%、TiO
2 0〜0.8%未満を含有し、
質量比MgO/B2O3が0.08未満、As
2O
3の含有量が0.01%未満、Sb
2O
3の含有量が0.01%未満、Fの含有量が0.05%未満、Clの含有量が0.05%未満、アルカリ金属酸化物の含有量が1%未満である。
【0041】
本発明の無アルカリガラスにおいて、熱膨張係数(30〜380℃)の下限範囲は30×10
−7/℃以上、特に31×10
−7/℃以上が好ましく、また上限範囲は35×10
−7/℃以下、特に34×10
−7/℃以下が好ましく、最も好ましい熱膨張係数(30〜380℃)は33×10
−7/℃である。熱膨張係数が上記の範囲外となると、無アルカリガラスとSiチップを貼り合わる際に、ガラス基板の反り量が大きくなりやすい。また、ガラス基板の板厚が小さい程、熱膨張係数の差に起因するガラス基板の反り量が大きくなる。よって、ガラス基板の板厚が小さい場合(例えば、ガラス基板の板厚が0.6mm以下の場合)、熱膨張係数を上記範囲に規制する意義が大きい。
【0042】
本発明の無アルカリガラスにおいて、密度は2.45g/cm
3未満、2.42g/cm
3未満、2.40g/cm
3未満、2.38g/cm
3未満、2.35g/cm
3未満、特に2.34g/cm
3未満が好ましい。密度が2.45g/cm
3以上であると、ガラスの軽量化を図り難くなり、また平板形状の場合、自重によりガラスが撓みやすくなる。ここで、「密度」は、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。
【0043】
本発明の無アルカリガラスにおいて、歪点は600℃以上、620℃以上、630℃以上、640℃以上、650℃以上、特に660℃以上が好ましい。既述の通り、歪点が低いと、ガラスと樹脂と貼り合わる際に、ガラス品位が損なわれる虞がある。また、歪点が低いと、有機EL用ガラス基板として使用する場合に、p−Si・TFTの製造工程で、ガラスが熱収縮しやすくなる。
【0044】
高温溶融は、ガラス溶融窯の負担を増加させる。例えば、ガラス溶融窯に使用されるアルミナやジルコニア等の耐火物は、高温になる程、溶融ガラスに激しく浸食される。この耐火物の浸食量が多くなると、ガラス溶融窯のライフサイクルが短くなり、結果として、ガラスの製造コストが高騰する。また、高温溶融を行う場合、ガラス溶融窯の構成部材に高耐熱性の構成部材を使用する必要があるため、ガラス溶融窯の構成部材が割高になり、結果として、ガラスの溶融コストが高騰する。さらに、高温溶融は、ガラス溶融窯の内部を高温に保持する必要があるため、低温溶融に比べて、ランニングコストが高騰する。本発明の無アルカリガラスにおいて、10
2.5dPa・sにおける温度は1590℃以下、1580℃以下、1570℃以下、1560℃以下、特に1550℃以下が好ましい。10
2.5dPa・sにおける温度が1590℃より高いと、低温溶融が困難になり、またガラスの泡品位が低下しやすくなり、結果として、ガラスの製造コストが高騰しやすくなる。ここで、「10
2.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0045】
本発明の無アルカリガラスにおいて、液相温度は1180℃以下、1100℃以下、1070℃以下、特に1060℃以下が好ましい。このようにすれば、ガラスに失透結晶が発生し難くなるため、オーバーフローダウンドロー法等でガラスを成形しやすくなり、ガラスの表面品位を向上できるとともに、ガラスの製造コストを低廉化することができる。なお、液相温度は、ガラスの耐失透性の指標であり、液相温度が低い程、耐失透性に優れる。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値を指す。
【0046】
本発明の無アルカリガラスにおいて、液相粘度は10
4.5dPa・s以上、10
5.0dPa・s以上、10
5.5dPa・s以上、10
5.7dPa・s以上、特に10
6.0dPa・s以上が好ましい。このようにすれば、成形時に失透結晶が発生し難くなるため、オーバーフローダウンドロー法等でガラスを成形しやすくなり、ガラスの表面品位を高めることができる、また、ガラスの製造コストを低廉化することができる。なお、液相粘度は、成形性の指標であり、液相粘度が高い程、成形性に優れる。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0047】
本発明の無アルカリガラスにおいて、波長300〜800nmの分光透過率が85%以上、86%以上、87%以上、特に88%以上が好ましい。本発明の無アルカリガラスは、量子ドットシリコンタイプの太陽電池、薄膜シリコンタイプの太陽電池用基板またはカバーガラスに用いることができる。これらの用途では、紫外域を含めた分光透過率が高いことが要求される。そこで、波長300〜800nmの分光透過率を上記の範囲に規制すれば、これらの用途に好適に使用可能になる。なお、ガラス原料として、特定の原料、ガラス製造設備(例えばFeの含有量が少ない原料、Feが混入しにくいガラス製造設備)を使用すれば、波長300〜800nmの分光透過率を高めることができる。
【0048】
本発明の無アルカリガラスにおいて、α線放出量は5000×10
−4C/cm
2/h以下、3000×10
−4C/cm
2/h以下、1000×10
−4C/cm
2/h以下、特に500×10
−4C/cm
2/h以下が好ましい。ガラス基板等から発生するα線が素子に入射すると、α線のエネルギーによって正孔、電子対が誘起され、これが原因となって瞬間的に画像に輝点や白点を生じさせる所謂ソフトエラーが生じるおそれがある。そこで、α線放出量を低下させると、このような不具合を防止しやすくなる。なお、ガラス原料として、放射性同位元素の含有量が少なく、α線放出量の少ない高純度原料を使用すれば、α線放出量を低減することができる。また、ガラスの溶融・清澄工程において、放射性同位元素がガラス製造設備から溶融ガラス中に混入しないようにすれば、α線放出量を効果的に低減することができる。
【0049】
本発明の無アルカリガラスは、所定のガラス組成となるように調合したガラス原料を連続式ガラス溶融窯に投入し、このガラス原料を加熱溶融し、得られた溶融ガラスを清澄した後、成形装置に供給した上で平板形状等に成形することにより作製することができる。
【0050】
本発明の無アルカリガラスは、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。このようにすれば、未研磨で表面品位が良好な平板形状のガラスを得ることができる。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形して平板形状のガラスを作製する方法である。オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラスの表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるため、ガラスの表面品位を高めることができる。樋状構造物の構造や材質は、ガラスの寸法や表面品位を所望の状態とし、所望の品位を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行うためにガラスに対してどのような方法で力を印加するものであってもよい。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラスに接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラスの端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。本発明の無アルカリガラスは、耐失透性に優れるとともに、成形に適した粘度特性を有しているため、オーバーフローダウンドロー法で平板形状のガラスを効率良く成形することができる。
【0051】
本発明の無アルカリガラスは、オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、スロットダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法等の成形方法を採用することができる。なお、スロットダウンドロー法であれば、板厚が小さい平板形状のガラスを効率良く成形することができる。
【0052】
本発明の無アルカリガラスは、平板形状を有することが好ましい。このようにすれば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットディスプレイ用ガラス基板、CSP、CCD、CIS等のイメージセンサー用ガラス基板に適用することができる。また、本発明の無アルカリガラスは、平板形状の場合、その板厚は0.6mm以下、0.5mm以下、0.3mm以下、0.2mm以下、特に0.1mm以下が好ましい。板厚が小さい程、ガラスを軽量化することができ、結果として、デバイスも軽量化しやすくなる。なお、本発明の無アルカリガラスは、液相粘度が高いため、オーバーフローダウンドロー法でガラスを成形しやすく、表面品位が良好な薄板のガラスを安価に作製しやすい利点を有している。
【実施例1】
【0053】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0054】
表1は、試料No.1〜11を示している。
【0055】
【表1】
【0056】
次のようにして、試料No.1〜11を作製した。まず表中のガラス組成になるように調合したガラス原料を白金坩堝に入れ、1600℃で24時間溶融した後、カーボン板上に流し出して平形板状に成形した。なお、分光透過率T、α線放出量を考慮して、不純物の少ないガラス原料を使用した。次に、得られた各試料について、密度、熱膨張係数α、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、10
4dPa・sにおける温度、10
3dPa・sにおける温度、10
2.5dPa・sにおける温度、ヤング率、液相温度TL、液相粘度logηTL、分光透過率T、α線放出量を評価した。
【0057】
密度は、周知のアルキメデス法で測定した値である。
【0058】
熱膨張係数αは、ディラトメーターで測定した値であり、30〜380℃の温度範囲における平均値である。
【0059】
歪点Ps、徐冷点Taおよび軟化点Tsは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0060】
10
4.0dPa・sにおける温度、10
3.0dPa・sにおける温度および10
2.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0061】
ヤング率は、共振法で測定した値である。ヤング率が大きい程、比ヤング率(ヤング率/密度)が大きくなりやすく、平板形状の場合、自重によりガラスが撓み難くなる。なお、本発明の無アルカリガラスにおいて、ヤング率は64GPa以上が好ましい。
【0062】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0063】
液相粘度logηTLは、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0064】
分光透過率Tは、分光光度計を用いて、波長300〜800nmで測定した値である。なお、[実施例2]の方法で作製した平板形状のガラスを測定試料とし、代表値として300nmの分光透過率の値を示した。
【0065】
α線放出量は、ガスフロー比例計数管測定装置で測定した値である。
【0066】
表1から明らかなように、試料No.1〜11は、ガラス組成が所定範囲に規制されているため、密度が2.40g/cm
3以下、歪点が620℃以上、10
2.5dPa・sにおける温度が1600℃以下、熱膨張係数が31.4〜33.4×10
−7/℃であり、ガラス組成中にAs
2O
3、Sb
2O
3を含有していないが、泡品位が良好であった。特に、試料No.1〜3、10、11は、液相温度が1170℃以下、液相粘度が10
4.7dPa・s以上であり、耐失透性や成形性に優れていた。
【実施例2】
【0067】
試験溶融炉で表1に記載の試料No.1、2、10、11を溶融し、オーバーフローダウンドロー法で厚み0.5mmの平板形状のガラスを成形した。その結果、ガラスの反りは0.075%以下、うねり(WCA)は0.15μm以下(カットオフfh:0.8mm、fl:8mm)、表面粗さ(Ry)は20Å以下(カットオフλc:9μm)であった。成形に際し、引っ張りローラーの速度、冷却ローラーの速度、加熱装置の温度分布、溶融ガラスの温度、ガラスの流量、板引き速度、攪拌スターラーの回転数等を適宜調整することで、ガラスの表面品位を調節した。なお、「反り」は、ガラスを光学定盤上に置き、JIS B−7524に記載のすきまゲージを用いて測定した値である。「うねり」は、触針式の表面形状測定装置を用いて、JIS B−0610に記載のWCA(ろ波中心線うねり)を測定した値であり、この測定は、SEMI STD D15−1296「FPDガラス基板の表面うねりの測定方法」に準拠している。「平均表面粗さ(Ry)」は、SEMI D7−94「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値である。