(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、電動モータがフェール状態にあるとき、整備工場内等で車両を少しの距離移動させるために、上記電動モータに通電することなく、転舵輪の向きを変更させたい場合がある。この場合において、車両の向きを変えるためには、ロッドを軸方向に変位させる必要がある。しかしながら、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置の場合、電動モータに通電していないときは、操舵部材の操作によってはロッドが変位しないので、ロッドを変位させるのに、手間がかかってしまう。
【0005】
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、操舵用の電動モータのフェール時にも、転舵輪の向きを容易に変更できる車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、転舵輪(3)の向きを変更するためのロッド(6)と、ロータ(31,41)を含む電動モータ(21,22)と、前記ロータによって駆動される雌ねじ部材(48)、および前記ロッドに設けられ前記雌ねじ部材にねじ結合された雄ねじ部材(47)を含み、前記ロータの回転を前記ロッドの軸方向運動に変換する運動変換機構(23)と、前記ロッドの回転を規制するための第1規制手段(60)と、前記ロータの回転を規制するための第2規制手段(58)と、前記電動モータおよび前記運動変換機構を収容するハウジング(5)と、を備え、前記第1規制手段は、前記ロッドの回転規制を解除可能であり、且つ、前記第2規制手段は、前記ロータの回転規制を解除可能であ
り、前記第1規制手段は、前記ロッドを一体回転可能に支持し且つ前記ハウジングに相対回転可能に取り付けられた支持部材(26)と、前記ハウジングに取り外し可能に設けられ前記支持部材の回転を規制可能な規制部材(58)と、を含み、前記規制部材は、第1ねじ部材(58)を含み、前記第1ねじ部材は、前記ハウジングに形成された第1挿通孔(61)を挿通し且つ前記支持部材に形成された第1雌ねじ部(62)に結合可能であり、前記第2規制手段は、第2ねじ部材(58)を含み、前記第2ねじ部材は、前記ハウジングに形成された第2雌ねじ部(63)にねじ結合し且つ前記ロータに形成された第2挿通孔(64)を挿通可能であることを特徴とする、車両用操舵装置(1)を提供する(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、車両の通常の使用時には、電動モータを用いてロッドを軸方向に変位させて転舵輪の向きを変更できる。また、電動モータのフェール時には、電動モータを用いることなく、ロッドを軸方向に容易に変位させて転舵輪の向きを変更できる。具体的には、車両の通常の使用時には、第1規制手段でロッドの回転を規制させ、第2規制手段によってはロータの回転を規制しない(ロータの回転を許容する)。このとき、電動モータのロータが回転すると、ロータの出力は、運動変換機構の雌ねじ部材および雄ねじ部材を介して、ロッドに伝達される。このとき、ロッドは、第1規制手段によって回転規制されているので、回転することなく軸方向に変位する。これにより、電動モータを用いて転舵輪の向きを変更できる。また、電動モータのフェール時には、第1規制手段によってはロッドの回転を規制せず(ロッドの回転を許容し)、第2規制手段でロータの回転を規制する。この状態で、人力など、上記電動モータ以外の力でロッドを回転させると、ロッドは、雌ねじ部材に対して回転しつつ、軸方向に変位する。これにより、電動モータのフェール時には、電動モータを用いることなく、転舵輪の向きを容易に変位できる。
また、規制部材をハウジングに取り付けることにより、支持部材の回転を規制できる。これにより、通常時に、支持部材と一体回転可能なロッドの回転を確実に規制できる。また、規制部材をハウジングから取り外すことにより、支持部材をハウジングに対して回転させることができる。これにより、フェール時に、支持部材と一体回転可能なロッドを確実に回転させることが可能となる。
また、第1ねじ部材を第1挿通孔および第1雌ねじ部に対して着脱するという簡易な作業によって、ロッドの回転を規制する状態と、ロッドの回転を許容する状態と、を容易に切り替えることができる。また、第2ねじ部材を第2雌ねじ部および第2挿通孔に対して着脱するという簡易な作業によって、ロータの回転を許容する状態と、ロータの回転を規制する状態と、を容易に切り替えることができる。
【0008】
また、本発明は、転舵輪(3)の向きを変更するためのロッド(6)と、ロータ(31,41)を含む電動モータ(21,22)と、前記ロータによって駆動される雌ねじ部材(48)、および前記ロッドに設けられ前記雌ねじ部材にねじ結合された雄ねじ部材(47)を含み、前記ロータの回転を前記ロッドの軸方向運動に変換する運動変換機構(23)と、前記ロッドの回転を規制するための第1規制手段(60)と、前記ロータの回転を規制するための第2規制手段(58)と、前記電動モータおよび前記運動変換機構を収容するハウジング(5)と、を備え、前記第1規制手段は、前記ロッドの回転規制を解除可能であり、且つ、前記第2規制手段は、前記ロータの回転規制を解除可能であり、前記第1規制手段は、前記ロッドを一体回転可能に支持し且つ前記ハウジングに相対回転可能に取り付けられた支持部材(26)と、前記ハウジングに取り外し可能に設けられ前記支持部材の回転を規制可能な規制部材(58)と、を含み、前記支持部材は、前記ハウジングの外側において前記ロッドの径方向外方に延びる拡径部(66)を含むことを特徴とする、車両用操舵装置(1)を提供する(請求項2)。
本発明によれば、前記支持部材は、前記ハウジングの外側において前記ロッドの径方向外方に延びる拡径部を含むので、下記の利点がある。すなわち、拡径部、特に操作部の先端は、ロッドの中心軸線から離れた位置に配置される。したがって、ハウジングの外側から拡径部を操作することにより、支持部材およびロッドを、小さい力で容易に回転できる。
また、本発明において、前記運動変換機構は、ボールねじ機構を含む場合がある(請求項
3)。この場合、通常時には、電動モータの出力をスムーズにロッドに伝達できる。また、電動モータのフェール時には、少ない力でロッドをスムーズに回転させることができるので、ロッドを軸方向に容易に変位できる
。
【0012】
また、本発明において、ねじ部材(58)を備え、前記ねじ部材は、前記第1挿通孔を挿通し且つ前記第1雌ねじ部にねじ結合しているときに前記第1ねじ部材を構成し、前記第2雌ねじ部にねじ結合し且つ前記第2挿通孔を挿通しているときに前記第2ねじ部材を構成する場合がある(請求項
4)。
この場合、1つのねじ部材によって、第1ねじ部材および第2ねじ部材を構成できる。これにより、ロッドの回転を規制している状態からロータの回転を規制する状態への変更を、第1雌ねじ部に結合されたねじ部材を第2挿通孔に通すという簡易な変更作業で実現できる。
【0013】
また、本発明において、前記ロータは、前記ロッドと同軸に配置されている場合がある(請求項
5)。この場合、運動変換機構とロータとを近接配置できる。また、ロータの内部にロッドを挿通できる。これにより、ロータの内部の空間の有効利用を通じて、車両用操舵装置の小型化を実現できる。このように、電動モータのフェール時にロッドを容易に回転可能な構成を採用しつつ、車両用操舵装置の小型化を実現できるという、優れた効果を発揮できる。
【0014】
また、本発明において、前記ロータは、前記ロッドと同軸に配置されている場合がある(請求項7)。この場合、運動変換機構とロータとを近接配置できる。また、ロータの内部にロッドを挿通できる。これにより、ロータの内部の空間の有効利用を通じて、車両用操舵装置の小型化を実現できる。このように、電動モータのフェール時にロッドを容易に回転可能な構成を採用しつつ、車両用操舵装置の小型化を実現できるという、優れた効果を発揮できる。
【0015】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施形態の車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、本車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と転舵輪3との機械的な結合が解除された、いわゆるステアバイワイヤシステムを構成している。
車両用操舵装置1では、操舵部材2の回転操作に応じて駆動されるリニアアクチュエータとしての転舵用アクチュエータ4の動作を、ハウジング5に支持されたロッドとしての転舵軸6の軸方向X1の直線運動に変換するようになっている。
【0018】
この転舵軸6の直線運動は、転舵軸6の両端に連結されたタイロッド7,7に伝達され、ナックルアーム8,8の回動を引き起こす。これにより、ナックルアーム8,8に支持された左右の転舵輪3,3の操向が達成される。その結果、車両の転舵が達成される。
転舵軸6、タイロッド7およびナックルアーム8等により、転舵輪3を転舵するための転舵機構50が構成されている。転舵軸6を支持するハウジング5は、車体55に支持されている。
【0019】
操舵部材2は、車体に対して回転可能に支持された回転シャフト9に連結されている。この回転シャフト9には、操舵部材2に操作反力を与えるための反力用アクチュエータ10が取り付けられている。反力用アクチュエータ10は、回転シャフト9と一体の出力シャフトを有するブラシレスモータ等の電動モータを含む。
回転シャフト9と車体55との間には、例えば渦巻きばね等からなる弾性部材11が設けられている。この弾性部材11は、反力用アクチュエータ10が操舵部材2にトルクを付加していないときに、その弾性力によって、操舵部材2を直進操舵位置に復帰させる。
【0020】
回転シャフト9には、操舵部材2の操舵角θhを検出するための操舵角センサ12が設けられている。また、回転シャフト9には、操舵部材2に加えられた操舵トルクTを検出するためのトルクセンサ13が設けられている。また、転舵軸6に関連して、転舵輪3の転舵角δw(タイヤ角)を検出するための転舵角センサ14が設けられている。
これらのセンサの他にも、車速Vを検出する車速センサ15と、車両の上下加速度Gzを検出する悪路状態検出センサとしての上下加速度センサ16と、車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサ17と、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ18とが設けられている。
【0021】
上記のセンサ類12〜18の各検出信号は、マイクロコンピュータを含む構成の電子制御ユニット(ECU)からなる車両制御手段としての制御装置19に入力されるようになっている。
制御装置19は、操舵角センサ12によって検出された操舵角θhおよび車速センサ15によって検出された車速Vに基づいて、目標転舵角を設定する。そして、この目標転舵角と、転舵角センサ14によって検出された転舵角δwとの偏差に基づいて、駆動回路20Aを介し、転舵用アクチュエータ4を駆動制御(転舵制御)する。
【0022】
一方、制御装置19は、センサ類12〜18が出力する検出信号に基づいて、操舵部材2の操舵方向と逆方向の適当な反力が発生されるように、駆動回路20Bを介して、反力用アクチュエータ10を駆動制御(反力制御)する。
図2は、転舵用アクチュエータ4の周辺の主要部の一部断面図である。
図2を参照して、転舵軸6の途中部は、筒状のハウジング5内に挿入されている。ハウジング5の両端部は、すべり軸受としての筒状のブッシュ26,27を介して、転舵軸6を軸方向X1に摺動可能に支持している。
【0023】
転舵用アクチュエータ4は、ハウジング5と、アクチュエータとしての第1電動モータ21および第2電動モータ22と、これらのモータ21,22によって駆動されるボールねじ機構23と、を含んでいる。このように、2つの電動モータ21,22を設けていることにより、電動モータ21,22の何れかが故障しても、もう一方によってボールねじ機構23を駆動可能である。
【0024】
第1電動モータ21および第2電動モータ22は、転舵軸6の軸方向X1に対称に配置されている。
第1電動モータ21および第2電動モータ22は、ハウジング5内において、軸方向X1に並んで配置されている。第1電動モータ21は、ハウジング5の内周面5aに固定された第1ステータ24を備えている。第2電動モータ22は、ハウジング5の内周面5aに固定された第2ステータ25を備えている。
【0025】
また、第1電動モータ21は、転舵軸6の周囲を取り囲む回転部材としての第1ロータ31を備えている。第1ロータ31は、第1ロータコア32と、第1ロータコア32に一体回転可能に連結された環状の第1マグネット33とを含んでいる。第1ロータコア32は、円筒状に形成されており、転舵軸6と同軸に配置されている。第1ロータコア32の一端部32aの外周面は、第1転がり軸受34を介して、ハウジング5の内周面5aに回転可能に支持されている。第1転がり軸受34の内周面は、第1ロータコア32の外周面に固定され、且つ、第1転がり軸受34の外周面は、ハウジング5の内周面5aに固定されている。これにより、第1ロータ31は、ハウジング5に対する軸方向X1の移動を規制されている。第1ロータコア32の他端部には、第1環状フランジ35が形成されている。第1環状フランジ35は、円環状に形成されている。
【0026】
第1マグネット33は、転舵軸6の周方向C1に関してN極とS極とが交互に異なる外周面を有している。第1マグネット33は、第1ロータコア32の外周面に固定されている。第1マグネット33は、第1ステータ24に取り囲まれている。
また、第2電動モータ22は、転舵軸6の周囲を取り囲む回転部材としての第2ロータ41を備えている。第2ロータ41は、第2ロータコア42と、第2ロータコア42に一体回転可能に連結された環状の第2マグネット43とを含んでいる。第2ロータコア42は、円筒状に形成されており、転舵軸6と同軸に配置されている。第2ロータコア42の一端部42aの外周面は、第2転がり軸受44を介して、ハウジング5の内周面5aに回転可能に支持されている。第2転がり軸受44の内周面は、第2ロータコア42の外周面に固定され、且つ、第1転がり軸受34の外周面は、ハウジング5の内周面5aに固定されている。これにより、第2ロータ41は、ハウジング5に対する軸方向X1の移動を規制されている。第2ロータコア42の他端部には、第2環状フランジ45が形成されている。第2環状フランジ45は、円環状に形成されている。
【0027】
第2マグネット43は、転舵軸6の周方向C1に関してN極とS極とが交互に異なる外周面を有している。第2マグネット43は、第2ロータコア42の外周面に固定されている。第2マグネット43は、第2ステータ25に取り囲まれている。
第1ロータ31および第2ロータ41は、それぞれ、ボールねじ機構23の後述する環状フランジ48cに、固定ねじ52を用いて一体回転可能に連結されている。これにより、第1ロータ31および第2ロータ41は、環状フランジ48cを駆動可能である。
【0028】
ボールねじ機構23は、各電動モータ21,22の出力回転を転舵軸6の軸方向移動に変換する運動変換機構として設けられている。
ボールねじ機構23は、ハウジング5に収容されている。ボールねじ機構23は、転舵軸6に一体に設けられた雄ねじ部材としてのねじ軸47と、ねじ軸47の周囲を取り囲み、第1および第2ロータ31,41と一体回転可能な雌ねじ部材としてのボールナット48と、列をなす多数のボール49とを備えている。
【0029】
ねじ軸47は、転舵軸6の一部に形成されている。ねじ軸47の外周には、螺旋状の雄ねじ溝47aが形成されている。
ボールナット48は、円筒状のナット本体48bと、ナット本体48bの外周面からボールナット48の径方向の外方に突出する環状フランジ48cと、を含んでいる。ナット本体48bと環状フランジ48cとは、溶接等によって一体に形成されている。
【0030】
ナット本体48bの内周には、螺旋状の雌ねじ溝48aが形成されている。雌ねじ溝48aは、ねじ軸47の雄ねじ溝47aを取り囲んでいる。ボール49は、ボールナット48の雌ねじ溝48aと、ねじ軸47の雄ねじ溝47aとの間に介在している。これにより、ボールナット48とねじ軸47とは、ボール49を介してねじ結合している。
また、ナット本体48bには、転舵軸6が挿通されており、軸方向X1に関するナット本体48bの両端から、転舵軸6が突出している。転舵軸6は、ねじ軸47に対して軸方向X1の一方に配置された第1軸部6aと、ねじ軸47に対して軸方向X1の他方に配置された第2軸部6bとを含んでいる。
【0031】
第2軸部6bの外周面は、円形に形成されている。また、ブッシュ27の内周面は、第2軸部6bの外周面に合致する円形の内周面を有している。ブッシュ27は、ハウジング5に固定されている。これにより、第2軸部6bは、ブッシュ27を介してハウジング5に、軸方向X1に摺動可能に且つ周方向C1に相対回転可能に支持されている。
転舵軸6の両端部は、球面継手53,53を介してタイロッド7,7に連結されている。これにより、転舵軸6が回転するときでも、タイロッド7,7は、回転しない。
【0032】
図3は、
図2の第1ロータ31のロータコア32の一端部32aの周辺の拡大図である。
図4は、
図3のIV−IV線に沿う断面図であり、転舵軸6を軸方向X1に見た状態を示している。
図3および
図4を参照して、転舵軸6の中心軸線L1からの第1軸部6aの外周面6cの距離は、不均一とされている。具体的には、第1軸部6aの断面形状は、円の外周の一部を切断した形状であり、互いに平行な平行部(二面幅部)56,57を含んでいる。
【0033】
また、支持部材としてのブッシュ26の内周面は、第1軸部6aの外周面6cの断面形状に合致する形状に形成されており、第1軸部6aに嵌合されている。これにより、第1軸部6aは、ブッシュ26によって、軸方向X1に摺動可能に支持されており、且つ、ブッシュ26と周方向C1に一体回転可能である。
ブッシュ26は、ねじ部材58を用いて、ハウジング5に固定されている。すなわち、ブッシュ26は、ねじ部材58によって、ハウジング5に対する相対回転および軸方向移動が規制されている。
【0034】
図3を参照して、ねじ部材58は、第2規制手段として、且つ、規制部材として設けられている。また、ねじ部材58は、第1ねじ部材として、且つ、第2ねじ部材として設けられている。ねじ部材58は、第1挿通孔61に挿通されている。第1挿通孔61は、ハウジング5の一端部5bに形成されており、ハウジング5の内側と外側とを連通している。また、ブッシュ26の一端部26aと他端部26bのうちの他端部26bには、第1雌ねじ部62が形成されている。第1雌ねじ部62は、ブッシュ26の一端部26bの外周面に形成されており、径方向R1に延びている。
【0035】
ねじ部材58は、第1挿通孔61を挿通し、且つ、第1雌ねじ部62にねじ結合している。また、ブッシュ26の他端部26bにおける外周面26cは、円筒面であり、且つ、ハウジング5の一端部5bにおける内周面5aは、この円筒面に合致する円筒面に形成されており、互いに嵌め合わされている。したがって、ねじ部材58を緩め、ねじ部材58を第1挿通孔61および第1雌ねじ部62から取り外したとき、ブッシュ26および転舵軸6は、ハウジング5に対して周方向C1に回転可能である。
【0036】
上記ブッシュ26およびねじ部材58によって、転舵軸6の回転を規制するための第1規制手段としての第1規制機構60が形成されている。
ブッシュ26の中間部26dにおける外周面26cには、軸受65が配置されている。軸受65は、例えば、ころ軸受である。この軸受65は、ハウジング5の一端部5bに保持されており、ブッシュ26を周方向C1に回転可能に支持している。
【0037】
ブッシュ26の一端部26aにおける外周面26cには、拡径部66が設けられている。拡径部66は、ブッシュ26を周方向C1に回転させるために設けられており、ハウジング5の外側において、転舵軸6の径方向R1の外方に向けて延びている。拡径部66は、ハウジング5の一端部5bに隣接して配置されている。
本実施形態において、拡径部66の外周には、第1歯部67が形成されている。第1歯部67は、傘歯車である。第1歯部67の中心軸線は、転舵軸6の中心軸線L1と合致している。第1歯部67のピッチ円直径は、ハウジング5の一端部5bの外径よりも大きい。
【0038】
第1歯部67は、第2歯部68に噛み合っている。第2歯部68は、傘歯車からなる歯車部材69の外周に形成されている。第2歯部68の中心軸線は、第1歯部67の中心軸線と直交している。第2歯部68のピッチ円直径は、第1歯部67のピッチ円直径よりも小さい。これにより、第1歯部67および第2歯部68からなる減速機構が形成されている。
【0039】
歯車部材69は、ハウジング5の一端部5bの外周に設けられた支軸70に回転可能に支持されている。また、歯車部材69の一端面には、把持部71が設けられている。把持部71は、歯車部材69の中心軸線に対して偏心した軸状の部分である。ねじ部材58がブッシュ26から取り外されているとき、例えば、作業者が把持部71を把持し歯車部材69を回転させることにより、拡径部66(ブッシュ26)を回転させることが可能である。
【0040】
また、ハウジング5の一端部5bには、ハウジング5の内側と外側とを連通する第2雌ねじ部63が形成されている。第2雌ねじ部63は、第1挿通孔61と軸方向X1に並んでいる。第1挿通孔61と第2雌ねじ部63とは、周方向C1に関する位置が揃えられている。
また、第1ロータ31のロータコア32の一端部32aには、第2挿通孔64が形成されている。第2挿通孔64は、第2雌ねじ部63と軸方向X1の位置が揃えられている。本実施形態において、第2挿通孔64は、1つ設けられている。なお、第2挿通孔64は、周方向C1に間隔を開けて複数設けられていてもよい。
【0041】
第2挿通孔64は、周方向C1に延びている。これにより、第2雌ねじ部63に対して第2挿通孔64の中心の位置が転舵軸6の周方向C1に多少ずれていても、ねじ部材58を第2挿通孔64に挿通可能とされている。ねじ部材58は、第2雌ねじ部63にねじ結合可能で、且つ、第2挿通孔64を挿通可能である。
図2を参照して、次に、車両用操舵装置1の動作の一例を説明する。
【0042】
通常時、すなわち、電動モータ21,22を用いて転舵軸6を軸方向X1に変位させるとき、ねじ部材58は、第1挿通孔61を挿通し且つ第1雌ねじ部62にねじ結合されている。このとき、ねじ部材58は、第1ねじ部材を構成している。また、第1規制機構60によって転舵軸6の回転が規制されている。一方、ねじ部材58は、ロータ31の第2挿通孔64には挿通されておらず、ロータ31,41の回転を規制していない。すなわち、ロータ31,41の回転規制を解除している。
【0043】
このとき、電動モータ21,22のロータ31,41が回転すると、ロータ31,41の出力は、ボールねじ機構23のボールナット48、ボール49およびねじ軸47(転舵軸6)に伝わる。このとき、転舵軸6は、第1規制機構60によって回転規制されているので、回転せず、ボールナット48の回転に伴い軸方向X1に変位する。これにより、電動モータ21,22を用いて転舵輪3,3の向きを変更できる。
【0044】
一方、電動モータ21,22の双方に故障等の異常が生じたとき、すなわち、電動モータ21,22のフェール時には、
図5に示すように、作業者は、ねじ部材58を第1雌ねじ部62および第1挿通孔61から取り外す。これにより、第1規制機構60による転舵軸6の回転規制が解除される。すなわち、転舵軸6の回転が許容される。
次に、作業者は、ねじ部材58を、第2雌ねじ部63にねじ結合し、且つ第2挿通孔64に挿通する。これにより、ねじ部材58は、ロータ31の回転を規制する。このとき、ねじ部材58は、第2ねじ部材を構成している。この状態で、作業者は、把持部71を把持して歯車部材69を回転させる。これにより、作業者からのトルクは、第2歯車68および第1歯車67の噛み合いによって増幅され、ブッシュ26に伝わる。ブッシュ26は、転舵軸6とともに転舵軸6の中心軸線L1回りを回転する。このとき、ロータ31の回転は規制されているので、ボールナット48は回転しない。したがって、転舵軸6は、ボールナット48に対して回転しつつ、軸方向X1に変位する。これにより、フェール時には、電動モータ21,22を用いることなく、転舵輪3,3の向きを容易に変位できる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、車両の通常の使用時には、電動モータ21,22を用いて転舵軸6を軸方向X1に変位させて転舵輪3,3の向きを変更できる。また、電動モータ21,22のフェール時には、電動モータ21,22を用いることなく、人力によって、転舵軸6を軸方向X1に容易に変位させて転舵輪3,3の向きを変更できる。よって、電動モータ21,22のフェール時において、車両を少しの距離移動させたいとき等に、車両の向きを容易に変更させて、車両を容易に移動させることができる。
【0046】
さらに、ボール49を含むボールねじ機構23を用いていることにより、通常時には、電動モータ21,22の出力をスムーズに転舵軸6に伝達できる。また、電動モータ21,22のフェール時には、少ない力で転舵軸6をスムーズに回転させることができるので、転舵軸6を軸方向X1に容易に変位できる。
また、ブッシュ26をねじ部材58によってハウジング5に固定することにより、ブッシュ26の回転を規制できる。これにより、通常時に、ブッシュ26と一体回転可能な転舵軸6の回転を確実に規制できる。また、ねじ部材58をハウジング5の第1挿通孔61から取り外すことにより、ブッシュ26をハウジング5に対して回転させることができる。これにより、フェール時に、ブッシュ26と一体回転可能な転舵軸6を確実に回転させることが可能となる。
【0047】
また、ねじ部材58を第1挿通孔61および第1雌ねじ部62に対して着脱するという簡易な作業によって、転舵軸6の回転を規制する状態と、転舵軸6の回転を許容する状態と、を容易に切り替えることができる。また、ねじ部材58を第2雌ねじ部63および第2挿通孔64に対して着脱するという簡易な作業によって、ロータ31,41の回転を許容する状態と、ロータ31,41の回転を規制する状態と、を容易に切り替えることができる。
【0048】
しかも、転舵軸6の回転を規制している状態からロータ31,41の回転を規制する状態への変更を、第1雌ねじ部62に結合されたねじ部材58を第2挿通孔64に通すという簡易な変更作業で実現できる。
また、ブッシュ26の拡径部66、特に拡径部66の先端の第1歯部67は、転舵軸6の中心軸線L1から離れた位置に配置される。したがって、ハウジング5の外側から拡径部66を操作することにより、ブッシュ26および転舵軸6を、小さい力で容易に回転できる。
【0049】
さらに、電動モータ21,22のロータ31,41は、転舵軸6と同軸に配置されている。これにより、ボールねじ機構23とロータ31,41とを近接配置できる。また、ロータ31,41の内部に転舵軸6を挿通している。これにより、ロータ31,41の内部の空間の有効利用を通じて、車両用操舵装置1の小型化を実現できる。このように、電動モータ21,22のフェール時に転舵軸6を容易に回転可能な構成を採用しつつ、車両用操舵装置1の小型化を実現できるという、優れた効果を発揮できる。
【0050】
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、ロータ31,41の回転を規制するための部材(ねじ部材58)を、ロータ31,41以外の、ロータ31,41と連動して回転する部材に結合させてもよい。
また、第1挿通孔61および第1雌ねじ部62を挿通するねじ部材と、第2雌ねじ部63および第2挿通孔64を挿通するねじ部材と、を別々に設けてもよい。
【0051】
また、歯車部材69に代えて、
図6に示すように、工具73を用いてブッシュ26(転舵軸6)を回転させるようにしてもよい。工具73は、作業車が把持するための把持部72と、第1歯部67に噛み合い可能な一対の係合部74,74と、を有している。
また、
図7に示すように、歯車部材69を、ブラシモータ等の補助モータ75で回転させる構成でもよい。補助モータ75の出力軸は、歯車部材69に一体回転可能に連結されている。
【0052】
さらに、転舵軸6の第1軸部6aの断面形状は、D形形状であってもよい。
また、ボールナット48に代えてねじ山を有するナット部材を用い、且つ、ねじ軸47に代えてねじ山を有するねじ軸を用い、これらナット部材および雄ねじ軸の互いのねじ山を直接ねじ結合させてもよい。
また、電動モータ21,22のロータ31,41は、転舵軸6と同軸に配置されているけれども、これに限定されない。例えば、転舵軸6と平行に配置された電動モータのロータの回転を、歯車を介してボールナット48に伝達してもよい。