特許第5748114号(P5748114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748114
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】水性炭酸飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20150625BHJP
   A23L 1/307 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   A23L2/00 T
   A23L1/307
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-543652(P2014-543652)
(86)(22)【出願日】2013年12月12日
(86)【国際出願番号】JP2013083336
(87)【国際公開番号】WO2014103737
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2014年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-280430(P2012-280430)
(32)【優先日】2012年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堂本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】山地 麻里江
(72)【発明者】
【氏名】坂田 茜
【審査官】 田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−147444(JP,A)
【文献】 特表2011−527189(JP,A)
【文献】 特開2011−000055(JP,A)
【文献】 特開昭63−173563(JP,A)
【文献】 特開昭64−013979(JP,A)
【文献】 宮崎正三,イオン応答性インテリジェント多糖の胃内ゲル化機能を付与した食品添加物の開発,日本食品化学研究振興財団 研究成果報告書,2004年,No.10,pp.104-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
A23L 1/307
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料中0.01w/v%以上のLMペクチン、0.1w/v%以上のアルギン酸若しくはその塩、または0.001w/v%以上のジェランガムを含有し、pHが3.5〜7.0であり、LMペクチン、アルギン酸若しくはその塩、またはジェランガムがゲル化せずに溶解していることを特徴とする水性炭酸飲料。
【請求項2】
アルギン酸塩がアルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムである請求項1に記載の水性炭酸飲料。
【請求項3】
ジェランガムが脱アシル型ジェランガムである請求項1に記載の水性炭酸飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性の炭酸飲料に関し、医薬品、医薬部外品及び食品等の分野において利用されうる。
【従来技術】
【0002】
肥満はメタボリックシンドロームに至る深刻な社会問題である。肥満を予防するための有効な手段としては、食事摂取量を制限してのダイエットが挙げられるが、これによって生じる空腹感のため、長続きしないというのが実状であった。そこで、空腹感を解消するために、香料または香料化合物を主成分とする空腹感緩和剤(特許文献1参照)、シリアル食品(特許文献2参照)、可食性リンタンパクと金属の炭酸塩(特許文献3参照)などが提供されている。
【0003】
そうした空腹感を改善するための方法の1つとして、寒天を用い、胃液に一定時間浸された後の寒天のゲル強度を向上させる方法(特許文献4参照)が報告されている。しかしながら、固いゲルを咀嚼して飲みこむ必要があるため、実用性が高いとは言いがたい。ゲル化剤を含む胃内ラフト組成物を用いる方法(特許文献5参照)や水性の酸と接触した際に非毒性ガスを生成し得るガス生成物質を含む胃内ラフト組成物を用いる方法(特許文献6参照)も報告されている。これは、生じたガスの影響で胃内を浮遊する性質を有し、胃の蠕動運動で消化されにくいが、粉末または錠剤を多量に摂取することになるため、服用性が良くないという課題があった。また、それらを水に溶解したものは、ガス発生剤の影響でアルカリ性を呈するため、飲料としては保存性が悪く、粉末を溶かして飲む場合も嗜好性の低い風味となるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−7427号公報
【特許文献2】特開2007−53929号公報
【特許文献3】特開2010−94085号公報
【特許文献4】特開2008−110923号公報
【特許文献5】特表2009−530254号公報
【特許文献6】特表2005−507409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、飲む前は通常の水性炭酸飲料であるが、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化し、胃の中で浮遊したまま滞留して腹持ちがよいという性質を有する水性炭酸飲料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、飲料中0.01w/v%以上のLMペクチン、0.1w/v%以上のアルギン酸またはその塩、または0.001w/v%以上のジェランガムを含有し、pHを3.5〜7.0に設定した水性の炭酸飲料は、飲む前は通常の液体(水性炭酸飲料)であるが、飲んだ後は胃の中で胃酸と反応してゲル化し、胃の中で浮遊したまま滞留して腹持ちがよいという性質を有することを見いだした。また、このような水性炭酸飲料は飲料の形態であるため手軽に摂取可能で、酸性〜中性で設計可能であるため保存性が高く嗜好性の高い風味で設計可能である。
【0007】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
(1)飲料中0.01w/v%以上のLMペクチン、0.1w/v%以上のアルギン酸若しくはその塩、または0.001w/v%以上のジェランガムを含有し、pHが3.5〜7.0であり、LMペクチン、アルギン酸若しくはその塩、またはジェランガムがゲル化せずに溶解していることを特徴とする水性炭酸飲料。
(2)アルギン酸塩がアルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムである前記(1)の水性炭酸飲料。
(3)ジェランガムが脱アシル型ジェランガムである前記(1)の水性炭酸飲料。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化し、そのゲルが胃内を浮遊したまま滞留して腹持ちがよいという性質を有する水性の炭酸飲料を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「ペクチン」とはα−1,4−結合したポリガラクツロン酸が主成分の水溶性多糖類であり、リンゴや柑橘類から抽出される。本発明のペクチンは、リンゴ由来、柑橘類由来の何れのものであってもよいが、ペクチンの構成糖であってフリーの酸若しくはメチルエステルとして存在するガラクツロン酸がメチルエステルであるものの比率が50%未満の「LMペクチン」であることが必要である。因みに、メチルエステルの比率が50%以上のペクチンをHMペクチンというが、酸性域でゲル化せず、本発明には適さない。
【0010】
LMペクチンの含有(配合)量は、飲料中0.01w/v%以上であり、ゲルの強度及び服用性に優れ、かつ、胃内でのゲルの体積を効率よく十分に増大させることができるという点から、0.025〜5w/v%が好ましい。なお、本発明において、w/v%とは、全体積100mlに対する質量(g)の割合を示す。
【0011】
「アルギン酸」は昆布やワカメなどの海藻に含まれる多糖類であり,増粘安定剤として広く利用されている。アルギン酸はマンヌロン酸とグルロン酸が直鎖重合した構造で、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などが市販されている。本発明では、何れのアルギン酸またはその塩を用いてもよいが、溶解性の点でアルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カリウムが好ましい。
【0012】
アルギン酸またはその塩の含有(配合)量は、飲料中0.1w/v%以上であり、ゲルの強度及び服用性に優れ、かつ、胃内でのゲルの体積を効率よく十分に増大させることができるという点から、0.3〜5w/v%が好ましい。
【0013】
「ジェランガム」は微生物(Sphingomonas elodea)が菌体外に産出する多糖類であり、増粘安定剤として広く利用されている。ジェランガムは直鎖状のヘテロ多糖類で、グルコース、グルクロン酸、グルコース、ラムノースの4糖の繰返し単位から構成されており、グルクロン酸由来のカルボキシル基を有している。ジェランガムには、1−3結合したグルコースに存在するアセチル基とグリセリル基の有無によって脱アシル型ジェランガムとネイティブ型ジェランガムの2種類がある。本発明では、何れのジェランガムを用いてもよいが、ゲル強度の点で脱アシル型ジェランガムが好ましい。
【0014】
ジェランガムの含有(配合)量は、飲料中0.001w/v%以上であり、ゲルの強度及び服用性に優れ、かつ、胃内でのゲルの体積を効率よく十分に増大させることができるという点から、0.0025〜1w/v%が好ましい。
【0015】
また、本発明においては、上記LMペクチン、アルギン酸またはその塩、及びジェランガムのうちのいずれを用いてもよいが、炭酸飲料として飲んだ後に胃内でのゲルの体積をより増大させることができるという点から、LMペクチンまたはアルギン酸またはその塩を用いることが好ましく、LMペクチンを用いることが更に好ましい。
【0016】
「水性炭酸飲料」は、飲用に適した水に二酸化炭素を圧入し、これに食品、食品添加物などを加えたものを指し、そのガスボリュームは0.5〜4.0であることが好ましい。前記ガスボリュームとは、標準状態(1気圧、15.6℃)において、溶媒である液体1に対しそれに溶けている二酸化炭素の体積比である。
【0017】
水性炭酸飲料のpHは、飲む前は通常の水性炭酸飲料であるが飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化するという点から、3.5〜7.0である。pHを上記範囲に保つために、必要に応じてpH調整剤を配合することができる。pH調整剤としては、有機酸が好ましく、中でも緩衝能が強く飲用前にゲル化しにくいという点から、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸が好ましい。それらの量は、飲料中0.001〜5w/v%であり、緩衝能及び服用性という点から、より好ましくは、0.01〜2w/v%である。また、上記pH範囲で製造するため、必要に応じて保存剤を配合することができる。中でも保存剤としては、安息香酸及び安息香酸ナトリウムなどの安息香酸塩が好ましく、それらの量は、飲料中0.001〜0.5w/v%であり、保存性及び服用性という点から、より好ましくは、0.005〜0.1w/v%である。
【0018】
水性炭酸飲料は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、水に、各成分を添加・混合して溶解させ、飲料原液を調製する。そして、必要に応じてpHの調整や加熱殺菌をしてから冷却した後、ガス圧が所定の範囲になるように炭酸ガスをガス封入(カーボネーション)し、容器に充填して、殺菌する工程により製造することができる。
【0019】
なお、炭酸飲料の製法には、プレミックス法とポストミックス法とがあるが、本発明においてはいずれの方法を用いてもよい。
【0020】
また、水性炭酸飲料にはその他の成分として、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸及びその塩類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリー、デキストリン等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。さらに必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、保存剤、甘味料等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明を更に詳細に説明する。
【0022】
実施例及び比較例
精製水にクエン酸一水和物、安息香酸ナトリウムを添加し、溶解させて、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整した。該溶液にLMペクチン、HMペクチン、アルギン酸ナトリウム、ジェランガム、カラギーナン、またはキサンタンガムをそれぞれ溶解させ、該溶液にさらに精製水を加えて全量25mlとし、水酸化ナトリウム水溶液でpHを微調整した。各試験液をガラスビンに充填後殺菌し、評価直前に75mlの炭酸水または精製水を加えることにより、実施例1〜8、10、11、13〜16、18、19並びに比較例1〜6の水性飲料を得た。
実施例9、12、17は、精製水にクエン酸一水和物、安息香酸ナトリウムを添加し、LMペクチン、アルギン酸ナトリウム、ジェランガムをそれぞれ溶解させ、該溶液にさらに精製水を加えて全量25mlとし、炭酸水を加えた後に、塩酸、水酸化ナトリウム溶液でpHを調整し、全量を100mlとした。
実施例1〜19で得られた水性飲料はガスボリュームが0.5〜4.0の範囲内である全量が100mlの水性炭酸飲料であった。各水性飲料の組成及びpHを表1〜5に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
【表5】
【0028】
試験例 人工胃液滴下時の性状・体積
人工胃液としての37℃の日局1液(日本薬局方崩壊試験法第1液)100mlに、氷水で冷やした上記実施例及び比較例の水性飲料を100ml滴下し、37℃で10分間インキュベートした後の性状を観察し、全体の体積を測定した。結果を表6〜10に示す。なお、表中において、「浮遊」とは、ゲル化した水性飲料が前記日局1液上に浮かんでいる状態を示す。
【0029】
【表6】
【0030】
【表7】
【0031】
【表8】
【0032】
【表9】
【0033】
【表10】
【0034】
実施例1のようにLMペクチンを配合した水性炭酸飲料は、比較例1のような単なるLMペクチン配合の水性飲料とは異なって、ゲル内部に炭酸ガスの泡が生じることによって膨張し、比重が軽くなって浮遊し、全体の総体積が増加した。アルギン酸ナトリウム、ジェランガムを配合した水性炭酸飲料の場合(実施例2及び3、比較例5及び6)も同様であった。
【0035】
これに対して、HMペクチン、カラギーナン及びキサンタンガムをそれぞれ配合した比較例2〜4の水性飲料では、日局1液滴下後のゲル化が認められなかった。
【0036】
また、実施例4〜7に示すようにLMペクチンの配合量が0.025w/v%以上で、実施例8〜9に示すようにpH3.6〜6.8の範囲で、ゲル化と浮遊が確認された。アルギン酸ナトリウムに関しては、実施例10に示すように配合量0.3w/v%以上、実施例11及び12に示すようにpH3.9〜6.7の範囲でゲル化と浮遊が確認された。ジェランガムは、実施例13〜15に示すように、配合量0.0025w/v%以上、実施例16及び17に示すようにpH4.3〜6.7の範囲で、ゲル化と浮遊が確認された。
【0037】
実施例18及び19に示すように、LMペクチンが高濃度配合された低pHの溶液であっても、ゲル化と浮遊が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、飲む前は通常の水性炭酸飲料であるが、飲んだ後に胃の中で胃酸と反応してゲル化し、胃の中で浮遊したまま滞留して腹持ちがよいという性質を有する水性炭酸飲料を提供することが可能となった。よって、本発明を肥満予防のためのダイエットを志向した医薬品、医薬部外品及び食品として提供することにより、これらの産業の発達が期待される。