【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、一般式FePO
4・nH
2O(n≦2.5)のオルトリン酸鉄(III)を製造するためのプロセスによって達成されるが、ここで、
a)水酸化物、酸化物、酸化物水酸化物、酸化物水和物、炭酸塩および水酸化物炭酸塩から選択される酸化性の鉄(II)、鉄(III)もしくは混合鉄(II、III)化合物を元素
としての
Feと共に、リン酸含有水性媒体の中に導入し、Fe
2+イオンを溶解させ、そしてFe
3+を元素
としてのFeと(不均化反応(comproportionation reaction)において)反応させてFe
2+を得て、
リン酸酸性水性Fe2+溶液を製造し、
b)そのリン酸酸性(phosphoric−acid)水性Fe
2+溶液から固形物を分離し、そして
c)そのリン酸酸性水性Fe
2+溶液に酸化剤を添加して、その
リン酸酸性水性Fe2+溶液中の鉄(II)を酸化させ、一般式FePO
4・nH
2Oのオルトリン酸鉄(III)を沈殿させる。
【0015】
本発明によるプロセスにおいては、出発物質(酸化性の鉄原料物質、元素
としての
Fe)を、好ましくは結晶粒度D50が0.01μm〜300μmである、粉体の形態で使用することが可能であり、それをリン酸含有水性媒体好ましくは希リン酸と混合し、直接反応させる。別な方法として、出発物質または出発物質の一部を、沈殿法と可能であればその次の焼成法によってまずフレッシュに製造し、次いでフィルターケーキの形にさらに加工することも可能である。その結果スラリーが得られるが、それは原料物質の固形物の部分によって曇っているか、または着色されている(黒色〜褐色〜赤色)。
【0016】
本明細書において水性溶媒と呼ぶ場合、それには、流動性媒体として専ら水のみを含む実施態様が包含されるだけではなく、その流動性媒体中に、好ましくは圧倒的に大量の割合の水を含むが、ある程度の割合の水混和性の有機および/またはイオン性溶媒または流体も含んでいてもよいような実施態様も包含される。そのような溶媒添加物が、結晶成長に影響を与え、その結果として得られる反応生成物のモルホロジーに影響を与えうるということは公知である。
【0017】
リン酸含有水性媒体の中で、酸化性の鉄原料物質からのFe
3+と元素
としての
Feとの間の酸化還元反応が起こり、そこで、次の反応式(I)に従った不均化反応で、可溶性のFe
2+が形成される:
(I) 2Fe
3++Fe→3Fe
2+
【0018】
その反応バッチは、発生する反応熱を放散させなければ(原理的には不要である)、それぞれの原料物質に依存して約2〜25℃昇温する。その反応が終了したら、そのバッチを撹拌しながら加熱して、より高い温度好ましくは65℃未満とするが、この場合、導入された固形物が、それぞれの組成および純度に依存して、多少なりとも完全に反応して、典型的には緑色のFe
2+溶液を生成する。約50〜120分間後には、そのプロセスステップは完了する。その時間は、なかんずく、使用した原料物質および濃度レベルに依存する。
【0019】
使用した固形物質のそれぞれの純度に依存して、多少の目立った曇りが溶液中に残るが、これは、その反応条件下では不溶性である化合物によるものである。その残存している固形物の部分は、単純な濾過、沈降、遠心分離またはその他適切な手段によって除去することができる。それらの固形物の割合は、そのプロセスに導入される出発物質、酸の濃度、および反応温度のそれぞれの選択に依存して変化する。
【0020】
その溶液からさらなる不純物または望ましくない物質および化合物を除去するためには、所定の沈殿剤をその溶液に添加するのが有利である。したがって、たとえば溶液中のカルシウム含量は、少量の硫酸を添加して、硫酸カルシウムを沈殿させることによって、低下させることができる。さらに、その溶液から望ましくない金属イオンのさらに電解的沈殿または分離を実施することが可能で、その後に、鉄(II)溶液の中で酸化によって鉄(III)を形成させ、オルトリン酸鉄(III)を沈殿させるのが有利である。
【0021】
本発明によるプロセスの利点は、中間反応生成物として均質なリン酸酸性水性鉄(II)溶液が得られ、それからは、固形物質の形態で存在しているか、または沈殿添加剤によって固形物質に転化させることが可能であるか、または電解的に分離することが可能である不純物をすべて、単純な手段を使用して除去することが可能であり、その後で、中間反応生成物として得られた適切な鉄(II)溶液の中で酸化によってオルトリン酸鉄(III)が製造され、次いでそれが固形物質として沈殿されるという点にある。したがって、たとえば特許文献3によるプロセスの場合のように、固形物質のオルトリン酸鉄(III)が水性溶液中に、他の元々使用されている不溶性の出発化合物と同時に存在しているということはない。その結果として、他のプロセスに比較して本発明によるプロセスでは、その後で特に複雑で高コストのクリーニングプロセスを実施しなければならないということもなく、高いレベルの純度を有するオルトリン酸鉄(III)を製造することが可能となる。
【0022】
本発明によるプロセスの一つの実施態様においては、酸化性の鉄化合物と元素
としての
Feとの反応を、15℃〜90℃の範囲、好ましくは20℃〜75℃の範囲、特に好ましくは25℃〜65℃の範囲の温度で、リン酸含有水性媒体中で実施する。過度に低い温度では、反応速度が遅く、恐らくは非経済的である。過度に高い温度では、なかんずく懸濁液中に含まれる固形の出発物質のところで、恐らくは固形物反応が起きるために、オルトリン酸鉄(III)の沈殿の生成が早すぎるといった状況が一部で起こりうる。さらには、過度に高い温度によって、本明細書で後に説明するような、二次反応の進行が促進される。
【0023】
酸化性の鉄化合物と元素
としての
Feとの反応を、リン酸含有水性媒体中、好ましくは撹拌混合(stirring agitation)による、強力な完全混合(intensive thorough mixing)で実施するのが望ましい。当分野において公知であり、そのような使用目的に好適なミキサーおよびアジテーターであればいずれであっても、この目的に使用することができる。有利には、完全混合のためおよび/または反応バッチを揺動させるための、ジェットミキサー、ホモジナイザー、流動反応セルなどを使用することも可能である。
【0024】
本発明によるプロセスのさらなる実施態様においては、酸化性の鉄化合物と元素
としての
Feとの反応を、リン酸含有水性媒体の中で、1分間〜120分間、好ましくは5分間〜60分間、特に好ましくは20分間〜40分間の時間をかけて実施する。リン酸含有水性媒体中における鉄化合物と元素
としての
Feとの反応は明らかに、その
リン酸含有水性媒体から固形物を分離することによって、いかなるタイミングでも停止させることが可能であるが、ある種の環境下では反応が不完全なために収率が低下することもある。
【0025】
本発明によるプロセスにおいては、
リン酸含有水性媒体中におけるリン酸の濃度は、その水性
媒体重量を基準にして、ほぼ5%〜85%、好ましくは10%〜40%、特に好ましくは15%〜30%である。リン酸濃度のレベルが低いと経済的には有利であるが、この場合、濃度レベルが過度に低いと反応が起きるのが極めて遅くなり、このことは経済的な観点からも望ましくないということにもなりかねない。リン酸濃度のレベルがたとえば35%を超えるほどに高いと、使用した酸化性の鉄化合物のそれぞれの微細さに依存して、それらの塊状物の形成が起きる可能性があり、このことは、Fe
3+と元素
としての
Feとの間の上述の不均化反応の時間をかなり長くする。リン酸濃度が、最終反応生成物の微細さに影響を及ぼすこともまた観察された。したがって、リン酸濃度が低いほど、平均粒子サイズD50が35μm未満の、より微細な最終反応生成物が得られるようになり、それに対してリン酸濃度が高いほど、平均粒子サイズD50が35μmを超える、より粗い最終反応生成物の生成が促進される。Fe
3+と元素
としての
Feとの間の不均化反応の後の沈殿ステップでのリン酸濃度は、添加する濃リン酸もしくは水によるか、またはその中に含まれている水を蒸発法によって除去することによって調節することが可能である。そのことが、Fe
2+溶液を製造するために使用した原料物質の量からは独立して、最終反応生成物であるオルトリン酸鉄(III)の微細さを調節するために可能な方法を与える。
【0026】
元素
としての
Feとリン酸との間の二次反応において、次式の反応(II)に従って水素ガスが発生するので、安全のために、それを特に意図的に除去しなければならない:
(II) Fe+H
3PO
4→Fe
2++HPO
42−+H
2
【0027】
その二次反応を抑制することは不可能であるので、上述の反応式(I)に従って酸化性の鉄原料物質中のFe
3+の反応に必要となる量よりも、常に化学量論的に過剰な元素
としての
Feを使用しなければならない。過剰とする正確な量は、反応条件、たとえば使用した固形物の微細さまたは表面活性、温度、および酸濃度に実質的に依存する。多くの場合においては、化学量論量よりも数パーセント過剰にすれば充分であるということが見出されている。温度が40℃を超えると、二次反応の速度が上昇することが観察された。70℃を超えると、オルトリン酸鉄の同時沈殿が起きる可能性があり、そのために均質なFe
2+溶液が得られなくなる。先に述べたような、酸化性の鉄成分の塊状化現象が起きると、その元素
としての
Feが、二次反応のルートで実質的に完全に反応する。したがって、それぞれ選択された反応条件と、使用した原料物質の反応性に対応する化学量論となるように合わせるべきである。
【0028】
酸化性の出発物質から鉄(II)を溶解させ、鉄(III)と元素
としての
Feとを不均化によって反応させて鉄(II)としてから、存在している可能性のある不純物を上述のように除去してから、反応の加熱を停止するかまたは温度を望ましくは約85〜100℃に限定し、酸化剤を添加して、鉄(II)の実質的に全部を酸化させて鉄(III)として、鉄(II)がもはやまったく検出できないか、またはその濃度が所定の鉄(II)濃度よりも低くなるようにする。それらの条件下においては、オルトリン酸鉄(III)が、ベージュ色〜白色からやや桃色の固形物の形態で沈殿する。本発明においては、酸化および沈殿ステップでは上述の約85〜100℃の温度範囲が好ましいが、これ以外の温度範囲が排斥される訳ではない。その反応生成物は、濾過またはその他の現行のプロセスによって、固形物の形態で分離することができる。各種のレベルの乾燥強度で乾燥させることによって、一般式FePO
4・nH
2O(n≦2.5)の各種の反応生成物を得ることができる。
【0029】
反応生成物のモルホロジーは、あらかじめ溶解プロセスの際の開始時の酸濃度を調整しておくことによって調節することも可能であるが、それより後、酸化プロセスの直前またはその途中だけで調節することもまた可能である。23〜25%の酸濃度で沈殿させると、高い嵩密度の反応生成物が得られる。濃度をより高くしたり、より低くしたりすると、より低い嵩密度を有する反応生成物が得られる。
【0030】
本発明によるプロセスの一つの好ましい実施態様においては、
リン酸酸性水性Fe2+溶液中で鉄(II)を酸化するために添加する酸化剤が、過酸化水素(H
2O
2)の水性溶液である。その過酸化水素溶液は、好ましくは15〜50重量%、特に好ましくは30〜40重量%の濃度を有している。
【0031】
本発明によるプロセスのまた別な実施態様においては、
リン酸酸性水性Fe2+溶液中で鉄(II)を酸化するために添加する酸化剤が、空気、純酸素またはオゾンから選択されるガス状媒体であり、それを
リン酸酸性水性Fe2+溶液の中に吹き込む。
【0032】
適切な酸化剤を添加することによる酸化反応は、リン酸酸性水性Fe
2+溶液から固形物質を分離した直後に実施するのが好ましい。その酸化反応においては、反応混合物の温度を、その鉄化合物の反応のために予め設定された温度、またはその近傍に維持することができる。好ましい温度範囲は、約85〜100℃である。別な方法として、溶液を周囲温度もしくはそれ以下に冷却した後で酸化反応を実施することも可能ではあるが、それによって、形成されたオルトリン酸鉄(III)の沈殿が促進される訳ではない。高い温度では、酸化反応、さらには形成されたオルトリン酸鉄(III)の沈殿のいずれもが、一般的にはより容易にかつより迅速に起きるので、そのステップを比較的に高い温度で実施するのが好ましい。
【0033】
鉄(II)が、その反応混合物の中でまったく検出されないか、または実質的にもはや検出できなくなるまで、酸化反応を続ける。当業者ならば、水性溶液中の鉄(II)を検出するための公知の迅速試験法(たとえば、テストバーまたはテストストリップ)が利用できるが、その精度は、本発明の目的のためには充分なものである。水性溶液からのオルトリン酸鉄(III)の分離は、濾過法、沈降法、遠心分離法、または上述の分離プロセスの組合せによって実施するのが好ましい。反応混合物から分離したオルトリン酸鉄(III)を次いで、高温下および/または減圧下で乾燥させるのが望ましい。別な方法として、分離操作の後で、有利には、水除去ステップのそれぞれ可能であるかまたは望ましい効率に従って、固形物含量1〜90重量%のフィルターケーキもしくは分散体の形態の湿式の形でオルトリン酸鉄(III)をさらなる加工にかけることも可能である。
【0034】
オルトリン酸鉄(III)を製造するための本発明によるプロセスは、最終反応生成物で高純度を達成することが可能であることに加えて、公知の他のプロセスよりも、エコロジー的にもまた経済的にもいくつかの利点も有している。オルトリン酸鉄(III)を分離した後に残る母液には、出発物質として硫酸鉄または塩化鉄が使用される現行技術の公知のプロセスにおいては残存する汚染性の反応生成物たとえば硫酸塩または塩酸塩が、実質的に含まれない。したがって、本発明によるプロセスからの母液は、濃リン酸を添加することによって再び所望の濃度に調整することが可能であって、それにより、プロセスの中に完全にリサイクルさせることができる。このことによりコストが節減され、望ましくない廃棄物を出さずにすむ。
【0035】
本発明にはさらに、本明細書に記載したような本発明によるプロセスに従って製造されたオルトリン酸鉄(III)もまた含まれる。
【0036】
本発明によるオルトリン酸鉄(III)は、現行技術に比較して、より容易に、より低コストで、そして特に高純度で製造することが可能であるのみならず、それは、現行技術による公知のプロセスに従って製造されたオルトリン酸鉄(III)とは、構造的にも、またその組成もしくは不純物の点でも異なっている。なかんずく、出発物質として使用される、水酸化物、酸化物、酸化物水酸化物、酸化物水和物、炭酸塩および水酸化物炭酸塩から選択された鉄(II)−、鉄(III)−、および混合鉄(II、III)化合物もまた、そのことに寄与している。本発明とは対照的に、オルトリン酸鉄(III)を製造するための現行技術に従った公知のプロセスでは、なかんずく、硫酸鉄もしくは硫酸塩含有原料物質および/または硝酸塩含有原料物質を使用し、カセイソーダ液を用いて反応のpH値の変動を調節している。したがって、それによって得られたリン酸鉄は、高いレベルで、主として硫酸塩の形態の硫黄、硝酸塩、およびナトリウム残分を含んでいる。
【0037】
主として硫酸塩の形態の硫黄の含量が過度に高く、そして硝酸塩の含量が過度に高いと、それらのアニオンが望ましくない酸化還元反応を含むために、Liイオン電池のためにそのオルトリン酸鉄(III)から製造されたLiFePO
4カソード材料の品質に悪影響がもたらされる。したがって、本発明の一つの実施態様においては、そのオルトリン酸鉄(III)が、300ppm未満、好ましくは200ppm未満、特に好ましくは100ppm未満の硫黄含量しか有していない。本発明のさらなる実施態様においては、そのオルトリン酸鉄(III)が、300ppm未満、好ましくは200ppm未満、特に好ましくは100ppm未満の硝酸塩含量しか有していない。
【0038】
ナトリウムおよびカリウムカチオンもまた、それらがリチウムサイトを占有することが可能であるために、そのオルトリン酸鉄(III)から製造されたLiFePO
4カソード材料の品質に悪影響を及ぼす。したがって、本発明のさらなる実施態様においては、そのオルトリン酸鉄(III)が、300ppm未満、好ましくは200ppm未満、特に好ましくは100ppm未満の、ナトリウムおよびカリウムそれぞれの含量しか有していない。
【0039】
金属および遷移金属に関連して過度に高いレベルの汚染が存在することもまた、そのオルトリン酸鉄(III)から製造されたLiFePO
4カソード材料の品質に悪影響を及ぼす。したがって、本発明のさらなる実施態様においては、そのオルトリン酸鉄(III)が、300ppm未満、好ましくは200ppm未満、特に好ましくは100ppm未満の、金属および遷移金属(鉄を除く)それぞれの含量しか有していない。
【0040】
本発明による反応生成物、すなわち本発明によるオルトリン酸鉄(III)の性質は実質的には、その製造プロセスおよびそれを製造するために使用した出発物質による影響を受けるのであって、現行技術によるオルトリン酸鉄(III)とは異なっている。
【0041】
硫酸鉄または塩化鉄から、一般的に公知のプロセスによって製造されたオルトリン酸鉄(III)は、結晶構造の面においても異なっている。X線構造の検討から、現行技術に従って硫酸鉄または塩化鉄から製造されたオルトリン酸鉄(III)は、主としてメタストレンジャイトI構造で存在しており、少量のストレンジャイトおよびメタストレンジャイトII(ホスホシデライト)が含まれていることが判明した。対照的に、本発明により製造されたオルトリン酸鉄(III)についてのX線構造の検討では、それらが主としてメタストレンジャイトII構造(ホスホシデライト)で存在しており、ストレンジャイトおよびメタストレンジャイトIは極めて少量であるか、または検出不能な割合でしかないということが見出された。
【0042】
したがって、本発明によるオルトリン酸鉄(III)の一つの実施態様においては、80重量%を超える、好ましくは90重量%を超える、特に好ましくは95重量%を超えるオルトリン酸鉄(III)が、メタストレンジャイトII(ホスホシデライト)結晶構造として存在している。
【0043】
上述のようなオルトリン酸鉄(III)の3種の同素形(メタストレンジャイトI、メタストレンジャイトII、およびストレンジャイト)が生成すること、さらには単一相系を製造することが困難であることが、非特許文献2に記載されている(C. Delacourt et al., Chem. Mater. 2003, 15, 5051-5058)。非特許文献2では制限条項が記載されているけれども、本願発明者らは今や次のことを発見した:本明細書に記載されているプロセスを使用すると、そのリン酸鉄(III)は、リン酸のみによって決められるpH値の範囲においては、著しく純粋な形にあるメタストレンジャイトII構造で表すことが可能である。
【0044】
そのオルトリン酸鉄(III)は、メタストレンジャイトII構造を有する板状のモルホロジーを有しているのが好ましい。そのような構造では、球状の粒子に比較して、結晶および粒子を、排除容積がより少なく、かなり高い密度で充填することが可能となる。したがって、本発明によるオルトリン酸鉄(III)を用いると、高い嵩密度および充填密度を得ることが可能であり、このことは、LiFePO
4カソード材料において使用するには特に有利である。結晶板に関連して厚みが薄いということで、たとえば、LiFePO
4を製造する際の反応速度が高くなり、さらには、仕上がりカソード材料における効率が高くなるが、その理由は、Liイオンの拡散経路および拡散時間を、慣用されている材料に比較して、顕著に小さくすることが可能であるからである。さらには、その材料のアグリゲート物/アグロメレート物は、層状の構造をしていて、一般的な方法(ツラックス(Turrax)、アジテーターボールミル、超音波など)で剪断力を与えると、その一次粒子を分散体に容易に転化させることができる。
【0045】
本発明の一つの実施態様においては、そのオルトリン酸鉄(III)が、板状結晶の形態で存在している。それらの結晶が、1000nm未満、好ましくは500nm未満、特に好ましくは300nm未満、極めて特に好ましくは100nm未満の領域の薄い厚みであるのが好ましい。その厚みに対して垂直な二つの方向におけるその板状結晶の寸法は、好ましくは200〜2000nm、特に好ましくは300〜900nm、極めて特に好ましくは400〜800nmの範囲である。
【0046】
さらに、一つの好ましい実施態様における本発明によるオルトリン酸鉄(III)は、400g/Lより大、好ましくは700g/Lより大、特に好ましくは1000g/Lより大の嵩密度を有している。さらなる実施態様においては、本発明によるオルトリン酸鉄(III)は、600g/Lより大、好ましくは750g/Lより大、特に好ましくは1100g/Lより大の充填密度を有している。
【0047】
したがって、本発明によるオルトリン酸鉄(III)は、極めて微細な一次粒子サイズを示すが、それにも関わらず、同時に極めて高い達成可能な嵩密度と高い充填密度とを示す。このことは、現行技術に比較すると、驚くべきことであった。一般的に公知のプロセスに従って硫酸鉄または塩化鉄から製造したオルトリン酸鉄(III)は、通常、1μmよりも大きい一次粒子サイズを有しており、それによって、1000g/Lよりも高い嵩密度を達成することも可能である。硫酸鉄または塩化鉄からのそれらの公知のプロセスを使用してサブマイクロメートル領域にあるより小さな一次粒子サイズを有する、対応するオルトリン酸鉄(III)を製造すると、最高で400g/Lまでの低い嵩密度のものしか得られない。そうなる理由は、恐らくは、結晶構造によって影響を受ける粒子モルホロジーおよび粒子サイズ分布にあると考えられる。硫酸鉄または塩化鉄からの一般的に公知のプロセスに従って製造したリン酸鉄(III)のモルホロジーには、主として球状の粒子が含まれるが、それに対して、本発明によるオルトリン酸鉄(III)は、既に先に説明したように、角張った、板状結晶の割合が高いモルホロジーを有している。
【0048】
本発明にはさらに、Liイオン電池のためのLiFePO
4カソード材料を製造するための本発明によるオルトリン酸鉄(III)の使用も含まれる。オルトリン酸鉄(III)を使用したそのようなカソード材料の製造は当業者には自体公知ではあるが、本明細書に記載の本発明によるオルトリン酸鉄(III)は、特に上述のようなメリットを与える。
【0049】
さらに、本発明には、本明細書および特許請求項に記載されているようなオルトリン酸鉄(III)を使用して製造した、Liイオン電池のためのLiFePO
4カソード材料、さらには上述のタイプのLiFePO
4カソード材料を含むLiイオン電池も含まれている。
【0050】
さらなる態様においては、本発明にはさらに、栄養補助食品として、および食品のミネラル補強のための本発明によるオルトリン酸鉄(III)の使用も含まれているが、その理由は、それが食品には適しており、また生体において極めて高い生物学的利用能を有しているからである。その場合、本発明によるオルトリン酸鉄(III)は、水性分散体の形態で特に有利に使用される。
【0051】
さらなる態様においては、本発明にはさらに、本発明によるオルトリン酸鉄(III)を、軟体動物駆除剤として、たとえばカタツムリの駆除のために使用することも含まれる。オルトリン酸鉄(III)が軟体動物駆除作用を有していることは、自体公知である。それは、それらの動物を溶かしてしまう(sliming out)。本発明によるオルトリン酸鉄(III)は、従来からの方法で製造されたリン酸鉄(III)に比較して、構造的に調節された高い生物学的利用能を有しているために特に効果が高く、その結果、同等の効果を得るためには、より少ない量しか必要としない。その場合、本発明によるオルトリン酸鉄(III)は、水性分散体の形態で特に有利に使用される。