(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748155
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】磁性流体を利用したシール装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/43 20060101AFI20150625BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20150625BHJP
F16C 33/82 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
F16J15/40 A
F16J15/16 E
F16C33/82
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-549682(P2012-549682)
(86)(22)【出願日】2011年11月4日
(86)【国際出願番号】JP2011075459
(87)【国際公開番号】WO2012086320
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年5月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-286823(P2010-286823)
(32)【優先日】2010年12月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(72)【発明者】
【氏名】本多 茂樹
【審査官】
莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2002/095271(WO,A1)
【文献】
実開平3−69367(JP,U)
【文献】
特開平7−317916(JP,A)
【文献】
特開2003−240131(JP,A)
【文献】
実開平4−138163(JP,U)
【文献】
特開昭61−182787(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/004935(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/43
F16C 33/82
F16J 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心的で相対回転自在に組み付けられる2部材間の隙間を封止するものであって、
前記2部材のうち径方向外側の部材に配置された磁力を発生する磁力源と、
前記磁力源の両側に配置された一対の磁極部材と、
前記磁力源の磁力によって、前記2部材間に磁気的に保持されて、前記隙間を密封する磁性流体と、
を有する磁性流体シール部を備えたシール装置において、
前記2部材のうちの径方向内側の部材の外周面に固定され、内側の部材と共回りするフランジ付きスリーブを、前記一対の磁極部材に対向して設け、前記磁力源の径方向内側と一対の磁極部材とで形成される環状空間にパッキンを配置し、 前記パッキンは、前記フランジ付きスリーブの外周面に摺動するように前記環状空間に設けられており、前記磁性流体シール部、パッキン及びフランジ付きスリーブがユニット化されていることを特徴とする磁性流体を利用したシール装置。
【請求項2】
前記フランジ付きスリーブは、円筒状のスリーブ本体部と、前記スリーブ本体部の機外側に設けられる外向きフランジ部と、機内側に設けられる内向きフランジ部及び外向きフランジ部から構成されることを特徴とする請求項1記載の磁性流体を利用したシール装置。
【請求項3】
前記フランジ付きスリーブのスリーブ本体部、機外側の外向きフランジ部及び機内側の内向きフランジ部は一体に形成され、機内側の外向きフランジ部は別体に形成されることを特徴とする請求項2記載の磁性流体を利用したシール装置。
【請求項4】
前記フランジ付きスリーブのスリーブ本体部及び機内側の内向きフランジ部は一体に形成され、機外側の外向きフランジ部及び機内側の外向きフランジ部は別体に形成されることを特徴とする請求項2記載の磁性流体を利用したシール装置。
【請求項5】
前記フランジ付きスリーブのスリーブ本体部と、機外側の外向きフランジ部、機内側の外向きフランジ部及び機内側の内向きフランジ部とは別体に形成されることを特徴とする請求項2記載の磁性流体を利用したシール装置。
【請求項6】
前記フランジ付きスリーブのスリーブ本体部及び機外側の外向きフランジ部は磁性材料で形成され、機内側の外向きフランジ部は非磁性材料で形成されることを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1項に記載の磁性流体を利用したシール装置。
【請求項7】
前記フランジ付きスリーブの機外側の外向きフランジ部及び機内側の外向きフランジ部の外縁に磁極部材側に向けて折り曲げられた折曲部が設けられることを特徴とする請求項2ないし6のいずれか1項に記載の磁性流体を利用したシール装置。
【請求項8】
前記磁力源とパッキンとの間には非磁性材料からなる隔壁が設けられることをを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の磁性流体を利用したシール装置。
【請求項9】
前記パッキンがXリングからなることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の磁性流体を利用したシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣具、半導体製造装置、産業機器などの各種装置の軸封止部に用いられる磁性流体を利用したシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長寿命かつクリーンな高性能シール装置として、磁性流体シール装置が知られている。この磁性流体シール装置は、省メンテナンスで清浄な雰囲気が得られる軸封機構が必要とされる半導体や液晶等の製造工程や、各種コーティング・エッチング工程において、真空中へ回転駆動力の導入を行うための真空シール、軸受からのオイルミスト等がクリーンなエリアへ侵入するのを防止するための防塵シール、あるいはガスシール等に広く使用されている。
【0003】
図5は、このような磁性流体を利用した一従来例としての密封装置の断面構成を説明する図である(以下、「従来技術1」という。例えば、特許文献1参照。)。
この磁性流体軸封装置50は、プロセス室60を形成する壁51に円筒状のケーシング52を有している。この磁性流体軸封装置50は、例えば、機外側Aが比較的塵の多い状態下において機内側Lを塵の少ないクリーン状態すなわち防塵状態に保持したりものである。
ケーシング52は、プロセス室60の内外にわたって延びる回転軸53を取り囲んでいる。ケーシング52の内部に、磁性材料によって形成されていて回転軸53を中心とする円環状の主ポールピース54と、その主ポールピース54の右側に位置していて同じく回転軸53を中心とする円環状の副ポールピース55とが格納されている。主ポールピース54と副ポールピース55との間には、回転軸53を中心とする円環状の磁石56が設けられている。
主ポールピース54と副ポールピース55との間にリング部材57を収納するための凹溝58を形成している。
【0004】
主ポールピース54の内周面と回転軸53の外周表面の間及び副ポールピース55の内周面と回転軸53との間にはわずかの隙間が形成されており、その隙間内に磁性流体が注入されている。磁石56から出る磁力線は矢印Bで示すように、主ポールピース54、回転軸53、そして副ポールピース55を通って磁石3へ戻る磁気閉回路を形成し、その磁力線に磁性流体が集束して磁性流体膜59が形成されている。
磁性流体軸封装置50は以上のように構成されているので、機外側Aと機内側Lとの間の環境変化、例えば圧力差、塵の多少、ガス雰囲気の変化等が、回転軸53に圧力下で接触するリング部材57及び各磁性流体膜59によって保持される。
【0005】
ところが、従来技術1の磁性流体軸封装置50では、衝撃や振動等により磁性流体が回転軸53の外周部の隙間を通って機外側Aあるいは機内側Lに飛散してしまうという問題があった。このような飛散によって磁性流体が漏出されると、磁性流体シールとしての機能が損なわれたり、機外側Aあるいは機内側Lを汚染することになるので、防止する必要がある。
【0006】
図6は、磁性流体の漏洩を防止するための手段を備えた磁性流体シール構造の断面構成を説明する図である(以下、「従来技術2」という。例えば、特許文献2参照。)。
この磁性流体シール70は、ハブ71の内周部に固定された磁石72と、この磁石72の軸方向両側端面を軸方向に挾み込んだ一対のポールピース(磁極片)73、73とを有しており、ポールピース73の内周端縁部に、磁性流体74が保持されている。
一方、軸75の軸端部分(図示左端部分)には、上記磁性流体シール70に対面するように磁性リング76が嵌着されている。この磁性リング76は、磁性流体74が接触可能な位置に配置されているとともに、磁性流体シール70の磁気回路を構成するように所定の透磁性体から形成されている。これによって磁性流体74は、上記磁性リング76の外周面に密着し、軸75とハブ71との間の開口部が耐圧的に封止され、潤滑オイル等の外部漏洩が防止されるとともに、モータ外部側からの塵芥等の侵入が防止されるように構成されている。
【0007】
さらに上記磁性流体シール70の機外側Aには、磁性流体74の外部飛散を防止するための漏れ防止カバー77が配置されている。漏れ防止カバー77は、磁性流体74を、機外側Aから完全に閉塞するように構成されており、軸方向内側壁面と、磁性リング76の軸端面には、撥油剤78が塗布されている。
【0008】
このような磁性流体シール構造では、衝撃や振動等により磁性流体シール70から磁性流体74が漏洩した場合であっても、その漏洩磁性流体79は、まず漏れ防止カバー77の閉塞壁面により塞き止められ、上記撥油剤78の表面張力作用によって、漏洩磁性流体79は油滴化し散逸することなく一体の塊となる。そして回転の遠心力によって外方に飛ばされ、磁性流体貯溜部80内に速やかに移動される。
【0009】
従来技術2では、磁性流体の漏洩を防止することができるが、その構造からしてシール部分の組立時にポールピース73、73の部分に磁性流体74を注入することはできない。また、シール部分を装置に組込んだ後に、磁性流体74を外方から注入するには、漏れ防止カバー77が邪魔になり困難であるという問題があった。
また、従来技術1及び従来技術2では、シール部品の交換について考慮されていないため、部品の交換が難しいという問題もあった。
さらに、従来技術2では、軽微なダストやガスのシールができるのみで、ミストや液体をシールすることができないという問題があった。
なお、ミストや液体のシールにはオイルシールがあるが、トルクが高いという欠点がある。
【0010】
図7は、ミストや液体をシールすることのできる磁性流体シール装置の断面構成を説明する図である(以下、「従来技術3」という。例えば、特許文献3参照。)。
この磁性流体シール装置80は、互いに同心的で相対回転自在に組付けられる2部材としての非磁性材のハウジング81とハウジング81内に挿入される非磁性材の軸82間の隙間をシールするものである。
磁性流体シール装置80は、軸方向に着磁した磁力源としての永久磁石83と、その永久磁石83の両側に配置された一対の磁極片としてのヨーク84と、ヨーク84とハウジング81内周に固定されるスリーブ85を介してシールすべきハウジング81との間に有する微小間隙86内に磁気吸着力によって保持される磁性流体87と、から成る磁性流体シール部材80Aと、軸82に固定されて軸82と共回りする回転体88と、その回転体88の外径側に設けられるラビリンスシール部89と、から成るラビリンスシール構成部80Bとから構成され、ラビリンス併用タイプ磁性流体シール装置となっている。
【0011】
上記構成の磁性流体シール装置にあっては、磁性流体シール部80Aの両方の外側で、外径側にラビリンスシール構成部80Bによるラビリンスシール部89を設けたので、シール対象側に向って若干の油,水等のダストOLが来た場合でも、軸82の回転時にラビリンスシール部89を備えた回転体88も共回りすることから、遠心力の作用により油や水等のダストOLをふり切る効果を奏し、磁性流体シール部80Aへの油や水等のダストOLの侵入を防止することができ、機内側Lからのオイルミストやグリースおよび機外側Aからの油,水等のシールを可能とすることができる。
【0012】
しかし、従来技術3では、ミストや液体をシールすることができるものの、従来技術1及び従来技術2と同様、その構造からしてシール部分の組立時にポールピース84の部分に磁性流体87を注入することはできない。また、シール部分を装置に組込んだ後に、磁性流体87を外方から注入するには、回転体88が邪魔になり困難であるという問題があった。
また、従来技術3では、従来技術1及び従来技術2と同様、シール部品の交換について考慮されていないため、部品の交換が難しいという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−317916号公報
【特許文献2】特開平7−111026号公報
【特許文献3】実開平6−71969号公報
【特許文献4】国際公開第2010/004935号パンフレット
【特許文献5】特開2010−110256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来技術の有する問題を解決するためになされたものであって、ダスト、ミスト及び液体のシールが可能であり、磁性流体の漏洩を防止し、さらに、装置への組立及び部品交換が容易であるとともに、磁性流体の封入が容易なユニット化されたカートリッジタイプの磁性流体を利用したシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するために本発明の磁性流体を利用したシール装置は、第1に、互いに同心的で相対回転自在に組み付けられる2部材間の隙間を封止するものであって、
前記2部材のうち径方向外側の部材に配置された磁力を発生する磁力源と、
前記磁力源の両側に配置された一対の磁極部材と、
前記磁力源の磁力によって、前記2部材間に磁気的に保持されて、前記隙間を密封する磁性流体と、
を有する磁性流体シール部を備えたシール装置において、
前記2部材のうちの径方向内側の部材の外周面に固定され、内側の部材と共回りするフランジ付きスリーブを、前記一対の磁極部材に対向して設け、前記磁力源の径方向内側と一対の磁極部材とで形成される環状空間にパッキンを配置し、 前記パッキンは、前記フランジ付きスリーブの外周面に摺動するように前記環状空間に設けられており、前記磁性流体シール部、パッキン及びフランジ付きスリーブがユニット化されていることを特徴としている。
【0016】
第1の特徴により、ダスト、ミスト及び液体のシールが可能であるとともに、磁性流体の漏洩を防止し、さらに、装置への組立及び部品交換が容易であるとともに、磁性流体の封入が容易なカートリッジタイプの磁性流体を利用したシール装置を提供することができる。
【0017】
また、本発明の磁性流体を利用したシール装置は、第2に、第1の特徴において、第前記フランジ付きスリーブは、円筒状のスリーブ本体部と、前記スリーブ本体部の機外側に設けられる外向きフランジ部と、機内側に設けられる内向きフランジ部及び外向きフランジ部から構成されることを特徴としている。
【0018】
第2の特徴により、外向きフランジ部で漏洩する磁性流体を防止することができる。また、内向きフランジ部で内側の部材に対して確実に位置決め及び装着を行うことができる。
【0019】
また、本発明の磁性流体を利用したシール装置は、第3に、第2の特徴において、前記フランジ付きスリーブのスリーブ本体部、機外側の外向きフランジ部及び機内側の内向きフランジ部は一体に形成され、機内側の外向きフランジ部は別体に形成されることを特徴としている。
また、本発明の磁性流体を利用したシール装置は、第4に、第2の特徴において、前記フランジ付きスリーブのスリーブ本体部及び機内側の内向きフランジ部は一体に形成され、機外側の外向きフランジ部及び機内側の外向きフランジ部は別体に形成されることを特徴としている。
また、本発明の磁性流体を利用したシール装置は、第5に、第2の特徴において、前記フランジ付きスリーブのスリーブ本体部と、機外側の外向きフランジ部、機内側の外向きフランジ部及び機内側の内向きフランジ部とは別体に形成されることを特徴としている。
【0020】
第3ないし第5の特徴により、フランジ付きスリーブの製作が容易であり、また、機内側の外向きフランジ部を後付することにより、シール装置の組立てを容易に行うことができる。
【0021】
また、本発明の磁性流体を利用したシール装置は、第6に、第2ないし第5のいずれかの特徴において、前記フランジ付きスリーブのスリーブ本体部及び機外側の外向きフランジ部は磁性材料で形成され、機内側の外向きフランジ部は非磁性材料で形成されることを特徴としている。
【0022】
第6の特徴により、万一、衝撃などで漏れ出した磁性流体を外向きフランジ部の先端でトラップすることができる。また、機内側Lの外向きフランジ部付近においては漏れ出してきた磁性流体をトラップすることができないが、磁性流体の漏れ防止の役割を果たすことができ、漏れが防止された機内側Lの外向きフランジ部付近にある磁性流体は、多少の時間はかかるものの磁極部材の内周側端部に生じる強い磁場に引きつけられて戻される。
【0023】
また、本発明の磁性流体を利用したシール装置は、第7に、第2ないし第6のいずれかの特徴において、前記フランジ付きスリーブの機外側の外向きフランジ部及び機内側の外向きフランジ部の外縁に磁極部材側に向けて折り曲げられた折曲部が設けられることを特徴としている。
【0024】
第7の特徴により、磁力源、一対の磁極部材及び磁性流体からなる磁性流体シール部並びにXリングと、フランジ付きスリーブとの相対的な移動を防止することができる。トラック輸送などにおいて強い衝撃を受けた場合でも、磁性流体シール部及びXリングとフランジ付きスリーブとがずれることはないため、特別な梱包部材を準備する必要はなく、梱包作業も容易に行うことができる。
【0025】
また、本発明の磁性流体を利用したシール装置は、第8に、第1ないし第7のいずれかの特徴において、前記磁力源とパッキンとの間には非磁性材料からなる隔壁が設けられることを特徴としている。
【0026】
第8の特徴により、磁極部材の平行度を出すことができ、また、パッキンに適切な締め代を持たせるための位置決めを確実に行うことができる。
【0027】
また、本発明の磁性流体を利用したシール装置は、第9に、第1ないし第8のいずれかの特徴において、パッキンがXリングからなることを特徴としている。
【0028】
第9の特徴により、パッキンの摺動部近傍に潤滑剤としての磁性流体を保持することができるため、密封及び潤滑を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)2部材のうちの径方向内側の部材の外周面に固定され、内側の部材と共回りするフランジ付きスリーブを、一対の磁極部材に対向して設け、磁力源の径方向内側と一対の磁極部材とで形成される環状空間にパッキンを配置し、パッキンは、フランジ付きスリーブの外周面に摺動するように環状空間に設けられており、磁性流体シール部、パッキン及びフランジ付きスリーブがユニット化されていることにより、ダスト、ミスト及び液体のシールが可能であるとともに、磁性流体の漏洩を防止し、さらに、装置への組立及び部品交換が容易であるとともに、磁性流体の封入が容易なカートリッジタイプの磁性流体を利用したシール装置を提供することができる。
【0030】
(2)フランジ付きスリーブが、円筒状のスリーブ本体部と、前記スリーブ本体部の機外側に設けられる外向きフランジ部と、機内側に設けられる内向きフランジ部及び外向きフランジ部から構成されることにより、外向きフランジ部で漏洩する磁性流体を防止することができる。また、内向きフランジ部で内側の部材に対して確実に位置決め及び装着を行うことができる。
また、フランジ付きスリーブのスリーブ本体部、機外側の外向きフランジ部、機内側の外向きフランジ部及び機内側の内向きフランジ部を、一体又は別体で形成することにより、フランジ付きスリーブの製作が容易であり、また、機内側の外向きフランジ部を後付することにより、シール装置の組立てを容易に行うことができる。
(3)フランジ付きスリーブのスリーブ本体部及び機外側の外向きフランジ部は磁性材料で形成され、機内側の外向きフランジ部は非磁性材料で形成されることにより、万一、衝撃などで漏れ出した磁性流体を外向きフランジ部の先端でトラップすることができる。また、機内側Lの外向きフランジ部付近においては漏れ出してきた磁性流体をトラップすることができないが、磁性流体の漏れ防止の役割を果たすことができ、漏れが防止された機内側Lの外向きフランジ部付近の磁性流体は、多少の時間はかかるものの磁極部材の内周側端部に生じる強い磁場に引きつけられて戻される。
【0031】
(4)フランジ付きスリーブの機外側の外向きフランジ部及び機内側の外向きフランジ部の外縁に磁極部材側に向けて折り曲げられた折曲部が形成されることにより、磁力源、一対の磁極部材及び磁性流体からなる磁性流体シール部並びにXリングと、フランジ付きスリーブとの相対的な移動を防止することができる。トラック輸送などにおいて強い衝撃を受けた場合でも、磁性流体シール部及びXリングとフランジ付きスリーブとがずれることはないため、特別な梱包部材を準備する必要はなく、梱包作業も容易に行うことができる。
(5)磁力源とパッキンとの間には非磁性材料からなる隔壁が設けられることにより、磁極部材の平行度を出すことができ、また、パッキンに適切な締め代を持たせるための位置決めを確実に行うことができる。
(6)パッキンがXリングからなることにより、パッキンの摺動部近傍に潤滑剤としての磁性流体を保持することができるため、密封及び潤滑を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る磁性流体を利用したシール装置を機器に装着した状態を示す模式的断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る磁性流体を利用したシール装置を示す模式的断面図であって、(a)、(b)及び(c)の3つの態様を示すものである。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る磁性流体を利用したシール装置の要部の磁場解析の結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態2に係る磁性流体を利用したシール装置を示す模式的断面図であって、(a)及び(b)の2つの態様を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係る磁性流体を利用したシール装置を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0034】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の実施の形態1に係る磁性流体を利用したシール装置を機器に装着した状態を示す模式的断面図である。
磁性流体を利用したシール装置1(以下、単に「シール装置」ということがある。)は、機外側A(例えば、大気側 )及び機内側L(例えば、釣用リールの内部側)の2領域間にまたがる回転軸2と支持部材3との間に備えられる。
支持部材3は、非磁性体であり、回転軸2の保持及び密封を行う円筒部4と、円筒部4の機外側Aに、シール装置1を保持するフランジ部5を備えている。
支持部材3の円筒部4と回転軸2との間にはベアリング11、11が設けられ、回転軸2を回転自在に支持している。
【0035】
支持部材3のフランジ部5は、半径方向に拡がる円盤状部5−1と軸方向に延びる大径円筒部5−2からなり、円盤状部5−1と大径円筒部5−2とで形成されるフランジ部の環状空間6にシール装置1が収容される。
支持部材3の大径円筒部5−2の外周面には雄螺子部7が形成され、この雄螺子部7に断面L型の押さえリング8が螺合するようになっている。押さえリング8とシール装置1の機外側A側面との間には円環状のスペーサ9が配置されるようになっており、押さえリング8を軸方向に締め付けると、シール装置1はスペーサ9を介して機外側Aから軸方向に押圧される。
【0036】
回転軸2には、ベアリング11、11の軸方向位置、及び、シール装置1の軸方向位置を位置決めするための鍔部10が形成されており、鍔部10の機内側Lにはベアリング11、11が当接して位置決めされ、鍔部10の機外側Aにはシール装置1の後記するフランジ付きスリーブ17が当接して位置決めされるようになっている。
また、回転軸2の機外側Aの端部には雄螺子部12が形成され、雄螺子部12に螺合するナット13によりスペーサ14を介してシール装置1のフランジ付きスリーブ17が回転軸2の鍔部10に対して締め付け固定されるようになっている。
【0037】
図2は、本発明の実施の形態1に係る磁性流体を利用したシール装置1を示す模式的断面図であり、
図2に基づき磁性流体を利用したシール装置1を説明する。
磁性流体を利用したシール装置1は、主として、磁石等の磁力源15、磁力源15の両側に配置される一対の磁極部材16、16、該一対の磁極部材16、16に対向するように回転軸2の外周面に固定され、回転軸2と共回りするフランジ付きスリーブ17、磁力源15の径方向内側と一対の磁極部材16、16とで形成される環状空間sに配置され、フランジ付きスリーブ17の外周面に摺動する用に設けられるパッキン18及び磁力源15の磁力によって磁極部材16、16とフランジ付きスリーブ17間に磁気的に保持されて、両者の隙間を密封する磁性流体19とから構成されている。
なお、本発明において、磁力源15、一対の磁極部材16、16、及び磁性流体19から構成される部分を総称して磁性流体シール部という。
【0038】
磁力源15は、円環状をしており、軸方向に異極が配される。
磁極部材16は、磁性材料からなり、円環状をしており、半径方向外方の位置に磁力源15を支持し、半径方向内方の位置にパッキン18を収容する環状空間sを形成するようになっており、磁力源15の外周側及び内周側に非磁性材料からなる隔壁20、21を設ける。隔壁20、21は、磁極部材16の平行度を出すため、及び、支持部材3に対する寸法精度を出すためのものであり、また、隔壁21はパッキン18の位置決め(適切な締め代を持たせるための位置決め)の役割を果たすものである。その意味で、外周側の隔壁20は省略することも可能であるが、内周側の隔壁21はパッキン18の位置決めを行う上で必須のものである。
【0039】
フランジ付きスリーブ17は、製作上及び組立上の要請から、分割して形成されるものであって、円筒状のスリーブ本体部22と、該スリーブ本体部22の機外側Aに設けられる外向きフランジ部23と、機内側Lに設けられる内向きフランジ部24及び外向きフランジ部25から構成される。
図2(a)では、フランジ付きスリーブ17のスリーブ本体部22、機外側Aの外向きフランジ部23及び機内側Lの内向きフランジ部24は一体に形成され、機外側Aの外向きフランジ部25は別体に形成され、機内側Lの外向きフランジ部25は、磁力源15、一対の磁極部材16、16及びパッキン18がスリーブ本体部22に嵌入された後、溶接等の手段で固着される。
【0040】
図2(b)では、フランジ付きスリーブ17のスリーブ本体部22及び機内側Lの内向きフランジ部24は一体に形成され、機外側Aの外向きフランジ部23及び機内側Lの外向きフランジ部25は別体に形成され溶接等の手段で固着されるものであるが、機外側Aの外向きフランジ部23あるいは機内側Lの外向きフランジ部25のいずれか一方を先に固着しておき、他方は、磁力源15、一対の磁極部材16、16及びパッキン18がスリーブ本体部22に嵌入された後、固着される。
また、
図2(c)では、フランジ付きスリーブ17のスリーブ本体部22と、機外側Aの外向きフランジ部23、機内側Lの外向きフランジ部25及び機内側Lの内向きフランジ部24とは別体に形成され、後に、溶接等の手段で一体的に固着されるものであるが、機外側Aの外向きフランジ部23あるいは機内側Lの外向きフランジ部25のいずれか一方を先に固着しておき、他方は磁力源15、一対の磁極部材16、16及びパッキン18がスリーブ本体部22に嵌入された後に固着される。
【0041】
フランジ付きスリーブ17のスリーブ本体部22は、磁気回路の形成のため磁性材料から形成される。そのため、回転軸2は非磁性材料で形成されてもよい。 また、機外側Aの外向きフランジ部23、機内側Lの内向きフランジ部24及び外向きフランジ部25は磁性材料あるいは非磁性材料のいずれで形成されてもよく、さらに、外向きフランジ部23、25は金属材料でなく、ゴム、樹脂などの非金属材料から形成されてもよい。機内側Lの内向きフランジ部24は、フランジ付きスリーブ17の回転軸2への固定のために利用されるものであるから、金属材料から形成されるのが望ましい。
【0042】
外向きフランジ部23、25は、軸方向において磁極部材16の外面と約0.5〜1mm程度の隙間を有するように形成され、磁性流体19の漏れ防止の役目を果たすものである。さらに、磁性流体19が漏れては困る側、例えば、機外側Aの外向きフランジ部23を磁性材料で形成し、万一、漏出してくる磁性流体19を外向きフランジ部23でトラップするようにしてもよい。もちろん、機外側Aの外向きフランジ部23及び機内側Lの外向きフランジ部25を磁性材料で形成して、両側において磁性流体19をトラップするようにしてもよい。
【0043】
パッキン18は、環状をしており、フランジ付きスリーブ17の外周面と摺動して弾性変形することによりミストや液体をシールできるものであればよく、Oリングやグランドパッキンでもよい。
本実施の形態1では、磁性流体19をパッキン18の潤滑剤として利用する観点から、摺動部近傍に磁性流体19を保持するに適したXリングを用いている。
Xリングからなるパッキン18は、断面形状がX型の環状リングであり、環状空間sの断面の有する矩形形状のそれぞれ隅部に向かって突出する4つの突起26、27、28、29を有しており、内周側の突起26と27は、一対の磁極部材16、16とフランジ付きスリーブ17の外周面との隙間に向かって突出しており、また、内周側の突起26と27との間には磁性流体19を保持できる形状の保持溝30が形成されている。突起26、27の両側の磁性流体19は、その表面張力により突起26、27とフランジ付きスリーブ17の外周面との摺動部に浸入し、保持溝30内に貯溜される。そのため、突起26、27とフランジ付きスリーブ17の外周面との摺動部は十分に潤滑される。
【0044】
本実施の形態1に用いる磁性流体19は、粒径約5〜50nm程度の磁性超微粒子を界面活性剤を使用して溶媒や油(基油)中に分散させたもので、磁力線に沿って移動し磁場にトラップされる特性を有する。本実施の形態1の磁性流体を利用したシール装置1において、磁性流体19は、フランジ付きスリーブ17とXリング18の摺動面で作用する潤滑剤として用いられており、Xリング18の摺動寿命を延長させる。また、磁性流体19は、Xリング18とフランジ付きスリーブ17の摺動面における密封性を確保し、また、摺動面付近での発塵を抑制することができる。
【0045】
フランジ付きスリーブ17が回転中心Oを中心として回転する際、磁性流体19は、磁極部材16、16とフランジ付きスリーブ17間に磁気的に保持されて、両者の隙間を密封する。これに加えて、磁性流体19は、Xリング18の突起26、27の先端部付近及び保持溝30内にも多く保持される。このため、磁性流体19は、フランジ付きスリーブ17とXリング18と摺動部の潤滑剤としても好適に作用することができる。
【0046】
図2に示されるように、磁力源15、一対の磁極部材16、16、及び磁性流体19からなる磁性流体シール部、フランジ付きスリーブ17及びXリング18は、通常、工場における製作時に組立られ、磁性流体19の注入も行われて出荷される。
このように、本発明の磁性流体を利用したシール装置は、ユニット化されているところに特徴があり、ユニット化された本発明の磁性流体を利用したシール装置を、他の工場あるいは、現場で装置に取付ける場合には、シール装置1を回転軸2の機外側から挿入し、スペーサ14を介してナット13を締め付けることにより、簡単、かつ、確実に装着することができる。また、交換する場合にも、製作工場でユニット化されたシール装置1を現場に運搬してそっくり交換するだけでよく、磁性流体19の注入を現場において行うというような煩雑な作業も必要ない。
【0047】
図3は、本発明の実施の形態1に係る磁性流体を利用したシール装置の要部の磁場解析の結果を示す図である。
図3の場合、機外側Aの外向きフランジ部23は磁性材料で形成され、機内側Lの外向きフランジ部25は非磁性材料で形成されている。機外側Aの外向きフランジ部23の先端において磁力線は密になっており、磁場の強いことは確認できる。そのため、万一、衝撃などで漏出してきた磁性流体19を外向きフランジ部23の先端でトラップすることができる。機内側Lの外向きフランジ部25付近においては磁力線が粗であるため漏れ出してきた磁性流体19をトラップすることができないが、磁性流体の漏れ防止の役割を果たすことができる。機内側Lの外向きフランジ部25付近に漏れ出た磁性流体は、多少の時間はかかるものの磁極部材16の内周側端部に生じる強い磁場に引きつけられて戻される。
【0048】
〔実施の形態2〕
図4は、本発明の実施の形態2に係る磁性流体を利用したシール装置を示す模式的断面図であって、(a)及び(b)の2つの態様を示している。
実施の形態2に係る磁性流体を利用したシール装置40は、フランジ付きスリーブ41の形状が、実施の形態1に係る磁性流体を利用したシール装置1に備えられたフランジ付きスリーブ17の形状と異なる。しかし、その他の部分は実施の形態1に係る磁性流体を利用したシール装置1と同様であり、実施の形態と1と同様の部材には、実施の形態1と同じ部材番号を付している。
【0049】
フランジ付きスリーブ41は、製作上及び組立上の面から、分割して形成されるものであって、円筒状のスリーブ本体部42と、該スリーブ本体部42の機外側Aに設けられる外向きフランジ部43と、機内側Lに設けられる内向きフランジ部44及び外向きフランジ部45から構成される点で実施の形態1と同じである。
しかし、実施の形態2では、機外側Aの外向きフランジ部43及び機内側Lの外向きフランジ部45の外縁が磁極部材16、16側に向けて折り曲げられた折曲部46、47を有する点で実施の形態1と相違する。
【0050】
図4(a)では、フランジ付きスリーブ41のスリーブ本体部42及び機内側Lの内向きフランジ部44は一体に形成され、機外側Aの外向きフランジ部43及び機内側Lの外向きフランジ部45は別体に形成されて溶接等の手段で固着されるものであるが、機外側Aの外向きフランジ部43あるいは機内側Lの外向きフランジ部45のいずれか一方を先に固着しておき、他方は、磁力源15、一対の磁極部材16、16及びパッキン18がスリーブ本体部22に嵌入された後、固着される。
【0051】
図4(b)では、フランジ付きスリーブ41のスリーブ本体部42、機外側Aの外向きフランジ部43及び機内側Lの内向きフランジ部44は一体に形成され、機内側Lの外向きフランジ部45は別体に形成されて溶接等の手段で固着されるものであるが、磁力源15、一対の磁極部材16、16及びパッキン18をスリーブ本体部42に嵌入後に行われる。
【0052】
外向きフランジ部43及び外向きフランジ部45の折曲部46、47は、磁力源15、一対の磁極部材16、16、及び磁性流体19からなる磁性流体シール部及びXリング18と、フランジ付きスリーブ41との相対的な移動を防止するためのものである。
Xリング18とフランジ付きスリーブ41とはきつく嵌合しているため、強い衝撃などを受けない限り、摩擦力によりずれることはない。しかし、ユニット化されたシール装置40のトラック輸送などにおいて強い衝撃を受けた場合、実施の形態1のように機外側Aの外向きフランジ部23、25と磁極部材16、16との間に隙間が存在すると、磁性流体シール部及びXリング18とフランジ付きスリーブ41とがずれる可能性がある。
実施の形態2のように、外向きフランジ部43、45の外縁に折曲部46、47が設けられていると、磁性流体シール部及びXリング18とフランジ付きスリーブ41とがずれることはない。したがって、特別な梱包部材を準備する必要はなく、梱包作業も容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
1 シール装置(実施の形態1)
2 回転軸
3 支持部材
4 円筒部
5 フランジ部
5−1 円盤状部
5−2 大径円筒部
6 フランジ部の環状空間
7 雄螺子部
8 押さえリング
9 スペーサ
10 鍔部
11 ベアリング
12 雄螺子部
13 ナット
14 スペーサ
15 磁力源
16 磁極部材
17 フランジ付きスリーブ
18 パッキン
19 磁性流体
20 隔壁
21 隔壁
22 円筒状のスリーブ本体部
23 機外側の外向きフランジ部
24 機内側の内向きフランジ部
25 機内側の外向きフランジ部
26 パッキンの突起
27 パッキンの突起
28 パッキンの突起
29 パッキンの突起
30 保持溝
40 シール装置(実施の形態2)
41 フランジ付きスリーブ
42 スリーブ本体部
43 機外側の外向きフランジ部
44 機内側の内向きフランジ部
45 機内側の外向きフランジ部
46 折曲部
47 折曲部
A 機外側
L 機内側
O 回転中心
s 環状空間