(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748156
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】燃焼エンジンシリンダ内で往復移動するように配置されたピストン
(51)【国際特許分類】
F02B 23/10 20060101AFI20150625BHJP
F02F 3/26 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
F02B23/10 V
F02F3/26 B
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-553226(P2012-553226)
(86)(22)【出願日】2011年2月18日
(65)【公表番号】特表2013-519834(P2013-519834A)
(43)【公表日】2013年5月30日
(86)【国際出願番号】EP2011000779
(87)【国際公開番号】WO2011101154
(87)【国際公開日】20110825
【審査請求日】2014年1月20日
(31)【優先権主張番号】1000163-4
(32)【優先日】2010年2月18日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】502196511
【氏名又は名称】ボルボ テクノロジー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(72)【発明者】
【氏名】エイスマーク,ヨーン
(72)【発明者】
【氏名】バルタザール,ミヒャエル
【審査官】
山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−228821(JP,A)
【文献】
実開昭62−122129(JP,U)
【文献】
特開昭59−079033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/10
F02F 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼エンジンシリンダ(2)内で下死点位置と上死点位置の間を往復移動するように配設されたピストン(3)であって、
前記ピストンは、燃焼室(7)に面した上面を含むピストンクラウン(16)を含み、前記ピストンクラウン(16)は、外側に開口する空洞によって形成されるピストンボウルを含み、前記ピストンボウルは、凹曲線状の断面を有する、外方にフレア状の外側ボウル部(20)を含み、燃焼室に給気を供給する少なくとも一つの吸気ポート(10,12)が設けられ、前記燃焼室の幾何学的中心(15)近くの位置から燃焼室内に燃料を噴射する噴射装置(13)が設けられ、前記外側ボウル部内には、発達する火炎柱の衝突領域が存在し、前記衝突領域の間の実質的な中間部において、前記往復移動に対して実質的に垂直な平面に、燃焼室内に突出し、且つ、火炎柱の運動エネルギを保存するように適合された滑らかな形態を有する突起(70)が配設され、前記突起(70)は、前記往復移動に対して実質的に平行な平面、又は平行に近い状態の平面において外側ボウル領域内にのみ延びる長手隆起の形状をそれぞれ有し、前記隆起は、前記往復移動に対して垂直な平面において見たときに、左横腹部(80)と、頂部区間(81)と、右横腹部(82)とを含み、前記突起(70)は、周方向火炎の発達方向を変更して、火炎と火炎の相互作用が最小であるピストンの中心軸(15)に主に向かう方向に変えるように設けられ、遷移区間(83)が、前記横腹部のそれぞれと、前記頂部区間との間に設けられ、
前記遷移区間(83)は、前記突起(70)からの前記火炎柱の分離位置を固定するための偏向エッジ(71)を含む、ピストン。
【請求項2】
前記横腹部(80,82)はそれぞれ側面(84)を有し、前記頂部区間(81)は頂面(85)を有し、
側面の接線(87)と頂面の接線(88)の間の離れ角(86)は、前記側面のそれぞれが前記頂面と突き当たって前記偏向エッジを形成する前記遷移区間(83)において、90度と160度の間である、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記離れ角(86)は、120度と150度の間である、請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
偏向角度(88)が、突起の中心線と平行なライン(89)と前記側面の接線(87)の間の角度として定義される、請求項2又は3に記載のピストン。
【請求項5】
前記偏向角度(88)は、−30度と+30度の間である、請求項1乃至4のいずれかに記載のピストン。
【請求項6】
異なる値の偏向角度(88)は、異なる値の離れ角(86)と組み合わせることができる、請求項4又は5に記載のピストン。
【請求項7】
前記往復移動に対して垂直な平面において見たときに、前記横腹部(80,82)は、第1半径(Rs)を有する凹曲面形状であり、前記頂部区間(81)は、第2半径(Rt)を有する凸曲面形状である、請求項1乃至6のいずれかに記載のピストン。
【請求項8】
前記偏向エッジ(71)は、前記隆起が延びている範囲全体に設けられる、請求項1乃至7のいずれかに記載のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼機関内の燃焼プロセスを制御する装置に関する。本発明は、シリンダ内で生成された圧縮熱によって燃料/シリンダガスの混合物が点火される燃焼機関において、特に煤煙の排出を低減すると共に、一酸化炭素及び炭化水素も低減する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
煤煙粒子(すなわち、粒子状物質)は、燃焼中に形成されて、引き続き二酸化炭素(CO
2)に酸化し得る生成物である。排気ガス内で計測される煤煙粒子の量は、形成された煤煙と酸化した煤煙の純粋な差である。このプロセスは非常に複雑である。多燃料の燃料/空気混合物を用いた燃焼において、高温での混合が不十分であると、多くの煤煙が形成される。形成された煤煙粒子が、良好な酸化速度が得られる十分に高い温度で、酸素原子(O)、酸素分子(O
2)、水酸化物(OH)等の酸化物質と結合できる場合は、より多くの煤煙粒子が酸化し得る。ディーゼルエンジンにおいて、酸化プロセスはその規模が形成と同じオーダーであると考えられ、これは、正味の煤煙産出量が、形成された煤煙の量と酸化した煤煙の量の差であることを意味する。従って、煤煙の正味排出量は、第1に、煤煙の形成を抑制することによって、第2に、煤煙の酸化を促進することによって左右され得る。一酸化炭素排出(CO)及び炭化水素排出(HC)は、通常、ディーゼルエンジンでは非常に少ない。ただし、この割合は、比較的低温の領域又は停滞領域において未燃焼燃料が生じる場合に上昇することになる。極度に冷却される領域は、シリンダ壁の近くに位置する可能性がある。停滞区域が生じ得る場所の例は、2つの発達している火炎柱が衝突する場所、又は一つの発達している火炎柱がピストン壁面と衝突する場所である。
【0003】
窒素酸化物(NOx)は、熱プロセスにおいて、空気中の窒素分から生成されるもので、この熱プロセスは、温度依存性が高く、加熱される容積の大きさ及びプロセスの長さに左右される。
【0004】
燃料が直接シリンダ内に噴射されて、シリンダ内の上昇した温度及び圧力によって点火される燃焼プロセスは、一般に、ディーゼルプロセスと呼ばれている。シリンダ内で燃料が点火されると、シリンダ内に存在する燃焼ガスが、燃焼している燃料と乱流混合して、混合比が制御された拡散炎が形成される。シリンダ内の燃料/ガス混合物の燃焼によって熱が発生することで、シリンダ内のガスが膨張し、その結果、シリンダ内でピストンが移動する。燃料の噴射圧力、シリンダまで再循環される排気ガスの量、燃料の噴射時間、及びシリンダ内に広がる乱流等のいくつかのパラメータに応じて、異なる効率及び異なるエンジン排気値が得られる。
【0005】
次に、火炎を制御することによって煤煙の排出量とNOxの排出量の両方を低減することを目指すと共に、煤煙の排出量と窒素酸化物の排出量の間のよく知られているトレードオフを打破することを試みている最新の装置の例を示す。このトレードオフは、ディーゼルエンジンに特有のものであり、このトレードオフに何らかの作用を及ぼすことは困難である。煤煙の排出量を削減するほとんどの手段は、窒素酸化物の排出量を増やしてしまう。
【0006】
特許文献1は、ピストンと、噴霧/火炎柱を噴射するように設けられた複数のオリフィスを備える燃料噴射器とを含む燃焼室を有する燃焼機関を開示しており、上記噴霧/火炎柱は、噴射のほとんどの期間においてピストン外側ボウル部に衝突する。噴霧/火炎柱の衝突領域の間において、ピストンの往復移動に対して略垂直な平面に、燃焼室内に突出する第1形式の突起が配設される。この第1形式の突起は、火炎の運動エネルギを保存し、且つ、周方向の火炎の発達方向を変えて、火炎と火炎の相互作用が最も少ないピストンの中心軸の方に主に向かわせるための滑らかな形態を有する。第2形式の突起は、衝突領域内に設けられ、火炎の発達方向を変えて、前述の往復ピストン移動に対して略垂直な平面において、火炎とピストン壁面の相互作用が最も少なく、且つ、運動エネルギの損失が最も小さい周方向の火炎発達方向に仕向けるように適合される。
【0007】
前述した第1形式の突起は、火炎柱における運動エネルギ損失を最低限に抑制するという点では十分に機能するが、従来技術に係る第1形式の突起の形態は、火炎柱の発達を制御するという点では最適なものではない。
【0008】
このため、前述した第1形式の突起(以下、単に「突起」と記す)のより適切な形態を実現する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/058055号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の一つの目的は、従来技術の欠点を克服して、火炎柱の発達を更に最適化するように設計された燃焼室構造を含む内燃機関を提供することである。この目的は、突起の頂部において流動損失が生じる停滞区域を特定し、停滞区域を最小にする形状に突起を形成することによって達成される。
【0011】
本発明の更に他の目的は、火炎柱の主流の制御におけるロバスト性を改善することである。ロバスト性が向上するのは、火炎柱が燃焼室の中心に向かって発達し続けているときに、その火炎柱の主流が突起から分離する位置についての過敏性が低下するためである。
【0012】
本発明の他の目的は、残留している煤煙の後の酸化を更に促進することである。煤煙を減らすことは、例えばディーゼル等の燃料に関して特に重要である。本発明は、更に、一酸化炭素(CO)の排出量、及び炭化水素(HC)の排出量の削減をもたらす。CO及びHCの削減は、例えば、DME(ジメチルエーテル)等の燃料において特に重要になる。火炎柱の利用可能な運動エネルギのうちのより多くの量を有用な方式で利用して、残留している燃料の酸化量を増やすことができる。これにより、燃焼プロセスの期間が短くなり、その結果、燃料消費量が減少する。
【0013】
本発明の他の目的は、効率を向上させることである。本発明に係る、燃焼室内の突起の設計によって燃焼プロセスが高速になるため、効率が向上する。
【0014】
前述した目的を達成することで、例えば、増大した量の排気ガス再循環を利用する場合の既知の影響を、本発明によって少なくとも部分的に補うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、前述の目的及び他のより具体的な他の目的は、燃焼エンジンシリンダ内で下死点位置と上死点位置の間を往復移動するように設けられたピストンを提供することによって達成できる。ピストンは、燃焼室に面した上面を有するピストンクラウンを含む。ピストンクラウンは、外方に開口した空洞によって形成されるピストンボウルを有し、ピストンボウルは、凹曲面形状の断面を有する外方にフレア状の外側ボウル部を含み、燃焼室に吸気を供給する少なくとも一つの吸気ポートが設けられ、燃焼室の幾何学的中心に近接した位置から燃焼室内に燃料を噴射する噴射装置が設けられ、外側ボウル部内には、発達する火炎柱の衝突領域が存在する。また、衝突領域の間の実質的な中間部において、往復移動と略垂直な平面に、燃焼室内に突出すると共に、火炎柱の運動エネルギを保存するように適合された滑らかな形態を有する突起が設けられ、突起は、往復移動に対して略平行な平面、又は平行に近い状態の平面において外側ボウル領域内にのみ延びる長手隆起の形状をそれぞれ有する。また、隆起は、往復移動に対して垂直な平面において見たときに、左横腹部と、頂部区間と、右横腹部とを含む。また、横腹部と頂部区間との間にそれぞれ遷移区間が設けられる。ピストンは、遷移区間が、
前記突起(70)からの前記火炎柱の分離位置を固定する偏向エッジを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、横腹部はそれぞれ側面を有し、頂部区間は頂面を有し、側面が頂面と当接して偏向エッジを形成する遷移領域において、側面の接線と頂面の接線の間の離れ角は、90度から160度の間である。更に他の実施形態において、離れ角は、120度から150度の間である。
【0017】
本発明の更に他の実施形態によれば、偏向角度が、突起の中心線に平行な直線と側面の接線との間の角度として定義される。更に他の実施形態において、偏向角度(88)は、−30度と+30度の間である。異なる値の偏向角度は、異なる値の離れ角と組み合わせることができる。
【0018】
本発明の他の実施形態において、往復移動に対して垂直な平面において見たときに、横腹部は、それぞれ第1半径を有する凹曲面形状であり、頂部区間は、第2半径を有する凸曲面形状である。
【0019】
本発明の更なる実施形態において、偏向エッジは、隆起の伸張部全体に亘って設けられる。
【0020】
本発明の他の実施形態において、突起は、周方向の火炎発達方向を変えて、火炎と火炎の相互作用が最小であるピストンの中心軸の方に主に仕向けるように設けられる。
【0021】
本発明の更に他の有利な実施形態は、特許請求項1に続く従属請求項から明らかになる。
【0022】
次に、本発明について、付属の図面を参照しながらより詳細に説明する。図面には、例示することを目的として、本発明の更に他の好ましい実施形態と共に技術背景も示した。図面は、次のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明を実施できる、燃焼エンジン内の従来のピストン及びシリンダを断面で示す模式的図である。
【
図2a】従来技術に係る
図1のピストンを噴霧/火炎の流れと共に示す、上面の模式図である。
【
図2b】従来技術である
図2aの実施形態の代替となる実施形態を示す模式図である。
【
図3】従来技術に係る突起40を拡大した断面で示す模式図である。
【
図4】本発明に係る突起を拡大した断面で示す模式図である。
【
図5】
図4に開示した突起に係る、半分側を更に拡大した突起の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、ディーゼルプロセスに従って動作するように設計された燃焼エンジン1の模式図を示す。エンジン1は、シリンダ2及びピストン3を含み、このピストン3は、シリンダ2内で往復移動することに加え、クランクシャフト4に接続されるため、ピストン3は、シリンダ2内で上死点位置及び下死点位置において反転するように配設される。また、一般に行われるとおり、シリンダ空洞の一方の端部は、エンジンシリンダヘッド14によって閉じられている。ピストン3には、その上面5にピストンボウル6が設けられ、ピストンボウル6は、シリンダヘッド14の内面21及びシリンダ2の壁面と一緒に燃焼室7を形成する。シリンダヘッド14内に、一つ以上の吸入ポート9が配置される。個々の吸入ポート9とシリンダ2の間の連結部は、各吸入ポート9に設けられた吸入弁10を用いて開閉することができる。シリンダヘッド内には、一つ以上の排気ポート11も配置される。個々の排気ポート11とシリンダ2の間の連結部は、各排気ポート11に設けられた排気弁12を用いて開閉できる。弁10及び11の開閉は、機械式カムや、液圧作動システムや、他の動力システムによって、ピストン3の往復移動に合わせて厳密に制御された時間シーケンスで実現できる。
【0025】
シリンダヘッド14には、少なくとも一つの燃料噴射装置13が配設され、この燃料噴射装置13からシリンダ2内に燃料噴霧として燃料が噴射されるため、燃料は、シリンダ2内で圧縮されたガスと混合して燃料/ガス混合物を形成し、この混合物がシリンダ2内に生じる圧縮熱によって点火される。噴霧のうちの点火した部分が火炎柱を形成する。噴射中、新たに噴射された燃料が存在する噴射装置に最も近い部分の噴霧は、まだ燃焼し始めていない。燃料は、極めて高い圧力で噴射されることが好ましい。噴射装置13は、当該噴射装置13のノズルアセンブリの下部端に形成された複数の小さい噴射オリフィス(図示せず)を含むことで、高圧燃料が噴射装置13のノズル空洞から燃焼室7に非常に高い圧力で流入できるようにして、燃料と、燃焼室7内の高温の圧縮給気との完全な混合を誘導する。噴射装置13は、複数の噴射装置オリフィスから燃焼室7内に、後述する方式で高圧燃料を噴射できる任意のタイプの噴射装置であってよいことは理解されよう。また、噴射装置13は、噴射装置本体に収容されて機械駆動され、プランジャアセンブリの前進行程中に前述の高い圧力を発生させるプランジャを含むことができる。これに代えて、噴射装置13は、一つ以上の圧力ポンプ、高圧アキュムレータ、及び燃料散布機のうちの少なくともいずれかを含むポンプ回路ノズルシステム等のように、上流の高圧源から高圧燃料を受け取ってもよい。噴射装置13は、電子作動式の噴射制御弁を含むことができ、この噴射制御弁は、ノズル弁装置に高圧燃料を供給してノズル弁体を開く、又は、ノズル弁空洞からの高圧燃料の排出を制御して、ノズル弁体に圧力不均衡状態を発生させることで、ノズル弁体を開閉して、噴射事象を形成する。例えば、ノズル弁体は、燃料の圧力で駆動され、ばねに付勢されて閉じる従来のノズル弁体であってよい。燃料噴射装置13は、その燃料噴射装置の幾何学的中心軸がシリンダの幾何学的中心軸15と一致するように、シリンダヘッド内の中央部に配置されることが好ましく、シリンダの幾何学的中心軸も、
図1に示すように、ピストン3の往復移動の軸である。
【0026】
図1に示した燃焼エンジン1は、4行程及び/又は2行程の原理で動作できる。エンジン1は、好ましくはそれぞれにピストン3が設けられた複数のシリンダ2を含み、その各ピストン3は、連結棒によって共通のクランクシャフト4に連結されるため、エンジンクランクシャフト4の回転に伴い、ピストンは、シリンダ2内で直線経路に沿って往復移動する。
【0027】
図1は、上死点(TDC:Top Dead Center)位置の約45度手前のピストン3の位置を示す。TDC位置に到達するのは、クランクシャフトの回転軸から最も離れる位置にピストンを移動する場所にクランクシャフトが位置したときである。従来の方式において、ピストンは、吸気行程から爆発行程に進んだときに、上死点位置から下死点位置(BDC:Bottom Dead Center)に移動する。本開示の便宜上、「上部」及び「上方」という用語は、エンジンクランクシャフトから離れる方向に対応し、「下部」及び「下方」という用語は、エンジンのクランクシャフト又はピストンの下死点位置に向かう方向に対応する。
【0028】
最上部のTDC位置において、ピストン3は上方に向かう圧縮行程を完了し、この圧縮行程中、吸入ポート9から燃焼室7に進入できた給気が圧縮されることで、給気の温度がエンジンの燃料の点火温度より上まで上昇する。この位置は、本明細書において、ピストン3の全720度の4行程サイクルのうちの膨脹/燃焼行程を開始する360度の位置であると見なす。燃焼室に導入される給気の量は、エンジンの吸気マニホルド内に増圧器を設けることによって増やすことができる。この増圧器は、例えば、エンジンの排気を動力源とするタービンによって駆動されるか、又はエンジンのクランクシャフトによって駆動され得るターボ過給機(図示せず)によって提供されてよい。増圧器は、2段ターボ過給機、ターボ複合機構等によって提供されてもよい。
【0029】
ピストン3の上方部分は、ピストンクラウン16と呼ぶことできる。ピストンクラウン16は、燃焼室7の一部を構成する上面5と、上方に開口する空洞によって形成されるピストンボウル6とを含む。ピストンボウル6は、ボウル6の中央部又は中央部近くに配置されると好ましい突出部17を含む。突出部17は、
図1に示した好ましい実施形態では、ピストンボウル3の中央部に配置されるため、ピストン3の往復の軸15に沿って位置する遠位端18を含む。また、突出部17は、
図1に示すようにピストン3の往復移動の軸に垂直な平面に対して内側ボウル底面角度αで、突出部17から下方に延びる内側ボウル底面部19も含む。外側ボウル部20は、特定の半径R
1を有し、半径CR
1の中心に対して特定の位置になるように設計される。
【0030】
図2aに、外側ボウル6の円周に沿って均一に分配された第1形式の突起40のみを備える従来技術の実施形態を示す。この第1形式の突起は、2つの隣接する火炎柱(
図2a及び
図2bに2つの最大の矢印で図示)の衝突領域41の間のほぼ中央に配置される。
【0031】
従来技術によれば、第1形式の突起は、垂直方向に延びる隆起の形状を有し、
図2a及び
図2bにおいて、突起40は、上方から見た断面で示されている。
【0032】
好ましくは、第1形式の突起40の隆起は、衝突領域の長さに対応する長さで延びる。従って、第1形式の突起の隆起は、第1衝突ポイントと共通の第1水平面に位置する第1位置から、第2衝突ポイントと共通の第2水平面に位置する第2位置まで少なくとも延びる。前述した水平面は、ピストン3の往復移動、又はシリンダの幾何学的中心軸15に対して垂直である。
【0033】
隆起の底面幅43の半分は、例えば、外側ボウル部の円形形状に沿った噴霧区画距離42全体の約3分の1まで延長できる。
【0034】
図2bに、第1形式の突起と、第2形式の突起50とを有する実施形態を示す。この第2形式の突起は、火炎の水平移動、又は実質的に水平な移動(噴射された火炎柱が水平面に対してどの程度傾斜しているかによって異なる)の方向を、外側ボウル領域(衝突領域)から接線方向に変化させる。
【0035】
従来技術によれば、燃焼室構成要素及び特徴物(突起を含む)の全体寸法、形状、及び相対位置の少なくともいずれかは、燃料噴霧/燃焼しているシリンダガス火炎の運動量が、噴射装置からの経路上で可能な限り保存されるように形成できる。
【0036】
また、燃焼室構成要素及び特徴物の寸法、形状、及び相対位置の少なくともいずれかは、燃料噴霧/火炎柱の垂直方向(主に上向き)の運動量と接線方向の運動量(軸15に垂直な平面に向かう方向の運動量)の間に所定のレベルの均衡状態が得られるように形成できる。
【0037】
本発明は、特に、軸15に向かう火炎柱の水平移動の方向変更、すなわち、火炎が、外側ボウルに向かって送られる方向から接線方向に向かうように方向を変える際の方向変更、及び接線方向の移動から軸15に向かって送り出される移動への更なる方向変更を強化するために為されたものである。これらの方向変更については、上から見た状態が
図2a及び
図2bに示されている。
【0038】
本発明のエンジンは、下記で説明するように、粒子状物質(PM)を更に有利に削減しながら燃料経済性を維持するように形成された突起を含む。本発明は、特に、煤煙の排出量を削減することを目指すものである。煤煙は、PMの一部である。本発明の突起は、火炎柱の流れの制御におけるロバスト性を向上させる。突起の頂部の上方での多燃料燃焼区域の望ましくない混合を低減できる。
【0039】
図3に、従来技術に係る突起40の一つを開示する。前述したように、突起40は、長手隆起の形状を有し、この隆起は、往復移動に対して実質的に平行な平面、又は平行に近い(例えば、往復移動、又はシリンダの幾何学的中心軸15から1〜30度だけ外れてよい)状態の平面において外側ボウル領域内にのみ延びる。隆起は、往復移動に平行な平面において見たときに、左横腹部60、頂部区間61、及び右横腹部62を含む。遷移区間63は、前述の各横腹部と頂部区間との間の区間であると定義できる。矢印64は、シリンダの幾何学的中心軸15に垂直な平面において、方向変更された火炎柱の主流が、突起の両側からそれぞれ発達して、シリンダの幾何学的中心軸15(
図3、
図4、及び
図5には記載せず)に主に向かう方向に発達し続ける様子を示したものである。従来技術によれば、主流64の円滑な方向変更は、流動損失を最小化することによく適合する半径を有する曲線形状に横腹部及び頂部区間を形成することによって達成される。
【0040】
図3を見ると判るように、主流64のいくつかの小部分は、頂部区間61の曲線形状に追従している。従って、未確定の主流分離ポイント、すなわち、主流が横腹部及び/又は頂部区間からいつ、どのように分離するのかについての主流の位置、方向、及び大きさに関して未確定の主流分離ポイントが存在すると言える。また、前述の小部分は、隆起の頂部区間61の真上でその隆起に沿って広がる空間容積66内に流れが停滞するため、これらの小部分は損失流65として定義される。
【0041】
図4に、本発明の実施形態に係る突起70を示す。この突起70は、対応する左横腹部80、右横腹部82、頂部区間81、及び遷移区間83を有する。本発明によれば、遷移区間は、両側にそれぞれ偏向エッジ71を含む。この偏向エッジの作用の一つは、突起からの主流の分離を偏向エッジにおいて固定することである。このため、火炎柱主流の発達の制御が向上する。主流が突起から分離する位置を更に固定的なものにすることができる。従って、突起からの主流の分離について、固定位置が定義されたことになる。
【0042】
また、2つの隣接する突起の横腹部は、本発明の一実施形態において、一つの扇形区画(
図2aの42に該当)の約3分の1に達することができる。換言すると、突起と突起の間の扇形区画の1/3は、前述の横腹部を含まない。更に他の実施形態において、横腹部は、一つの扇形区画の2分の1において互いにちょうど接する程度、すなわち、2つの隣接する突起のちょうど真ん中まで達することができる。
【0043】
図5に、
図4の突起70の半分を示す。図において、横腹部80は、往復移動に対して垂直な平面において、第1半径Rsを有する凹曲面形状に形成され、頂部区間81は、垂直な平面において、第2半径Rtを有する凸曲面形状に形成される。前述の半径Rs及びRtは、滑らかで、且つ、火炎柱の主流74の流動損失を最小化する突起70の表面を形成するように選択される。
【0044】
前述の各横腹部80,82は、側面84を有し、頂部区間81は頂面85を有する。側面と頂面とが一緒に、燃焼室に面する突起70の表面を形成する。
【0045】
半径Rs及びRtは、面84及び85の少なくともいずれかの延長線上において一定である必要はない。半径はいずれも、面に沿って変化しても、又は部分的に変化し、且つ部分的に一定であってもよい。
【0046】
更に他の実施形態において、半径Rtは、上記の面84と面85の間の距離が長くなるように増大されてよい。このことを利用して、一つのサイズのピストン内の突起を拡大/縮小し、噴射装置内の数の異なるノズル穴に適合させることができる。
【0047】
側面の接線87と頂面の接線88の間の離れ角86は、上記の各側面が頂面に突き当たって偏向エッジ71を形成する場所である遷移区間83において、90度から160度までの間隔であってよい。本発明の更に他の実施形態において、離れ角は、120度と150度の間であってもよい。前述した本発明の偏向エッジ71は、隆起すなわち突起70が延びる範囲全体に亘って設けることができる。この離れ角によって、偏向エッジがどのくらい尖鋭であるのかが画定される。より鋭角になるにつれて、より顕著な主流の分離作用が得られる。
【0048】
図5を見ると判るように、偏向角度88は、主流が偏向エッジ71において隆起から離れる際に主流が主に向かう方向を制御する隆起の能力を表す。偏向角度88は、突起の中心線に平行なライン89と、横腹部の形状によって調整される主流の方向、すなわち側面の接線87との間の角度として定義される。偏向角度は、−30度と+30度の間であってよい。
図5の例において、偏向角度は約−10度である。
【0049】
本発明の更に他の実施形態において、異なる値の偏向角度は、異なる値の離れ角と組み合わせることができる。
【0050】
図4に示したように、本発明に係る離れ角によって、頂部区間81の曲線形状に追従する主流74の該当する小部分75が減少する。従って、本発明の利点は、頂部区間81の上方の空間容積76における流れの停滞が最小限に抑えられることである。また、本発明の突起70は、火炎柱の流れの制御、すなわち主流74の制御におけるロバスト性を向上させる。突起81の頂部の上方における流れの望ましくない乱流及び停滞を低減できる。
【0051】
前述した本発明のピストンは、回転旋盤及び/又はフライス盤等の機械加工によって、若しくは突起を成形する鋳造加工によって、又はその両方で作製できる。
【0052】
本発明は、例えば、ディーゼル、DME(ジメチルエーテル)等の燃料で駆動されるエンジンに利用できる。
【0053】
本発明は、上記に記載した実施形態に限定されると見なされるべきではなく、むしろ、多数の更なる変形及び変更が、付属の特許請求項の範囲内で想到され得る。