(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748169
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】加圧水型原子炉の冷却水に有機化合物を添加するプロセス
(51)【国際特許分類】
G21D 3/08 20060101AFI20150625BHJP
G21D 1/00 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
G21D3/08 G
G21D1/00 WGDP
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-4189(P2010-4189)
(22)【出願日】2010年1月12日
(65)【公開番号】特開2010-243474(P2010-243474A)
(43)【公開日】2010年10月28日
【審査請求日】2012年12月27日
(31)【優先権主張番号】12/414,748
(32)【優先日】2009年3月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ウイリアム エム コナー
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル デビト
【審査官】
山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−151900(JP,A)
【文献】
特開平05−264785(JP,A)
【文献】
特開2008−070207(JP,A)
【文献】
特開2002−055193(JP,A)
【文献】
特開2004−012162(JP,A)
【文献】
特開2002−323596(JP,A)
【文献】
特表2001−516061(JP,A)
【文献】
特開昭59−067373(JP,A)
【文献】
米国特許第04695561(US,A)
【文献】
特表2000−509149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21D 3/08
G21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次回路と炉心を有し、炉心冷却材が一次回路を流れる加圧水型原子炉において、有機化合物を添加して炭素元素を生成させるプロセスであって、
加圧水型原子炉の一次回路を流れる炉心冷却材に十分な量の有機化合物を添加するステップより成り、有機化合物は
炭素及び水素
炭素、水素及び窒素
炭素、水素及び酸素
炭素、水素、窒素及び酸素
より成る群から選択した元素を含み、
十分な量の、反応度を制御するためのホウ酸、還元条件を提供するための水素及びpHを目標制御領域に維持するための添加物並びに炉心冷却材中に自然に存在する微量元素を除き、炉心冷却材には無機化合物が存在しない
ことを特徴とする加圧水型原子炉のためのプロセス。
【請求項2】
等価炭素元素添加率が約1mg/時乃至約10g/時の範囲に維持される請求項1のプロセス。
【請求項3】
炉心冷却材は原子炉の原子炉冷却系内にある請求項1のプロセス。
【請求項4】
有機化合物は有機酸類、アルコール類、アミン類、アルデヒド類、ケトン類及びそれらの混合物より成る群から選択される請求項1のプロセス。
【請求項5】
有機化合物は酢酸、メタノール、エタノール、エチルアミン、エタノールアミン、及びそれらの混合物から成る群から選択される請求項1のプロセス。
【請求項6】
有機化合物は実質的に可溶性である請求項1のプロセス。
【請求項7】
原子炉炉心に重量比で約15乃至約20%の範囲の炭素元素を含有する腐食生成物を付着させる請求項1のプロセス。
【請求項8】
原子炉炉心の放射線レベルは、ガンマ線及び中性子から最大約4000Mrad/時である請求項1のプロセス。
【請求項9】
原子炉炉心の水素濃度を約25乃至約50cc/kgの値に維持することを含む請求項1のプロセス。
【請求項10】
有機化合物の添加を連続式で行なう請求項1のプロセス。
【請求項11】
有機化合物の添加をバッチ方式で行なう請求項1のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般的に、加圧水型原子炉の冷却水中に有機化合物を添加するプロセスに係り、さらに詳細には、加圧水型原子炉の一次回路を流れる冷却水に有機化合物を添加するプロセスに係る。
【背景技術】
【0003】
クラッドは、例えば、原子炉冷却材系(RCS)のような一次回路の構造材料が発電所の稼動時に例えば原子炉冷却水のような原子炉冷却材にさらされると形成される腐食生成物である。これらの腐食生成物はその後、冷却材中に放出され、炉心内の燃料上に付着することがある。炉心のクラッド付着物の厚さが増加すると、その熱伝達はクリーンな表面の熱伝達に比べて低下し、熱伝達表面の温度が上昇して被覆の腐食を増加させる。発電所の稼動期間全体に亘って被覆の健全性を確保するために燃料被覆の腐食を最小限に抑えることが重要である。このことは燃料棒及び原子炉炉心の設計に際しても重要な考慮事項である。クラッドの形成及び炉心へのクラッドの付着を最小限に抑えるために、耐腐食性材料の選択及び化学的抑制添加物並びに発電所の運転方法の開発にあたり、これまで有意な努力が払われてきた。
【0004】
クラッドにより引き起こされる出力シフト(CIPS)は、加圧水型原子炉(PWR)のような商用原子力発電所の反応度制御に用いられる原子炉冷却材添加物であるホウ素(ホウ酸として存在する)が炉心のクラッド付着物中に局部的な中性子束を抑制するほど十分高い濃度に蓄積されると生じることがある。その結果、軸方向出力分布がホウ素付着物から離れる方向にシフトする。種々の商用PWRにおける稼動時のCIPSの発生は、反応による蒸気発生率が最大になると予想される場所に一致するPWR炉心の上方スパンに十分に厚い局部的な腐食生成物が付着することによるとされている。局部的に厚いクラッド付着物は熱伝達を低下させて燃料被覆の温度を増加させることもあり、これがクラッドにより引き起こされる局部的腐食(CILC)、ひいては燃料の破損を引き起こすことがある。
【0005】
照射野を減少し、一般的な腐食抑制を行ない、一次冷却水による応力腐食割れ(PWSCC)を軽減する目的でPWRの冷却材へ可溶性の亜鉛添加物を注入することが行なわれている。PRWシステムでは水が原子炉冷却材として使用される。水は、熱を発生する原子炉を収容した圧力容器と複数の流れループとを含む一次回路、即ちRCS全体にポンプにより循環させられる。一次回路の水は通常、反応度制御のためのホウ酸と、還元条件を提供するための水素と、pHを目標制御領域に維持するための添加物とを含む。PWRで亜鉛添加を行う時、原子炉冷却材に添加される好ましい添加物は酢酸亜鉛であった。酢酸亜鉛の使用は、酢酸陰イオンにより亜鉛が可溶状態で提供され、その陰イオン及びその分解生成物がRCSの構造材料に及ぼす悪影響が最小またはほとんどないことにより望ましいものであった。多数の商用PWR発電所において可溶性の酢酸亜鉛の形で亜鉛を添加することが行われている。
【0006】
PWRの原子炉冷却材に酢酸亜鉛を添加する結果、炉心外の運転停止照射野及び炉心クラッド付着物の種々の特性に望ましい変化が生じることが観察されている。しかしながら、酢酸亜鉛の添加は運転上及び/または設計上の種々の課題を発生させる。冷却水に添加されると炭素元素を生成できる原子炉冷却材添加物を見つけることが望ましい。さらに、炉心クラッド付着物の状態を調整できる原子炉冷却水添加物を見つけることが望ましい。
さらに、クラッド付着物の付着及びその形態に有利な変化を生ぜしめる原子炉冷却材添加物であって、既知の添加物の課題とは無縁の添加物を見つけるのが望ましい。かかる添加物は、水を冷却材として用いる原子炉の炉心設計において世界中の種々の発電所への使用が望ましい。
【0007】
従って、以下の特徴、即ち、(i)形態の変化、例えば、クラッドの粒がより細かくそして/または結晶度が低い、(ii)付着パターンの変化、例えば、クラッドが薄くそして/またはより均等に分布している、(iii)滞留時間の減少、例えば、クラッドの炉心上への滞留時間が短い、(iv)組成の変化、例えば、クラッドが高い炭素含有量を有する、のうちの少なくとも1つを有する炉心クラッド付着物を生ぜしめる炉心クラッド付着物の状態調整プロセスを開発することがさらに望ましい。さらに、CIPS及び/またはCILC、及び/または一般的な被覆腐食及び/または原子炉の燃料破損をなくすプロセスを開発することが望ましい。
【発明の概要】
【0008】
本発明の1つの局面として、一次回路及び原子炉炉心を有する加圧水型原子炉のためのプロセスが提供される。このプロセスは、加圧水型原子炉の一次回路を流れる冷却水に炭素と水素の元素を含む十分な量の有機化合物を添加して炭素元素を生成させることを含む。
【0009】
有機化合物はさらに酸素、窒素及びそれらの混合物より成る群から選択した元素を含んでもよい。
【0010】
等価炭素元素添加率は約1mg/時乃至約10g/時の範囲に維持することができる。
【0011】
冷却水は原子炉冷却水である。原子炉冷却水は原子炉の原子炉冷却系内にある。
【0012】
有機化合物は有機酸類、アルコール類、アミン類、アルデヒド類、ケトン類及びそれらの混合物より成る群から選択することができる。有機化合物は酢酸、メタノール、エタノール、エチルアミン、エタノールアミン、及びそれらの混合物から成る群から選択することができる。有機化合物は実質的に可溶性でよい。
【0013】
このプロセスはさらに、原子炉炉心に重量比で約15乃至約20%の範囲の炭素元素を含有する腐食生成物を付着させることを含む。
【0014】
原子炉炉心の放射線レベルは、ガンマ線及び中性子から最大約4000Mrad/時でありうる。原子炉炉心の水素濃度は0cc/kgより大きいかまたは約25乃至約50cc/kgで良い。
【0015】
有機化合物は連続またはバッチ方式で添加可能である。
【0017】
このプロセスはさらに原子炉炉心に腐食生成物を付着させることを含むが、有機化合物を添加する結果、原子炉炉心のクラッド付着物の形態、付着パターン、滞留時間及び炭素含有率のうちの少なくとも1つを変化させる量の炭素元素が生成される。
【0018】
このプロセスはさらに原子炉炉心に腐食生成物を付着させることを含むが、有機化合物を添加する結果、クラッド誘引出力シフト、クラッド誘引局部腐食、原子炉炉心の被覆腐食及び燃料破損のうちの少なくとも1つを発生させない量の炭素元素が生成される。
【0019】
本発明の別の局面によると、一次回路を有する原子炉のためのプロセスが提供される。このプロセスは、加圧水型原子炉の一次回路を流れる冷却水に炭素と水素の元素を含む十分な量の有機化合物を添加して炭素元素を生成させることを含む。
【0020】
有機化合物はさらに酸素、窒素及びそれらの混合物より成る群から選択した元素を含んでもよい。
【0021】
等価炭素元素添加率は約1mg/時乃至約10g/時の範囲に維持することができる。
原子炉は加圧水型原子炉である。
【0022】
本発明のさらに別の局面によると、原子炉冷却材が循環する原子炉冷却材系を備えた原子炉が提供される。原子炉冷却材は有機添加物を含み、この有機添加物は炭素と酸素の元素を含み、有機添加物は炭素元素を生成させるに十分な量原子炉冷却材中に存在する。
【0023】
有機化合物はさらに、酸素、窒素及びそれらの混合物より成る群から選択した元素を含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲に使用する用語である「CIPS」は、サブクール核沸騰が発生する燃料領域に付着する腐食生成物のホウ素濃度により、炉心の軸方向出力に発生する、予想される値の3%より大きいかそれに等しいシフトを意味する。炉心に付着する厚い腐食生成物に蓄積されるホウ素は中性子束に局部的低下をもたらすことがあるが、これにより出力が軸方向にシフトする。このため原子炉オペレータによる制御が複雑になり、CIPSが厳しい場合、発電所出力が100%定格出力より低い値に制限されることがある。炉心クラッド付着物の厚さが増加するにつれて熱伝達表面の温度が上昇するが、これが一般的な被覆腐食を増加させる。クラッド付着物が局部的に厚いとCILCが発生することがあり、それにより燃料破損が起こる可能性がある。
【0025】
本発明のプロセスは、加圧水型原子炉の冷却水への有機化合物の添加に係る。冷却水は加圧水型原子炉の一次回路を流れる。このプロセスは、冷却水中を循環しそして/または炉心に薄膜または付着物を形成する腐食生成物(即ち、クラッド)を変性させるように作用する。さらに、冷却水に有機化合物を添加する結果(例えば、原子炉炉心、一次冷却材及び/またはその中の腐食生成物中において)炭素元素が生成される。任意特定の理論に拘束される意図はないが、炭素元素は臨界達成時の原子炉炉心内の高い放射レベルと原子炉冷却材中の溶解水素の濃度とが相俟って添加物から生成されると考えられる。一実施例において、炉心の放射レベルと原子炉冷却材の溶解水素濃度とはそれぞれPRW運転の業界規準内の範囲に維持される。別の実施例では、運転中の原子炉の炉心放射レベルはガンマ線及び中性子の両方から最大役4000Mrad/時になることがある。他の実施例では、原子炉炉心の溶解水素濃度は0(0)cc/kgより高いかまたは約25乃至50cc/kgでありうる。
【0026】
炉心内の照射野は有機分子を放射線分解するが、公称PRW化学抑制仕様の一体的成分として存在する水素による還元条件により、有機的に結合された炭素からの遊離基種の一部が炭素元素として付着すると考えられる。原子炉冷却材に酢酸亜鉛を添加すると炉心外の照射野が低下し、合金600のPWSCCの開始及び伝播が遅くなる結果、炉心クラッド付着物が薄く、粒が小さく、より均一に分布するようになり、炉心滞留時間が短く、炭素含有量が高くなる。本発明では、原子炉冷却材に炭素元素を生成するに十分な量の有機添加物を添加するため、炉心クラッド付着物の形態及び付着パターンが変化する結果、炉心クラッド付着物が薄く、粒が小さく、結晶度が低く、より均一に分布されるようになり
、また、炉心滞留時間が短く、炭素含有量が高くなるが、これは炉心外の酸化物薄膜に及ぼす影響は最小またはほとんどなく、亜鉛の添加なしに得られる。
【0027】
本発明によると、有機化合物は加圧水型原子炉の原子炉冷却材のような冷却水に添加される。適当な有機化合物には、少なくとも炭素及び水素より成る当該技術分野で知られた有機化合物が含まれる。一実施例において、有機化合物は窒素、酸素及びそれらの混合物を含むこともある。かくして、別の実施例では、本発明に使用する有機化合物として、少なくとも炭素と水素、または少なくとも炭素と水素と酸素、または少なくとも炭素と水素と窒素、または少なくとも炭素と水素と酸素及び窒素を含有するものを含むことができる。好ましい実施例において、添加物は冷却水との間で混和性があるか、実質的に可溶性を有する。しかしながら、混和性がないか可溶性がわずかな有機添加物も、添加速度の制御性が劣るのを我慢できるのであれば使用可能である。本発明に使用する適当な有機化合物の非限定的な例として、酢酸のような(それに限定されない)有機酸類、メタノール、エタノールのような(それに限定されない)アルコール類、アルデヒド類、アミン類、ケトン類及びそれらの混合物を含むことができる。それ以外の非限定的な例として、酢酸エチルのような(それに限定されない)少なくとも炭素及び水素と、オプションとして酸素を含む可溶性またはわずかに可溶性の有機化合物、エチルアミン及びエタノールアミンのような(それらに限定されない)有機アミンを含む少なくとも炭素及び水素と、オプションとして窒素を含む可溶性またはわずかに可溶性の有機化合物が含まれる。一実施例において、PWRの原子炉冷却材への任意の添加物として不純物を合理的に実現可能な低レベルに制限する業界標準仕様に合致する高純度の有機化合物が用いられる。
【0028】
冷却水への有機化合物の添加は、例えば注入のような(それに限定されない)公知の種々のやり方で行うことが可能である。添加は、例えばバッチ方式または連続方式で行うことができる。非限定的な実施例において、有機化合物は原子炉冷却材に連続的に注入される。さらに、非限定的な実施例において、注入は出力運転時に実施可能である。原子炉冷却材への有機化合物への注入は炭素元素を生成させるに十分な速度で行われる。一実施例において、有機化合物の注入速度は前述したように炉心クラッド付着物の形態及び付着パターンを変化させる量炭素元素を生成させるに十分な大きさである。一実施例において、原子炉冷却材への有機化合物の注入は、等価炭素元素添加速度を約1mg/時乃至約10g/時の範囲に維持するに十分な速度で行われる。この特定の範囲内の速度での有機化合物の注入は、重量比で約15乃至約20%の範囲の炭素元素を含有する腐食生成物付着物を原子炉の炉心に生成させるに十分である。
【0029】
任意特定の理論により拘束される意図はないが、原子炉炉心の被覆及び成長途上の炉心クラッド付着物上への炭素元素の付着はCIPS/CILCの発生リスクを軽減しそして/または燃料被覆の一般的腐食及び燃料破損を減少させるような好ましい影響を炉心クラッド付着物の形態及び付着パターンに与える。有機添加物が存在することにより、CIPS/CILCが発生する可能性を最小限に抑え且つ燃料被覆の一般的腐食及び燃料破損を減少させるように炉心クラッドの保持及び放出が調整され制御されると考えられる。例えば、出力運転時に、炭素元素が有効な量、または有効な速度、もしくは所定の特定範囲内で生成する速度で原子炉冷却材に有機化合物を注入すると、例えば、(i)形態の変化、例えば、クラッドの粒がより細かくそして/または結晶度が低い、(ii)付着パターンの変化、例えば、クラッドが薄くそして/またはより均等に分布している、(iii)滞留時間の減少、例えば、クラッドの炉心上への滞留時間が短い、(iv)組成の変化、例えば、クラッドが高い炭素含有量を有する、というような(それに限定されない)少なくとも1つの特性を有する炉心クラッド付着物が生成される。これらの変化は、公称PWR原子炉冷却材化学的作用条件の下で生成される炉心腐食生成物の付着物と対比される。
【0030】
酢酸亜鉛添加の評価
酢酸亜鉛の添加は、”Pressurized Water Reactor Primary Water Zinc Application Guidelines”, EPRI, Palo Alto, CA:2006.1013420に論じされているように、多くのPWRにおいて、炉心外の照射野を低下させ、RCSの圧力境界だけでなくRCS内の構造コンポーネントの構成にも使用されるオーステナイトステンレス鋼及びニッケル系合金にPWSCC保護を与えるために用いられている。Evaluation of Zinc Addition to the Primary Coolant of PWRs, EPRI, Palo Alto, CA, October 1996, TR-106358, Vol. 1に記載されるように、サイクル10の間プラントAで最初に亜鉛が添加された後、燃料交換による運転停止時に炉心を可視検査した結果、均一に見える黒色付着物が燃料集合体の高さ全体を覆っていることが判明した。これらの燃料集合体から削り取ったクラッドの試料を測定したところ、クラッド付着物は、最大のサブクール核沸騰が予想され且つ通常はクラッドが最大厚さになることが観察された最高温度のスパンにおいてさえ、このプラントの前の運転サイクルに比較すると極端に薄い(<0.5μm)ことがわかった。このクラッドの目で見える外観は非常に特異であると記載されていた。
【0031】
プラントAのサイクル10の燃料付着物はまた、酢酸亜鉛が添加されていない炉心に形成された燃料クラッド付着物とは異なるものであると記載されていた。「すす」のように見える付着物は試料採取具により容易に取り除くことができ、酢酸亜鉛添加物を使用しなかった炉心のクラッドほど粘着性がなかったことがわかっている。このクラッドについて計算した滞留時間は、これらの付着物が、酢酸亜鉛を添加しなかった前の運転サイクルにおけるこのプラントのクラッドの約半分の長さ炉心に滞留していたことがわかっている。
【0032】
Evaluation of Fuel Clad Corrosion Product Deposits and Circulating Corrosion Deposits in PWRs, EPRI, Palo Alto, CA and Westinghouse Electric Company, Pittsburgh, PA: 2004.1009951に記載されるように、運転中の9つの商用PWRからの炉心クラッド付着物を取り出し、分析し、比較する研究が行われた。9つのPWRのうちの1つであるプラントBにおけるサイクル11はRCSに酢酸亜鉛を添加した状態で運転された。このプラントの炉心クラッド付着物は、酢酸亜鉛を添加しないプラントの炉心クラッドと比較して薄く、結晶度が低く、移動性が高いと記載されている。サイクル11後のプラントBにおける炉心クラッド付着物の形態はさらに、1ミクロン以下のサイズで、際立った結晶面がないことが記載されている。この観察結果は酢酸亜鉛を添加しなかったプラントの炉心クラッド付着物の形態とは際立った対照を見せている。酢酸亜鉛を添加しなかったプラントの炉心クラッドの形態は、結晶度が高く、ミクロンサイズの粒子より成ることが記載されている。
【0033】
Evaluation of Fuel Cladding Corrosion and Corrosion Product Deposits from Callaway Cycle 13: Results of Poolside Examinations Following One Cycle of Zinc Addition, EPRI, Palo Alto CA: 2005.1011088に記載されるように、RCSに酢酸亜鉛を添加した最初の運転サイクルであるサイクル13の後でプラントCの炉心クラッド検査も行われた。酢酸亜鉛添加後の炉心クラッド付着物がこの同じプラントの酢酸亜鉛添加前の炉心付着物と比較されたが、化学的組成及び付着物の形態が異なり、炉心に亘って薄く、より広く分布しており、活性度が低く、運転停止時に容易に放出されると記載されている。
【0034】
プラントCに酢酸亜鉛を添加した第2サイクルの以下の結果が、Evaluation of Fuel Cladding Corrosion and Corrosion Product Deposits from Callaway Cycle 14: Results
of Poolside Measurements Following Two Cycles of Zinc Addition, EPRI, Palo Alto
CA: 2006.1013425に記載されている。サイクル14後の炉心クラッド検査では、炭素が炉心クラッド付着物の元素成分であることが注目された。サイクル13の間活性度が低かった(即ち、比放射能が少なく滞留時間が少なかった)クラッドへの移行がサイクル14において継続していた。
【0035】
燃料クラッド付着物の検査とは別に、多数のプラントにおいて酢酸亜鉛の添加を実行する前後において被覆の腐食が測定された。酢酸亜鉛を添加したプラントでは酢酸亜鉛を添加しないプラントと比較すると平均で酸化物の厚さが小さかった。実際の測定値を腐食モデルに基づき予測した酸化物の厚さと比較することができた。プラントDは酢酸亜鉛添加前の予想に合致する腐食があったが、酢酸亜鉛にさらされていた燃料棒は予想より腐食が少なかった。
【0036】
従って、酢酸亜鉛を添加したPRW発電プラントの燃料検査により、例えば炉心クラッド付着物が薄い、炉心クラッド付着物の滞留時間が短い、炉心クラッド付着物の炭素含有量が高い、炉心クラッド付着物の粒子が細かく結晶度が低いというような(これに限定されない)好ましい変化が判明している。
【0037】
本発明によると、加圧水型原子炉の冷却水に少なくとも炭素及び水素より成る有機化合物を添加することにより(しかしながら、オプションとして酸素、窒素及びそれらの混合物を含めてもよい)、クラッドに好ましい変化を得ることが可能である。一実施例において、原子炉は加圧水型原子炉である。別の実施例において、原子炉は原子炉冷却材系(RCS)を循環する原子炉冷却材を含む。有機化合物の添加物を添加すると炉心クラッド付着物を調整することができる。さらに、有機化合物の添加物はクラッド付着物の付着及び形態に好ましい変化を生ぜしめることができる。その結果得られる炉心クラッド付着物は以下の特徴、即ち、(i)形態の変化、例えば、クラッドの粒がより細かくそして/または結晶度が低い、(ii)付着パターンの変化、例えば、クラッドが薄くそして/またはより均等に分布している、(iii)滞留時間の減少、例えば、クラッドの炉心上への滞留時間が短い、(iv)組成の変化、例えば、クラッドが高い炭素含有量を有する、のうちの少なくとも1つを有する。炉心クラッドのこれらの好ましい変化はCIPS及び/またはCILC及び/または燃料被覆の一般的腐食及び/または燃料破損をなくすことができると思われる。
【0038】
本発明を特定の実施例につき詳細に説明したが、当業者はこれらの詳細事項に対する種々の変形例及び設計変更を本願の開示全体に照らして実現可能であることがわかるであろう。従って、図示説明した特定の構成は例示であるに過ぎず、本発明の範囲を限定するものでなく、この範囲は頭書の特許請求の範囲及び任意且つ全てのその均等物の全幅を与えられるべきである。