【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、連続気孔を有する金属多孔質体からなる多孔質発熱体であって、
上記多孔質発熱体は、外殻と、中空又は/及び導電性材料からなる芯部とを有する骨格を備え、上記骨格が一体的に連続する3次元網目構造を構成しているとともに、上記外殻は、Ni−W合金から形成された表面層と、他の金属材料から形成された内層とを備え、上記表面層と上記内層との間に、拡散防止性及び/又は電気絶縁性を有するバリア層が設けられて構成されるものである。
【0012】
連続気孔を有する多孔質発熱体内でガスを流動させて加熱することにより、ガスを効率よく加熱することができる。しかも、本願発明に係る多孔質発熱体では、少なくとも表面にNi−W合金層を設けている。上記Ni−W合金は、高い耐熱性を備える発熱体であるとともに、耐酸性、耐ハロゲンアタック性、耐高温凝着性、耐摩耗性を備える。このため、連続気孔を有する金属多孔質体の表面に上記Ni−W合金層を設け、この金属多孔質体内でガスを流動させることにより、様々なガスを加熱することが可能となる。
【0013】
しかも、上記多孔質発熱体を、ガス分解装置に適用した場合、上記Ni−W合金層が触媒として機能する。このため、流動するガスを効率よく分解することが可能となる。
【0014】
上記Ni−W合金層は、少なくとも上記多孔質体の表面に形成されていればよい。また
、他の多孔質発熱体や金属多孔質体の表面に上記Ni−W合金層を設けることもできる。
【0015】
さらに、上記Ni−W合金は、耐熱性が高いのみならず、流動するガスとの反応性も低い。このため、他の材料から形成された多孔質発熱体の表面に上記Ni−W合金層を設けることにより、上記多孔質発熱体の耐熱性を高めるとともに、保護層として機能させることもできる。また、ガス分解装置に適用する場合には、Ni−W合金層自体が発熱しなくとも、表面において触媒機能を発揮させることができる。
【0016】
上記Ni−W合金層は、目的に応じて種々の配合のものを採用することができる。たとえば、請求項6に記載した発明のように、Niを60%〜95%と、Wを5%〜40%を含む合金から形成することができる。
【0017】
上記多孔質発熱体として、上記Ni−W合金層を含む発熱材料からなる外殻と、中空又は/及び導電性材料からなる芯部とを有する骨格を備え、上記骨格が、一体的に連続する3次元網目構造を構成したものを採用できる。
【0018】
本願発明に係る多孔質発熱体は、連続気孔を有する多孔質状に形成されているため、上記気孔内でガスを流動させて、効率よく加熱することができる。
【0019】
しかも、上記多孔質発熱体は、骨格が3次元網目構造に形成されているため、気孔率をきわめて大きく設定することができる。これにより、気孔内におけるガスの流動抵抗が小さくなり、大量のガスを流動させて加熱することが可能となる。また、上記骨格は、一体的に連続するように形成されている。このため、繊維状の発熱体を充填して構成される多孔質発熱体のように、隣接する各繊維間の接触抵抗が生じることがなく、多孔質発熱体内各部における電気抵抗が大きく変化することはない。したがって、多孔質発熱体内の電流の流れに偏在が生じることが少なく、多孔質発熱体の全体を均一に加熱することが可能となる。
【0021】
上記外殻
は、上記Ni−W合金から形成された表面層と、他の金属材料から形成された内層とを備えて構成され
る。上記Ni−W合金を他の金属発熱材料から形成された内層の表面層として設けることにより、上記内層を構成する金属発熱材料の耐熱性等を改善することができる。また、ガス分解素子に適用した場合には、多孔質体の表面において触媒機能を発揮させて、ガスを効率よく分解することが可能となる。上記内層を構成する金属材料は、特に限定されることはなく、Ni単体、Ni−Sn、Ni−Cr−Fe、Ni−Cu、Ni−Ru、Ni−Co、Ni−Fe等の材料を採用できる。
【0022】
上記他の金属材料から構成された骨格の表面に、上記Ni−W合金層を形成する場合、上記Wが上記内層に拡散して、表面のWの濃度が低下する恐れがある。また、Ni−W合金層を発熱体として機能させる場合、電流が内層に流れて、Ni−W合金層を効率よく発熱させることができない恐れがある。上記不都合を回避するため
、上記表面層と上記内層との間に、拡散防止性及び/又は電気絶縁性を有するバリア層を設けるのが好ましい。
【0023】
上記Wの拡散を防止し、あるいは電気絶縁性を確保できれば、上記バリア層を構成する材料は特に限定されることはない。たとえば、上記Ni−W合金層が設けられる骨格の表面に、アルミコーティング層を設け、このアルミコーティング層を陽極酸化させることにより、酸化アルミニウムからなる拡散防止性及び電気絶縁性を有するバリア層を設けることができる。これにより、上記Wが上記内層に拡散するのを防止できるとともに、発熱体としてのNi−W合金層を効率よく発熱させることができる。
【0024】
本願発明に係る多孔質体における上記3次元網目構造として、上記骨格を構成する複数の枝部が結節部に集合して一体的に連続しているとともに、一の結節部に集合する上記各枝部の外殻の厚みがほぼ一定であるものを採用するのが好ましい。
【0025】
上記結節部では各骨格(枝部)からの電流が集中するため、一の結節部に集合する各枝部の電気抵抗が異なると、結節部周りの一部の枝部に過大な電流が流れて温度が上昇し、骨格が溶断したり劣化する恐れがある。一の結節部に集合する枝部の外殻の厚みをほぼ一定に設定することにより、一の結節部に集合する各骨格の電気抵抗に大きな差異が生じることがなくなり、一の結節部に集合する一部の骨格に過大な電流が流れることもなくなる。これにより、骨格の溶断や劣化を防止することが可能となる。
【0026】
多孔質発熱体の一の結節部に集合する枝部の外殻の厚みがほぼ一定であればよく、発熱体全体の外殻の厚みが一定であることまで要求されるものではない。たとえば、製造方法等によっては、外殻の厚みが、発熱体の表層部と内部で異なることが考えられる。この場合、表層部の結節部に集合する各枝部の外殻厚みと、内部の結節部に集合する枝部の外殻厚みが異なることになる。しかし、各結節部に集合する骨格の厚みがほぼ一定であれば、一部の枝部に過大な電流が流れることはなく、結節部近傍の骨格が溶断するのを防止することができる。また、結節部周りの骨格が均等な強度を備えるため、強度も確保することができる。
【0027】
上記骨格を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば
、上記骨格を、3次元網目状樹脂の表面に、発熱体を構成できるめっき層又は金属コーティング層を設けるとともに、上記樹脂を消失させることにより形成することができる。
【0028】
上記骨格を金属めっき層又は金属コーティング層から形成することにより、骨格(外殻)の厚みを非常に薄くかつ均一に設定することが可能となる。これにより、大きな気孔率を備える多孔質発熱体を形成することが可能となる。
【0029】
上記芯部は、製造方法に応じて、中空又は/及び導電性材料を含んで構成される。たとえば、上述したように、上記骨格を、3次元網目状樹脂の表面にめっき層を設けるとともに、上記樹脂を消失させることにより形成する場合、上記樹脂が消失した部分が中空状となる。また、上記めっき層を設けるために上記3次元網目状樹脂の表面に導電性材料をコーティング等して導電化処理を施した場合には、上記導電性材料からなる表面導電化層が中空芯部の内周面に残存する場合がある。さらに、めっき処理の後に熱処理等を施した場合は、外殻が収縮して、中空部分が消失する場合もある。なお、上記芯部の構造は、発熱体の全体において均一である必要はなく、部分によって異なっていてもよい。たとえば、芯部を構成する導電性材料が後の熱処理によって溶解して、発熱体内で偏在したり、一部の中空部が消失した状態であってもよい。なお、上記表面導電化層は、多孔質発熱体の所要の発熱性能を阻害しないように厚み等が設定される。
【0030】
また、上記骨格(外殻)をめっき層やコーティング層から形成すると、一の結節部に集合する骨格の外殻の厚みをほぼ一定に形成することが可能となる。これにより、一の結節部周りの外殻の電気抵抗に大きな差異が生じることがなくなり、多孔質発熱体の全域を均一に加熱することができる。
【0031】
発熱体を構成する上記内層を、Niを50〜95%と、Crを5〜50%とを含む合金から形成することができる。
【0032】
上記範囲の配合量に設定することにより、上記多孔質発熱体を効率よく発熱させることができる。なお、上記NiとCrの配合比を保持した状態で他の成分が配合されてもよい。
【0033】
内層をコーティング層から形成する場合、発熱体を構成するNiとCrを含む材料を3次元網目状樹脂の表面に直接コーティングして焼成し、多孔質発熱体を形成することができる。一方、Ni−Cr合金のめっき層を直接形成するのは困難である。このため、Niを主成分とする金属多孔質体に、Crを拡散させることにより合金化して上記発熱体として機能する内層を形成することができる。
【0034】
たとえば、Niから多孔質体を形成し、この多孔質体を構成するNiの表面から、Crを拡散させて発熱体として機能するNi−Cr合金からなる多孔質発熱体を形成し、その後に、Ni−W合金をめっきすることができる。
【0035】
Niは、めっき処理しやすいため、上記骨格を容易に形成することができる。また、骨格の厚みや気孔率の異なる種々の金属多孔質体を容易に構成できる。そして、このNi多孔質体をCr合金化することによって、所要の電熱特性を備える種々の発熱体を構成できる。
【0036】
上記Ni多孔質体を、Cr合金化する手法は特に限定されることはない。たとえば、上記Ni多孔質体を、Cr源粉末の加熱により発生させた拡散浸透成分ガスと還元性希釈ガスとの混合ガス中で熱処理することにより、Ni多孔質体をNi−Cr合金とすることができる。
【0037】
また、Niによって形成された第1の外殻に、Crで形成された第2の外殻を積層形成し、所定の熱処理を行うことにより、上記第1の外殻と上記第2の外殻とを互いに拡散させて合金化し、上記多孔質発熱体とすることができる。
【0038】
上記Ni−W合金層を形成する手法も特に限定されることはない。Ni−W合金は、単独では水溶液中から析出しないが、Niや鉄系金属を共存させると、誘起共析させることができる。また、めっき条件等を調節することにより、硬質なNi−W合金めっき層を形成することができる。上記Ni−W合金めっき層の厚みは、1μm〜10μmに設定するのが好ましい。
【0039】
上記多孔質発熱体を発熱させるには、多孔質体内に通電する必要がある。一方、気孔率が高いと、配線を充分な接続面積を介して接続するのは困難である。また、配線の接続強度を確保するのも困難である。通電するための配線と多孔質発熱体との間の接続面積が小さいと、配線近傍における電流値が局所的に大きくなってその部分の発熱量が大きくなり、多孔質発熱体や配線を傷める可能性がある。
【0040】
上記不都合を回避するため
、上記多孔質発熱体を用いて発熱部を形成し、上記発熱部に、所定の面積で接続されるとともに電流を導入するリード部を設けることにより、多孔質発熱素子を構成するのが好ましい。
【0041】
多孔質発熱体に充分な接続面積を介して接続されるリード部を設けることにより、多孔質発熱体の全体に通電して発熱させることが可能となる。また、上記リード部に配線を接続するだけで、多孔質発熱体に効率よく通電することができるため、取扱性も向上する。上記リード部の形態や上記接続面積は、多孔質発熱体の形態や寸法等に応じて設定することができる。たとえば、導電性を有する所定面積の金属製導電板を上記多孔質発熱体の所定面積にわたって圧接あるいは溶接して、上記リード部を設けることができる。
【0042】
また
、上記リード部を、上記多孔質発熱体に接続される導電性の金属多孔質体を備えて構成することができる。たとえば、上記多孔質発熱体と同様の気孔率を備える金属多孔質体を、上記多孔質発熱体の所定面積にわたって接続するとともに、この金属多孔質体に対して配線を接続することにより、上記多孔質発熱体内に電流を円滑に供給することができる。上記金属多孔質体は、多孔質発熱体の所定の面積にわたって所定圧力で接触させ、あるいは溶接することにより、上記多孔質発熱体に接続することができる。
【0043】
上記リード部を構成する金属多孔質体は、通電しても発熱しない導電性材料から形成するのが好ましい。たとえば、Ni、銅等の電気抵抗の小さい金属多孔質体から上記リード部を形成することができる。さらに、上記金属多孔質体から上記リード部を形成すると、上記リード部における冷却効果を期待できる。これにより、多孔質発熱体から配線等に伝導される熱量を減少させることが可能となり、配線等に作用する温度を低下させることができる。また、上記リード部に配線等を容易に接続することも可能となり、多孔質発熱素子の取扱性も向上する。
【0044】
上記多孔質発熱体の所定領域に、導電性材料によって形成されためっき層又はコーティング層を設けることにより、上記リード部を形成
することができる。この構成を採用することにより、所要の領域に多孔質のリード部を設けることができる。上記めっき層又はコーティング層は、種々の導電性材料から形成することができる。また、形成方法も特に限定されることはなく、種々のめっき法やコーティング法を採用できる。
【0045】
上記多孔質発熱体を備えて多孔質発熱素子を形成することができる。上記多孔質発熱素子は、導電性の金属多孔質体のリード部を除く所定領域を合金化して形成された発熱体を有する発熱部と、上記発熱部の表面に積層形成されたNi−W合金層とを備えて構成されたものである。この構成により、多孔質発熱体に一体的に連続するリード部を設けることができる。
【0046】
たとえば、Niを用いて多孔質発熱体とリード部を構成する共通の骨格を、多孔質樹脂の表面にめっき層として形成する。次に、リード部を構成する部分にマスキングを施して、発熱部に対応する部分にのみCrのめっき層を形成する。次に、多孔質樹脂を消失させて、熱処理を行うことにより、上記Ni骨格の一部をCr合金化して上記リード部を一体的に形成する。その後、上記発熱部に上記Ni−W合金層が設けられる。
【0047】
上記構成を採用することにより、多孔質体を構成する同一の骨格が連続しているとともに、所要の部分を発熱させることのできる多孔質発熱素子を形成することができる。また、発熱部に効率よく通電することができるとともに、リード部に放熱性があるため、配線等に作用する温度を低下させることも可能となる。しかも、リード部に発熱部と同一の通気性を持たせることが可能となり、ガス分解素子等に好適なガス分解素子を構成できる。
【0048】
上記多孔質発熱素子を用いてガス分解素子を構成できる。
【0049】
本願発明に係るガス分解素子は、自体で発熱する多孔質発熱体内に、分解に供せられるガスが流動するように構成されているため、ガスを効率よく加熱して分解することが可能となる。本願発明に係るガス分解素子は、単独で、あるいは他のガス分解素子と組み合わせてガス分解装置を構成することができる。たとえば、筒状MEAを備えるガス分解素子と組み合わせて、効率のよいガス分解装置を構成できる。
【0051】
上記多孔質発熱体は、連続気孔を有する樹脂多孔質基材に導電処理を施す工程と、上記導電処理を施した上記樹脂多孔質基材の表面に、導電性を有する第1の金属層を設ける第1の被覆工程と、上記第1の金属層と合金化させられて発熱体を構成する第2の金属層を上記第1の金属層の所定領域に積層して設ける第2の被覆工程と、上記樹脂多孔質基材を消失させる基材消失工程と、上記第1の金属層と上記第2の金属層とを合金化する合金化工程と、少なくとも上記合金化された領域に、Ni−W合金層を設ける第3の被覆工程とを含んで
製造することができる。
【0052】
さらに、本願発明に係る製造方法では、上記合金化工程において合金化される被覆層と、上記Ni−W合金層との間に、上記Ni−W合金が上記発熱体へ拡散するのを阻止するバリア層を設けるバリア層形成工程が含
まれる。上記バリア層形成工程は、上記第2の被覆工程後に行うこともできるし、上記合金化工程後に行うこともできる。