特許第5748182号(P5748182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

特許5748182鉛蓄電池及びこれを用いたアイドリングストップ車
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748182
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池及びこれを用いたアイドリングストップ車
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/06 20060101AFI20150625BHJP
   H01M 4/73 20060101ALI20150625BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   H01M10/06 L
   H01M4/73 A
   H01M4/14 Q
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-536475(P2012-536475)
(86)(22)【出願日】2011年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2011072068
(87)【国際公開番号】WO2012043556
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2014年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-218630(P2010-218630)
(32)【優先日】2010年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和馬
(72)【発明者】
【氏名】松村 朋子
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 賢
(72)【発明者】
【氏名】坪井 裕一
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−148556(JP,A)
【文献】 特開昭61−161660(JP,A)
【文献】 特開2007−066558(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/036979(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06
H01M 4/14
H01M 4/73
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液が硫酸とAlイオンを含み、既化成正極活物質にSnを含有する鉛蓄電池において、
前記既化成正極活物質中のSn濃度が金属Sn換算で0.05〜1.0mass%であり、
電解液中のAlイオン濃度は0.02〜0.2mol/Lであり、
電解液中のLiイオン濃度が0.02〜0.2mol/Lとなるように、電解液がLiイオンを含み、
Pb-Ca系合金からなる正極格子の一部の表層に、Sb濃度が金属Sb換算で0.5〜10mass%のPb-Sb系合金層を設けたことを特徴とする、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記既化成正極活物質のSb含有量は0.01mass%以下であることを特徴とする、請求項1の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記正極格子はエキスパンド法もしくは打ち抜き法で作製され、前記Pb-Sb系合金層は正極格子の表裏両面もしくは表裏片面に設けられていることを特徴とする、請求項1または2の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記Pb-Sb系合金層でのSb濃度が金属Sb換算で1.0〜5mass%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの鉛蓄電池。
【請求項5】
前記Pb-Sb系合金層が正極格子の表裏片面に設けられていることを特徴とする、請求項4の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記既化成正極活物質でのSn濃度が金属Sn換算で0.2〜1.0mass%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかの鉛蓄電池。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの鉛蓄電池を備えているアイドリングストップ車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉛蓄電池に関し、例えばPSOC(Partial State of Charge)で使用する自動車用鉛蓄電池とアイドリングストップ車とに関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の問題点として、負極に硫酸鉛の緻密な結晶が成長すること(サルフェーション)が古くから知られ、Alイオンの添加がサルフェーションの抑制に有効とされている(特許文献1:JPS52-136332A)。また自動車の燃費の改善の観点からアイドリングストップが行われるようになり、これに伴って鉛蓄電池は充電不足なまま動作するようになった。そしてアイドリングストップ用途に対応した鉛蓄電池として、電解液にAlイオンを、正極活物質にSbとSnとを添加することが提案されている(特許文献2(JP4364054B))。特許文献2では、上記の系で、JIS重負荷試験に対するサイクル寿命が優れ、4週間60℃放置後の容量回復性が優れた電池が得られるとしている。また特許文献3(WO2007/36979)では、電解液にAlイオンとLiイオンとを加えると、アイドリングストップ寿命と、5hR容量とに優れた電池が得られるとしている。なお特許文献4(JPS63-148556A)は鉛蓄電池のPb-Ca系正極格子の表層に、Pb-Sb-Snの合金層を設けることを記載している。
【0003】
発明者はこのような鉛蓄電池に付いて研究し、
・ 5hR容量(5時間率電流での放電容量で5時間率容量とも呼ばれる:JIS D 5301:2006の9.5.2b))及び低温HR容量(低温ハイレート電流での放電容量で高率放電容量とも呼ばれる:JIS D 5301:2006の9.5.3b))が大きく、
・ 使用時の容量低下が小さく、従ってPCL(Premature Capacity Loss)が生じ難く、
・ さらにアイドリングストップの繰り返しに伴う硫酸鉛の蓄積が少ない、
鉛蓄電池を追求して、この発明に到った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】JPS52-136332A
【特許文献2】JP4364054B
【特許文献3】WO2007/36979
【特許文献4】JPS63-148556A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の基本的課題は、5hR容量と低温HR容量とを大きく向上させ、使用時の容量の減少が小さく、かつアイドリングストップの繰り返しに伴う硫酸鉛の蓄積が少ない鉛蓄電池とこれを用いたアイドリングストップ車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、電解液が硫酸とAlイオンを含み、既化成正極活物質にSnを含有する鉛蓄電池において、
前記既化成正極活物質中のSn濃度が金属Sn換算で0.05〜1.0mass%であり、
電解液中のAlイオン濃度は0.02〜0.2mol/Lであり、
電解液中のLiイオン濃度が0.02〜0.2mol/Lとなるように、電解液がLiイオンを含み、
Pb-Ca系合金からなる正極格子の一部の表層に、Sb濃度が金属Sb換算で0.5〜10mass%のPb-Sb系合金層を設けたことを特徴とする。
【0008】
電解液中のAlイオン、好ましくは0.02〜0.2mol/LのAlイオンは、サルフェーションの抑制に有効である。さらに正極活物質中のSn、好ましくは0.05〜1.0mass%の濃度のSnは、5hR容量及び低温HR容量の改善に有効である。特に低温HR容量の改善は、正極活物質中のSnと電解液中のLiイオンとの組合せで向上する。しかしながら放電を繰り返すと容量が低下し、電解液中のAlイオン、Liイオン、正極活物質中のSn、のいずれも容量低下の防止には有効でない。これに対して正極格子の表層にPb-Sb系合金層を設けると、充放電の繰り返しに伴う容量の低下を抑制できる。さらに正極格子表層のPb-Sb系合金層は、5hR容量及び低温HR容量に悪影響を与えないが、正極活物質中にSbを添加すると、5hR容量と低温HR容量とが減少する。以上のように、電解液中にAlイオンとLiイオンとを添加した系に対し、正極活物質中にSnを添加することと、活物質ではなく正極格子の表層にSbを添加することとの組合せにより、5hR容量及び低温HR容量を増加させると共に、充放電の繰り返しに伴う容量の減少を小さくできる。
【0009】
正極格子の表層でのSb濃度が0.5mass%未満では効果が小さく、0.5mass%以上で充分な効果が得られる。また10mass%を超える合金層を形成することが難しいため、Pb-Sb系合金層でのSb濃度は0.5〜10mass%とする。Sbの効果は1mass%程度で飽和に近づき、5mass%以上添加しても効果は増加しない。そこでPb-Sb系合金層でのSb濃度を、金属Sb換算で1.0〜5mass%とすることが好ましい。
【0010】
また正極活物質でのSn濃度を金属Sn換算で0.05〜1.0mass%とすることにより、5hR容量と低温HR容量とを改善でき、特に0.2〜1.0mass%とすると、5hR容量と低温HR容量とを十分に改善できる。
電解液中のLiイオン濃度は、0.02〜0.2mol/Lで低温HR容量の向上に有効である。
【0011】
この明細書で、Snの添加量は金属Snに換算して示す。Alイオン,Liイオンの濃度は電解液1L当たりのAlイオンとLiイオンの濃度(mol/L)で表す。なおAlイオンの1モルは、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)の171.05gに相当する。さらに0.5〜10mass%のように範囲を示した場合、0.5mass%以上10mass%以下を意味するものとし、他の場合も同様である。
【0012】
好ましくは、前記既化成正極活物質のSb含有量は0.01mass%以下である。既化成正極活物質にSbを添加することは好ましくない。そして正極活物質には、活物質中のPbの不純物あるいは正極格子の表層に由来するSbが存在することがあるが、その濃度は0.01mass%以下である。
【0013】
好ましくは、正極格子はエキスパンド法もしくは打ち抜き法で作製される。Pb-Ca系合金から成る板にPb−Sb系合金箔を圧延で一体化し、延伸後にエキスパンド加工あるいは打ち抜き加工することにより、簡単にPb-Sb系合金層を設けることができる。メッシュ部断面周囲4面の内で少なくとも2側面にはPb-Sb系合金層はなく、下地のPb-Ca系合金が露出している。Pb-Sb系合金層は正極格子の表裏両面に設けても良いが、Pb-Sb系合金層を設けることにより効果を奏し、片面でも両面でも効果に差はない。片面にPb-Sb系合金層を設ける方が、作製しやすい、製造装置が簡単で工程が複雑化せず工程管理しやすい、製造装置が安く作製できる、などの利点があるためより好ましく、実施例では表裏のいずれか片面にのみPb-Sb系合金層を設ける。
【0014】
この発明の鉛蓄電池を用いたアイドリングストップ車は、鉛蓄電池の5hR容量と低温HR容量とが向上し、使用時の容量の減少が小さく、かつアイドリングストップの繰り返しに伴う硫酸鉛の蓄積が少ないため、高性能である。この発明のアイドリングストップ車は、この発明の鉛蓄電池と、鉛蓄電池により点火及び起動されるエンジン、変速機、車輪、車体フレーム、照明器具、エンジンにより駆動され鉛蓄電池を充電するための発電機、及びエンジンと鉛蓄電池、発電機等を制御するコントローラ等を備えている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術に従い、特許請求の範囲内で実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0016】
鉛蓄電池の製造
JIS D 5301に準拠した、55B24形鉛蓄電池を製造した。公称電圧12V、5時間率定格容量は36Ahである。正極格子材料として、0.07mass%のCaと1.5mass%のSnと不可避不純物とを含み、残余がPbである13mm厚のスラブの例えば片面中の、エキスパンド法で展開した後でメッシュになる部分に、不可避不純物を含みSb濃度を0.2〜10mass%の範囲で変化させた0.25mm厚のPb-Sb系合金箔を積層し、圧延して1.0mm厚のシートとした。次いでロータリエキスパンド法により正極格子を作製した。正極格子は高さが115mm、幅が100mm、厚さが1.3mm、表面から深さ方向に約20μmがPb-Sb系合金層で、エキスパンド加工によってシートより格子の方が厚さが増している。また正極格子はメッシュ以外に上下の縁と耳とを備え、これらの部分には片面の表面から約20μmのPb-Sb系合金層がない。Pb-Sb系合金層の下地となるPb-Ca-Sn系合金の組成は適宜に変えることでき、正極格子のサイズ等は任意である。またPb-Sb系合金でのSb含有量が10mass%を超えると、製造が困難になる。なおロータリエキスパンド法に代えて、レシプロエキスパンド法、打ち抜き法で正極格子を作製しても良く、この点は負極格子も同様である。
【0017】
Pb-Sb系合金層の厚さを約10μm,約20μm,約40μmと変化させて後述の試験を行ったが、厚さの影響は見られなかったので、以下ではPb-Sb系合金層の厚さを約20μmとして説明する。Pb-Sb系合金層中のSb濃度は0.5〜10mass%、好ましくは1〜5mass%とする。なお正極格子中で、Pb-Sb系合金層を設けた面を除く面では、下地のPb-Ca-Sn系合金が露出している。
【0018】
負極格子として、0.09mass%のCaと0.35mass%のSnと不可避不純物とを含み、残余がPbであるスラブを圧延して0.8mm厚のシートとした。次いで、ロータリエキスパンド法によりエキスパンド状の負極板を作製した。負極板は高さが115mm、幅が100mm、厚さが1mmである。
【0019】
正極活物質ペーストは、ボールミル法で作製した鉛粉を100mass%として、硫酸スズ(SnSO4)として所定量のSnを添加すると共に0.1mass%のアクリル繊維を加え、さらに水13mass%と20℃で比重1.40の希硫酸6mass%とを混合して得た。なお鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良い。Snの添加形態は任意で、SnO2等でも良く、バインダはアクリル繊維に限らず任意であり、またバインダを添加しなくても良い。なお、鉛粉は鉛と酸化鉛の混合物である。
【0020】
負極活物質ペーストは、ボールミル法で作製した鉛粉を100mass%とし、リグニン0.2mass%、カーボンブラック0.3mass%、硫酸バリウム0.6mass%、0.1mass%のアクリル繊維を加え、さらに水11mass%と20℃で比重1.40の希硫酸7mass%とを混合して得た。鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良く、負極活物質の組成自体は任意である。
【0021】
正極格子1枚当たり正極活物質ペーストを55g充填し、負極格子1枚当たり負極活物質ペーストを52g充填し、各々50℃相対湿度50%で48時間熟成し、次いで50℃の乾燥雰囲気で24時間乾燥させ、未化成正極板及び未化成負極板を得た。袋状のポリエチレンセパレータ内に未化成負極板を収納し、セパレータに収納した未化成負極板8枚と未化成正極板7枚とを交互に積層し、同極性の極板の耳を互いに溶接して、極板群とした。得られた極板群6個をポリプロピレンの電槽に収納して直列に接続するように溶接し、20℃で比重が1.230の希硫酸に所定量の硫酸Alと硫酸Liとを添加した電解液を注入し、25℃の水槽内で電槽化成を行って、55B24形の鉛蓄電池とした。Alイオン源とLiイオン源は任意で、例えば硫酸アルミニウム,硫酸リチウムの他に、炭酸リチウム,アルミン酸リチウムAlLiO2,水酸化アルミニウムと水酸化リチウムなどの形態で添加しても良い。正極活物質中のSnはSn4+イオンあるいはスズ酸イオンSn(OH)n4−nとして正極中に存在し、正極格子に由来するSbは正極格子と正極活物質との界面にアンチモンの金属または酸化物として存在しているものと推定できる。なお既化成活物質の質量は、化成後の極板を水洗して硫酸等の水溶性成分を洗い流した後、乾燥させ、極板から格子と活物質とを分離して測定する。
【0022】
試験法
各鉛蓄電池に対し、5時間率(5hR)容量試験(JIS D 5301:2006の9.5.2b))、低温ハイレート(HR)放電試験(JIS D 5301:2006の9.5.3b))、アイドリングストップ寿命試験(電池工業会規格SBA S 0101: 2006の9.4.5)を行った。また5hR容量試験→低温HR放電試験→5hR容量試験→低温HR放電試験→5hR容量試験の順に試験を繰り返し、最後の5hR容量試験での容量と最初の5hR容量試験での容量との比を、容量保持率とした。容量保持率はPCL(Premature Capacity Loss)の程度を表す。試料数は各3で、結果は平均値で示す。
【0023】
試料A1はSb,Sn,Alイオン,Liイオンの何れも含まない比較例で、硫酸鉛の蓄積のため、アイドリングストップ試験での寿命が短かった。アイドリングストップ試験で、18,000サイクル時に電池を解体し、負極活物質での硫酸鉛の蓄積量を調べた。そして硫酸鉛の蓄積がアイドリングストップ試験での寿命を決定する因子であることを確認し、試料A1での硫酸鉛の蓄積量を100とする相対値で、アイドリングストップ試験の結果を示す。
【0024】
試料A2は正極活物質にSnを適切な量含み、電解液にAlイオンとLiイオンとを適切な量含んでいるが、Sbを含まない比較例である。試料A2は、5hR容量試験と低温HR放電試験とで良い結果を示したので、5hR容量試験と低温HR放電試験の結果は、試料A2の結果を100とする相対値で示す。実用的見地からは、初期性能として5hR容量試験で97以上、低温HR放電試験でも97以上が必要で、PCLが起こり難いようにするため容量保持率で0.9以上が必要で、アイドリングストップ車で使用可能であるために、アイドリングストップ試験後の硫酸鉛蓄積量で80以下が必要である。
【0025】
結果
表1〜表5に結果を示す。表1はA35以外の全試料の結果を示し、試料数が多いので、Sbの影響に関する結果を表2,表3に抽出して説明し、AlイオンとLiイオンとに関する結果を表4に抽出して説明する。表2は、Sbの添加位置を正極活物質とするか正極格子とするかの影響と、Sb濃度の影響とを示す。表2では、試料A1を除き、AlイオンとLiイオンとを各0.1mol/L電解液に含有する。SbもSnもAlイオンもLiイオンも含まない試料A1では、全ての点で不十分な結果が得られた。これに対して、電解液にAlイオンとLiイオンとを添加し、正極活物質にSnを添加すると(試料A2)、容量保持率を除き満足する。正極活物質中のSb濃度を0.01mass%とした試料A36と0.1mass%とした試料A37とを比較すると、1サイクル目の5hR容量も、低温HR放電性能も、5サイクル目と1サイクル目との容量保持率も、Sb濃度が0.01mass%の試料A36が優れている。正極活物質にSnを添加するのではなく、正極格子のPb-Sb系合金層にSnを添加した比較例(A35)の結果を表5に示す。正極格子のPb-Sb系合金層にSnを添加しても、結果はSn無添加の試料A3とほぼ同等で、正極活物質にSnを添加した実施例とは、5hR性能、低温HR性能において、大差がある。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
【表5】
【0031】
特許文献2,3はSbとSnとを共に正極活物質に添加することを示しているので、試料A6〜A8のように、正極活物質に0.01〜0.2mass%のSbをSb2O3として添加した。Sbの添加によって容量保持率は0.92まで向上し、容量保持率に関しては0.01mass%の添加でも0.2mass%の添加でも同じ結果が得られた。しかしながら正極活物質へのSbの添加は、5hR容量試験と低温HR放電試験とでの性能を損ない、添加量を増すと性能の低下が著しくなった。以上のように、正極活物質へSbを添加すると、Snにより増加した5hR容量と低温HR容量とを減少させた。従って、容量保持率と、5hR容量性能と低温HR放電性能とを両立させることはできなかった。
【0032】
試料A3は正極格子へのSbの添加効果を示し、Sbは前記のように格子の表層にPb-Sb系合金層として添加されている。正極格子の表層にSbを添加すると、容量保持率は向上するが、5hR容量と低温HR容量は向上しなかった。次に試料A9〜A13のように、正極活物質に0.2mass%のSnを添加し、正極格子の表層に0.2〜10mass%のSbを添加した。試料A9〜A13から、正極格子の表層のSbは正極活物質中のSnの効果を妨げずに、容量保持率を向上させることが分かった。またSb濃度が0.2mass%の試料A9では、容量保持率は0.88で、目標値の0.9に達しなかった。また試料A9,A8(共にSb濃度が0.2mass%)を比較すると、同じ容量保持率を得るために、正極格子への添加では、より高濃度のSbが必要であることが分かった。正極格子のSbの効果は、1mass%(試料A11)以上で著しくなり、5mass%付近で飽和する(試料A12,A13)。Pb-Sb系合金層のSb濃度は0.5〜10mass%、好ましくは1〜5mass%とする。
【0033】
表3の試料A3,A12,A14〜A18では、正極格子の表層のSb濃度を5mass%に固定し、正極活物質のSn濃度を0〜1.2mass%の範囲で変化させた。また試料A31〜A34では、Sb濃度とSn濃度を共に変化させた。Sb濃度が5mass%では、Snの効果は0.025mass%では小さく(試料A14)、0.05mass%で目標値に達し(試料A15)、0.2mass%以上で飽和し(試料A12,A17,A18)、過剰量の添加は好ましくない。このことから正極活物質中のSn濃度を0.05〜1.0mass%とし、好ましくは0.2〜1.0mass%とする。Sb濃度を5mass%以外の値とした場合にも、Sn濃度が0.05〜1.0mass%で良い結果が得られた(試料A31〜A34)。Sn濃度の影響は0.2mass%以上で飽和するので、正極活物質中のSn濃度は0.2〜1.0mass%が好ましい。
【0034】
AlイオンとLiイオンの濃度の影響を表4に示す。Alイオンが0.01mol/L(試料A19)では硫酸鉛の蓄積が著しく、0.02mol/L以上(試料A20,A27,A28)で硫酸鉛の蓄積を抑制できた。また0.3mol/L以上で(試料A22)、5hR容量と低温HR容量、特に低温HR容量が低下した。従って電解液でのAlイオンの濃度は0.02〜0.2mol/Lとする。Liイオンが0.01mol/L(試料A23)では低温HR容量が低下し、0.02mol/L以上(試料A24,A25)で低温HR容量が目標値に達した。そして0.3mol/L添加しても(試料A26)、0.2mol/L(試料A25)の場合よりも性能が向上しないので、電解液でのLiイオンの濃度も0.02〜0.2mol/Lとする。これ以外に、正極格子のSb濃度を5mass%に、正極活物質のSn濃度を0.2mass%に固定し、AlイオンとLiイオンの濃度を変化させたが(試料A27〜A30)、Alイオンの濃度が0.02〜0.2mol/L、Liイオンの濃度も0.02〜0.2mol/Lの範囲で、良い結果が得られた。Liイオンの効果はAlイオンの添加によって低下した低温HR容量を改善することで(試料A4,A5,A12)、5hR容量の改善は見られなかった。