(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748217
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】アイドルストップ車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
F02D29/02 321A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-188049(P2011-188049)
(22)【出願日】2011年8月30日
(65)【公開番号】特開2013-50064(P2013-50064A)
(43)【公開日】2013年3月14日
【審査請求日】2014年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】坂上 航介
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】竹田 正朗
【審査官】
山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−112400(JP,A)
【文献】
特開2001−254642(JP,A)
【文献】
特開2010−112444(JP,A)
【文献】
特開2009−002312(JP,A)
【文献】
特開2005−023908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルが踏み込まれていることを含む所定のアイドルストップ条件の成立により内燃機関のアイドリングを停止し、
ブレーキペダルの踏み込み量若しくは踏み込み力またはブレーキペダルの踏み込みに基づくブレーキ力が閾値以下に低下したことにより内燃機関を再始動するアイドルストップ車両の制御装置であって、
運転者の運転姿勢が崩れたことを示唆する所定の事象を検出した場合、そうでない場合と比較して前記閾値をより高い値へと変更することを特徴とするアイドルストップ車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリングストップ機能を実現する車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
信号待ち等、車両の一時停車時に内燃機関のアイドル回転を停止させて燃費の向上を図るアイドリングストップシステムが周知である。
【0003】
アイドリングストップシステムでは、車速が所定以下で、ブレーキペダルが踏み込まれており、冷却水温及びバッテリ電圧が十分高い、といった諸条件が成立したときに、内燃機関を自動的に停止させる。そして、アイドルストップの後、運転者がブレーキペダルから足を離す、またはアクセルペダルを踏み込む等の再始動要求があったときに、スタータモータのピニオンギアをフライホイール(MT車の場合)またはドライブプレート(AT車の場合)外周のリングギアに噛合させ、クランキングを行い機関を再始動する。
【0004】
ところで、内燃機関のアイドルストップ中に、運転者が自らの手で内燃機関を停止させたものと勘違いして、運転席から離れまたは降車しようとすることがあり得る。さすれば、ブレーキペダルの踏み込みが緩むことで再始動条件が成立し、運転者の虚を突く形で機関が再始動してしまいかねない。
【0005】
そのような不意の再始動を予防するべく、アイドルストップ機能を備える車両には、座席に加わっている荷重の変化やシートベルトのバックルの解放といった離席動作を検知したときに機関の再始動を禁止するフェイルセーフが組み込まれている(例えば、下記特許文献を参照)。
【0006】
しかしながら、このフェイルセーフは、運転者がちょっと後部座席を振り返ったり荷物に手を伸ばしたりした場合、即ち運転者が席を立って降車する意思を有していない場合にも発動するため、今度は逆に運転者がブレーキペダルから足を離したとしても機関が再始動せず、車両の再発進がもたつき遅れるという別の問題を招くきらいがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−097071号公報
【特許文献2】特願2011−037845号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アイドルストップ中のフェイルセーフを確保しつつ、運転者の意図通りに機関を再始動できるようにすることを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ブレーキペダルが踏み込まれていることを含む所定のアイドルストップ条件の成立により内燃機関のアイドリングを停止し、ブレーキペダルの踏み込み量若しくは踏み込み力またはブレーキペダルの踏み込みに基づくブレーキ力が閾値以下に低下したことにより内燃機関を再始動するアイドルストップ車両の制御装置であって、運転者の運転姿勢が崩れたことを示唆する所定の事象を検出した場合、そうでない場合と比較して前記閾値をより高い値へと変更することを特徴とする制御装置を構成した。ここで、所定の事象の具体例としては、運転者の着席の姿勢が車両の運転に適した状態から変化したことを座席に実装した感圧センサを介して感知したことや、シートベルトのバックルが解放されたこと、シートベルトが緩められたこと、運転席のドアのロックが解除されたこと、運転席のドアが開けられたこと、等を挙げることができる。
【0010】
本発明では、前記所定の事象を検知したときにブレーキペダルの踏み込み量等と比較される閾値を敢えて高い値に設定することで、ブレーキペダルの踏み込みが少しでも緩められたら即座にアイドルストップを終了して機関を再始動するようにした。つまり、従前とは異なり、機関の再始動を禁ずるのではなく寧ろ機関が再始動しやすくなる状態に移行させることとした。
【0011】
運転者が少しでも席を立つ所作を見せたら敏感に反応して機関を再始動するので、運転者が降車する意思を有している場合に、機関が手動で完全停止されていないことを早期に運転者に知らしめることができる。換言すれば、運転者が降車しようとする正にその時に運転者の虚を突く形で機関が再始動することがなくなる。
【0012】
運転者が降車する意思を有していない場合においても、運転者がブレーキペダルの踏み込みを緩めることで機関が確実に再始動するので、車両の再発進がもたついて遅れる問題を招来しない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アイドルストップ中のフェイルセーフを確保しながら、運転者の意図通りに機関を再始動することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態におけるアイドルストップ車の制御装置のブロック図。
【
図2】同実施形態の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態におけるアイドルストップ車両の制御装置1のブロック構成を示す。図示例はAT車であり、内燃機関3のクランクシャフトがトルクコンバータ5を介してCVT4と連結している。トルクコンバータ5は、ロックアップクラッチ機構を含む。
【0016】
内燃機関3を始動する際にクランキングするスタータ(セルモータ)6は、バッテリ2から電力供給を受ける。スタータ6は、リレー7を介してバッテリ2の正極端子に接続している。一方、バッテリ2の負極端子は、アイドルストップ車両の筐体に接続している。
【0017】
また、内燃機関3の出力トルクは、巻掛伝動機構(ベルト及びプーリ等)10を介してオルタネータ9にも伝達される。オルタネータ9は、車両の走行中等に随時発電してバッテリ2を充電する。バッテリ2の正極端子とリレー7との間に設けたバッテリセンサ8は、バッテリ2電流及びバッテリ2の温度を検出する。
【0018】
ブレーキ機構20は、既知の液圧式のブレーキ倍力機構である。ブレーキブースタ22は、内燃機関3のインレットマニホルド内の負圧を利用してブレーキペダル21に加わる踏力を増幅し、ブレーキ力を助勢する。そのブレーキ力は、マスタシリンダ25を介して車両の各車輪23のホイールシリンダ24に印加される。
【0019】
本実施形態の制御装置1は、アイドルストップ制御ECU11、エンジン制御ECU12、ABS(Anti−lock Braking System)制御ECU13、CVT制御ECU14、及び運転姿勢検出部17を包含している。各制御ECU11、12、13、14はそれぞれマイクロコンピュータ等により構成され、CAN等の通信バス15や専用線を介して互いに情報を送受信する。
【0020】
ダッシュボードのコンビメーションメータ等を要素とする表示・警報部16は、通信バス15を介して車速その他の各種表示データを受信して表示するとともに、下記運転姿勢条件の成立の警報等を運転者の視覚及び/または聴覚に訴えかける態様にて出力する。例えば、ランプを点灯させたり、警報音を発したりする。
【0021】
運転姿勢検出部17は、運転者の運転姿勢が崩れたことを示唆する所定の事象を検出する。所定の事象とは、例えば、運転者の着席の姿勢が変化して車両の運転にふさわしい適正な姿勢から逸脱したこと、シートベルトのバックルが解放されたこと、シートベルトが緩められたこと、運転席のドアのロックが解除されたこと、運転席のドアが開けられたこと、等である。運転姿勢検出部17は、これらのうち少なくとも一つを検出するべく、運転座席の各部が運転者の身体から受けている荷重または圧力を検知するセンサ、シートベルトのバックルの結着/解放(運転者のシートベルトの装着/非装着)の状態を検知するセンサ、運転座席のシートベルトの引き出しまたは巻き取りの量または速度を検知するセンサ、ドアのロック/アンロックの状態を検知するセンサ、ドアが開いているか閉まっているかを検知するセンサ(カーテシスイッチ)等を備える。場合によっては、運転座席に座る運転者の姿勢を撮影するカメラを実装することもある。運転姿勢検出部17は、制御装置1のアイドルストップ制御ECU11に接続している。
【0022】
制御装置1は、運転姿勢検出部17の機能を利用して運転者の運転姿勢を監視する。即ち、運転座席の各部が受けている荷重または圧力、シートベルトの引き出しまたは巻き取りの量や速度、シートベルト装着/非装着の状態の検出、カメラで撮影した運転者の姿勢の画像等に基づき、運転姿勢が崩れているか否かを判断する。例えば、運転者が後部座席の荷物を取るために上半身をひねったりすると、着座状態が左や右に傾いたり、シートベルトが所定量以上余分に引出されたり、カメラで撮影した運転者が正面画像から横向きや後ろ向き等の画像に変化する。制御装置1は、それらの状態変化量に重み付けをした多数決処理等から、運転者の運転姿勢の閾値以上の変化を運転姿勢の崩れと判断する。シートベルトが非装着状態となった場合や、ドアのロックが解除された場合等も、運転姿勢の崩れと判断する。
【0023】
因みに、アイドルストップ中に運転姿勢が崩れたと判断した暁には、通信バス15を介して表示・警報部16に警報報知を指令し、運転者の注意を喚起する。このことは、運転者に対して現在アイドルストップ中であることを知らしめる働きもする。
【0024】
制御装置1のABS制御ECU13は、車輪速センサ18から車速の情報を取得し、また液圧センサ19からブレーキ機構20のマスタシリンダ圧(M/C圧)の情報を取得する。
【0025】
アイドルストップ制御ECU11は、エンジン制御ECU12からエンジン回転数、冷却水温、負圧、スロットル開度といった内燃機関3の運転に係わる情報を受信する。ABS制御ECU13からは車速やマスタシリンダ圧等の情報を受信し、CVT制御ECU14からはロックアップクラッチによるロックアップの有無等の情報を受信する。加えて、運転姿勢検出部17からは、運転者の運転姿勢が崩れていないかどうかを示す情報を受信する。その他、アイドルストップ制御ECU11は、バッテリ2の電圧、電流、温度や、スタータ6のIG−ON信号等をも受信する。
【0026】
図2に、本実施形態の制御装置1、特にアイドルストップ制御ECU11がアイドルストップに際して実行する処理の手順を示す。制御装置1は、アイドルストップ要求が発生したときに(ストップS1)、内燃機関3におけるインジェクタからの燃料噴射(及び、点火)を停止する(ステップS2)。ステップS1では、バッテリ2の電圧が所定以上であり、車速が所定値(例えば、7km/h)以下であり、内燃機関3の冷却水温が所定以上高く、シフトポジションが走行レンジであり(AT車の場合)、ブレーキペダル21が踏み込まれておりマスタシリンダ圧が所定値(例えば、0.7MPa)以上である、等の諸条件がおしなべて成立したことを以て、アイドルストップ要求があったものと判定する。
【0027】
アイドルストップ中、再始動要求が発生したときには(ストップS6)、スタータモータ6のピニオンギアをフライホイール(MT車の場合)またはドライブプレート(AT車の場合)外周のリングギアに噛合させてクランキングを行う(ステップS7)とともに、内燃機関3におけるインジェクタからの燃料噴射(及び、点火)を再開し(ステップS8)、内燃機関3を再始動する。ステップS6では、シフトポジションが非走行レンジに変更された(AT車の場合)、ブレーキペダル21の踏み込みが緩められてマスタシリンダ圧が閾値以下に低下した、アクセルペダルが踏まれた、または内燃機関の停止から所定時間(例えば、3分)が経過した、等の何れかの成立を以て、再始動要求があったものと判定する。
【0028】
ステップS6にて判断される再始動条件の一つである、マスタシリンダ25の液圧と比較される閾値は、運転者の運転姿勢が崩れていない状態では十分に低い値、例えば0.1MPaとする(ステップS5)。これに対し、アイドルストップ中に運転者の運転姿勢が崩れたことを示唆する所定の事象を運転姿勢検出部17を介して検出している場合には(ステップS3)、閾値を上記よりも高い値、例えば0.5MPaに設定する(ステップS4)。その上で、当該閾値とマスタシリンダ圧とを比較し(ステップS6)、マスタシリンダ圧が閾値を下回ったならばアイドルストップを終了して機関3の再始動を開始(ステップS7、S8)するのである。
【0029】
本実施形態では、ブレーキペダル21が踏み込まれていることを含む所定のアイドルストップ条件の成立により内燃機関3のアイドリングを停止し、ブレーキペダル21の踏み込みに基づくブレーキ力であるマスタシリンダ圧が閾値以下に低下したことにより内燃機関3を再始動するアイドルストップ車両の制御装置1であって、運転者の運転姿勢が崩れたことを示唆する所定の事象、即ち座席が運転者の身体から受ける荷重の分布の変動やシートベルトのバックル解放、シートベルトの緩み、運転席のドアのアンロック、ドアの開扉等のうち何れかを検出した場合に、前記閾値をより高い値へと変更することを特徴とする制御装置1を構成した。
【0030】
つまり、アイドルストップ中に運転者が後部座席に置いた荷物を取ろうとして後ろを振り返る等、運転姿勢を一時的に崩している間は、ブレーキペダル21の踏み込みが少しでも緩められたら即座に機関3の再始動を行うものとした。本実施形態によれば、運転者が運転席を立って降車する意思を有している場合において、運転者が実際に降車動作を行う遙か手前で機関3が再始動し、手動による機関停止(IG−OFF)ではないことを運転者に早期に知らせることができる。そして、運転者が降車する正にその時に、運転者の虚を突く形で機関3が再始動することが回避される。閾値を高位値に設定した以上、ブレーキ力が比較的強く働いている段階で機関3が再始動するので、再始動に起因して車両が不意に発進するおそれもなく、十分なフェイルセーフを実現できる。
【0031】
運転者が降車する意思を有していない場合においても、運転姿勢が崩れている状況では即座に、運転姿勢が崩れていない状況では運転者がブレーキペダル21の踏み込みを十分に緩めることで、機関3が確実に再始動する。従って、車両の再発進がもたついて遅れる問題は生じない。
【0032】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、アイドルストップ中、液圧センサ17によりセンシングしたマスタシリンダ圧を閾値と比較することで再始動判定を行っていたが、マスタシリンダ圧の替わりにブレーキペダル21の踏み込み量または踏み込み力をセンシングし、これを閾値と比較することで再始動判定を行うシステムとしてもよいことは言うまでもない。
【0033】
その他、各部の具体的構成や具体的な処理の手順は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…制御装置
11…アイドルストップ制御ECU
17…運転姿勢検出部
19…液圧センサ
3…内燃機関