特許第5748220号(P5748220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748220
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/14 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
   F16H61/14 601Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-239328(P2011-239328)
(22)【出願日】2011年10月31日
(65)【公開番号】特開2013-96489(P2013-96489A)
(43)【公開日】2013年5月20日
【審査請求日】2014年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】大治 直樹
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−119387(JP,A)
【文献】 特開2011−202748(JP,A)
【文献】 特開2002−234340(JP,A)
【文献】 特開2010−071306(JP,A)
【文献】 特開2004−225879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関、トルクコンバータ及びエアコンディショナを搭載した車両において、燃料カットを伴う減速走行中の制御を司るものであって、
エアコンディショナのコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めて非制動時の車両の減速度を推算し、並びに、エアコンディショナが稼働を停止したと想定してコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めずに非制動時の車両の減速度を推算し、
前者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値以下の場合、トルクコンバータのロックアップを維持し、
前者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値を上回るが後者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値以下の場合、エアコンディショナの稼働を停止するかまたはエアコンディショナの出力を抑制するエアコンカット制御を実行してトルクコンバータのロックアップを維持し、
後者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値を上回る場合、トルクコンバータのロックアップを解除する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
内燃機関、トルクコンバータ及びエアコンディショナを搭載した車両において、燃料カットを伴う減速走行中の制御を司るものであって、
エアコンディショナのコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めて非制動時の車両の減速度を推算し、並びに、エアコンディショナが稼働を停止したと想定してコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めずに非制動時の車両の減速度を推算し、
前者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値を上回る場合、または、前者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値以下であるが前者の推定減速度の絶対値と後者の推定減速度の絶対値との差分が判定値を上回る場合に、エアコンディショナの稼働を停止するかまたはエアコンディショナの出力を抑制するエアコンカット制御を実行してトルクコンバータのロックアップを維持する
ことを特徴とする制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される内燃機関及びトルクコンバータのロックアップを制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機を備える車両の減速時、燃費を向上させる目的で、トルクコンバータの機関側入力軸と変速機側出力軸とを直結するロックアップを行い、惰性走行による車軸の回転トルクを内燃機関のクランクシャフトに伝達するようにしている。
【0003】
トルクコンバータのロックアップは、車両の非制動状態での推定される減速度(車速の単位時間あたり変化量、時間微分)の絶対値が閾値を上回ったときに解除する(例えば、下記特許文献を参照)。また、ロックアップの解除により、機関への回転トルクの供給が失われるので、エンジンストールを回避するべく燃料カットを終了して燃料噴射及び燃焼を再開する必要がある。
【0004】
エアコンディショナが作動している場合、そのコンプレッサが負荷となり、エアコンディショナが作動していない場合と比較して車両の減速度の絶対値が大きくなる。このため、車両が減速走行に入ってもロックアップ及び燃料カット制御を早期に打ち切らねばならず、実用燃費の低下やドライブフィーリングの悪化を招くこととなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−202748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題に初めて着目してなされたものであり、エアコンディショナ作動中に車両が減速走行に入ったときのトルクコンバータのロックアップ及び燃料カット制御の実行期間を延長することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、内燃機関、トルクコンバータ及びエアコンディショナを搭載した車両において、燃料カットを伴う減速走行中の制御を司るものであって、エアコンディショナのコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めて非制動時の車両の減速度を推算し、並びに、エアコンディショナが稼働を停止したと想定してコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めずに非制動時の車両の減速度を推算し、前者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値以下の場合、トルクコンバータのロックアップを維持し、前者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値を上回るが後者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値以下の場合、エアコンディショナの稼働を停止するかまたはエアコンディショナの出力を抑制するエアコンカット制御を実行してトルクコンバータのロックアップを維持し、後者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値を上回る場合、トルクコンバータのロックアップを解除することを特徴とする制御装置を構成した。
【0008】
また、本発明では、内燃機関、トルクコンバータ及びエアコンディショナを搭載した車両において、燃料カットを伴う減速走行中の制御を司るものであって、エアコンディショナのコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めて非制動時の車両の減速度を推算し、並びに、エアコンディショナが稼働を停止したと想定してコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めずに非制動時の車両の減速度を推算し、前者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値を上回る場合、または、前者の推定減速度の絶対値がロックアップ解除閾値以下であるが前者の推定減速度の絶対値と後者の推定減速度の絶対値との差分が判定値を上回る場合に、エアコンディショナの稼働を停止するかまたはエアコンディショナの出力を抑制するエアコンカット制御を実行してトルクコンバータのロックアップを維持することを特徴とする制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エアコンディショナ作動中に車両が減速走行に入ったときのトルクコンバータのロックアップ及び燃料カット制御の実行期間を延長することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態における内燃機関の全体構成を示す図。
図2】同実施形態における自動変速機の構成を示す図。
図3】同実施形態におけるエアコンディショナのコンプレッサと内燃機関のクランクシャフトとをつなぐクラッチに通電するための電気回路を示す図。
図4】同実施形態における制御装置が実行する処理の手順を示す図。
図5】本発明の変形例に係る制御装置が実行する処理の手順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。この内燃機関は、筒内直接噴射式のものであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)と、各気筒1内に燃料を噴射するインジェクタ11と、各気筒1に吸気を供給するための吸気通路3と、各気筒1から排気を排出するための排気通路4と、吸気通路3を流通する吸気を過給する排気ターボ過給機5と、排気通路4から吸気通路3に向けてEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを還流させる外部EGR装置2とを具備している。
【0012】
吸気通路3は、外部から空気を取り入れて気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、過給機5のコンプレッサ51、インタクーラ32、電子スロットルバルブ33、サージタンク34、吸気マニホルド35を、上流からこの順序に配置している。
【0013】
排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42、過給機5の駆動タービン52及び三元触媒41を配置している。加えて、タービン52を迂回する排気バイパス通路43、及びこのバイパス通路43の入口を開閉するバイパスバルブであるウェイストゲートバルブ44を設けてある。ウェイストゲートバルブ44は、アクチュエータに制御信号lを入力することで開閉操作することが可能な電動ウェイストゲートバルブであり、そのアクチュエータとしてDCサーボモータを用いている。
【0014】
排気ターボ過給機5は、駆動タービン52とコンプレッサ51とを同軸で連結し連動するように構成したものである。そして、駆動タービン52を排気のエネルギを利用して回転駆動し、その回転力を以てコンプレッサ51にポンプ作用を営ませることにより、吸入空気を加圧圧縮(過給)して気筒1に送り込む。
【0015】
外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものである。外部EGR通路の入口は、排気通路4におけるタービン52の上流の所定箇所に接続している。外部EGR通路の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ33の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク34に接続している。外部EGR通路上にも、EGRクーラ21及びEGRバルブ22を設けてある。
【0016】
図2に、車両が備える自動変速機の例を示す。この自動変速機は、トルクコンバータ7及びベルト式CVT9を具備する無段変速機である。内燃機関が出力する回転トルクは、内燃機関のクランク軸からトルクコンバータ7の入力側のポンプインペラ71に入力され、出力側のタービンランナ72に伝達される。タービンランナ72の回転は、遊星歯車機構を用いた前後進切換装置8を介してCVT9の駆動軸94に伝わり、CVT9における変速を経て従動軸95を回転させる。従動軸95には出力ギヤ101を固設してあり、この出力ギヤ101はデファレンシャル装置のリングギヤ102と噛合して車軸及び駆動輪(図示せず)を回転させる。
【0017】
トルクコンバータ7は、ロックアップ機構(図示せず)を備える。ロックアップ機構は、この分野では既知のもので、トルクコンバータ7の入力軸と出力軸とを相対回動不能に締結するロックアップクラッチと、ロックアップクラッチを断接切換駆動するための油圧を制御するロックアップソレノイドバルブとを要素とする。通常、ロックアップ機構は、自動変速機による変速比の変更を伴わない状況において、トルクコンバータ7の入力側と出力側とを締結する。
【0018】
前後進切換装置8は、そのサンギア81がタービンランナ72と連絡し、リングギア82が駆動軸94と連絡している。プラネタリギア831を支持するプラネタリキャリア83と変速機ケースとの間には、断接切換可能な油圧クラッチたるフォワードブレーキ84を介設している。また、プラネタリキャリア83とサンギア81(または、トルクコンバータ7の出力軸)との間にも、断接切換可能な油圧クラッチたるリバースクラッチ85を介設している。
【0019】
走行レンジのうちのDレンジでは、フォワードブレーキ84を締結し、リバースクラッチ85を切断する。これにより、トルクコンバータ7の出力軸の回転が逆転されかつ減速されて駆動軸94に伝達され、前進走行となる。翻って、Rレンジでは、リバースクラッチ85を締結し、フォワードブレーキ84を切断する。これにより、サンギア81とプラネタリキャリア83とが一体的に回転し、トルクコンバータ7の出力軸と駆動軸94とが直結して後進走行となる。非走行レンジであるNレンジ、Pレンジでは、リバースクラッチ84、フォワードブレーキ85をともに切断する。
【0020】
CVT9は、駆動プーリ91及び従動プーリ92と、両プーリ91、92に巻き掛けられたベルト93とを要素とする。駆動プーリ91は、駆動軸94に固定した固定シーブ911と、駆動軸91上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持させた可動シーブ912と、可動シーブ912の後背に配設された液圧サーボ913とを有しており、液圧サーボ913を操作し可動シーブ912を変位させることを通じて変速比を無段階に変更できる。並びに、従動プーリ92は、従動軸95に固設した固定シーブ921と、従動軸95上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持させた可動シーブ922と、可動シーブ922の後背に配設された液圧サーボ923とを有しており、液圧サーボ923を操作し可動シーブ922を変位させることを通じてトルク伝達に必要なベルト推力を与える。
【0021】
車両が備えるエアコンディショナの冷媒圧縮用コンプレッサ(図示せず)は、既知のそれと全く同様に、内燃機関のクランクシャフトから回転トルクの伝達を受けて回転駆動される。コンプレッサとクランクシャフトとの間には、断接切換可能なマグネットクラッチ61が介在している。エアコンディショナを稼働するときには、このマグネットクラッチ61に車載バッテリ62及び/または発電機(オルタネータ)63からの電流を通電し、これを締結する。逆に、エアコンディショナを稼働しないときには、マグネットクラッチ61に通電せず、クラッチ61を切断する。図3に、マグネットクラッチ61に通電するための電気回路を示す。
【0022】
内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0023】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるエンジン回転信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ33の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するアクセル開度センサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキペダルセンサから出力されるブレーキペダル信号d、吸気通路3(特に、サージタンク34)内の吸気温及び吸気圧(または、過給圧)を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、車載バッテリ62の充電状態を示唆する指標(バッテリ電流、バッテリ電圧、バッテリ温度)を検出するセンサから出力されるバッテリ状態信号f、エアコンディショナが作動しているか否かに関する作動信号g、エアコンディショナの冷媒の圧力を検出する圧力センサから出力される冷媒圧信号h等が入力される。エアコンディショナの作動信号gは、運転者がエアコンディショナをONにするべく手動操作したスイッチから発される信号であったり、オートエアコンシステムを司るオートエアコンECUから発される信号であったりする。
【0024】
出力インタフェースからは、点火プラグ(のイグニッションコイル)に対して点火信号i、EGRバルブ22に対して開度操作信号j、スロットルバルブ33に対して開度操作信号k、ウェイストゲートバルブ44に対して開度操作信号l、インジェクタ11に対して燃料噴射信号m、エアコンディショナのコンプレッサに通電する電気回路上のリレースイッチ64に対してクラッチ締結信号n、ロックアップ機構のロックアップソレノイドバルブに対してロックアップ制御信号o、CVT9に対して変速比制御信号p、発電機63が発電する電圧を制御する電圧レギュレータ65に対して電圧指示信号q等を出力する。
【0025】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、EGR量(または、EGR率)及びEGRバルブ22、エアコンディショナのコンプレッサのON/OFF、トルクコンバータ7のロックアップを行うか否か、CVT9の変速比といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。しかして、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、m、n、o、p、qを出力インタフェースを介して印加する。
【0026】
ECU0は、車両の減速走行の際、アクセルペダルの踏込量が0または0に近い閾値以下となり、トルクコンバータ7のロックアップが許可されている場合に、ロックアップとともにインジェクタ11からの燃料噴射(及び、点火プラグによる点火)を停止する燃料カットを開始する。その後、アクセルペダルの踏込量が閾値を上回り、またはトルクコンバータ7のロックアップが禁止された場合には、ロックアップを解除し、インジェクタ11からの燃料噴射(及び、点火)を再開する。
【0027】
減速走行時におけるトルクコンバータ7のロックアップの可否は、そのときの車両の実車速及び実エンジン回転数、並びに車両の非制動状態での推定される減速度(車速の単位時間あたり変化量、時間微分)を参照して判断する。
【0028】
燃料カット及びロックアップ中、非制動状態において惰性走行する車両の運動エネルギE(J)は、
E=MV2/2
である。M(kg)は車両重量、V(m/s)は車速である。運動エネルギEの時間微分dE/dt(W)は、
dE/dt=MV×(dV/dt)=(dE/dV)×(dV/dt)
である。また、運動エネルギEの時間微分dE/dtは、
dE/dt=−FV−P1−P2
の形をとる。ここで、F(N)は走行抵抗(空気抵抗、転がり抵抗、路面の勾配による抵抗等)、P1(W)はエアコンディショナを作動させることに起因したコンプレッサ等の負荷、P2(W)はエアコンディショナ以外の補機例えば発電機63等を作動させることに起因した負荷や内燃機関及び駆動系(トルクコンバータ7、前後進切換装置8及びCVT9)のメカニカルロス等の総体である。上の二式より、非制動状態での推定される車両の減速度(単位時間あたり減少量)αは、
α=dV/dt=−(F/M)−P1/(MV)−P2/(MV)
となる。また、エアコンディショナが稼働していない状況を想定したときの推定減速度α’は、
α’=−(F/M)−P2/(MV)
となる。減速度α、α’は、負値である。
【0029】
ECU0は、F、P1、P2を演算して、ブレーキ制動を伴わない現在のαを反復的に算出する。Fのうち、走行抵抗は車速から、ころがり抵抗は車両重量から推定的に求められる。また、勾配抵抗は、路面勾配をセンシングして推算するか、あるいは無視する。P1は、エアコンディショナの冷媒圧から推定的に求められる。P2は、補機の作動状態や発電量、メカニカルロスであればエンジン回転数等から推定的に求められる。また、P1及びP2については、CVT9の変速比を乗ずる必要がある。これらの要素F、P1、P2を求める際、ECU0は、メモリに予め記憶保持しているマップデータを参照することがある。
【0030】
図4に、車両の減速走行時においてECU0が実行する処理の手順を示している。ECU0は、車速が所定以上であり(ステップS1)、エンジン回転数が所定以上であり(ステップS2)、現状の車両の推定減速度の絶対値|α|がロックアップ解除閾値以下である(ステップS3)場合に、ロックアップを許可するものとし、トルクコンバータ7のロックアップ機構におけるソレノイドバルブに通電してロックアップクラッチに駆動油圧を供給、ロックアップクラッチを締結したロックアップ状態とする(ステップS4)。ロックアップ解除閾値は、例えば0.07gとする。
【0031】
|α|がロックアップ解除閾値を上回っている場合には、次に、エアコンディショナの稼働に起因する負荷P1を除いた残りの負荷F、P2による推定減速度の絶対値|α’|をロックアップ解除閾値と比較する。この推定減速度の絶対値|α’|がロックアップ解除以下である(ステップS5)ならば、エアコンディショナの稼働を停止するかまたはエアコンディショナの出力を抑制するエアコンカット制御を実行した(ステップS7)上で、ロックアップを許可するものとし、ロックアップクラッチを締結したロックアップ状態とする(ステップS4)。エアコンカット制御の典型は、クランクシャフトとコンプレッサとを繋ぐマグネットクラッチ61を切り離したり、コンプレッサの回転または冷媒の吐出圧力を低下させたりすることである。
【0032】
但し、エアコンカット制御は負荷の変動(軽減)をもたらし、その変動が過大であるとエアコンカット制御の瞬間に車両にショックを与えてしまう。従って、エアコンディショナが稼働している状況での推定減速度の絶対値|α|と、エアコンディショナが稼働していない状況での推定減速度の絶対値|α’|との差Δα(=|α|−|α’|)が所定の判定値以下であり(ステップS6)、エアコンカットをしても大きなショックが発生しないと判断した場合に限り、エアコンカット制御(ステップS7)を行うことが望ましい。ステップS6での判定値は、例えば0.03gとする。
【0033】
|α’|がロックアップ解除を上回り、またはΔαが上記の判定値を上回る場合には、エアコンカット制御を実行しない。そして、ロックアップを禁止するものとし、ロックアップソレノイドへの通電を止め、ロックアップクラッチを切断したロックアップ解除状態とする(ステップS8)。
【0034】
ECU0は、上記ステップS1ないしS8を反復的に実行する。
【0035】
本実施形態では、内燃機関、トルクコンバータ7及びエアコンディショナを搭載した車両において、燃料カットを伴う減速走行中の制御を司るものであって、エアコンディショナのコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めて非制動時の車両の減速度αを推算し、並びに、エアコンディショナが稼働を停止したと想定してコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めずに非制動時の車両の減速度α’を推算し、前者の推定減速度の絶対値|α|がロックアップ解除閾値以下の場合、トルクコンバータ7のロックアップを維持し、前者の推定減速度の絶対値|α|がロックアップ解除閾値を上回るが後者の推定減速度の絶対値|α’|がロックアップ解除閾値以下の場合、エアコンディショナの稼働を停止するかまたはエアコンディショナの出力を抑制するエアコンカット制御を実行してトルクコンバータ7のロックアップを維持し、後者の推定減速度の絶対値|α’|がロックアップ解除閾値を上回る場合、トルクコンバータ7のロックアップを解除する制御装置0を構成した。
【0036】
本実施形態によれば、エアコンディショナ作動中に車両が減速走行に入ったときのトルクコンバータ7のロックアップ及び燃料カット制御の実行期間を実効的に延長することが可能となる。従って、実用燃費の向上に寄与できる。また、ロックアップがより長く継続することで、ドライブフィーリングも良化する。
【0037】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0038】
上記実施形態では、推定減速度|α|がロックアップ解除閾値を上回ったことを条件としてエアコンカット制御を行っていた。
【0039】
これ以外の変形例として、推定減速度|α|がロックアップ解除閾値を上回る、または推定減速度の差分Δαが所定の判定値を上回ることの何れか一方が成立したときに、エアコンカット制御を行うこととしてもよい。
【0040】
図5に、車両の減速走行時においてECU0が実行する処理の変形例の手順を示している。ECU0は、車速が所定以上であり(ステップS1)、エンジン回転数が所定以上であり(ステップS2)、現状の車両の推定減速度の絶対値|α|がロックアップ解除閾値以下である(ステップS3)場合に、ロックアップを許可するものとし、トルクコンバータ7のロックアップ機構におけるソレノイドバルブに通電してロックアップクラッチに駆動油圧を供給、ロックアップクラッチを締結したロックアップ状態とする(ステップS4)。
【0041】
但し、|α|がロックアップ解除閾値以下であるとしても、エアコンディショナが稼働している状況での推定減速度の絶対値|α|と、エアコンディショナが稼働していない状況での推定減速度の絶対値|α’|との差Δαが所定の判定値を上回ったときには(ステップS6)、予防的にエアコンカット制御(ステップS7)を行い、その上でロックアップ状態を維持する(ステップS4)。これは、差分Δαが判定値を上回るほどに拡大してエアコンカット制御不可能となる前にエアコンカットを開始し、ロックアップ期間を可及的に延長する意図である。既に述べた通り、エアコンカットは負荷の変動を通じて車両にショックを与える。差分Δαが判定値を超えた後、推定減速度|α|がさらに増大してエアコンカット閾値に到達した暁には、差分Δαが非常に大きくなっており、エアコンカット制御を実行することが困難であると予想される。ステップS6及びS7を実施するのは、そのためである。
【0042】
|α|がロックアップ解除閾値を上回っている場合には、エアコンディショナが稼働していない状況での推定減速度の絶対値|α’|をロックアップ解除閾値と比較する。この推定減速度の絶対値|α’|がロックアップ解除以下である(ステップS5)ならば、エアコンカット制御(ステップS7)を行い、ロックアップ状態を維持する(ステップS4)。
【0043】
|α’|がロックアップ解除閾値を上回る場合には、エアコンカット制御を実行しない。そして、ロックアップを禁止するものとし、ロックアップソレノイドへの通電を止め、ロックアップクラッチを切断したロックアップ解除状態とする(ステップS8)。
【0044】
ECU0は、上記ステップS1ないしS8を反復的に実行する。
【0045】
本変形例では、内燃機関、トルクコンバータ7及びエアコンディショナを搭載した車両において、燃料カットを伴う減速走行中の制御を司るものであって、エアコンディショナのコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めて非制動時の車両の減速度αを推算し、並びに、エアコンディショナが稼働を停止したと想定してコンプレッサを駆動するために費やされる損失分を含めずに非制動時の車両の減速度α’を推算し、前者の推定減速度の絶対値|α|がロックアップ解除閾値を上回る場合、または、前者の推定減速度の絶対値|α|がロックアップ解除閾値以下であるが前者の推定減速度の絶対値|α|と後者の推定減速度の絶対値|α’|との差分Δαが判定値を上回る場合に、エアコンディショナの稼働を停止するかまたはエアコンディショナの出力を抑制するエアコンカット制御を実行してトルクコンバータ7のロックアップを維持する制御装置0を構成した。
【0046】
本変形例によれば、エアコンディショナ作動中に車両が減速走行に入ったときのトルクコンバータ7のロックアップ及び燃料カット制御の実行期間を実効的に延長することが可能となる。従って、実用燃費の向上に寄与できる。また、ロックアップがより長く継続することで、ドライブフィーリングも良化する。
【0047】
その他各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、車両に搭載される内燃機関及びトルクコンバータのロックアップ制御に利用できる。
【符号の説明】
【0049】
0…制御装置(ECU)
7…トルクコンバータ
図1
図2
図3
図4
図5