(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748257
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】エンジン内部の圧力などを計測するための高温用圧力センサ・エレメント、その製造方法、及びエンジンの部品
(51)【国際特許分類】
G01L 23/22 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
G01L23/22
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2008-557586(P2008-557586)
(86)(22)【出願日】2007年3月1日
(65)【公表番号】特表2009-529126(P2009-529126A)
(43)【公表日】2009年8月13日
(86)【国際出願番号】DE2007000382
(87)【国際公開番号】WO2007101426
(87)【国際公開日】20070913
【審査請求日】2009年11月19日
【審判番号】不服2014-13713(P2014-13713/J1)
【審判請求日】2014年7月15日
(31)【優先権主張番号】102006010804.3
(32)【優先日】2006年3月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500466717
【氏名又は名称】アストリウム・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】ゼーレン・フリッケ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト・ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】アロイス・フリードベルガー
(72)【発明者】
【氏名】エーベルハルト・ローゼ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ツィーマン
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ・シュミット
(72)【発明者】
【氏名】ディミトリ・テリツィーキン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ツィーゲンハーゲン
【合議体】
【審判長】
新川 圭二
【審判官】
酒井 伸芳
【審判官】
樋口 信宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−196081(JP,A)
【文献】
特開平3−63537(JP,A)
【文献】
特開平11−142272(JP,A)
【文献】
特開2000−292295(JP,A)
【文献】
特開2000−315805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 9/04 G01L 23/18 G01L 23/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間(12)が設けられたサブストレート(11)と、
前記内部空間(12)を外部空間から区画しており、作用中に外部圧力が変動したならば変形を生じるようにした、変形可能なメンブレン(13)と、
前記メンブレン(13)上に設けられた、前記メンブレン(13)の変形量を測定するための歪み測定エレメント(14a、14b、14c)と、
前記歪み測定エレメント(14a、14b、14c)と前記メンブレン(13)との間を絶縁するように設けられた絶縁層(5)と、
を備えた、高温用圧力センサ・エレメント(10;20)において、
前記サブストレート(11)、前記メンブレン(13)、及び、前記歪み測定エレメント(14a、14b、14c)が同一の高温安定性材料により製作され、
前記高温安定性材料はニッケル系合金材料であり、前記歪み測定エレメント(14a、14b、14c)は、該ニッケル系合金材料で作られた薄膜導体パターンの形のストレインゲージであり、
前記絶縁層(5)は、窒化ホウ素(BN)、酸化マグネシウム(MgO)、または酸化アルミニウム(Al2O3)を材料として成膜され、或いはまた、以上の材料を組合せて成膜され、
前記内部空間(12)は、前記高温安定性材料と同一材料により製作された封止材(18)によって閉塞されて密閉状態とされている
ことを特徴とする高温用圧力センサ・エレメント。
【請求項2】
前記ニッケル系合金材料は「Haynes 230」(登録商標)であることを特徴とする請求項1記載の高温用圧力センサ・エレメント。
【請求項3】
更に、前記サブストレート(11)、前記メンブレン(13)、及び、前記歪み測定エレメント(14a、14b、14c)が嵌装されるハウジングを備え、該ハウジングも前記高温安定性材料と同一材料で製作されていることを特徴とする請求項1又は2記載の高温用圧力センサ・エレメント。
【請求項4】
前記変形可能なメンブレン(13)と、前記サブストレート(11)とが、ワンピース部品として形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の高温用圧力センサ・エレメント。
【請求項5】
タービン部品に一体的に組込まれることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の高温用圧力センサ・エレメント。
【請求項6】
前記絶縁層(5)の材料及び成膜方法と同一の材料及び成膜方法により前記歪み測定エレメント(14a、14b、14c)上に成膜したパッシベーション層を備えていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の高温用圧力センサ・エレメント。
【請求項7】
前記絶縁層(5)は、前記高温安定性材料の熱膨張係数と近似した熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の高温用圧力センサ・エレメント。
【請求項8】
前記絶縁層(5)は、層の成膜後に酸化処理またはアニール処理が施されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の高温用圧力センサ・エレメント。
【請求項9】
前記絶縁層(5)は、スパッタリング法、蒸着法、またはゾルゲル法を用いて、前記メンブレン(13)上に成膜されたものであることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の高温用圧力センサ・エレメント。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項記載の高温用圧力センサ・エレメントの使用方法において、エンジンの高温用圧力センサに用いることを特徴とする使用方法。
【請求項11】
エンジン部品において、該エンジンの内部の圧力を計測するために請求項1乃至9の何れか1項記載の圧力センサ・エレメントが該エンジン部品に一体的に組込まれていることを特徴とするエンジン部品。
【請求項12】
内部空間(12)が設けられたサブストレート(11)を用意するステップと、
前記サブストレート(11)上に、絶縁層(5)を成膜するステップと、
前記絶縁層(5)上に、歪み測定エレメント(14a、14b、14c)を形成するための有感層を成膜してパターニングを施すステップと、
前記サブストレート(11)の一部分によって、変形可能なメンブレン(13)を形成し、結果として、前記メンブレン(13)の変形量を測定するための前記歪み測定エレメント(14a、14b、14c)を前記メンブレン(13)上に設けるステップと、
を含む、高温用圧力センサ・エレメントの製造方法において、
前記サブストレート(11)、前記メンブレン(13)、及び、前記歪み測定エレメント(14a、14b、14c)を同一の高温安定性材料により製作し、
前記高温安定性材料はニッケル系合金材料であり、前記歪み測定エレメント(14a、14b、14c)を、該ニッケル系合金材料で作られた薄膜導体パターンの形のストレインゲージとして製作し、
前記絶縁層(5)を、窒化ホウ素(BN)、酸化マグネシウム(MgO)、または酸化アルミニウム(Al2O3)を材料として成膜し、或いはまた、以上の材料を組合せて成膜し、
前記内部空間(12)は、前記高温安定性材料と同一材料により製作された封止材(18)によって閉塞し密閉状態とする
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
「Haynes 230」(登録商標)をスパッタリング・ターゲットとして使用することによって、当該材料を、スパッタリング法により成膜する薄膜の材料とすることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記サブストレート(11)に背面側から加工を施して、前記サブストレート(11)によって前記変形可能なメンブレン(13)を形成し、もって、前記サブストレート(11)に凹部が形成されるようにすることを特徴とする請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
前記メンブレン(13)の背面(17)に前記内部空間(12)が設けられ、且つ、計測が行われているときに前記内部空間(12)が閉塞されて密閉状態とされているように、前記サブストレート(11)を形成することを特徴とする請求項12乃至14の何れか1項記載の方法。
【請求項16】
前記サブストレート(11)、前記メンブレン(13)、及び、前記歪み測定エレメント(14a、14b、14c)からなるセンサ・エレメントをハウジングに直に溶接して取付けることを特徴とする請求項12乃至15の何れか1項記載の方法。
【請求項17】
請求項1乃至9の何れか1項記載の高温用圧力センサ・エレメント(10;20)の使用方法において、前記高温安定性材料と同一材料により、または、ニッケル系合金により製作されているエンジンに用いることを特徴とする使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載した種類の高温用圧力センサ・エレメントと、請求項
11のエンジンの部品と、請求項
12の前提部分に記載した種類の高温用圧力センサ・エレメントの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
圧力センサは、様々な技術分野において気体ないし液体の圧力を計測するために用いられている。圧力を計測しようとする媒体の状態によっては、圧力センサに非常に大きな応力が作用することも多々ある。また、圧力センサに加わる圧力が甚だしく変動することも少なくない。そのため、圧力センサは、1つには、大きな応力に耐え得ることが要求されており、もう1つには、高精度の計測値を出力し得ることが要求されている。
【0003】
特に、例えばジェットエンジンやロケットエンジンなどのエンジンの内部の圧力を計測する場合には、圧力センサが、そのエンジンの内部の非常な高温に耐えられると同時に、大きな変動が存在している過酷な環境中にあってもなお計測誤差の小さなものであることが必要とされる。このことは、例えば原動機のような内燃機関をはじめとする、その他の用途に用いる場合にも言えることである。
【0004】
公知の圧力センサとして、メンブレンを備え、そのメンブレンが、そのメンブレンの両側の圧力差に応じて変形するようにしたものがある。そして、メンブレンの変形量を、例えばそのメンブレンの一方の側に取付けたピエゾ抵抗素子やピエゾ電気素子などで測定するようにしている。
【0005】
しかるに、大きな熱応力が作用する場合には、それによって圧力センサのメンブレンに熱歪みが発生することが、即ち、枠体ないし支持体に取付けられているメンブレンがゆがむということが問題となる。その結果として、計測値の精度が低下したり、偽計測値が発生したりすることがあり、これらは特に、温度の変動が大きい場合に起こりがちである。更に、マイクロメカニクスの分野で一般的に用いられている、シリコン製のメンブレンでは、高温下でクリープが発生することも問題となる。
【0006】
ハウジングの製作材料としては多くの場合、熱膨張係数の大きな金属材料が用いられるのに対して、センサ・エレメント及びその構成要素の製作材料としては、熱膨張係数が金属材料と比べて明らかに小さいシリコン、シリコンカーバイド、セラミックスなどが用いられる。そのため、高温下での供用中に、両者の熱膨張量が異なることによって熱歪みが発生し、その熱歪みがメンブレンに伝達される。そして、この熱歪みのために偽計測値信号が発生する。
【0007】
ドイツ特許第196 44 830 C1号公報に示されている圧力センサは、ハウジングとピアゾ電気素子(圧電素子)とを備えており、そのハウジングの内部空間がメンブレンによって閉塞されている。メンブレンが変形すると、ピアゾ電気素子がその変形量に応じた信号を発生する。メンブレンには更に、可撓性を有する補助的な測定エレメントが結合されており、この補助的な測定エレメントの変形量を測定することによって、メンブレンに熱歪みが作用した場合でも偽計測値が発生せず、甚だしい温度変動が存在している場合でも高精度で信頼性の高い計測が行えるようになっている。しかしながらこの方式には、製造コストが高くならざるを得ないという短所が付随している。
【0008】
高温下の熱歪みを測定するには、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などを用いるとよい。このインジウム錫酸化物について記載した論文としては、「"High temperature stability of indium tin oxide thin films", Otto J. Gregory et al., Thin Solid Films 406 (2002) 286-293」や、「"A self-compensated ceramic strain gage for use at elevated temperatures", Otto J. Gregory, Q. Luo, Sensors and actuators A 88 (2001) 234-240」などがある。
【特許文献1】ドイツ特許第196 44 830 C1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、例えば航空機用エンジンの内部の温度のように400℃を優に超える高温下において圧力を計測するのに適した高温用圧力センサであって、高精度の計測値が得られ、しかも長寿命の高温用圧力センサを提供することにある。また更に、かかる高温用圧力センサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る圧力センサは特にエンジンに用いるのに適した圧力センサであり、内部空間が設けられたサブストレートと、センサの供用中に前記内部空間を外部空間から区画しており、外部圧力が変動したならば変形を生じるようにした、変形可能なメンブレンと、前記メンブレン上に設けられた、前記メンブレンの変形量を測定するための歪み測定エレメントとを備えており、前記サブストレート、前記メンブレン、及び、前記歪み測定エレメントが同一の高温安定性材料により製作されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、400℃を優に超える例えば約1000℃の高温下でも圧力を計測することが可能である。更に、それより低い温度においても、従来公知の圧力センサと比べてより長い寿命を持ち得る。それゆえ本発明に係る圧力センサは、航空機用エンジンやロケットエンジンに用いるのに特に適したものである。この高温用圧力センサ・エレメントは特に優れた高温安定性を有するものであり、それは、この高温用圧力センサ・エレメントの複数の構成要素の製作材料が同一であり、そのため、熱膨張係数の相違により熱歪みが発生するということがないからである。従って、有感層に温度変化が生じても、歪み測定エレメントがサブストレート即ち基板と異なる膨張量の熱膨張を生じて熱歪みが発生するということがない。
【0012】
このように、本発明においては、絶縁層を除いた圧力センサ・エレメントの全ての構成要素が同一材料によって製作され、例えば、同一の高温安定性合金材料によって製作される。更に加えて、ハウジングも同一の合金材料で製作するとよい。それによって、熱歪みの発生を最小限に抑えることができる。また、この高温安定性合金材料は更に、様々な種類の腐蝕性雰囲気に対する耐蝕性を有すると共に、高温下においても広い弾性領域を有するものである。また更に、その比抵抗は、温度依存性の非常に小さなものである。エンジンやハウジングなどに用いられている高温安定性ニッケル系合金として「Haynes 230」(登録商標)があり、これをスパッタリング・ターゲットとして使用することによって、当該材料を、このようなマイクロ・システム技術においてスパッタリング法により成膜する薄膜の材料とすることが好ましい。
【0013】
この圧力センサ・エレメントの構成要素及びハウジングは、このハウジングを螺合させて取付けることができるように構成するエンジンの壁部と同一材料で製作することが好ましい。
【0014】
前記歪み測定エレメントは、有感層から成るものとするとよく、また特に、薄膜導体パターンの形のストレインゲージとして構成するとよい。それによって、製造工程が簡明となり、迅速な製造が可能となり、製造コストを低減することができる。
【0015】
特に、前記変形可能なメンブレンと、前記サブストレートとは、ワンピース部品として形成するとよい。これによって、より優れた高温安定性が得られ、熱歪みが更に低減される。また、これによって得られる更なる利点として、高温用圧力センサ・エレメントを、マイクロメカニクス技術を用いて製造し得るということがある。
【0016】
また更なる利点として、この高温用圧力センサ・エレメントは、例えばタービン翼などのタービン部品に一体的に組込むのに適した構成としているということがある。これは、この高温用圧力センサ・エレメントが、非常にコンパクトな構造とし得ることによるものであり、また、ハウジングを備えない構造とし得ることによるものである。例えば、前記サブストレートの前記内部空間は、この圧力センサ・エレメントをタービン翼に組込んだ時点ではじめて完全に閉塞されるようにすることができ、即ち、タービン翼の一部分の表面によって完全に閉塞されるようにすることができる。
【0017】
ただし、前記内部空間が、封止材によって閉塞されて密閉状態とされるようにしてもよく、特に、この封止材も、前記高温安定性材料と同一材料から成るものとし、そして、例えば溶接によって、また特に電子ビーム溶接法によって、この封止材を前記サブストレートに接合するようにするとよい。これによって、前記メンブレンの背後の圧力である前記内部空間の圧力を基準圧力に設定することができ、例えばそれを負圧に設定することも可能となる。
【0018】
前記メンブレンと前記歪み測定エレメントとの間に、電気絶縁のための絶縁層を形成するとよい。この絶縁層は、例えば、窒化ホウ素(BN)、酸化マグネシウム(MgO)、または酸化アルミニウム(Al
2O
3)によって、或いは、それら材料を組合せて成膜するとよい。
【0019】
前記絶縁層を前記メンブレン上に成膜するには、スパッタリング法を用いるとよい。ただし、前記絶縁層を成膜するのに、ゾルゲル法や、蒸着法を用いるようにしてもよく、また更に、成膜した絶縁層に酸化処理またはアニール処理を施して改質するようにするのもよい。
【0020】
更に、前記歪み測定エレメント上に、前記絶縁層の材料及び成膜方法と同一の材料及び成膜方法により成膜したパッシベーション層を備えるようにするのもよい。そうすることによって、前記歪測定エレメントの寿命を更に延長することができる。
【0021】
また、前記高温用圧力センサ・エレメントは、例えば航空機用エンジンやロケットエンジンなどのエンジンの高温用圧力センサに用いるとよい。これによって、非常に過酷な環境条件下においても、その環境中の圧力を高精度で、高い信頼性をもって計測することが可能となる。また、前記高温用圧力センサ・エレメントは、タービン翼に一体的に組込むのに特に適したものである。
【0022】
本発明の1つの局面によれば、高温用圧力センサの製造方法が提供され、この製造方法は、サブストレートを用意するステップと、前記サブストレート上に絶縁層を成膜するステップと、前記絶縁層上に歪み測定エレメントを設けるステップと、場合によっては前記絶縁層の材料及び成膜方法と同一の材料及び成膜方法によりパッシベーション層を成膜するステップと、前記サブストレートの一部分によって、変形可能なメンブレンを形成し、それに続いて、前記メンブレンの変形量を測定するための前記歪み測定エレメントを前記メンブレン上に設けるステップとを含み、前記サブストレート、前記メンブレン、及び、前記歪み測定エレメントを同一の高温安定性材料により製作することを特徴としている。
【0023】
また、前記サブストレートに背面側から加工を施して、前記サブストレートによって前記変形可能なメンブレンを形成し、もって、前記サブストレートに凹部が形成されるようにするとよい。
【0024】
前記サブストレートは、例えば、前記メンブレンの背面に内部空間が設けられ、計測が行われているときに前記内部空間が閉塞されて密閉状態とされているように、該サブストレートを形成するようにするとよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しつつ、本発明をその具体例に即して説明して行く。
【0026】
図1に示したのは、400℃を超える高温下においても圧力の計測が可能な、本発明に係る高温用圧力センサ・エレメント10である。この高温用圧力センサ・エレメント10(ないしは「圧力センサ」)は、サブストレート11を備えており、このサブストレート11には、内部空間12が画成されている。更に、変形可能なメンブレン13を備えており、このメンブレン13は、この圧力センサの供用中に、内部空間12を外部空間から区画しており、内部空間12の圧力に対して外部圧力が変動したならば変形を生じるようにしたものである。また、この圧力センサの供用中には、内部空間12は完全に閉塞された状態にある。この変形可能なメンブレン13上に、ストレインゲージ14a、14b、14cを形成している導体パターンが形成されており、それらストレインゲージ14a、14b、14cによって、このメンブレン13の変形量を測定するための歪み測定エレメントが構成されている。更に、それらメンブレン13、サブストレート11、及び、歪み測定エレメント14a、14b、14cは、同一の高温安定性材料で製作されており、その材料は好ましくは合金材料であり、例えばニッケル系合金などを用いるとよく、好適なニッケル合金としては、例えば「Haynes 230」(登録商標)などがある。
【0027】
以上の構成によれば特に、計測誤差の原因となる熱歪みは、高温下においても小さな熱歪みしか発生せず、それは、この圧力センサ・エレメントの複数の構成要素の熱膨張係数が互いに同一だからである。これに対して、互いに熱膨張係数の異なる複数種類の材料を使用した場合には、比較的少ない回数の温度サイクルを経ただけで、材料の破壊が生じるおそれがある。
【0028】
ニッケル系合金である「Haynes 230」(登録商標)の利点は、高温安定性を有すると共に、様々な種類の腐蝕性雰囲気に対する耐蝕性を有することに加えて、更に、高温下においても広い弾性領域を有することにある。
【0029】
メンブレン13と歪み測定エレメント14a、14b、14cとの間に、絶縁層5が設けられている。これによって、歪み測定エレメント14a、14b、14cの形に構成されている導電性を有するセンサ・エレメントが、図示した好適な実施の形態では導電性を有する合金材料で製作されているメンブレン13から絶縁されている。
【0030】
特に、高温下における熱歪みをより効果的に排除するために、絶縁層5は、その厚さがメンブレン13の厚さより薄くなるように成膜してある。更に、絶縁層5の材料は、メンブレン13及びサブストレート11の製作材料である合金材料の熱膨張係数とできるだけ近似した熱膨張係数を有する材料とすべきである。ただし、圧力センサの動作温度領域の全域において両者の熱膨張係数が完全に一致するようにすることは殆ど不可能であるが、それでもなお、絶縁層5の厚さを比較的薄くすることによって、熱歪みを大幅に軽減することができる。
【0031】
図示した実施の形態では、絶縁層5は窒化ホウ素(BN)を材料として、スパッタリング法を用いて成膜したものである。これによって、高温下でも良好な絶縁性能が得られるようにしている。更に、酸化マグネシウム(MgO)や酸化アルミニウム(Al
2O
3)を材料として使用するのもよく、これらの材料を使用する場合には、スパッタリング法、蒸着法、それにゾルゲル法などを用いて絶縁層を成膜することができ、成膜後に酸化処理やアニール処理を施して層の改質を行うとようにするのもよく、また更に、以上の材料を組合せて使用するようにしてもよい。
【0032】
内部空間12は、封止材18(
図2参照)を接合して閉塞するようにしてもよい。また、その接合には、例えば電子ビーム溶接法などを用いるとよい。封止材を接合して密閉状態としたならば、そうした時点で、完璧に機能し得る圧力センサが完成している。ただし、例えばタービンブレードなどに直に組込んで一体化するのでないならば、その形態のままで使用するのではなく、それを更にハウジングの中に嵌装するようにする。
【0033】
サブストレート11とメンブレン13とは、一体化したワンピース部品として形成されている。従って、メンブレン13は、サブストレート11の一部分によって形成されており、一方、サブストレート11は、内部空間12がメンブレン13によって外部空間から区画されるように形成されている。
【0034】
図示例では、歪み測定エレメント14a、14b、14cは薄膜導体パターンの形のストレインゲージとして構成されている。メンブレン13が変形したならば、歪み測定エレメント14a、14b、14cの抵抗値が変化することから、メンブレン13の外側に作用している圧力に対応した信号が、それら歪み測定エレメントから検出ユニットへ供給されるようになっている。
【0035】
以上に説明した第1の好適な実施の形態に係る圧力センサ10は、例えばタービン翼などのタービン部品に一体的に組込むのに適した構成とされている。ただし、この圧力センサ10は一般的に、いかなる種類の部品であろうとも、その部品がおかれている環境内の圧力を測定するために、その部品に一体的に組込み得るものである。また、この圧力センサ10をタービン部品などに一体的に組込む場合には、そのタービン部品などに組込まれた時点ではじめて、内部空間12が閉塞されて密閉状態となり、そして、圧力センサ10の正面16だけが、圧力を測定しようとする外部空間との境界を画成するようになる。また、それには、内部空間12の背面が開放されていて、その周囲がサブストレート11によって画成されているようにしておけばよく、換言するならば、内部空間12がサブストレート11の凹部を形成しているようにしておけばよい。このように、圧力センサ10を単一のサブストレート11で構成してあり、そして、そのサブストレート11が、メンブレン13を形成すると共に、内部空間12をカプセル形の空間として画成するようにしてあるため、非常にコンパクトな構造となっており、それによってこの圧力センサ10は、例えばタービン翼などの比較的厚さの薄い構造体にも、完全に一体化して組込み得るものとなっている。ただし、この第1の好適な実施の形態に係る圧力センサ10は、これを独立した圧力センサ用のハウジングの中に嵌装して接合するようにしてもよい。そうした場合には、圧力センサの形状に合わせて形成されるそのハウジングによって、内部空間12が閉塞されて密閉状態とされることになる。
【0036】
この高温用圧力センサ・エレメント10を、タービン翼などのエンジン部品に一体的に組込むことを予定している場合には、この圧力センサ10の材料である高温安定性材料をそのエンジン部品の材料と同一とすることが好ましく、そうすれば、この圧力センサ10を、ないしは、この圧力センサ10のハウジングを、そのエンジン部品に螺合させて取付ける場合に好都合となる。
【0037】
圧力を計測しているときには、内部空間12内の圧力が基準圧力としてメンブレン13の背面17に作用しており、そのため、メンブレン13の外面に作用している圧力が変化することによって、メンブレン13が変形を生じるようになっている。
【0038】
サブストレート11、メンブレン13、及び、歪み測定エレメント14a、14b、14cが同一材料で製作されているため、この圧力センサ・エレメント10は、いかなる中間層も介在させることなくハウジングに直に溶接して取付けることが可能であり、それによって、熱膨張係数が異なることに起因する悪影響を回避できるようになっている。
【0039】
図2に示したのは、第2の好適な実施の形態に係る高温用圧力センサ20である。この圧力センサ20の構造は、上で説明した第1の実施の形態に係る圧力センサ10の構造に対応したものであるが、ただし、それに加えて更に、封止材18を備えている点が異なっている。封止材18は、サブストレート11の背面に配設されており、この封止材18によって内部空間12が閉塞されて密閉状態とされている。更に、この封止材18も、サブストレート11の材料と同一の高温安定性材料で製作されており、溶接によってサブストレート11に接合されている。以上の構成とすることで、製造の時点で、内部空間の圧力を所定の基準圧力に設定することができ、また特に、負圧に設定することが可能となっている。またこれによって、完全に動作可能な圧力センサ・カプセルが得られており、この圧力センサ・カプセルは、その全ての構成要素の熱膨張係数が互いに非常に近似したものとなっている。
【0040】
図3に示したのは、本発明にかかる圧力センサ10、20のメンブレン13上に歪み測定エレメントとして設けられるストレインゲージのパターンの1つの具体例である。ストレインゲージ14a、14b、14cはジグザグ形状にパターニングされて、メンブレン13上に薄膜導体パターンとして形成されている(
図1及び
図2参照)。それらストレインゲージのパターンの形状は、また特に、その外周領域の部分は、メンブレン13の表面領域に略々対応しており、即ち、円弧形に形成されて外周領域に位置している2つの外側ストレインゲージ14a、14cは、メンブレン13の外周領域においてこのメンブレン13上に設けられており、一方、ストレインゲージ14bは、メンブレン13の中央領域に設けられている。
【0041】
本発明に係る高温用圧力センサ・エレメントを製造するには、先ず、高温安定性を有する材料から成るサブストレートを用意する。上で説明した実施の形態では、その材料として合金材料を使用しており、特に好ましいのはニッケル系合金である。続いて、そのサブストレート上に絶縁層を成膜し、それには例えば蒸着法などを用いればよい。その絶縁層上に有感層を成膜し、この有感層は歪み測定エレメント14a、14b、14cを形成する層である。有感層を成膜するにはスパッタリング法を用いるとよく、その際のスパッタリング・ターゲットの材料としては、サブストレート11及びメンブレン13の製作材料であるニッケル系合金を使用するとよく、更に、そのニッケル系合金を、ハウジングの製作材料としても使用するとよい。また、歪み測定エレメントの表面に、絶縁層の材料及び成膜方法と同一の材料及び成膜方法によって、パッシベーション層を成膜するのもよい。それによって、歪み測定エレメントの寿命を延長することができる。パッシベーション層には、接続部19に対応した領域に孔を形成して、接続部19を露出させておく。続いて、サブストレート11にメンブレン13を形成し、それには、例えば研削加工法、超音波蝕刻加工法、レーザビーム加工法、それに電子ビーム蒸散加工法などを用いて、サブストレートに背面側から加工を施すようにすればよい。この加工によって、薄膜導体パターンとしての有感層が既に成膜されているサブストレートの一部分によって、メンブレンが形成されることになる。別法として、先にメンブレンを形成し、しかる後に絶縁層及び有感層を成膜するようにしてもよい。
【0042】
更に、サブストレート上にプラチナ薄膜を成膜してパターニングを施すことによって、ジグザグ形状のプラチナ薄膜パターンを形成し、それによって温度センサを構成するのもよい。プラチナ薄膜を成膜してパターニングを施す領域は、メンブレン13の領域とは異なった領域とするのがよく、即ち、ストレインゲージのパターンが形成される領域の外側の領域とするのがよい。こうして温度センサを構成することによって、温度補償を行うことが可能となり、そして温度補償を行うことによって、特に高温下において、より良好な計測値が得られるようになる。この温度補償は特に、ストレインゲージの感度係数の温度依存性に関連したものである。この温度依存性は比抵抗が変化することに因るものであって、この比抵抗に関する温度補償は比較的容易であり、なぜならば、ニッケル系合金である「Haynes 230」(登録商標)は、その比抵抗の温度依存性が、非常に小さいからである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の第1の好適な実施の形態に係る高温用圧力センサ・エレメントを示した図である。
【
図2】封止材により閉塞した、第2の好適な実施の形態に係る高温用圧力センサ・エレメントを示した図である。
【
図3】メンブレン上に設けられる歪み測定エレメントの具体例を示した図である。