(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748265
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】ダイレクト成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
B29C45/14
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-57768(P2011-57768)
(22)【出願日】2011年3月16日
(65)【公開番号】特開2012-192606(P2012-192606A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2013年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩介
【審査官】
増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−159716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する樹脂製の基材に対して金型を押し当て、この押し当て状態のまま金型から凹部に溶融樹脂を射出することで、所望する形状の樹脂部材を基材に対してダイレクトに成形する方法であって、
基材における樹脂部材の射出部位の縁に形成されているリブの先端を折り曲げるように、この基材に対して金型を押し当てる第1の工程と、
この第1の工程によって折り曲げたリブの折り曲げ状態のまま金型から溶融樹脂を射出する第2の工程とを備えており、
リブは、溶融樹脂を射出する凹部の側面を成すように形成されていることを特徴とするダイレクト成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載のダイレクト成形方法であって、
基材における樹脂部材の射出部位は、非射出部位に対して凹み状に形成されていることを特徴とするダイレクト成形方法。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のダイレクト成形方法であって、
リブは、その縦断面が三角形を成すように形成されており、
この三角形の底辺に対する垂線のうち頂点を通る垂線と、射出部位側の斜辺とによって形成される第1の角度と、同頂点を通る垂線と非射出部位側の斜辺とによって形成される第2の角度とは、第1の角度の方が小さくなるように設定されていることを特徴とするダイレクト成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイレクト成形方法に関し、詳しくは、樹脂製の基材に対して金型を押し当て、この押し当て状態のまま金型から溶融樹脂を射出することで、所望する形状の樹脂部材を基材に対してダイレクトに成形する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、
図5に示すように、樹脂製の基材116に対して金型140を押し当て(
図5(A)、
図5(B)参照)、この押し当て状態のまま金型140から溶融樹脂mを射出することで(
図5(C)参照)、所望する形状の樹脂部材120を基材116に対してダイレクトに成形(
図5(D)参照)する方法が既に知られている。これにより、例えば、基材116であるカウルルーバーに対し樹脂部材120であるシール体(例えば、遮蔽板)を容易に成形できる。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−355848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来技術では、基材116において、金型140が押し当てられる面が単純な平面でなければ、基材116と金型140との間に形成される僅かな隙間から射出した溶融樹脂mが漏れ出し、この漏れ出した溶融樹脂mがバリBとなって残ることがあった。
図5(D)において、Bが残ったバリを示している。
【0006】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、金型が押し当てられる面が単純な平面でなくても、バリを残すことなく、基材に対し樹脂部材を容易に成形できるダイレクト成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するためのものであって、以下のように構成されている。請求項1に記載の発明は、
凹部を有する樹脂製の基材に対して金型を押し当て、この押し当て状態のまま金型から
凹部に溶融樹脂を射出することで、所望する形状の樹脂部材を基材に対してダイレクトに成形する方法であって、基材における樹脂部材の射出部位の縁に形成されているリブの先端を折り曲げるように、この基材に対して金型を押し当てる第1の工程と、この第1の工程によって折り曲げたリブの折り曲げ状態のまま金型から溶融樹脂を射出する第2の工程とを備えて
おり、リブは、溶融樹脂を射出する凹部の側面を成すように形成されていることを特徴とする方法である。
この方法によれば、従来技術と同様に、基材に対し樹脂部材を容易に成形できる。また、リブを備えているため、基材と金型との間に面精度の差が生じていても、これらの隙間から射出した溶融樹脂が漏れることがない。したがって、従来技術と異なり、漏れ出した溶融樹脂がバリとなって残ることがない。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のダイレクト成形方法であって、基材における樹脂部材の射出部位は、非射出部位に対して凹み状に形成されていることを特徴とする方法である。
この方法によれば、リブの先端を折り曲げるとき、この先端を内側に向けて折り曲げることができる。したがって、リブの先端が外側に折り曲げられることがないため、出来上がりの見栄えを向上させることができる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1〜2のいずれかに記載のダイレクト成形方法であって、リブは、その縦断面が三角形を成すように形成されており、この三角形の底辺に対する垂線のうち頂点を通る垂線と、射出部位側の斜辺とによって形成される第1の角度と、同頂点を通る垂線と非射出部位側の斜辺とによって形成される第2の角度とは、第1の角度の方が小さくなるように設定されていることを特徴とする方法である。
この方法によれば、リブの先端を折り曲げるとき、より確実に、この先端を内側に向けて折り曲げることができる。したがって、リブの先端が外側に折り曲げられることがないため、より確実に、出来上がりの見栄えを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る車両のフロント側の外観斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のカウルルーバーの緩衝構造の斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3の緩衝構造の成形工程を説明する図である。
【
図5】
図5は、従来技術におけるカウルルーバーの緩衝構造の成形工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1〜4を用いて説明する。なお、以下の説明にあたって、上、下、前、後、左、右とは、上述した図に記載した、上、下、前、後、左、右の方向、すなわち、自動車10を基準にしたときの上、下、前、後、左、右の方向を示している。
【0012】
図1〜3に示すように、自動車10のフロントガラス12とエンジンフード14との境には、カウルルーバー16が配置されている(
図1参照)。このカウルルーバー16は、自動車10の前後方向に所定の幅を有し、左右方向に自動車10の幅にわたって延びている。また、このカウルルーバー16はポリプロピレンなどの樹脂材による一体成形品であり、図示しない結合手段によって自動車10のボデー側とフロントガラス12の下部とにそれぞれ結合されている。
【0013】
なお、このカウルルーバー16における前後方向の領域については、エンジンフード14の内側に入り込んでいる部分16aと、フロントガラス12とエンジンフード14との間の隙間を被っている部分16bとに区別されている(
図2参照)。
【0014】
このカウルルーバー16において、エンジンフード14の内側に入り込んでいる部分16aの両サイド近くに位置する座部18、18には、シール体20、20が一体的に結合されている。このシール体20は、エラストマなどの柔軟に弾性変形する樹脂材で平板状に形成されている(
図3参照)。このシール体20の上縁部24は、エンジンフード14のインナパネル(図示しない)に干渉している。つまり、シール体20の上縁部24とエンジンフード14のインナパネルとの隙間がゼロに設定されている。
【0015】
したがって、シール体20は、エンジンフード14のインナパネルとカウルルーバー16との間の気密を保持することができる。この結果、自動車10のエンジンルーム内で生じた熱が通気ダクト(図示省略)を通って車室内に入り込むのも阻止し、車室内の空調性能を高めることができる。
【0016】
また、シール体20は、柔軟に弾性変形する樹脂材によって平板状に形成されているので、後述のようにエンジンフード14に所定値を超える外力が作用したときには、シール体20が柔軟に変形し衝撃力を緩衝することになる。シール体20は、その基部22が座部18の上面に一体的に結合され、かつ、座部18と一体のサポート部30によって相互の結合が補強されている。
【0017】
さて、シール体20は、その成形と同時にカウルルーバー16の座部18に対して一体的に結合するといった直接成形(ダイレクト成形)の工法が採られている。以下に、
図4を参照して、この工法(ダイレクト成形方法)の詳細を説明していく。
【0018】
図4(A)で示すように、カウルルーバー16における座部18の上面には、サポート部30の原形となる左右に対を成すリブ32が予め座部18に形成されている。なおこのリブ32は、左右方向だけでなく、前後方向にも対を成すように形成されている。
【0019】
なお、この座部18の上面のうち、四方をリブ32で囲まれた上面(以下、単に、「被射出面18a」と記す)が、特許請求の範囲に記載の『基材における樹脂部材の射出部位』に相当する。なお、この被射出面18aは、
図4(A)の一部拡大図からも明らかなように、座部18の上面のうち被射出面18aを除いた上面に対して凹み状(「凹部34」と記す)に形成されている。
【0020】
また、リブ32は、
図4(A)の一部拡大図からも明らかなように、その縦断面が三角形を成すように形成されている。この三角形の底辺(b−c線)に対する垂線のうち頂点aを通る垂線Hと、射出部位側の斜辺(a−b線)とによって形成される第1の角度θ1と、同頂点aを通る垂線Hと非射出部位側の斜辺(a−c線)とによって形成される第2の角度θ2とは、第1の角度θ1の方が小さくなるように設定されている。
【0021】
次に、
図4(B)で示すように、シール体20を成形するための金型40をリブ32に対して上側から押し付けた状態でセットする。このとき、リブ32の先端が折り曲げられるまで、金型40をリブ32に押し付ける。この記載が、特許請求の範囲に記載の「第1の工程」に相当する。
【0022】
そして、
図4(C)で示すように、この押し付け状態のまま、金型40に溶融樹脂Mを射出によって充填させる。この記載が、特許請求の範囲に記載の「第2の工程」に相当する。
【0023】
このように充填させると、押し付けられたリブ32からサポート部30が形成されることとなる。充填させた溶融樹脂Mが冷却硬化した後に、金型40の押し付け状態を解除して型開きを行う。そして、サポート部30の内部に充填された溶融樹脂Mはシール体20の基部22となり、座部18の上面およびサポート部30の内面と一体的に結合されている。
【0024】
本発明の実施例に係るダイレクト成形は、上述した方法によって行われている。この方法によれば、リブ32の先端が折り曲げられるまで、金型40をリブ32に対して上側から押し付けた状態でセットし、この押し付けたセット状態のまま、金型40に溶融樹脂Mを射出によって充填させている。そのため、従来技術と同様に、カウルルーバー16の座部18に対しシール体20を容易に成形できる。また、リブ32を備えているため、カウルルーバー16の座部18と金型40との間に面精度の差が生じていても、これらの隙間から射出した溶融樹脂Mが漏れることがない。したがって、従来技術と異なり、漏れ出した溶融樹脂MがバリBとなって残ることがない。
【0025】
また、この方法によれば、被射出面18aは、座部18の上面のうち被射出面18aを除いた上面に対して凹み状34に形成されている。そのため、リブ32の先端を折り曲げるとき、この先端を内側に向けて折り曲げることができる。したがって、リブ32の先端が外側に折り曲げられることがないため、出来上がったサポート部30の見栄えを向上させることができる。
【0026】
また、この方法によれば、リブ32は、その縦断面が三角形を成すように形成されている。この三角形の底辺(b−c線)に対する垂線のうち頂点aを通る垂線Hと、射出部位側の斜辺(a−b線)とによって形成される第1の角度θ1と、同頂点aを通る垂線Hと非射出部位側の斜辺(a−c線)とによって形成される第2の角度θ2とは、第1の角度θ1の方が小さくなるように設定されている。そのため、リブ32の先端を折り曲げるとき、より確実に、この先端を内側に向けて折り曲げることができる。したがって、リブ32の先端が外側に折り曲げられることがないため、出来上がったサポート部30の見栄えを向上させることができる。
【0027】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
実施例では、所望する形状の樹脂部材を樹脂製の基材に対してダイレクトに成形する方法として、シール体20をカウルルーバー16に対してダイレクトに成形する方法を例に説明した。しかし、これに限定されるものでなく、各種の樹脂部品に適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0028】
16 カウルルーバー(基材)
20 シール体(樹脂部材)
32 リブ
34 凹部
40 金型
M 溶融樹脂