(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748293
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】海底用岩盤掘削機、および岩盤掘削方法
(51)【国際特許分類】
E21B 4/08 20060101AFI20150625BHJP
【FI】
E21B4/08
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-92562(P2012-92562)
(22)【出願日】2012年4月16日
(65)【公開番号】特開2013-221286(P2013-221286A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2012年4月16日
【審判番号】不服2014-17827(P2014-17827/J1)
【審判請求日】2014年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】592177649
【氏名又は名称】有限会社善徳丸建設
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 智徳
【合議体】
【審判長】
小野 忠悦
【審判官】
中田 誠
【審判官】
門 良成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−147157(JP,A)
【文献】
特開2012−67513(JP,A)
【文献】
実開平2−97485(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B4/08
E02F5/00
E21B7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底の岩盤を砕岩する砕岩棒と、
前記砕岩棒が嵌挿される開口部を海面に対向させて設けた掘削位置ガイド台船と、を備え、
前記掘削位置ガイド台船は、
前記開口部の周囲に、この開口部を挟んで、船底に設けて海中側に突出させた筒状の第1の管部材、および船上側に設けて海中側と反対側に突出させた筒状の第2の管部材を備え、
前記第1の管部材は、前記第2の管部材に比べて、その突出量が長い、
海底用岩盤掘削機。
【請求項2】
海底の岩盤を砕岩する砕岩棒が嵌挿される開口部を海面に対向させて設けるとともに、この開口部の周囲に、この開口部を挟んで、船底に設けて海中側に突出させた筒状の第1の管部材、および船上側に設けて海中側と反対側に突出させた筒状の第2の管部材を設け、前記第1の管部材の突出量が前記第2の管部材の突出量よりも長い、掘削位置ガイド台船を海上に係留し、
前記開口部、前記第1の管部材、および前記第2の管部材を通して前記砕岩棒を嵌挿し、
クレーンによる前記砕岩棒の吊り上げ、落下を繰り返すことにより、海底の岩盤を砕岩する岩盤掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、港湾工事において海底の岩盤を掘削する海底用岩盤掘削機、および岩盤掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、港湾の水深を深くする場合や、防波堤等の重量構造物を海上に設置する場合に、海底の岩盤を掘削する港湾工事が行われている。海底の岩盤の掘削は、クレーンによる砕岩棒の吊り上げ、落下を繰り返し、海底の岩盤に砕岩棒の先端(海底に衝突する端部)を衝突させ、その衝撃力で破砕する工法で行われていた。
【0003】
また、海底にガイドポールを設置し、このガイドポールに油圧ハンマを備える砕岩装置を装着して海底の岩盤を破砕する工法も提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1では、海上作業台を海底に固定し、この海上作業台からガイドポールを海底の岩盤に押しつけて設置する。また、油圧ハンマを備える砕岩装置をガイドポールに装着する。砕岩装置は、油圧ハンマで砕岩棒を叩いて海底の岩盤を破砕している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−252079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した、クレーンによる砕岩棒の吊り上げ、落下を繰り返し、海底の岩盤を破砕する工法においては、潮流の影響を受ける等して、海底における砕岩棒の下端の当接位置が安定しない。すなわち、海底の掘削位置が安定しない。
【0006】
また、特許文献1に記載された工法によれば、海底の掘削位置を安定させることはできるのであるが、油圧ハンマで砕岩棒を叩いて海底の岩盤を破砕する工法であるため、海底の岩盤に加えることができる衝撃力が比較的小さい。このため、海底の岩盤の掘削にかかる時間が長くかかる(工期が長くなる。)。
【0007】
この発明の目的は、潮流の影響を抑えて海底の掘削位置を安定させることができるとともに、海底の岩盤の掘削が効率的に行える海底用岩盤掘削機、および岩盤掘削方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の海底用岩盤掘削機は、上記目的を達するために、以下のように構成している。
【0009】
この発明にかかる海底用岩盤掘削機は、砕岩棒と掘削位置ガイド台船とを備えている。
【0010】
砕岩棒は、例えば、鋼性のパイプであり、一端が鋭角に尖った形状(例えば、円錐形状や角錐形状)である。また、砕岩棒の他端は、起重機のクレーンに取り付けるための取り付け部材、例えばクレーンのワイヤの先端に取り付けたフックを引っ掛けるリング等、を設けている。
【0011】
掘削位置ガイド台船は、砕岩棒が嵌挿される開口部を海面に対向させて設けている。また、この開口部の周囲には、海中側に突出させた筒状の第1の管部材を備えている。
第1の管部材は、船底に設けている。また、掘削位置ガイド台船は、開口部の周囲に、海中側と反対側にも突出させた筒状の第2の管部材を設けている。第2の管部材は、船上側に設けている。すなわち、開口部を挟んで、船底に設けて海中側に突出させた筒状の第1の管部材、および船上側に設けて海中側と反対側に突出させた筒状の第2の管部材を設けている。また、第1の管部材は、第2の管部材に比べて、その突出量が長い。
【0012】
したがって、掘削位置ガイド台船の開口部に嵌挿した砕岩棒は、クレーンによる吊り上げ、落下を繰り返しているとき、掘削位置ガイド台船の開口部、
第1の管部材
、および第2の管部材によって、傾きが抑制され、掘削位置ガイド台船の開口部の開口面に対して、ほぼ垂直方向に立設する。このため、クレーンによる砕岩棒の吊り上げ、落下を繰り返しても、この砕岩棒の先端が当接(衝突)する位置が安定する。したがって、潮流の影響を抑えて海底の掘削位置を安定させることができる。また、クレーンによる砕岩棒の吊り上げ高さによって、海底の岩盤に加える衝撃力を簡単に大きくすることができるので、海底の岩盤の掘削が効率的に行える。
【0013】
また、
この構成では、砕岩棒の傾き
を抑えたことで、この砕岩棒を取り付けたクレーンにかかる応力も抑えられる。
【0014】
また、上述したように、第1の管部材は、第2の管部材に比べて、その突出量を長くしている。砕岩棒は、第1の管部材の下端(海底側の端部)から、第2の管部材の上端(海上側の端部)までの長さが長くなるにつれて、その傾きが抑制される。一方で、第2の管部材が、海上側に突出している長さが長くなるにつれて、同じ砕岩棒で掘削できる海底の深さが浅くなる。
したがって、この構成では、砕岩棒の傾きを抑制しつつ、且つ掘削できる海底の深さが浅くなるのを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、潮流の影響を抑えて海底の掘削位置を安定させることができるとともに、海底の岩盤の掘削が効率的に行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】海底用岩盤掘削機の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態である海底用岩盤掘削機について説明する。
【0018】
図1は、この例にかかる海底用岩盤掘削機の構成を示す概略図である。
図2は、砕岩棒の断面図である。
図3(A)は、掘削位置ガイド台船の側面断面図であり、
図3(B)は、掘削位置ガイド台船の上空からみた平面図である。
【0019】
この海底用岩盤掘削機1は、砕岩棒2と、掘削位置ガイド台船3と、を備えている。砕岩棒2は、掘削位置ガイド台船3に上下方向に移動自在に取り付けている。また、砕岩棒2は、
図1に示す起重機船5に載置されている起重機6のクレーンに連結している。
【0020】
砕岩棒2は、
図2に示すように、鋼性の管であり、先端を尖らした鋭角の円錐形状(、または角錐形状)に形成している。また、砕岩棒2は、錘21を先端部(海底の岩盤を破砕する側)に収納している。
図2では、錘21をハッチングで示している。砕岩棒2は、この錘21を収納したことで、その重心が先端部側に位置する。また、砕岩棒2は、後端(先端と反対側)に、起重機6のクレーンに連結するためのリングを設けている。起重機6のクレーンのワイヤの先端に取り付けたフックを、このリングに引っ掛けることで、砕岩棒2をクレーンに取り付ける(連結する。)。また、砕岩棒2の後端は、
図2に示すように、蓋を設けており、この蓋は砕岩棒2を構成する鋼性の管の外形よりも大きい。
【0021】
掘削位置ガイド台船3は、
図3に示すように、台船本体31のほぼ中心に開口部32を形成している。この開口部32は、砕岩棒2を構成する鋼性の管の外形よりも少し大きく、この砕岩棒2が嵌挿できる大きさである。また、掘削位置ガイド台船3は、船底に筒状のガイド管33を設けているととともに、船上側に筒状のガイド管34を設けている。ガイド管33が、この発明でいう第1の管部材に相当する。また、ガイド管34が、この発明でいう第2の管部材に相当する。
【0022】
ガイド管33、34は、剛性である。ガイド管33、34の内径は同じであり、開口部32よりも少し大きい。ガイド管33、34は、その内径の中心を、開口部32の中心に合わせて取り付けている。ガイド管33の長さ(台船本体31の船底から、このガイド管33の海底側の端部までの長さ)は、ガイド管34の長さ(台船本体31の船上から、このガイド管33の上端部までの長さ)よりも長い。例えば、ガイド管33は、ガイド管34の数倍(3〜5倍)の長さである。
【0023】
また、ガイド管34は、緩衝材(不図示)を上端部に取り付けている。
【0024】
なお、ガイド管33、34の内径、および開口部32の外形は、砕岩棒2の後端に設けている蓋の外形よりも小さい。また、掘削位置ガイド台船3は、海上を航行するための動力機構を備えていてもよいし、この動力機構を備えていなくてもよい。掘削位置ガイド台船3は、動力機構を備えていない場合、起重機船5や、動力機構を有する他船(押し舟や曳き舟)に連結し、海上を移動させればよい。
【0025】
次に、この海底用岩盤掘削機1を利用して、海底の岩盤を掘削する方法について説明する。
【0026】
掘削位置ガイド台船3を、海底の岩盤を掘削する位置に移動する。このとき、掘削位置ガイド台船3は、移動時の安全性を確保するため、砕岩棒2を開口部32に嵌挿していない。砕岩棒2は、起重機船5に載せて搬送する。
【0027】
掘削位置ガイド台船3を、海底の岩盤を掘削する位置に移動すると、開口部32の中心を、海底の岩盤を掘削する位置(以下、この位置を目的位置という。)に合わせる。また、掘削位置ガイド台船3を、この位置に係留する。掘削位置ガイド台船3の係留は、特に図示していないが、ワイヤの先端に取り付けたアンカを海底の適当な位置に固定するとともに、このワイヤの引出長さをウィンドラスで調整することにより行う。掘削位置ガイド台船3は、複数本のワイヤを利用して、係留するのが好ましい。
【0028】
係留した掘削位置ガイド台船3の開口部32に対して、砕岩棒2を先端から嵌挿する。具体的には、砕岩棒2を起重機6のクレーンに連結し、吊り上げる。砕岩棒2は、
図1に示すように、後端部(海上側に位置させる端部)において、起重機6のクレーンに連結される。クレーンで吊り上げた砕岩棒2は、先端部(海底側に位置させる端部)から、ガイド管34、開口部32、およびガイド管33に嵌挿し、その先端が海底に当接する位置まで、起重機6のクレーンでゆっくりと下げる。作業者は、砕岩棒2の先端が海底に当接している位置を確認し、その位置が目的位置であるかどうかを判断する。
【0029】
上述したように、ガイド管33、34の内径、および開口部32の外形は、砕岩棒2の後端に設けている蓋の外形よりも小さい。したがって、砕岩棒2を下げている海底が、何らかの理由で、想定していなかった極端に深い場所であっても、砕岩棒2は蓋がガイド管34の上端部に当接すると、それ以上下がることはない。
また、砕岩棒2の先端が海底に当接している位置が、目的位置からずれている場合は、このずれに応じて、掘削位置ガイド台船3の係留位置を調整する。この係留位置の調整は、起重機6のクレーンで砕岩棒2を少し吊り上げ、この砕岩棒2の先端が海底に当接していない状態で行う。作業者は、掘削位置ガイド台船3の係留位置の調整が完了すると、砕岩棒2の先端が海底に当接する位置まで、起重機6のクレーンでゆっくりと下げ、再度、砕岩棒2の先端が海底に当接している位置が目的位置であるかどうかを判断する。
【0030】
砕岩棒2の先端が海底に当接している位置が目的位置であれば、海底の岩盤の掘削を行う。この海底の岩盤の掘削は、起重機6のクレーンで砕岩棒2を適当な高さ(例えば、50cm)吊り上げ、この吊り上げた砕岩棒2を落下させて、砕岩棒2の先端を海底に衝突させる。この処理を繰り返して、海底の岩盤を掘削する。
【0031】
砕岩棒2を落下させたときに、砕岩棒2の後端に設けた蓋がガイド管34の上端部に当たっても、このガイド管34の上端部に取り付けた緩衝材によって、その衝撃をある程度吸収できるので、作業の安全性が確保できる。
【0032】
また、砕岩棒2は、ガイド管34、開口部32、およびガイド管33に嵌挿しているので、これらのガイド管34、開口部32、およびガイド管33によって、ほぼ垂直な状態で保持される。また、海底側に突出させたガイド管33により、潮流の影響が抑えられる。したがって、吊り上げた砕岩棒2を落下させたときに、この砕岩棒2の先端を目的位置に衝突させることができ、目的位置の掘削が安定して行える。
【0033】
また、クレーンによる砕岩棒2の吊り上げ高さによって、海底の岩盤に加える衝撃力を簡単に大きくすることができるので、海底の岩盤の掘削が効率的に行える。
【0034】
また、ガイド管33が海底側に突出している長さを、ガイド管34が台船本体31の上方に突出している長さよりも長くしているので、砕岩棒2で岩盤の掘削が行える海底の深さが浅くなるのを抑えられる。
【0035】
なお、砕岩棒2の吊り上げ、落下を行っているときは、安全性の検知から、作業者を掘削位置ガイド台船3に乗船させないほうがよい。また、掘削した海底の岩盤は、起重機6のクレーンに連結した公知のグラブバケットで、海底から拾い上げればよい。
【符号の説明】
【0036】
1…海底用岩盤掘削機
2…砕岩棒
3…掘削位置ガイド台船
5…起重機船
6…起重機
21…錘
31…台船本体
32…開口部
33、34…ガイド管