特許第5748368号(P5748368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748368
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】筆記具用油性インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20150625BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20150625BHJP
【FI】
   C09D11/16
   C08F290/06
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-507473(P2013-507473)
(86)(22)【出願日】2012年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2012057424
(87)【国際公開番号】WO2012133134
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-73638(P2011-73638)
(32)【優先日】2011年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000134589
【氏名又は名称】株式会社トンボ鉛筆
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】落合 光恵
(72)【発明者】
【氏名】大多和 清嗣
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝司
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−169321(JP,A)
【文献】 特開2007−70544(JP,A)
【文献】 特開2003−176438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
C08F 290/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)下記式(1)で示されるシロキサンマクロモノマー、(b)水酸基含有ビニルモノマー、(c)カルボキシル基含有ビニルモノマー、及び(d)(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合により得られる水酸基価が60〜200mgKOH/gで、酸価が10〜100mgKOH/gの範囲内である極性基含有シロキサンポリマー、
【化1】
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表し、Rは水素またはメチル基を表し、nは6〜300である。)
(B)着色剤、及び
(C)有機溶剤
を含有することを特徴とする筆記具用油性インク組成物。
【請求項2】
前記極性基含有シロキサンポリマー(A)を構成する、(b)水酸基含有ビニルモノマーが、アクリル酸またはメタクリル酸の炭素数2〜4のヒドロキシアルキルエステルで、(c)カルボキシル基含有ビニルモノマーが、アクリル酸またはメタクリル酸である請求項1に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項3】
前記極性基含有シロキサンポリマー(A)が、シリコーングラフトアクリルポリマーである請求項2に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項4】
前記極性基含有シロキサンポリマー(A)を、インク組成物全量中に1〜30質量%含有する請求項1〜3いずれかに記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項5】
前記有機溶剤(C)を、インク組成物全量中に40〜85質量%含有する請求項1〜4いずれかに記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項6】
前記有機溶剤(C)の主溶剤が、20℃における蒸気圧が5.0〜50mmHgの有機溶剤である請求項1〜5いずれかに記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項7】
前記20℃における蒸気圧が5.0〜50mmHgの有機溶剤が、20℃における蒸気圧が5.0〜20mmHgの有機溶剤(C)と、20℃における蒸気圧が21〜50mmHgの有機溶剤(C)とからなり、前記有機溶剤(C)をインク組成物全量中に5〜15質量%含有する請求項6に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項8】
前記有機溶剤(C)が、グリコールエーテル系有機溶剤である請求項7に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項9】
前記有機溶剤(C)が、アルコール系有機溶剤である請求項7に記載の筆記具用油性インク組成物。
【請求項10】
インク組成物全量中に、極性基含有シロキサンポリマー(A)を1〜30質量%、着色剤(B)を3〜40質量%、有機溶剤(C)を40〜85質量%含有する請求項1〜9いずれかに記載の筆記具用油性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用油性インク組成物に関するものであり、詳細には、紙面のような通常の筆記面のみならず、平滑で濡れ性に乏しい筆記面を含む種々の筆記面に対し、はじきが無く、密着性の優れた筆跡を形成できる筆記具用油性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具に使用される油性インクは、着色剤と、有機溶剤と、樹脂と、必要により界面活性剤を含んでなり、種々材質の筆記面に形成された筆跡の密着性が要求されるが、平滑で硬質な濡れ性の悪い材質、例えば、合成樹脂フィルム、ガラス、金属、表面を樹脂やシリコーン等でコーティングした素材等に筆記するとはじきが生じる、密着性が不十分となる場合があり、良好な筆跡を形成することができなかった。
【0003】
前記問題を解消するために、着色剤と、有機溶剤と、テルペンフェノール樹脂と、シリコーン変性アクリル樹脂を含み、金属、プラスチック、シリコーンコーティングされたクラフトテープ等の非吸収面に筆記した際の塗膜の定着性に優れた油性マーキングペン用インクが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この油性インク組成物中で用いられているシリコーン変性アクリル樹脂は、筆記面に対し塗膜を固着させる力に乏しく、別途固着用樹脂5〜10質量%の併用を必要としている。
【0004】
また、特許文献2では、着色剤、炭素数6〜10のイソパラフィン炭化水素からなる有機溶剤、アクリル−シリコーングラフト共重合体を含有してなる筆記具用油性インク組成物が開示されており、水に濡れた筆記面へも良好な筆記が可能であるとされているが、前記有機溶剤は溶解度の低さゆえに使用可能な材料に制限が出てしまうという問題がある。また、特許文献1同様に別途固着用樹脂25質量%の併用が推奨されている。
【0005】
さらに、特許文献3では、着色剤と、有機溶剤と、樹脂と、デンドリマー構造を持ったシリコーンマクロモノマーからなるシリコーンアクリル樹脂を用いた筆記具用油性インク組成物が開示されているが、このシリコーンアクリル樹脂はデンドリマー部のかさ高さゆえに、樹脂一分子中でのアクリル樹脂の筆記面への接触面積が低くなりアクリル樹脂の固着性能が発現しにくくなる。また樹脂自体の筆記面への配向密度が下がるため、結果として上述の例と同様に固着力に乏しくなり、別途固着用樹脂の併用が必要となる。
【0006】
筆記線の固着力向上のため、別途固着用の樹脂を用いる場合、一般にインクの粘度は増大する傾向にあり、種々の筆記具への搭載が困難になるケースが発生する。ボールペンなどにおいても、インクのトギレやカスレが生じる場合があり、とりわけ、中綿式のマーキングペンにおいて、フェルトチップを介してインクを吐出させる筆記具においては、インクの流動性確保が著しく困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007―070544号公報
【特許文献2】特開2010―168438号公報
【特許文献3】特開2010―106136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この種のインク組成物の不具合を解消しようとするものであって、即ち、平滑で濡れ性の悪い筆記面を含む種々の筆記面に対し、筆記面に形成された筆跡にはじきがみられず、良好な筆記を形成できると共に、筆記後の密着性に優れた筆記具用油性インク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の極性基含有シロキサンポリマー、着色剤及び有機溶剤を含有する油性インク組成物が、種々の筆記面に対し、密着性に優れた筆跡を形成し、しかも、別途テルペンフェノール樹脂、ケトン樹脂等の固着用樹脂の併用が不要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、(A)(a)下記式(1)で示されるシロキサンマクロモノマー、(b)水酸基含有ビニルモノマー、(c)カルボキシル基含有ビニルモノマー、及び(d)(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合により得られる水酸基価が60〜200mgKOH/gで、酸価が10〜100mgKOH/gの範囲内である極性基含有シロキサンポリマー、(B)着色剤、及び(C)有機溶剤を含有することを特徴とする筆記具用油性インク組成物を提供する。
【0011】
【化1】
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表し、Rは水素またはメチル基を表し、nは6〜300である。)
【0012】
本発明の油性インク組成物において、固着用樹脂の併用が不要になる理由は明らかではないが、極性基含有シロキサンポリマーに含まれる極性基(水酸基及びカルボキシル基)が塗膜の固着性・強靭性を高める作用をするために、固着用樹脂の併用が不要になるものと推察する。
【発明の効果】
【0013】
以上のとおり、本発明によれば、種々材質の筆記面に形成された筆跡にはじきがみられず、良好な筆記を形成できると共に、筆記後の密着性に優れた筆記具用油性インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、(A)極性基含有シロキサンポリマーは、(a)シロキサンマクロモノマー、(b)水酸基含有ビニルモノマー、(c)カルボキシル基含有ビニルモノマー及び(d)(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合により得られるものである。(A)極性基含有シロキサンポリマーは、分子構造中に水酸基とカルボキシル基を同時に含有してなり、水酸基価が60〜200mgKOH/gで、酸価が10〜100mgKOH/gの範囲内にある。濡れ性の悪い材料に筆記した際、はじきがみられない明瞭な筆跡を形成するために用いる。なお、本発明において、水酸基価ならびに酸価の単位であるmgKOH/gは、mgKOH/極性基含有シロキサンポリマー1gを意味する。
【0015】
上記(a)シロキサンマクロモノマーは、下記式(1)で示されるものであり、分子構造中に含有してなるシリコーン部の効果により、極性の低い種々の筆記面、例えば表面をシリコーン処理されたクラフトテープやセパレーター等に対しても濡れ性が向上する。(a)シロキサンマクロモノマーは、1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
【化2】
【0017】
ここで、Rは炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6の2価の炭化水素基を表し、Rは水素またはメチル基を表し、nはジメチルシロキサン単位の平均重合度を表し、6〜300、好ましくは6〜100である。
【0018】
(a)シロキサンマクロモノマーは、一般に300〜30,000、好ましくは500〜20,000、さらに好ましくは600〜20,000の数平均分子量を有していると望ましい。
【0019】
(b)水酸基含有ビニルモノマーは、(A)極性基含有シロキサンポリマーに極性を付与し、筆記面への密着性を向上させるものであり、1種または2種以上を用いることができる。
具体的には、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸の炭素数2〜4のヒドロキシアルキルエステル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルポリオールと(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸とのモノエステル;グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらのモノマーの中でも、アクリル酸またはメタクリル酸の炭素数2〜4のヒドロキシアルキルエステルが好ましい。
【0020】
(c)カルボキシル基含有ビニルモノマーは、(A)極性基含有シロキサンポリマーに極性を付与し、筆記面への密着性を向上させるものであり、1種または2種以上を用いることができる。
具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β−不飽和モノまたはジカルボン酸等を挙げることができる。これらのモノマーの中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0021】
(d)(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(A)極性基含有シロキサンポリマーに成膜性を付与し、筆記面への固着性を高めるものであり、1種または2種以上を用いることができる。
具体的には、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステル等を挙げることができる。
【0022】
本発明の(A)極性基含有シロキサンポリマーを構成する上記の各モノマーの使用割合は、モノマー混合物の合計量を基準にして、(a)シロキサンマクロモノマーが2〜40質量%、(b)水酸基含有ビニルモノマーが12〜50質量%、(c)カルボキシル基含有ビニルモノマーが1〜15質量%、残部が(d)(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、溶液重合あるいは乳化重合により合成することができる。
【0023】
溶液重合による場合は、公知の方法にしたがって、有機溶媒中でモノマー混合物を重合開始剤の存在下に加温して共重合することにより合成することができる。用いる有機溶媒は、モノマー混合物ならびに生成物である極性基含有シロキサンポリマーを溶解するものであれば特に限定されず、本発明の筆記具用油性インク組成物に使用する(C)有機溶剤と同じ溶媒を用いることもできる。かかる有機溶媒としては、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい
【0024】
乳化重合による場合は、公知の方法にしたがって、界面活性剤および重合開始剤を溶解した水に、モノマー混合物を添加してエマルジョン化した後加温して、共重合することにより合成することができる。
【0025】
上記の使用割合で各モノマーを共重合することにより、水酸基価が60〜200mgKOH/gの範囲にあり、かつ、酸価が10〜100mgKOH/gの範囲にある極性基含有シロキサンポリマー(A)を得ることができる。水酸基価が60mgKOH/g未満の場合、あるいは酸価が10mgKOH/g未満の場合は、塗膜の粘着性・強靭性が低下するため別途固着用樹脂の配合が必要となる。一方、水酸基価が200mgKOH/gを超える場合、あるいは酸価が100mgKOH/gを超える場合は、塗膜の耐水性が低下する。
【0026】
(A)極性基含有シロキサンポリマーを構成する、(c)カルボキシル基含有ビニルモマーは、未中和の状態で用いてもよく、その一部を中和した状態で用いてもよい。中和はカルボキシル基含有ビニルモノマーを中和してから共重合してもよいし、共重合後に中和してもよい。
【0027】
中和剤としてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができるが、(A)極性基含有シロキサンポリマーの塗膜が柔軟で、また有機溶媒への溶解性が良好であることより、エタノールアミンが好ましい。
【0028】
中和率は50モル%以下が好ましく、より好ましくは25モル%以下である。中和率が高くなると、極性基含有シロキサンポリマー(A)の塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0029】
(A)極性基含有シロキサンポリマーは、数平均分子量が1,000〜100,000、好ましくは3,000〜50,000の範囲であることが望ましい。
【0030】
好ましい(A)極性基含有シロキサンポリマーは、シリコーングラフトアクリルポリマーであり、市販品も入手可能である。例えば、サイマックUS−450、480、レゼダGS−1015(東亞合成株式会社製)、等が挙げられる。
【0031】
本発明において(A)極性基含有シロキサンポリマーは、分子構造中に水酸基及びカルボキシル基といった極性基を多量に含有するため、ポリマー全体の極性が高くアクリル樹脂としての粘着力に優れる。これにより、固着用樹脂を新たに添加せずとも、筆記線塗膜を充分に筆記面へ固着させることが可能となる。
【0032】
(A)極性基含有シロキサンポリマーは、固形分として、インク組成物全量中1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%の範囲で用いられる。1質量%以上用いることにより、良好な筆跡を形成でき、30質量%以下用いることにより、筆跡がかすれたり、筆記できなくなるといった不具合を生じることがない。
【0033】
本発明において(B)着色剤は、顔料または染料が用いられる。着色剤は、1種または2種以上を混合して用いてもよく、インク組成物全量中3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%の範囲で用いられる。着色剤が3質量%以上であると、ガラスなどの透明な材質上でも明瞭な筆記線を得ることができ、40%質量以下であるとインクの保存安定性が低下するなどの不具合が生じることがない。
【0034】
顔料としては、カーボンブラック、黄土、バリウム黄、紺青、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、アルミナホワイト、酸化鉄黄、酸化鉄赤、群青、クロムグリーンなどの無機顔料や、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、ニトロソ系顔料、ニトロ系顔料、塩基性染料系顔料、酸性染料系顔料、建染染料系顔料、媒染染料系顔料、天然染料系顔料、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料及びジオキサジン系顔料などの有機顔料等が挙げられる。
【0035】
染料としては、有機溶剤可溶染料として、バリファストブラック1807、同3806、同3807、バリファストバイオレット1701、バリファストレッド1360、同2320、同1320、バリファストブルー1601、同1605、1621、ニグロシンベースEX(以上オリエント化学工業製)、SP−ブラックGMH、メチルバイオレットベース、SP−バイオレットC−RH、バイオレット521、SP−レッド533、SP−レッドC−GH、SP−レッドC−BH、S.P.T−オレンジ6、S.B.N−イエロー510、S.P.T−ブルー111、ブルー121、SP−ブルーC−RH(以上保土谷化学工業製)、C.I.Solvent Black 46、C.I.Solvent Black 5等が挙げられる。
【0036】
本発明において(C)有機溶剤は、汎用の溶剤を使用でき、インク組成物全量中40〜85質量%、好ましくは50〜85質量%の範囲で用いられる。有機溶剤の配合割合が少なすぎると、油性インク組成物の粘度が高くなり過ぎ、筆跡がかすれる、インクの長期安定性が低下するといった不具合を生じる。また、有機溶剤の配合割合が多すぎると、インクの裏抜けや筆記線のにじみなどの不具合を生じやすくなる。有機溶剤には、極性基含有シロキサンポリマー(A)合成用の溶媒あるいは当該ポリマーを溶解させるための溶媒も含まれる。
【0037】
前記有機溶剤としては、
エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、tert−アミルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系有機溶剤;
エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコールエーテル系有機溶剤;
n−ヘプタン、n−オクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の炭化水素系有機溶剤;
メチルn−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン等のケトン系有機溶剤;
酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系有機溶剤;
等を挙げることができる。有機溶剤は、2種以上を併用して用いてもよい。
【0038】
(C)有機溶剤の主溶剤は、20℃における蒸気圧が5.0〜50mmHgの有機溶剤であることが好ましく、かかる20℃における蒸気圧が5.0〜50mmHgの有機溶剤は、有機溶剤全量中50質量%以上含有することが好ましい。このような有機溶剤は比較的揮発し易く、筆跡の乾燥性に優れるため、筆跡を手触した際、未乾燥のインクが手に付着したり、あるいは筆記面上の筆跡を形成していない空白部分を汚染する等の不具合を生じることなく、良好な筆跡を形成できる。
【0039】
蒸気圧が5.0〜50mmHg(20℃)の有機溶剤としては、
エチルアルコール(44)、n−プロピルアルコール(14.5)、イソプロピルアルコール(32.4)、イソブチルアルコール(8.9)、sec−ブチルアルコール(12.7)、tert−ブチルアルコール(30.6)、tert−アミルアルコール(13.0)等のアルコール系有機溶剤;
エチレングリコールジエチルエーテル(9.7)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(6.0)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(7.6)等のグリコールエーテル系有機溶剤;
n−ヘプタン(35.0)、n−オクタン(11.0)、メチルシクロヘキサン(37.0)、エチルシクロヘキサン(10.0)等の炭化水素系有機溶剤;
メチルn−プロピルケトン(12.0)、ジ−n−プロピルケトン(5.2)等のケトン系有機溶剤;
酢酸n−プロピル(25.0)、酢酸イソプロピル(43.2)、酢酸n−ブチル(8.4)、酢酸イソブチル(13.0)、プロピオン酸エチル(28.0)等のエステル系有機溶剤;
を挙げることができる。
ここで、括弧内の数字は20℃におけるそれぞれの有機溶剤の蒸気圧を示す。
【0040】
20℃における蒸気圧が5.0〜50mmHgの有機溶剤は、20℃における蒸気圧が5.0〜20mmHgの溶剤(C)と、20℃における蒸気圧が21〜50mmHgの有機溶剤(C)との併用であることが好ましい。
【0041】
20℃における蒸気圧が5.0〜20mmHgの有機溶剤(C)としては、グリコールエーテル系有機溶剤が好ましく、具体的には、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。これらの溶剤は筆跡の速乾性に優れると共に、各種添加剤の溶解性に優れるためである。
【0042】
20℃での蒸気圧が21〜50mmHgの有機溶剤(C)としては、アルコール系有機溶剤が好ましく、具体的には、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0043】
20℃における蒸気圧が21〜50mmHgの有機溶剤(C)は、インク組成物全量中5〜15質量%含有することが好ましい。この有機溶剤を前記の量範囲で含有することにより、筆記線の乾燥性が大きく改善され、濡れ性の悪い筆記面上でのはじき等も抑制される。また、油性インク組成物全体の乾燥性が向上し、成膜時において低蒸気圧の有機溶剤が塗膜中に残留することで塗膜強度が低下する現象を抑止し、強靭な塗膜を生成することが可能となる。
【0044】
本発明の筆記具用油性インク組成物は、上記(A)極性基含有シロキサンポリマー、(B)着色剤及び(C)有機溶剤の成分以外に、粘度調整剤、染料可溶化剤、顔料分散剤及び分散助剤、防錆剤、剪断減粘性付与剤、界面活性剤等の各種添加剤を適量含有していてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で他の固着用樹脂を適量含有していてもよい。
【0045】
本発明の筆記具用油性インク組成物は、前記の各成分を混合して調製できる。インク組成物の調製方法としては特に限定されないが、例えば、まず適切な手法を用いて(C)有機溶剤に(B)着色剤を分散ないし溶解させ、続いて(A)極性基含有シロキサンポリマー、必要に応じてはその他の添加剤を加え、撹拌によって混合するなどの手法が例示できる。
【0046】
本発明の筆記具用油性インク組成物は、チップを筆記先端部に装着したマーキングペンやボールペンに充填して使用される。
【0047】
マーキングペンは、本発明の筆記具用油性インク組成物を備えたものであれば、中綿式、直液式などの方式には制限されない。
【0048】
ボールペンは、本発明の筆記具用油性インク組成物を備えたものであれば、インク筒自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内部に直接インクを収容し、櫛溝状のインク流量調節部材や繊維束からなるインク流量調節部材を介在させる構造や、軸筒内にインク組成物を充填したインク収容管を有し、該インク収容管はボールを先端部に装着したチップに連通する簡素な構造や、さらにインクの端面には逆流防止用の液栓が密接している構造のボールペン等が挙げられる。ボールは、タングステンカーバイド系等の超硬材からなる超硬ボール、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素等のセラミック製ボール等が用いられる。チップのホルダー材質はステンレス・洋白・真鍮・ニッケルメッキ処理された真鍮等が用いられる。
【0049】
前記軸筒やインク収容管は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体、金属が用いられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。各例中、特に言及しない限り、部および%は質量基準である。
【0051】
(実施例1〜5、比較例1〜6)
表1、表2に示す各種シリコーングラフトアクリルポリマー、着色剤及び有機溶剤を用い、表3に示すインクを調製した。なお、表中の数値は質量%を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
(ボールペンの作製)
実施例および比較例で調製したインク組成物を、それぞれ、ポリプロピレン製パイプに充填し、これにステンレス製スプリング入りチップ(ボール表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)が0.06μm)を装着した後、末端からインク乾燥・流出防止用のグリースを充填し、試験用ボールペンの中芯と、ボールペンを作製した。
【0056】
上記試験用ボールペンを用い、以下の方法で筆記試験、擦過試験ならびに保存試験を実施した。結果を表4〜6に示す。
【0057】
(筆記試験)
各試験用ボールペンを用い、クラフトテープ、ポリプロピレン、ガラスに筆記を行い、筆記線のはじきやカスレ具合を目視にて、以下の基準で判定した。
○:筆跡に、はじき・カスレが認められない
△:筆跡に、ややはじきが認められる
×:筆跡に、はじきが認められる
▲:筆跡に、カスレが認められる
【0058】
なお、「はじき」は、インク吐出は良好なものの、インクが筆記面でぬれ広がらず筆記面上に筆跡が残っていない部分が存在する状態を表し、「カスレ」は、インク吐出が不十分で筆記面上に筆跡が残っていない部分が存在する状態を表す。
【0059】
(擦過試験)
各試験用ボールペンを用い、クラフトテープ、ポリプロピレン、ガラスに筆記を行い、筆記された筆記線上を、綿棒を用いて、500g荷重での擦過を10往復行った後の、筆跡の状態を目視にて、以下の基準で判定した。
○:擦過前後で筆跡の状態に変化がなかった
△:筆跡が擦過前の半分程度まで剥離した
×:筆跡が全て剥離した
【0060】
(保存試験)
各試験用ボールペンを50℃乾燥状態の恒温槽にて2週間保存した後、クラフトテープ、ポリプロピレン、ガラスに筆記を行い、筆跡の状態を目視にて、以下の基準で判定した。
◎:インクの吐出が正常で筆跡にはじきは見られない。
○:インクの吐出は正常だが筆跡にややはじきが見られる。
×:インクの吐出は正常だが筆跡にはじきが見られる。
△:インクの吐出が悪く筆跡にカスレが見られる。
▲:インクが吐出されず筆記できない。
【0061】
筆記試験の結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
擦過試験の結果を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
保存試験の結果を表6に示す
【0066】
【表6】
【0067】
表4〜表6より、本発明の筆記具用油性インク組成物は、筆記試験、擦過試験及び保存試験において良好な結果を示すことが判った。
【0068】
水酸基のみを含有するシロキサンポリマー(比較例1)及びカルボキシル基のみを含有するシロキサンポリマー(比較例2)は、擦過試験で筆跡の剥離がみられたことから、インクの固着性が不十分であることが判った。水酸基及びカルボキシル基をともに含有しないアクリルシロキサンコポリマー(比較例3)は、上記の全ての試験結果が比較例1、2よりも劣っていた。同じく水酸基及びカルボキシル基をともに含有しないアクリルジメチコンコポリマー(比較例4)は、上記全ての試験結果が比較例3よりも劣っていた。
【0069】
また、比較ポリマー4に固着樹脂としてケトン樹脂を配合した場合、配合量が少ないと筆記できるが固着性が悪く(比較例5)、配合量を増やすことで固着性は向上したが、筆跡にカスレが認められるようになった。この傾向は保存試験時に特に顕著である(比較例6)。
【0070】
(実施例6〜8)
実施例1で調製したインク組成物を、ポリプロピレン製パイプに充填し、これにそれぞれ、ステンレス製スプリング入りチップ(ボール表面粗さ(Ra)0.04〜0.08μm)を装着した後、末端からインク乾燥・流出防止用のグリースを充填し、試験用ボールペンの中芯とし、ボールペンを作製した。
【0071】
上記試験用ボールペンを用い、クラフトテープ、ポリプロピレン、ガラスに筆記を行い、筆記の可否を目視にて、以下の基準で判定した。ボール表面粗さ(Ra)に関する筆記試験の結果を表7に示す。
【0072】
○:空すべりせず筆記可能である
△:筆記可能であるがやや空すべりが起きる
×:空すべりし、筆記できない
【0073】
【表7】
【0074】
表7の結果より、本発明の筆記具用油性インキ組成物は、ボールの表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)が0.06μm以上のボールペンチップを有する油性ボールペンに搭載することにより、ボールが空すべりせず筆記可能なボールペンが得られることがわかる。