特許第5748428号(P5748428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5748428-軸受構造 図000002
  • 特許5748428-軸受構造 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5748428
(24)【登録日】2015年5月22日
(45)【発行日】2015年7月15日
(54)【発明の名称】軸受構造
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/18 20060101AFI20150625BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20150625BHJP
   F16C 19/38 20060101ALN20150625BHJP
【FI】
   B60B35/18 B
   B60B35/18 A
   F16C33/78 Z
   !F16C19/38
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-184751(P2010-184751)
(22)【出願日】2010年8月20日
(65)【公開番号】特開2012-40971(P2012-40971A)
(43)【公開日】2012年3月1日
【審査請求日】2013年6月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 重人
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−201979(JP,A)
【文献】 実開平03−083101(JP,U)
【文献】 特開2008−232234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/18
F16C 33/78
F16C 19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸の端部に突設された軸部に対し該軸部より車幅方向外側まで張り出すハブをユニットベアリングを介して回転自在に外嵌装着し、前記車軸の内部に軸部側からドライブシャフトを挿し込み且つその反挿し込み側の端部に備えられたフランジ部分を前記ハブの車幅方向外側に締結して該ハブを前記ドライブシャフトを介し回転駆動し得るようにした軸受構造において、前記ハブ内における前記ユニットベアリングと前記ドライブシャフトのフランジ部分とに挟まれた空間に、前記ハブの内周面に全周に亘り嵌合し且つその半径方向内側に向け壁面を成して該壁面の半径方向内側の端部を前記ハブの車幅方向外側の端部に位置するよう形成した潤滑剤保持壁を設け、該潤滑剤保持壁と前記ユニットベアリングとの間に潤滑剤を予め充填して該ユニットベアリングにおける車幅方向外側のオイルシールの摺動面に対し前記潤滑剤が常に供給されるように構成したことを特徴とする軸受構造。
【請求項2】
ハブの内周面における車幅方向外側端に潤滑剤保持壁の外周部を嵌合させるための段差部を形成すると共に、該段差部に嵌合させた潤滑剤保持壁の外周部をドライブシャフトのフランジ部分により挾圧保持し得るように構成したことを特徴とする請求項1に記載の軸受構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸の端部に車輪を回転自在に支持させるための軸受構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2はトラックの車軸に用いられている従来の軸受構造の一例を示すもので、車軸1(アクスル)の端部に図示しない車輪を取り付けるためのハブ2がユニットベアリング3を介し回転自在に支持されており、このユニットベアリング3は、車軸1の端部に車幅方向外側(図2中の右側)に向けて突設された軸部4の周囲に嵌挿されるインナーレース5と、該インナーレース5の外周に転動自在に設置される転動体(コロ)6と、前記インナーレース5の外周に配設されて前記転動体6を転動自在に抱持するアウターレース7と、該アウターレース7及び前記インナーレース5の相互間の隙間を車幅方向両側で塞いでグリス(特に図示せず)を封じ込めるオイルシール8及びダストシール9とを予めユニット化したアッセンブリとなっている。
【0003】
また、前記ユニットベアリング3は、ハブ2の内周部に対し圧入されてアウターレース7が前記ハブ2の内周面とタイトな嵌め合い状態を成すようになっており、該ハブ2における車幅方向内側(図2中の左側)には、ユニットベアリング3のアウターレース7を突き当てて位置決めするための突き当て部10が形成されている。
【0004】
一方、前記インナーレース5は、前記車軸1の軸部4に対し作業性を考慮した隙間嵌め(ルーズフィット)となっており、前記インナーレース5を前記軸部4の段差11に突き当てて反対側からスピンドルナット12で締め付けることにより固定されるようになっている。
【0005】
更に、車軸1の内部には、図示しない車輪をハブ2と共に回転駆動するためのドライブシャフト13が軸部4側から挿し込まれており、該ドライブシャフト13の反挿し込み側の端部に備えられたフランジ部分13aが図示しないネジにより前記ハブ2の外側面に締結されるようにしてある。
【0006】
ここで、前記ユニットベアリング3における車幅方向内側のダストシール9は、内部のグリスを封じ込める役割だけでなく、外部からの水や異物の侵入を防ぐ役割も果たすようになっており、また、車幅方向外側のオイルシール8は、車軸1の軸部4とドライブシャフト13との間の隙間から漏れ出るデフオイル14がユニットベアリング3内に侵入しないように防ぐ役割も果たすようになっている。
【0007】
尚、図2中における符号の15はハブ2に取り付けられているタイヤホイールを示し、ここに図示している例では、片輪に2本のタイヤを取り付けるWタイヤ形式の場合で例示している。
【0008】
また、この種の軸受構造に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−232234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、斯かる従来構造において、ユニットベアリング3の車幅方向外側に配置されるオイルシール8は、車軸1の軸部4とドライブシャフト13との間の隙間から漏れ出るデフオイル14のユニットベアリング3内への侵入を防ぐものであるが、このデフオイル14が摺動面に供給されていないと、摩耗が促進されて寿命が短くなるという問題がある。
【0011】
このため、ハブ2内におけるユニットベアリング3とドライブシャフト13のフランジ部分13aとに挟まれた空間にオイルシール8の下端部を浸し得るレベルのデフオイル14の貯留が必要となるが、デフオイル14がどの程度の量で溜まるかは、車両の走行姿勢や振動等によるところが大きく、必ず必要量のデフオイル14が溜まるかどうかは不確定であったため、場合によっては、デフオイル14が不足してオイルシール8の寿命が短期間で尽きてしまう虞れがあった。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、オイルシールの寿命を従来よりも向上し得るようにした軸受構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、車軸の端部に突設された軸部に対し該軸部より車幅方向外側まで張り出すハブをユニットベアリングを介して回転自在に外嵌装着し、前記車軸の内部に軸部側からドライブシャフトを挿し込み且つその反挿し込み側の端部に備えられたフランジ部分を前記ハブの車幅方向外側に締結して該ハブを前記ドライブシャフトを介し回転駆動し得るようにした軸受構造において、前記ハブ内における前記ユニットベアリングと前記ドライブシャフトのフランジ部分とに挟まれた空間に、前記ハブの内周面に全周に亘り嵌合し且つその半径方向内側に向け壁面を成して該壁面の半径方向内側の端部を前記ハブの車幅方向外側の端部に位置するよう形成した潤滑剤保持壁を設け、該潤滑剤保持壁と前記ユニットベアリングとの間に潤滑剤を予め充填して該ユニットベアリングにおける車幅方向外側のオイルシールの摺動面に対し前記潤滑剤が常に供給されるように構成したことを特徴とするものである。
【0014】
而して、このようにすれば、潤滑剤保持壁とユニットベアリングとの間に十分な量の潤滑剤を予め充填して貯留させておくことが可能となるので、車軸の軸部とドライブシャフトとの間の隙間から漏れ出るデフオイルの不確定な溜り量に頼らなくても、ユニットベアリングのオイルシールの摺動面に潤滑剤が安定して供給されることになり、車両の走行姿勢や振動等に拘わらずオイルシールの摩耗が確実に軽減される。
【0015】
また、本発明においては、ハブの内周面における車幅方向外側端に潤滑剤保持壁の外周部を嵌合させるための段差部を形成すると共に、該段差部に嵌合させた潤滑剤保持壁の外周部をドライブシャフトのフランジ部分により挾圧保持し得るように構成することが好ましい。
【0016】
このようにすれば、潤滑剤保持壁の外周部が段差部に嵌合した状態でドライブシャフトのフランジ部分により挾圧保持されるようになっているので、ハブの内周面に対する潤滑剤保持壁の嵌合状態を安定して保持することが可能となり、しかも、ハブの内周面と潤滑剤保持壁の外周部との間からの潤滑剤の漏出が防止され、ドライブシャフトのフランジ部分とハブとの締結部から潤滑剤が滲み出る虞れがなくなる。尚、このようにハブの内部から外部への潤滑剤の漏出が防止されるだけでなく、外部からの水やダストの混入が防止される効果も得られることは勿論である。
【発明の効果】
【0017】
上記した本発明の軸受構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0018】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、潤滑剤保持壁とユニットベアリングとの間に十分な量の潤滑剤を予め充填して貯留させておくことにより、ユニットベアリングのオイルシールの摺動面に潤滑剤を安定して供給することができるので、車両の走行姿勢や振動等に拘わらずオイルシールの摩耗を確実に軽減することができ、オイルシールの寿命を従来よりも大幅に向上することができる。
【0019】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、ハブの内周面に対する潤滑剤保持壁の嵌合状態を安定して保持することができると共に、ハブの内周面と潤滑剤保持壁の外周部との間からの潤滑剤の漏出を防止することができてドライブシャフトのフランジ部分とハブとの締結部から潤滑剤が滲み出る虞れを未然に回避することができ、しかも、外部からの水やダストの混入を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
図2】従来例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図2と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0023】
図1に示す如く、本形態例の軸受構造においては、先に図2で説明した従来の車軸構造と基本的な構成は同様であり、車軸1の端部に突設された軸部4に対し該軸部4より車幅方向外側(図1中の右側)まで張り出すハブ2をユニットベアリング3を介して回転自在に外嵌装着し、前記車軸1の内部に軸部4側からドライブシャフト13を挿し込み且つその反挿し込み側の端部に備えられたフランジ部分13aを前記ハブ2の車幅方向外側に締結して該ハブ2を前記ドライブシャフト13を介し回転駆動し得るようにした軸受構造となっているが、前記ハブ2内における前記ユニットベアリング3と前記ドライブシャフト13のフランジ部分13aとに挟まれた空間に、前記ハブ2の内周面に全周に亘り嵌合し且つその半径方向内側に向け壁面を成して該壁面の半径方向内側の端部を前記ハブ2の車幅方向外側の端部に位置するよう形成した潤滑剤保持壁16が設けられ、該潤滑剤保持壁16と前記ユニットベアリング3の間にオイル17(潤滑剤:グリスでも可)が予め充填されて該ユニットベアリング3における車幅方向外側のオイルシール8の摺動面に対し前記オイル17が常に供給されるようになっている点で異なっている。
【0024】
しかも、ここに図示している例の場合、ハブ2の内周面における車幅方向外側端に、潤滑剤保持壁16の外周部を嵌合させるための段差部18が形成されており、該段差部18に嵌合させた潤滑剤保持壁16の外周部がドライブシャフト13のフランジ部分13aにより挾圧保持されるようにしてある。
【0025】
而して、このように軸受構造を構成すれば、図1に図示されている通り、潤滑剤保持壁16とユニットベアリング3との間に十分な量のオイル17を予め充填して貯留させておくことが可能となるので、車軸1の軸部4とドライブシャフト13との間の隙間から漏れ出るデフオイル14の不確定な溜り量に頼らなくても、ユニットベアリング3のオイルシール8の摺動面にオイル17が安定して供給されることになり、車両の走行姿勢や振動等に拘わらずオイルシール8の摩耗が確実に軽減される。
【0026】
また、潤滑剤保持壁16の外周部が段差部18に嵌合した状態でドライブシャフト13のフランジ部分13aにより挾圧保持されるようになっているので、ハブ2の内周面に対する潤滑剤保持壁16の嵌合状態を安定して保持することが可能となり、しかも、ハブ2の内周面と潤滑剤保持壁16の外周部との間からのオイル17の漏出が防止され、ドライブシャフト13のフランジ部分13aとハブ2との締結部からオイル17が滲み出る虞れがなくなる。尚、このようにハブ2の内部から外部へのオイル17の漏出が防止されるだけでなく、外部からの水やダストの混入が防止される効果も得られることは勿論である。
【0027】
従って、上記形態例によれば、潤滑剤保持壁16とユニットベアリング3との間に十分な量のオイル17を予め充填して貯留させておくことにより、ユニットベアリング3のオイルシール8の摺動面にオイル17を安定して供給することができるので、車両の走行姿勢や振動等に拘わらずオイルシール8の摩耗を確実に軽減することができ、オイルシール8の寿命を従来よりも大幅に向上することができる。
【0028】
また、ハブ2の内周面に対する潤滑剤保持壁16の嵌合状態を安定して保持することができると共に、ハブ2の内周面と潤滑剤保持壁16の外周部との間からのオイル17の漏出を防止することができてドライブシャフト13のフランジ部分13aとハブ2との締結部からオイル17が滲み出る虞れを未然に回避することができ、しかも、外部からの水やダストの混入を防止することもできる。
【0029】
尚、本発明の軸受構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、図示例においては、潤滑剤をオイルとした場合で例示しているが、潤滑剤保持壁とユニットベアリングの間にグリスを全周に亘り充填するようにしても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
1 車軸
2 ハブ
3 ユニットベアリング
4 軸部
8 オイルシール
13 ドライブシャフト
13a フランジ部分
16 潤滑剤保持壁
17 オイル(潤滑剤)
18 段差部
図1
図2