【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度文部科学省元素戦略プロジェクトの委託研究の成果で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記配向性酸化物セラミックスの結晶構造がイルメナイト構造もしくはタングステンブロンズ構造である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の配向性酸化物セラミックスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明に係る配向性酸化物セラミックスの製造方法は、酸化物結晶Aを還元処理して、前記酸化物結晶Aと同じ結晶系を有する酸化物結晶Bを得る工程と、前記酸化物結晶Bを含むスラリーを得る工程と、前記酸化物結晶Bに磁場を印加するとともに前記酸化物結晶Bの成形体を得る工程と、前記成形体を酸化処理して酸化物結晶Cからなる配向性酸化物セラミックスを得る工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明における配向性酸化物セラミックスは、コンデンサ材料、熱電材料や圧電材料をはじめ様々な用途が考えられるが、以下では圧電材料として説明する。もちろん本発明の酸化物の用途が、圧電材料にのみ限定されるものではないことは言うまでもない。
【0018】
本発明における結晶系とは、結晶が軸率と軸角によって分類される7つのグループを指す。一般に晶系と呼ばれることもある。立方晶、正方晶、斜方晶、菱面体晶、六方晶、単斜晶、三斜晶の7つがある。
【0019】
まず、本発明に係る配向性酸化物セラミックスの製造方法は、酸化物結晶Aを還元処理して、前記酸化物結晶Aと同じ結晶系を有する酸化物結晶Bを得る工程を行う。
原料の酸化物結晶Aは、ある程度の磁化率の異方性を有し、現在工業的に利用できる強度(例えば〜10T)の磁場中に静置すると磁場によるトルクで回転し始める酸化物である。具体例としては(Sr
0.2Ba
0.8)Nb
2O
6、Ba
4Bi
2/3Nb
10O
30、LiNbO
3、等の結晶が挙げられる。
【0020】
酸化物結晶Aは、酸化物結晶Bと同じ金属組成を有する。酸化物結晶Aと酸化物結晶Bは同じ結晶系に属しており、酸化物結晶Bは酸化物結晶Aよりも大きな磁気異方性を有する。磁気異方性の大小は、磁場中での結晶配向制御を試み、その配向性の大小で判断できる。
【0021】
配向性はロットゲーリングファクターで評価できる。
ロットゲーリングファクターの算出法は、対象とする結晶面から回折されるX線のピーク強度を用いて、式2により計算する。
【0022】
F=(ρ−ρ
0)/(1−ρ
0) (式2)
ここで、ρ
0は無配向サンプルのX線の回折強度(I
0)を用いて計算され、(001)配向した正方晶結晶の場合、全回折強度の和に対する、(00l)面の回折強度の合計の割合として、式3により求める。
【0023】
ρ
0=ΣI
0(00l)/ΣI
0(hkl) (式3)
(h、k、lは整数である。)
ρは配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、(001)配向した正方晶結晶の場合、全回折強度の和に対する、(00l)面の回折強度の合計の割合として、上式3と同様に式4により求める。
【0024】
ρ=ΣI(00l)/ΣI(hkl) (式4)
酸化物結晶Bは、金属と酸素のモル比(金属/酸素)において、酸化物結晶Aよりも大きな値を持つ。
【0025】
例えば、酸化物結晶Bを酸化処理して重量が増加することがあれば、酸化物結晶Bが金属と酸素のモル比(金属/酸素)において、酸化物結晶Aよりも大きな値を持っていたと判断できる。
【0026】
還元処理とは、還元雰囲気で酸化物結晶Aに熱処理を加えることである。例えば、水素を10Vol%以上含むガス雰囲気下で600℃から1500℃で10分以上保持する熱処理である。より短時間で還元処理を行うためには、好ましくは大気圧以上の圧力下で、水素を10Vol%以上含むガス雰囲気下で600℃から1500℃で10分以上保持することである。
【0027】
還元処理により、酸化物結晶Aには以下の変化が複数もしくは単独で起こることがある。(1)重量が減少する、(2)波長400から500nmの光を照射した場合の反射率が低下する、(3)電気抵抗率が減少する。
【0028】
次に、前記酸化物結晶Bを含むスラリーを得る工程を行う。
酸化物結晶Bを含むスラリーを作成するためには、酸化物結晶Bを必要に応じて粉砕し、粉末状にすることが必要である。粒子が大きすぎるとスラリー中ですぐに沈降してしまい配向しないため、好ましくは粒子径は平均粒子径50ミクロン以下、より好ましくは10ミクロン以下である。スラリー中の粒度分布は例えば動的光散乱法で測定できる。
【0029】
スラリーは主成分である酸化物粉末、溶媒、そして添加物で概ね構成される。溶媒には安全性とコスト、及び表面張力の観点から水が用いられる。スラリーの重量中、酸化物粉末が40重量%以上80重量%以下であることが好ましい。溶媒に対する酸化物粉末の割合は、高すぎるとスラリーの粘度が高くなり、そのため磁場中での結晶粒子の円滑な配向を妨げる。また、少なすぎると、所望の厚みの成形体を得るために必要なスラリーの量が多くなり実用的ではない。したがって、酸化物粉末のスラリー中での割合は40から80重量%が好ましい。
【0030】
上記の酸化物粉末とは、酸化物結晶Bのみでもよいし、配向性セラミックスの特性を調製する目的で他の金属の化合物を添加してもよい。
スラリーに分散する粒子は凝集していないことが好ましい。粒子が凝集してしまうと、各粒子のもつ磁気的異方性を打ち消しあい、磁場中での粒子の配向を妨げるからである。
【0031】
スラリーの粘度は低い方が好ましい。スラリーの粘度が低ければ、分散した粒子が磁場によって与えられるトルクで容易に粒子が回転することができるからである。したがって、スラリーの粘度を低下させるために、スラリーに分散剤や界面活性剤、可塑剤などの有機物成分を加えてもかまわない。また、配向性セラミックスの密度を上げるために、バインダーを加えてもかまわない。さらに、成形体の作成手法として電気泳動を用いるために、スラリーに帯電剤を加えてもかまわない。
【0032】
次に、前記酸化物結晶Bに磁場を印加するとともに前記酸化物結晶Bの成形体を得る工程を行う。
成形体を得る方法は、磁場中にスラリーの入った容器を放置し、自然に結晶粉末が堆積するまで放置して得てもよいが、好ましくはスリップキャスト(鋳込み成形)法もしくは電気泳動が使用できる。スリップキャスト法では、水分が型に吸収されるため短い時間で密度の高い成形体が得られる。電気泳動では、成形体を得るまでの時間をさらに短縮できるからである。
【0033】
印加する磁場の方向は、スラリー内の結晶が堆積する方向と磁場が平行となる場合と、垂直となる場合のいずれでもよいが、作成したい配向により、磁場と堆積方向の間の角度は任意に変えることができる。
【0034】
印加する磁場強度は大きい方が好ましいが、大きすぎると磁場の発生・遮蔽のための設備が大掛かりになったり、作業の危険性が著しく増したりする。そのため使用する磁場強度はせいぜい15T以下が好ましい。
前記成形体を酸化処理して酸化物結晶Cからなる配向性酸化物セラミックスを得る工程を行う。
【0035】
酸化処理とは、大気中など酸化雰囲気で成形体に熱を加える処理である。具体的には、例えば、酸化雰囲気とは酸素濃度18Vol%以上の雰囲気で400℃から1450℃で10分以上保持する熱処理である。より短時間で酸化処理を行うためには、好ましくは大気圧以上の圧力下で、酸素濃度18Vol%以上の雰囲気下で600℃から1450℃で10分以上保持する。本酸化処理は、セラミックス作成工程で通常行われる焼成工程を兼ねる場合がある。
【0036】
酸化処理により、酸化物結晶Bには以下の変化が複数もしくは単独で起こることがある。(1)重量が増加する、(2)波長400から500nmの光を照射した場合の反射率が増加する、(3)電気抵抗率が増加する。
【0037】
本発明の配向性酸化物セラミックスの製造方法において、得られる配向性酸化物セラミックスが圧電体であることが望ましい。酸化物セラミックスには多数の圧電体が存在する。圧電性は結晶の方位によって変化する異方的物性であるため、高い圧電性能を得るためには配向制御が重要である。よって、前記配向性セラミックスが圧電体である場合が好ましい。
【0038】
さらに、本発明の配向性酸化物セラミックスの製造方法において、得られる配向性酸化物セラミックスが非鉛組成であることが望ましい。鉛は人体への蓄毒性のため規制されているためである。
【0039】
本発明の配向性酸化物セラミックスの製造方法において、酸化物結晶Aと酸化物結晶Cが同じ結晶系に属することが好ましい。つまり酸化物結晶A,B,Cの結晶系が変化しないことが好ましい。その理由は、結晶系の変化はある程度の原子の移動を伴い、極端な結晶系の変化の場合は、試料にクラックなどが発生する恐れがあるからである。
【0040】
本発明の配向性酸化物セラミックスの製造方法において、前記酸化物結晶Aと酸化物結晶Cの金属組成が等しいことが好ましい。金属組成とは、酸化物結晶が含む金属元素のモル比を表す。酸化物結晶Aと酸化物結晶Cの金属組成が等しいとは、スラリーに酸化物結晶B以外の酸化物を加えないことを意味する。さらに、酸化物結晶Aを構成する金属元素の種類と金属元素のモル比が、還元処理や磁場配向、酸化処理を経て得られる酸化物結晶Cでも変化しないことを意味する。酸化物結晶AとCの金属組成が等しいとプロセスがシンプルであり、追加元素がないためにセラミックスの組成均一性が高くなる。よって前記酸化物結晶Aと酸化物結晶Cの金属組成が等しいことが好ましい。
【0041】
本発明の配向性酸化物セラミックスの製造方法において、前記配向性酸化物セラミックスの結晶構造がイルメナイト構造もしくはタングステンブロンズ構造であることが好ましい。これらの材料系には強誘電性を示すものが多く、工業的な用途が広いからである。
【0042】
本発明の配向性酸化物セラミックスの製造方法によって作成されるセラミックスは、高い配向性を有している配向性酸化物セラミックスが好ましい。
酸化物結晶Bの成形体は不活性ガス雰囲気下で焼成することで、熱電材料としても使用することができるし、酸化処理により酸素を補うことによって誘電体として使用することもできる。上記酸化物結晶Bの成形体を不活性ガス雰囲気下で焼成することにより酸素欠損した配向性酸化物セラミックスとなる。酸素欠損した配向性酸化物セラミックスは灰色から黒色である場合が多く、酸素をより多く含む場合に比べて電気抵抗率が低い。上記の配向性セラミックスを酸化処理すると、酸素と結合して重量が0.1重量%以上増加する。波長400から500nmの光を照射した場合の反射率が増加する。変色し白色になることもある。そして電気抵抗率が増加する。
不活性ガス雰囲気下での焼成とは、酸素分圧が極めて低く、例えばN
2やArなどの不活性ガスが100%に近い割合で存在するようなガス雰囲気において、試料を600から1400℃で一定時間保持し、冷却することである。
【0043】
以下に本発明の圧電材料を用いた圧電素子について説明する。
本発明に係る圧電素子は、第一の電極、圧電材料および第二の電極を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料が上記の圧電材料であることを特徴とする。
第一の電極および第二の電極は、厚み5nmから2000nm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの酸化物を挙げることができる。
第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であっても良い。
【0044】
第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いても良い。
【0045】
図1は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。
図1(a)(b)に示すように、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電素子101を有する液体吐出ヘッドである。圧電素子101は、第一の電極1011、圧電材料1012、第二の電極1013を少なくとも有する圧電素子である。圧電材料1012は、
図1(b)の如く、必要に応じてパターニングされている。
【0046】
図1(b)は液体吐出ヘッドの模式図である。液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。図において圧電素子101は矩形状だが、その形状は、楕円形、円形、平行四辺形等の矩形以外でも良い。一般に、圧電材料1012は個別液室102の形状に沿った形状となる。
【0047】
本発明の液体吐出ヘッドに含まれる圧電素子101の近傍を
図1(a)で詳細に説明する。
図1(a)は、
図1(b)に示された圧電素子の幅方向での断面図である。圧電素子101の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。
【0048】
図中では、第一の電極1011が下部電極、第二の電極1013が上部電極として使用されている。しかし、第一の電極1011と、第二の電極1013の配置はこの限りではない。例えば、第一の電極1011を下部電極として使用しても良いし、上部電極として使用しても良い。同じく、第二の電極1013を上部電極として使用しても良いし、下部電極として使用しても良い。また、振動板103と下部電極の間にバッファ層108が存在しても良い。なお、これらの名称の違いはデバイスの製造方法によるものであり、いずれの場合でも本発明の効果は得られる。
【0049】
前記液体吐出ヘッドにおいては、振動板103が圧電材料1012の伸縮によって上下に変動し、個別液室102の液体に圧力を加える。その結果、吐出口105より液体が吐出される。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンタ用途や電子デバイスの製造に用いる事が出来る。
【0050】
振動板103の厚みは、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。振動板のSiにホウ素やリンがドープされていても良い。また、振動板上のバッファ層、電極層が振動板の一部となっても良い。バッファ層108の厚みは、5nm以上300nm以下であり、好ましくは10nm以上200nm以下である。吐出口105の大きさは、円相当径で5μm以上40μm以下である。吐出口105の形状は、円形であっても良いし、星型や角型状、三角形状でも良い。
【0051】
次に、本発明の圧電素子を用いた超音波モータについて説明する。
図2は、本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。
本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、
図2(a)に示す。超音波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成される。
【0052】
本発明の圧電素子に位相がπ/2異なる二相の交流電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の超音波モータは、この原理を利用したものである。
【0053】
次に、積層構造を有した圧電素子を含む超音波モータを
図2(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料により構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって締結され、圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
【0054】
圧電素子2042に位相の異なる交流電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
次に、本発明の圧電素子を用いた塵埃除去装置について説明する。
図3(a)および
図3(b)は本発明の塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。塵埃除去装置310は板状の圧電素子330と振動板320より構成される。振動板320の材質は限定されないが、塵埃除去装置310を光学デバイスに用いる場合には透光性材料や光反射性材料を振動板320として用いることができる。
【0055】
図4は
図3における圧電素子330の構成を示す概略図である。
図4(a)と(c)は圧電素子330の表裏面の構成、
図4(b)は側面の構成を示している。圧電素子330は
図4に示すように圧電材料331と第1の電極332と第2の電極333より構成され、第1の電極332と第2の電極333は圧電材料331の板面に対向して配置されている。
図4(c)において圧電素子330の手前に出ている第1の電極332が設置された面を第1の電極面336、
図4(a)において圧電素子330の手前に出ている第2の電極332が設置された面を第2の電極面337とする。ここで、本発明における電極面とは電極が設置されている圧電素子の面を指しており、例えば
図4に示すように第1の電極332が第2の電極面337に回りこんでいても良い。
【0056】
圧電素子330と振動板320は、
図3(a)(b)に示すように圧電素子330の第1の電極面336で振動板320の板面に固着される。そして圧電素子330の駆動により圧電素子330と振動板320との間に応力が発生し、振動板に面外振動を発生させる。本発明の塵埃除去装置310は、この振動板320の面外振動により振動板320の表面に付着した塵埃等の異物を除去する装置である。面外振動とは、振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動を意味する。
【0057】
図5は本発明の塵埃除去装置310の振動原理を示す模式図である。上図は左右一対の圧電素子330に同位相の交番電界を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子330を構成する圧電材料の分極方向は圧電素子330の厚さ方向と同一であり、塵埃除去装置310は7次の振動モードで駆動している。下図は左右一対の圧電素子330に位相が180°反対である逆位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。塵埃除去装置310は6次の振動モードで駆動している。本発明の塵埃除去装置310は少なくとも2つの振動モードを使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃を効果的に除去できる装置である。
【0058】
前述したように本発明の圧電素子は、液体吐出ヘッド、超音波モータや塵埃除去装置に好適に用いられる。
【0059】
本発明の配向性酸化物セラミックスであることを特徴とする圧電材料を用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上のノズル密度、および吐出力を有する液体吐出ヘッドを提供出来る。
【0060】
本発明の配向性酸化物セラミックスであることを特徴とする圧電材料を用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上の駆動力、および耐久性を有する超音波モータを提供出来る。
【0061】
本発明の配向性酸化物セラミックスであることを特徴とする圧電材料を用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上の塵埃除去効率を有する塵埃除去装置を提供出来る。
【0062】
本発明の圧電材料は、液体吐出ヘッド、モータに加え、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、強誘電メモリ等のデバイスに用いることができる。
【実施例1】
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明の圧電材料をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。なお、実施例および比較例の結果をまとめて表1に示す。
【0064】
(Sr
0.2Ba
0.8)Nb
2O
6で表される組成の粉末を作成した。
原料には、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酸化ニオブを用いた。各粉末を目的の組成になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。混合された粉末は大気中900℃から1100℃で、2から5時間かけて仮焼した。次に仮焼粉をボールミルで粉砕し、50から250ミクロンの篩で分級した。仮焼から分級までの工程を1から2回行った。
【0065】
得られた仮焼粉は白色であった。X線回折測定により、粉末は正方晶タングステンブロンズ構造単相であり、結晶系は正方晶であった。
次に、仮焼粉に還元処理を施した。仮焼粉は、水素濃度100%の雰囲気中で、600から1300℃で1時間かけて還元され、その後ボールミルで粉砕された。還元によって粉末の重量が0.1重量%以上減少し、さらに粉末の色が白から黒に変化した。X線回折測定より、還元された粉末(還元仮焼粉)は、還元前と同じ正方晶タングステンブロンズ構造単相であり、結晶系は正方晶であった。
【0066】
続いてスラリーを作成した。代表的なスラリーの成分は、還元仮焼粉が60重量%、カルボン酸系の分散剤が2重量%、水が38重量%であった。スラリーの粘度を下げるためには、分散剤の種類と量はこの限りではない。スラリー中の粒子は、ボールミルを24時間行うことにより動的光散乱で評価される粒径が10ミクロン以下になるまで解砕した。
【0067】
得られたスラリーは、超伝導磁石によって発生した10Tの磁場中に置かれた石膏製の型(石膏型)に流し込まれ、スリップキャスト法で成形体を作成した。石膏型の形状は任意であるが、本実施例では、直方体状の石膏で、中心に円筒状の穴(直径24mm、深さ10mm)の空いた石膏型1を用いた。
図6(a)に示すように、磁場の方向は水平方向であり、スリップキャストを行っている間、石膏型を50rpm以下で自転させた。穴の壁面をフィルム2で覆った。磁場中で石膏型にスラリーを流し込んだ後、スラリー中の水分がある程度石膏型に吸収されて、スラリーが成形体となるまで放置してから磁場中から取り出した。
【0068】
磁場中から取り出された石膏型は24時間空気中で乾燥させた。その後、石膏型から円柱状の成形体を取り出した。成形体の表面(円柱の上面)にX線を照射してX線回折測定を行ったところ、(001)配向した正方晶のタングステンブロンズ構造単相であった。本発明に記載の成形体の配向度は、表1に記載されているような焼成後の配向度よりも高かった。
本成形体を不活性ガス雰囲気(N
2ガス雰囲気)下で1000から1350℃で6時間焼成して密度を向上させた後に熱電特性を評価したところ、良好な熱電特性があることがわかった。
【0069】
得られた成形体を1000から1400℃で空気中で1から6時間、酸化・焼成して配向性酸化物セラミックス(試料A)を得た。成形体は黒色であったが、酸化処理によって白色に変化した。試料の相対密度は95%以上であった。
【0070】
得られた配向性酸化物セラミックスの表面を研磨した後に、X線回折測定で構成相と結晶配向性を評価した。
X線回折測定によると、得られた配向性セラミックスを構成しているのは、タンスグテンブロンズ構造単相であり、結晶系は仮焼粉と同じ正方晶であった。さらに、無配向である粉末の回折チャート(例えばICDD89−6278)と比較して、配向性セラミックスの回折チャートでは、00l(lは整数)の相対強度が高かった。すなわち得られたセラミックスは(001)配向していることがわかった。(001)配向度をロットゲーリングファクターで表すと、10Tの磁場中で作成した試料Aの(001)配向度は50%より大きい値であった。
【0071】
ロットゲーリングファクターの計算には、波長0.15406nmのX線による回折角度(2θ)で20°から50°の間のピークを用いた(以後も同様)。
試料Aから、3×3mm、厚み1mmの試料片(試料A’)を切り出した。試料A’の3×3mmの表面に銀ペーストを塗布、焼き付けして上下電極とし、電圧印加時の分極反転特性を評価した。なお、試料の3×3mmの面は(001)面が優先的に配列している面と平行である。
【0072】
試料A’について、周波数1kHzの交流電界を印加して反転電荷を測定したところ、強誘電体に特徴的なヒステリシスループが確認された。
【実施例2】
【0073】
実施例1の磁場強度を10Tから5Tに変えて試料(試料B)を作成した。5Tの磁場中で作成された試料Bの(001)配向度は10から40%であった。
【0074】
[比較例1]
実施例1との比較のために、仮焼粉の作成方法は実施例1と同じだが、還元処理を施していない(Sr
0.2Ba
0.8)Nb
2O
6仮焼粉を用いてスラリーを作成し、10Tの水平磁場中でスリップキャストを行い、試料を作成した(試料C)。得られた試料のX線回折図形では、00l(lは整数)の相対強度が無配向試料よりも高く、(001)配向していた。しかしロットゲーリングファクターでの(001)配向度は約20から50%であり、還元処理を経た仮焼粉を用いた場合(試料A)よりも配向度が低いことがわかった。
【0075】
試料Cから、3×3mm、厚み1mmの試料片(試料C’)を作成して試料A’と比較した。試料C’についても、周波数1kHzの交流電界を印加して反転電荷を測定したところ、強誘電体に特徴的なヒステリシスループが確認された。しかし、本材料の自発分極軸方向はc軸と平行であるため、(001)配向度の高い試料A’の残留分極の方が、試料C’の残留分極よりも大きかった。
【0076】
また、試料A’とC’をオイルバスの中で150℃に加熱しながら、25kV/cmの直流電界を印加した。30分経過後、電界を印加したままで室温まで冷却した。その後ベルリンコート法を原理とするd
33メータで試料A’とC’の圧電定数d
33(pC/N)を測定したところ、A’のd
33はC’よりも10%以上大きかった。
【実施例3】
【0077】
図6(b)にあるような垂直磁場の中で(Sr
0.2Ba
0.8)Nb
2O
6を作成した(試料D)。条件は磁場の方向以外は実施例1と同じである。X線回折測定では、試料Dはhk0回折(h、kは整数)の相対強度が強く、(hk0)配向していることがわかった。ロットゲーリングファクターを計算したところ、(hk0)配向度は40%より大きい値であった。
得られた配向性セラミックスの相対密度は94%以上であった。
【0078】
[比較例2]
実施例3との比較のために、仮焼粉の作成方法は実施例1と同じだが、還元処理を施していない(Sr
0.2Ba
0.8)Nb
2O
6仮焼粉を用いてスラリーを作成し、10Tの垂直磁場中でスリップキャストを行い、試料を作成した(試料E)。X線回折測定では、試料Eはhk0回折(h、kは整数)の相対強度がやや強く、(hk0)配向していることがわかった。ロットゲーリングファクターを計算したところ、(hk0)配向は20から40%であった。配向度は還元粉を用いた実施例3よりも低かった。
【実施例4】
【0079】
LiNbO
3で表される組成の粉末を作成した。
原料には、炭酸リチウムと酸化ニオブを用いた。各粉末を目的の組成になるように秤量し混合した。混合された粉末は大気中700から1100℃で2から5時間かけて仮焼した。次に仮焼粉をボールミルで粉砕し、50から250ミクロンの篩で分級した。仮焼から分級までの工程を1から2回行った。
【0080】
得られた仮焼粉は白色であった。X線回折測定により、粉末は六方晶のイルメナイト構造単相であった。
次に仮焼粉を水素濃度100%の雰囲気中、600から1300℃で1時間かけて還元した。その後ボールミルで粉砕した。還元によって粉末の重量が0.1重量%以上減少し、さらに粉末の色が白から黒に変化した。X線回折測定より、還元された仮焼粉は、還元前と同じく六方晶の結晶のみで構成されていることがわかった。しかし構成相は二相あり、第一の相はイルメナイト構造で六方晶のLiNbO
3であり、第二の相は六方晶のLiNbO
2であった。
磁化測定より、LiNbO
3の仮焼粉は反磁性体であったが、還元後は常磁性体であった。
【0081】
続いてスラリーを作成した。代表的なスラリーの成分は、還元仮焼粉が60重量%、カルボン酸系の分散剤が2重量%、水が38重量%であった。スラリーの粘度を下げるためには、分散剤の種類と量はこの限りではない。スラリー中の粒子は、ボールミルを24時間行うことにより粒子径5ミクロン以下の大きさまで解砕された。
【0082】
得られたスラリーは、超伝導磁石によって発生した10Tの磁場中に置かれた石膏型に流し込まれ、スリップキャスト法で成形体を作成した。石膏型の形状は実施例1記載のものと同じである。
図6(b)に示すように、磁場の方向は垂直方向で試料を作成した。磁場中で石膏型にスラリーを流し込んだ後、スラリー中の水分がある程度石膏型に吸収されて、スラリーが成形体となるまで放置してから取り出した。
【0083】
磁場中から取り出された石膏型は24時間空気中で乾燥させた。その後、石膏型から円柱状の成形体を取り出した。成形体の表面(円柱の上面)にX線を照射してX線回折測定を行ったところ、(001)配向した六方晶のイルメナイト構造LiNbO
3とLiNbO
2の混相であった。
【0084】
得られた成形体を900から1400℃で空気中で1から6時間、酸化、焼成して配向性酸化物セラミックスを得た。成形体は黒色であったが、酸化処理によって白色に変化した。試料の相対密度は95%以上であった。
【0085】
得られた配向性酸化物セラミックスの表面を研磨した後に、X線回折測定で構成相と結晶配向性を評価した。
X線回折測定によると、得られた配向性セラミックス(試料F)を構成しているのは、イルメナイト構造のLiNbO
3単相であり、結晶系は仮焼粉と同じ六方晶であった。さらに、無配向である粉末の回折チャートと比較して、配向性セラミックスの回折チャートでは、006回折の相対強度が大きかった。すなわち得られたセラミックスは(001)配向していることがわかった。(001)配向度をロットゲーリングファクターで表すと、試料Fの(001)配向度は10%より大きい値であった。
【0086】
また、試料FについてLiNbO
3相の012回折に対応する回折角に検出器を固定して012回折強度の試料傾き角依存を測定した。試料傾き角は、X線回折においては一般にプサイ(ψ)角、もしくはカイ(χ)角と呼ばれ、試料面法線と格子面法線とのなす角を表わす。012回折が試料傾き角に依存してどのように変化するか測定することで、試料が配向している方位や、その配向度を評価することができる。例えば、イルメナイト構造のLiNbO
3結晶の場合、(001)配向していると、012回折は試料傾き角が約57°となるところで最も強く観察される。(110)配向していると、012回折は試料傾き角が約43°となるところで最も強く観察される。
図7(a)に測定結果の代表図を示す。
図7(a)では試料傾き角57°付近で012回折の強度が最大となっており、試料の(001)配向を支持するものであった。
【0087】
試料Fから、3×3mm、厚み1mmの試料片(試料F’)を切り出した。試料F’の3×3mmの表面に銀ペーストを塗布、焼き付けして上下電極とし、電圧印加時の分極反転特性を評価した。なお、試料の3×3mmの面は(001)面が優先的に配列している面と平行である。
【0088】
試料F’について、強誘電体に特徴的なヒステリシスループが確認された。
【実施例5】
【0089】
実施例4の磁場強度のみを5Tへ変更した条件で試料(試料G)を作成した。試料Gの(001)配向度は10%より小さい値であった。
【0090】
[比較例3]
実施例4との比較のために、仮焼粉の作成方法は実施例4と同じだが、還元処理を施していないLiNbO
3仮焼粉を用いてスラリーを作成し、10Tの垂直磁場中でスリップキャストを行い、試料を作成した(試料H)。得られた試料のX線回折図形では、006回折の相対強度が無配向試料よりも高く、(001)配向していることが示唆された。しかしロットゲーリングファクターでの(001)配向度は10%よりも小さく、還元処理を経た仮焼粉を用いた場合(試料F)よりも配向度が低いことがわかった。
【0091】
試料Hについても
図7(a)と同様に012回折強度の試料傾き角依存を測定した。
図7(b)に代表図を示す。
図7(b)によると、
図7(a)同様に試料傾き角が57°付近で最大となっており、配向は試料Fと同じであることがわかる。しかし012回折強度は、
図7(a)と比較して広い試料傾き角に渡って分布しており、配向度が低いことがわかる。
【0092】
試料Hから、3×3mm、厚み1mmの試料片(試料H’)を作成して試料F’と比較した。試料H’についても強誘電体に特徴的なヒステリシスループが確認された。しかし、本材料の自発分極軸方向はc軸と平行であるため、(001)配向度の高い試料F’の残留分極の方が、試料H’の残留分極よりも大きかった。
【実施例6】
【0093】
図6(a)にあるような水平磁場の中でLiNbO
3を作成した(試料I)。作成にあたり、磁場方向以外の条件は実施例4と同じである。X線回折測定では、試料Iは110回折の相対強度が強く、(110)配向していることがわかった。ロットゲーリングファクターを計算したところ、(110)配向度は15%より大きい値であった。
【0094】
また、試料Iについて
図7(a)同様に012回折強度の試料傾き角依存を測定した。
図7(c)に代表図を示す。
図7(c)では012回折強度は試料傾き角43°付近で最大となっており、(110)配向していることがわかる。
【0095】
[比較例4]
実施例6との比較のために、仮焼粉の作成方法は実施例4と同じだが、還元処理を施していないLiNbO
3仮焼粉を用いてスラリーを作成し、10Tの水平磁場中でスリップキャストを行い、試料を作成した(試料J)。X線回折測定では、試料Jは110回折の相対強度がやや強いが、ロットゲーリングファクターは5%未満であった。(110)配向度は試料Iよりも著しく小さかった。
【0096】
試料Jについて
図7(a)同様に012回折強度の試料傾き角依存を測定した。
図7(d)に代表図を示す。
図7(d)の強度分布は、試料傾き角が43°付近で極大とならず、(110)配向度が低いことがわかる。
【実施例7】
【0097】
実施例1と同じ圧電材料を用いて、
図1に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
【実施例8】
【0098】
実施例1と同じ圧電材料を用いて、
図2に示される超音波モータ作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転挙動が確認された。
【実施例9】
【0099】
実施例1と同じ圧電材料を用いて、
図3に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製ビーズを散布し、交番電圧を印加したところ、良好な塵埃除去率が確認された。
【0100】
【表1】