【実施例1】
【0021】
図1は本発明の実施例で対象とする立坑である集水井1の一般的な構造を説明するもので、(イ)は集水井(立坑)1を模式的に示した縦断面図、(ロ)は模式的に示した平面図である。
集水井1は、前述した通り、地すべりが起こりやすい場所で地下水を集めて川等に流すために設ける土木構造物であり、
図2(イ)に示すような円弧状のライナープレート2を円周方向及び鉛直方向に連結して構築される。この集水井1に、
図2(ロ)にも示すように、集水のための複数本の集水管3が接続され、かつ、川等に流すための1本の排水管4が接続される。すべり面5を破線で示す。
【0022】
ライナープレート2は、円弧状の波付け鋼板部2aの波付け方向の両端に鋼板を折り曲げて形成した円周フランジ2bを持ち、波付け方向と直交する方向の両端に、別部材の端面プレートを溶接固定した垂直フランジ2cを持つ。2dは上下に隣接するライナープレート2の円周フランジ2bどうしを接合するためのボルト孔(円周フランジ孔)を示す。
複数のライナープレート2を、垂直フランジ2c同士をボルト接合して円筒体を形成するとともに、上下に隣接するライナープレート2の円周フランジ2b同士をボルト接合して、円筒状の立坑(集水井)1を構築する。その施工は一般に、立坑の頂部(最初の1〜3リング分)を組み立てその周囲を裏込めしかつ固定した後、掘削、組立てを繰り返してライナープレートを下に継ぎ足していき、所望の深さの立坑1を構築する。
また、通常、高さ方向の適宜の間隔で、上下に隣接するライナープレート2間に、ライナープレート2と同様に円弧状をなすH形鋼による補強リング7を介在させ、かつ、ライナープレート2に対する鉛直方向の補強材としてH形鋼の垂直補強部材8を円周方向に90°間隔をあけた4箇所に設ける。
【0023】
図3は本発明の一実施例の作業用足場構造を備えた立坑(集水井)1の内壁面を展開して示した内壁面展開図、
図4は
図3における作業用足場部分を拡大した図である。
立坑(集水井)には、立坑内壁に立坑上端縁から底近傍まで達する螺旋状の昇降タラップ6が設けられるが、本発明では昇降タラップ6の中間に水平な作業用足場41を構築する。
【0024】
昇降タラップ6の詳細説明は省略するが、複数の短尺タラップを立坑内壁に沿って螺旋状に配置し、図示略の取付部材によりそれぞれ立坑内壁に取り付けている。図示例では3種類の短尺タラップ11、12、13を用いる。短尺タラップ13は踊り場付き短尺タラップである。
【0025】
前記の通り、この立坑(集水井)1は、複数のライナープレート2を円周方向及び上下方向に接合して円筒体を形成するとともに、高さ方向の適宜の間隔でライナープレート2間にH形鋼からなる補強リング7を介在させ、鉛直方向の補強材であるH形鋼からなる垂直補強部材8を立坑内壁の円周方向の90°間隔の複数箇所で前記補強リング7に取り付けた円形断面の立坑である。
【0026】
本発明は、立坑1の内壁に取り付けた螺旋状の前記昇降タラップ6の中間に水平な作業用足場41を介在させた作業用足場構造である。作業用足場41は、立坑1の壁面に設けられた複数の集水管3に対する点検作業をするためのもので、昇降タラップ6の中間に、昇降タラップ6にスムーズに繋がるように水平に設置される。
複数のライナープレート2は、円周方向には垂直フランジ2cにて左右に隣り合うライナープレート2が互いにボルト接合されて円周方向に連結され、均一ピッチpの円周フランジ孔(接合ボルト孔)2dを持つ円周フランジ2bにて上下に隣り合うライナープレート2が互いにボルト接合されて円筒体を形成する。
【0027】
作業用足場41は、
図5に示すように、垂直補強部材8の位置に当該垂直補強部材8と干渉しない態様で配置される3箇所の干渉回避短尺足場20と、この干渉回避短尺足場20に直接連接される連接短尺足場を含む図示例では2種類の連接短尺足場21、22を円周方向に連接してなる。作業用足場41の各短尺足場20、21、22の詳細は後述する。なお、
図5では、短尺足場に設ける手摺の図示は省略している。
【0028】
図6及び
図7は主として補強リング7と垂直補強部材8との関係を説明する図である。
補強リング7は、
図6に示すように、等長のH形鋼を四分の一円弧状に湾曲させた4つの補強リング片7’を連結してなる。隣接する補強リング片7’どうしは、図示は省略したが、内面及び外面においてそれぞれ両補強リング片7’に跨る継ぎ手プレートを添えボルトで固定して連結される。
各補強リング片7’は、そのウエブ7bにライナープレート2の円周フランジ孔2dのピッチpと同じピッチpの円周フランジ孔7dを有している。補強リング片7’の一端側の円周フランジ孔7d(7d’)は前記一端から円周フランジ孔ピッチp=157mmの0.5ピッチ(すなわち、0.5p=78.5mm)だけ離れた位置にあり、他端に、
図6中にA部として拡大して示すように隣接する補強リング片7’の他端を突き合わせた時に円周フランジ孔7d(7d”)を形成する半円状切欠き7e(
図8にも示す)を有している。
【0029】
前記垂直補強部材8は、H形鋼からなり、
図7にも示すようにそのウエブ8bの立坑円周方向の位置(ウエブ位置(Qで示す)という)が前記4つの補強リング片7’のそれぞれ円周方向の中央に位置する態様で、そのフランジ8aを補強リング片7’のフランジ7aに当てて、Uボルト75でボルト接合されている。
補強リング7のH形鋼のサイズはH125×125×6.5×9mm、垂直補強部材8のH形鋼のサイズはH175×175×7.5×11mmである。補強リング7にあけた垂直補強部材固定用のボルト孔のピッチは215mmである。
複数のライナープレート2がなす円筒体の直径である立坑径Dは3500mmである。ライナープレート2及び補強リング7の円周フランジ孔2d、7dのピッチpは同じく157mmなので、円筒体をなすライナープレート2及び補強リング7の360°全周の円周フランジ孔2d、7dの数は70(3500×3.14÷157=70)である。全周の円周フランジ孔数70を垂直補強部材8の設置数4で割った値N=17.5(70÷4=17.5)であり、0.5の端数が出る。
ボルト接合できるようにそれぞれの円周フランジ孔7d、2dが一致している補強リング7及びライナープレート2における、前記4箇所の垂直補強部材8のウエブ位置Qにそれぞれ最も近い円周フランジ孔7d
0、2d
0は、
図7にも詳細を示すように、垂直補強部材8のウエブ位置Qに対してずれている。そのずれの種類は垂直補強部材8のウエブ位置Qに対して上から見て円周方向の右側と左側との2種類でそのずれ量sは同じである(s=39.25mm)。
ずれの種類が2種類とは、立坑の中心位置から立坑内壁を見たときに、垂直補強部材8のウエブ位置Qにそれぞれ最も近い円周フランジ孔7d
0、2d
0は、
図6(又は
図5)において上と下の垂直補強部材8の位置(B1位置、B2位置)では右側にずれ、左と右の垂直補強部材8の位置(A1位置、A2位置)では左側にずれていることを指す。
各短尺足場を配置する場合、ずれた4つの円周フランジ孔7d
0のうち
図5で右側の円周フランジ孔7d
0(7d
00)を基準孔とし、この基準孔7d
00を基準として、各短尺足場を配列する。
【0030】
作業用足場41を構成する前述の短尺足場20、21、22について説明する。
図9に前記干渉回避短尺足場20を示す。
図10に連接短尺足場21、
図11に連接短尺足場22を示す。なお、連接短尺足場の種類はこれに限らず、例えば、
図12に示す幅の狭い連接短尺足場23を用いるなど、3種あるいはそれ以上とすることもできる。
図9〜
図12の各図において、それぞれ(イ)は平面図、(ロ)は(イ)の背面図、(ハ)は(イ)の右側から斜めに見た図である。
各短尺足場20、21、22、23はいずれも、上から見ていずれも立坑中心に向かう図示例では等長の2側辺を持つ等脚台形状をなす等脚台形枠20a、21a、22a、23aの上面に例えばエキスパンドメタル等の足場板20b、21b、22b、23bを溶接固定した構造である。なお、エキスパンドに代えて、縞鋼板、平鋼板その他の部材を用いることができる。また、いずれも立坑中心側に転落防止用の手摺26を取り付けている。実施例の台形枠20a、21a、22a、23aは山形鋼を溶接接合したものである。
干渉回避短尺足場20の側辺挟み角(αで示す)は20°34'17"、連接短尺足場21の側辺挟み角は20°34'17"、連接短尺足場22の側辺挟み角は15°25'43"、連接短尺足場23の側辺挟み角は10°17'8"である。
各短尺足場20、21、22、23の左右の側辺の側面に、隣接する短尺足場どうしをボルトで連結するためのボルト孔24を有する。
短尺足場21、22、23には、その台形の上底側及び下底側にそれぞれ当該短尺足場21、22、23を後述のブラケット61にボルトで固定するためのボルト孔25を有する。
干渉回避短尺足場20には、その上底側及び下底側にそれぞれ、当該干渉回避短尺足場20を2本のブラケット61にボルトで固定するためのボルト孔25を有する。
干渉回避短尺足場20は、垂直補強部材8との干渉を回避する形状とされている。図示例では、台形枠20aの下底側(立坑内壁側)に、垂直補強部材8との干渉を回避することができるコ字形の切欠き20cを形成している。この切欠き20cの部分は、コ字形に折曲したフラットバーを溶接固定してなる。
なお、干渉回避短尺足場20におけるボルト孔25の位置(したがって、ブラケット61の位置)は、
図5、
図8、
図17にも示すように、上面から見て左右対称であり、短尺足場22におけるボルト孔25の位置(したがって、ブラケット61の位置)は上面から見て左右方向の中心位置である(左右対称)。但し、短尺足場21におけるボルト孔25の位置(したがって、ブラケット61の位置)は、
図5、
図8、
図17にも示すように、上面から見て左右方向の中心位置から外れている(左右非対称)。左右対称であることが施工上その他で好ましいが、強度的には隣接する短尺足場どうしをボルト接合するので問題はない。なお、左右非対称の短尺足場21の使用数は、左右対称の短尺足場20、22の数より少ない。
【0031】
前記干渉回避短尺足場20及び連接短尺足場21、22はいずれも、
図13に示すブラケット61を用いて立坑内壁に取り付けられている。短尺足場20、21、22を
図14に示すようにブラケット61の上面にボルトで固定し、ブラケット61を介して、立坑内壁に取り付ける。
この場合、ライナープレート2の円周フランジ2bの円周フランジ孔2dに挿入される接合ボルト(すなわち上下のライナープレート2の円周フランジ2bどうしを接合する接合ボルト)28による、ずれ調整のための可動部のない位置固定構造により立坑内壁に取り付けられている。
【0032】
各ブラケット61は、基端側が立坑内壁に取付けられ先端側が立坑中心方向に延びる水平材62と、上端側が前記水平材62の先端側に固定され基端側が水平材62の基端側の下方で立坑内壁に取付けられる斜め材63とからなる。
前記斜め材63の基端側には鋼板をL形に折曲した取付部材64が溶接固定され、このL形取付部材64のボルト孔64bをあけた水平部64aを、上下のライナープレート2の重ねあわせた円周フランジ2bの上に重ね、円周フランジ2b同士を接合する接合ボルト28で円周フランジ2bに固定(すなわち立坑内壁に固定)されている。
前記水平材62の基端側には、L形に折曲した取付片65を持つ取付部材66が溶接固定され、この取付部材66の取付片65のボルト孔65bをあけた水平部65aを、上下のライナープレート2の重ねあわせた円周フランジ2bの上に重ね、円周フランジ2b同士を接合する接合ボルト28で円周フランジ2bに固定(すなわち立坑内壁に固定)されている。但し、この取付部では、上下のライナープレート2の円周フランジ2b間に介在しているH形鋼である補強リング7のウエブ7bに円周フランジ2bと一緒にボルト接合されている。
隣接する短尺足場どうしは、例えば
図19に短尺足場21と短尺足場22との隣接部の場合を示したように、短尺足場21、22の等脚台形枠21a、22aの側辺部の側面にあけたボルト孔24に挿通した連結ボルト72で連結している。
上記の通り、各短尺足場20、21、22は、2つあるいは3つのライナープレートの高さを占める取付部材ではなく、1つのライナープレート2の高さを占める取付部材(ブラケット61)により立坑内壁に取り付けられている。
【0033】
前記の通り、4箇所の垂直補強部材8のウエブ位置Qにそれぞれ最も近い円周フランジ孔7d
0、2d
0のそれぞれのウエブ位置Qに対するずれの種類は円周方向の右側と左側との2種類であるが、干渉回避短尺足場20は、前記2種類のずれの位置関係がいずれもの場合でも、垂直補強部材のウエブ位置を挟む2つの円周フランジ孔7d
0、7d
1より円周方向外側の円周フランジ孔7d
2におけるボルト接合により立坑内壁に取り付けられている。すなわち、垂直補強部材8のウエブ位置Qを直接挟む2つの円周フランジ孔7d
0、7d
1には取り付けられない。
なお、
図16に示すように、ブラケット61の立坑内壁への上下の取付部がいずれも、補強リング7を介在させないライナープレート2の円周フランジ接合部である場合もある。
【0034】
上述のような取付け方をすれば、4箇所の干渉回避短尺足場20として同じ形状のものを用いても、垂直補強部材8に干渉することなく、かつ、ずれ調整のための可動部のない位置固定構造により、接合ボルトで立坑内壁に取り付けることができる。
【0035】
規格のライナープレート2で構築しかつ垂直補強部材8を円周方向に90°等間隔で設けた立坑においては、干渉回避短尺足場及び連接短尺足場を上下のライナープレート2の円周フランジ2b同士を接合するフランジ接合部にフランジ接合用のボルト(接合用ボルト)28を利用して取り付けようとしても、円周フランジ孔ピッチpが157mm、実施例のような直径Dが3500mmの場合、垂直補強部材8のウエブ位置Qと円周フランジ孔(接合用ボルト孔)2dの位置とが互いにずれることになるので、ずれ調整のための可動部を持つ取付構造としなければ取り付けることができない。
しかし、上述した作業用足場構造によれば、ずれ調整のための可動部のない位置固定構造により、接合ボルトで干渉回避短尺足場20及び連接短尺足場21、22を上下のライナープレート2の円周フランジ2b同士を接合するフランジ接合部に直接取り付けることができる。
短尺足場20、21、22を可動部のない位置固定構造により、接合ボルト28で上下のライナープレート2のフランジ接合部に取り付けることができるので、可動部を有する取付構造と比べて、堅固な取付構造となる。
堅固な取付構造となるので、短尺足場の立坑内壁への取付構造として、上述したように上下の取付部の間隔がライナープレート1つ分であるブラケット61で取り付ける取付構造を採用することが可能となる。したがって、上下の取付部の間隔が小さく済む。これにより、上下の取付部の間隔がライナープレート2つ又は3つ分の取付構造と比べて、鋼材の使用量が少なく済み経済的であり、立坑を構築するコストを低減することができる。
また、回動により位置調整のできる可動式金具を堅固にして用いた取付構造と比べて、多数ある部品を大型化することなく、構造も簡単に済み、さらに部品点数も少なく済み、取付作業も単純になるので、施工コストも安くなる。
【0036】
なお、
図5から明らかな通り、直径方向両側の2つの垂直補強部材8における、ウエブ位置Qに対する直近の円周フランジ孔2d
0のずれ方向は同じである。すなわち、A
1位置とA
2位置では左側、B
1位置とB
2位置では右側である。そのずれ量sは同じであるから、仮に4箇所の垂直補強部材8の位置にそれぞれ干渉回避短尺足場20を取り付けたすると、A
1−B
1領域の連接短尺足場配置スペース(隣接する干渉回避短尺足場20間に生じる円周方向の空間(距離))と、B
1−A
2領域の連接短尺足場配置スペースと、A
2−B
2領域の連接短尺足場配置スペースと、B
2−A
1領域の連接短尺足場配置スペースとの4つの連接短尺足場配置スペースの種類は2種類である。すなわち、A
1−B
1スペース及びA
2−B
2スペースと、B
1−A
2スペース及びB
2−A
1スペースとの2種類のみである。
したがって、干渉回避短尺足場20のサイズ(側辺挟み角)を定めれば、連接短尺足場のサイズ(側辺挟み角)及びその種類として、前記2種類の連接短尺足場配置スペースに合せられるサイズ及びその種類を設定すれば済むので、短尺足場のサイズ種類を多くしなくても、種々の立坑に対応させることが容易である。
なお、隣接する垂直補強部材8間に昇降タラップの短尺タラップが存在する場合で、短尺タラップとの間の隙間が生じる場合には、その隙間に合せた隙間調整材(例えば
図17の符号76)を用いるとよい。